真鍮板から作った車両:キハ52とキハ25

”真鍮板から車両を作る”と題してこれまで製作の過程を紹介してきたキハ52・キハ25が塗装を終えほぼ完成状態となりましたので改めて紹介させていただきます.その製作過程を紹介した記事の中で,私は車体の「光の反射具合」を考慮することが作品が実感的か否かに影響を与えるのではないかと考え,設計や製作の中ではその点に留意して製作を行いましたが,車体の光の反射具合は塗装して初めて結果が明らかになります.そこで今回はその点に注目して紹介をさせていただきたいと思います.

車体の表記を残しほぼ完成状態となったキハ52とキハ25

・ 作品の概要
<キハ52>
キハ52の車体は前面も含めて全て0.3㎜の真鍮版を使用しています.床板は0.8㎜の真鍮板を使用しており,床下機器は日光モデルのダイキャスト製の製品とフェニックス模型店のホワイトメタル製のパーツを混用しており,動力は天賞堂製のコアレスパワートラックll,台車(DT22)はエンドウ製を使用しています.パワートラック付属のウエイトは未使用で重量は約310gで,平坦線であれば無動力のキハ25を牽引しての走行が可能です.寒冷地仕様として先頭部には複線用のスノウプラウを取り付けました.カプラーは天賞堂製のkadee #16タイプを使用しています.床下機器は以前組み立てたバラキットの素養した残部品を使用しているため厳密には実車のとおりではありません.

<キハ25>
キハ25の車体構造はキハ52とほぼ同一ですが,こちらは前面にフェニックス模型店製のプレス製のパーツ(1980年頃の製品)を使用しています.動力は装備しておらず,台車はエンドウ製のDT22(プレーン車軸)を使用しています.重量は290gで,動力車のキハ52とそれほどかわりません.

・ 前面の印象
前述のようにキハ52は車体前面も含めて全て自作したのに対し,キハ25は1980年ごろに購入したフェニックス模型店製と思われるプレス製の前面パーツを使用しています.そのため両者では前面の表情がやや異なります.自作のキハ52については今回詳細な寸法を記載した資料は手に入りませんでしたので,全面窓の大きさ等わずかな資料と写真から寸法を決めて製作しています.

自作したキハ52の全面(手前)とパーツを使用ししたキハ25(奥)

運転室窓の寸法は大きさが710×710㎜であるという資料がありました.これは1/80に換算すると8.875㎜となりますが,これは構体の開口寸法と思われますので実際の設計(罫書き)寸法は8.5㎜としました.結果的にはノギスによる実測値で8.4㎜に仕上がっています.一方フェニックス模型店製の製品は実測で8.75㎜弱となっています.寸法差としては僅かですが,この差が前面の表情の差に現れている様です.あくまでも私の感想ですが,フェニックス模型店製のパーツの窓の大きさはやや大きい様に感じます.もう一点の両者の差は前面と側面を繋ぐRの開始点と窓との位置関係です.キハ20系の運転台窓とRの開始点の間にはある程度の平面部があり,下の写真のように実車ではそれが光の当たり方によっては目立つのですがパーツでは運転台窓のHゴムとRの開始点までの距離が小さい(平面部が少ない)ように感じます.このことも窓の大きさが大きく感じる一つの要因であるとともに前面の表情が実物の印象と少し印象が異なる原因のようにも感じます.ただ私の製作した前面キハ25前面との差を意識したせいか平面部はあるものの窓の大きさがやや小さい様にも感じます.この辺りは寸法の設定が非常に難しく,今回キハ52は実際に車体を組み立てた際に窓の大きさが少し小さいように感じたため組み立て後に0.25㎜程度窓の大きさを大きく修正してあります.組み立て後のこのような修正はキットの形状を修正するより心理的なハードルも修正の難易度も自作車両の方が低いような気がします.しかし製作時に実物の印象に近づいたと判断しても真鍮地肌の状態と塗装後ではその印象が異なる場合もあります.そのためこの辺りの表現は出来上がった作品をよく観察して結果を評価し,その結果を反映しながら場数を踏んで改善していくしかない気もします.ただレファレンスとなる実物の印象も写真の光線状態や見る角度,Hゴムの色や塗色によって微妙に異なります.そう考えると製作の目的が正確な縮小による実物の再現ではなく,レイアウト上で実感的に(=それらしく?)見えるということであれば細かい寸法にあまり拘る必要もなく,今回製作したキハ52とキハ25の差は許容範囲で,今後改善すべきは塗り分け線の乱れ等もっと基本的な部分であるような気もします.

ほぼ真横から光を受けた際のキハ52の前面の印象.

・ 窓周りの印象
今回真鍮版から車体の自作を行うにあたり真鍮版から車体を製作するに当たり過去製作した車体を見直し,過去製作した車体は窓の周囲は切断面を車体と垂直にヤスリ仕上げをしてあるため,それがプレス加工で窓周囲にプレスによるダレがあるバラキットと比較して実車の窓周りの実感を損ねているのではないかと考えました(記事はこちら).そこで今回は窓の周囲にヤスリでテーパーをつける加工を行いましたがその結果が下の写真です.

