デジタル制御で何ができる?(5):デジタル制御には何が必要?・いくらかかる?(1)

前回、現状ではデジタル制御は車両も含めて海外製のシステムを使用することが電気工作の経験やソフトウエア専門知識を持たない一般の鉄道模型ファンにとってはデジタル制御を楽しむ最も簡単な方法であるということを書いてしまった(日本の現状では書かざるを得なかった)のですが、それでは海外の製品を使用してデジタル制御を楽しむためには何が必要で、どのくらいの費用がかかるのかを紹介したいと思います。なお、私は製品は海外のショップから個人輸入していますのでその事例を紹介しますが、当然製品の個人輸入と使用にはリスクがありますので、個人輸入で楽しむ際はあくまでも自己責任でお願いします。個人輸入が不安な方は多少価格が高くても国内の販売店から購入することをお勧めします。

Märklin Digitalの制御機器

<DCCの概要とデジタル仕様の機関車の価格>
今までアナログ制御での運転を行っていた方がデジタル制御を導入しようと考えた場合、その導入にはどのくらいの投資が必要かは大きな関心事だと思います。現状、デジタル制御に必要な機器を取り揃えて販売している模型店は都市部でもあまりなく、機器を購入するにはネット通販を利用することが多いと思いますが、DCC制御の導入にあたってどのような機器の購入が必要かよくわからない方もいるのではないかと思います。DCC制御の楽しみ方は人それぞれであり、各種ある機器からいきなり「この」メーカーの「あれ」と「それ」を使うのが良いと言われてもDCCの概要と販売されている機器の役割がわからないとそれが本当に自分にとっての正しい選択か判断するのは難しいのではないかと思います。そこで今回はまずDCC制御の概要をDCC制御に使用される機器を切り口として簡単に説明してみたいと思います。また、Märklin Digitalを除き、各メーカーのDCC製品は原則米国のNMRA(National Model Railroad Association)が制定している標準に則って動作しますので、一つのメーカーを例にして販売されている機器とその役割が理解できれば他社製機器でもその機器がDCC制御でどのような役割を持った機器かが理解でき、自分に適したDCCメーカーと製品を探すのにも役立つかもわかりません。そこで今回はまず1社の製品を例にDCCの概要をDCCに使用する機器の役割という観点から説明し、その後DCCの導入にどのくらいの投資が必要かについて、海外からの個人輸入で購入する場合を例に紹介したいと思います。当然電子機器の海外からの個人輸入は製品の日本の法規制対応や製品の破損等の面からリスクがありますが、日本での製品価格がショップで結構ばらついているのに対し、海外の大きなショップではショップごとの価格差は少ないようですので、まずは海外での機器の価格と日本から輸入した場合販売価格に加えてどのくらいの手数料がかかるのかを事例に基づき紹介させていただきたいと思います。ただ、DCC制御については実際に使ってみると結構わからないことが出てくると思いますので、個人輸入は上記のリスクに加え、海外からの購入では気軽にショップに相談してサポートを受けることが難しいという面もあります。採用するメーカーと機器が確定すれば日本で機器を購入する場合の投資額は簡単にわかりますので、サポート体制も考慮しながら個人輸入で入手するか国内ショップで購入するかは(どのショップで購入するか)は購入者で判断していただければと思います。また繰り返しになりますが、個人輸入を選択する場合は上記のリスクがありますので、機器を輸入する際には注意してください。私が認識しているリスクはあとで少し具体的に説明したいと思います。また、今回は前回までに紹介したDCC仕様の機関車について、私が海外ショップから購入した価格を紹介し、DCC機器類は次回、私が製作したレイアウトを事例に紹介したいと思います。

