模型車両の紹介:板谷峠のEF71/ED78(しなのマイクロ製キット組み立て品)

1976ごろ製作したEF71とED78を紹介させていただきます。この作品はしなのマイクロ社製のキットそ組み立てた作品です。

<実物について>
 EF71とEF78は福米線といわれた福島ー米沢間の板谷峠の交流化に伴い新製された機関車で、当時はEF71がEF78福島ー米沢間の補機として、ED78が福島ー山形間および仙山線用に新製されたということです(実際には色々な運用があったようですが)。
 福島ー米沢間は碓氷峠に次ぐ国鉄の急勾配区間で、この模型を作った当時EF71、EF81に牽引された普通列車はスイッチバックを繰り返して峠を行き来していました。 当時碓氷峠は専用機関車と高規格の軌道で運用され、峠の釜飯のおかげもありその存在は一般の方々にもある程度知られていました。それに比較すると板谷峠はあまり一般の方の話題に上ることもない地味な路線でした。しかし難所であることには変わりなく、冬には大量の積雪という悪条件も加わります。当時雪の中で樹脂系の制輪子を使用した車両が峠の途中で停車した際に逆走事故を起こしたこともあったと記憶しています。また1980年代になっても普通列車しか停まらないスイッチバックの峠駅では列車が到着するとホームで売り子さんが峠の力餅を売っていました。

34.5パーミルの下り勾配を下るEF71重連の上り貨物列車 1984 年 板谷付近

 私がはじめてこの地を訪れたのはこの作品を作った1976年ごろと思いますが、当時は既に奥羽本線は秋田まで電化されており、485系によるつばさ、やまばとが運転されていました。福米線の写真は下記のYOUTUBEにアップしていますのでよろしければご覧ください。

<模型について>
 先にご紹介させていただいたEF64に続きしなのマイクロ社製のキットを組み立てました。ただキットの内容はこれより約2年前に購入したEF64に比較して大幅に変化しており、トータルキットと称してドロップ製の台車、インサイドギア等も同梱されていました。また、車体もプレス製となり、エアーフィルターや前面の貫通ドア、ジャンパ栓等ははドロップ製のパーツが同梱されていました。このキットは鉄道模型趣味1976年 2月号の広告に新製品として掲載されておりますが、その広告によれば価格は両者とも¥16,800となっています。当時の2台分の価格¥33,600は結構な大金ですが、私はこの年の4月に一浪の末大学に入学した年なので、受験生時代に貯めた小遣いで買ったと記憶しています。
 キットはほぼ説明書通りに組んであります。ただ、エアーフィルターや台車からスカートに取り付けるジャンパ栓までドロップ製の肉厚部品でしたので100Wのハンダごてでも熱容量不足でなかなかハンダが流れずハンダづけには苦労した記憶があります。

EF71の全景。数年前に再塗装しました。最初は中間台車に燐青銅線をくの字型にした復元バネを付けていましたが、再塗装時に撤去してしまいました。しかし実際に走らせても特に支障はありませんでした。
ED78の全景 こちらも10年ほど前に一度再塗装しました。その時施パステルや煤でしたウエザリングしたのですが長期間たった今、本当に汚れているという感じになってしまいました。経時的なことを考えるとウエザリングは塗装で表現した方が良いかも分かりません(難しそうですが)。

 このキットは部品にドロップ製の部品を多用しているため、非常に立体感のあるモデルとなっています。当時の高価な完成品でもエアーフィルターをはめ込み式にした例はなかったと記憶しています。ただ、前述のようにエアーフィルターの取り付けには苦労しました。また台車も台車枠、ブレーキシュー、枕ばねの3個のピースで構成されており非常に幅が広くなってしまっています。ブレーキシューを薄く削りましたがまだ不十分です。全体のプロポーションは良好なのですが台車等の走り装置の設計に関しては老舗メーカーのほうが流石に手馴れているという印象でした。

 前面は両者共通ですが、貫通扉がドロップ製のため非常に彫りが深い印象です。普通の厚さの部品に交換しようかと考えたのですが結局そのままとしました。そのせいでこの部分の窓ガラスは外からはめ込みにしなければならず結構手間がかかりました。しかし、いまひとつうまくできていません。運転室窓の周りにはプロテクタを取り付けるボルトが表現されていますが1976年11月、1983年12月に現地を訪れた時には装着されていませんでした。またヘッドライト上の庇は当初から設けられていないようです。

