デジタル制御で何ができる?(8):デジタル制御における運転の楽しみ方について −レイアウトセクションで撮影した動画とその撮影方法の紹介–

前回の記事では、デジタル制御を楽しむ第一歩として小規模なレイアウトセクション(ジオラマ)を製作し、そこにデジタル制御を導入しサウンドデコーダーを搭載した車両を導入して動画を撮影して楽しむのも「アリ」ではないかということを述べ、撮影した動画を紹介しましたが、今回、以前このブログで紹介したレイアウトセクション(ジオラマ)、『ALTENHOFのクリスマス』を走るサウンドデコーダー付き車両とともに紹介する動画を作成してみましたので、その動画をその撮影方法とともに紹介してみようと思います。
まずはその動画をご覧ください。

このレイアウトセクションを作成した当時は、このセクションで動画を撮影するという構想は全くなく、線路部分は車両の展示場所とするようなことを考えていました。そのため線路と市街地には大きな高低差がありますが、動画撮影を意識していたら、線路を高架線として、車両と街の表情が同時に撮影できるような構成にしたのではないかと思います。動画撮影を意識したセクションを制作する場合には、構想時に動画の絵コンテをイメージした構想が必要であるような気がします。
一方、この動画を作成するにあたりかなり迷ったことがあります。それはこの動画の車両の走行音にBGMを被せるかどうかということです(Youtubeにアップした上記の動画はBGM付きです)。勿論?実際にこのレイアウトセクション上を走行する車両を鑑賞する際にはBGMなどは全く必要性を感じないのですが、ある程度の長さの動画を作成して鑑賞してみるとBGMがあっても良いようにも感じます。考えてみると、通常、列車の走行音は「騒音」以外の何者でもありません。そのため実際に動く列車(模型)を眺めていない状況で、車両のみではなくレイアウトセクションの全容を紹介する動画ではBGMを入れるのもありかと考えてみたのですが皆様はどうお感じになりますでしょうか。
余談ですが、鉄道の映像と音楽について、今から50年以上前のSLブームの真っ只中にロードショーで封切られた高林陽一氏が演出・脚本・撮影を手がけた「すばらしい蒸気機関車」という映画(音楽は大林宣彦氏でした)では映像の一部に出てくる女性(機関車を愛する少女)と音楽(歌)の存在が議論となり、当時の『SLマニア』には非常に不評であったようです。当時はまだSNSなど全くない時代でしたのでこの映画を鑑賞したSLマニア以外の人々の評価は不明ですし。今思えばいくらSLブームとはいえ、映画館で封切られる商業的な映画では純粋な記録映画以外の要素も持たせた構成とすることはある意味必要であったような気もしますし、いくら蒸気機関車が人間のような機械であると言われても、「実際の人間」に関わるストーリー(視点)がないと、作品が非常に味気ない単なる記録映画になってしまうような気もします。
1985年にBarbra StreisandがBroadway Albumの中で歌った”Putting it together“(うまくやり遂げる)という歌の歌詞に多分映画制作を意識していると思われる歌詞、「芸術は生やさしいものではない」「構想は頭の中にある限り構想でしかない」「財政的支援を得るためにはそれなりの対応が必要」と言ったような歌詞が出てきます。Barbra Streisandはこの数年前にYentlという映画を制作(監督)していますが、この歌詞は彼女のその映画制作の体験から出てきた言葉のようにも感じます。高林陽一氏にもそのような葛藤はあったのかはよくわかりませんが・・・。私は多分蒸気機関車の牽引する営業列車に乗車したことのある最後に近い世代だと思われますが、現在各地で走っている蒸機牽引列車で当時の列車の雰囲気を味わうことはできません(これを否定しているわけではありません)。しかし、当時、各地で蒸気機関車が「普通に」活躍する風景を沿線の風景とともに35㎜フィルムで1時間以上にわたって記録した映画が制作され、それが現在でも他の映画作品と同様、DVDで入手でき鑑賞できるということことを考えれば、今となっては少女や歌の存在の是非などは些細なことのように感じます。

話をこの動画の撮影に戻しますと撮影はカメラ、三脚、ビデオ雲台を用いて行っています。それ以外の特に特別な機材は用いておりません。三脚は通常の三脚と小型の三脚の2種類を使用しています。カメラの横移動は三脚の下にタイルカーペットを置いてフローリングの上を滑らせて撮影しています。カメラの縦移動はビデオ雲台で行っております。横移動の際は三脚をタイルカーペットに押し付けながら三脚を移動しますので三脚は比較的頑丈なものが必要ですが、小型の三脚は脚が1枚のタイルカーペットに載るためカメラを移動させる際はタイルカーペットを移動させますのでそれほど頑丈な三脚でなくても大丈夫です。このようにこの程度の大きさのレイアウトセクションでしたら特別な機材を用意せずとも実物の鉄道を撮影するための機材で十分対応でき、カメラもコンパクトカメラやスマホで十分綺麗な映像が撮影が可能です。また、このような撮影では自動運転は不要ですので、簡易型のコントローラーでも十分対応可能です。デジタル制御に興味のある方はまずはこのようなことから始めてみても良いかと思います。