・ DCC制御の概要と必要な機器
細かい部分は抜きにしてDCC制御の概要を簡単に理解するためには、具体的にに販売されている製品とその製品が持つ役割を理解するのが手っ取り早い方法ではないかと思います。私が使用しているMärklin製のシステムは構成が少し特殊なので、今回はNMRAのお膝元である米国Digitrax社製のシステムで説明します。Digitrax社のホームページを見ると製品にはDCC制御導入の為のStarter Setsがあります。その中のEVOX Evolution Express Advanced 5A/8A Starter Setという製品には以下名称の機器がセットになっています。
・ DCS210+ Command Station/Booster With Intelligent AutoReverse
・ DT602 Super LocoNet Throttle
・ UP5 Universal Panel
・ Power Supply
・ Evolution Express Manual
商品説明にはEvolution Express is perfect for most home and club layouts. と記されています。club layoutsと記載されていますので、かなりの大レイアウトにも使用可能なセットだと思われます。まずはこれらの機器がDCC制御の中で果たす役割を説明したいと思います。なお、名称からもわかるように一番下はマニュアルで、この内容はDigitraxのWEBサイトで閲覧することができます。
これらの機器の中でCommand StationがいわばDCC制御の中核をなす機器です。この機器に同梱のSuper LocoNet ThrottleとPower Supplyを接続して、この機器の出力端子をレールと接続します。このCommand Stationは、Power Spplyから供給された電力を車両駆動用の矩形波に変換するとともに、Throttleから送信される制御用のコマンドに応じた信号波形を車両駆動用の矩形波に重畳させてレールに送り出す役割を担います( LocoNet ThrottleのLocoNetの意味は後ほど説明します)。また、この機器がレールとのインターフェースになりますので、車両の在線検知を行うデバイス(Feedback Module)からの信号等、自動運転等に必要な情報(Feedback情報)もこの機器で受信します。さらに、この機器はUSBでPCとの接続ができますので、この機器とPCを接続し、PCでこの機器から得られるFeedback情報等に基づき車両や分岐器制御用のコマンドを発効するプログラムを作成し、プログラムに従ってPCから制御用コマンドをCommand Stationに送り、Command Stationで駆動用の電流に重畳してレールに送信すればPCによる自動運転を行うことができます(具合的なプログラム方法は私にはよくわかりませんのでこれ以上は記載をしませんのでご了解ください)。
次にUniversal PanelとBoosterを説明します。DCC制御はレイアウト全体に同一の制御用の信号を同一のタイミングで制御対象(車両や分岐器)に与えることが必要で、そのためにはレイアウト上の左右各々のレールはレイアウトの全域にわたって導通していなければなりません。2線式のアナログ制御では短絡防止やレイアウト上で複数列車を運転するためにレール上にギャップを設ける必要がありますが、前述のようにDCC制御ではレイアウト全体に同一の制御用の信号を同一のタイミングで制御対象(車両や分岐器)に与える必要があるためレールにギャップの設置することは「禁止」です。一方、DCC制御もアナログ制御と同様、レールを全て繋げて、レイアウト上に複数の列車を走行させると電源の容量不足やフィーダーから遠いところでの電圧降下が発生しますので、特に複数の列車が走る中型から大型のレイアウトでは線路をブロック分けしてそのブロックに別の電源から電力を供給する必要が生じます。そうするとギャップは「必須」になります。しかしそれでは列車の走行に必要な電力は確保できても制御用のDCC信号が分断されてしまいます。このジレンマを解消する方法として、給電区間を分割しなければならない大型レイアウトではレールとは別にCommand Stationが生成する制御用のDCC信号のみが流れるBUS LINEをレールとは別にレイアウトに敷設します。そしてBUS LINEの途中に設置し、このBUS LINEからの情報を取り出す為のコネクタを備えた機器がUniversal Panelです。そしてブロック分けした区間では、その区間用の電源からの電力を駆動用波形に変換し、BUS LINEの途中に設けられているUniversal Panelから取得したDCC制御用信号を走行用駆動波形に重畳させてそのブロックに供給すれば、そのブロック分けした区間にもCommand Stationが発信するものと同じ制御用のDCC信号を重畳した波形の電流を流すことができます。この駆動用電力と制御用信号を重畳する役割を持つ機器がBoosterと呼ばれる機器です。このようにBoosterの役割はCommand Stationの役割と似ています(Throttleからの情報の代わりにBUS LINEからの情報を走行用駆動波形に重畳させているだけです)。上記のリストの一番上の機器はCommand Station/Boosterという名称ですが、これはこの機器がBoosterとしても使用できるという意味になります。
また、同じジレンマはリバース区間のあるレイアウトでも発生します。このジレンマはレイアウトの大小には依存せず、リバース区間を持つ全てのレイアウトに発生します。リバース区間は使用する電源に例えレイアウト上の全ての列車を運転できる電源容量があっても、その区間の両側のレールに両ギャップを設けてその区間を完全に独立させなくてはなりません。すると当然この区間にはCommand Stationからの駆動電流も制御用DCC信号も流れませんのでこの区間に駆動電流と制御用DCC信号を流す必要があります。そのためにリバース区間があるレイアウトではリバース区間用のBoosterとリバース区間用の電源が必要となります。一方、リバース区間の出入口では列車がリバース区間に侵入する時点でリバース区間のレールの極性とリバース区間の極性が同じでなければなりません。そのためリバース区間に接続したBoosterは、列車がリバース区間に出入した際にレールの極性違いに起因するショート(急激な電流変化?)を検知した場合、瞬時に駆動用電流の極性を切り替える機能が必要です。上記のCommand Station/Booster With Intelligent AutoReverseという名称はリバース区間のBoosterとして使用する際、自動で極性を切り替え機能も持っているということを示しています。なお、リバース区間が1箇所でリバース区間に侵入した列車は元の電源供給区間に戻ってくるのであれば、列車がリバース区間にいる間にレールのリバース区間外のレールの極性を反転させれば良いということになりますので、そのような線路配置ではBoosterと電源を別に用意しなくでもリバース区間に対応できる機器が用意されています(DigitraxではAR1 Automatic Reverse Controller-Singleと言う名称です)。なお、Märklin Digitalはレールが3線式で、車両への電力供給位置が線路の中心線に対して左右対称ですのでリバース区間という概念はありません。そのためこのオートリバース機能を持った機器はありまん。

話をBUS LINEとUniversal Panelの話に戻しますと、Universal Panelに設けられたコネクタのI/F仕様はCommand StationのThrottleを接続するコネクタのI/F仕様と共通です。よってここにThrottleを接続して列車を制御することも可能です。また上記のBoosterの説明ではコネクタから情報を取り出すと記載しましたが、このコネクタに自動運転のための在線検知モジュール(Feedback Module)等を接続してその情報をBUS LINEを通じてCommand Stationに送信することもできます。このように、BUS LINEのUniversal Panelに取り付けられているコネクタは車両制御に必要な情報をBUS LINEに与えることも取り出すことも可能です。Dititrax社のCommand StationにはThrottleを接続するコネクタが3個ありますが、これはCommand Stationの中に短いBUS LINEが存在すると考える事もできます。Digitrax社ではこのBUS LINEのことをLocoNetと呼んでいますが、これはDigitrax社の商標であると同時にこのBUS LINEのプロトコルを表わす名称としても用いられているようで、他社のシステムにもLocoNetという名称が出てくることがあります。また、LocoNet Throttleという名称はLocoNetに接続できる(LocoNetのプロトコルに従ってコマンドをCommand Stationに送信する)Throttleであるという意味でつけられているのではないかと思います。

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デジタル制御で何ができる?(4):デジタル制御による運転の楽しみ方について

