模型車両の紹介:北海道のC55(+When is your realism level good enough?)

前回ご紹介したC57に続いてご紹介させていただくのは北海道仕様のC55です。この機関車も以前ご紹介した北海道の寝台急行列車を牽引させるためにキット加工により製作したものです。製作時期はC57とほぼ同時期の1990年ごろで、レイアウト製作を始める前に制作した最後の蒸気機関車です。

この機関車のベースはカツミ模型店製ゴールデンシリーズの未塗装キットです。このゴールデンシリーズの発売当時の売りは主台枠の棒台枠の表現ですが、この表現が最も目立ち楽しめるのは動輪がスポーク動輪であるC55ではないかと思います。購入したのは消費税導入前の1987年頃です。当時は完成品やバラキットの他に車体は組み立て済みでドライバーと配線(半田付けが必要)のみが行われていない状態の未塗装キットや塗装も済ませた塗装済みキットも販売されていました。1989年の消費税導入前は鉄道模型には物品税がかけられておりました(贅沢品とみなされていたようです)。その際価格が一定以下の製品、その製品だけでは本来の目的を達成できない製品は無税のため、当時は上回りと下回りを別々にしたキットが比較的多く販売されいたということを聞いたことがありますがこのような未塗装のキットの場合はどうだったのでしょうか。子供の頃は工作の楽しさを体験させようとしてメーカーはあえてこのようなキットを販売しているのかと思っていましたが。
ちなみに現在関税適用のための物品を定義するHSコードにおいて鉄道模型のコードは95.03で「縮尺模型その他これに類する娯楽用模型(作動するかしないかを問わない。)」というカテゴリに属するようです。外国のショップから商品を購入する際、輸入時このHSコードに対して関税はかかりませんので受け取り時に消費税のみを支払いますが、その税額はみなし原価(販売価格から付加価値税を引いた額のの60%程度)に対して10%です(他に送料等がかかります)。海外のサイトに表示されている価格は通常付加価値税込みの価格(ドイツの場合税率は19%)ですので海外のショップから購入する際の値段を国内販売価格と比較する際にはこれらの税額にも注意が必要です。
それはさておき、キットの説明書はC 57,C55共通のものとなっており、ドライバーと配線用のハンダゴテ(+ハンダ)があれば完成させることができます。ただ未塗装ですので塗装は必要です。組み立ては比較的簡単ですがこのような大型蒸機の塗装をきちんと行うためにはそれなりの技術は必要ですのでやはり対象はある程度模型製作の経験のある人向けの製品だと考えられます。ただ、キットはいわば最終組み立て工程に進む手前の完成品と言えるもので、ネジで組み立てればそのまま普通に走りますので追加部品によるショートや塗装次の塗料の回り込みによる通電不良にさえ気をつければ走行に対しては大きな問題は発生しないのでその点は安心です。

取扱説明書は下の写真のようなもので全13工程で完成となります。C55とC57の説明書は共通で殆んど同じ手順となっています。組み立てに使用するネジが全てマイナスネジであるところは時代を感じます。購入したのは今はなき東急百貨店日本橋店のカツミ直営店でしたが、当時は各地のデパートに模型店があり、模型店で売り切れの製品でもこのようなところには在庫がある(売れ残っている?)ことがあり、ある種穴場のような存在でした。このC55もそんな製品であったように記憶しています。

キットのプロポーションはC57と同様に良好であり、形状を手直ししなければならないところはありませんでしたので完成している車体の基本部分を構成する部品を取り外して修正することは不要と判断し、加工は一部のパーツの交換とパーツや配管の追加としました。加工箇所、加工方法は前作のC57とほぼ同じですが、デフの切り詰めは行いませんでした。当初、C57との違いを出すためにそのように決めたのですが後で調べてみるとC55はごく一部を除いてデフの切り詰めは実施されなかったようです。また、今回もキャブの密閉化は行ってはおりません。
それでは各部を写真で紹介させていただきます。

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模型車両の紹介:北海道のC57(+ユーレイ)

今回は北海道のC57を紹介させていただきます。この車両は以前ご紹介した北海道の急行寝台列車の牽引用に製作したもので客車とほぼ同時期(1990年ごろ)の作品です。

この車両はカツミ模型店発売のゴールデンシリーズ・C57一次型のイージーバラキットを組み立てたもので、特定ナンバー機ではなく、キットをベースに蒸気機関車が終焉を迎える1975年ごろに北海道で見られた機関車の特徴的な形態を再現すべく各部に加工を施したものです。

