デジタル制御で何ができる?(5):デジタル制御には何が必要?・いくらかかる?(1)

前回、現状ではデジタル制御は車両も含めて海外製のシステムを使用することが電気工作の経験やソフトウエア専門知識を持たない一般の鉄道模型ファンにとってはデジタル制御を楽しむ最も簡単な方法であるということを書いてしまった(日本の現状では書かざるを得なかった)のですが、それでは海外の製品を使用してデジタル制御を楽しむためには何が必要で、どのくらいの費用がかかるのかを紹介したいと思います。なお、私は製品は海外のショップから個人輸入していますのでその事例を紹介しますが、当然製品の個人輸入と使用にはリスクがありますので、個人輸入で楽しむ際はあくまでも自己責任でお願いします。個人輸入が不安な方は多少価格が高くても国内の販売店から購入することをお勧めします。

Märklin Digitalの制御機器

<DCCの概要とデジタル仕様の機関車の価格>
今までアナログ制御での運転を行っていた方がデジタル制御を導入しようと考えた場合、その導入にはどのくらいの投資が必要かは大きな関心事だと思います。現状、デジタル制御に必要な機器を取り揃えて販売している模型店は都市部でもあまりなく、機器を購入するにはネット通販を利用することが多いと思いますが、DCC制御の導入にあたってどのような機器の購入が必要かよくわからない方もいるのではないかと思います。DCC制御の楽しみ方は人それぞれであり、各種ある機器からいきなり「この」メーカーの「あれ」と「それ」を使うのが良いと言われてもDCCの概要と販売されている機器の役割がわからないとそれが本当に自分にとっての正しい選択か判断するのは難しいのではないかと思います。そこで今回はまずDCC制御の概要をDCC制御に使用される機器を切り口として簡単に説明してみたいと思います。また、Märklin Digitalを除き、各メーカーのDCC製品は原則米国のNMRA(National Model Railroad Association)が制定している標準に則って動作しますので、一つのメーカーを例にして販売されている機器とその役割が理解できれば他社製機器でもその機器がDCC制御でどのような役割を持った機器かが理解でき、自分に適したDCCメーカーと製品を探すのにも役立つかもわかりません。そこで今回はまず1社の製品を例にDCCの概要をDCCに使用する機器の役割という観点から説明し、その後DCCの導入にどのくらいの投資が必要かについて、海外からの個人輸入で購入する場合を例に紹介したいと思います。当然電子機器の海外からの個人輸入は製品の日本の法規制対応や製品の破損等の面からリスクがありますが、日本での製品価格がショップで結構ばらついているのに対し、海外の大きなショップではショップごとの価格差は少ないようですので、まずは海外での機器の価格と日本から輸入した場合販売価格に加えてどのくらいの手数料がかかるのかを事例に基づき紹介させていただきたいと思います。ただ、DCC制御については実際に使ってみると結構わからないことが出てくると思いますので、個人輸入は上記のリスクに加え、海外からの購入では気軽にショップに相談してサポートを受けることが難しいという面もあります。採用するメーカーと機器が確定すれば日本で機器を購入する場合の投資額は簡単にわかりますので、サポート体制も考慮しながら個人輸入で入手するか国内ショップで購入するかは(どのショップで購入するか)は購入者で判断していただければと思います。また繰り返しになりますが、個人輸入を選択する場合は上記のリスクがありますので、機器を輸入する際には注意してください。私が認識しているリスクはあとで少し具体的に説明したいと思います。また、今回は前回までに紹介したDCC仕様の機関車について、私が海外ショップから購入した価格を紹介し、DCC機器類は次回、私が製作したレイアウトを事例に紹介したいと思います。