今までデジタル仕様の車両の機能をいろいろ紹介しましたが、今回は海外では普及しているデジタル制御がなぜ日本で普及していない理由とそれに基づく打開策(結果的には妥協案です)を私なりに考えてみたいと思います。

私は以前このブログで紹介した紹介したレイアウトセクション”終着駅Großfurra”を作成してデジタル制御による自動運転を楽しんでおりますが、今回紹介したような幹線を走る大型の車両を運転できるような固定レイアウトは所有しておりません。現在のところ今回紹介したような幹線を走る大型の車両はいわゆる「お座敷運転」で楽しんでいます。
私がデジタル制御を導入したのは2000年ごろですので、それから20年近くが経ちますが、それ以前も含めて考えてみると、鉄道模型の運転の楽しみ方は「自分が運転士になったつもりで車両を自由にコントロールする」ことと「線路脇でいろいろな列車が走ってくるのを眺める体験を模型の世界で再現する」の2点だと感じます。小学生の頃、線路脇にボール紙で製作したプラットホームを置いて列車を通過させたり停車させたりして楽しんだり、畳に顔をつけて列車の通過を見るのを楽しむということは、子供の頃から鉄道模型で遊んでいた方は必ず体験しているのではないでしょうか。そして時が経つにつれスペースや線路配置は少し大きくかつ複雑になりましたが、大型車両を「お座敷運転(情景なしの組み立て式レイアウトを含む)」で運転する際の車両の運転の楽しみ方については小学生の頃の楽しみ方とあまり変わらないように感じます。そのお座敷運転に今回紹介したようなデジタル制御を取り入れると何ができるかといえば、ヘッドライトをハイビームにしてみたり、警笛を鳴らしてみたりすることで、極端に言えば小学生の時の楽しみ方とあまり変わりません。走る列車の中で発生する音を聞きながら列車の動きを眺めることも想像力を掻き立てる効果はありますが、デジタル運転の複数列車が制御できる利点を活かして複数の列車を運転している場合には1本の列車に注目するわけにもいかず、効果は現象します。運転士気分が味わえるのも1本の列車に注目しているときのみで、一人で複数の列車を運転する作業は結構煩雑です。極端な言い方をすれば、高価なデジタル制御を導入してもお座敷運転でできることとその効果は限られています。お座敷運転で色々な車両を取り替えながら運転してその車両に実装されている機能を楽しむこともあり、それはアナログ運転にはない面白さであることは確かですが、あえて極端に言ってしまえばこれもすぐに飽きてしまいます。一方、小型のレイアウトであっても、レイアウトの中に置かれた車両の室内灯やヘッドライトが想定したシナリオに沿って制御され、列車が発車時にエンジン音を響かせて発車していく様子を眺めるのているたり、運転士気分で自分でコントローラーを操作し、駅を発車するとき警笛を鳴らし、動き始めるとエンジン音が大きくなっていくのを聞くと、お座敷運転でのデジタル運転よりは圧倒的に実感的で面白く、また列車をレイアウト上に停車させて運転に関係ないような音や光の制御(機関車の芸)を眺めるのも机の上に置いた線路で眺めるのとレイアウトという情景つきの舞台で眺めるのとでは気分が全く異なります。これまでに紹介した車両の運転には関係ないFunctionはレイアウトに停車中の車両で本来の運転とは別のところ(息抜き)で楽しむものかも分かりません。

シーナリー付きのレイアウト上で停車中に「芸」を披露するBR065

一方、アメリカには日本や欧州にない運転の。楽しみ方があります。日本にはほとんどないような大きなスペースに半島型のレイアウトを作り、その中で車両を実物の鉄道を模したダイヤで運転するという運転の仕方です。線路の総延長を増やすためレイアウトを2層構造にすることも行われています。このような運転では複数の個々の列車運担担当者が自分の「CAB」を持ち、運転士になった気分でレイアウトの周囲を歩きながら列車を運転します。レイアウトのはDCC信号を線路に流す信号ライン(BUS)を通しておき、レイアウトのところどころにあるBUSのI/Fにコマンドコントローラーを順次接続しながら列車の制御を行います。その際にはスケールタイムを決めて(レイアウトの規模に応じて1時間を何分にするを決めて)1日を1セッションとして楽しみます(例えば1時間を8分とかに設定します)。また、その運転は実際の鉄道会社が規定する規則(連邦鉄道局の規則)に則る場合も多いようです。これは「自分が運転士になったつもりで車両を自由にコントロールする」という楽しみ方の究極的な姿であるとも言えますが、このような楽しみ方は鉄道模型を「おもちゃ」として捉えてきた欧州にはあまりないようで、Märklinの現行ののコマンドステーションであるCSIIIにはそれまでCSIIのあったスケールタイム機能はまだ実装されておりません。そしてどちらかといえば欧州の楽しみ方は日本の楽しみ方に近いように感じます。ではデジタル制御が普及している欧米とそうではない日本との差は何かと考えると、それは車両をレイアウト上で楽しむか、車両をお座敷運転で走らせたり、ジオラマ上の動かない車両を眺めて(写真を撮影して)楽しむかの差ではないかと考えます。勿論レイアウトでの運転を楽しんでいる方も多くいらっしゃいますが、スペース的に有利な国鉄型以外の小型車両が走るレイアウトでは自分の好みのデジタル仕様の車両を簡単に(自分で改造せずに)入手するのは現状では至難の業(実質不可能)なのではないかと思います。

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デジタル制御で何ができる?(3):海外メーカー製デジタル仕様の車両の紹介) -デジタル仕様の機関車に実装されている機能の実例(蒸気機関車等)-