キットの組み立て説明書

ナンバーは83号機ですが、これはキットの付属していたナンバープレートから選んだものです。実際の83号機は主に西日本で活躍していた機体のようで北海道に配置されたことはなく、1969年に名古屋機関区で使用されたのを最後に廃車されていいるようです。私が鉄道に興味を持ち写真を撮り始めた頃、首都圏では鶴見、新小岩・八王子等にわずかな数の蒸気機関車が残るのみでしたが、当時北海道にはまだ数多くの蒸気機関車が活躍していました。しかし当時の中高生にとっては北海道はあまりにも遠く、私はそれらが実際に活躍している姿を実際にみることは叶いませんでした。しかし北海道が蒸気機関車の最後の活躍の地であったことから交通博物館のC57をはじめ、首都圏には数多くの北海道仕様の機関車が保存展示されており、現在でも比較的多くの北海道仕様の機関車を見ることができます。当時釧網本線で活躍していた戦後型のC58 は羽村動物公園に保存されていますし、上野の国立科学博物館入口展示されているD51も北海道仕様の機体です。C57は前述のように交通博物館に最後の旅客列車を牽引したC57 135が非常に良い状態で保存されていましたので製作にあたってはそれを参考とし、他に雑誌等に掲載されている北海道仕様の機関車の写真を参考にして好みの形態に仕上げてあります。余談ですが、大宮の鉄道博物館に展示されている車両の一部は壁際やプラットホームを模したような台の横に展示されている車両が多く、社内の見学には良いのですが模型の資料として写真を撮影する際には非常に撮影しにくい展示となってしまっています。

製作にあたって交通博物館で撮影したC57 135の写真(一部)


車体の基本部分はキットをそのまま組み立てており、大きな加工はしておりません。晩年の北海道仕様のC57はキャブを密閉型にしたものが多く、C57135も密閉キャブでしたがキットのまま組んであります。これは改造に自信がなかったことと、キャブを密閉型にするとC57本来の精悍さが失われてしまうのではないかと考えたのがその理由です。後者の理由は自分の技術力のなさの言い訳のような気もしますが、やはりライトパシフィック機と呼ばれるC57の軽快で精悍なイメージを形作っているのは1次型等の開放キャブではないかと思います。
このキットはイージーバラキットいう名称のとおり、主題枠とボイラー、ランボード、キャブは組み立て済みで、車体の恋本部分は比較的容易に組み上げることができます。全体的なプロポーションも良好で特に加工が必要なところはありません、したがって加工はロストワックスパーツの追加とパイピングが主なものとなります。

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鉄道趣味を50年続けて思うこと(3)~芸術と鉄道・映画の中の鉄道模型(鉄道趣味とジェンダー)~

映画には鉄道が出てくるシーンが多数あります。かつてのSLブームの頃は高林陽一氏が監督をした「すばらしい蒸気機関車」という作品がロードショーで封切られ、私も中学生の頃、鉄道模型百年の記念に東京ー桜木町間を走ったD51を有楽町で見た後、日劇(丸の内東宝)でその映画を見たことを覚えています。その他、鉄道員の人生をテーマにした作品は数多くありますが、それらは鉄道愛好家の方であれば大体ご存知と思います。しかし今回はそのような映画ではなく、鉄道とは全く関係ない映画の中の鉄道(鉄道模型)が出てくるシーンでで印象に残っているシーンを挙げて、それに関連して趣味とジェンダーについて考えてみようと思います。
その映画は2015年に公開された「キャロル」という映画です。この映画は内容はまだ性の多様性が認められていなかった1950年台の女性同士の恋の物語で、内容は鉄道とはまったく関係ありません。

原作はPatricia Highsmith(1921-1995)の小説 「The price of Salt」だそうです。Patricia Highsmithはアラン・ドロンの映画で有名な「太陽がいっぱい」の作者でもあります。この映画で鉄道模型が出てくるシーンは冒頭でケイト・ブランシェットが演じるキャロルとルーニー・マーラが演じる写真家志望のアルバイト店員テレーズが初めて出会うシーンです。

