デジタル制御で何ができる?(4):デジタル制御による運転の楽しみ方について

今までデジタル仕様の車両の機能をいろいろ紹介しましたが、今回は海外では普及しているデジタル制御がなぜ日本で普及していない理由とそれに基づく打開策(結果的には妥協案です)を私なりに考えてみたいと思います。

私は以前このブログで紹介した紹介したレイアウトセクション”終着駅Großfurra”を作成してデジタル制御による自動運転を楽しんでおりますが、今回紹介したような幹線を走る大型の車両を運転できるような固定レイアウトは所有しておりません。現在のところ今回紹介したような幹線を走る大型の車両はいわゆる「お座敷運転」で楽しんでいます。
私がデジタル制御を導入したのは2000年ごろですので、それから20年近くが経ちますが、それ以前も含めて考えてみると、鉄道模型の運転の楽しみ方は「自分が運転士になったつもりで車両を自由にコントロールする」ことと「線路脇でいろいろな列車が走ってくるのを眺める体験を模型の世界で再現する」の2点だと感じます。小学生の頃、線路脇にボール紙で製作したプラットホームを置いて列車を通過させたり停車させたりして楽しんだり、畳に顔をつけて列車の通過を見るのを楽しむということは、子供の頃から鉄道模型で遊んでいた方は必ず体験しているのではないでしょうか。そして時が経つにつれスペースや線路配置は少し大きくかつ複雑になりましたが、大型車両を「お座敷運転(情景なしの組み立て式レイアウトを含む)」で運転する際の車両の運転の楽しみ方については小学生の頃の楽しみ方とあまり変わらないように感じます。そのお座敷運転に今回紹介したようなデジタル制御を取り入れると何ができるかといえば、ヘッドライトをハイビームにしてみたり、警笛を鳴らしてみたりすることで、極端に言えば小学生の時の楽しみ方とあまり変わりません。走る列車の中で発生する音を聞きながら列車の動きを眺めることも想像力を掻き立てる効果はありますが、デジタル運転の複数列車が制御できる利点を活かして複数の列車を運転している場合には1本の列車に注目するわけにもいかず、効果は現象します。運転士気分が味わえるのも1本の列車に注目しているときのみで、一人で複数の列車を運転する作業は結構煩雑です。極端な言い方をすれば、高価なデジタル制御を導入してもお座敷運転でできることとその効果は限られています。お座敷運転で色々な車両を取り替えながら運転してその車両に実装されている機能を楽しむこともあり、それはアナログ運転にはない面白さであることは確かですが、あえて極端に言ってしまえばこれもすぐに飽きてしまいます。一方、小型のレイアウトであっても、レイアウトの中に置かれた車両の室内灯やヘッドライトが想定したシナリオに沿って制御され、列車が発車時にエンジン音を響かせて発車していく様子を眺めるのているたり、運転士気分で自分でコントローラーを操作し、駅を発車するとき警笛を鳴らし、動き始めるとエンジン音が大きくなっていくのを聞くと、お座敷運転でのデジタル運転よりは圧倒的に実感的で面白く、また列車をレイアウト上に停車させて運転に関係ないような音や光の制御(機関車の芸)を眺めるのも机の上に置いた線路で眺めるのとレイアウトという情景つきの舞台で眺めるのとでは気分が全く異なります。これまでに紹介した車両の運転には関係ないFunctionはレイアウトに停車中の車両で本来の運転とは別のところ(息抜き)で楽しむものかも分かりません。

シーナリー付きのレイアウト上で停車中に「芸」を披露するBR065

一方、アメリカには日本や欧州にない運転の。楽しみ方があります。日本にはほとんどないような大きなスペースに半島型のレイアウトを作り、その中で車両を実物の鉄道を模したダイヤで運転するという運転の仕方です。線路の総延長を増やすためレイアウトを2層構造にすることも行われています。このような運転では複数の個々の列車運担担当者が自分の「CAB」を持ち、運転士になった気分でレイアウトの周囲を歩きながら列車を運転します。レイアウトのはDCC信号を線路に流す信号ライン(BUS)を通しておき、レイアウトのところどころにあるBUSのI/Fにコマンドコントローラーを順次接続しながら列車の制御を行います。その際にはスケールタイムを決めて(レイアウトの規模に応じて1時間を何分にするを決めて)1日を1セッションとして楽しみます(例えば1時間を8分とかに設定します)。また、その運転は実際の鉄道会社が規定する規則(連邦鉄道局の規則)に則る場合も多いようです。これは「自分が運転士になったつもりで車両を自由にコントロールする」という楽しみ方の究極的な姿であるとも言えますが、このような楽しみ方は鉄道模型を「おもちゃ」として捉えてきた欧州にはあまりないようで、Märklinの現行ののコマンドステーションであるCSIIIにはそれまでCSIIのあったスケールタイム機能はまだ実装されておりません。そしてどちらかといえば欧州の楽しみ方は日本の楽しみ方に近いように感じます。ではデジタル制御が普及している欧米とそうではない日本との差は何かと考えると、それは車両をレイアウト上で楽しむか、車両をお座敷運転で走らせたり、ジオラマ上の動かない車両を眺めて(写真を撮影して)楽しむかの差ではないかと考えます。勿論レイアウトでの運転を楽しんでいる方も多くいらっしゃいますが、スペース的に有利な国鉄型以外の小型車両が走るレイアウトでは自分の好みのデジタル仕様の車両を簡単に(自分で改造せずに)入手するのは現状では至難の業(実質不可能)なのではないかと思います。