走行する列車の撮影はレイアウトセクションを床上に置いて小型三脚で撮影しました。カメラの移動はタイルカーペットを滑らせて行います。

デジタル制御で何ができる?(7):デジタル制御における運転の楽しみ方について(2)−レイアウトセクションにおけるサウンドの効果の実例–

前回、デジタル制御を導入するために欧州製の機器を導入する場合の費用の概算を紹介しましたが、物価高や円安等の状況もあり私が導入した当時の感覚と比較すると意外と多額の費用がかかることがわかりました。また自動運転に対応したソフトもそれほど安くはないようです。とは言っても日本型の真鍮製のモデルに比較すれば安いですが・・。一方、私の感覚では、メルクリン製のモデルは国内でも海外でも総じて高価であるという印象がありますが、Command Station+Throttleに関しては、1台でデジタル制御の機能の大部分が使用可能であるMarklinのCentral Station3(CS3)は意外と「安い」ような気もします。日本では鉄道模型の自動運転というと完全にコンピューターソフトに知見のある専門家が行う(できる)ものという感覚がありますが、私の感覚ではメルクリンの自動運単プログラムの作成方法のレベルはそこまで専門的ではないという印象です。例えば、コンピュータプログラムに精通していなくても学生時代に大学等で実験等でマニュアルを見ながら測定機器等をシーケンシャルに制御してデータを取得した経験がある方でしたら簡単にプログラムを作成できるレベルであると思いますし、そのような経験のない方でも一度簡単な自動運転プログラムを作成してその設計の考え方を理解してしまえばそれほど難しいものではないと思います。また、最近小学生でもプログラミング教育の重要性が叫ばれていますが、もしかしたらそのような教育にも利用できるかもわかりません。自分が作成したプログラムで電車が動く(失敗すると事故を起こす)というのは結構面白い体験かもわかりませんし、もしかしたら鉄道模型愛好者の増加に貢献するかもわかりません(Märklinのニュースレター(Web Site?)で実際に教育現場で活用されているという記事があったような気がします)。ただ、そうは言ってももいきなりデジタル制御による本格的な自動運転を行うのはやはり少しハードルが高い気もします。
一方、私は以前、デジタル制御を楽しむ第一歩として小規模なレイアウトセクション(ジオラマ)を製作し、そこにデジタル制御を導入しサウンドデコーダーを搭載した車両を導入して動画を撮影して楽しむのも「アリ」ではないかということを述べました。今回はその実例を紹介してみたい思います。まずは下の動画をご覧ください。

BR103が駅を出発していくシーンの動画

この動画は現在制作中のレイアウトセクションで、駅で列車が出発していくシーンを撮影したものですが、音が存在することにより、実際に眺めても動画にとっても音がない場合と比較して臨場感が全く異なります。
また、下の動画は以前このブログでも紹介した『ALTENHOFのクリスマス」というレイアウトセクション(ジオラマ)上で撮影した動画です。このレイアウトセクション(ジオラマ)はどちらかというと列車の運転というよりは欧州の市街地の風景の再現をテーマにしたもので、線路は長さ1300㎜程度の複線の線路があるだけですが、そこに車両を走らせて見るとやはりサウンドありの車両となしの車両では実際に眺めても動画として鑑賞してもそこには大きな差があるように感じます。

レイアウトセクションを走るVT08

上記の動画はいずれもCentral Station3を用いてサウンドやライトは手動でON/OFFしています。例えば駅の発車シーンの動画は機関車に実装されているOperation Sound(機関車のブロワー音等)、Departure Announcement、ヘッドライト、キャブライト、汽笛をそれぞれ手動でON \OFFしています(Departure Announcementは出発のアナウンス、車掌の笛、ドアの閉まる音が含まれています)。下の走行中の動画ではOperation Soundと汽笛を操作しています。動画の中で聞こえるコンプレッサ音はOperating Soundの一部としてランダムに発生します。なお、VT08はStation Announcementと車掌の笛、ドアの開閉音は別のファンクションとなっていますが、BR103のような駅の出発シーンも可能です。なお、動画に登場するBR103は2018年、VT08 は2006年に発売された製品です。

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デジタル制御で何ができる?(6):デジタル制御には何が必要?・いくらかかる?(2)

前回、”デジタル制御で何ができる?(5):デジタル制御には何が必要?・いくらかかる?”(1)”の中で車両の価格を実例で紹介しましたが、今回は2回目としてデデジタル制御を行う際の制御機器とそのドイツにおけるStreet Priceから計算した日本での投資額を試算した結果を紹介したいと思います。
私の使用しているシステムはMärklin Digitalですので、機器は特殊で、また少々割高?ですが、前回のDCC制御に使用される機器の役割がわかれば他社製システムでもどのような機器を購入すれば良いかはわかると思います。そして、他社製品の機器と価格も私のわかる範囲で試算結果を紹介したいと思います。ただ何分他社製システムは実際に使用したことがなく、自動運転プログラムも作成したことがありませんので、概要の説明になってしまうことはご了解ください。
まずは、私のレイアウトセクションで撮影した動画をご覧ください。

私は以前、デジタル制御で何ができる?(4):デジタル制御による運転の楽しみ方についてという記事の中で、デジタル制御はまずジオラマで、動画を撮影して楽しむことから始めたらいいのではないかということを提案しました。確かに、長さ1m足らずのジオラマを製作し、前後に組み立て式の線路を繋げ、サウンド付きの動力車を用意すればれば上の動画のようなシーンの撮影はやろうと思えば可能です。ただ、手動で音や動きのタイミングを取って撮影するのは大変で、眺めて楽しむには長さも短すぎます。また、車両の動きを楽しむという点ではそれ以上のことは何もできません。前にも述べましたが、デジタル制御を楽しむためには、デジタル制御の特長を活かして列車や機関車を「運転」したり「見物」したりして楽しめるシーナリー付きのレイアウトが必要になると思います。そしてさらに、その上の列車の動きを線路脇で列車を眺める気分で「見物」しようとするとどうしても自動運転が行いたくなると思います。
そこで私に製作したレイアウトセクションで、その自動運転をMärklin Digitalで楽しむために使用した機器とそれにかかった費用の実例を紹介します。今回は前回とは異なり、購入当時の金額ではなく、現在の価格での試算としました。
下の画像はは私の製作したレイアウトセクションの線路配置です。左側がが以前”ジオラマ”ALTENHOF機関区”の紹介とMärklin CS3による自動運転”で紹介した機関区のレイアウトセクション、右側が”Märklin CS3による自動運転を前提としたレイアウトセクション”終着駅Großfurra”の紹介”で紹介した終着駅のセクションです(①・②の機関区の引き上げ線はレイアウトとしては使用しておりません)。そして自動運転時には対向した反対側のセクションを自動運転用の引き上げ線として使用します。下図がその線路配置です。なお、この画像はCS3をWi-FiでPCと接続しPCに表示されたCS3の画面をスクリーンコピーしたものです。他社製のDCC制御ではこのような画像はPCのモニター上に表示します。

CS3の画面の一例. 画面上には在線検知の結果が表示され, 車両のいる場所がわかります. 分岐器部分をタッチすると分岐器は切り替え可能で,UC*と記載してある部分をタッチすると解放ランプが作動します. 信号は現示している状態を表示します. 右下は照明スイッチでタッチするとON \OFFしますまた,S字マークにタッチすると自動運転が始まります. これらは自動運転中はその時のStatusが表示されます.

