手持ちの台車を用いて自作したペーパー車両:番外編

20系客車のその後(自作車両とプラ製品の共存:カニ21)

KATO製Assy partsのボディーを使用して製作したカニ21

以前ご紹介した項題の”手持ちの台車を用いて自作したペーパー車両”ではペーパー製の165系電車と20系客車について紹介させていただきました。このうち20系客車については20系が最も輝いていた頃の面影を残す特急”あさかぜ”の殿様編成と言われたナロネ20、ナロネ22、ナロネ21、ナロ20が連なる編成を製作したのですが、電源車については屋上の冷却ファン周りの製作法の検討が必要であったため製作せず、以前製作した小高模型のペーパーキットを使用したカニ22を流用しておりました。しかしカニ22は荷物積載量の少なさから”あさかぜ”には殆んど使用されておらず、同様の理由でマニ20が運用を外れたのちは電源車は専らカニ21が使用されておりました。私が”あさかぜ”の殿様編成に接したのは70年代の終わりから80年代の初めにかけてですが、その頃はカニ22はマニ20とともにパンタグラフ(MG)を撤去して東北方面の寝台特急に用いられており、あさかぜをはじめとした東京駅を出発する20系寝台特急の電源車は全てカニ21が使用されていました。そのため上記の20系客車が完成したのち、カニ21を製作すべく屋上部分をどのように製作するかの検討は引き続き行っておりました。ただ電源車の屋上のラジエーター周辺はペーパーと木材のみで製作するのはかなり難しそうです。ラジエータファン部分のみをプラ材で作ることも考えましたがそれも接続部の処理が難しそうでなかなか製作に踏み切ることができませんでした。現在でも小高模型のペーパーキットを取り扱っている模型店もあり、そのキットの屋根パーツを使用することも考えましたがますがホームページを見ると何故かカニ21は品切れでした。また、車体の窓数が少ないため、思い切ってヤスリ仕上げという手法が可能な金属製にしようかとも考えましたが、たまたま手元にあった金属車体の20系客車の自作の作例を見るとやはり工作はかなり難しそうで、数十年前に数両の真鍮製車体の自作を行っただけの私の腕では完成できるか不安でした。ただ、色々考えるとこのような車両は意外とハンダという可逆性の瞬間接着剤が使用でき且つヤスリでの整形が可能な金属製の車体のほうがペーパー車体より作りやすいのではないかという気もしました。あくまでも金属工作に一定のスキルがある(技術を習得する)ことが前提となりますが。

そんな折、たまたま見ていたKATOのホームページでKATOから発売されている20系客車のカニ21のボディーがAssy Partsとして入手可能ことを知り、この車体を利用してカニ21を作成することを思いつきました。。KATOから発売されている20系客車の電源車は基本編成のセットに含まれており単体では入手できないと思っていましたのでこのパーツを発見するまではプラ製の車両のパーツを利用するという発想はありませんでした。ただ、プラ製の車体をそのまま使用した場合、その車体を違和感なくペーパー車体の編成中に共存させることができるのかという不安はありました。しかし、電源車とその他の車両は窓周りも出入り口も全く別の構造ですので両者の違いはあまり目立たないのではないかとも思え、もし違和感が大きいようであれば小高製のペーパーキット同様、屋根部分のパーツだけを利用して車体の他の部分をペーパーで製作すれば良いと考え、この車体の購入に踏み切りました。そしてプラ製車体を使用して製作したカニ21とペーパー車体のナロネ20の連結部を撮影したのが下の写真です。この写真を見て皆様はどう思われるでしょうか?私は許容範囲と判断しました。

プラスティック車体のカニ21とペーパー車体のナロネ20の連結部. 実際に見ると想像していたより違和感は少ない.
カニ21とナハネフ22の車掌室部分の比較. “おでこ”の形状の差が気になるが窓形状が大きく異なるためか別々に見るとあまり差が目立たないため許容レベルと判断した.

<カニ21について>
それではカニ21を簡単に紹介します。ボディーは前述のようにKATO製カニ21のAssy Partsですが、床板はt=2のプラバン、台車はKATO製のTR54,床下機器は他の車両と同様、プラバン,金属で自作したパーツと,市販パーツを組み合わせた構造です。ボディー外観には手を加えてありませんが、屋根を他の車両と同様、タミヤカラーのNATOブラックを吹付塗装しました。今回はスプレー缶ではなく瓶入りの塗料をエアーブラシで吹き付けましたので艶の感じがわずかに異なります。また屋根についているガーランドベンチレターはパーツに付属していませんでしたのでt=0.5のプラ板と帯材から自作しました。実車は客車の屋根には絶縁材が貼ってあったのに対し、電源車の屋根は塗装であり、色調や艶は異なっていたと思いますが編成の統一感を出すため同色としました。

屋根は自作のベンチレターを取り付け後NATOブラックで塗装

車体と床板の結合は車体の窓ガラスの凹んだ部分(床板を引っ掛ける部分?)に中央部にタップを切った真鍮帯板をエポキシ系接着剤で接着し、その部材で床板を車体に固定して床板固定部材とあります。

