デジタル制御で何ができる?:海外メーカー製デジタル仕様の車両の紹介(2) -デジタル仕様の機関車に実装されている機能の実例(電気機関車)-

今回のテーマ(表題)は「デジタル制御で何ができる?」ということなので第2回目はいきなりですが、デジタル制御でできる機関車の「芸」(機関車に実装されている機能の実例)を写真と動画で紹介したいと思います。使用する機関車は前回も登場したドラエモン顔のMärklin製BR193です。この機関車には全部で制限に近い31個のFunctionが設定されていますが、Märklin digitalのFunctionの数は最大32個となっていますのでこの機関車のFunctionの数は製品の中では多い方です。
 では、早速この機関車に実装されているライト、サウンド関連の機能を写真と動画で紹介しますのでまずは見ていただきたいと思います。なお、動画が多数ありますので環境によっては表示の応答が遅くなるかもしれませんがご了解ください。

まずライト関係のFunctionです。
ヘッドライトとテールライトの制御です。アナログ制御と同様、ヘッドライトとテールライトは進行方向により切り替わりますが、その他のライトも含め、ライトが停車中に点灯/消灯できるのがまずアナログ制御にはない大きな特徴です。私が鉄道模型を始めた当時はこの機能の実現には高周波転倒と呼ばれる方式(モーターが動かない高い周波数のパルス電圧によりライトを点灯させる)が主流で、その後一部メーカーから製品化もされているのではないかと思いますが、停車中にライトが消えてしまう問題はデジタル制御の採用で一挙に解決します。サウンドデコーダーが普及していない日本ではデジタル制御は一度に線路に多数の車両を乗せて、それらを選択的に運転できることと停車中にライトがON \OFFできることと思っている方もいるようですが、これらは1984年に最初にMärklin Digital が発売されたときに備わっていた機能で、いわば40年前から存在する機能です。

前回も紹介したようにキャブの室内灯のON/OFFが可能です。この機関車はONにすると前進側の室内灯が点灯し、進行方向を切り替えると室内灯も切り替わりますが、製品によっては個別に制御できる製品もあります。

片側のエンドのみライトを消灯することが可能です。主に機関車が客車を牽引するする際にテールライトを消灯するために用いられる機能です。ON/OFFは運転台ごとに制御できますので前回紹介したようなキャブ室内灯とヘッドライトのON \OFFを連携させる制御も可能です。

通常のヘッドライトに加えLong Distance Headlight(ハイビーム灯)が点灯します。ヘッドライトより輝度の高いライトが点灯します。

運転室のダッシュボードの計器盤内にもLEDが組み込まれており照明のON/OFFが可能です。

入れ替え時に両エンドに点灯するライトのパターンです。オランダとスイスの仕様が用意されています。

ドイツの入れ替え時のライトパターンは両エンドとも3灯が点灯しますが、このパターンは走行パターンを入替用の低速走行レンジに切り替えるとライトも切り替わります。

Wrong track running(違線進入)の際に点灯する警告灯です。イタリアとスイスのパターンが用意されています。左がイタリア、右がスイスのパターンです。

仕業時に行うライトの点灯チェックのプロセスが用意されています。両エンドのライトがシーケンシャルに点灯します。

続いてサウンド機能です。まずは機関車のOperating Soundで、機関車の電源投入時の音と警笛です。警笛はこの製品ではHigh Pitch・ Low Pitch・Switchingの3種類が実装されています。High Pitch、 Low Pitchはタッチパネル(ボタン)でON /OFFします。Switchingはタッチパネルにタッチする(ボタンを一回押す)ことで短い警笛がなります。

Operating Soundは機関車の発車、停車に伴って音が変化します。前回紹介したように機種によっては発車時にドレミファインバーターのような音を発する製品もあります。

ある速度以上からの停止ではブレーキの軋み音が発生します。この音はON/OFFすることができます。

Operating SoundをOFFにすると機関車の電源が切れますが、いきなり音が消えるのではなく機器が順次止まって行く音が聞こえます。

冷却ブロワー・コンプレッサ・バルブからの排気音です。これらの音はOperating SoundをONにしておくと停止中、走行中に関わらずランダムに発生します。

砂を撒く音、乗務員ドアの開閉音、ウインドワイパーの音も実装されています。

運転室内で聞こえる音としてはSIFAと呼ばれる居眠り運転防止装置(日本のEB装置に相当)の警告音、Train Controlと呼ばれる音が入っています。コンプレッサ音は上述のランダムに発生するサウンドです。

連結作業の音です。欧州の連結器は自動連結器ではありませんので連結器のターンバックルを外してMR管の接続、切断を行う音が聞こえます。

機関車が発する音ではなく周囲の音も入っています。こちらは駅のアナウンスです。

最後は踏切の遮断機が上下する音です。警報機の警報音付きとそうでないものの2種類があります。こちらもランダムサウンドのブロワーファンの音が聞こえます。

いきなりこの機関車ができる「芸」を紹介してしまいましたが、その多さに驚いた方もいるのではないでしょうか。ただ、どこかの国の家電製品ではないですが、中にはこのような機能全てが使えるのか、必要があるのかと思う方もいらっしゃると思います。私もそのように感じないことはありませんし、中にはデジタル制御でここまでできるというデモンストレーション的な機能もあるにも感じます。ただ、これらは結局運転に実感を与えるための素材であり、使いこなしはユーザーに任されているという気がします。なお、最近放映されたNHK BSの番組で欧州の貨物列車を紹介した90分番組が放映され、同形式のSBB Cargoの機関車がオランダからイタリアまで貨物を運ぶ様子が紹介されていました。機会があればその番組を見ると日本でもこの機関車の実物の発する音を聞くことができます。