それではこのレイアウトを自動運転するために必要な機器を紹介します。

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デジタル制御で何ができる?(5):デジタル制御には何が必要?・いくらかかる?(1)

前回、現状ではデジタル制御は車両も含めて海外製のシステムを使用することが電気工作の経験やソフトウエア専門知識を持たない一般の鉄道模型ファンにとってはデジタル制御を楽しむ最も簡単な方法であるということを書いてしまった(日本の現状では書かざるを得なかった)のですが、それでは海外の製品を使用してデジタル制御を楽しむためには何が必要で、どのくらいの費用がかかるのかを紹介したいと思います。なお、私は製品は海外のショップから個人輸入していますのでその事例を紹介しますが、当然製品の個人輸入と使用にはリスクがありますので、個人輸入で楽しむ際はあくまでも自己責任でお願いします。個人輸入が不安な方は多少価格が高くても国内の販売店から購入することをお勧めします。

Märklin Digitalの制御機器

<DCCの概要とデジタル仕様の機関車の価格>
今までアナログ制御での運転を行っていた方がデジタル制御を導入しようと考えた場合、その導入にはどのくらいの投資が必要かは大きな関心事だと思います。現状、デジタル制御に必要な機器を取り揃えて販売している模型店は都市部でもあまりなく、機器を購入するにはネット通販を利用することが多いと思いますが、DCC制御の導入にあたってどのような機器の購入が必要かよくわからない方もいるのではないかと思います。DCC制御の楽しみ方は人それぞれであり、各種ある機器からいきなり「この」メーカーの「あれ」と「それ」を使うのが良いと言われてもDCCの概要と販売されている機器の役割がわからないとそれが本当に自分にとっての正しい選択か判断するのは難しいのではないかと思います。そこで今回はまずDCC制御の概要をDCC制御に使用される機器を切り口として簡単に説明してみたいと思います。また、Märklin Digitalを除き、各メーカーのDCC製品は原則米国のNMRA(National Model Railroad Association)が制定している標準に則って動作しますので、一つのメーカーを例にして販売されている機器とその役割が理解できれば他社製機器でもその機器がDCC制御でどのような役割を持った機器かが理解でき、自分に適したDCCメーカーと製品を探すのにも役立つかもわかりません。そこで今回はまず1社の製品を例にDCCの概要をDCCに使用する機器の役割という観点から説明し、その後DCCの導入にどのくらいの投資が必要かについて、海外からの個人輸入で購入する場合を例に紹介したいと思います。当然電子機器の海外からの個人輸入は製品の日本の法規制対応や製品の破損等の面からリスクがありますが、日本での製品価格がショップで結構ばらついているのに対し、海外の大きなショップではショップごとの価格差は少ないようですので、まずは海外での機器の価格と日本から輸入した場合販売価格に加えてどのくらいの手数料がかかるのかを事例に基づき紹介させていただきたいと思います。ただ、DCC制御については実際に使ってみると結構わからないことが出てくると思いますので、個人輸入は上記のリスクに加え、海外からの購入では気軽にショップに相談してサポートを受けることが難しいという面もあります。採用するメーカーと機器が確定すれば日本で機器を購入する場合の投資額は簡単にわかりますので、サポート体制も考慮しながら個人輸入で入手するか国内ショップで購入するかは(どのショップで購入するか)は購入者で判断していただければと思います。また繰り返しになりますが、個人輸入を選択する場合は上記のリスクがありますので、機器を輸入する際には注意してください。私が認識しているリスクはあとで少し具体的に説明したいと思います。また、今回は前回までに紹介したDCC仕様の機関車について、私が海外ショップから購入した価格を紹介し、DCC機器類は次回、私が製作したレイアウトを事例に紹介したいと思います。