デジタル仕様の機関車をどのように楽しむかを考えるにあたり、もう少し機関車に実装されている機能を紹介したいと思います。前回は電気機関車に実装されている機能(Function)を紹介しましたが、今回は蒸気機関車に実装されている機能を紹介します。今回も動画を多数掲載してしまいましたが、お許しください。

この機関車は戦後に製造されたドイツ国鉄のBR065(#39651)で、蒸気機関車の中では比較的多くのFunctionが実装されています。まず紹介するのは走行音と汽笛とブレーキの軋み音です。動画ではわかりにくいのですがこの製品には発煙装置が組み込まれており、発煙のON/OFFが可能です。なお、動画に収録されているポツポツという音は発煙装置が発する音です。M¨arklinの蒸気機関車はほぼ全てに発煙装置が設置可能ですが、この製品は工場出荷時に取り付けられています。なお、発煙装置はドイツのSEUTHE社からのOEM品です(SEUTHE社が発売している装置も取り付け可能です)。

出発時の長い汽笛はパネルのタッチ(クリック)により長さの調整が可能です. 短い汽笛は1回のタッチ(クリック)のみで鳴らすことができます. ブレーキの軋み音はON/OFFが可能です.

ライトは進行方向に応じたヘッドライトのON/OFF,コールバンカー側のテールライトのON/OFF、キャブライトのON/OFF,入替作業時の点灯モードが可能です。

進行方向に応じて天道するヘッドライトはON/OFF可能です
コールバンカー側のテールライトはON \OFF可能です。進行方向には依存しません。
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デジタル制御で何ができる?:海外メーカー製デジタル仕様の車両の紹介(2) -デジタル仕様の機関車に実装されている機能の実例(電気機関車)-

今回のテーマ(表題)は「デジタル制御で何ができる?」ということなので第2回目はいきなりですが、デジタル制御でできる機関車の「芸」(機関車に実装されている機能の実例)を写真と動画で紹介したいと思います。使用する機関車は前回も登場したドラエモン顔のMärklin製BR193です。この機関車には全部で制限に近い31個のFunctionが設定されていますが、Märklin digitalのFunctionの数は最大32個となっていますのでこの機関車のFunctionの数は製品の中では多い方です。
 では、早速この機関車に実装されているライト、サウンド関連の機能を写真と動画で紹介しますのでまずは見ていただきたいと思います。なお、動画が多数ありますので環境によっては表示の応答が遅くなるかもしれませんがご了解ください。

まずライト関係のFunctionです。
ヘッドライトとテールライトの制御です。アナログ制御と同様、ヘッドライトとテールライトは進行方向により切り替わりますが、その他のライトも含め、ライトが停車中に点灯/消灯できるのがまずアナログ制御にはない大きな特徴です。私が鉄道模型を始めた当時はこの機能の実現には高周波転倒と呼ばれる方式(モーターが動かない高い周波数のパルス電圧によりライトを点灯させる)が主流で、その後一部メーカーから製品化もされているのではないかと思いますが、停車中にライトが消えてしまう問題はデジタル制御の採用で一挙に解決します。サウンドデコーダーが普及していない日本ではデジタル制御は一度に線路に多数の車両を乗せて、それらを選択的に運転できることと停車中にライトがON \OFFできることと思っている方もいるようですが、これらは1984年に最初にMärklin Digital が発売されたときに備わっていた機能で、いわば40年前から存在する機能です。

前回も紹介したようにキャブの室内灯のON/OFFが可能です。この機関車はONにすると前進側の室内灯が点灯し、進行方向を切り替えると室内灯も切り替わりますが、製品によっては個別に制御できる製品もあります。

片側のエンドのみライトを消灯することが可能です。主に機関車が客車を牽引するする際にテールライトを消灯するために用いられる機能です。ON/OFFは運転台ごとに制御できますので前回紹介したようなキャブ室内灯とヘッドライトのON \OFFを連携させる制御も可能です。

通常のヘッドライトに加えLong Distance Headlight(ハイビーム灯)が点灯します。ヘッドライトより輝度の高いライトが点灯します。

運転室のダッシュボードの計器盤内にもLEDが組み込まれており照明のON/OFFが可能です。

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デジタル制御で何ができる?:海外メーカー製デジタル仕様の車両の紹介(1)

先日、PCであるニュースサイトを何気なく見ていたとき、そこに先日東京ビッグサイトで開催された鉄道模型ショー(JAM)のニュースが掲載されていました、日本で比較的有名なニュースサイトに鉄道模型に関するニュースが掲載されること自体、私の年代の者にとっては時代の変化を感じたのですが、この中で日本の鉄道模型のデジタル化は欧米に比較して20年以上遅れているというようなテロップがついた映像が流れていたのが気になりました。これまでもこのブログで紹介してきたように、私の最近の興味の対象は主に外国製の鉄道模型(HOゲージ)ですが、現在保有している車両は全てデジタル仕様の車両です。現在、海外では現状ほとんどの欧米のメーカーがアナログとDCC仕様の車両を発売しているのに対し、日本ではDCC仕様の車両に製品が非常に限られているという印象を受けます。私が愛好しているMärklinのHOゲージの車両はほぼ全てがデジタル仕様となっていますし、米国メーカーの車両も$100程度の価格差でDCCのありとなしの2種類の製品が用意されている製品が殆んどです。もちろん日本型の車両でもDCC仕様の車両(米国QSI社製のQuantum systemを含む)は発売されており、改造等によりDCCを搭載して使用して運転を楽しんでいる方も多くいらっしゃいますが、日本の現状では一般に模型店の店頭等でサウンドデコーダーを搭載したDCC仕様の製品が備えている機能を目にする機会は少なく、それが日本でDCCが普及しない一因であるような気がします。ただ、蒸気機関車がドラフト音を出しながら汽笛を鳴らしエンドレスを周回しているだけではデジタル制御の面白さはなかなか伝わらないようにも感じます。昔の話ですが、私は学生時代、当時の晴海展示場で開催されていた鉄道模型ショーの天賞堂ブースで初めて見たコントローラーSL-1を用いたサウンド付きの機関車の運転を見た時の驚きが今でも思い出されます。ただ、現代のデジタル制御はそれよりはるかに多機能で、色々なことを行うことが可能です。そこで今回は甚だ僭越ではありますが、今回は数回に分けて、海外製の比較的新しいデジタル仕様のMärklinの車両を例に、実際にデジタル制御でどのよう車両の制御ができるのかを動画と写真で紹介させていただきたいと思います。