2段窓を表現し周囲にテーパーを付けたキハ52の窓周り.サッシは窓の塗装で表現.

結果,このテーパー加工により今までの自作車体に比較すると窓周りの実感が増しており,当初の目論見通りの効果は認められました.その形状もバラキットに比較してより実物に近くバラキットと比較しても同等以上の効果はあったと思います.ただ,今回のキハ20系の場合,2段窓を表現するために窓の下半分(窓サッシの下段部分)には0.6㎜の厚さがあります,下の実写の写真と比較すると少し厚めである印象がある一方,側板に0.3㎜の真鍮板を使用した場合キハ55のような1段窓の場合は一番目立つ下辺のテーパー部の板厚が1/2になりますのでその際の効果については別途検討の余地があるような気もします.一方上の写真からも分かりますが詳細に観察すると貼り重ねた板と側板の境界面でハンダが十分に回り切っていない部分がありわずかに隙間が生じている部分がありました.ヤスリがけ直後にはめくれでわからない場合があるようですのでこの辺りは入念なチェックを徹底する必要があります.ヤスリがけはジグ等は用いず手作業で行いましたが,特に線の乱れが気になるようなところはありませんでした.

山形駅に停車中のキハ52.光に注目すると上の実車写真と合わせて,窓部とドア部の陰影の差が目立ちます.

なお,今回,過去に真鍮版から車体を製作し,塗装が傷んでいた自作車体のキハユニ25 7の再塗装も行うこととし,その際に二重窓の周縁にわずかなテーパーをつけてみました.結果,つけたテーパーの量はわずかですがそれでもテーパーをつける前の車体と比較すると効果が認められます.ただ,この車体は0.4㎜厚の真鍮板を使用していますので厚さ0.3㎜の真鍮板を用いた車体では効果が多少異なるかもわかりません.

・ その他の細部(ヘッドライトレンズ)
上記の点を除いたディテーリング作業はバラキットと同一で使用しているパーツもほぼ同じあるため詳細は省略しますが,今回はヘッドライトのレンズを自作により作成しています.現在ヘッドライトレンズは色々なメーカーから各種直径のものが市販されていますが,今回のヘッドライトケースには(キットの付属品ではなく)市販の真鍮パイプを用ていますので径が適合するレンズがなさそうでした.このためレンズはエポキシ系接着剤により自作しました.その手順はまずヘッドライトケースに使用した真鍮パイプを輪切りにして並べ,その中に透明度の高いエポキシ系の接着剤を流し込んで完全に硬化する前にパイプからレンズを取り外し,硬化後耐水ペーパーでバリ取り・整形を行えば完成です.エポキシ系接着剤を流す際は気泡ができないように注意が必要ですが,細かい気泡がわずかに残っている程度であればレンズ面を細かい耐水ペーパーで磨き,レンズを「半透明化」すればほとんど目立たなくすることが可能です.なお,パイプを並べる際のベースは接着剤が簡単に剥がれる素材が必要ですので接着剤付属の撹拌用の板や撹拌用のヘラを使用しています.

エポキシ系接着剤に付属していた撹拌用ヘラの上に並べた真鍮パイプ.この状態でエポキシ系接着剤を流します.
真鍮パイプより取り外したヘッドライトレンズ.レンズは完全硬化後に耐水ペーパーで形を整えます.
ヘッドライトを車体に装着したところ

・ 床下機器のウエザリング
気動車の床下機器の塗色は大部分がグレーでエアータンク等の空気関係の機器が黒塗装となっています.このため私はまずグレーをラッカーで吹付塗装し,乾燥後にエナメル系塗料で空気関係機器に艶消し黒を筆塗りしています.一方気動車の床下は油や煤で結構な汚れがありますのでほとんどの場合(特に意図しない限り)ややきつめのウエザリングが必要となります.今まで私はこのウエザリングにエコーモデル製のウエザリングブラック,パステル,蝋燭の炎から集めた煤と王を使用してきたのですが,粉体によるウエザリングは触った際に手が汚れたり,レイアウト上に置いておくと埃が付着し時が経ってパウダーの上にホコリが付着すると埃を除去してもとなんとなく「汚い」状態となるため,パウダーによるウエザリングは以前からできれば避けたいと思っていました.しかし気動車の床下にはラッカー系塗料の他にエナメル系塗料で塗装された部分もあるため,エナメル系のスミ入れ塗料が使用できません.そこで今回は以前レイアウトを製作した際にウエザリングに使用したIndian Inkを使用してみました.結果は写真の通りで一通りのウエザリングは可能でしたがIndian Inkは乾燥が早く,一度乾燥すると容易に除去できませんので建物のような平面的な部分に使用する場合より取り扱いが難しく,この方法は墨入れ塗料によるウエザリングより難しいと感じました.そこで次回また気動車の床下を製作をする機会があったらその時は全体をラッカー塗装とした上でエアブラシによるウエザリングにも挑戦したいと思います.エアブラシによるウエザリングに関しては米国のModelrailroader誌にはその手法が定期的に掲載されており,Marklin社のInsider club向けの動画(Club film)の中でもウエザリングの過程が動画でよく紹介されていますので,これらを参考に気動車床下のウエザリングに関し,自分なりの手法が確立できればと思っております.