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鉄道趣味を50年続けて思うこと(2)~芸術と鉄道・小説の中の鉄道~

前回、”鉄道と美術の150年”の見学をきっかけとして鉄道模型と芸術の関係(違い)と最近での鉄道模型雑誌に対して思うことを記載させていただきましが、今回は少し趣向を変えて美術以外の芸術の中に出てくる鉄道に関して私が今まで接した作品の中から印象に残っているものを紹介させていただきたいと思います。
近頃マスメディアにも「鉄道オタク(鉄オタ)」という言葉が出てきます。私も紛れもなくその一人ではあると思うのですが、この言葉には「撮り鉄」「乗り鉄」「模型鉄」等の言葉が表すように鉄道そのものを中心に据えて色々なことを楽しむ(追求する?)という活動のイメージがあります。一方、鉄道は長年に渡り人々の生活の中に浸透していますので美術以外の色々な芸術作品の中にも鉄道は現れます。そこに現れる鉄道は鉄道をそのまま描写したものばかりではありませんが芸術家(創作者)が鉄道のどのような部分を抽出して読者に訴えかけているかを考えると色々興味深いところがあるような気がします。

<鉄道と小説・トーベ・ヤンソンの”機関車”>
鉄道を題材とした文学の中には宮脇俊三氏の作品に代表されるような鉄道紀行のジャンルがあります。それ以外のジャンルの文学でも鉄道は小説の中には頻繁に登場しますが、そのような小説とはちょっと異質で私が印象に残っている作品は、ムーミンの作者として有名なフィンランドの芸術家、トーベ・ヤンソンの「機関車」という小説です。この小説は筑摩書房発行のトーベ・ヤンソンコレクション5”人形の家”の中に収録されています。

この小説の主人公は蒸気機関車を設計する鉄道技師です。彼は機関車を設計することはあくまで「単なる仕事」と割り切って淡々と業務をこなしています。一方、自宅では「機関車の本質」を図録(絵)で表現することに情熱を燃やしており、自宅でその創作に没頭しています。

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模型車両の紹介:北海道のキハ40(キハ40 101-)と気動車床下の模型化

今回紹介させていただくのは北海道仕様の一般型気動車、国鉄時代のキハ40(100番台)の2両編成です。
この車両は2015年に完成した車両で北海道仕様の車両の中では最新の車両です。
私は前回ご紹介したキハ56・キロ26を1990年頃製作して以降レイアウト製作の制作を始め車両工作は一時中断していましたが、この車両はその中断後初めて製作した真鍮製車両です。したがって前作と今作の間には20年のブランクがあります。製作は長い中断にも関わらず意外とスムーズに進んだ反面、20年経っても作品のレベルには進歩がありません。
また、この車両の完成で当初計画していた北海道型の気動車の製作が終了しましたのでこれまでに製作した気動車を例に、その床下機器の表現方法(どの程度の細密化を目指したか)についての試行錯誤の結果を実物写真も交えてご紹介させていただきたいと思います。

キハ40100は北海道向け一般型気動車としては約20年ぶりの新形式でトータルで150両が製造されたようです。道内の各地に分散して配置されていましたので私が比較的頻繁に北海道を訪れていた1980年台前半には道内各地の普通列車ででキハ22に混じって活躍する姿が見られました。

根室本線厚岸駅に停車中のキハ40+キハ22の普通列車

車体はフェニックス模型店製のバラキットを利用しました。キットは車両工作中断前に購入した1990年頃の製品です。床下機器はエンドウ製、台車はカツミ模型店製のDT38(201系用)を流用しました。
車体はキットをほぼそのまま組み立てましたが以下の部分を加工してあります。
1. 車体冷却水補給口の追加
2. 屋上排気管
3. 乗務員扉把手部半円形切り欠き
4. 乗務員ドア両側手すり
両運転台の車両2両であり屋根には水タンクを載置する低屋根部がありますので通常の車両よりは多少の手間がかかりますが組み立てはそれほど難しいものではありません。

乗務員扉把手部切り欠きと両側手すり部の切り欠きを追加. タブレットキャッチャーは未装着
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鉄道趣味を50年続けて思うこと(1)

