When is your realism level good enough?:Zゲージレイアウトのrealism level(市街地の構想とその細部)

これまで2回にわたり外国型Zゲージレイアウトのストラクチャー、Tracksideのrealism levelについての検討結果を紹介してきましたが、今回はレイアウトの市街地の構想とその細部についての検討結果と作例を紹介したいと思います。これまで紹介したストラクチャーとTracksideについては一部に市販品を使用しており、自作の部分はそれらの市販品とのバランスを考慮しながら材料の選択や素材からの自作を行いましたが、市街地については限られたスペースの中でどのようにしたらターミナル駅がある市街地らしい市街地を作ることができるか、そのためには市販品と自作品の建物を市街地の中にどのように配置するかというレイアウトの全体構想に関わる課題に対する検討が必要でした。また街頭にある小物は当時市販品はほとんど発売されていなかったため、ストラクチャーのrealism levelとバランスをとりながら鉄道模型用として販売されていない製品の流用や素材からの自作が必要で、それらをどのように製作するかが課題となりました。そこで今回はこの課題の検討過程と結果(作品)を紹介したいと思います。
<市街地のスペース(線路配置)>
この検討結果をご紹介するにあたりまずはこのレイアウトの線路配置を写真を用いて説明します。

台枠状に線路の敷設を完成した段階

上の写真が台枠上に線路を敷設した状態のレイアウトです。手前のエンドレス外側の頭端式のターミナル駅を出発した列車は勾配を上り最初の分岐器でエンドレスの周回方向を決定してエンドレスに入ります。その際列車を左回りとする場合はリバース線を経由して本線へ、右回りとする場合はそのまま本線に入ります。そして本線周回後駅に戻るには手前側の背中合わせに配置された分岐器でエンドレスを離れ駅へ向かいます。その際、時計回りで周回していた列車はリバース線を経由して駅に向かいます。このようにプランとしては非常に単純なプランです。市街地にはターミナル駅に相応しい駅舎を街と向き合う形で設けることとしたのでその駅舎はスペース上写真のリバース線より奥側に設けることになります。そこで写真のリバース線より奥側を市街地とし、手前側を住宅地にすることとしました。ただ、駅舎を市街地と向き合う形で配置する駅舎とホームが高架線で分断されてしまいます。そのためこの部分の処理についてはいろいろ悩みましたが、最終的には高架線下に駅舎への通路を設けるとともに高架線のホーム側にはカフェ等のショップを作り、駅舎との関係性を自然なものとすることとしました。駅舎は市街地と対向するので、運転位置からは駅舎の背面しか見えませんが、運転位置からホーム側のショップが見えれば列車が駅に到着した際、ある程度ターミナル駅の雰囲気が味わえるのではないかと思ったのがその理由です。実際にこのような構造になっている駅は見つけられませんでしたが欧州にはプラットホームに隣接して色々なショップが並んでいる例はよくあるようです。日本で言えば上野駅の地平ホームのイメージでしょうか。そして駅舎はKibriの製品の中から『B -6700″Bahnhof. Bad Nauheim”』を使用しました(現在は絶版のようです)。この駅舎のプロトタイプのあるBad Nauheimはフランクフルトの北にあり湯治場として有名な場所で、過去にはオーストリアのフランツ・ヨーゼフ1世やビスマルクが訪れこともある街のようですが、それはさておき製品はZゲージでも長さ40cmの大きな駅舎です。ちなみに東京駅の長さは330mだそうなのでZゲージでも1.5mになります。

<市街地の構想>
次に市街地の建物の配置を検討しました。

駅舎の配置と建物の配置を検討中の写真. 駅舎の位置はこの位置に決定した

上の写真は市街地の建物の配置を検討していた時の写真で、市販の建造物キットを組み立てた後、どのような建物をどこに配置するかを検討している段階の写真です。市街地の建物は主にKibriの製品を使用しました(教会のみVollmer製です)。Kibriの建物はいずれも旧市街にあるようなタイプの建物で、旧市街に特徴的なCity Gateもあります。一方以前も述べたように旧市街にあるような古くからある建物は装飾が複雑なため自作で製品と同じrealism levelの建物を製作するのは難そうです。このため駅舎から見て左側と奥側を旧市街と見立て製品の建物を配し、駅の正面には比較的近代的な自作の建物を配置することとしました。上の写真では自作する建物は検討段階ではまだボール紙で作った単純な形状のものですが、最終的には駅舎正面の建物は上記写真より小型とし(左側の建物の面取り部分を削り)駅前広場を秘匿するとともに右側の三角屋根の建造物は数を減らし、池の周りの広場のスペースを多く取りました。住宅地も含めて建物の配置が終了した段階の写真が下の写真です。駅舎の正面に自作の建物が並び、それを取り囲むように市販のストラクチャーが配置されているのがわかると思います。

建物の配置を完了した段階. 細部を作り込んでいく前の状態

以下は市街地エリアに配置したストラクチャーの写真です。市街地の教会はもう少し大きいイメージですがスペースの関係上小型のものを選択しました。なお、現在Kibri , VollmerともにViessmann社のブランドとなったため写真のキャプションに記載してある型番が現在の型番と異なっておりますがご了解ください

駅舎, kibri製 B -6700 “Bahnhof Bad Nauheim”. 現在は絶版.
旧市街の建物 Kibru B-6800 Townhouses と B-6802 School of Music

<市街地の細部>
上記建物を市街地に配置したのち、ターミナル駅と市街地の細部の製作に入ります。ここからは非常に細かい工作になります。
・ 駅のホームに隣接した高架下のショップ
前述のように駅のホーム側にはには高架線の下を利用したホームに隣接するショップを設けましたが、この部分はプロトタイプなしの状態から検討を始めることが必要でした。そこで参考にしたのが東京駅周辺の煉瓦造りの高架橋とその下に入る施設です。下の写真は万世橋付近の中央線の高架橋(左の写真の窓の部分は交通博物館)です。