Indian Inkでウエザリングを行った床下機器
使用したIndian Ink

以上,簡単ですが今回真鍮板から製作したキハ52とキハ25に紹介を終わります.真鍮板からの車体製作は過去経験しているとはいえ実質上初めて経験することも多く当初は完成まで漕ぎ着けられるかどうかに自信がなく,早く一通りの工程を終えて結果を見たいという気持ちが優先して工作が雑になってしまったところも多々ありますが,今回何とか完成まで漕ぎ着けることができましたので,次回製作する際はより良い作品を目指して今回の反省を活かしてそのうちまたチャレンジしたいと思いっております.
最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮板から車輌を作る -跋:自作車両の設計について-

・ 車両の自作における設計の重要性と楽しみ
真鍮板から車体を製作するプロセスの紹介は前回で終了しましたが,今回はバラキットの組み立てのプロセスにはなく,真鍮板からの車両製作では必須であるのも関わらず前回までの説明では殆んど触れていなかった自作車両の車体の設計について考えてみたいと思います.

自作車体のキハ55と制作時に作成した「図面」と参考にした書籍.

広辞苑で「設計」を調べると,「ある目的を具現化する作業」とあります.私が長年携わってきた新製品開発では一般的にこの目的は「顧客に新たな価値を提供する」ことであり,その「新たな価値」を定義するためにはユーザーニーズを的確に把握する必要があります.このことは鉄道模型を製造するメーカーにも当てはまりますが,自作車両の「設計」はこれとは少し異なり,顧客はおらず,製作した作品の価値が提供されるのは製作者自身です.ではその価値(製作者が作品に求める価値)を一言で表現するとすればそれは「実感的であると感じること」ではないかと思います.ただ,この製作者自身が行う「実感的であるか否か」の判断基準には単に自分にとって実感的かだけではなく,この作品を見た鑑賞者のほとんどに製作者と同様,その車両が活躍している風景が自身の記憶として蘇らせることができるか否かも含まれます.その意味ではこの価値は決して製作者だけの基準で決められるものではなく,「他人の判断基準」も意識する必要があるということになります.この辺りは私が今までたびたび触れてきた故なかお・ゆたか氏執筆の”鉄道模型のおける造形的考察の一断面”にも記載されていますが,今から80年近く前に書かれたこの記事が現在でも参考となるのはこの「実感的」というワードが鉄道模型では普遍的なテーマであるであるということの表われであると感じます.この「他者にも実感的と感じてもらうこと」を意識すればそれを実現する方法は各部の寸法を1/80にした寸法を基準として設計することが一番の近道であるような気がします.ただ自作車両では工作機械を使用して製造されたバラキットと同等の精度は確保できません.一方,もしキットに量産品であるが故の制約(型を使用しているための制約・コスト抑制のための加工工程上の制約・部品の流用)があればそれは自作車両では容易に解決できる可能性があります.また自作車両では最近の細密キットに見られがちなキット設計者の設計思想(キット設計者の拘り)からも解放されますので自分が決めた細密度でいかに模型として過度な作家性を主張せずに作品に自分の個性を出すかということも考えて作品に反映することもできます.自作車両の車両設計はこのような課題を解決しながら進めていくもので,通常の製品設計とも全く異質なものですが,この過程を経て実感的な作品ができたときにはキット組み立てでは経験できない達成感が味わえると思います.ただ作品に個性を出すことはとても一朝一夕にできる事ではなく,ある程度の経験と失敗からの学びが必要です.しかしこの目標に一歩でも近づくための取り組みもキット組み立てでは経験できない自作による鉄道模型製作の一つの楽しみになるような気がします.とは言ってもまずは実写の寸法を縮尺して車体を作るための設計手順ををマスターすることが先決ですので今回私が行った設計の過程を紹介してみたいと思います.

・自作車両の最小寸法単位
製品設計を行う場合には多面的な知識が必要であり,それゆえ設計者には一定の知識を持った有資格者が要求されますが,機械設計者では必要となる知識の一つに各種加工法で実現できる加工精度とばらつきの把握があります.自作車両の場合,罫書きは真鍮板に罫書き針を用いて罫書きを行いますので,罫書き針で引いた罫書き線の分解能が寸法の最小単位となりそれを意識して各部の寸法を決める必要があります.下の写真は私の使用しているスプリングデバイダで真鍮板上に0.25㎜間隔で(0.5㎜間隔のスケールの目盛りの中点にデバイダの針を合わせて)真鍮板上に線を引いたものですが,線は充分に解像できています.また線の隙間と罫書き線の太さを比較すると罫書き線の太さは0.1㎜未満ではないかと思われます.従って正確に罫書き線までヤスリ仕上げができれば寸法の分解能とばらつきは0.25㎜±0.1㎜(デバイダの設定誤差を除く)程度と考えられます.ペーパー車体でもシャープペンシルで0.25㎜間隔の罫書きは線を描くことは可能ですが通常罫書き線の真上をカッターナイフで切断しますので刃の厚さやカッターの傾きを考えると真鍮車体はペーパー車体より精度の高い寸法での製作が可能であると思われます.