今回は初回としてデジタル制御で可能な基本的機能を紹介します。まずは機関車が発車する時のデジタル制御の実例を動画で見ていただければと思います。下はMärklin製BR182電気機関車(#39840)の発車時の動画です。

この機関車はドイツのSiemens社が開発したE S64U2というタイプの機関車で、通称Taurusと呼ばれる最高速度230km/hの機関車です。この機関車は2000年ごろからヨーロッパの各鉄道会社の仕様に合わせた仕様で各鉄道会社に納入され、鉄道会社固有の形式番号を与えられて現在も欧州各国で使用されています。そしてこの動画の音を聞いてお分かりの方も多いと思いますが、この機関車は最近話題となった京浜急行1000系の「ドレミファインバーター」の制御器と同系統の制御器を搭載しています。このため音階はチューニングされていないものの、発車時には京浜急行の「ドレミファインバーター」を彷彿とさせる音を発して加速していきます。もし、日本の製品にもこのようなインバーター音が出せる京浜急行の1000系や常磐線501系電車の模型が市販されていたら思わず欲しくなってしまうのは私だけでしょうか?
また、下の写真は冬、私が撮影した深夜の水上駅に停車中の上り急行「天の川」、特急「北陸」の写真です。停車中の機関車はヘッドライトが消灯してキャブライトが点灯していますがやがて発車時刻になるとキャブライトが消灯した後ヘッドライトが点灯し機関車はブロワーの音を響かせて発車していきます。

水上駅に停車中の上り急行天の川. ヘッドライトは消灯しキャブライトが点灯しています.
発車会津とともにキャブライドが消灯し、ヘッドライトを点灯させ水上駅を出発する特急「北陸』

実際に見るとこのようなシーンは印象的で、模型でも再現したくなりますが、このシーンもキャブライトが制御できるサウンドデコーダー付きのデジタル制御の機関車であれば容易に再現することができます。下はそれを再現したMärklin製BR193(#39197)の発車時の動画です。

この機関車は上記Taurusの後継機でVectronと呼ばれるSiemens製の機関車です。この機関車も鉄道会社に合わせて出力、最高速度等がその鉄道会社に合わせた仕様に設定できるセミオーダーメイドの機関車で、欧州で幅広く使用されているものです。前面に冷却風の取り入れ口がありそのグリルが猫のひげのよう見え、特に青系の塗装がされた機体は日本人が見ると思わずドラエモンを連想させるような車両ですが、欧州では最新型の車両の一つです。なお、この機関車はその後の制御機器の改良で日本でドレミファインバーターの音が聞けなくなったのと同様、この機関車は発車時制御器からのドレミファインバーターのような音は聞こえません。

最近、日本の雑誌を見ていると実物の情景を再現したようなジオラマ(レイアウトセクション)が多く発表されており、その情景の素晴らしさには目を見張るもがありますが、これらの記事のは制御方法に対する説明がほとんどありません。記事では分かりませんが、もしそれらのレイアウト上の車両が、車両を置いて写真を撮っているだけ、あるいは単にアナログ制御で車両を動かすだけであれば、それだけではなく、そこに光と音の制御が加わればどんなに楽しいかは想像に難くありません。デジタル化はというと大きなレイアウトで分岐器や複数列車を制御するためだけのもの、あるいは一部のマニア向けのものと思っている方もいるかもしれませんが、実際に車輌を手にして見るとデジタル制御の面白さははそれだけではありません。鉄道模型を趣味としてる者が、模型店に行った際にデジタル制御で動いている模型を見る機会が増え、例え難しくても頑張ればなんとか出来そうな(電気工作の知識がある人に教えて貰えばできそうな)車両のデジタル化に関する記事が雑誌に掲載されていれば、自分もトライして見ようとする人が増え、それが鉄道模型のデジタル化のきっかけになるのではないかと思うのは私だけでしょうか。前回、12系客車の床下機器の制作記事でも述べましたが、雑誌の記事をきっかけに実際に手を動かして見ようという方が増え、パーツも充実するということもあり得なくはありません。海外の雑誌には私が購読している米国のModel Railroder誌や欧州のMärklin Mabazinに、車両へのデコーダーのインストール方法が時々掲載されています(後者はの対象はMärklin 製製品の改造方法ですが・・・)。