私が鉄道模型を初めて手に取ったのは1964年の2月、新幹線開業の直前で早くも50年以上が経過しました。その中で車両の製作、レイアウトの製作、鐵道写真の撮影を行なってきましたが先日このブログで紹介した北海道のキハ56、キロ26で1990年代までに製作した車両の紹介も一段落しました。今後引き続きその後に製作した作品やレイアウト等についても紹介させていただきたいと考えておりますがこの辺りで一度、今の私が現在の鉄道模型を含めた鉄道趣味について思っていることを述べさせていただきたいと思います。極めてとりとめのない個人的な見解で異論があることは承知の上ですが、よろしければ小学生の頃から鉄道模型を始め少し前に仕事をリタイアした高齢者の戯言として読んでいただければ幸いです。

<”鉄道と美術の150年”と”国宝展”を見て思うこと>

先日、東京駅のステーションギャラリーで開催されている鉄道開業150周年にちなんだ美術展「鉄道と美術の150年」という展示会を見学しました。近くの上野の東京国立博物館では開館150周年を記念して「国宝展」が開催されています。私はここから鉄道が開業した年と東京国立博物館はできた年が同じことを初めて知りました。また日本で初めて「美術」という言葉が用いられたのも150年前だそうです。国宝展はその名からも分かるようにかつて教科書に載っていたような有名な美術工芸品が多数展示されており非常に興味深く見学しました。一方鉄道と美術の150年は国宝級の作品はないものの、鉄道黎明期から今日に至るまでの錦絵、美術作品、写真等が展示されており鉄道と芸術との関わりを目の当たりにすることができ、こちらも非常に興味深い美術展でした。

鉄道と美術の150年の図録とFlyer

これらの展示会を見学後、私はかつて鉄道模型趣味趣味に掲載された中尾豊氏執筆の鉄道模型の造形的考察の一断面という記事の中にあった現在の我が国のモデルは動く彫刻でもなければ小機械でもなく、ましては真の科学の研究対象でもない。科学や将又芸術などと称する一般的な意味における美名に隠れるにはあまりにもプリミティブな内容にすぎない・・・』という一説を思い出しました。美術展に出品されている鉄道をモチーフとした絵画作品は写実的な作品から抽象的な作品まで多岐に渡りますが、作品に描かれた鉄道はいずれも抽象化されたりデフォルメされて表現されており、実物の形状を正確に再現したモデルとは全く異なります。しかし作品を通じ作者が鉄道を通じて表現したかった想いを理解し共感したとき、正確かつ細密に作られた模型を見ても味わえない感動が得られます。氏のいうようにやはりモデルは何なのか、モデルはモデル以外の何者でもないのかということを改めて考えさせられる展示会でした。

しかし中尾豊氏は同じ記事の中で『我々が現実にモデルにおいて表現しようとする美は決して実物から受ける美的感動そのままではない。我々は我々の感覚と技能によって展開される実物と全く異なった別個の一つのあたらしい世界、モデル自体が持つ造形美の表現を目指しているのである。その表現は実存する鉄道との自然関係を全く脱却した一個の観念界と称すべきものを作り、いわゆる美的観念性を具備するに至る』とも述べておられます。見て美しいと感じるモデルは、実物の形状をそのまま再現(模倣)しただけでは不十分で、一つの作品としてその作品に対する製作者の想いがそのモデルの中に感じられ、それが鑑賞者の想いとと共有されたとき、鑑賞者はそのモデルを美しいと感ずるのかもわかりません。こう考えると「よいモデル」を製作するためには芸術的センスが必要なのかもわかりません。

<最近の鉄道模型雑誌に対して思うこと>

最近よく『インスタ映え』とか『SNS映え』という言葉がよく出てきますが最近の模型雑誌を見ていると掲載される作品(写真)があたかも実物そのものであるかのような写真映え(雑誌映え?)するモデルに偏っているため、それがよいモデル(みんなが目指す方向のモデル)と勘違いされている傾向があるような気がします。

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模型車両の紹介:北海道の急行用気動車(模型のウエザリングについての考察)

最近、いすみ鉄道に残るキハ28の最後の1両が定期運用を離脱したことが話題になり、TV等でも数多く報道されておりました。それに触発されたわけでもないのですが、今回は北海道の急行型気動車キハ56、キロ26を紹介させていただきます。いずれもフェニックス模型店製のバラキットを組み上げた製品で1990年ごろに製作した作品です。

