デジタル制御で何ができる?(7):デジタル制御における運転の楽しみ方について(2)−レイアウトセクションにおけるサウンドの効果の実例–

前回、デジタル制御を導入するために欧州製の機器を導入する場合の費用の概算を紹介しましたが、物価高や円安等の状況もあり私が導入した当時の感覚と比較すると意外と多額の費用がかかることがわかりました。また自動運転に対応したソフトもそれほど安くはないようです。とは言っても日本型の真鍮製のモデルに比較すれば安いですが・・。一方、私の感覚では、メルクリン製のモデルは国内でも海外でも総じて高価であるという印象がありますが、Command Station+Throttleに関しては、1台でデジタル制御の機能の大部分が使用可能であるMarklinのCentral Station3(CS3)は意外と「安い」ような気もします。日本では鉄道模型の自動運転というと完全にコンピューターソフトに知見のある専門家が行う(できる)ものという感覚がありますが、私の感覚ではメルクリンの自動運単プログラムの作成方法のレベルはそこまで専門的ではないという印象です。例えば、コンピュータプログラムに精通していなくても学生時代に大学等で実験等でマニュアルを見ながら測定機器等をシーケンシャルに制御してデータを取得した経験がある方でしたら簡単にプログラムを作成できるレベルであると思いますし、そのような経験のない方でも一度簡単な自動運転プログラムを作成してその設計の考え方を理解してしまえばそれほど難しいものではないと思います。また、最近小学生でもプログラミング教育の重要性が叫ばれていますが、もしかしたらそのような教育にも利用できるかもわかりません。自分が作成したプログラムで電車が動く(失敗すると事故を起こす)というのは結構面白い体験かもわかりませんし、もしかしたら鉄道模型愛好者の増加に貢献するかもわかりません(Märklinのニュースレター(Web Site?)で実際に教育現場で活用されているという記事があったような気がします)。ただ、そうは言ってももいきなりデジタル制御による本格的な自動運転を行うのはやはり少しハードルが高い気もします。
一方、私は以前、デジタル制御を楽しむ第一歩として小規模なレイアウトセクション(ジオラマ)を製作し、そこにデジタル制御を導入しサウンドデコーダーを搭載した車両を導入して動画を撮影して楽しむのも「アリ」ではないかということを述べました。今回はその実例を紹介してみたい思います。まずは下の動画をご覧ください。

BR103が駅を出発していくシーンの動画

この動画は現在制作中のレイアウトセクションで、駅で列車が出発していくシーンを撮影したものですが、音が存在することにより、実際に眺めても動画にとっても音がない場合と比較して臨場感が全く異なります。
また、下の動画は以前このブログでも紹介した『ALTENHOFのクリスマス」というレイアウトセクション(ジオラマ)上で撮影した動画です。このレイアウトセクション(ジオラマ)はどちらかというと列車の運転というよりは欧州の市街地の風景の再現をテーマにしたもので、線路は長さ1300㎜程度の複線の線路があるだけですが、そこに車両を走らせて見るとやはりサウンドありの車両となしの車両では実際に眺めても動画として鑑賞してもそこには大きな差があるように感じます。

レイアウトセクションを走るVT08

上記の動画はいずれもCentral Station3を用いてサウンドやライトは手動でON/OFFしています。例えば駅の発車シーンの動画は機関車に実装されているOperation Sound(機関車のブロワー音等)、Departure Announcement、ヘッドライト、キャブライト、汽笛をそれぞれ手動でON \OFFしています(Departure Announcementは出発のアナウンス、車掌の笛、ドアの閉まる音が含まれています)。下の走行中の動画ではOperation Soundと汽笛を操作しています。動画の中で聞こえるコンプレッサ音はOperating Soundの一部としてランダムに発生します。なお、VT08はStation Announcementと車掌の笛、ドアの開閉音は別のファンクションとなっていますが、BR103のような駅の出発シーンも可能です。なお、動画に登場するBR103は2018年、VT08 は2006年に発売された製品です。

