レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(2)

具体的な構想を始めるにあたり、まずはそのための前提となるレイアウトのサイズと線路配置に影響する分岐器の選定を行いますが今回ベースのサイズは今回1370㎜x300㎜としました。これは以前紹介したレイアウトセクション ”終着駅Großfurra”の上における最大の寸法です。一方、分岐器は将来DCC制御に対応するためには非選択式の分岐器を選ぶ必要がありますが、前回記載したように国内製の道床なし分岐器は旧篠原模型店製の選択式の製品しかありません。したがって製品をそのまま使用するとすると海外メーカーの製品を使用することとなります。そうすると比較的入手(個人輸入)が容易で使用できそうな製品は英国PECO社の製品とオーストリアのRoco社の製品になります。一般的に日本型の大型蒸機が通過できる分岐器の番数は#6程度と言われていますので、そのサイズで両社の製品を探すとPECO社では#5と#6、Roco社では#6と#8相当の分岐器がラインナップされています。PECO社の#5分岐器はスペック上分岐側のカーブは600㎜強ですので大型蒸機が通過できないことはないと思われますが、ここは余裕をとって#6を使用することとしました。このような狭い範囲の風景を再現するレイアウトでは、車両がいない時の線路の「実感」も大切なのであまり番数の小さい分岐器は使用を避けた方が賢明はないかと思います。このうちPECO社の製品はかつて機芸出版社が輸入総代理店として販売しており、カタログ上もCode83レールを使用したプロダクトラインはNMRA規格に適合していることが明確に謳われていまましたので機能的には問題ないと考え、このレール(Code 83)を使用することとしました。PECO社の分岐器にはフログのタイプがElectorofrog(選択式)、Insulfrog(選択式であるがFrog部分が絶縁されジャンパ線の追加で非選択式にする事が可能)とUnifrog(非選択式)がありますが、現在#6で入手できる製品はUnifrogのようですので、このタイプを選択することとしました。ちなみにこの分岐器のサイズのスペックは全長233㎜、frog angle 9.5deg、分岐側半径1092㎜です。なお、PECO社の分岐器は従来から切り替えた方向でロックされますが、この分岐器には従来ポイントレールとリードレール部の境界にあった関節がありません。両者は一体化してあり切り替え時のポイントレールの変位はレールの撓みで吸収しているようです。この構造であればレール側面を塗装する際、関節への塗料の回り込みを心配する必要はありません。PECO社の線路は発売されてから50年以上たちます。従来から発売されている製品の外観や構造ははあまり変わっていないように見えますが、DCCUnifrogの分岐器は比較的新しい製品で、改良が進んでいるようです。

ベースのサイズと分岐器の剪定が終わりましたのでいよいよ線路配置の検討を開始します。この検討には従来から使用しているRailmodeller Proというソフトを使用しました。この種のソフトで有名なのはWintrackですが、このソフトはその名の通りWindows専用ソフトであり、私が普段使用しているMACでは使用できません。そこでMAC対応のソフトをApp Storeで探した結果このソフトが見つかりましたので早速導入しました。機能は比較的限定されていますが線路配置を検討、作図するには充分で、欧米メーカーだけではなくShinoharaやKATO Unitrackのレールにも対応しています。使用を開始し7−8年経過していますが特にバグや安定性に問題はありません。私が使用したのはVer6.4.25ですがアップデートは現在でも行われているようです。最近発売されたMärklin社のCトラックの大型ダブルスリップもすでにリストに反映されています。

この作品のオマージュとなっている故なかお・ゆたか氏のレイアウトセクション”蒸気機関車のいる風景”は全長は1920㎜あり、機関区だけを再現したレイアウトセクションではなく、貨車の入れ替えも楽しめる線路配置となっていますが、今回のレイアウトセクションの長さはそれより短いため、今回は機関区部分のみのセクションとしました。一方私が以前製作した外国形の機関庫セクションは全長が1170㎜と短いため、機関区入り口の分岐器をベースの端部に配置しています。そのためこのレイアウトセクションでは機関区内で機関車を転線させるだけでも別の線路を接続することが必要で、運転のためにはレイアウトセクションを収納場所から出して線路を接続するという作業が必要でした(現在は引き上げ線を固定しその部分に別レイアウトを製作しましたので移動は不要となっています)。そのため、今回のレイアウトセクションでは機関区間の転線が別の線路を接続せずにできることをまず第一の条件としました。2線の機関庫をレイアウトセクション上に配置しようとすると線路配置が前作と似てくることは否めませんが、検討の結果最終的には以下のような下記のような線路配置とすることとしました。

