レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(3)

今回は機関区の各種設備をレイアウト上のどこに配置するについて検討した結果を紹介します。最初は燃料の補給等、機関区にある蒸気機関車を運転するために必要な設備についての検討です。機関区の設備にはまず蒸気機関車のエネルギー源を機関車に補給するための設備として
1)石炭補給設備
2)給水塔(水を貯蔵するタンク)
3)給水栓(給水スポート)
があります。また、空転防止用の砂を機関車の補給するための
4)砂補給設備
が必要です。
さらに、機関車から出る石炭の燃え殻を排出するための設備として
5)アッシュピット
が必要になります。
前回線路配置を検討したときに説明したように、今回はこれらの設備は下図の右上の”引上線”に設けることになります。

このレイアウトセクションに出入する蒸機は私が製作したC 62、C 57、D51等ですが、C62は別格としてもそれ以外の機体が配置されている機関区も主に幹線、亜幹線と呼ばれる路線の比較的規模の大きな機関区です。そのような機関区では複数の蒸機機関車に対して機関車を走行させるためには複数の機関車に対してこれらの設備を使用した作業を流れ作業的に行う必要があり、上記の設備を備えた”整備エリア”は複数箇所に設置されていることが多く、どの整備エリアに向かうかをターンテーブルの停止位置で振り分けられるような例も存在します。このような機関区では給炭設備は線路上に設置された櫓の上に設置した石炭ホッパーからその下に停車した機関車のテンダーに直接重力で落下させる方式が多く、また給水も高い位置に設置されている給水タンクから重力を利用して各線の給水地点に振り分けられ線路脇に設置された給水栓(スポート)からテンダーに供給されます。現在でも蒸気機関車は各地で保存されていますが、このような設備を備えたの機関区は写真や映像以外では見ることはできません。

高崎第一機関区で撮影した八高線のさよなら列車を牽引するD51+C58の出区風景. 後方に石炭台、給水スポートと給砂塔, 手前右側に給水塔が確認できます.

しかし今回は整備エリアの線路は単線で長さも短く、スペース上もストラクチャーの大きさのバランスからいってもこのような大規模な設備を設けるのは現実的(実感的)ではありません。そこで、このレイアウトでは石炭補給設備は石炭を”手動”でテンダーに積載する給炭台、給水は給水タンクに設置されたスポートでタンクから直接テンダーに給水する方式の給水タンクとすることとしました。一方空転防止用の砂は機関区の規模に関わらず通常線路脇に設置された櫓の上に設置されたホッパーから砂箱に重力で供給されるようです。この給砂塔は実物でも複線タイプと単線タイプの標準的なタイプがあるようですので今回は単線タイプを線路脇に設置することとしました。なお、この給砂塔はその近くに砂を加熱して乾燥させる設備があり、その建物が給砂塔の近傍に配置されています。砂は重力で砂箱から動輪近傍に落下させますので砂の乾燥は必須のようで欧州の建造物キットではこの給砂塔は”Sanding Tower Plant”という名称で砂乾燥用の建造物とセットで発売しているメーカーもあります。機関区の設備の中でこの給砂塔はあまり話題に上ることがなく、私も蒸気機関車が活躍していた時代、機関区を訪れた際に意識して給砂塔を眺めた記憶はないのですが、上の高崎第一機関区の写真でもその存在は確認できますし機芸出版社発行の”シーナリー・ストラクチャーガイド”の表紙には給砂塔の前に停車するC58の写真が掲載されています。

アッシュピットは整備エリアの近傍にあるようですが、その他の場所にも設置されている例もあるようです。一方、今回レイアウトに設置しようとするするこれらの設備の規模を考えるとこのレイアウトセクションは機関区というよりはローカル線の機関支区のような雰囲気が強くなります、ただ、私は模型の世界ではこのセクションは「機関区」で良いと考えています。このセクションのオマージュ作品である”蒸気機関車のいる風景”でも機関庫は単線機関庫ですが、雑誌でそこにC62が停車している写真を見ても殆ど違和感がありません。思えば小学生の頃鉄道模型を始めた当時、畳のうえに引いた線路に顔を近づけて列車の通過を眺めて楽しんでいたものですがその時には本を積み上げて作ったトンネルが実物のトンネルに、線路脇に置いた筆箱の蓋がプラットホームに見えていたことを思い出します。そこまで極端ではないにせよ最近の雑誌の記事を読んでいると、実物の風景を模型でいかに細密に再現するかが鉄道模型の昨今のトレンドになっているような気がします。ただ、少なくとも私はあまり細かいところには拘らずもう少しおおらかに「模型の国」を楽しみたいと思っています。一方、海外のDCC制御の蒸機はサウンドデコーダーに給炭音、給水音、給砂音や機関車の火格子を振動させて灰落としを行う際のサウンドが実装されています。将来日本でもDCC制御が普及し、蒸機のサウンドデコーダーにこのようなサウンドが実装されれば機関車からこれらのサウンドを発生させて楽しむことが可能です。

Märklin製BR65(#39651)ではf24-f27が機関区の作業時のサウンドに割り当てられています.

話が少し脱線しまったので話をレイアウト設備の配置の話に戻します。今回これらの設備は全て一本の線路上の比較的狭い範囲に設けますので検討するのはその配置(並べ方と各設備間の間隔)になります。私はこれらの設備が実物では通常どのような位置関係で配置されているかの知識はないのですが、限られたスペースの中、実物を忠実に再現する必要もないと思いましたので今回の配置の条件は機関車が引き上げ線に先頭から入線してもバックで入線しても各設備にアクセスできるように各設備の位置を決めました。線路の長さが限られているため一部の設備へのアクセス時に機関車が分岐器上に存在してしまう場合もありますが、それはやむなしと判断しています。なお、アッシュピットはどのような考え方により配置が決められているかは不明でしたので、機関車がどちら向きに進入しても火格子がアッシュピット上に到達できるという条件で線路終端に近い位置にアッシュピットを配置しました。また、アッシュピットは機関区内に複数存在し、中には機関庫近傍に設けられている例もあるようですので機関庫近傍にも設けてあります。また、今回製作するレイアウトセクションは蒸気機関車の晩年(Transition Era)を再現したレイアウトですのでレイアウトに変化をつけるため整備エリアと対向している留置線の片方には気動車の洗浄台と燃料補給設備を設けることとしました。これらの検討結果に基づいて決めた設備の概略位置を下図示します。なお、機関庫内のピットは庫内に入線した際、機関車の動輪部分がピット上にくるように停止可能であることを条件に位置を決定してあります。

これらの設備には石炭台には石炭置場、給水塔にはポンプ小屋、給砂塔には砂乾燥設備と砂置場、アッシュピットには灰置場等の付帯設備が必要となりますが、これらは実際に線路を敷設後に現物合わせで位置を決めることとしました。この他、車両の運転には直接関係ない設備(建物)としては機関区事務所、乗務員控室、風呂場、トイレ、線路班詰所、資材置き場、倉庫等がありますが、これらはベースの奥側と手前側の空きスペースに分散して配置することとしますが、こちらの大きさや位置は線路敷設後に決めることとし、ここまで決めたところでベースの製作を開始しました。次回はベースの製作から線路を敷設するまでの製作の過程を紹介したいと考えております。
最後までお読みいただきありがとうございました。