・ DCC制御の概要と必要な機器
細かい部分は抜きにしてDCC制御の概要を簡単に理解するためには、具体的にに販売されている製品とその製品が持つ役割を理解するのが手っ取り早い方法ではないかと思います。私が使用しているMärklin製のシステムは構成が少し特殊なので、今回はNMRAのお膝元である米国Digitrax社製のシステムで説明します。Digitrax社のホームページを見ると製品にはDCC制御導入の為のStarter Setsがあります。その中のEVOX Evolution Express Advanced 5A/8A Starter Setという製品には以下名称の機器がセットになっています。
・ DCS210+ Command Station/Booster With Intelligent AutoReverse
・ DT602 Super LocoNet Throttle
・ UP5 Universal Panel
・ Power Supply
・ Evolution Express Manual
商品説明にはEvolution Express is perfect for most home and club layouts. と記されています。club layoutsと記載されていますので、かなりの大レイアウトにも使用可能なセットだと思われます。まずはこれらの機器がDCC制御の中で果たす役割を説明したいと思います。なお、名称からもわかるように一番下はマニュアルで、この内容はDigitraxのWEBサイトで閲覧することができます。
これらの機器の中でCommand StationがいわばDCC制御の中核をなす機器です。この機器に同梱のSuper LocoNet ThrottleとPower Supplyを接続して、この機器の出力端子をレールと接続します。このCommand Stationは、Power Spplyから供給された電力を車両駆動用の矩形波に変換するとともに、Throttleから送信される制御用のコマンドに応じた信号波形を車両駆動用の矩形波に重畳させてレールに送り出す役割を担います( LocoNet ThrottleのLocoNetの意味は後ほど説明します)。また、この機器がレールとのインターフェースになりますので、車両の在線検知を行うデバイス(Feedback Module)からの信号等、自動運転等に必要な情報(Feedback情報)もこの機器で受信します。さらに、この機器はUSBでPCとの接続ができますので、この機器とPCを接続し、PCでこの機器から得られるFeedback情報等に基づき車両や分岐器制御用のコマンドを発効するプログラムを作成し、プログラムに従ってPCから制御用コマンドをCommand Stationに送り、Command Stationで駆動用の電流に重畳してレールに送信すればPCによる自動運転を行うことができます(具合的なプログラム方法は私にはよくわかりませんのでこれ以上は記載をしませんのでご了解ください)。
次にUniversal PanelとBoosterを説明します。DCC制御はレイアウト全体に同一の制御用の信号を同一のタイミングで制御対象(車両や分岐器)に与えることが必要で、そのためにはレイアウト上の左右各々のレールはレイアウトの全域にわたって導通していなければなりません。2線式のアナログ制御では短絡防止やレイアウト上で複数列車を運転するためにレール上にギャップを設ける必要がありますが、前述のようにDCC制御ではレイアウト全体に同一の制御用の信号を同一のタイミングで制御対象(車両や分岐器)に与える必要があるためレールにギャップの設置することは「禁止」です。一方、DCC制御もアナログ制御と同様、レールを全て繋げて、レイアウト上に複数の列車を走行させると電源の容量不足やフィーダーから遠いところでの電圧降下が発生しますので、特に複数の列車が走る中型から大型のレイアウトでは線路をブロック分けしてそのブロックに別の電源から電力を供給する必要が生じます。そうするとギャップは「必須」になります。しかしそれでは列車の走行に必要な電力は確保できても制御用のDCC信号が分断されてしまいます。このジレンマを解消する方法として、給電区間を分割しなければならない大型レイアウトではレールとは別にCommand Stationが生成する制御用のDCC信号のみが流れるBUS LINEをレールとは別にレイアウトに敷設します。そしてBUS LINEの途中に設置し、このBUS LINEからの情報を取り出す為のコネクタを備えた機器がUniversal Panelです。そしてブロック分けした区間では、その区間用の電源からの電力を駆動用波形に変換し、BUS LINEの途中に設けられているUniversal Panelから取得したDCC制御用信号を走行用駆動波形に重畳させてそのブロックに供給すれば、そのブロック分けした区間にもCommand Stationが発信するものと同じ制御用のDCC信号を重畳した波形の電流を流すことができます。この駆動用電力と制御用信号を重畳する役割を持つ機器がBoosterと呼ばれる機器です。このようにBoosterの役割はCommand Stationの役割と似ています(Throttleからの情報の代わりにBUS LINEからの情報を走行用駆動波形に重畳させているだけです)。上記のリストの一番上の機器はCommand Station/Boosterという名称ですが、これはこの機器がBoosterとしても使用できるという意味になります。
また、同じジレンマはリバース区間のあるレイアウトでも発生します。このジレンマはレイアウトの大小には依存せず、リバース区間を持つ全てのレイアウトに発生します。リバース区間は使用する電源に例えレイアウト上の全ての列車を運転できる電源容量があっても、その区間の両側のレールに両ギャップを設けてその区間を完全に独立させなくてはなりません。すると当然この区間にはCommand Stationからの駆動電流も制御用DCC信号も流れませんのでこの区間に駆動電流と制御用DCC信号を流す必要があります。そのためにリバース区間があるレイアウトではリバース区間用のBoosterとリバース区間用の電源が必要となります。一方、リバース区間の出入口では列車がリバース区間に侵入する時点でリバース区間のレールの極性とリバース区間の極性が同じでなければなりません。そのためリバース区間に接続したBoosterは、列車がリバース区間に出入した際にレールの極性違いに起因するショート(急激な電流変化?)を検知した場合、瞬時に駆動用電流の極性を切り替える機能が必要です。上記のCommand Station/Booster With Intelligent AutoReverseという名称はリバース区間のBoosterとして使用する際、自動で極性を切り替え機能も持っているということを示しています。なお、リバース区間が1箇所でリバース区間に侵入した列車は元の電源供給区間に戻ってくるのであれば、列車がリバース区間にいる間にレールのリバース区間外のレールの極性を反転させれば良いということになりますので、そのような線路配置ではBoosterと電源を別に用意しなくでもリバース区間に対応できる機器が用意されています(DigitraxではAR1 Automatic Reverse Controller-Singleと言う名称です)。なお、Märklin Digitalはレールが3線式で、車両への電力供給位置が線路の中心線に対して左右対称ですのでリバース区間という概念はありません。そのためこのオートリバース機能を持った機器はありまん。