今回採用した線路配置です
こちらは以前に製作した外国型の機関区セクションの線路配置です. ベースの全長が短いため機関区入り口の分岐器をベースの端部に配置しています. また機関庫キットに合わせて機関庫部分の線路間隔が広くなっています.

機関区入り口の分岐器をベースの端部から後退させた以外の前作との線路配置の相違点は全長が長いことを利用して右側の引き上げ線を長くとったことと引き上げ線に対向する留置線部分を2線に分岐したことです。前作では機関車の整備エリア(給炭場と給水スポート)は右側の引き込み線上設置していましたが、今回はスペースが前作に比較して長く、引き上げ線の長さを長くすることができますのでので整備エリアは右側の引き上げ線に配置することを想定して線路配置を決定しました。この機関区に配置する(レイアウト場で運転する)機関車は私が製作した比較的大型の蒸機(C 62,C 57,C 55,D51等)で、通常このクラスの蒸機が配置されている機関区はターンテーブルや扇形庫を備えていますが、今回はそのようなスペースはありません。したがってこのセクションはそれよりも小規模な機関区、あるいは機関区の一部を再現しているという想定にしています。実際の機関区でも整備エリアを機関車を2線の機関庫へ向かう線路上に設置する例はあまりないと思われます。今回のような配置にすれば入区してきた機関車は整備エリアに直接入線可能ですし、機関庫に留置されていた機関車は一度整備エリアに入線した後に直接出区していくことが可能です。またこの機関庫を扇形庫の付属的なものとみなして引き上げ線の際にターンテーブルと扇形庫が存在しているという「想定」も可能です。一方、引き上げ線と対向する左側の線路を2線に分岐したのは留置する機関車の数を増やすためと変化をつけるため片側に気動車の整備場(洗浄線と給油設備)を設けても良いかと思ったからです。また、引き上げ線と留置線はその他の線路とは並行に配置することを極力避けています。また機関庫の分岐も前作とは分岐方法を逆にして線路が輻輳する感じを極力避けています。これはこの機関庫が北海道の機関庫を想定しているため、少しでも機関区の敷地の広さを表現したかったことによります。加えて引き上げ線をカーブさせたことによりこの引き上げ線がさらに遠方のターンテーブルや扇形庫につながっているイメージができたのではないかと勝手に思っています。線路を並行に配置すれば幅はもう少し狭くできますが、今回は上記のようなことを考えて幅を決定しています。
なお、PECOのUnfrogタイプの分岐器はFrog部の無電区間が約30㎜ありますので手元にあるパワートラックを使用した気動車や小型機(C12)はフログ部分で停止してしまいます。そのためFrogには開通方向に応じて極性の異なる走行電流の供給が必要で、この辺りの配線が3線式やアナログ制御での選択式の分岐器を使用する場合に比較して少々複雑になります。また上記の配置図から分かるように右側の線路がベースより20㎜はみ出ていますが、これは機関区入り口の機関車の転線に使用する部分の線路の長さを確保するためです。実は線路配置を決定する際レイアウト全長が1350㎜以下になるように分岐器位置と留置線の長さを計算で決めて線路配置をソフトで作図し、その後ベース版のサイズを線路上に作図したのですが、そこで線路がはみ出てしまうことが判明しました。その原因はPECO社のWEB SITEに掲載されている寸法の誤りでした(2024.3現在)。PECO社のStreamline Code83の#6番分岐器の全長はWEB SITEでは223.5㎜と表示されていますが実際は233.5㎜です。なお、分岐器の説明文は左記の寸法ですがそこに表示されている型紙をダウンロードすると、そこには正しい寸法が記載されています。ソフトウエア上での形状はこちらの正しい寸法で表示(作図)されますので計算と作図結果に齟齬が生じてしまいました。どのように修正するかを検討しましたが、機関車の停止位置の自由度からは留置線の長さは極力長くすることが望ましく、将来自動運転を導入する時も停止位置のばらつきを考えれば留置線長さは長いに越したことはないため、今回は線路配置を変更せず、ベースを20㎜延長することで解決しました。そのため最終的なレイアウトの全長は1370㎜となっています。はみ出た部分の線路を短縮しなかったのは機関車の転線のための線路長を確保したかったためです。この部分の線路長は232㎜としていますが、これは下表に示すこのレイアウト上で運転する蒸機の最大軸距(先頭の車軸から後端の車軸までの長さ)の実測値で決定しました。C62の最大軸距は232㎜以上ありますが、このはみ出し分は分岐器の端面からポイントの長さ(約20㎜)でなんとか吸収しています。逆に言えばこの部分の線路長はそのくらいギリギリに設定している(スペース上せざるを得なかった)ということです。なお、日本の制式蒸機の下回りはやりすぎではないかと思うくらい標準化されていますので、これで国鉄のすべての機関車は転線可能ではないかと思われます(C59の戦後型の全長はC62より20㎜長いですが問題ないと思われます)。最大全長21.3m(車体長20800㎜、スケール寸法260㎜)の2エンジンの気動車も下記の最大軸距は16500㎜、スケール寸法206㎜程度のようですので問題ありません。