真鍮板のスプリングデバイダで描いた0.25㎜感覚の罫書き線

上記のように設計時の寸法の最小分解能が0.25㎜であるということが分かりましたので,実物寸法を模型寸法に換算する際には寸法を0.25ミリ単位で調整すれば製作は可能であるということになります.

・ 設計時の留意点
ドイツのMärklin社の車両は実物をそのまま縮小せず上方から見るという模型の特性を考えて実感的に見えるように形状がデフォルメされていると言われています.私は実際にドイツの実車を詳細に観察したことはありませんし当該車両の詳細な図面を見たこともないのでその真偽と効果の程は不明ですが,このような設計はなかなか素人ができるものではありません.そこで,実車の寸法(形態)を模型の寸法に移し替える際の留意点を私が実際に車両を製作した際に経験したことを交えて紹介してみたいと思います.

1)屋根のカーブ
下の写真は私が製作した旧型客車で奥側か谷川製作所のバラキット組み立て品,手前側が真鍮板から自作した自作品です.旧型客車の屋根カーブは側板と屋根の間に稜線があることが特徴ですが,キットはその稜線がない形状となっており,実車とは形状が異なっています.資料によれば実車の旧型客車の屋根は3種類ので構成されています(R700,R1910,R3100).自作した車両がこのRを正確に再現しているとは言えませんが,印象としては側板と屋根の間に稜線のある自作車両のほうが実車の印象に近いと感じます.キットと組み立て品では屋根のカーブの境界にある稜線も気になります.とはいえこの様な部分をプレス加工を用いて正確な形状に作るのは結構難しく,形状がある程度異なってなってしまうのはやむを得ないと思います.一方自作車両では稜線の部分を裏から筋彫りして曲げることにより稜線を設けることができる等,自作車両では工程に自由度があり時間をかけた調整もできますので,このような部分はそのメリットを活かして形状を追求することが可能です.旧型客車と言われる客車の屋根カーブはほとんどの形式が同一であるためこの部分は一度寸法を決めてしまえばその寸法は他車にも適用できます,また,例えば初期の70系電車と80系電車は単なる2扉車と3扉車の差ではなく屋根カーブが両者で異なります(70系電車は旧型客車と同様側板と屋根の境界に稜線がある)が,自作車両ではその特徴を強調した形での製作が可能ではないかと思います.

谷川製作所製キットと自作車体の屋根カーブの差


2)Hゴムで支持されている窓
上記の屋根寸法(屋根R)は実車の寸法がわかっていますのでその寸法の1/80が模型の設計寸法となりその寸法からのずれが印象に影響を与えます..しかしこのHゴムで支持されている窓の寸法は設計上いろいろ検討する必要があります.我々が模型の設計寸法を求める際,その参照先となるのは国鉄の形式図です.ただ,この形式図に記載されている寸法は車体の鋼体の開口寸法(ガラス寸法?)で,我々が車両を見た時に見えるガラス部分の大きさではないことに留意する必要があります.我々が車体を製作するときの窓寸法は実際に見えるガラスの寸法の縮尺寸法になりますので車両形式図とは異なった寸法にしなければなりません.機芸出版社の”日本の車両スタイルブック”(1974発行版)のキハ45000(キハ17)の正面図にはこの部分の詳細寸法が記載されており,Hゴムの太さは28㎜,露出している窓の寸法(高さ)は590㎜と記載されています.正面窓の大きさは国鉄発行の形式図には記載されていませんが,大きさは610㎜と記載されている資料があります.もしこれがこの窓の「呼称寸法」であるとすると590㎜にHゴムの半分の太さの2倍(28㎜)を加算しても計算が合わず,寸法にはゴムの変形寸法が入っていると考えられます.一方TMS誌の1970年5月号にはなかお・ゆたか氏が作図したキハ58の図面が掲載されており,その前位側の戸袋部のHゴム支持窓の寸法は実寸が663㎜,模型化寸法が7.5㎜と記載されています.