話をBUS LINEとUniversal Panelの話に戻しますと、Universal Panelに設けられたコネクタのI/F仕様はCommand StationのThrottleを接続するコネクタのI/F仕様と共通です。よってここにThrottleを接続して列車を制御することも可能です。また上記のBoosterの説明ではコネクタから情報を取り出すと記載しましたが、このコネクタに自動運転のための在線検知モジュール(Feedback Module)等を接続してその情報をBUS LINEを通じてCommand Stationに送信することもできます。このように、BUS LINEのUniversal Panelに取り付けられているコネクタは車両制御に必要な情報をBUS LINEに与えることも取り出すことも可能です。Dititrax社のCommand StationにはThrottleを接続するコネクタが3個ありますが、これはCommand Stationの中に短いBUS LINEが存在すると考える事もできます。Digitrax社ではこのBUS LINEのことをLocoNetと呼んでいますが、これはDigitrax社の商標であると同時にこのBUS LINEのプロトコルを表わす名称としても用いられているようで、他社のシステムにもLocoNetという名称が出てくることがあります。また、LocoNet Throttleという名称はLocoNetに接続できる(LocoNetのプロトコルに従ってコマンドをCommand Stationに送信する)Throttleであるという意味でつけられているのではないかと思います。


Märklinのデジタルシステムは特殊で、Märklin Digitalと呼ばれ、DCC制御と区別されていますが、基本的な動作と商品構成はDCCとさほど変わらないと思われます。大きな違いは3線式であること(リバース区間が不不要である)ことと、最新のデコーダーに自社開発品でCommand Stationとデコーダーの間の双方向通信が可能なmfxデコーダーが用いられている点です(双方向通信ができない旧型のデコーダーも使用可能です)。MärklinのCentral StationはDCCにおけるCommand StationとThrottleが一体化したものであり、Central Stationと呼ばれます。現在発売されているものはGEN3のCentral Station3(CS3)という製品です。CS3ではThrottleに相当するものはカラーLCDタッチパネル上に2組表示されます。コントロールダイヤルも2組ありますので速度調節と進行方向切り替えはこのダイヤルでも可能です。また、DCCではアドレス登録されていない車両にはThrottleからCommand Stationを通じて車両にアドレスを割り当てる作業が必要ですが、Märklin Digitalではmfxタイプのデコーダーを装備した車両は、線路に置くだけでアドレスが設定されます。mfxタイプでないデコーダーの場合はMMと呼ばれ、動力車の品番や、あらかじめ設定されているアドレスでアドレスを割り当てることが可能です。そして、mfxデコーダーや品番で車両を登録した場合は、その機関車の機体番号と画像がCS3の登録機関車リストに表示されます。下の写真は車両の機能を紹介した際に使用したBR193のマニュアルですが、CS3での登録名は”BR193 210−0 DBAG”であるとの記載があります。また、自動登録や品番での登録ができない旧型のMärklin製Throttle(+Command Station)を使用している場合は、初期アドレスは24、DCC制御のコントローラーを使用している場合には初期アドレスは03(NMRA標準が規定する初期設定値)であることが記載されています。なおMMはMärklin Motorora Formatの略称です。初期のMärklin DigitalはMotorora製のカスタムICを使用していたことによる名称だと思われますが、Märklin製以外の市販のDCCシステムでMärklin Motorora Format対応と謳っている機器は、この車両の運転が可能です。なお、互換性のレベルは私は分かりませんので実際に行う場合には各自で確認願います。また、その下のNoteにはデコーダーのプロトコルの自動検出の優先順位が記載されています。なお、前回までの紹介でBR193 をBR197と記載してしまったところがあります。申し訳ありませんでした。

