When is your realism level good enough?:HOゲージャーから見たZゲージ(外国型モデル)の印象

<HOゲージと16番ゲージ>
まず最初に表題について。私は鉄道模型を始めた時から現在まで日本型の車両を軌間16.5㎜、軌間以外を1/80で製作する所謂「16番ゲージ」の愛好者です。Zゲージの模型を初めて手に取るまで16番以外の鉄道模型は所有したことはありません。しかしここではあえてHOゲージャーと書かせていただきます。私は現在軌間16.5㎜の鉄道模型を日本型・外国型問わず楽しんでいます。そのような状況では正直同じ軌間の模型を日本型(1/80)を16番、外国型(1/87)はHOと厳密に呼び分ける必要性を感じなくなりました。模型とおもちゃの違いはルールの存在ということは冒頭の言葉を引用したModel Railroader誌の言葉ですが、このルールの最上位の基準(規格)を線路幅と定義してそれをXXゲージと呼んでいる(同じ呼称のものは同一の線路が使用できるので)と考えれば日本型も外国型もHOゲージと呼んでしまっても構わない気がしてきたからです。少なくとも軌間(ゲージ)のみに注目すれば3.5㎜スケール(Harf O=HO)ですので理屈上も説明できますのでそれでもあながち間違いではないような気がします。Nゲージの黎明期には日本型の車両が模型化されていないため日本型レイアウトに外国蒸機が走っていましたし、メルクリンHOの客車はいまだに1/87ではありません。実物の世界でもかつてオリエント急行に使用された「外国型」の客車が日本全国を走りました。もちろん「同一線路上を走行できる」を「同一線路上で共存できる(共存させても違和感がない)」と言い換えれば軌間以外の縮尺比(スケール)の基準が必要となりますが、それは軌間の基準より下位の基準のような気がします。ただしこの考えではHOゲージ(3.5㎜スケール)のゲージ(軌間)を用いた鉄道模型と全体をHOスケール(3.5㎜スケール)で製作した鉄道模型は明確に区別する必要があります(英語のgaugeには軌間という意味と尺度という意味がありまのでここがややこしいかもわかりません)。このように最上位規格にレール幅を基準とした名称を規定し、その下位の標準で模型全体の縮尺比の範囲と名称を規定するような体系を構築していくと各種のスケールと名称が整理されて分かりやすくなると思うのは私だけでしょうか。
<Zゲージの印象>
冒頭から話題が逸れてしまいましたが、話を元に戻しますとZゲージのレイアウトの製作を決意した後、先ず最初に行ったことはメルクリンZゲージスターターセットの購入です。購入したセットはスターターセットの中で最も小規模なもの(入門者用?)でDBの89型蒸気機関車に有害車と無蓋車が各一両、それに楕円形の線路(半径195㎜の曲線線路一周分と110㎜の直線線路2本)とパワーパックがセットされたものです。

この機関車の登場時、この機関車は量産されている鉄道模型の中では世界最小の機関車と言われていました(今も?)。Zゲージが誕生したのは1972年で当時私は高校生で初めて真鍮製のバラキットを組んだ頃です。当時のTMS誌上でも新しいゲージの誕生ということで比較的大きく取り上げられていたことを記憶していますが正直私の興味の対象外でした。ただ当時この機関車がパイプの柄の上に乗っかっている当時の広告ははっきり覚えています。またモデルさんのような女性が広告に登場していたのも新鮮でした。このような広告によりメルクリンはこのゲージが「大人向け」であると言うことを示唆していたのでしょうか。


実際の機関車を見て驚くのはその小ささだけではありません(全長約45㎜、重量約20gです)。ロッドはメインロッドのみでサイドロッドはありません。ピストンロッドとクロスヘッドとメインロッドは一体のとなった板金製です。車体はダイキャストの一体成形品で別付けされているパーツはありません。このように全体はかなり簡略化されていますが大きさが大きさですので走り出してしまえば機関車のサイドロッドがないことも殆んど気になりません。

上回りと下回りははフレーム側に取り付けられているバネで付勢されたピンがダイキャスト製のボディー側の穴にはま流ことにより両者が固定される構造になっています。このようにこの機関車の外観は今までHOゲージ(16番)のキット組立やディテールアップをしてきた感覚からは信じられない事ばかりでした。ただ走行性能はレールの汚れとオイルの固着(走り始めでオイルの温度が低い時にはオイルの粘度が高いので走行抵抗が大きく速度が十分でない場合がある)に気をつければ流石にあまりスローは効かないものの実によく走ります。このスターターセットにより基本的な走行性には問題がないことを確認できたので、次に実際にレイアウトで使用を予定している分岐器や客車を購入て次のテストを行いました。客車は全長27mのUIC-X型客車の全長が約120㎜、全長20mの客車が約90㎜です。当時のメルクリンのHOゲージの客車は1/100でしたがZゲージは正確なスケールとなっています、

全長27mのUIC-X客車と全長20mのRebuild客車. 日本の新幹線と在来線の車両の長さを同一スケールで比較すると概ねこのようなイメージとなる. 欧州ではこれらの車両が同じ線路上を走行する.