一方、現状ではメーカーにはデジタル化を推進しようという機運は見られません。メーカーにとってはデジタル仕様の車両の製品化には従来より多額の投資を必要としますし、その投資に見合う数量が販売できるかも考えるとリスクが大きいと考えているのではないかということは理解できます。海外製のデコーダー導入してそれを形式ごとの特徴に合わせて日本仕様にカスタマイズするにはそれなりの技術も必要だと思われます。ただ、日本の製品が全くデジタル化を意識していないわけではなく、日本の製品でもデジタルデコーダーの標準規格である21ピンの端子が基板に設けられている製品もあるようです。私が学生の頃、鉄道模型雑誌(TMS)には素人(電気的知識や工作経験がない者)には非常にハードルが高いと思われるトランジスタコントローラーの製作法が回路図も含めて掲載されており、私もなんとか制作できないかと思ったものですが、今は上記の製品の21ピン仕様に対応した海外製のデコーダーを使用すれば少なくともそれよりは簡単に車両のデジタル化は可能ではないかと考えられます。このように考えるとこの現状を打開するためにはユーザー側から鉄道模型のデジタル化の機運を盛り上げることも必要かと思います。そのためにはやはり鉄道模型雑誌が市販のパーツ(デコーダー・スピーカー)等を用いて車輌をデジタル化する詳細手順を掲載していただくと、それをきっかけに少しは普及が進むのではないかと考えます。私もまだアナログ仕様の車輌をデジタル仕様に改造したことはありませんが、デジタルレコーダーは非常に高価であるとともに配線ミス等で割と簡単に破損するようですので、独学で英語のマニュアルを頼りに改造を行うことに対するハードルは結構高いと感じます。個人のWEB SITEには改造記事もありますが、やはり改造のハードルを下げるためには信用できる(複数の専門家により充分にレビューされた)メーカーのマニュアル以上の詳細な手順の説明が欲しいと感じます。余計なお世話と言われてしまえばそれまでですが、日本のメーカーの製品の中には車両の動きと同期して運転時の音を出すことができるサウンドボックスというような製品もあるようですが、普及すると日本の鉄道模型がガラパゴス化してしまわないかはちょっと心配です。
そこでせめて現在私にできることとして次回以降、このデジタル制御でどのような車両の制御ができるかを紹介してみたいと思います。紹介する車両は外国型で、紹介するシステムも専用のコマンドステーションを使用するMarklin Digitalというどちらかと言えば特殊なものですが、模型店の店頭で車輌を眺めるように、まずはデジタル制御とはどんなもので一体なにができるのか、その動作(車両が演じることのできる芸?)の詳細を紹介させていただきますので、それにより少しでもデジタル制御の面白さを感じていただければと思います。そしてこの記事を読んだ方が少しでもデジタル制御に興味を持っていただければ幸いです。

When is your realism level good enough?:Zゲージレイアウトのrealism level(Trackside)

プラキットと自作した建造物を比較し、両者のrealism levelに問題がないことが確認できましたので、いよいよ本格的なレイアウトの製作に入りました。最初に行った台枠の製作は何分初めての経験でしたが前回ご紹介したTMSの解説記事と首っ引きでなんとか仕上げることができました。なお、前回ご紹介した私が参考にした解説記事については、喜芸出版社から発行されている”レイアウトテクニック”という本に掲載されています。TMSのバックナンバーを収集するのは結構大変ですがこちらの本であればわりと容易に古書店等で入手可能ではないかと思われますのでよろしければ参考にしてください。そして今回の台枠の製作についてはほぼ記事通りに行いましたので特段述べることもありませんが、一つ言えることは「工具にあまり費用を惜しんではいけない」ということでしょうか。私は最初自宅にあった購入時期不明の鋸等を使用して切れ味が悪く作業が捗らず苦労をしたのですが、工具を新調した結果作業が効率よく進むようになりました。そしてこの台枠の製作が終わるといよいよ線路の敷設になり、その後バラストを散布、線路の周辺(trackside)の部分の製作となります。この際、製品の線路とバランスの取れたtrackside(線路や車両とのrearism levelと同等のrearism levelを持つtrackside)をどのように製作するかが次の課題となります。何分Zゲージレイアウトという当時国内の雑誌では製作法が殆ど掲載されていないゲージのレイアウトであるため参考にできる情報がほとんどなく、その線路周りを実感的に仕上げるためにはどうしたら良いかは製作前に色々検討が必要でしたし、ある程度見切り発車で製作を開始することも必要でした。そこで今回は製作前の検討内容と実際の製作法、およびその結果をご紹介させていただきます。
・線路
線路関連の部材は全てメルクリン製を使用しました。線路はメルクリンの他には英国のPECOからZゲージ用のフレキシブルレールが発売されていますが何分初めてのことでもありやはり線路関係のパーツは全て「純正」品を使用した方が無難ではないかと考えた次第です。メルクリンのレールの高さを実測するとレール高約1.5㎜でCode59程度になります
((1.5/2.54)x100=59.1)。ただ、PECOのZゲージ用レールはカタログにはCode60と謳われておりカタログにもメルクリンの分岐器と組み合わされている写真がありますのでメルクリンのレールもCode60ではないかと思われます(正確な値は不明です)。

WEBで調べるとUIC(International Union of Railwais)やEN(European Norm)で規定された実物の60kgレールの高さは約172㎜のようですので、HOスケール(1/87)でその高さは1.97㎜でCode78、Nスケール(1/160)ではCode42、Zゲージ(1/220)ではCode31がスケールどおりの高さになります。手元にある当時の英国PECOのカタログを見るとHO/OOにはCode100,Code75がラインナップされています(その後Code83が追加されました)。Nゲージ用はCode80とCode55の2種、Zゲージ用は前述のようにCode60です。このようにHOスケールではスケールどおりの高さのレールが発売されていますがN,Zと縮尺比が大きくなるに従ってレール高さはオーバースケールになり、Zゲージではレール高さはスケールの約2倍となります。下の写真はZゲージの車両をレールに乗せて真横から見たものですが確かに線路高さと客車の寸法比率は実物とかなり異なります。

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鉄道趣味を50年続けて思うこと(3)~芸術と鉄道・映画の中の鉄道模型(鉄道趣味とジェンダー)~