車体に床板取り付け用の部材を追加

KATO製の台車は構造上市販パーツの一般的なセンターピンはそのまま使用できないのでまず手元にあった日光モデル製の木製床板用のセンターピンのパーツの中央部の穴をφ2.6に広げたものを台車に接着した上で、同じく木製床板用のセンターピンのパーツをスペーサーとして床板に取り付けました。床板には台車から出っ張っている接点の逃げ穴を設けてあります。カプラーはKadee#16です。

台車は日光モデル製の木製床板用センターピンのパーツを利用して床板に取り付け

床下機器は他の車両と同様、1㎜のプラバンで製作したベース上にプラバンや金属で製作した機器と市販パーツを取り付け、他の車両と同じレベルのパイピングを施してあります。燃料タンクは増設前の1個タイプとしました。なお、今回は新しい試みとしてエアータンク本体を真鍮丸棒からドリルレースで削り出し、その本体を枕を介して幅0.8㎜の帯板で固定する方法としました。この方法ですと安価に比較的実感的なエアータンクが製作可能です(本体は1個あたり¥25程度)。

<プラ製車体とペーパー製車体の共存について>
今まで述べてきたように私は今回はプラ製カニ21とペーパー製の20系寝台車は共存可能と判断しました。ただ、この判断は20系客車の電源車だからこそできたという気がします。上にも記載したように20系客車は電源車とその他の車両で窓や出入り口の構造が大きく違います。また車体は両者とも凹凸が少なく比較的シンプルな形状です。このため両者の差があまり目立たなかったのではないかと感じます。これが窓構造がユニットサッシの165系、ウインドシル、ヘッダーのある旧型電車、旧型客車のような車体表面に凹凸のある車両であったら同一編成中に両者は共存はできないのではないかと感じます。そしてもし共存できるとすれば10系客車と旧型客車等、車体の外観が大きく異なる車両の編成に限られるのではないかと思います。
私は外国型のMärklin製のプラスティック製の車両は多数手元に存在していますがいわば普段見慣れた(見慣れていた)車両のプラ製品を実際に使用するという観点で手に取ったのは今回が初めてです。その印象は実物の形態がよく再現されており素晴らしいという印象でしたが、同時に思い出したのは本ブログでも度々触れている中尾豊氏執筆の”鉄道模型における造形的考察の一断面”(TMS1971年4月号掲載)の一節です。その中で氏は ”正確な縮尺で作品を制作することはは作品が実感的であることの十分条件ではない。寸法的数理的に絶対狂いがない作品を製作しても、実物はそれほど正確ではなく狂いがある。そしてその狂いを正確に模写してもそれが実感的である事に効果をもたらすか否かは疑問である”という趣旨のことを述べられています。そしてこの一節が頭に浮かんだのは側面から車掌室部分車体端面につながる曲面を見た時です。以下、以下、その部分の印象を記載しますが、決してプラ製品を否定しているわけではなく、私の個人的な感想を記載していることをご了解ください。
この部分にはパーティングラインがあり、側面と端面では型の抜き方向が異なっています。少し違和感を感じたのはこのパーティングラインではなく、このラインより端面側の側面から端面(妻板部)につながる曲面の部分の曲面が”正確すぎる”のではないか”ということです。実物の車両のこのような部分の局面は溶接で組み立てた車体の表面をグラインダー?で削って滑らかな局面に仕上げていると思われ、局面とと直線部の稜線はあまりはっきりしておらず、駅に停車している車両の局面にホームの照明光が反射した時にはその部分に多少の凹凸(歪み)が見えたような気がします。一方、このプラ製の車体ではこの部分の曲面が非常に正確にできており、光の反射具合にも乱れがありません。もちろん型の製作技術は素晴らしく、成形された車体も引け等の欠陥は全く見られず、メーカーの成形技術の高さは他の工業製品と比較してもすすばらしいものであり、量産製品としてはこれ以上ないというレベルであることはことは疑いのない事実ですが、このようなところにかつて見ていた実物車両との印象の差を感じました。決して実感的でないということではないのですが、この部分を見た時、上記の中尾氏の言いたいことが少し垣間見えるような気がしました。

側板から端面に繋がるRが正確すぎる?

そして、もし”手作り(自作)の味”というものが存在するとすれば、それはこのような部分に結果的に現れるのではないかと感じた次第です(勿論私が製作した車両の方が実感的と言っているわけでは全くありません)。実際に運転している時にはこの部分は全く問題にはなりませんし、このことがプラスティック製品の商品価値を落としていることは全くありません。ただ、このようにプラ製品は各部が非常に正確にできている(車体の平面度が非常に良好で各部の並行直角が実物以上に高精度で確保されている)ことと、それらが一体成形で表現されていることが、金属製、ペーパー製問わず、ドアやウインドシル、ヘッダを別部材で取り付けている旧型客車や旧型国電の自作車両と異なる印象を与えているように感じます。今回はたまたま違和感が少なくなんとか共存可能な例を紹介しましたが、これは特殊な例で、やはり自作車両とプラ製品の同一編成中の共存は避けた方が良いのではないかというのが私の率直な感想です。