これらの客車をスターターセットのR195㎜の線路上に置いた時の写真が下の写真です。

27m級の客車では車体からレールが大きくはみ出しており、実感的ではありません。流石にレイアウト上で車両がこの状態になることには抵抗がありましたのでレイアウトでは目に見える部分にカーブはR220を採用することにしました。その写真が下の写真です。線路の車体からはみ出し量は小さくなりますがそれでもまだレールが車体からはみ出してはいます。私はこれは許容範囲と判断しました。

私は今回このレベルはOKとしましたが、もし自分が苦労してディテールアップした車両がこのような線路上を走ることになれば少し抵抗を感じると思います。この辺りがレイアウト製作時に自分の”realism level”を決める(あるところで割り切る)難しさかもわかりません。今にして思うと私はレイアウト作成を決めた時にあえて従来楽しんできたものと異なる規格のゲージ(スケール)を採用して車両もあまり馴染みのない外国型のレイアウトを製作するることによりこの辺りを割り切ることができたのではないかと言う気がします。

話が少しそれますが、ドイツの鉄道の歴史の中で、日本で新幹線が開業する前に日本の新幹線より全長が長く日本の10系客車の手本ともなった27m級のUIC-X Typeの客車が登場します。それまでドイツ鉄道の客車の全長は日本と同じ20m前後でしたので日本で言えばこの時点で在来線にいきなり新幹線並の全長を持つ車両が走り始めたことになります。そうするとこの車両をスケール(1/87)どおりの長さで製品化してもすでに完成しているレイアウトではこの長さの車両を走らせることができない事態が多発することは容易に想像できます。このためメルクリンはこの事態を解決するために客車の全長を短縮するという方法を選んだ(選ばざるを得なかった)のではないでしょうか(現在メルクリンのHOゲージ車両は殆ど半径360ミリのカーブを走行可能ですが全長の長い車両は架線柱との干渉に注意するようにとの注意文が同梱されています)。この客車は日本の新幹線と異なり全長以外の寸法は今まで走っていた客車と大差なく、その車両は従来の車両と同一線路上を走行することが前提ですので、両者の共存のためにはこの全長を短縮するという選択肢しかなかったような気もします。これは当時から鉄道模型の分野で圧倒的なシェアを誇っていたメルクリンであるからこそこのような決断が必要であった(そのようにせざるを得なかった)という面もあるかもわかりません。一方Zゲージは今までにない規格ですのでスケール通りの車両が走行できることを条件に一からシステムを設計できます。発売当初から現在に至るまでZゲージの分岐器がHOとは異なり見た目実物に近い分岐角度の小さいものしか発売されていないのはそのためもあるのでしょうか。このようにrealism levelは人それぞれとはいえ、ある場面では自分の過去の作品との整合性、互換性への考慮が必要であったり、メーカーの考えるrealism levelをそのまま受け入れざるを得ないという面もあるような気がします。決めたのはメーカーではありませんが日本でも16.5㎜の線路上を走る日本の車両のスケールを1/80に決めたのは同じようなrealism levelを考慮した「決断」だったと考えられます。ただ、日本の新幹線は在来線の線路は走行しませんので両者の縮尺を別にするという選択肢がとれ、外観上はそれほどインパクトがなかったのは幸いです。ただ在来線の車両は特に蒸気機関車でやはり「ガニ股」が目立ちます。その時上記「決断」を「妥協」と捉えてしまうとそこに疑問が生じてしまいます。またこの「妥協」の排除のため全て自作することは費用的、時間的な観点で一般的なモデラーには非常にハードルが高いような気がします。よって私はこの「ガニ股」を受け入れています。このような自分が目指すealism levelに対してあるレベルで妥協(割り切り)をせざるを得なかったことを自身の体験として語られているのが冒頭言葉を引用したMR誌の編集長のコラムです。このコラムに説得力があると感じるのはそのあたりの経緯が自らの体験を交えて語られているからかも分かりません。
話をZゲージに戻すと走行性以外に感心させられたのはのカプラーの動作で、連結器を動作が非常に軽く、貨車が非常に軽いにも関わらず機関車を低速で貨車に衝突させた時もほぼ100%連結させることができます。また客車のカプラーは台車マウントのため27m級の客車でも小カーブを高速で支障なく走ることができ、レイアウトではトンネル等目に見えない部分で小カーブが使用できるというメリットがあります。さらに半径の大きいカーブ上であれば車両同士の連結も可能です。このように小さいながら走行性能は全く問題ないことが分かりましたので計画どおりレイアウトの製作に進むこととしました。
全体的にこのZゲージは鉄道模型としてのシステムの完成度は非常に高いという印象です。当時このZゲージを手に取って初めて鉄道模型としてのシステム設計の重要さと全体の印象を損ねずに車両のディテールの簡略化を図っている車両設計のセンスに感心させられました。
冒頭の言葉に関連づけるならこのZゲージの設計者(メルクリンのマーケティング)は走行性を重視した上でこの程度の大きさの機関車の場合、全体のrialism lebelをどこに設定すれば良いかを十分検討して製品したような気がします。昨年はZゲージ誕生50年と言うことでしたがこのゲージが今まで続いており、細密化のレベルもさほど変わらないということはこのrialism iebelが50年後のいまでも受け入れられていると言うことでしょうか。ただ、レイアウト上での走行を前提とするなら客車には室内灯をつけて欲しかったと思います。当時、技術的には非常に難しかったかのかも分かりませんが。
<外国型車両(外国型模型)の印象>
前述のとおり私は鉄道模型を初めて約30年後に初めて今まで殆ど興味の対象外外国型の車両を初めて手にしたわけですが、レイアウト制作を検討する検討の過程では各社のカタログを集めていろいろな検討を行いました。カタログを見ると、外国型に興味はなかったと言っても当時の鉄道雑誌(実物誌)には海外の鉄道の話題も比較的多かったため、旅客用の車両には見覚えのあるし車両もありました。ただ、日本と明らかに異なるのは当時広まり始めた車体に広告を表示した車両の存在です。客車にはあまり見られないものの機関車、貨車には実に多彩な広告を掲示した車両があり、それらが各社から数多く模型化されています。

