前回のD51の紹介記事に記載しましたが、このD51をもって私の手元にある蒸気機関車キットは底をつきました。近年はこのような加工のベースとなる蒸気機関車のキットは殆んど市販されておりません。現在販売されているキットは外国製のDCC制御の機関車であれば数両購入できる高価なものばかりです。これらのキットは言わば接着剤の代わりにハンダを使用するプラモデルのようなもので、そのまま組み立てれば所謂細密機が完成しますが、各部のディテールの表現方法(レベル)を考えそれに応じた製作方法を考えるような楽しみが味わえないような気がして、なかなか食指が動きません。この傾向は電車等のキットの傾向も同様で、価格も後日製作することを考えて取り敢えず買っておくというようなレベルではありません。DCC制御による運転の楽しさを知ってしまった現在、正直日本型車両の製作はもう終わりにしようかなという気もしています。そうはいってもこのまま長年楽しんで来た日本型鉄道模型をやめてしまうのも寂しいですので、将来外国型モデルと同等の価格帯の日本型のDCC搭載機が発売されることを期待して、この機会にかねてからのもう一つの夢であったなかお・ゆたか氏製作の”日本型の機関区のレイアウトセクション、”蒸気機関車のいる周辺”のようなレイアウトセクションを作成してみようかと思い、検討を開始しました。その中で、まずはその中心となる機関庫の製作をしてみることとしました。
私は今まで日本型の建造物(ストラアクチャー)の製作経験は殆んどありません。今まで私は外国型のZゲージ、HOゲージのレイアウト(セクション)を製作してきましたが、一部を除きストラクチャーは欧州製のプラキットを使用しています。かつて日本ではストラクチャーキットは殆んど発売されておらず、それがレイアウト製作の障害になっているというようなことが言われていましたが、最近ではレーザーカットによる加工ができるようになったせいか市販の建造物キットも多く見かけるようになりました。ただ、ストラクチャーのプラキットを使用してレイアウトを製作した経験からいうと、既成の建物を使用してレイアウト(セクション)を作成する場合にはそれらを使用して自身のレイアウト(セクション)の個性をいかに出すかが課題になるような気がします。特にレイアウトが小型になる程建物がレイアウト全体のイメージを左右します。そのため私の製作した自動運転レイアウト “終着駅Großfurra” では建造物は全て自作しました。一方、今回は日本型のレイアウトセクションですので、そこには昔の自身の体験に基づく『心象風景」を再現したくなります。私が蒸気機関車のいる風景を体験したのは、その末期で決して日常的に見慣れた風景ではなかったのですが、そのような時代を知る者にとっては市販の建造物キットを使用することには抵抗があり、建物は自作したくなります。幸いなことに蒸気機関車時代の日本の建造物は、欧州の建造物に比較すれば構造が単純である(装飾があまりない)ため。手間さえかければペーパー車体を製作する要領で自作できそうな気がします。そこで、レイアウトには自分がイメージした建造物を配置することとして、まず機関庫を製作してみることとしました。
その構想ですが、北海道仕様の機関車が集う機関区ですので、機関庫は「北海道タイプ」の機関庫としたいところです。ただ、私が製作したような幹線用急客機が配置されている機関庫はコンクリート造りの扇形庫や大型の機関庫が多く、それらには一目でわかるような北海道に特徴的な形態というものはあまりないようです。ただ、機関支区や駐泊所等の木造の機関庫や大きな機関区に残っている機関庫の中には北海道に特徴的な機関庫が見られるものがあります。それらの特徴は一言で言えば「アメリカンタイプ」の機関庫です。
初期の義経号や弁慶号からわかるように、北海道の鉄道は本州とは異なりアメリカの技術を導入して敷設されましたが、車両だけではなく建造物にもその影響が見られます。この辺りの解説はTMS1970年7月号に掲載された河田耕一支の解説記事”原野の鉄道”等の記事があります。この記事には標茶の駐泊所の写真が掲載されていますが、下見板貼りで縁取りのある縦長窓はアメリカの建造物の特徴そのままです。さらに積雪地のせいか入口は扉付きで屋根の傾斜が強く、屋根からの落雪を考慮したせいかその屋根が張り出し部と一体になっていること、屋根はトタン葺きですが積雪を考慮して比較的強固な構造となっている(波板を使用したものではない)のも北海道のこのタイプの機関庫に見られる特徴ではないかと思われます。残念ながら自身で撮影した写真はありませんでしたが、機関庫の製作にあたってはこのイメージで構想をすることとしました。
以前読んだ本(ローランド・エノス著・水谷淳氏訳:The Age of Wood(NHK出版:2021)によると米国の鉄道は北米大陸の豊富な森林資源を利用して構造物を作っていたようです。言われてみればアメリカの鉄道にはティンバートレッスルがよく使用されており、米国のレイアウトにもよく登場しますし、札幌ー小樽間にあったティンバートレッスル(野幌川橋梁)の写真も有名ですが欧州の鉄道では殆ど(全く?)見かけません。明治期の北海道も米国同様森林資源は豊富であったと思われますので、鉄道施設も木材を使用した米国仕様で建設されたことは容易に想像がつきます。かなり前になりますが、外国では日本の住宅は兎小屋のように狭く、紙と木でできているといわれてるという報道が話題となりましたが、兎小屋云々はともかく、現在でも米国の一般住宅は木造住宅の比率は高いのではないかと思われます。下記は最近のModel Railroade誌に掲載されていた蒸気機関車時代の建物の製作記事ですが、北海道の機関庫もまさにこのようなタイプですし、観光地で所謂「洋館」と言われる建物にもこのタイプは多くあります。