映画には鉄道が出てくるシーンが多数あります。かつてのSLブームの頃は高林陽一氏が監督をした「すばらしい蒸気機関車」という作品がロードショーで封切られ、私も中学生の頃、鉄道模型百年の記念に東京ー桜木町間を走ったD51を有楽町で見た後、日劇(丸の内東宝)でその映画を見たことを覚えています。その他、鉄道員の人生をテーマにした作品は数多くありますが、それらは鉄道愛好家の方であれば大体ご存知と思います。しかし今回はそのような映画ではなく、鉄道とは全く関係ない映画の中の鉄道(鉄道模型)が出てくるシーンでで印象に残っているシーンを挙げて、それに関連して趣味とジェンダーについて考えてみようと思います。
その映画は2015年に公開された「キャロル」という映画です。この映画は内容はまだ性の多様性が認められていなかった1950年台の女性同士の恋の物語で、内容は鉄道とはまったく関係ありません。

原作はPatricia Highsmith(1921-1995)の小説 「The price of Salt」だそうです。Patricia Highsmithはアラン・ドロンの映画で有名な「太陽がいっぱい」の作者でもあります。この映画で鉄道模型が出てくるシーンは冒頭でケイト・ブランシェットが演じるキャロルとルーニー・マーラが演じる写真家志望のアルバイト店員テレーズが初めて出会うシーンです。

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鉄道趣味を50年続けて思うこと(2)~芸術と鉄道・小説の中の鉄道~

前回、”鉄道と美術の150年”の見学をきっかけとして鉄道模型と芸術の関係(違い)と最近での鉄道模型雑誌に対して思うことを記載させていただきましが、今回は少し趣向を変えて美術以外の芸術の中に出てくる鉄道に関して私が今まで接した作品の中から印象に残っているものを紹介させていただきたいと思います。
近頃マスメディアにも「鉄道オタク(鉄オタ)」という言葉が出てきます。私も紛れもなくその一人ではあると思うのですが、この言葉には「撮り鉄」「乗り鉄」「模型鉄」等の言葉が表すように鉄道そのものを中心に据えて色々なことを楽しむ(追求する?)という活動のイメージがあります。一方、鉄道は長年に渡り人々の生活の中に浸透していますので美術以外の色々な芸術作品の中にも鉄道は現れます。そこに現れる鉄道は鉄道をそのまま描写したものばかりではありませんが芸術家(創作者)が鉄道のどのような部分を抽出して読者に訴えかけているかを考えると色々興味深いところがあるような気がします。

<鉄道と小説・トーベ・ヤンソンの”機関車”>
鉄道を題材とした文学の中には宮脇俊三氏の作品に代表されるような鉄道紀行のジャンルがあります。それ以外のジャンルの文学でも鉄道は小説の中には頻繁に登場しますが、そのような小説とはちょっと異質で私が印象に残っている作品は、ムーミンの作者として有名なフィンランドの芸術家、トーベ・ヤンソンの「機関車」という小説です。この小説は筑摩書房発行のトーベ・ヤンソンコレクション5”人形の家”の中に収録されています。

この小説の主人公は蒸気機関車を設計する鉄道技師です。彼は機関車を設計することはあくまで「単なる仕事」と割り切って淡々と業務をこなしています。一方、自宅では「機関車の本質」を図録(絵)で表現することに情熱を燃やしており、自宅でその創作に没頭しています。

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鉄道趣味を50年続けて思うこと(1)

私が鉄道模型を初めて手に取ったのは1964年の2月、新幹線開業の直前で早くも50年以上が経過しました。その中で車両の製作、レイアウトの製作、鐵道写真の撮影を行なってきましたが先日このブログで紹介した北海道のキハ56、キロ26で1990年代までに製作した車両の紹介も一段落しました。今後引き続きその後に製作した作品やレイアウト等についても紹介させていただきたいと考えておりますがこの辺りで一度、今の私が現在の鉄道模型を含めた鉄道趣味について思っていることを述べさせていただきたいと思います。極めてとりとめのない個人的な見解で異論があることは承知の上ですが、よろしければ小学生の頃から鉄道模型を始め少し前に仕事をリタイアした高齢者の戯言として読んでいただければ幸いです。

<”鉄道と美術の150年”と”国宝展”を見て思うこと>

先日、東京駅のステーションギャラリーで開催されている鉄道開業150周年にちなんだ美術展「鉄道と美術の150年」という展示会を見学しました。近くの上野の東京国立博物館では開館150周年を記念して「国宝展」が開催されています。私はここから鉄道が開業した年と東京国立博物館はできた年が同じことを初めて知りました。また日本で初めて「美術」という言葉が用いられたのも150年前だそうです。国宝展はその名からも分かるようにかつて教科書に載っていたような有名な美術工芸品が多数展示されており非常に興味深く見学しました。一方鉄道と美術の150年は国宝級の作品はないものの、鉄道黎明期から今日に至るまでの錦絵、美術作品、写真等が展示されており鉄道と芸術との関わりを目の当たりにすることができ、こちらも非常に興味深い美術展でした。

鉄道と美術の150年の図録とFlyer

これらの展示会を見学後、私はかつて鉄道模型趣味趣味に掲載された中尾豊氏執筆の鉄道模型の造形的考察の一断面という記事の中にあった現在の我が国のモデルは動く彫刻でもなければ小機械でもなく、ましては真の科学の研究対象でもない。科学や将又芸術などと称する一般的な意味における美名に隠れるにはあまりにもプリミティブな内容にすぎない・・・』という一説を思い出しました。美術展に出品されている鉄道をモチーフとした絵画作品は写実的な作品から抽象的な作品まで多岐に渡りますが、作品に描かれた鉄道はいずれも抽象化されたりデフォルメされて表現されており、実物の形状を正確に再現したモデルとは全く異なります。しかし作品を通じ作者が鉄道を通じて表現したかった想いを理解し共感したとき、正確かつ細密に作られた模型を見ても味わえない感動が得られます。氏のいうようにやはりモデルは何なのか、モデルはモデル以外の何者でもないのかということを改めて考えさせられる展示会でした。