・ DCC制御の概要と必要な機器
細かい部分は抜きにしてDCC制御の概要を簡単に理解するためには、具体的にに販売されている製品とその製品が持つ役割を理解するのが手っ取り早い方法ではないかと思います。私が使用しているMärklin製のシステムは構成が少し特殊なので、今回はNMRAのお膝元である米国Digitrax社製のシステムで説明します。Digitrax社のホームページを見ると製品にはDCC制御導入の為のStarter Setsがあります。その中のEVOX Evolution Express Advanced 5A/8A Starter Setという製品には以下名称の機器がセットになっています。
・ DCS210+ Command Station/Booster With Intelligent AutoReverse
・ DT602 Super LocoNet Throttle
・ UP5 Universal Panel
・ Power Supply
・ Evolution Express Manual
商品説明にはEvolution Express is perfect for most home and club layouts. と記されています。club layoutsと記載されていますので、かなりの大レイアウトにも使用可能なセットだと思われます。まずはこれらの機器がDCC制御の中で果たす役割を説明したいと思います。なお、名称からもわかるように一番下はマニュアルで、この内容はDigitraxのWEBサイトで閲覧することができます。
これらの機器の中でCommand StationがいわばDCC制御の中核をなす機器です。この機器に同梱のSuper LocoNet ThrottleとPower Supplyを接続して、この機器の出力端子をレールと接続します。このCommand Stationは、Power Spplyから供給された電力を車両駆動用の矩形波に変換するとともに、Throttleから送信される制御用のコマンドに応じた信号波形を車両駆動用の矩形波に重畳させてレールに送り出す役割を担います( LocoNet ThrottleのLocoNetの意味は後ほど説明します)。また、この機器がレールとのインターフェースになりますので、車両の在線検知を行うデバイス(Feedback Module)からの信号等、自動運転等に必要な情報(Feedback情報)もこの機器で受信します。さらに、この機器はUSBでPCとの接続ができますので、この機器とPCを接続し、PCでこの機器から得られるFeedback情報等に基づき車両や分岐器制御用のコマンドを発効するプログラムを作成し、プログラムに従ってPCから制御用コマンドをCommand Stationに送り、Command Stationで駆動用の電流に重畳してレールに送信すればPCによる自動運転を行うことができます(具合的なプログラム方法は私にはよくわかりませんのでこれ以上は記載をしませんのでご了解ください)。
次にUniversal PanelとBoosterを説明します。DCC制御はレイアウト全体に同一の制御用の信号を同一のタイミングで制御対象(車両や分岐器)に与えることが必要で、そのためにはレイアウト上の左右各々のレールはレイアウトの全域にわたって導通していなければなりません。2線式のアナログ制御では短絡防止やレイアウト上で複数列車を運転するためにレール上にギャップを設ける必要がありますが、前述のようにDCC制御ではレイアウト全体に同一の制御用の信号を同一のタイミングで制御対象(車両や分岐器)に与える必要があるためレールにギャップの設置することは「禁止」です。一方、DCC制御もアナログ制御と同様、レールを全て繋げて、レイアウト上に複数の列車を走行させると電源の容量不足やフィーダーから遠いところでの電圧降下が発生しますので、特に複数の列車が走る中型から大型のレイアウトでは線路をブロック分けしてそのブロックに別の電源から電力を供給する必要が生じます。そうするとギャップは「必須」になります。しかしそれでは列車の走行に必要な電力は確保できても制御用のDCC信号が分断されてしまいます。このジレンマを解消する方法として、給電区間を分割しなければならない大型レイアウトではレールとは別にCommand Stationが生成する制御用のDCC信号のみが流れるBUS LINEをレールとは別にレイアウトに敷設します。そしてBUS LINEの途中に設置し、このBUS LINEからの情報を取り出す為のコネクタを備えた機器がUniversal Panelです。そしてブロック分けした区間では、その区間用の電源からの電力を駆動用波形に変換し、BUS LINEの途中に設けられているUniversal Panelから取得したDCC制御用信号を走行用駆動波形に重畳させてそのブロックに供給すれば、そのブロック分けした区間にもCommand Stationが発信するものと同じ制御用のDCC信号を重畳した波形の電流を流すことができます。この駆動用電力と制御用信号を重畳する役割を持つ機器がBoosterと呼ばれる機器です。このようにBoosterの役割はCommand Stationの役割と似ています(Throttleからの情報の代わりにBUS LINEからの情報を走行用駆動波形に重畳させているだけです)。上記のリストの一番上の機器はCommand Station/Boosterという名称ですが、これはこの機器がBoosterとしても使用できるという意味になります。
また、同じジレンマはリバース区間のあるレイアウトでも発生します。このジレンマはレイアウトの大小には依存せず、リバース区間を持つ全てのレイアウトに発生します。リバース区間は使用する電源に例えレイアウト上の全ての列車を運転できる電源容量があっても、その区間の両側のレールに両ギャップを設けてその区間を完全に独立させなくてはなりません。すると当然この区間にはCommand Stationからの駆動電流も制御用DCC信号も流れませんのでこの区間に駆動電流と制御用DCC信号を流す必要があります。そのためにリバース区間があるレイアウトではリバース区間用のBoosterとリバース区間用の電源が必要となります。一方、リバース区間の出入口では列車がリバース区間に侵入する時点でリバース区間のレールの極性とリバース区間の極性が同じでなければなりません。そのためリバース区間に接続したBoosterは、列車がリバース区間に出入した際にレールの極性違いに起因するショート(急激な電流変化?)を検知した場合、瞬時に駆動用電流の極性を切り替える機能が必要です。上記のCommand Station/Booster With Intelligent AutoReverseという名称はリバース区間のBoosterとして使用する際、自動で極性を切り替え機能も持っているということを示しています。なお、リバース区間が1箇所でリバース区間に侵入した列車は元の電源供給区間に戻ってくるのであれば、列車がリバース区間にいる間にレールのリバース区間外のレールの極性を反転させれば良いということになりますので、そのような線路配置ではBoosterと電源を別に用意しなくでもリバース区間に対応できる機器が用意されています(DigitraxではAR1 Automatic Reverse Controller-Singleと言う名称です)。なお、Märklin Digitalはレールが3線式で、車両への電力供給位置が線路の中心線に対して左右対称ですのでリバース区間という概念はありません。そのためこのオートリバース機能を持った機器はありまん。

話をBUS LINEとUniversal Panelの話に戻しますと、Universal Panelに設けられたコネクタのI/F仕様はCommand StationのThrottleを接続するコネクタのI/F仕様と共通です。よってここにThrottleを接続して列車を制御することも可能です。また上記のBoosterの説明ではコネクタから情報を取り出すと記載しましたが、このコネクタに自動運転のための在線検知モジュール(Feedback Module)等を接続してその情報をBUS LINEを通じてCommand Stationに送信することもできます。このように、BUS LINEのUniversal Panelに取り付けられているコネクタは車両制御に必要な情報をBUS LINEに与えることも取り出すことも可能です。Dititrax社のCommand StationにはThrottleを接続するコネクタが3個ありますが、これはCommand Stationの中に短いBUS LINEが存在すると考える事もできます。Digitrax社ではこのBUS LINEのことをLocoNetと呼んでいますが、これはDigitrax社の商標であると同時にこのBUS LINEのプロトコルを表わす名称としても用いられているようで、他社のシステムにもLocoNetという名称が出てくることがあります。また、LocoNet Throttleという名称はLocoNetに接続できる(LocoNetのプロトコルに従ってコマンドをCommand Stationに送信する)Throttleであるという意味でつけられているのではないかと思います。

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デジタル制御で何ができる?(4):デジタル制御による運転の楽しみ方について

今までデジタル仕様の車両の機能をいろいろ紹介しましたが、今回は海外では普及しているデジタル制御がなぜ日本で普及していない理由とそれに基づく打開策(結果的には妥協案です)を私なりに考えてみたいと思います。