また、DCC制御ではPCの役割である自動運転は、CS3でEventと称する自動運転プログラムを作成し、そのEventを実行することで自動運転が可能です(CS3はDCC制御の自動運転用に用いるPCの役割も持っています)。またDCCと同様、BUS LINEの構築が可能です。DigitraxがLoconetと呼んでいるBus LineはMärklin はMärklin CAN BUSと呼んでおり、Universal Panelに相当する機器はTerminalという名称です。またLoconetのI/Fコネクタは電話のモジュラージャックと同じコネクタ(IJ12)が使用されているのに対し、Märklin CAN Bus9Pと7Pのコネクタが使用されています。当然?プロトコルは両者全くの別物です。なお、欧州メーカーではRoco等がDCCシステムを発売していますが、基本のところはDigitrax社のDCCの構成と同一ですので、このような概要を理解するとRoco社のシステムの概要もわかると思います(Command StationはZ21、Throttle はMultiMAUS・Lokmausという名称です)。なお、KATOが販売しているDigitrax社製のDCCコントローラは上記のCommand StationとThrottle が一体化した製品で、Digitraxでは簡易型のコントローラーという位置付けのようです。Märklinの簡易型のコントローラーはMS2(Mobile StationI 2)でという名称です。この製品はDigitraxのThrottleに相当する製品で、DCC制御でのCommand Stationに相当するDigital Control Boxという製品を介してレールと接続します。Digital Control Boxには2台のMS2を接続可能です。私は使用していないので詳細は差し控えますが、CS3はスペック上はDCCにも対応しています。また、こちらも詳細は不明で確認が必要ですが、Roco社のDCCシステムにはMotorora Formatのプロトコルに対応していると記載されていますので、Z21ではTRIXブランドで販売されているMârklin製のデコーダが搭載されている車両も運転可能ではないかと思われます(互換性のレベルは各自で確認願います)。
なお、LocoNetやMarklin CAN BUSのようなBUS LineはBoosterが多数必要な大型レイアウトや運転時に複数のオペレーターがいる(複数のオペレーターが自分の受け持ち列車を運転する)レイアウトには必要になりますが、そうでなければまず必要ありません。Märklinを例にとった場合、CS3はBoosterを1台、MS2を2台接続可能です。また、Feedback Moduleは親機1台をCS3に接続すると、Feedback Moduleの追加が必要な場合、最初にCS3に繋いだFeedback Moduleから増設するFeedback Moduleを芋蔓式に繋げていくことができます。Feedback Boduleは2個あるコネクターの各々に31個の子機がLANケーブルにより接続可能です。1個のFeedback Moduleには16個の検出端子がありますので、Bus Lineがなくても最大992箇所の在線検知が可能です。DCC制御の場合もDigitraxのCommand StationにはLocoNetのコネクタが3個ありますのでそこにBoosterやFeedback Moduleが接続可能です。DCC制御の説明の中でDiditraxのUniversal PanelはBUS LINEから情報を取り出すために使用すると記載しましたが、Command stationの増設コネクタとしても使用できると思います。またThrottleは空いているLocoNetのコネクタの数だけ接続可能です。