アナログ制御時の機関車留置用のブロック分けは下記のように行いました。機関車留置用のブロック数は8ブロックで赤い数字は各ブロックの長さを表します。

なお、PECO社のレールは#100、#83、#70のプロダクトラインがありますが、ご存知のように英国では軌間16.5㎜はOOゲージ(4㎜スケール・1/76) が採用する軌間でもあります。今回採用したCode83レール分岐器は枕木の間隔等も米国の仕様に合わせてあるという説明書きがあり、パッケージにも米国の鉄道を連想させるマークがついています。ソフトウエア上もCode83レールは ”PECO HO US(Code83)” という名称で表示表示されています。詳細は不明ですがCode100やCode70のプロダクトラインと枕木形状等を作り分けているのでしょうか。

余談ですが最近Märklinが英国のFlying Scotsmanの生誕100周年を記念したモデルを発売しましたが、発表段階でこのモデルの縮尺は1/87になるのか1/76になるのかがユーザーのフォーラム等で話題となっていました。結果は1/87で模型化されたようですが、欧州でも英国と大陸の鉄道模型の共存は議論の対象となるのでしょうか。
これで線路配置は決定しましたが、機関区セクションの場合はアッシュピットや機関庫のピット等ベースに線路を敷設する前にベースに加工が必要な部分があり、まずその位置を決めなくてはなりません。次回はその位置の決定も含め、ストラクチャーの配置構想について紹介したいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。

レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(1)

前回の記事では私が初めて製作した日本型のストラクチャーである北海道タイプの機関庫を紹介しましたが、出来栄えはともかく実際に完成した機関庫を眺めていると日本型の蒸気機関車が活躍していた時代の機関区を再現したレイアウトの製作意欲が沸々と湧いてきました。ただ、そうは言っても冷静に考えると以前紹介したようなサウンドデコーダーを搭載した外国型の蒸機が走るレイアウト(セクション)を製作してDCC制御による自動運転の面白さを知ってしまいそれを楽しんでいる現在、日本型のレイアウトセクションの製作に着手しても線路を敷設してアナログ制御の運転時にブロックスイッチ操作が煩わしい「無音」の機関車の試運転が終了した後、果たして完成まで製作のモチベーションが維持できるかは正直不安です。ただ、そうは言ってもこのまま日本型の鉄道模型の製作を終わりにしてしまうことは少し寂しい気もします。私は仕事をリタイアして3年近くになりますが、思えば会社人生の中で「定年退職」を自分の問題として意識するようになったのは長年自身が関わってきたプロジェクトの後継プロジェクトの完了時期が自分の退職後に設定されたものが出てきた時だったように思います。期限が明確に決まっている会社人生とは異なり、私の人生の終わりはまだ先の話だとは思っているものの、これからの鉄道模型の楽しみ方において何か新しいことを始めるのであれば、それは「今」であるような気もします。また、海外に目を向ければDCC制御に対応できる「非選択式」の道床なし分岐器も製品化されていますのでこの分岐器を使用すれば大きなな改造なしに将来アナログ制御をDCC制御に変更することが可能です。日本形の車両で気軽に(外国型と同じ投資で)DCC制御が楽しめるのはいつになるかは全く予測がつきませんので、このような前提は多分に先送り的(楽観的?)であるような気もしますが、まずはその辺りのことはあまり深く考えず「とりあえず」レイアウトの構想を立て、製作を開始することにしました。

塗装前のD51とおっ街道タイプの機関庫. このD51で私の蒸気機関車キットの在庫は無くなりました.

