前回、”デジタル制御で何ができる?(5):デジタル制御には何が必要?・いくらかかる?”(1)”の中で車両の価格を実例で紹介しましたが、今回は2回目としてデデジタル制御を行う際の制御機器とそのドイツにおけるStreet Priceから計算した日本での投資額を試算した結果を紹介したいと思います。
私の使用しているシステムはMärklin Digitalですので、機器は特殊で、また少々割高?ですが、前回のDCC制御に使用される機器の役割がわかれば他社製システムでもどのような機器を購入すれば良いかはわかると思います。そして、他社製品の機器と価格も私のわかる範囲で試算結果を紹介したいと思います。ただ何分他社製システムは実際に使用したことがなく、自動運転プログラムも作成したことがありませんので、概要の説明になってしまうことはご了解ください。
まずは、私のレイアウトセクションで撮影した動画をご覧ください。
私は以前、デジタル制御で何ができる?(4):デジタル制御による運転の楽しみ方についてという記事の中で、デジタル制御はまずジオラマで、動画を撮影して楽しむことから始めたらいいのではないかということを提案しました。確かに、長さ1m足らずのジオラマを製作し、前後に組み立て式の線路を繋げ、サウンド付きの動力車を用意すればれば上の動画のようなシーンの撮影はやろうと思えば可能です。ただ、手動で音や動きのタイミングを取って撮影するのは大変で、眺めて楽しむには長さも短すぎます。また、車両の動きを楽しむという点ではそれ以上のことは何もできません。前にも述べましたが、デジタル制御を楽しむためには、デジタル制御の特長を活かして列車や機関車を「運転」したり「見物」したりして楽しめるシーナリー付きのレイアウトが必要になると思います。そしてさらに、その上の列車の動きを線路脇で列車を眺める気分で「見物」しようとするとどうしても自動運転が行いたくなると思います。
そこで私に製作したレイアウトセクションで、その自動運転をMärklin Digitalで楽しむために使用した機器とそれにかかった費用の実例を紹介します。今回は前回とは異なり、購入当時の金額ではなく、現在の価格での試算としました。
下の画像はは私の製作したレイアウトセクションの線路配置です。左側がが以前”ジオラマ”ALTENHOF機関区”の紹介とMärklin CS3による自動運転”で紹介した機関区のレイアウトセクション、右側が”Märklin CS3による自動運転を前提としたレイアウトセクション”終着駅Großfurra”の紹介”で紹介した終着駅のセクションです(①・②の機関区の引き上げ線はレイアウトとしては使用しておりません)。そして自動運転時には対向した反対側のセクションを自動運転用の引き上げ線として使用します。下図がその線路配置です。なお、この画像はCS3をWi-FiでPCと接続しPCに表示されたCS3の画面をスクリーンコピーしたものです。他社製のDCC制御ではこのような画像はPCのモニター上に表示します。
それではこのレイアウトを自動運転するために必要な機器を紹介します。
分岐器は全部では7個ありますが、分岐器制御用のm 83デコーダーは1台につき4個の分岐器制御が可能ですので、分岐器制御に必要な台数は2台です。また、このデコーダーはアンカプラーにも使用します。アンカプラーもアクチュエーターを電磁石で一定時間持ち上げてカプラーを解放します。動作させる手段はポイントマシンと同じですのでm83デコーダーに接続します。解放ランプは分岐器の左右切り替え用端子にそれぞれ1個接続できますので1アドレスに対して2個接続することができます。解放ランプは3箇所ありますのでm83デコーダーはもう1台必要となり、m83デコーダーは合計3台となります。なお、このレイアウトでは2個のアドレスに3台接続していますので、路線図上のアイコンが2個しかありません。照明のON/OFFはm 84デコーダーを使用します。m84デコーダーは回路を自動でON /OFFするスイッチの機能を持つエンコーダーで、使用方法により1台で4-8アドレスが設定可能です。m 84デコーダーは1アドレスに対し3接点を持ち、中央の端子に入力し入力を両端の接点との間でON/OFFをします。そしてCV値の設定により動作モードを4アドレスで交互点滅、8アドレスで8接点等に変更できます。このレイアウトの照明スイッチは6個ですのでデコーダーは8アドレスで8箇所の照明のON/OFFができるモードに設定し、m84デコーダーの必要数は1となります。信号機は4台使用していますが、信号機にはSignal Decoderが付属していますので信号機制御にデコーダーは不要です。また、在線検知は15ヶ所で行っていますが、MärklinのFeedback Moduleは1台で16ヶ所の検知ができますのでL88でコーダーの所要数は1になります。さらにCS3は別に電源が1台必要です。またFeedback ModuleのL88デコーダーにも別の電源が必要です。