また、Throttleの中には無線接続できるものもありますのでThrottleを無線接続すればCommand Stationから遠いところでも列車の制御が可能ですのでThrottleを接続する為だけのBUS LINEの設置は不要です(アプリを入れればスマホやタブレットもThrottleとして使用可能です)。またDCC制御でもFeedback Module等の機器もMärklin同様、芋蔓式接続が可能なようです。よって、少なくとも日本ではBUS LINEの敷設が必要なレイアウトはあまりないのではないかと思います。なお、各社のDCCシステムが一度に何台の動力車を制御できるかですが、Diigitraxのシステムでは動力車用のデコーダーは9,000アドレス以上の設定が可能で、同時使用できるアドレスは100と記載されています(ThrottleをBUS LINEに100個繋げて100台の車両を同時に動かすことが可能です)。他社も同じようなものですので登録アドレス数や動力車を同時制御できる台数はもはや差別化できるスペックではないようです(ポイントデコーダーの使用可能等も含め詳細は各自で確認してください)。ただ、簡易的なThrottle(+Command Station)ではアドレスの登録可能数は現行のMärklin製の簡易的なコントローラーのMS2は40個(台)まで、KATOの発売しているDigitraxのコントローラーは20個(台)まですので、簡易型のコントローラーを使用する場合は設定可能台数には注意が必要です。所有の動力車を全て登録しておこうと思ったら20−40台は結構厳しい場合もあるかと思います。また、Wi-Fiで無線接続できる機器には日本では電波法という法律が適用されます。そのため使用できる国や地域が制限されており、日本では使用できない機器もありますのでご注意管さい。
最後に、上記の説明からもわかるかもしれませんが、T社の製品に搭載されているQuantum Sound SystemはDCCとは全く別物です。システムの詳細は分かりませんが、Quantum Sound Systemはレールに流す車両駆動用の電流は平滑な直流を要求していますので、その平滑な駆動電流の上にコントローラー(Quntum Engneering)の指示コマンドに応じた何らかの波形信号を重畳させて車両のFunctionを起動していると思われます。さらにその波形の一部は逆転スイッチの操作等で手動で作って制御できるようになっているのではないかと思われます。Quantum Sound Systemを装備したT社製品はDCCにも対応していると言われていますが、もしQuantum Sound System対応の製品がその製品にに装着されているDCCデコーダーのおまけ的機能を使用しており、何らかの切り替え操作(自動切り替え)により搭載されているデコーダーがDCCデコーダー+サウンドデコーダーとしてQuantum社のDCCデコーダーやサウンドデコーダーのマニュアルどおりに動作するのであれば、DCC制御の知識さえあれば特に車両のH/Wの改造をすることなくQuantum Sound Systemを搭載した車両でのDCC制御は可能ではないかと思われますが、それにはDCCの専門知識が必要です。例えばNMRAのFucctionのKey AssignはNMRA標準で規定されており、F1は”Bell”ですが、国鉄の車両にはBellはついていないので、もしかしたらF1には違う機能が割り当てられているかも分かりません。同じようなカスタマイズ(日本型対応)は他にもある可能性があり、それを試行錯誤で解明するとしても、DCCの知識がないとやっているうちにデコーダーが信号を受け付けない状態になり、リセットの仕方もわからないという事態に陥らないとも限りません。よってDCC運転はQuantu社のDCCマニュアル(英語で400ページぐらいあります)をある程度理解できないとDCC運転は難しいのではないかと思います(意外とすんなりいくかも分かりませんが)。