キハ58をはじめとした急行型気動車はかつては全国の国鉄路線で急行列車から普通列車まで幅広く運用されており、運用上一般型気動車と混結して普通列車に使用されてもいましたが、その塗色は一般型気動車とは異なる塗り分けで編成中で目立つ存在でした。同じく数多く製造された101系、103系等が大都市向けの通勤輸送に特化された車両で見られる地域が限定されていたのに比較して、キハ58系をはじめとした急行用気動車はは全国津々浦々で運用されていたため全国各地でこの車両に接した方は多いと思われます。そのためキハ28の運用終了は全国のあまり鉄道に興味のない方々にとっても一つの時代の終わりを感じさせる出来事であり、話題になったのかもわかりません。

函館本線大沼付近を走る稚内行き急行”宗谷”.2両目にキロ26を連結.

<車両の紹介>

今回ご紹介する北海道向けの急行型気動車のデザインは全体的には本州の車両と同一ですが北海道仕様の車両の外観上の特徴は側窓が二重窓で窓の天地寸法が小さいことです。そのため稜線の目立たない張り上げ屋根の構造と裾の絞りにより相まって幕板部が非常に広く感じられるとともに車体の”丸み”が強調され印象的には本州用の車両とはかなり雰囲気が異なる感じがします。またグリーン車は本州用の車両の連続窓とは異なり普通車と同構造の二重窓が各座席あたり1個配置されており、普通車との外観上の大きな差異はなく、等級帯が廃止された後は普通車の中間車と言ってもおかしくないものでした。一方北海道の特急列車はキハ183系の登場以前は本州と同じ車両(キハ82系)が使用されており、急行列車に使用される客車も外観的には本州用の車両とほぼ同一でしたので、キハ183系の登場まではこれらの急行型気動車が北海道仕様の車両の外観の特徴が一眼でわかる唯一の優等列車用の車両でした。

モデルはキハ56が3両、キロ26が1両の4両編成です。北海道の急行型気動車の普通車は冷房車ではありませんので本州の冷房車で組成された編成とは異なり冷房用電源搭載車両とその給電可能な両数を考慮して編成を決める必要はありません。車体は冒頭に記載したようにフェニックス模型店製のバラキットで その他の主要パーツは台車(DT22)が日光モデル製、床下機器も日光モデルの製品です。また動力装置は天賞堂製のパワートラックGT−1を2両のキハ56に装着してあります。

余談ですが、90年代初めこの模型を製作したのち外国をテーマにしたレイアウト制作を始め、次にバラキットを製作したのは2015年ごろですので私のキット組み立て技術はこれ以降現在に至るまで向上しておりません。それでは以下写真を主体に各部を紹介させていただきます。

キハ56の全景.車体はフェニックス模型店製バラキットをほぼそのまま組み立て(改造点は後述)

車体キットの改造点は以下の3点です。

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Märklin CS3による自動運転を前提としたレイアウトセクション”終着駅Großfurra”の紹介(2):自動運転プログラムの一例

今回は2回目としてメルクリンデジタルシステムによる自動運転を行うことを前提に製作したレイアウトセクション”終着駅Großfurra”の自動運転プログラムの一例をご紹介します. 今回はまず具体的なプログラムを紹介する前にシステムの概要とプログラムの基本構造を説明します。そのあと具体的なプログラムの例を提示しますのでプログラムの基本構造の説明を参考にして自動運転プログラム作成の参考にしていただければ幸いです.なお、今回, CS3のソフトウエアバージョンは2.4.0(5)(2022年7月時点の最新版)を使用しています.また,プログラムの作成方法は必ずしも最善の方法ではなく他にも方法があると思いますのでその点、ご留意ください.

