模型工作:ペーパー製旧型国電製作記 その1

<はじめに>
近頃のHOゲージ鉄道模型完成品の価格の高さには眼を見張るものがあります。昔から鉄道模型は決して安いものではありませんでしたが、昔は今より車両を安く「自作」することにより鉄道模型の世界を楽しんでいたような気がします。今でも模型雑誌等には自作の素晴らしい車両が発表されておりますが、掲載される作品は普通の鉄道模型ファンには時間的にも費用的にも少しハードルが高いのではないかと感じております。私もそんな人間の一人です。最近青弓社という出版社から発行されている「趣味とジェンダー」という本を読んだのですが、戦前から戦後60年代半ばにかけて男性には模型を「自作」するという文化ががあったことが論じられておりました。(ちなみに女性は手芸などの「手作り」という文化だそうです)。私の世代はそこで論じられていた「子供の科学」をはじめ、「模型とラジオ」「模型と工作」等の雑誌に掲載されている鉄道模型の車両の作り方を小学製から中学生のころ熱心に読んでいた世代です。
そこで、その頃を思い出しペーパー製の車両の「自作」をしてみました。当時そのような雑誌に載っていた製作記事を思い出しながら以下にその製作過程をご紹介してみたいと思います。なお、下記に完成までををダイジェスト版の動画にまとめましたのでよろしければご覧ください。


<題材について>
製作にあたっての題材は「旧型国電」を選びました。
題材に旧型国電を選んだ理由は
① 1両単位で作成できる
② 車体に曲面が少なく、窓の角Rもあまりないので窓抜きが容易
③ 多少の窓抜き時の乱れをウインドシル、ヘッダーが隠してくれる?
といったところでしょうか。特に手作りの模型は量産される工業製品とは異なり、「同じものをたくさん作る」事は結構難しいですので、久しぶりの工作の完成のハードルを下げる意味で①は重要だと思います。編成物を作ろうとして1両失敗して計画頓挫ということは過去嫌という程経験していますので。また、リベットなしの車両に限定されるものの、旧型国電は改造による窓割りのバラエティーに対しても図面があれば改造等の追加の工作なしに量産車と同じ手間で色々な形式が作成できることも魅力の一つです。


<車両の図面等の資料をを集める>  
製作には車両の図面が必要です。 図面は鉄道関係の書籍に掲載されている形式図が使用できます(JTB Can Books 旧型国電50年等)。ただ掲載されている図面は実物用の図面ですので窓割りはわかりますが模型化に必要な詳細な寸法まではわかりません。とは言っても旧型国電の車体の寸法はほぼ標準化されています。そこで、その寸法を解明するために型式は何でもよいので、模型用の図面をどこかから入手するとよいと思います。その具体例としては、かなり昔の本になりますが、機芸出版社から発行されていた「日本の車両スタイルブック」や70年代に鉄道模型趣味についていた折り込み図面(例えば1974年2月号 モハ40)などが利用できます。最近の資料でもっとよい資料があるかもわかりません。上記の模型製作用の図面には側面図だけではなく平面図も1/80サイズで掲載されていますのでそれを等倍でコピーして厚紙に貼って切り抜けば治具(型紙)も作成できます。また、同じ形式でも各種のタイプがあります。例えば戸袋窓がHゴム支持に改造されている、運転台の窓が、運転席または運転席、助手席両方Hゴム支持に改造されている、ドアの窓に中桟がある、車体がノーシルノーヘッダーである等です。これらはウエブサイトを調べれば多数の写真が掲載されていますのでそこから好みのタイプを選べば良いと思います。


 これらの図面から採寸し、私が作成した車両の寸法を下に記載します。0.25mmという寸法は0.5mm間隔のスケールの目盛の中央という感覚です。あくまでも参考としてご覧ください。

<自作する車両について>
 今回は私がこれから作ろうと思っている新潟地区の70系、クハ76+モハ70+モハ70+クハ68を事例に説明させていただこうと思います。新潟の70系は最近量産モデルでも製品化されましたが何と言ってもその塗色に特徴があります。私が子供の頃の旧型国電は茶色というイメージですが、地方には色々な塗色の旧型国電があったようです。私はこれからそれらを作って色と形態のバラエティーを楽しもうと考えています。
 説明は主にクハ68、クハ70の前頭部、モハ70のパンタ周りを説明さえていただきたいと思います。なお、車体工作としては、ウインドシル、ヘッダー付きの側板とクハ68の半流の先頭部と湘南型の前面の作り方をマスターしてしまえば流電(クモハ53)以外はほぼなんでもできるようになるとと思います。そのうち流電にも挑戦してみたいと思います。

 実はこの製作を始める前に中央東線のクハ76+モハ71+モハ71+クハ79(スカ色)と大糸線のクモハ54+クハ68(京浜東北線のスカイブルー)を作っています。ですのでこれから行う工作は全くの初めてでははないのですが、前作でうまくいかなかったところの改良も行いたく、車体の完成までに2−3か月はかかると思います。説明は同時進行で進めて行きたいと思いますので気長にお付き合いいただけたら幸いです。