以上、極力DCCの専門用語を使用せずにDCCの概要と使用する機器を説明してみました。なお、私はDigitrax社製のシステムは使用した事がなく、電子機器の専門家でもありませんので機能についての間違いや用語の間違った使い方があるかも分かりませんが、その点はご容赦ください。いろいろ記載してしまいましたが、この程度の概要を理解すると、各社のカタログ等に記載されている製品のシステム図も理解しやすいのではないかと思います。

・車両の購入価格

<法規制上の注意>
以下に個人輸入の事例を紹介するにあたりまずは法規制に関する注意を記載させていただきます。なお、法規制に関する記述については私のわかる範囲で記載しましたが、法令は海外も含めてかなりの頻度で改正されており情報が古い可能性もありますので、詳しく知りたい方や疑問がある方は自身で最新の法令等を調べてみてください。気になることがあったら経産省等の公的機関や信頼できそうな法律事務所が開設しているHPのQ&Aが信頼性がありかつ比較的分かりやすいと思います。
日本で商用電源に接続して使用する機器には電気用品安全法(PSE)という法令が適用され、鉄道模型用の電源(ACアダプタ)はこの法令に従う必要があります。この法令は個人が輸入した製品を個人で使用する場合には使用されないようですが、個人輸入した製品の使用はあくまで自己責任でお願いします。万一事故が起こっても責任は追いかねますのでご了解ください。一方、製品を国内で販売する場合、販売業者は、販売する製品がPSEの技術基準に適合していることを確認した上で、その製品を輸入販売するための輸入業者登録をする必要があります。最近Märklin製品では100V仕様の電源も発売されておりますし、その他のメーカーのACアダプタの中には100−240Vの入力電圧に対応している製品もあります。ただ、日本の商用電源の電圧や周波数で使えるということと、法令に適合している製品かということは全く別の概念です。法令要求の輸入登録には費用も手間もかかりますので、もしかしたら、それらを販売する販売業者の中には輸入業者登録をしないでこれらの製品を欧州から輸入し日本で使用可能と謳ってネット等で販売している業者や個人もいるかもわかりません。このように、日本でも安易に海外製の電源(ACアダプタ)を購入すると違法行為に加担することになり、結果法令非適合品を使用することになりますのでご注意ください。また、自己責任という言葉はよく耳にしますし私も使用していますが、正直自己責任とは具体的にどういうことか(ことが起こった場合何に対して責任を問われその結果何をしなくてはいけないか)は私にはよくわかりません。私は法律の専門家ではないのでよく分かりませんが、事故を起こした製品の販売者に被害の補償を請求するのはそう簡単なことではなく、法令非適合品の購入と使用が被保険者の過失と判断されれば事故が起きた場合の自身や他人が受けた被害に対する保険による補償にも何らか影響があるのかも分かりません。そのためにも国内で海外メーカー製のACアダプタを購入する場合でも、鉄道模型を扱う販売店(専門店)で、販売しているACアダプタが法規制の要求事項に適合していることを確認の上購入するのが一番確実であると思います。PSEに適合している製品にはPSEマークと呼ばれるマークの近傍に、技術基準に適合していることを確認した認証機関と輸入登録業社名が記載されていますので、国内で購入する場合はできるなら銘板の確認もしてみてください。

PSE適合品の定格銘板です.法令要求に基づき, PSEマークの近傍に技術基準への適合を認証した認証機関の名称と輸入登録業者の名称、技術基準適合を確認した入出力電圧等が表示されています.


さらに、それと並んで注意しなくてはいけないのは海外向けの電圧に対応したACアダプタを市販のステップアップトランスを使用して使用する場合です。ステップアップトランスもPSEへの適合が必要ですが、ネットショップで販売されているステップアップトランスにはPSEに適合していないものがあるのかもわかりません。購入の際は安価なものは避け、信用できるメーカーのもので製品がPSEに適合していることをよく確認した上で使用する必要があります。それが確認できない場合は安易にネット通販等から購入することは避けた方がいいと思います。また、合法品を使用する場合でも、出力はACアダプタの消費電力に対して十分余裕のある物を使用することが必要です。最近ネット購入したメーカー純正品以外のバッテリーが火を吹く事故をよく耳にしますが、下手をすると同じような事態が発生する可能性もあります。何度も繰り返しますが、個人輸入の製品を使用したりネット通販で購入した製品を使用する場合にはこの点に十分に注意してください。また、一部のDCC機器ではWi-Fiを内蔵しているものもありますが、これらの機器には日本の電波法という法律が適用されますので使用にあたっては機器が日本の電波法に適合していることを確認してください。最近発売されたMärklin社のワイヤレスタイプのMS2は発売時点では使用されている国が限定されています。Digitraxの無線機機日本で使用できないものもあるようです。無線機器は下手なものを使用すると周囲に悪影響を与え罰則が適用される可能性もありますのでくれぐれもご注意ください。またネットショップや一部の模型店では故意か無知かは別にして取り寄せにより入手できてしまうかも分かりませんので購入の際には使用可能かどうかをよく確認してください。なお、私は個人輸入した電源を使用する場合には電源を接続しっぱなしにはせず、使用しないときや食事等で席を外すときは電源コードをコンセントから抜いています(時々忘れますが)。