MS誌の1970年5月号に掲載されているキハ58の図面の一部

この663㎜は車両形式図記載の寸法ですが663/80=8.2875㎜となり模型化寸法との差が大きくなっています.また上記の図面で窓前後の寸法を見ると実物寸法は236+663+410=1309㎜で1/80では16.4㎜になります.模型化寸法は3.5+7.5+5=16㎜で0.4㎜小さく,236㎜(1/80で2.95㎜)が3.5㎜となっており,窓の寸法が小さい分が他所で調整されています.同様の寸法の補正は前述の”日本の車両スタイルブック”に掲載されているキハ20・キハ55系の図面にも見られます.この補正に対する考え方は説明されておらず(実測値を反映している可能性もあります),詳細は不明ですが,Hゴムの寸法分をそのまま修正したのではなく,模型としたとき実際に実物の印象が再現できるように寸法を決定していると思われます.このようにHゴムで支持されている窓の寸法は一般的に入手できる実車の形式図の寸法を補正する必要があります.市販のキットの中には形式図の寸法で製作されているHゴム支持窓もあるようです.この辺りは自作車両では正しい寸法(実物の印象を再現した寸法)での設計・製作が可能です.一方,今回製作したキハ52のような正面窓がHゴム支持の窓では窓の大きさとHゴムの太さと窓の位置(妻板と前面の間のRに対する窓位置)を実物通りの印象にするのが難しく,設計寸法の決定は最後まで迷いました.結果的に車体を組み立てた結果,窓が小さい印象となってしまったため後から修正してあります.この例から逆に最初に窓を小さめに作り,組み立て後に実機の印象と同じように窓の大きさを修正するという方法も「アリ」ではないかという気がします.ただ,このような部分は今後製作する同系列の複数の車両で印象を同一とすることが必須ですのでもし最初の設計寸法から寸法の修正を行った場合,その記録は確実に残しておくとともに製作法を確立しておくことが必要です.
3)窓枠
下の写真は左の車両がフェニックス模型店製のバラキットを組み立てたスハフ42(スハフ45として組立),右が自作車体のスハ45です.両者を比較するとバラキットの窓枠の大きさが大きく,実物の印象と異なります.一方自作車体は”日本の車両スタイルブック”の図面を実測して寸法を決めており,窓枠下部の幅を1㎜としてあります(バラキットの幅は実測で0.5㎜)実はこの部分の窓枠の幅が狭いことは私も組み立て時から気がついていたのですが,当時は編成単位で車両を製作していたため修正(部品の新作)には多くの時間を必要とし.正直そこまで修正する気力がなかったため修正を見送りました.自作の窓枠の形状がばらついていたら返って編成として見た時に見苦しいのではない顔考えたこともその理由,というより自分を納得させるための言い訳でした.ただ自作車両の窓枠の幅も実物の印象と比較するとまだ幅は不足しているような気もします.この辺りも失策により慎重に寸法を検討したほうが良いところです.ただ,光の反射の影響等もあると考えられますので適切な寸法は一度車両を完成させて塗装した車両で検討し補正することが現実的であるような気もします.

フェニックス模型店製バラキット(左)と自作車体(右)の客室窓の窓枠形状の差


このほか,最初の記事で自作車体とキットの差でとして指摘した窓周りのテーパーも実物の印象を再現するためには重要な部分ですが,今まで述べてきたところですので詳細は割愛します.ただ,この部分の表現は私が今回製作した車両で初めて実施した部分でその効果(加工法の妥当性)は車両を塗装して初めてわかると思います.最終結果は塗装終了後に報告したいと思います.

・ 実車との違いが気になる部分と気にならない部分
私の手元のはフェニックス模型店製のバラキットを組み立てたキハ22があります.以前この車両を紹介する際記したように,このキットは実車に比較して客室窓の天地寸法がやや大きいことが気になります.また北海道のキハ22は本州の同系列の車両に比較して床面が厚くなっているためキハ22は乗務員ドアと運転室窓部分の寸法が内地向けの同系列の車両とは異なります.具体的には内地向けの車両は客用ドアと乗務員室ドアの上辺が一致しているのに対し,キハ22は乗務員ドアの上辺が客用ドアの上辺より上方にずれており,乗務員ドアの下辺と車体裾の間隔も内地向けの車両より大きくなっています.また運転台窓も内地向け車両より高い位置にあります.しかしバラキットの乗務員ドアの位置は内地向けの車両と同一寸法になっています.また前面プレスパーツは内地向け車両と共通の型を使用していると思われ,運転室窓の高さも内地向け車両と同一と思われます.

フェニックス模型店のキハ22(1990頃の製品)