同じメーカーの同じ時期の製品なので、運転台部分の形状は全く同じです。微妙に違う原因は私の工作力です。
エアーホースは再塗装時にロストワックス製のパーツに交換しました。
動力機構は当時の定番であるカツミDV18-Cとキット付属のインサイドギアです。キットに入っていた大きなウエイトを取り付けており、牽引力は十分です。ライト切り替えはダイオードで行なっています。


 トータルキットと称するキットですので別途購入する部品はあまりなく、モーター(カツミDV18-C)やパンタグラフ(宮沢模型PS101)、ロストワックス製の電暖表示灯等が主な購入部品でした。なお、両車とも塗装の痛みにより一度再塗装していますが、その時にエアーホースをロストワックス製のものに交換しました(キットについていたものは先端が丸くなった削り出しのパーツでした)。キットには大型のウエイトが付属しておりそのウエイトを取り付ければ牽引力は充分であり、自作のペーパー製客車を牽引するには十分でした。ただ、両者とも比較的全長の長い機関車ですので重連にすると機関車だけでかなりの長さになるため長編成の客車を牽引させないと見栄えが悪いのが狭い家に住む庶民には苦しいところでした。

(<Marklin #37320について>
 この模型の製作当時は全く知る由もなかったのですが、その後外国型模型にも興味を持ち始めた中でこの2両の機関車を見るたびにどうしても気になるのがスイスのゴッタルド峠を走るスイス国鉄のRe6/6とRe4/4の重連です。車両が製作された時期もEF71
やED78同じ時期(Re6/6の方が少し後)のようです。しかもRe6/6は欧州では数少ないB0’B0’B0’というEF71と同じ軸配置です。果たして両者には何か関係があるのでしょうか???
 それはともかくスイス国鉄のRe6/6とRe4/4の重連はMarklin #37320、「E-Lok Doppeltraktion “Re10/10″SBB 」として2010年ごろに製品化されています。私ドイツの模型店に予約して入手しました。
 この製品はmFxデコーダーを装備しているもののfunctionは限られています。Re4/4にはサウンドデコーダーは搭載されておらず、サウンドデコーダーはRe6/6に装備されているのですが、汽笛を鳴らすとOperation Soundが一旦停止してしまいます。このように機能面では少し不満はあるものの車体はダイキャスト製の美しい仕上がりで重量感もあり、CS3の重連モードで欧州のカラフルな貨車を牽引させると板谷峠のEF71+ED78の重連とは全く異なった趣がありこちらもなかなか魅力的です。

スイスの機関車は形式により各車両に機体名として主に都市の名前が付けられています。この車両にはスイス西部のドイツ国境に近いBISCHOFSZELLという都市の名前と紋章が付けられています。
JRになるまで国鉄の機関車には業務に必要な表記以外の表示は一切表なく、JRになった際にほとんどの機関車にJRマークがついて何やら斬新に感じたものですが、諸外国の国鉄では昔から普通に鉄道会社の社名がついていました。なお、こちらの形式には機体名はありません。

ヨーロッパでも日本の交流電機でも貴重な中間台車のアップです。機構の差はあまり分かりませんが車体の高さ(ボディーの大きさ)がかなり違うのが分かります。Re6/6はスポーク車輪です。ちなみにRe6/6の出力はなんと7850kwだそうです(EF71は2700kwです)。また後日Re6/6,Re4/4とも塗色もEF71やED78と同じ赤ベースの塗色に変更されたようです。
 近年ゴッタルド峠はゴッタルドベーストンネルの開業によりその役割を大きく変えたようです。一方、板谷峠もEF71やED78が旧型客車を引いてスイッチバックを繰り返して峠を上下していた頃とは打って変わって今では新幹線が頻繁に走っています。両者とも時代によって路線の性格は変わりました。しかし、先日奥羽本線に乗った時に車窓から見えた自然の景色はこの模型作った当時のままでした。

以上、お読みいただきありがとうございました。