下表はこれらの機器のList Price(VAT有り)、Street Price(VAT有り)の推定値、Street PriceのVATなし価格とその価格(€)を日本円に換算した結果です。レートは¥162で換算しています。なお、前回説明したように海外メーカーで購入して個人輸入すると、この金額に加えて送料、消費税、手数料がかかりますが、詳細は前回の記事を参照してください。なお、Shop Price(w/vat)は15%引きで計算しています。複数のショップをチェックしましたが割引率は概ねこの程度のようです。Street Price(wo/ vat )はこの値を1.19で除して算出してあります。
実は、この価格を集計して正直驚きました。私は1€=¥135の頃にボーナス時等に数回に分けて購入したので正直20万もかかったという感覚はありませんでした。ちなみに当時の1€=¥135で計算すると上記の価格は¥13,0589になります。当時はT社製のカンタムシステム車両2台で十分お釣りが来ると思っていました。また、CS3は実質コンピューターに近い機器であり、サポートも不安で海外から輸入するか否かを購入当時かなり迷ったのですが、この迷いは現在購入するとしても同じです(幸い今まで2台購入しましたがいずれも無事でした)。国内ではCS3はとても10万以下では購入できないと思いますし、その他の機器も日本ではあまり需要がないと思いますので高めの価格が設定されている可能性もあります。よって国内購入では費用は上記よりかなり嵩むと思います。鉄道模型の購入に国が補助してくれるわけないですし、販売店の販売戦略による調整もないので円安が直撃しています。このような比較を行うとニュースでよく聞く世界的な、とりわけ欧米で顕著な物価高と円安を改めて実感します。というわけでデジタル制御の面白さを話題にしてこの結果は非常に心苦しいですがお許しください。
ただ、他社メーカーの製品を使用して費用をもう少し削減する方法はあると思います。私の感覚ですがMarklin Digitalはコンピュータの世界ではiOSを搭載したApple製品のような存在で、一種の閉じたシステムです。その代わり使用しているデコーダーは双方向通信可能なmfxデコーダーですので車両だけでなく、上記のデコダーもレールに繋いで(複数でもOKです)、上記画面のEditをタッチし、プルダウンメニューのDiscover mfx itemsというメニューをタッチすればデコーダーが CS3上に登録され、同時に空いているアドレスが自動取得されてでコーダーに設定されます。タッチパネルを使用したフルカラーのGUIも直感的でわかりやすく、DCC初心者にも使い方は比較的簡単です。車両を運転したり簡単な自動運転をするのであればDCCではよく出てくるCV値を設定、変更する必要はほとんどありません。
下表は実際に使用した経験はないのですが、DCC制御で同等の自動運転を行うための機材を他社製品で揃えるとどのくらいの費用になるかを試算した結果です。試算はオーストリアのRoco社のシステムで行いました。まずはCommand StationにZ21 Digital Control Centreという機器を使用した場合です。信号機はSIgnal DECODERとアナログ信号機を使用することも考えられますが、適切な信号機が見つけられなかったことと、SIgnal DECODERの設定が非常に難しそうだった(欧州各国の規則に従った点灯方式を選択したり現示数を設定する必要がある)ので外観も実感的なMärklin製を使用することとしてあります(この信号機はDCCにも対応しています)。
こちらもMärklinと同等の投資額になってしまいます。ただ、Z21には機能を限定したZ21 Startという製品に、ThrottleとPower SupplyをバンドルしたZ21 start base digital setという製品があります。こちらを使用することにして費用を試算すると以下のようになります。
こちらを使用すると費用はかなり抑えられます。このほかには別にステップアップトランスが必要です。また、自動運転を行うためにはPCとWi-Fi接続するために無線iルーターが必要です。無線接続すればThrottleにスマホやタブレットを使用することができ、自動運転用アプリはApp Store等から入手できますがこちらのアプリはThrottleと異なりGUIはCS3に近いものとなっています。