しかしこの車両をレイアウト上に置いて見るとこの部分の実車との違いはほとんどほとんど認識されず,この部分のエラーが全体的な印象には大きな影響を与えていません(私の見解です).一方レイアウト上見ても窓の大きさは少し気になります.これは私の私見ですが,これは前述のように「実感的であること」を「その車両を見たときに,その車両が活躍している風景が自身の記憶として蘇る」ということとするとレイアウト上の車両はこの「記憶の中にある実車」と目の前の車両を対比していることになりますが,私のその記憶の中のは客用ドアと乗務員ドアの上辺の位置は存在していないから気にならないということになるのではないかと思います.一方,キハ22の内地向けの車両との大きな違い(特徴)は客用窓の2重窓ですので,その部分は記憶に残っているため,客用窓の大きさは気になるのではないかと思います.このようにレイアウト上を走る車両で実感的であるかかないかを判断する際に頭の中に蘇るのは実際の景色の中を走る車両の姿であり,製作の際に詳細な形態を記録した細部写真ではありません.鉄道写真を撮影する際には車両に当たる光の処理が非常に重要ですが,上で述べた屋根のカーブや窓周りのテーパーが実感的か否かに影響を与えるのはこれらの部分は光を反射して目立つ部分であるため記憶に残りやすい部分であるためとも言えるかと思います.上記のキハ20系の運転室窓の位置を決めるのが難しいのは窓の近傍に妻板と側面を繋ぐ局面があり,そこで光の反射が異って見えるためである気がします.またまた金属車体とインジェクション成形の車体の印象がわずかに異なり,メーカーが一部の部品を別付部品としたことをアピールするのは成形で表現した部品は突起部の根本に型に起因するわずかなRがついており,その部分の光の反射具合が実写と異なっていることが理由のような気もします.そしてこのような事例は設計の際,形状がわずかに異なる市販パーツの使用を検討するときには参考になるのではないかと感じます.各部の形状が正しい寸法からどの程度ずれたら全体的な印象がどの程度変化するかについては定量的に論ずるのはなかなか困難ですが,国鉄車両ではほぼ同一デザインで各部の寸法が少し異なる車両が多く存在しますのでそのあたりが参考になるのではないかと思います.その例として上記のキハ22以外ではキハ55の初期ロットとそれ以外の車両の前面窓の大きさの差,165系と711系の運転台窓高さの違い,キハ55とキハ60の車体側面の天地寸法(車体の下端の高さ)の違いによるの全体的な印象の違い,181系/485系/183系の車体の窓位置と車高の違いによる印象の違い,101系と103系の運転台窓高さと天地寸法の違いに掘る前面の印象の違い,20系客車と14系客車の車体裾カーブの形状と雨樋位置による車体の全体的な印象の違い等が挙げられます.
・ 実際の設計プロセス
色々理屈っぽいことを記してしまいましたが,私が行った設計プロセス(製作する車両の決定から制作開始まで)は概ね以下のようになります.
・形式図や雑誌等に掲載されている図面を参照し各部の寸法を決める(Hゴム支持窓はQuantumを参考に修正した寸法を決める)
・ 方眼紙上に原寸大の「図面」を描く,形式図では分からない寸法は図面上に形状を記載して寸法を決める
・ 資料がなく自身で決めた寸法を含めて全体的に違和感がないか確認する
ただ,違和感と言ってもそれほど正確に書けるわけではないので,この図で全体的な印象をチェックすることはできないため,このチェックはあくまで寸法間違いの箇所がないかをチェックすることが目的です.
罫書き線を描ける「情報」が全て決まったら車高と使用する台車,マクラバリの寸法を考えて床板を支持するアングル材の取り付け位置を決定し,ドアや乗務員室ドアの裏打ち部材,車体に取り付ける部材の寸法を決定してすると車体の設計はほぼ終了になります.
以前記したように私は製作のあたっては部品ごとの「図面」は作成していません.図面はあくまでも設計者が他者に設計の意図通りのモノを製作してもらうためのコミュニケーションツールであり,細かい規格が決められているのもそのためですので自分が設計して自分が製作する場合には製図規格に則ったような図は必要ありません.ただしどんな形であれ部品をどのような寸法で製作したかは次の同系列の車両の製作に備えて全て記録しておくことは実際に制作したときの修正寸法も含めて必要です.

最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮板から車輌を作る -(6) :窓まわりの加工-

車体の組み立てを終了し,真鍮版からの車体製作は最終段階に入ります.私はこの一連の記事の冒頭の記事に,自作車体とバラキットを一眼見た時の印象の差について,両者の差は窓周囲のわずかな形状の差(窓周囲のテーパー(ダレ)の有無ではないかということを述べさせていただきましたが,真鍮車体製作のディテーリングを行う前の最後の作業として今回はこの窓周りの加工を紹介したいと思います.

ハンダによる組み立てがほぼ終了したキハ25とキハ52

・窓周りのテーパーの表現の重要性について
下の2枚の写真は私が撮影したキハ25とキハ55ですが,どちらの写真を見ても窓の周囲にあるテーパーが光の当たり方によってはよく目立つことがわかります.

只見線で使用されていた頃のキハ55
磐越東線で使用されていたキハ25.同様の窓構造を持つキハ30や101系電車は並んだ2段窓の中央の窓柱が側板表面より少し奥に設けられていたため窓ガラスの位置が奥まって見えましたがキハ20系は窓が独立していましたのでそれらの車両に比較すると窓ガラスの位置が手前にあり,テーパー部の幅が小さく見えることが特徴でした

私がかつて真鍮板から車両を製作していた頃は失敗せずに車両を形にするのに必死で,このテーパーが全体的な印象に影響を与えるというところに思いが至っていませんでした.その後製作の主体がバラキット組み立てとなったためこのテーパーの存在をあまり気に留めることはありませんでしたが,今回久しぶりに真鍮板から車体を自作するに当たり,改めてこの窓周囲のテーパーの重要性に気づいた次第です.一方,バラキットはこの部分はプレスのダレで表現されていますが,その断面形状は実物とは異なります.それでもバラキットの方が実感的に感じられるのは窓周囲にプレス加工時に生じたダレがあることで窓の周囲に車体表面と光の反射方向が異なる部分があるためであると考えられます.また,改めて窓周りに注目して手元にある”日本の車両スタイルブック”やTMS誌に掲載されているなかお・ゆたか氏が作図した図面を見ると車両の窓の周囲はほとんどが2重線で描かれています.これらの図面は図面の体裁をとった寸法入りの車両イラストとも言えるものですがこの2重線が描かれていることでこの”図面”をみた時に実物の印象がより的確に表現されていると感じます.また手元にある機芸出版社発行の”陸蒸気からひかりまで”は名実ともに図面集ではなく車両のイラスト集ですが,片野正巳氏が描いた1/150で描かれたイラストを見るとこのテーパーは誇張した形で描かれており,この図からもこの窓部のテーパーの全体に与える重要性がわかるような気がします.