神田駅付近の高架橋の下に作られた施設

この写真等を参考にイメージを膨らませて製作したものが下の写真です。

高架橋の下のショップ. ベンチ以外の小物も自作した. ホーム上屋はFaller #282726を加工したもの(縦横部に部材を継ぎ足し幅を拡大). ベンチはプラキットの付属品, 壁の照明は1.5Vのミクロ球

製作ははまず煉瓦造りの高架橋をレジンモールドにより作成しました。最初にPECO製のレンガシートを所定の形状に切断し、その上にプラバン、Evergrewen社製のプラ形材を用いて装飾をつけたマスターを製作し、シリコンで型取りして20枚の部品を製作しました。レジンモールドは何分初めての経験でおっかなびっくりの作業でしたがなんとか使用できるものを製作することができました。次にそのアーチ部分にショップを作ります。ショップの部分は主にEvergrewen社製のプラ素材で製作してあります。この材料はタミヤ製等の素材と異なり、機械加工されていると思われ角がシャープですのでこのような細かい部分もかっちりと仕上がります。ただ何分部品が小さいので切り出し、接着、塗装、組み立ては非常に細かい作業となり、結構苦労しました。なおショップの部分にはNゲージの室内灯を利用した照明を組み込んであります。
・電話ボックス テーブルと椅子 フェンス等の小物
街中にある電話ボックス、広場のテーブル、椅子はいずれもEvergrewen社製のプラ素材を主体に製作してあります。またフェンスは建築模型素材を使用しています。建築模型素材にはいろいろなスケールの製品がありますが、洗濯の際はスケールには拘らず大きさ優先で選んであります。また樹木はWoodland Scenics社製のものを使用しています。

教会のフェンスはレンガシートと建築素材を組み合わせて製作しました。

公園の遊具は真鍮線を半田で組み立ててあります。車両工作でハンダづけをやっていた経験がこのようなところで役に立ちました。柵は建築模型のガードレールです。

街中のKIOSK,屋台もそこに並べてある商品を含めてEvergrewen社製のプラ素材から製作しました。KIOSKの屋根はキットの余剰部品を加工して作成してあります。道路と歩道は津川洋行製の素材です。なお、KIosk,屋台等の形状は実物だけでなくVollmer Faller等のカタログに掲載されているHO/Nゲージモデルも参考にしています。

以上、主な街頭のアクセサリの主なものを紹介しましたが、その他のものについても多くはEvergreen社製のプラ素材を主体に製作してありこの材料なしには市街地のアクセサリは製作できなかったような気がします。ただこの素材は結構高価なものですが使用量はごくわずかで、製作から20年以上たった現在でもまだ大量に在庫があります。反面、建築模型素材は高価ですが使用量が少ないため費用的にはあまり負担とならずに済みました。製作は細かい作業の連続で苦労をしましたが、設計や材料の選択等、いろいろ考えながら製作するのは今思えば結構楽しい作業でした。また写真に見える街中のポスターやサインボードは写真のプリントが主体で白黒のサインボードはレーザープリンターで出力したものです。これらは製作から20年以上経過した現在でも退色はあまり認められません。当時はデジカメはまだほとんど普及しておらず家庭にインクジェットプリンタも普及していませんでしたので作成には結構手間がかかりました。ただ、水性インクを使用したインクジェットプリンタは経時的な褪色が激し意図ともに、色の再現性が悪い(色空間が狭い)ので私は使用していません。道路のセンターラインや歩道の白線には画材店で見つけた”レトララインテープ”という商品名のテープを使用しています。このテープは多数の幅や色が取り揃えられておりいろいろなところに使用することが可能です。正式名称や用途は不明ですが、これも建築模型に使用されるもののようです。
ここまで、市街地の製作に対する課題とその検討結果を紹介しましたが、このレイアウトは現在、建物の照明のLED化と街路等の設置を行う改修を行なっています。このレイアウトを作成した20年前はまだチップLEDを安価に入手することができす、照明は12Vの米粒球と1.5Vミクロライトを使用しました。一部にはメルクリンから発売されていたチップLEDを使用した街路灯、ホーム灯、ヤード灯を使用していますがこれらは高価な製品ですので使用箇所は限られました。それから20年以上がたち、最近ではチップLEDが非常に安価に入手できるようになり色も白色や電球色など色のバラエティも増えましたのでこのチップLEDを用いた照明を追加することにより実感的な市街地の夜景を楽しむことができるのではないかと考え改修工事に着手しました。工事はまだ始まったばかりですが、幸い建物は全て取り外し可能にしておきましたので電球からLEDへの交換は比較的スムーズにできました。街路灯は数が多く制作が大変ですが以外と難しいのは完成したレイアウトに新たな配線を引き回すことです。とくに街路灯の増設に当たっては増設する場所に応じた配線方法を考えることが必要で、現在はその方法を検討しながら改修工事を行なっています。
それでは最後に照明を組み込んだ建物の写真をご覧に入れて、この項を終わりたいと思います。写真の街路灯は黄色LED,アーケードは電球色LED,室内照明やショーウインドは白色と電球色のLEDを使用しています。尚、Zゲージのプラキットは壁が薄く光源も壁の近くに配置しますので壁や屋根の遮光には十分な対策が必要です。

次回は最終回として実際に製作して感じたZゲージのrealisn levelの実現方法とZゲージレイアウトの注意点を記載してみたいと思います。