私は以前このブログで紹介した紹介したレイアウトセクション”終着駅Großfurra”を作成してデジタル制御による自動運転を楽しんでおりますが、今回紹介したような幹線を走る大型の車両を運転できるような固定レイアウトは所有しておりません。現在のところ今回紹介したような幹線を走る大型の車両はいわゆる「お座敷運転」で楽しんでいます。
私がデジタル制御を導入したのは2000年ごろですので、それから20年近くが経ちますが、それ以前も含めて考えてみると、鉄道模型の運転の楽しみ方は「自分が運転士になったつもりで車両を自由にコントロールする」ことと「線路脇でいろいろな列車が走ってくるのを眺める体験を模型の世界で再現する」の2点だと感じます。小学生の頃、線路脇にボール紙で製作したプラットホームを置いて列車を通過させたり停車させたりして楽しんだり、畳に顔をつけて列車の通過を見るのを楽しむということは、子供の頃から鉄道模型で遊んでいた方は必ず体験しているのではないでしょうか。そして時が経つにつれスペースや線路配置は少し大きくかつ複雑になりましたが、大型車両を「お座敷運転(情景なしの組み立て式レイアウトを含む)」で運転する際の車両の運転の楽しみ方については小学生の頃の楽しみ方とあまり変わらないように感じます。そのお座敷運転に今回紹介したようなデジタル制御を取り入れると何ができるかといえば、ヘッドライトをハイビームにしてみたり、警笛を鳴らしてみたりすることで、極端に言えば小学生の時の楽しみ方とあまり変わりません。走る列車の中で発生する音を聞きながら列車の動きを眺めることも想像力を掻き立てる効果はありますが、デジタル運転の複数列車が制御できる利点を活かして複数の列車を運転している場合には1本の列車に注目するわけにもいかず、効果は現象します。運転士気分が味わえるのも1本の列車に注目しているときのみで、一人で複数の列車を運転する作業は結構煩雑です。極端な言い方をすれば、高価なデジタル制御を導入してもお座敷運転でできることとその効果は限られています。お座敷運転で色々な車両を取り替えながら運転してその車両に実装されている機能を楽しむこともあり、それはアナログ運転にはない面白さであることは確かですが、あえて極端に言ってしまえばこれもすぐに飽きてしまいます。一方、小型のレイアウトであっても、レイアウトの中に置かれた車両の室内灯やヘッドライトが想定したシナリオに沿って制御され、列車が発車時にエンジン音を響かせて発車していく様子を眺めるのているたり、運転士気分で自分でコントローラーを操作し、駅を発車するとき警笛を鳴らし、動き始めるとエンジン音が大きくなっていくのを聞くと、お座敷運転でのデジタル運転よりは圧倒的に実感的で面白く、また列車をレイアウト上に停車させて運転に関係ないような音や光の制御(機関車の芸)を眺めるのも机の上に置いた線路で眺めるのとレイアウトという情景つきの舞台で眺めるのとでは気分が全く異なります。これまでに紹介した車両の運転には関係ないFunctionはレイアウトに停車中の車両で本来の運転とは別のところ(息抜き)で楽しむものかも分かりません。

シーナリー付きのレイアウト上で停車中に「芸」を披露するBR065

一方、アメリカには日本や欧州にない運転の。楽しみ方があります。日本にはほとんどないような大きなスペースに半島型のレイアウトを作り、その中で車両を実物の鉄道を模したダイヤで運転するという運転の仕方です。線路の総延長を増やすためレイアウトを2層構造にすることも行われています。このような運転では複数の個々の列車運担担当者が自分の「CAB」を持ち、運転士になった気分でレイアウトの周囲を歩きながら列車を運転します。レイアウトのはDCC信号を線路に流す信号ライン(BUS)を通しておき、レイアウトのところどころにあるBUSのI/Fにコマンドコントローラーを順次接続しながら列車の制御を行います。その際にはスケールタイムを決めて(レイアウトの規模に応じて1時間を何分にするを決めて)1日を1セッションとして楽しみます(例えば1時間を8分とかに設定します)。また、その運転は実際の鉄道会社が規定する規則(連邦鉄道局の規則)に則る場合も多いようです。これは「自分が運転士になったつもりで車両を自由にコントロールする」という楽しみ方の究極的な姿であるとも言えますが、このような楽しみ方は鉄道模型を「おもちゃ」として捉えてきた欧州にはあまりないようで、Märklinの現行ののコマンドステーションであるCSIIIにはそれまでCSIIのあったスケールタイム機能はまだ実装されておりません。そしてどちらかといえば欧州の楽しみ方は日本の楽しみ方に近いように感じます。ではデジタル制御が普及している欧米とそうではない日本との差は何かと考えると、それは車両をレイアウト上で楽しむか、車両をお座敷運転で走らせたり、ジオラマ上の動かない車両を眺めて(写真を撮影して)楽しむかの差ではないかと考えます。勿論レイアウトでの運転を楽しんでいる方も多くいらっしゃいますが、スペース的に有利な国鉄型以外の小型車両が走るレイアウトでは自分の好みのデジタル仕様の車両を簡単に(自分で改造せずに)入手するのは現状では至難の業(実質不可能)なのではないかと思います。

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鉄道写真:50年前の東京の鉄道(1)

今回は今から50年前、私が鉄道写真を撮り始めた頃の写真を紹介したいと思います。当時私は小中学生の時代で、自宅にあったカメラを使用し、東京駅や上野駅で写真を撮っていました。当時はまだいわゆる『SLブーム』が起こる前で、駅で写真を撮影している鉄道ファンは少ない時代でした。当時は鉄道ファンの数は非常に少なく、今よりコンプライアンスが緩かった(そもそもそのような言葉はなかった)時代でしたので、駅で小学生が写真を撮影していると運転士さんが声をかけてくれて運転席に座らせてくれたり、電車区を尋ねると職員さんに中を案内してもらえるような今では考えられないような時代でした。乗せてもらう小学生の方も機器には絶対に触らない等の節度は守って乗せてもらっていました。撮影したカメラは主にOlympus Pen だったと記憶しています。当然撮影技術などと呼べるものは何もなく、下手な写真ばかりでお恥ずかしい限りですが、当時の鉄道風景を知っていただくために恥を忍んで写真を掲載したいと思いますので、ご笑覧ください。ただ、当時のフィルムは当時使用していた素材に起因する”ビネガーシンドローム”が発生してしまい、フィルムのカールが激しく、表面に汚れが見られますがご了解ください。当時の国内のモノクロフィルムは 大手2社以外にもあまり聞いたことがないメーカーのフィルムも販売されていました。小学生の私は当然お金がありませんでしたので止むを得ず価格が安いそのようなフィルムも使用していたのですが、皮肉?な事に同一の保存方法でビネガーシンドロームの程度が一番酷いのは当時の国内最大手のメーカーのフィルムです。それではまず第1回目として1969年頃東京駅、上野駅、新宿駅の風景を紹介します。