<個人輸入での車両の購入価格の例>」
それでは次に実際にこのようなデジタル制御システムを導入するには一体いくらかかるかを紹介したいと思います。国内や海外での国内販売価格はWEB SITEをチェックすれば容易に分かりますので、今回は私がドイツのSHOPから購入した時の本体価格と費用を実例で記載します(国内の価格はショップによって結構バラついています)。私はドイツの2店を使用していますがどちらも似たようなものですのでそのうちの1社の事例です(とちらも海外販売を手広くやっていそうな会社です)。また、下記は2022年の事例であり、現在は製品価格がしているとともに円安ですのでこの事例よりかなり円による支払い金額はかなり高くなっています。現在販売されている同等の製品を現在はこの価格では購入できませんので、ご注意ください。計算の根拠は極力明示したつもりですのであくまでもショップでの割引率や送料等の手数料を算出するための参考資料としてください。クレジットカードの決済レートは決してニュースで報道されている値ではなく、カード会社によっても異なります。
デジタル制御の機器の初期投資を行った後もDCC仕様の車両は継続的に購入すると思いますのでまずは車両の価格を紹介します。設備投資額は次回説明します。下表はこの記事で機能を紹介したBR193BR065で、2022年4月に購入したものです。

下表Märklinのサイトに掲載されているPrice ListのBR193(#39197)とBR065(#39651)の価格List Priceです。価格はドイツの消費税(ドイツは税率19%)込みの価格で、€で表示されています。Yen とUSDは当時の為替レートで計算してあります。為替レートはこの製品の決済日のレートです(決済日は2022.4.25は1€=¥139.19、1$=¥128.81)でしたのでそれに私の使用しているクレジットカードの換算レートの手数料2.2%を加算して1€=¥142.25、1$=¥131.64で算出しました)。以下のユーロから円への換算レートは全てこの値です。実際の換算レートは当時のカードの請求書を見れば正しい値がわかるのですが、カード会社からの請求書が残っていませんでしたので上記の方法で算出しました。

Shopでの価格(Street Price)の一例です。消費税込みの価格です。こちらがドイツの鉄道模型ファンがショップで購入するときの価格になります。

日本から発注すると消費税19%はかかりませんので、以下の価格が通関時のインボイスに記載される価格となります。上段が39197(BR193)、下段が39065(BR065)の価格になります。2台合計で¥86,929です。なお、ショップによっては請求金額が免税価格にならない場合もあるかも分かりませんので注意してください。また、カートの商品の合計は消費税込みで表示され、カートからのCheck Out時に免税価格が表示されるショップもあるようですのでCheck Out時の請求金額は確実にチェックすることが必要です。免税価格が適用されていればドイツの税込み価格を1.19で割った値になるはずです(ここに多少の手数料が載っている場合があるかもわかりませんが)。

この価格に送料や日本の消費税等がかかります。その内訳は以下になります。合計€100.79、日本円で¥14,337です。Shipping Baseは送料の基本料金で、shipping weightは重量加算額(今回の梱包重量は4.5kg)です。Creditcard FeeはEU以外でかかる手数料でこのショップでは3%です(かからないショップもあります)。TAXは日本の消費税です。支払い金額は¥5,600でしたのでそれをユーロに換算して加算してあります。税率は10%ですが税金はインボイス記載の価格ではなくみなし原価にかかりますのでインボイスに表示されている製品価格(円換算)の10%ではありません。為替レートの関係もあり、実際はよくわかりませんが単純計算では今回の貨物はインボイス価格の約70%に課税されているようです。当然?この税金は日本で払います。地域によるかもわかりませんが、ショップからDHLで発送された場合、荷物を届けに来るのは郵便局員で、税金はその方に支払います。Fedexの場合は後で請求書がきます。なお、最近はウクライナ紛争の影響により飛行機がロシア上空を飛行できず、飛行経路が長くなっているため、別途重量に応じたサーチャージが加算される場合があります。サーチャージの有無と金額は運送会社のHPで確認可能です。