<用意するもの>
 それではまず実際の製作の前段階として用意する必要のある、工具(文房具)と材料、資料について記載してみようと思います。まずはペーパー製の車体の作成に必要なものを挙げてみます。

★15cm、30cmの定規および三角定規
切り抜きの際定規のエッジにカッターナイフを当てますのでステンレス製定規が必要です。また、ステンレスの定規とは別に、紙への罫書き用に目盛りが読みやすいプラス
チック製の定規も用意したほう が良いと思います。カッターナイフでの切断用に片方の辺にステンレスが埋め込まれている定規もあります。
三角定規は罫書き時に紙のエッジに定規を当ててエッジに対する垂線を引きますので製図用の厚手のものが必要です。
★シャープペンシル(0.3mm)・罫書き針
製図用の普通のシャープペンシルで構いません。罫書き針は元来金属工作用ですが、ウインドシルやヘッダーなどの帯材を切り出す際、シャープペンシルでは芯の削れ方と当て方により微妙に線の位置が変わります。罫書きばりで突いた穴の位置を基準にすると一定の幅の帯が切り出せます。
★カッターナイフとカッティングシート
歯を折って使うタイプのカッターとデザインナイフを用意しておけば事足ります。最近では刃先が30度のカッターナイフもあります。私は窓抜きにはもっぱらこのカッターを使用しています。カッティングシートは一般的なもので大丈夫です。車体の長さは約250mmで すのでA4サイズ(210mmx297mm)でも使用できます。


★ 丸のみ 
旧型国電では客用窓にはRはありませんが、ドア、戸袋、前面のHゴム改造部も窓の角にはRがありますので丸のみが必要になります。ウエブサイトや模型店で購入可能です。ちょっと高価ですが一度用意すればずっと使えるものです。
★粘着テープ
スコッチ「貼って剥がせるテープ」を用意します。
ポストイットの粘着剤を使用していると思われる粘着力の弱いテープです。外板と内張りの位置あわせに使用します。
★鉄筆
プレスドア等の筋つけに使用します。昔は普通の文房具屋さんで売っていましたが今は店頭では全く目にしなくなりました。しかしAmazonで検索すると色々な製品が出てきます。先端があまり鋭く尖っていないものを選ぶと良いと思います。

★ 円定規
製図用の円定規を用意します。プレスドアの溝の角Rの筋付け時のガイドや妻板の肩Rの罫書きに使用します。


★ 接着剤
スプレーのり・木工用ボンド・ゴム系接着剤・瞬間接着剤・エポキシ系接着剤を用意しておけばよいと思います。 

★ 塗料(目止め、下地処理用)
いわゆるパテ、サーフェサーの類です。最近はプラモデルの改造用等で、昔とは比べもおにならない多数の製品があります。また水研ぎペーパーが必要ですが、これらは実施に使用するところで説明させていただきます。

 車体部分をペーパーで作る際には上記の工具でほぼ事足りますが、ディテール工作には穴あけ、真鍮線の切断、簡単な金属工作も必要になりますので以下のような工具も必要です。上記のものに比べ比較的高価な物も多いので、車体がうまくできてから買い揃えても良いかもわかりません。
 ・ドライバー
 ・ピンセット 
 ・ドリル(ピンバイス)とドリル刃 
 ・ニッパー ヤットコ 
 ・精密ヤスリ 
 ・半田ごて やに入りハンダ

<使用する紙について>
今回、車体の材料にはバロンケントという紙を使用しました。厚さは各種ありますが
#150(135kg),#200(180kg),#250(220kg)を用意すれば良いと思います。
車体に使用するのは#200です。厚さは実測で#150が約0.2㎜、#200が約0,25㎜、#250が約0.35㎜でした。

.車体の長さは約250mmで、そり防止のため紙の目を直交させて貼り合わせますのでサイズは250mmx250mm以上のものを用意します。具体的にはA3サイズ(297mmx430mm)以上のものになります。バロンケントは大きな文具店で入手できますが、入手困難な場合は同じくらいの厚さの表面が滑らかな紙であれば使用できます。値段は一枚数十円です。また、その他の用紙としてウインドシル、ヘッダー、雨樋用にラベル紙(エーワンラベルシール品番06030・エーワンラベルシール品番28494)を使用しました。使用箇所は手順の中で記載します。

<その他用意するもの>
車体を、補強用のヒノキの角材(3mm角)と屋根板を使用します。屋根板はのぞみ工房製の「ほぼピッタリ屋根板」を使用しました。旧型国電用としては戦前型等は『C』、70系等の鋼板屋根の車両には『D』を用意します。

 ここまでで材料が揃いましたので次回から具体的な製作法を紹介させていただきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。