思えば50年以上前に交通博物館で見たレイアウト(パフレットでの名称は模型鉄道パノラマ)に触発されて鉄道模型を始めて以来、私の頭の中にはいつかはレイアウトを製作したいという想いがありました。このブログで紹介してきた私がこれまで製作した機関車は客車(貨車)を含めた列車単位で製作してきたのもいつかはそれらを自分が製作したレイアウト上で走らせたいという想いがあったからです。

機関車とともに客車も製作したC62重連が牽引する急行ニセコ.

そしてその当時の私の憧れはTMS誌に掲載されていた故・荒崎良徳氏が製作した「雲龍寺鉄道祖山線」であり、レイアウトセクションは故・なかお・ゆたか氏が製作した「蒸気機関車のいる風景」でした。交通博物館の模型鉄道パノラマ(レイアウト)は博物館の展示施設でありそこに作家性は微塵も感じられませんが、雑誌で上記のレイアウト(セクション)の記事を読んだ時、これらの作品の中には実物の鉄道世界を再現し、その中で車両を運転して「遊ぶ」楽しさを味わうために、単純に実物の「模倣」ではなく、自分のイメージに基づき鉄道を取り巻く世界を再現するという観点での作家性が感じられ、ある意味衝撃を受けたことを現在でも覚えています。

TMS誌の表紙に掲載された故・なかお・ゆたか氏が製作した「蒸気機関車のいる風景」と荒崎良徳氏が製作した「雲龍寺鉄道祖山線」. 70年代のTMS誌には「蒸気機関車のいる風景」はなかお・ゆたか氏の執筆した記事には度々登場した.

そのためレイアウトを製作する際にはこれら作品が目標となります。しかし現状(将来も)、「雲龍寺鉄道祖山線」のような規模のレイアウトを製作するためのスペースの確保は将来も含めてまず不可能で、長編成列車の運転は諦めざるを得ませんが、実現性があるとすればそれは故 なかお・ゆたか氏が製作した”蒸気機関車のいる周辺”のようなレイアウトセクションです。そこで甚だ僭越ながら、今まで製作してきた蒸気機関車が活躍していた頃の機関区のレイアウトセクションを故・なかおゆたか氏製作の”蒸気機関車のいる周辺”のオマージュ作品として製作することとし、構想を開始した次第です。そして今後、このブログの中でその構想から製作の過程を紹介していきたいと思います。レイアウト(セクション)の製作は初めてではありませんが、今まで製作した外国型のレイアウトと異なり、製作対象がかつて身近であった日本の風景であるため、今まで製作した外国型レイアウトとは異なり、製作は実際に親しんだ心象風景の再現になります。そのためあまり細かいところこだわってしまうと完成がおぼつかなくなる恐れがありますし、だからといってあまり割り切って製作してしまうと完成後に不満な点が目立つことになり、その辺りのバランスをどのようにとりながらレイアウトをまとめていくかが今までの外国形レイアウトの製作に比較して難しいところではないかと思います。ただ、躊躇していてもことは進みませんのでまずは線路配置から構想を始めました。なお、このレイアウトは現在製作中であり、現在では一部のストラクチャーの基本部分の製作と線路の敷設までが終了していますので、今後数回にわたり構想から線路の敷設までを紹介したいと思います。なお、一度紹介した内容を後で修正したり、作業の進捗状況により更新が不定期(次の過程の紹介までに長い時間を要する)事があると思いますがその点は容赦ください。実際に完成までどのくらいの期間がかかるかは予測がつきませんが、なんとか完成までの過程を紹介できたらと考えております。

製作中のレイアウトセクションの近影