日本でも家電で有名なドイツの電機メーカーMiele社の広告を掲示したスイス国鉄の電気機関車. 企業ロゴだけでなくスイス国旗とE U旗の図案が描かれたいかにも欧州らしいデザイン
食品がデザインされたスイスの大手スーパーMigros社の広告貨車(冷蔵車). プレッツエルのデザインが欧州らしい

車体に広告を掲示した車両は日本にもありますが、日本では車体の面積に対する広告の掲示面積の割合が規制されており、全面に広告を掲示することはできません。そのせいか車両デザインと広告が一体となったデザイン性の高い車両はあまりありませんが、欧州ではそのような規制はないようで、車体全面に広告を施したデザイン的に優れた思わず入手したくなるような車両が数多くあります。最近では実物でもこの広告掲示のために側面をフラットにしている機関車も多いようです。メルクリンのロゴの入った広告機関車も数多くあります。この辺り、鉄道会社と模型メーカーは思わぬところで?Win-Winの関係になっているのかもわかりません。日本の貨物列車は最近殆どコンテナとタンク車のみとなってしまいましたが、欧州では最近でもいろいろな種類の貨車が運用されておりそれらにいろいろな広告が施されています。また線路規格が高いせいか現在でも比較的全長の短い各種の2軸貨車が多数運用されていますので限られた編成長でも色々な広告貨車が混じった多彩な貨物列車を楽しむことが可能です。
もう一つ模型の世界で日本と異なるのは製品化されるモデルの中に実物にはないモデルがあることです(欧州ではFantasy Modelと呼ばれているようです)。下の写真は上で紹介した89型蒸機が入っている電池式のスタータセットですが、箱がカバン型をしておりそこには”MIni Club をVacation先でも”と言うようなロゴが入っています。そして貨車にはVacationを楽しむオジサンとトップレスの女性が描かれています。また機関車のシリアルナンバーは2001年発売を意味していると思われます。このような「遊び心」のある製品は日本では殆ど見ることがありません。

電池用コントローラが同梱されたスターターセット. 電池は9Vの006P(6F22)
電池式スターターセットの機関車と貨車. 上の写真の機関車と異なりロッド類は黒く着色されている.

またもう少し現実味のある例ではHOではTEE牽引で有名な103型電気機関車のタルキスカラー(ベージュとブルー)や最近のIC色(白地に赤線)も発売されています。下の写真はHOですが、メルクリンMHI30周年記念として最新型のディーゼル機Vectron DEに80年代まで活躍したディーゼル機V200と同じイメージの塗装をしたもので、機関車のシリアルナンバーは30号機です。いかにもありそうな塗色ですがこれもFantasy Modelのようです。私はこのモデルを発表直後に予約して入手しましたがその後早々に売り切れたようです。これらは日本で言えばEF65ブルートレイン牽引機の塗装のEF210、583系の塗り分けが施された285系といったところでしょうか。


このように海外製品は実物を忠実に再現した車両のみならずFantasy Modelも比較的多く販売されています。このように欧州のメーカー(特に老舗かつ鉄道模型分野ではガリバー企業のメルクリン)は何が何でも実物どおりであることにこだわらずいろいろな楽しみ方を提案している気もします。また、これらの車両の塗色以外の部分の際密度は実在の車両と同一ですのでレイアウトを走らせても塗色以外のialism lebelは実在している車両のモデルと同一なのでレイアウト上で走らせても特に違和感ありません。レイアウト上で走らせるとはちょっと変わった存在として注目されるかもわかりません。このように外国型車両(製品)は実物通りの車両一辺倒ではありませんので、細密モデルの製作の息抜きにたまにはこの様な外国型車両で「遊んで」みるのも良いかもわかりません。なお、2000年にはミレニアム記念として機関車の車体が「幸運を呼ぶ豚」のモデル(欧州では豚は縁起に良い動物とされている様です)が各ゲージで発売されましたが、その後同種のモデルは発売されていません、流石にこの様なモデルはレイアウトでは走らせられませんでしたので期待ほど売れなかったのでしょうか・・・。