しかし中尾豊氏は同じ記事の中で『我々が現実にモデルにおいて表現しようとする美は決して実物から受ける美的感動そのままではない。我々は我々の感覚と技能によって展開される実物と全く異なった別個の一つのあたらしい世界、モデル自体が持つ造形美の表現を目指しているのである。その表現は実存する鉄道との自然関係を全く脱却した一個の観念界と称すべきものを作り、いわゆる美的観念性を具備するに至る』とも述べておられます。見て美しいと感じるモデルは、実物の形状をそのまま再現(模倣)しただけでは不十分で、一つの作品としてその作品に対する製作者の想いがそのモデルの中に感じられ、それが鑑賞者の想いとと共有されたとき、鑑賞者はそのモデルを美しいと感ずるのかもわかりません。こう考えると「よいモデル」を製作するためには芸術的センスが必要なのかもわかりません。

<最近の鉄道模型雑誌に対して思うこと>

最近よく『インスタ映え』とか『SNS映え』という言葉がよく出てきますが最近の模型雑誌を見ていると掲載される作品(写真)があたかも実物そのものであるかのような写真映え(雑誌映え?)するモデルに偏っているため、それがよいモデル(みんなが目指す方向のモデル)と勘違いされている傾向があるような気がします。

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Märklin CS3による自動運転を前提としたレイアウトセクション”終着駅Großfurra”の紹介(2):自動運転プログラムの一例

今回は2回目としてメルクリンデジタルシステムによる自動運転を行うことを前提に製作したレイアウトセクション”終着駅Großfurra”の自動運転プログラムの一例をご紹介します. 今回はまず具体的なプログラムを紹介する前にシステムの概要とプログラムの基本構造を説明します。そのあと具体的なプログラムの例を提示しますのでプログラムの基本構造の説明を参考にして自動運転プログラム作成の参考にしていただければ幸いです.なお、今回, CS3のソフトウエアバージョンは2.4.0(5)(2022年7月時点の最新版)を使用しています.また,プログラムの作成方法は必ずしも最善の方法ではなく他にも方法があると思いますのでその点、ご留意ください.

最初に今回作成した自動運転プログラムによる自動運転の動画をご覧ください。

<メルクリンの自動運転システムの概要>
メルクリンデジタルシステムにはコントローラーとして”Central station”と”Mobile Station”が用意されていますが、このうちの”Central station”がいわば今回の自動運転の中核を成す機器になります。現行の機種はCentral station3(以下CS3と記載します)になります.そしてこのコントローラーに各種デコーダーを接続することにより、さまざまな自動運転が可能になります。これらのデコーダーを含めたシステムにはメルクリン独自のmfxというコントローラーとデコーダーの間で双方向通信が可能なプロトコルが採用されており,デコーダーの設定はCS3上で比較的簡単に行なうことができます.DCCにおけるCV値(Configuration Variable)の設定という概念は通常の設定作業ではほとんど不要です. また, 列車の在線検知もメルクリンの3線式の特徴を活かした簡単かつ信頼性の高い方法で行うことが可能です. メルクリンデジタルシステムはHWとSWを自社で開発し、それらをトータルシステムとして提供しているという点ではアップル製品と似たものがありますが、アップル製品と同様、他社の製品をこのシステムで使用しようとするとその特長は制限されます. ただ、CS3や各種デコーダーはDCCプロトコルにも対応していますのでDCCについてある程度専門的な知識さえあればDCC車両の自動運転も可能と思われます(私は実際にDCCを扱ったことがないのでこれ以上のコメントは控えます).なお、今回CS3と各種デコーダの詳細な機能と取扱方法, CS3へのデコーダーの登録方法(機関車,分岐器や信号機のCS3への登録方法)の詳細は説明しませんので、詳細はメルクリンのウエブサイトに掲載されているマニュアルまたは別売の解説本(Large Manual Controlling Digitally with the Central Station 3 (Item # :03093))を参照してください。いずれも英語版ですが,いずれも英語は比較的平易で図も豊富に掲載されていますので私のように英語があまり得意でなくてもある程度内容は理解できると思います. なお, 最新のデコーダーや信号機もmFxプロトコルに対応しており,設定は従来の機器より簡単に行なえます.

<線路配置の概要>
線路配置の概要は(1)にも記載しましたが,レイアウトの線路配置とS88コンタクトの位置をCS3のトラックダイヤグラムのスクリーンコピーで下図に再掲します. グレーアウトした部分は今回のレイアウト以外の部分で, 今回説明する自動運転は機関区のセクションを車両の引き上げ線として使用します。機関区セクションと終着駅のセクションはスペースの関係上対向した形で接続されていますが、中間にある程度のスペースをとれば両者ともより実感的に運転ができると考えられます. この間に挟む線路の長さはプログラムには影響しません(プログラムの作り方によっては多少の調整が必要になります).

レイアウトセクションの1番線、2番線、貨物駅にはそれぞれ2箇所のS88コンタクトを設置しています。一方, 引き上げ線となる機関区側は各々の線路終端にS88コンタクトを設置しています.なお、機関区側の自動運転では,S88コンタクトが線路終端にしか設置されていないため車両に停車コマンドが発動する前に車両に各種コマンドを与えることができないので停車直前の車両に汽笛吹鳴等、各種の動作指示を与えることができません.今回の終着駅セクションではこの反省に鑑みて,各引き込み線には複数のS88コンタクトを設置しました.

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