まずは東京駅です

東京駅に停車中の80系普通列車です. 当時、昼前の富士行き1本のみが80系で運転されていました. 奥のホームには東京駅に到着した寝台特急「さくら」が止まっています.
東京駅のホームに並ぶデビューまもない頃の特急「あまぎ」です. 当時は週休2日制ではなく、土曜日は「半ドン」でしたので下り伊豆方面行きの優等列車の発車は土曜の午後2時ごろがピークでした. 写真にも少し映っていますが行楽地に向かう列車にもかかわらず, 乗客の方々もスーツ姿の方が多かったような印象でした.
東京駅に到着した寝台特急を牽引してきた機関車は客車から解放された後, 機回し線を通り列車の東京方に連結され、列車は品川まで回送されます. このための機回し線は10番線と12番線の間にあり、そのため東京駅には11番線がありませんでした. 入替時機関車のステップには2名の掛員が乗っているのも時代を感じさせます(上の写真で2本の特急「あまぎ」が停車している間にある線路が機回し線です).
東京駅の有楽町方にのホームは旅客が乗降するところより先に荷物を扱う場所があり、そこで荷物の積み下ろしが行われていました. また、写真のように153系の急行には大きなヘッドマークが取り付けられていました.

次は上野駅です

1969年に両大師橋から撮影した上の駅構内です.大連絡橋はまだ完成しておらず(工事中), 高架ホームと地平ホームはオーバーラップしていません. 常磐線ホームには旧型国電が停車中です. 正面に見える特急列車は青森行き583系はつかりと盛岡行きやまびこです. この写真を撮影した際使用されていた上野駅の東西を結ぶ両大師橋は現在よりホームの近くにありました。
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デジタル制御で何ができる?(3):海外メーカー製デジタル仕様の車両の紹介) -デジタル仕様の機関車に実装されている機能の実例(蒸気機関車等)-

デジタル仕様の機関車をどのように楽しむかを考えるにあたり、もう少し機関車に実装されている機能を紹介したいと思います。前回は電気機関車に実装されている機能(Function)を紹介しましたが、今回は蒸気機関車に実装されている機能を紹介します。今回も動画を多数掲載してしまいましたが、お許しください。

この機関車は戦後に製造されたドイツ国鉄のBR065(#39651)で、蒸気機関車の中では比較的多くのFunctionが実装されています。まず紹介するのは走行音と汽笛とブレーキの軋み音です。動画ではわかりにくいのですがこの製品には発煙装置が組み込まれており、発煙のON/OFFが可能です。なお、動画に収録されているポツポツという音は発煙装置が発する音です。M¨arklinの蒸気機関車はほぼ全てに発煙装置が設置可能ですが、この製品は工場出荷時に取り付けられています。なお、発煙装置はドイツのSEUTHE社からのOEM品です(SEUTHE社が発売している装置も取り付け可能です)。

出発時の長い汽笛はパネルのタッチ(クリック)により長さの調整が可能です. 短い汽笛は1回のタッチ(クリック)のみで鳴らすことができます. ブレーキの軋み音はON/OFFが可能です.

ライトは進行方向に応じたヘッドライトのON/OFF,コールバンカー側のテールライトのON/OFF、キャブライトのON/OFF,入替作業時の点灯モードが可能です。

進行方向に応じて天道するヘッドライトはON/OFF可能です
コールバンカー側のテールライトはON \OFF可能です。進行方向には依存しません。
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デジタル制御で何ができる?:海外メーカー製デジタル仕様の車両の紹介(2) -デジタル仕様の機関車に実装されている機能の実例(電気機関車)-

今回のテーマ(表題)は「デジタル制御で何ができる?」ということなので第2回目はいきなりですが、デジタル制御でできる機関車の「芸」(機関車に実装されている機能の実例)を写真と動画で紹介したいと思います。使用する機関車は前回も登場したドラエモン顔のMärklin製BR193です。この機関車には全部で制限に近い31個のFunctionが設定されていますが、Märklin digitalのFunctionの数は最大32個となっていますのでこの機関車のFunctionの数は製品の中では多い方です。
 では、早速この機関車に実装されているライト、サウンド関連の機能を写真と動画で紹介しますのでまずは見ていただきたいと思います。なお、動画が多数ありますので環境によっては表示の応答が遅くなるかもしれませんがご了解ください。

まずライト関係のFunctionです。
ヘッドライトとテールライトの制御です。アナログ制御と同様、ヘッドライトとテールライトは進行方向により切り替わりますが、その他のライトも含め、ライトが停車中に点灯/消灯できるのがまずアナログ制御にはない大きな特徴です。私が鉄道模型を始めた当時はこの機能の実現には高周波転倒と呼ばれる方式(モーターが動かない高い周波数のパルス電圧によりライトを点灯させる)が主流で、その後一部メーカーから製品化もされているのではないかと思いますが、停車中にライトが消えてしまう問題はデジタル制御の採用で一挙に解決します。サウンドデコーダーが普及していない日本ではデジタル制御は一度に線路に多数の車両を乗せて、それらを選択的に運転できることと停車中にライトがON \OFFできることと思っている方もいるようですが、これらは1984年に最初にMärklin Digital が発売されたときに備わっていた機能で、いわば40年前から存在する機能です。

前回も紹介したようにキャブの室内灯のON/OFFが可能です。この機関車はONにすると前進側の室内灯が点灯し、進行方向を切り替えると室内灯も切り替わりますが、製品によっては個別に制御できる製品もあります。

片側のエンドのみライトを消灯することが可能です。主に機関車が客車を牽引するする際にテールライトを消灯するために用いられる機能です。ON/OFFは運転台ごとに制御できますので前回紹介したようなキャブ室内灯とヘッドライトのON \OFFを連携させる制御も可能です。

通常のヘッドライトに加えLong Distance Headlight(ハイビーム灯)が点灯します。ヘッドライトより輝度の高いライトが点灯します。

運転室のダッシュボードの計器盤内にもLEDが組み込まれており照明のON/OFFが可能です。

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デジタル制御で何ができる?:海外メーカー製デジタル仕様の車両の紹介(1)