・ 窓の周囲のテーパーの寸法と加工法
前述の”日本の車両スタイルブック”のナハネ10の図面にはこの寸法が表示されており,その値は20㎜となっています.側板の厚さ方向から見た時のテーパーの開始点の位置は不明であり,テーパーの角度は不明ですが,この値は1/80に換算すると0.25㎜になります.そこで今回は窓の周囲に0.25㎜のテーパーをつけることにしました.テーパーをどのような方法で加工するかについてはジグによる加工も考えたのですが結局いい案が思い浮かず,今回は窓の外周の外側から0.25㎜の位置に罫書き線を引き,ヤスリを一定角度に保ちながら罫書き線まで窓周囲を平ヤスリと丸ヤスリで削るという簡便な方法で行ないました.この方法は当然各窓にばらつきが生ずるリスクがあります.そのため外周に耐水ペーパーでわずかな面取り(R)をつける方法も考えましたが今回はせっかくの自作車体ですのでより実物の形状に近い形とすることにチャレンジして見ることにしました.

・ 窓周りの加工の実際・2段窓の表現
まずテーパー加工の前に今回行った2段窓の表現について説明します.このキハ20系気動車が製造された当時はまだ普通車は全ての車両が非冷房車でした.そのため当時の車両の多くが窓が全開できるようになっており,キハ20系のような上下に分割された2枚窓の車両では下段の窓は上段窓の内側を通って車両の幕板に格納される構造でした.そのため上下のガラスは段違い(上段が手前,下段が奥)になっています.1970年代にの模型ではこの2段窓の表現は製品でも自作品でもほとんど表現されておらず,上下の窓枠と中桟を窓ガラス板に印刷した車両も多く見られましたが,現在ではこの2段窓の表現は幅広く行われるようになりました.そこで今回製作した車両も2段窓の表現を行うこととしましたが,キハ20系では窓サッシの縦桟はほとんど見えないため,今回は縦桟は省略し,各々に窓枠の横桟をを銀色のテープで表現した窓ガラス2枚を段違いに取り付けることとしました.まずこの2段窓の表現を行うために私の行った方法を紹介させていただきますが,私が行った方法では罫書きの段階から準備作業が必要となります.今までの説明では基本的な手順を優先し,型式により異なる作業説明は説明を省略していました.今回製作工程が前後してしまったこと,ご容赦ください.
最初に窓抜きが終わった車体の曲げを行う前に下段窓の部分(側板の厚さを厚くしたい部分)に真鍮板(帯板)をはんだで仮止めします.この帯板は一度取り外し,車体を曲げた後再度取り付けますので仮止め時には帯板の上側の位置(下段窓の上端)を正確にかつ強めに罫書いて取り付けます.

下段窓の位置に合わせて帯板を仮止めしますが,この際帯板の上辺に罫書き線を強くひいておきます.

帯板を取り付けたら車体板を裏返して帯板に窓位置を罫書いたのち帯板を取り外して取り外す前に罫書いた窓周縁の線に沿って帯板の窓部を切り欠きます.

窓部の切り欠きが終了した帯板です.

車体の曲げが終了し車体が箱状になった後,帯板を仮止めした際に罫書いた罫書き線の位置に窓部を切り欠いた帯板を再度取り付けます.この取り付けの際は後のテーパー加工に備えてハンダが窓の外周まで到達するようハンダを流すことが必要です.このような作業の際は自動温調機能の付いたハンダゴテは安定してハンダを流すことができ,効率的な作業が可能でした.

車体に帯板を再度取り付けて窓の外周まで切り欠き部を削ります.

ヤスリ仕上げが終わった側窓です(テーパー加工前).

・ 窓周りの加工の実際・窓周縁のテーパー加工
板を窓外周まで削り込んだら周囲にテーパーをつける作業を開始します.まずはスプリングデバイダを0.25㎜にセットして一旦を窓終周縁部に引っ掛けて窓の外側0.25㎜の位置に罫書き線を引きます.私の使用しているスプリングデバイダは片方の先端部がもう片方の先端部よりほんのわずか長くなっていますので短い方を窓周縁部に引っ掛けることにより思ったより簡単に罫書きを進めることができました.罫書きが終了したら平ヤスリを一定角度(略45°)に保ち罫書き線が消えるまで窓周縁部を削ります.ヤスリを当てる強さ,角度と回数を一定にするとほぼ均一なテーパーをつけることができますが光の反射を利用して確実にチェックすることが必要です.なお私はこの作業のためにスイスバローベ社の平ヤスリ(番手#6)を購入しました.模型用とした販売されているヤスリに比較すると高価ですが切れ味はよく,購入した価値はあったと思います.ただ目が非常に細かいためハンダが載っている部分への使用は厳禁です.なお,厳密に言えば今回の窓周縁部の接合部にもハンダは存在していますが,この程度のハンダであれば目詰まりを起こすことはありませんでした.作業が終了したら削った部分に#800の耐水ペーパーを当ててヤスリの目を除去しました.