以下、表の補足をわかる範囲で記載してみたいと思います。まず、Roco社のシステムではポイントマシンに接続するでコーダーと照明ON \OFFに使用するZ21 Switch DECODERは同一で、高価です。Märklinのデコーダーはポイントマシン用のでコーダー(m83)と照明スイッチ用デコーダー(m84)は別製品で、m83の価格は安く設定してあります。これは回路の開閉に使用するリレーの差ではないかと思われますが、Roco社のデコーダーは共通で使用しますので高価なm84と同レベルの価格になっています。この高価なデコーダーを4個使用していることが高額になる原因の一つと思われます(安い3rd Party製品はあるような気がします)。Command StationであるZ21とThrottleの合計額はLCDモニタ付きで自動運転アプリが内蔵されたCS3に匹敵する金額ですが、想像するにこれはこのZ21が各社のDCCプロトコルをフルサポートしたなんでもできる多機能な機器であるからだと思われます。Z21にはLenz社が開発したDCCプロトコルであるRailCom(R-Bus)、前回紹介したLocoNet(L-Bus)、Rail com以前のDCCシステムに対応した端子(Sniff-Bus)があります。その他Boosterを接続するB-Bus端子が1個、Throttle接続用のX-Busが3個あります。また出力も2線式、3線式両者に対応できるようです。上表にあるRoco社のFeedback ModuleのプロトコルはRailComで動作しますので上記の機器を上記のような小型レイアウトで使用するのであればこのZ21のスペックは過剰スペックであるような気がします。それに対しZ21 startは制御用DCC信号のプロトコルはRailComのみの対応(R-Busのみの対応)で、出力も2線式のみ、プログラミングトラックの端子もありません(繋ぎかえます)ので、かなり機能は限定されています。そのせいか価格はかなり安く、Z21本体の価格はわからないもののスターターセットとしてかなり「お得」な価格設定がされているのではないかと思います。Boosterを接続するB-Busは1個、Throttleを接続するX-Busは2個あります。B-Bus、R-Busにはそれぞれ機器が複数芋づる式に接続できます。これらを考えると上記のレイアウトではCommand StationはZ21 startで良い気がします。ただ、何度も繰り返して恐縮ですが、私は実際に使用したことがなく、カタログやマニュアル上で比較しただけですので実際に選択する場合には経験者や販売店に相談してください。またZ21にはUS仕様とEU仕様があります。多分電磁波関連の法令への対応によるものではないかと思われますがこちらを購入する際も、どちらが良いかを販売店等に確認してください。自動運転はPCに他社製アプリをインストールして使用するようです。自動運転用アプリはRoco社のホームページに紹介されていますが、これ以上の詳細や各アプリの使い勝手は分かりませんのでこれ以上は述べまられません。DCCの魅力は自動運転と言っておきながら恐縮ですがお許しください。
私がデジタル制御を始めた2000年はじめ、2線式のDCCは発売されていましたが、Märklinのシステムに比較してスペック的にはかなり見劣りしており、信頼性も低いと言われており、本格的にデジタル制御を導入しようとする場合はほぼMärklin一択でした(ブランドにこだわって選択したわけではありません)。Märklinブランドは子供の頃から馴染みがあり、広告はTMS誌上でも見慣れており、レールもCトラックが発売され以前よりレールは実感的になっていました。欧州の車輌に関する知識もあまりなく、私が知っている車両や現地で見たことのある車両はほぼ発売されていたため、Märklinのシステムを採用するのにあまり抵抗はありませんでした(私が鉄道模型を始めた当時、カツミ(エンドウ)から金属道床線路という線路が発売されていましたが、この線路は当時のMärklin製Mトラックを模したものではないかと勝手に想像しています)。その後、DCC制御は2010年頃にLenz社(Dr. Lenz氏)が開発したRailComという制御用信号のプロトコルでMärklin Digitalと遜色ないレベルになり、現在に至っています。その後開発されたのが前回紹介した米国のLocoNetというプロトコルですが、NMRAの制定するDCC規格により近いのはRailComのようです。両者のプロトコルにどの程度差があるのかは私には分かりません。また、運転の仕方は大レイアウトを複数のオペレーターで運転する米国よりは欧州の方が日本と近いような感じもしますし、米国ではポイントマインは欧州では日本と同じ電磁式が多いのに対し、米国ではサーボモーターによるスローアクションが一般的ですので、ポイントデコーダーの制御用接点数が2個の製品の方が一般的なようです。そこで今回比較対象はDCC制御の元祖的存在であるRailComプロトコルを備え、車両から制御機器までを幅広く販売している日本でも比較的知名度の高いオーストラリアのRoco社の製品と比較してみることにしました。信号機はRoco社のSIgnal DECODERとアナログ信号機を使用することも考えられますが、適切な信号機が見つけられなかったことと、SIgnal DECODERの設定が非常に難しそうだった(欧州各国の規則に従った点灯方式を選択して設定する必要があるようです)ことから、外観も実感的なMärklin製を使用することとしてあります(この信号機はDCCにも対応しているようです)。