先日、PCであるニュースサイトを何気なく見ていたとき、そこに先日東京ビッグサイトで開催された鉄道模型ショー(JAM)のニュースが掲載されていました、日本で比較的有名なニュースサイトに鉄道模型に関するニュースが掲載されること自体、私の年代の者にとっては時代の変化を感じたのですが、この中で日本の鉄道模型のデジタル化は欧米に比較して20年以上遅れているというようなテロップがついた映像が流れていたのが気になりました。これまでもこのブログで紹介してきたように、私の最近の興味の対象は主に外国製の鉄道模型(HOゲージ)ですが、現在保有している車両は全てデジタル仕様の車両です。現在、海外では現状ほとんどの欧米のメーカーがアナログとDCC仕様の車両を発売しているのに対し、日本ではDCC仕様の車両に製品が非常に限られているという印象を受けます。私が愛好しているMärklinのHOゲージの車両はほぼ全てがデジタル仕様となっていますし、米国メーカーの車両も$100程度の価格差でDCCのありとなしの2種類の製品が用意されている製品が殆んどです。もちろん日本型の車両でもDCC仕様の車両(米国QSI社製のQuantum systemを含む)は発売されており、改造等によりDCCを搭載して使用して運転を楽しんでいる方も多くいらっしゃいますが、日本の現状では一般に模型店の店頭等でサウンドデコーダーを搭載したDCC仕様の製品が備えている機能を目にする機会は少なく、それが日本でDCCが普及しない一因であるような気がします。ただ、蒸気機関車がドラフト音を出しながら汽笛を鳴らしエンドレスを周回しているだけではデジタル制御の面白さはなかなか伝わらないようにも感じます。昔の話ですが、私は学生時代、当時の晴海展示場で開催されていた鉄道模型ショーの天賞堂ブースで初めて見たコントローラーSL-1を用いたサウンド付きの機関車の運転を見た時の驚きが今でも思い出されます。ただ、現代のデジタル制御はそれよりはるかに多機能で、色々なことを行うことが可能です。そこで今回は甚だ僭越ではありますが、今回は数回に分けて、海外製の比較的新しいデジタル仕様のMärklinの車両を例に、実際にデジタル制御でどのよう車両の制御ができるのかを動画と写真で紹介させていただきたいと思います。


今回は初回としてデジタル制御で可能な基本的機能を紹介します。まずは機関車が発車する時のデジタル制御の実例を動画で見ていただければと思います。下はMärklin製BR182電気機関車(#39840)の発車時の動画です。

この機関車はドイツのSiemens社が開発したE S64U2というタイプの機関車で、通称Taurusと呼ばれる最高速度230km/hの機関車です。この機関車は2000年ごろからヨーロッパの各鉄道会社の仕様に合わせた仕様で各鉄道会社に納入され、鉄道会社固有の形式番号を与えられて現在も欧州各国で使用されています。そしてこの動画の音を聞いてお分かりの方も多いと思いますが、この機関車は最近話題となった京浜急行1000系の「ドレミファインバーター」の制御器と同系統の制御器を搭載しています。このため音階はチューニングされていないものの、発車時には京浜急行の「ドレミファインバーター」を彷彿とさせる音を発して加速していきます。もし、日本の製品にもこのようなインバーター音が出せる京浜急行の1000系や常磐線501系電車の模型が市販されていたら思わず欲しくなってしまうのは私だけでしょうか?
また、下の写真は冬、私が撮影した深夜の水上駅に停車中の上り急行「天の川」、特急「北陸」の写真です。停車中の機関車はヘッドライトが消灯してキャブライトが点灯していますがやがて発車時刻になるとキャブライトが消灯した後ヘッドライトが点灯し機関車はブロワーの音を響かせて発車していきます。

水上駅に停車中の上り急行天の川. ヘッドライトは消灯しキャブライトが点灯しています.
発車会津とともにキャブライドが消灯し、ヘッドライトを点灯させ水上駅を出発する特急「北陸』

実際に見るとこのようなシーンは印象的で、模型でも再現したくなりますが、このシーンもキャブライトが制御できるサウンドデコーダー付きのデジタル制御の機関車であれば容易に再現することができます。下はそれを再現したMärklin製BR193(#39197)の発車時の動画です。

この機関車は上記Taurusの後継機でVectronと呼ばれるSiemens製の機関車です。この機関車も鉄道会社に合わせて出力、最高速度等がその鉄道会社に合わせた仕様に設定できるセミオーダーメイドの機関車で、欧州で幅広く使用されているものです。前面に冷却風の取り入れ口がありそのグリルが猫のひげのよう見え、特に青系の塗装がされた機体は日本人が見ると思わずドラエモンを連想させるような車両ですが、欧州では最新型の車両の一つです。なお、この機関車はその後の制御機器の改良で日本でドレミファインバーターの音が聞けなくなったのと同様、この機関車は発車時制御器からのドレミファインバーターのような音は聞こえません。

最近、日本の雑誌を見ていると実物の情景を再現したようなジオラマ(レイアウトセクション)が多く発表されており、その情景の素晴らしさには目を見張るもがありますが、これらの記事のは制御方法に対する説明がほとんどありません。記事では分かりませんが、もしそれらのレイアウト上の車両が、車両を置いて写真を撮っているだけ、あるいは単にアナログ制御で車両を動かすだけであれば、それだけではなく、そこに光と音の制御が加わればどんなに楽しいかは想像に難くありません。デジタル化はというと大きなレイアウトで分岐器や複数列車を制御するためだけのもの、あるいは一部のマニア向けのものと思っている方もいるかもしれませんが、実際に車輌を手にして見るとデジタル制御の面白さははそれだけではありません。鉄道模型を趣味としてる者が、模型店に行った際にデジタル制御で動いている模型を見る機会が増え、例え難しくても頑張ればなんとか出来そうな(電気工作の知識がある人に教えて貰えばできそうな)車両のデジタル化に関する記事が雑誌に掲載されていれば、自分もトライして見ようとする人が増え、それが鉄道模型のデジタル化のきっかけになるのではないかと思うのは私だけでしょうか。前回、12系客車の床下機器の制作記事でも述べましたが、雑誌の記事をきっかけに実際に手を動かして見ようという方が増え、パーツも充実するということもあり得なくはありません。海外の雑誌には私が購読している米国のModel Railroder誌や欧州のMärklin Mabazinに、車両へのデコーダーのインストール方法が時々掲載されています(後者はの対象はMärklin 製製品の改造方法ですが・・・)。