そして、インボイス価格と手数料を加算し、為替レートを乗じた合計額¥101,266を、Street Priceで按分すると当時、B R193は¥44,993, BR065は¥56,273で入手できたことになります(2台まとめて送付してもらった時の価格です)。なお、今回は仮定を交えた金額で算出するとかえってわかりにくくなると考え、当時のデータを用いて算出していますが、前述のように現在は世界的な物価高と円安により現在、ドイツでのStreet Priceが今回の製品と同一価格の製品であってもこの金額では入手できません。また、発注日には決済日が不明なため発注時点で請求金額は確定しません。また、ショップによっては利用金額に応じた次回以降使用可能なポイントが付与されるショップもあります。なお、前述のように現在、世界的な物価高と円安で製品価格も為替レートも当時から高額になる方向に変化しています。ちなみにBR193は現在同仕様の塗装違い品が販売されていますが定価は40€値上がりし399€に設定されています。為替相場はご存知の通り現在円安でクレジット決済のレートは1€=¥162ぐらいだと思われますので今、BR193を購入すると仮定すると購入価格は¥51.000程度、BR065は¥65,000-70.000程度ではないかと思われます。現時点で国内で販売されている商品との価格差を比較する場合、この価格との比較することが必要です。ショップによっては製品を予約するとStreet Priceよりさらに安くなるところもあります。また、予約品はある程度商品が入荷した時点でまとめて商品を発送してくれるところもあります。送料の節約にはなりますが決済は発送時のレートで行われますので支払い金額は決済時の為替レートに左右されます(予約した製品の場合には特に注意が必要です)。また、今回紹介したMärklin製品は、TRIXブランド製品も含め他社の同等機能を持つDCC製品より少し割高なようです。上記の情報等をもとに計算式を入れたExcelシートを作ると計算が簡単です。
この価格が安いか高いかは読んでいただいた方にお任せします。一見すると国内価格より安いようですが海外個人輸入は貨物の紛失、商品の破損、また商品が不良品である等のリスクがあります。紛失や梱包材が大きく破損し中身が壊れている際には保険も効くかも分かりませんが、手続きは面倒くさそうです。着荷時の不良の場合にはメーカーで無償修理はしてくれると思いますが、修理のために個人でドイツに宅配便で荷物を送るとなると下手をすると送料がこの機関車の購入額以上になりかねません。個人輸入で得をしたと思っていたら思わぬところで足を掬われるかも分かりませんので個人輸入をする場合、そのリスクを十分検討して行うかを判断してください。私は10年近く、割と大々的に海外販売をやっていそうなショップから個人輸入を行なっていますが、幸いなことに一度もトラブルの経験はありません。発注するショップの包装状態によるという面もあると思いますが、それほど頻発するものではなという感触です。ただ、次回の発注で発生するかも分かりません。発生した場合の被害の大きさは常に頭に入れておく必要があります。発注の仕方は基本的な英語がわかればそれほど難しくはありませんし、日本語に対応しているサイトもあります。発送から到着までは通常便で10−30日程度です(以前は長くても20日程度でしたが、ウクライナ戦争とCOVIDの影響で最近は長くかかります)。
最後に、これは、まったくの遊びで私も意味がある数値なのか分かりませんが、参考?として、当時のビッグマック指数を用いて、ドイツと日本の鉄道ファンが上記の機関車を購入するために何回ビッグマックを食べるのを我慢すれば良いかを算出してみました。するとドイツのファンはBR193を購入するためにはビッグマックを食べるのをBR193では52 回、BR065では65回我慢しなければいけなのに対し、日本ではそれぞれ103回、129回我慢しなければならないという結果でした。
なお、今回はDCC仕様の車両の事例ですが、海外からの個人輸入のもう一つのメリットとして、大きなショップでは欧州のメーカーが発売するレール、膨大な数のストラクチャーキット、フィギュア等がほぼ全て日本から発注可能であるということが挙げられます。例えばバラストなどは多くのメーカーからいろいろな粒度や色の製品が発売されていますが、その中から好みの色のバラストが発注可能です(粒度や色は画像でしか分かりませんが )。また、これらの商品は車両と異なり電気基板を搭載した精密機器ではありませんので不良品が発送されたり輸送途中になんらかの原因で破損するリスクは低いと思われます(プラキットの部品の欠品リスク等はあります)。外国型レイアウト製作のためにレール等の資材を購入する場合などは個人輸入を検討してみるのも良いかもしれません。ただ、再生産待ちの商品も発注可能はショップもありますので、そのような製品を発注すると入手までかなりの時間がかかりますのでご注意ください。在庫の有無はショップのサイトに表示されていることが多いようです。

最後までお読みいただきありがとうございました。次回は私が製作したMärklin CSIIIによる自動運転を前提としたレイアウトセクション”終着駅Großfurra”に使用したデジタル機器とその現在の海外のStreet Priceを紹介してみたいと思います。

手前が”終着駅Großfurra”, 奥が”ALTENHOF機関区”