一方、動画で見るのとは異なり、実際ににコントローラーを操作しながら発車シーンを眺めるのはなかなか大変でやはり発車シーンを眺めて楽しむためにはこの操作の自動化がしたくなります。ただ、このレベルの機関車のシーケンシャルな動作をCS3にプログラムすることは非常に簡単です(汽笛を鳴らすところまで、あるいはは一定速度まで加速するところまでをボタンひとつで操作するプログラムを簡単に作成可能です)。
さらに、CS3では、駅のアナウンス等の周囲音は、比較的容易に自分で作成したものを用いることが可能です。具体的には、自分で作成した周囲音(WAVファイル)を収録したSDカードをCS3のスロットに差し込むと、その音源は自動運転プログラムの中に追加することが可能で、運転中に任意のタイミングで流すことができます、そしてこの音はCS3に内蔵されているスピーカーまたはCS3に接続した外部スピーカーより流すことが可能です。今回の駅のアナウンスは機関車のデコーダーに実装されているものを使用していますが、この機能を利用することにより機関車のデコーダーのサウンドファイルを書き換えることなく、任意の駅のDeparture Announcementを鳴らすことが可能です(もちろん他の周囲音を流すことも可能です)。

CS3に挿入されたSDカードの音源ファイル
自動運転プログラムに追加されているサウンドファイルの一例

下の動画は私が40年以上前に新宿駅で録音したEF64牽引の中央線普通列車の発車時の駅の案内放送をSDカードに収録し、それをサウンドファイルとしてCS3の自動運転プログラム上でで再生している動画です。これを冒頭の発車シーンのDepature Annoucementの代わりに自動運転プログラムに組み込めば、列車の出発時にこの音案内放送をCS3(外部スピーカー)から流すことができます。具体的にはカセットテープ音源をデジタル化してiTunes(Apple Music)でファイルの一部を切り取りWAVファイルに変換して行いました。デジタル音源さえあれば全てiTunes(Apple Music)上でできますので非常に簡単です。デジタル音源がありIyunes(Apple Music)でのファイルの切り取りとWAVへの変換方法がわかれば作業は30分もかかりません。

CS3に接続可能なスピーカーは1個ですので、発生させることができる場所は1ヶ所のみですが、音源さえあれば新宿駅の中央線でも東京駅の東海道線でも任意の駅のアナウンスを簡単に流すことが可能です(もちろん駅弁売りの声等、他の周囲音も流すことが可能です)。日本ではサウンドボックスという製品が発売されているようですが、周囲音は任意の音(自分が好きな音)をスピーカーから、機関車が発する音は機関車からというのが鉄道模型の音の出し方として正しい方法であるという気がするのは私だけでしょうか。
思えば小学生の頃、夕方の東京駅で次々と発車していくブルートレインを役眺めていた頃から50年以上経ちましたが、模型の世界で音を含めてそのシーンが再現できるとは鉄道模型の技術の進化には驚くものがあります。ただ、現状では、海外で見た欧州の駅のシーンが簡単に再現できても日本のシーンが簡単には再現できないことは、やはり残念に感じます。
以前からよく話題にしたかつてTMSに掲載された”鉄道模型における造形的考察の一断面”という記事の中で、執筆者の中尾豊氏は『我々がモデルに接した際の感情が、我々があらかじめ実物に対して抱いている美的感動や記憶と一致した時にそのモデルを実感的と感ずる』という趣旨のことを述べておられます。当時はまだ簡単に模型から実物のような音がする(音を出すことができる)ということは考えられなかった時代ですが、サウンドデコーダーの製品化はモデルの鑑賞の方法に新風を吹き込むものではないかと感じています。
話を動画撮影に戻しますと、冒頭の動画のようなシーンを全て手動で行うのであれば簡易型のコントローラーであるMobile Station2でも動画の作成は可能です。ただ、ファンクションのON /OFFボタンは8個しかなく、Shiftキーで画面を切り替ながら必要なファンクションを順次呼び出してON /OFFを行う必要がありますので撮影の前に結構練習が必要で、動画での鑑賞ではなく操作をしながら実物を眺めて楽しむことはまず不可能だと思います。なお、モバイルステーションを使用する場合は車両やレールをセットにしたスターターセットが各種用意されており、単体で購入するよりはかなり安価な価格設定になっていますのでそちらの購入を検討してもよいかもわかりません。ただ、国内で購入する場合には法令の関係上、現地で製品に付属している電源(ACアダプタ)の扱いについては販売店への確認が必要です(日本仕様に電源はMärklinからは発売されておりません)。

最後までお読みいただきありがとうございました。