最初に今回作成した自動運転プログラムによる自動運転の動画をご覧ください。

<メルクリンの自動運転システムの概要>
メルクリンデジタルシステムにはコントローラーとして”Central station”と”Mobile Station”が用意されていますが、このうちの”Central station”がいわば今回の自動運転の中核を成す機器になります。現行の機種はCentral station3(以下CS3と記載します)になります.そしてこのコントローラーに各種デコーダーを接続することにより、さまざまな自動運転が可能になります。これらのデコーダーを含めたシステムにはメルクリン独自のmfxというコントローラーとデコーダーの間で双方向通信が可能なプロトコルが採用されており,デコーダーの設定はCS3上で比較的簡単に行なうことができます.DCCにおけるCV値(Configuration Variable)の設定という概念は通常の設定作業ではほとんど不要です. また, 列車の在線検知もメルクリンの3線式の特徴を活かした簡単かつ信頼性の高い方法で行うことが可能です. メルクリンデジタルシステムはHWとSWを自社で開発し、それらをトータルシステムとして提供しているという点ではアップル製品と似たものがありますが、アップル製品と同様、他社の製品をこのシステムで使用しようとするとその特長は制限されます. ただ、CS3や各種デコーダーはDCCプロトコルにも対応していますのでDCCについてある程度専門的な知識さえあればDCC車両の自動運転も可能と思われます(私は実際にDCCを扱ったことがないのでこれ以上のコメントは控えます).なお、今回CS3と各種デコーダの詳細な機能と取扱方法, CS3へのデコーダーの登録方法(機関車,分岐器や信号機のCS3への登録方法)の詳細は説明しませんので、詳細はメルクリンのウエブサイトに掲載されているマニュアルまたは別売の解説本(Large Manual Controlling Digitally with the Central Station 3 (Item # :03093))を参照してください。いずれも英語版ですが,いずれも英語は比較的平易で図も豊富に掲載されていますので私のように英語があまり得意でなくてもある程度内容は理解できると思います. なお, 最新のデコーダーや信号機もmFxプロトコルに対応しており,設定は従来の機器より簡単に行なえます.

<線路配置の概要>
線路配置の概要は(1)にも記載しましたが,レイアウトの線路配置とS88コンタクトの位置をCS3のトラックダイヤグラムのスクリーンコピーで下図に再掲します. グレーアウトした部分は今回のレイアウト以外の部分で, 今回説明する自動運転は機関区のセクションを車両の引き上げ線として使用します。機関区セクションと終着駅のセクションはスペースの関係上対向した形で接続されていますが、中間にある程度のスペースをとれば両者ともより実感的に運転ができると考えられます. この間に挟む線路の長さはプログラムには影響しません(プログラムの作り方によっては多少の調整が必要になります).

レイアウトセクションの1番線、2番線、貨物駅にはそれぞれ2箇所のS88コンタクトを設置しています。一方, 引き上げ線となる機関区側は各々の線路終端にS88コンタクトを設置しています.なお、機関区側の自動運転では,S88コンタクトが線路終端にしか設置されていないため車両に停車コマンドが発動する前に車両に各種コマンドを与えることができないので停車直前の車両に汽笛吹鳴等、各種の動作指示を与えることができません.今回の終着駅セクションではこの反省に鑑みて,各引き込み線には複数のS88コンタクトを設置しました.

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Märklin CS3による自動運転を前提としたレイアウトセクション”終着駅Großfurra”の紹介(1):レイアウトの概要

このレイアウトセクションは以前15回にわたりこのブログで「自動運転を前提としたレイアウトセクション」として製作過程を紹介させていただいたメルクリンCS3による自動運担を前提としたレイアウトセクションです. この度 ”終着駅Großfurra”として一応の完成を見ましたので改めてその概要と自動運転プログラムの一例を紹介させて頂きます.

<レイアウトの概要>
このレイアウトセクションは以前このブログで紹介させていただいた機関区のジオラマ ”ALTENHOF機関区” の自動運転時の機関車の待機線線の部分に制作したレイアウトで,ALTENHOF機関区と対向する形で設置しています. その全体写真を下図に示します. 

手前が今回製作の”終着駅Großfurra”, 奥が”ALTENHOF機関区”

<線路配置>
今回のレイアウトは以前作成し、このブログでも紹介させていただいたジオラマ,”ALTENHOF機関区” の自動運転時の機関車の待機線線の部分を利用しています.その線路配置を下図に示します. このレイアウトでは図の上側2本の待機線は目隠しして下側の2本の待機線みを使用しています. 線路はメルクリンのKトラック,分岐器は#22715/#22716(Wide Radius Turnout)を使用しています.なお,一部の分岐器はFrog可動式の旧製品#2272/#2273も使用しています.