一方、現状ではメーカーにはデジタル化を推進しようという機運は見られません。メーカーにとってはデジタル仕様の車両の製品化には従来より多額の投資を必要としますし、その投資に見合う数量が販売できるかも考えるとリスクが大きいと考えているのではないかということは理解できます。海外製のデコーダー導入してそれを形式ごとの特徴に合わせて日本仕様にカスタマイズするにはそれなりの技術も必要だと思われます。ただ、日本の製品が全くデジタル化を意識していないわけではなく、日本の製品でもデジタルデコーダーの標準規格である21ピンの端子が基板に設けられている製品もあるようです。私が学生の頃、鉄道模型雑誌(TMS)には素人(電気的知識や工作経験がない者)には非常にハードルが高いと思われるトランジスタコントローラーの製作法が回路図も含めて掲載されており、私もなんとか制作できないかと思ったものですが、今は上記の製品の21ピン仕様に対応した海外製のデコーダーを使用すれば少なくともそれよりは簡単に車両のデジタル化は可能ではないかと考えられます。このように考えるとこの現状を打開するためにはユーザー側から鉄道模型のデジタル化の機運を盛り上げることも必要かと思います。そのためにはやはり鉄道模型雑誌が市販のパーツ(デコーダー・スピーカー)等を用いて車輌をデジタル化する詳細手順を掲載していただくと、それをきっかけに少しは普及が進むのではないかと考えます。私もまだアナログ仕様の車輌をデジタル仕様に改造したことはありませんが、デジタルレコーダーは非常に高価であるとともに配線ミス等で割と簡単に破損するようですので、独学で英語のマニュアルを頼りに改造を行うことに対するハードルは結構高いと感じます。個人のWEB SITEには改造記事もありますが、やはり改造のハードルを下げるためには信用できる(複数の専門家により充分にレビューされた)メーカーのマニュアル以上の詳細な手順の説明が欲しいと感じます。余計なお世話と言われてしまえばそれまでですが、日本のメーカーの製品の中には車両の動きと同期して運転時の音を出すことができるサウンドボックスというような製品もあるようですが、普及すると日本の鉄道模型がガラパゴス化してしまわないかはちょっと心配です。
そこでせめて現在私にできることとして次回以降、このデジタル制御でどのような車両の制御ができるかを紹介してみたいと思います。紹介する車両は外国型で、紹介するシステムも専用のコマンドステーションを使用するMarklin Digitalというどちらかと言えば特殊なものですが、模型店の店頭で車輌を眺めるように、まずはデジタル制御とはどんなもので一体なにができるのか、その動作(車両が演じることのできる芸?)の詳細を紹介させていただきますので、それにより少しでもデジタル制御の面白さを感じていただければと思います。そしてこの記事を読んだ方が少しでもデジタル制御に興味を持っていただければ幸いです。

模型車両の紹介:1970年台に製作した12系客車の紹介(極力費用をかけずに実施した床下機器の改修)

以前このブログでED75 700番台を紹介した際、走行中の動画を掲載しましたが、今回はその際この機関車が牽引していた12系客車を紹介したいと思います。それではまずその紹介に掲載した動画を再掲します。

この12系客車は1970年台に製作したもので、当時発売されていた谷川製作所製のキットを組み立てたものです。当時、私はこのブログでも紹介したしなのマイクロ製のEF64,ED78,EF71等の電気機関車のキットを組み立てておりましたが、この車両はそれらの機関車が牽引する客車として製作したものです。編成はスハフ12+オハ12×3+オハフ13からなる5両編成です。当時12系客車は主に臨時急行列車として全国各地で見られましたので当時製作していた機関車に牽引させる客車としては最適な形式の一つでした。このキットを組み立てた当時は車両の細密化にはあまり拘っていなかったため車体はほぼキットをそのまま組み立ててあり、床下機器もキットに付属していた一体成形のプラ製の床下機器をそのまま取り付けて完成としました。

東北本線久田野付近を走る臨時急行
中央本線日野駅付近を走る臨時急行「たてしな」

もとより12系客車の車体は非常ににシンプルな形状でディテールアップの余地はあまりなく、当時は現在のようにエコーモデルの製品をはじめとするホワイトメタル製の床下パーツや車体部品もほとんど発売されていませんでした。当時、機関車、特に蒸気機関車はロストワックスパーツを使用した細密化が行われるようにはなっていましたが、電気機関車や客車を細密化するという風潮はほとんどなかったように記憶しています。この記事の最後にも触れますが、客車、特に旧型客車の床下の細部が意識され始めたのは1973年のTMSに掲載されたなかお・ゆたか氏執筆の「客車の実感を求めて」という記事とそれ以降のパーツの充実によるところが大きいように思います。

今回、機関車の紹介記事を書くににあたりこの12系を改めて箱から取り出し眺めてみると、車体はともかく一体成形の床下機器が気になります。

オハ12のキットに付属していた一体成形による床下機器. 機器類の配置は概ね正確ですが型の抜き方向がが上下方向のみであるためタンク類の形状が実感的ではありません

前述のように12系客車の車体は非常にシンプルで、ディテールアップの余地はあまりありません。このキットの車体は全体的なプロフィールは良好で、ユニットサッシもプレスで表現された枠の凹部にサッシを接着する構造となっており、2段窓の段差は表現されていないものの、形態的な不満はありません。強いて現在の水準に合わせた細密化を実施しようとするとドア部への手摺りの追加、プレスパーツを用いたサボ受けのエッチングパーツへの交換が挙げられますが、わざわざ塗装を剥がしてそのような加工を行うこともないように感じましたので、傷んだ塗装の修正を含め今回は車体の加工は見送りました。これはマッハ模型が廃業してしまったことによる調色塗料の入手に不安があったこともその理由の一つです。一方、床下機器についてはスハフ12の発電エンジン部分を除き一体成形の床下機器が現在のレベルからはかなり見劣りがしますので、床下機器についてはスハフ12のエンジン周りを除き新規に製作することとしました。そしてこの改修にあたり、この製作にかかる費用を極力抑制した形で行いましたので、今回はその方法を中心に紹介してみたいと思います。

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