DCC制御は日進月歩で、制御機器やデコーダーは日々進歩しており、限定的ではありますがDCC制御でもMärklin Digital のようなCommand Stationと双方向通信可能なデコーダーが開発されているようです。ただ、このような情報は個人では日本では海外の雑誌を購読したり、メーカーのホームページを見たりして得る必要があります。米国のModel Railroder誌には毎月DCCに関する記事が掲載されておりますので興味のある方は購読を検討してみても良いかと思います。現在のModel Railroader誌をみると、作品の紹介、製品の紹介、基礎的技術やDCC制御の説明、編集部によるレイアウトの製作記事等がミックスされており、昔のTMSの構成を思い出します。また、掲載されているレイアウトの規模と運転方法を見ると、DCC制御用のBUS -LINEに全ての制御機器が接続できるLocoNetが米国メーカー製であるのもわかるような気がします。
購読は出版社のホームページから申し込むことができます。価格は米国国内向けより少し高いですが書籍に関税はかかりませんので出版社から直接自宅に届きます。また複数年の購読申し込みで結構な割引になります。私は10年以上購読していますが、その間不着着はなかったと記憶しています(今後起こるかもわかりませんが)。
余談ですが、TMSの山崎主筆は「TMSは参考書である、基礎的なことや大切なことはマンネリと言われようが掲載する必要がある」というようなことを述べておられました。山崎主筆が雑誌を創刊する際、Model Railroader誌の構成を参考にしたかどうかはわかりませんが、MR誌の構成は「もしかしたらそうだったのではないか」と思わせられる構成で、だとしたらそれがまだ継続していると感じます。私は決して英語は得意ではありませんが、最近はTMS誌よりNR誌の方が面白いという気がします(英語の勉強にもなります)。
最後に一言。今回このような記事を書くにあたり、DCC関連の文書をいろいろ見ました(「読んで理解した」ではありません)が、NMRAのStandard、QSI社のデコーダー仕様書、Digitraxのマニュアル等には実に細かく制御波形等の仕様が記載されています。世の中の99.9%以上の人が普段の生活で無くても何とも思わない鉄道模型の規格(技術基準)を、例え他の産業分野の技術の応用であっても鉄道模型の技術基準としてよくここまで纏めたなというのが率直な感想です。また、海外には多数のデコーダーメーカーがありますが、彼らがこの基準に則って互換性のあるデコーダーを製造しているのだとしたら、鉄道模型という超ニッチな業界ではあってもそのメーカーの技術力は結構高いのではないかと感じました。
これは私見ですが、日本でDCCを普及させるためにはメーカー横断的にまず日本の実情(レイアウトの大きさ、運転の楽しみ方)に最適な制御用のプロトコルを選択して推奨する機器を明確にしたり、日本の車両の特徴にあわせるための海外製デコーダー(+サウンドデコーダー)のカスタマイズ方法の標準化を行なったり、その日本仕様にカスタマイズしたデコーダーを海外メーカーに大量発注し各メーカーで使用したりすることによりコストメリットを出して普及を図るような取り組みが必要になるような気がします。それには海外メーカーにその合否判定基準を明確にした仕様を提示し、その評価をすることが必要になります。今後のDCCの普及(鉄道模型の発展)のためには鉄道模型業界にもDCCに関連する国際標準と整合性のる標準の制定とグローバルな視点が必要になってくるのではないかと感じました(独自路線を歩くと決めたのなら別ですが)。
ちなみにRoco社の製品で、以前紹介したVectronのオーストリア国鉄向けのモデル(BR1293)のあるShopのStreet Price(付加価値税込み)はDC (Analog)仕様が251.95€、DCCサウンド付き仕様が381.90€で、差は130€、1€=¥162で日本円に換算すると価格差は¥21,000程度です。Tx社のEF210 -300のスタンダードモデルとプレステージモデルの価格差はあるショップの割引価格で¥25.000程度です。もちろん為替の影響がありますので単純比較はできませんが、Roco社のDCCサウンド付き仕様のモデルの価格はDCモデルの約1.5倍、Tx社のプレステージ仕様の価格はスタンダードモデルの約1.7倍程度になります。日本型の車両でもDCモデルとDCCサウンド付きモデルの価格差がこの程度になれば少しはDCC制御が普及するような気もします。ただ、趣味人口(生産数量)が圧倒的に少ないと言われてしまえばそれまでですが・・・。そうだとしたらこれからもDCC制御は外国型で楽しむしかないのでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。