前述のように私は”終着駅Großfurra”というレイアウトセクションや”ALTENHOF機関区”というレイアウトセクションを製作し、このブログでも紹介させていただきましたが、その経験から言わせていただければたとえ機関車が動いていなくてもそのような情景付きのレイアウトの中で見る機関車の「芸」と、机の上で見る機関車の「芸」は、同じ「芸」でもその感じ方には雲泥の差があると感じます。
演劇の世界では、役者さんはまず台本の読み合わせを行い、次に机とテーブルのみの場所で通し稽古までを行い、その後本番と同じ舞台セットで稽古(リハーサル)をした後、観客を入れた公演に臨みますが、机の上やお座敷運転での機関車の「芸」の鑑賞はいわば机とテーブルのみの場所で行われる役者さんの稽古を見ているようなものであるように感じます。このように考えると、舞台装置(レイアウト)なしの演劇を鑑賞するためにだけ大きな投資をしてデジタル制御を導入しても真のデジタル制御の面白さは味わえず、それではデジタル制御は普及しないのは当然だという気もします(演劇の稽古と公演同様、没入感が全く異なります)。
それではスペース等の関係でレイアウトがなかなか普及しない日本では鉄道模型のデジタル制御は今後も普及しないのでしょうか。そうだとすればこれはデジタル制御で鉄道模型の運転を楽しんでいるものにとっては非常に残念なことです。
最近日本では雑誌の影響もあるせいか、上記と異なる楽しみ方、「自分の制作したジオラマの中に車両を置いて写真を撮影しその画像を鑑賞して楽しむ」という楽しみ方が新たにできた様な気がします。これはデジカメやスマホの普及によるところが大きいと思いますが、この写真(静止画)を動画にして停止している車両や固定したフレームの中だけでも音を出して動いたり音を出す車両を撮影すれば、音や光の制御はその映像の中で大きな効果を与えるであろうことは容易に想像できます。外国にこのような鉄道模型の楽しみ方があるのかどうかは私にはわかりませんが日本ではこのような楽しみ方でデジタル制御の導入・活用を始める(普及を図る)のも「アリ」かもわかりません。ただ、これも車両の改造が前提となります。デジタル制御の本来の楽しみ方はレイアウトの中で車両を動かしながら「自分が運転手のつもりになって列車を運転する」という楽しみか「色々な列車が走るのをみて楽しむ」という楽しみ方だと思います。まずは動画撮影等の目的でもいいのでジオラマにデジタル制御を導入し、そこからそのジオラマを拡張してデジタル制御での本格的な運転に進む方が増えればデジタル制御が今より普及するきっかけになるかもわかりません。
私の年代ですと故 なかお・ゆたか氏が製作し、氏の製作した蒸機作品の紹介にも登場したレイアウトセクション「蒸気機関車のいる周辺」はレイアウトを製作するスペースがない蒸機の模型を製作する者にとってはいつかは製作してみたい憧れのような存在でしたが、このようなレイアウトセクションでの運転時に機関車の動きに加え音と煙と光が加わったら非常にリアルな機関区の情景が再現できますし、色々なシーンを動画で撮影し楽しむこともできると思います。このようなレイアウトにデジタル制御を導入すれば分岐器にポイントデコーダーを追加し、線路上にデジタル対応の車両を置けば、コマンドステーションからのからの2本の線を線路に接続するだけでアナログ制御と同じ動きの制御と機関車のこれまでに紹介したようなFunctionを楽しむことが可能になります。