製作にあたってはまずは構想を図面化します。とは言ってもプロトタイプの各部の寸法は不明ですし、たとえわかってもその寸法をそのまま縮小しても実感的な(イメージどおりの)建物ができるとは限りませんのでまず建物の基本寸法を実物にはとらわれずに決定する必要があります。この辺りが車両工作とは異なるところであり、また面白さであるような気がします。日本家屋は基本単位として”1間”という単位がありますが、そもそもこのような建物にこの基本寸法の概念があるのかもわかりません。以前製作したドイツの駅舎は寸法が全く不明であったため写真から割り出して寸法を決定しましたが、今回も日本の建物ではありますが手法としては全く同じ手法が必要です。ただ、機関庫は車両が出入りする建築物ですのでまず線路間隔を決めて車両の幅、高さとの関係を見ながら決めた入り口の大きさが基準となりますので、寸法の決定は思ったより簡単であったような気がします。なお、製作にあたり参考としたのはレイアウトテクニックに掲載されている河田耕一氏の機関庫をはじめとしたストラクチャーの製作法、荒崎良徳氏の日本型建造物の製作記事です。建造物の製作法はModel Railroader誌には時々掲載され、図面も掲載されている記事も多いですが、最近のTMS誌には殆んど掲載されません。私がこの手の作業する場合の情報は殆んど1970年代のTMS誌の記事と上記のレイアウトテクニック等のTMS特集シリーズを参考にしますが、最近のファンの方は何を参考として製作しているのかがちょっと気になります。
私はレイアウト上の建造物を自作する場合は方眼紙にまず鉛筆でスケッチ状の”画”を書いて、イメージに合致するように各部の寸法を決めていきます。上の実物写真は詰所(作業場?)の壁からの張り出し量が大きく、そのほうが大型機には似合いそうですが、この部分をそのまま製作すると線路配置に影響を与えそうだったので後方に移し張り出し部を移動し、張り出し量を小さくしてあります。また、他の実物写真を参考に、妻板に通風口を設け、屋根には煙出しを追加してあります。そして概ね最終形状が決定したら、次にケント紙でその形状を作成し、実際に機関車を置いて問題がないかを確認します。なお、窓枠はエコーモデルのパーツを使用することにしましたので、窓の寸法はパーツの寸法に合わせてあります。
最終形状が決定したら、鉛筆書の”画”を細部のディテールも含めて定規を用いて製図ペン(Rotling)で清書(墨入れ)し、鉛筆で書いた”画”を消しゴムで消すことにより図面としています。私は以前設計の業務をしていましたが、入社当時はもっぱらドラフターを使用して方眼紙と鉛筆で図面を書いており、学生時代の論文や学会発表の際の図表(グラフ等)は製図ペンを用いて作図していましたのでこのような方法で図面を製作することの抵抗はないのですが、今でしたらCADで作図したり、iPodにApple Pencilで画を書いてそれを図面化するという感じなのでしょうか。なお、図面には断面形状(壁面製作の際、材料をどのように重ね合わせるか)についても記載しています。
使用する材料は、窓枠はエコーモデルのパーツ、壁はイラストボードをベースとしてエコーモデルのSTウッドを使用することとしました。この辺りの材料は上記の米国の自作記事と変わりません(窓枠は整形品のパーツが各種発売されているようです)。余談ですが、米国の工作記事を読むと、寸法が殆んど分数表記となっており、いつまでたってもこの分数表記の寸法が何ミリ程度の寸法かが直感的にわかりません。模型の場合、長さは1/32インチ(約0.8㎜)あたりが基準になるのではないかと思われますが、分数表記の寸法の分母はいつも32で一定ではありませんので約分という概念が必要です。小学生の算数の最初の難関は分数であると昔何かの本で読んだ記憶がありますが、米国ではどうなのでしょうか。なお、その他の材料として、3×3, 2×1, 2×0.5を適宜使用しています。最近桧棒は模型店では今やほとんど見かけず、DIY店でも取り扱うところが減っているようですが幸い東京には各種サイズを大量に在庫している画材店がありますのでもっぱらそこでまとめ買いをしています。ただ、屋根の素材は現在検討中で、まだ決めておりません。ストラクチャーの屋根用として市販されているパーツを探したのですが、パーツは樹脂成形品の瓦とトタン葺き用の波板程度しかありません。そこで海外メーカーのカタログ(Web Site)をチェックしたところ、Viessmann(Kibri)から各種の屋根材があったのでそれを手配しました。最終的にはそれらを確認した上で最終的にどのように製作するかを決めたいと思います。なお、今回日本型ストラクチャー製作用に新たに購入した工具はありません。ペーパー車体を製作するための工具でそのまま製作が可能です(実際に製作する過程で追加購入した工具はありません)。これで製作前の準備は終わりましたので製作を開始しました。その過程は次回から紹介させていただきます。