RailModeller Proで作図した線路.RailModeller ProはMAC用のアプリで欧米42種類のProduct Lineに対応

 下図はレイアウト全体写真上に線路配置を線で記入したものです. 黄色の部分が今回のレイアウトに使用した部分の線路, 水色の点線部分が目隠しした機関区の自動運転用の待機線, オレンジの部分が”ALTENHOF機関区”の線路で, 今回はこの機関区部分を自動運転用の車両待機線として使用します. 水色の部分はコの字型のBoxで目隠しし, 手前の壁に背景を作成, 上部は車両の展示台としてあります.

水色点線で示した部分は”終着駅Großfurra”の自動運転には使用しない
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手持ちの台車を用いて自作したペーパー車両(9)

165系急行”アルプス”と20系客車の寝台特急”あさかぜ”:製作を振り返って

いままで165系”アルプス”と20系客車”あさかぜ”の構想から完成までの製作過程を8回にわたりご紹介させていただきましたが、今回はその最終回として今回の製作を振り返り、成果と今後の課題について考えてみたいと思います。また、最後に僭越ながらこの作品を作りながら感じた近頃の鉄道模型に対する思いを記載させていただきます。

・ イメージの再現について
今回の車両の自作にあたってはまず最初に作成しようとする車両のイメージを具体化し、そのイメージが再現できるように設計、製作を行いました。まずはその結果を検証してみたいと思います。その方法として実物の画像をReferenceとして作品をそのイメージを特徴的に表すアングルで撮影をして比較してみました。なお撮影機材はフルサイズSLRと55㎜と100㎜のマクロレンズを使用しました。

<165系>
・ 多彩な窓構造と屋上機器
画像を見ると、全体のプロポーションは実車のイメージとそうかけ離れているようには見えませんがやはり上段窓とサッシ枠の段差の大きさが気になります。また、実車に比較しグリーン車のサンバイザーの突出量が大きくなってしまっています。ただ、通常の角度から見るとこの突出量の大きさはあまり目立ちません。運転時、遠目にみた際の全体的な雰囲気はなんとか再現できているのではないかと思います。

・ 整然と並ぶ普通車のユニットサッシ窓の美しさ
奥行き方向の課題はあるものの、それを除けば同一サイズの窓が整然と並ぶユニットサッシのイメージは再現できているのではないかと思います。製作切断した時と同じ順番にサッシ枠を側板に接着することが重要であることを再認識しました。今回は多数の窓の窓抜きを行いましたがラベル紙の接着力も特に問題はありませんでした。ユニットサッシ窓枠の直線性、窓ガラスの平面製は良好で、特に光を反射させた時の反射の具合は成形品を用いた市販製品を上回ります。今回窓枠は銀色テープの表面をサンドペーパーでヘアライン仕上げしたものを用いましたがそれでも面積が小さいせいか反射のばらつきは目立たず窓ガラスと窓枠の段差も少なくすることができました。

・ 多彩な床下機器
今回、バラエティに富んだプロトタイプの中からから好みの形態、好みの配置で余剰パーツを流用した以外ほとんどの機器を自作しました。機器類はペーパー車体の線の太さとのバランスを考え細密化はせず、殆んどを単純な直方体としましたが、MG,コンプレッサ,水タンク,MG起動抵抗器等の目立つ機器(外観に特徴的のある機器)についてはある程度の細密化を行い、全体的には車体とバランスの取れたものとなっていると思います。ただ、手づくりで正確な直方体を製作することは結構難しく一部の機器には歪みや傾きが生じてしまいました。パーツを使用して床下を細密化しようとするとパーツの修正と取り付け部の加工が主体になりますが、今回の工作の方が細密化よりも難しい(基本的な工作力と集中力が問われる)気がしました。その中で平面性と直角度が良好なEvergreen社製の各種のプラ角棒を積層して継ぎ目を処理した所望の断面形状の角棒を切断して使用すると比較的簡単にばらつきなくいろいろなサイズ直方体が製作できることがわかったのは収穫でした。またEvergreen社製の1㎜x1㎜の角材で製作した取り付け脚を介して機器を取り付けたことで反対側が透けてみえ、程よい細密感と一体成形のプラ製品の床下にはない実物らしさが生まれたような気がします。

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