故 なかお・ゆたか氏が製作したレイアウトセクション「蒸気機関車のいる周辺」

ただ、今の日本の現状を見て冷静に考えるとこのシナリオもなかなか難しいのではないかという気もします。なぜなら、いくらレイアウトを頑張ってレイアウトを製作してもその上でサウンドデコーダー付きのデジタル車両を一般的なファンが入手することが難しいからです。レイアウトのシーナリーの製作法はデジタル制御でもアナログ制御でも同じです。電気配線はポインデコーダーを導入すればアナログ制御よりも格段に簡単です。しかしサウンドデコーダー付きのDCC対応車両はほとんど市販されていません。現在、サウンド付きで一般ファンが入手できる車両はT社製の米国QMS社製のシステムを導入したカンタム(Quantum)シリーズの車両ですが、このシステムはアナログ制御が基本(DCC運転は可能なようですが)ですので、このレイアウト上に車両を置いてもそこに複数台の機関を置けば線2本の接続というわけにはいきません(独立した2箇所の留置線を設けDual Cab Controller方式を採用すれば既存の方法で2両までの制御は可能かも分かりませんが)。
私はデジタル制御を導入してまもない頃に、この記事に触発されてレイアウトセクション”ALTENHOF機関区”を製作し、外国型の車両ではありますが、デジタル制御の機関区のレイアウトセクションを製作しました。ただ、最初は機関車を入出区させたり、留置中の機関車から音を出したりと、いわば複数の機関士の役割を演じて車両を操作していましたが、実際に行ってみるとなかなか運転が煩雑で、そのうちそのような「機関士気分」ではなく、「線路脇で見物する人」の立場で楽しみたい思うようになってきました(酒を飲みながら機関車の動きを眺めるとか)。そのため後日、レイアウトに自動運転を導入しましたが、自動運転の導入には追加機器と知識が必要となります。ただ自動運転は基本的には分岐器の切り替えと地点間の往復運転ですので導入の作業は比較的簡単でした。ただ、繰り返しになりますが、日本型のこのようなレイアウトセクションにデジタル制御を導入し、電気工作やプログラミングの専門知識のない一般的な鉄道模型ファンがサウンドデコーダーを搭載した日本型の車両を自動運転することは今の状況は、素人の私がいくら考えても方法がなく八方塞がりの状態で、打開策が思いつきません。今までの鉄道模型のトレンドでは、以前12系客車の床下機器の改修の中で記載したように、雑誌の解説記事や読者が目を見張るような素晴らしい作品がその後の製品にフィードバックされた例もありますが、ディテールアップの方法等、「合格」に基準がない工作とは異なり、マニュアル通り正しく行なうことが必要で、そのためにはある程度の専門的な知識が必要な車両の改造は、以前話題にしたトランジスタコントローラーの製作法同様、一般的なファンにはハードルが高いように感じます。この辺りはやはり車両を製造、販売するメーカーが車両を製造販売し、車両が映えるレイアウトやジオラマを製作しその魅力を伝え、普及を測ることが必要なのではという気がします。ただ、メーカーの立場で考えるとメーカーが多くの製品を用意して普及させるためには多大な投資が必要になりそう簡単ではないような気がします。DCCのソフトウエアやハードウエアは一般の電子機器と同等レベル(決して「おもちゃ(趣味)製品」だから必要な技術レベルが低いとは言えない)であるため、専門的な人材も多数必要と思われます。DCCの技術の基本は車の制御に用いられているCAN(Controller Aria Network)技術で最近の実物の電車に搭載されているTIMSも同類の技術です(Märklinは複数の機器を制御するネットワークを CAN Busと呼んでいます)。DCCが普及し始めた頃DCCを最初に開発したのはCANの導入で有名なドイツの某高級車メーカーからドロップアウトした技術者だということが言われていましたが、あながち嘘ではないような気がします。日本でももしかしたらどこかでプロジェクトが進行していれば良いのですがが・・・。
というわけで現状私のようなものがいくら考えても妙案が思いつかず、なんとか鉄道模型のデジタル制御の面白さを知ってもらいたい私にとっては無力感を感ずる今日この頃です。ただ、今回の紹介で興味を持ちデジタル制御を行ってみたいと思う方がいらっしゃったら思い切って「デジタル制御による運転は外国型で楽しむ」という割り切りかたも「アリ」なのではないかと思います、決して私のやり方を押し付ける訳ではありませんが、最近では海外の鉄道の情報も容易に入手できますし、実際に海外に行って実物の鉄道を見る機会も増えていますので、そのハードルは下がっているように思います。私が鉄道模型を始めた頃はNゲージ(9ミリゲージ)の黎明期で日本型の車両は少なく走行性能も海外製品に比較して満足できるものではなかったためレイアウトに外国型の車両が存在するレイアウトは雑誌によく結構掲載されていましたし、デパートの模型売り場等で外国型車両は今より容易に入手できたような気がします。その時代に戻る(戻らざるを得ない)ということは少し悲しい気もしますが、日本の現状ではデジタル制御による運転に関は外国型で行うと割り切って考えることが一番手っ取り早い方法のような気がします。そしてデジタル運転の面白さにはその価値があるようにも感じます。欧州のメーカー(MärklinやRoco)では車両込みのデジタルスターターセットが用意されており、単体購入よりかなり安く価格設定されていますので、試しにHOゲージの日本型の完成品を1台購入する代わりに購入してみるのも良いかも分かりません。
という訳で今回の記事で日本型で海外メーカーの車両の機能に触れてデジタル制御を楽しみたいと思った方にとっては結論は甚だ寂しいものになってしまいましたが、お許しください。次回以降はデジタル制御による自動運転のやり方と、自動運転設備を含めたデジタル制御にはどの程度の投資が必要かを紹介させていただきたいと思います。現在私は大型車両が発着できる駅のレイアウトセクションを製作中で、今まで紹介した車両はいずれその舞台で活躍させようと思っています。このレイアウトセクションについては形になってきたところでこのブログで紹介したいと考えています。


最後までお読みいただきありがとうございました。