それではこれらの機能をコントロールする方法を簡単に説明します。ただ、この方法はMärklin Digital 独自のものですのでデジタル制御の中では特殊であることはご了解ください(DCCとの差異は次回以降、私のわかる範囲で説明したいと思います)。
まず、機関車を購入するとマニュアルの中にはControllable Functionの一覧表が掲載されています。この機関車では31個の機能が設定されていることがわかります。見てわかるように数が多くとても覚えきれるものではありません。しかも機能とF番号の対応は製品(機種)ごとに異なっています。非常に複雑で実際に所望のFunctionが見つかるのかという気がしますが、この問題はCentral Stationと呼ばれるカラーLCDのタッチパネルがついたコマンドステーションを使用すると解決します。最近のM¨arklinのデコーダーは自社開発品でmfxデコーダーと呼ばれるものですが、このデコーダーは一般的なDCCデコーダーと違い、mfx方式に対応したコマンドステーションでは、mfxデコーダーとコマンドステーションの間で双方向の通信ができることが特徴です。そのためLCDパネルを備えたコマンドステーション(写真でCSⅡ/Ⅲと記載されているもの)ではコマンドステーションへの機関車の登録と同時に、コマンドステーションのコントローラー上にデコーダーにプログラミングされているControllable Functionがピクトグラムで表示され、タッチパネル上に表示されているそのピクトグラムにタッチすることで、ON/OFFを行うことができます。従ってこのコントローラーを使用する限り各種のFunctionの発動は比較的簡単に行うことができます。ただ、逆の言い方をすれば全てのFunctionが使用でき、大画面のLCDがなく、Functionの表示機能に制限のある(サウンドの大部分がスピーカ表示となる)Mobile Stationと呼ばれるコントローラー(MSⅡ)ではFunctionの発動が非常に大変だということになります。

マニュアルに掲載されているControllable Functionの一覧表. 昨日は限定されるもののコントローラー(コマンドステーション)は2000年発売の6021(Märklinのデジタルコントローラーの第2世代)にまで対応しています.

以下は現在入手可能なCSⅢに機関車を登録する手順です。前述のようにデコーダーとCS IIIが双方向で通信できるため、この手順は非常に簡単で、機関車を線路上に載せた後、線路に通電すれば登録は完了します。機関車を載せた線路に通電し、しばらく待つと下の動画のように画面上に登録中(デコーダーを設定するプロセスのステータス)の表示が現れ、コマンドステーションへの機関車の登録が始まります。

機関車を線路上に載せて線路に通電するとコントローラーが自動的に機関車を認識します

表示が消えると登録は完了し、機関車リストに登録した機関車が登録機関車リストに追加されます。そしてその機関車をコマンドステーションのコントローラーエリアにドラッグ/ドロップするとコントローラーにその機関車が設定され、機関車に実装されているFunctionがピクトグラムで表示されます。これで運転前の全ての作業が完了します。なお、機関車の登録名称は原則機番付き形式番号と鉄道会社のようです(例外もあります)。ピクトグラムは車両が変わっても原則同一ですのでこのピクトグラムの意味を覚えれば他の機関車を呼び出しても簡単に所望のFunctionを発動することができます。異なっている場合もありますが、その場合は変更が可能です。

このように設定とFunctionの発動は非常に簡単ですが、これはこのシステムではMärklinが独自にデコーダーを開発し、そのデコーダーの使用を前提とした専用コントローラーを使用するしているから実現できているとも言えます。これはApple社が自社でハードウエアとソフトウエアを開発し、それらを連携させているのに似ていると感じます。ただ、Apple製品を見て分かるように、その便利さを享受するためにはユーザーがメーカーの設計思想をそのまま受け入れることが前提となります。Apple社の場合、その設計思想が非常に優秀であるとともに大部分のユーザーがやることなほぼ同一のため。他社(Android陣営)もそれに追従し、いずれはそれが一般的な操作方法となる傾向がありますが、鉄道模型の世界ではその楽しみ方が多岐にわたるため、DCCが将来この方式に統一されていくとは思えません。ただ、このシステムもDCCには対応しており、デコーダー内の設定値の書き換え等でより詳細なカスタマイズは可能です。しかしそれにはDCCに対する知識が要求されますし、このGUIがDCCに適したものであるかは私にはよくわかりません。そうはいっても初心者にとってはこのシステムのカラーLCDを用いたGUIはUser Frendryであり、日本でも日本の鉄道の特徴にカスタマイズされたこのようなシステムが安価に提供されれば今よりDCCは普及が加速するのではないかとも思います。ただ、DCCのプロトコルは非常に複雑で、海外メーカーのDCCを日本仕様にカスタマイズするとしてもこのような製品の製品化にはメーカーとの提携や多額の投資とコンピューターに精通した技術者が必要です。投資の面を考えると導入するためにはまだ日本ではそれに見合うだけの数の鉄道模型愛好者がいないのかもわかりません。
全くの余談ですがTRAXXやVectronの模型を見ると、実物の世界でも海外のセミオーダータイプの機関車を日本仕様に改造して導入すれば効率的な車両開発が図れるような気もします。ただ、日本の鉄道(在来線)と海外の鉄道の差はゲージだけではなく、軌道負担力(許容される最大軸重)や変電所容量など目には見えない部分にも大きな差があり、そのような機関車は簡単には導入できないような気がします(欧州の貨車には今でも2軸車が多いのは起動負担力が高いためと思われます)。このように考えると実物も模型もなかなか海外のトレンドに乗ることは難しく、独自路線を歩まざるを得ないのかもわかりません。最後に若干悲観的なことを書いてしまいましたが次回はこのような機能をどのように使いこなすかについて少し考えてみたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。