テーパー加工が終了した窓周縁部

これで窓周縁部のテーパー付けは完了です.ただ,作業は手作業のためテーパーにはある程度のばらつきが発生していると思われます.最終的にこのばらつきが顕在化するのは塗装後になるような気もしますが,塗装後に出来栄えを評価して今後の作品の工程にフィードバックをしたいと考えています.なお,今回,記事の初回(序)で紹介した自作車体のキハユニ25についても窓周りの修正を行いました.こちらは北海道向けの車両ですので1段窓ですが加工後の車体を見ると印象は少し改善され実物の印象に近づいた気がします.こちらも最終的に塗装をしてみないとどのくらい改善されたかの評価はできないと考えていますが,塗装を終えた時には今回製作したキハ25,キハ52とともに結果を報告したいと考えています.

同時に加工したキハユニ25 7の窓周り

この加工が終了すると後の工程はディテーリング作業となります.この作業についてはバラキットの組み立てとほぼ同一で手順を詳細に説明する必要もないと思いますので今回私が行った真鍮版から車体を製作する手順の紹介はこれで一旦終了としたいと思います.一方,今までの説明ではほとんど触れませんでしたが,自作車体を製作するためには「設計」という作業が必須になります.そこで次回は今回の一連の記事の最終回としてこれまでの振り返りとこの「車両を自作する場合の設計のプロセス」について少し述べててみたいと思います.

最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮板から車輌を作る -(4) :車体の曲げ-

ディテールを取り付けるのみとなったキハ52とキハ25,

ヤスリ作業が終わったら車体の曲げ作業です.この作業を失敗すると一瞬ででGAME OVERとなりこれまでの苦労が水の泡とないます,しかし慎重な準備作業と確認作業を行えばその確率は大きく下げることができると感じます.私が初めて真鍮版から車体を制作した時は窓抜きやヤスリ作業の際に,こんなに苦労しているのにこれから行う曲げ作業で失敗したらどうしようという「重圧と恐怖」を感じながら作業をしたものですが,何回か経験したらそれほど心配するものではないということがわかりました.

まずは曲げに使用する工具と部材です.

曲げ工程に使用する工具類.ヤンキーバイスは幅50㎜のものを使用しています.


1.バイス(万力)・・・あて木を挟んで固定するための使用します.バイスには糸色なタイプがありますが私はヤンキーバイス(ボール盤バイス)を使用しています.ちなみにヤンキーバイスの「ヤンキー」の由来は最初にこのタイプを製造した会社名にあるようです.日本では「不良」という意味にも使われますがこれは日本のみの言い方で,英語にはこのような意味はなく完全な和製英語のようです.New York Yankeesは不良集団ではありません.
2.Cクランプ・・・あて木を挟むために使用します.サイズは当て木が挟めれば使用可能です.私は車体の目げ時には穴あけ時のワーク固定用のものから工作台固定用のものまで手持ちのCクランプを総動員します.なお,私が使用しているヤンキーバイスは台への固定機能がないため,バイスを固定するための大型のものも使用しています.
3.あて木・・・曲げの際に真鍮版を全長にわたって固定したり曲げたりするために使用します.私は厚さ12㎜,高さ30㎜,長さ約300㎜の杉角材3本を使用しています.角材の幅は側板の長さ以上あったほうが良いと思います.長手方向の剛性も必要ですが0.3㎜の真鍮版であればCクランプを併用していることもあり厚さ12㎜でも剛性不足は感じませんでした.3本のうち1本は一稜を屋根Rに合わせて整形しますので,屋根Rの異なる車輌を曲げる際にはそれぞれ別のあて木(ただしあて木の4辺を利用すれば4種のRが可能)が必要です.
その他寸法測定用のスケール,板金固定用のテープ(マスキングテープ)を使用します.

1. あて木の成形
まずあて木を屋根のRに合わせて成形する際のあて木の稜線につけるRの半径を決める作業をを行います.非常に重要な作業であるにも関わらず話が前後してしまい恐縮ですが,この作業は最初に行う罫書き前の段階で屋根の展開寸法を決める段階で行ないます.(2)の罫書きの紹介記事の中で,罫書きの前に屋根の展開寸法を求めるために車体断面(妻板)形状をした板に実際に曲げた板を当てて屋根の展開寸法を含めた車体板の幅を算出することを記載しましたが,あて木につけるRの寸法はこの時点で決定します.今回製作するのはキハ20形気動車で,必要なのは屋根の肩部のRの数値なのですが,私はどうしても屋根の断面寸法が記載されている図面を入手することができず,バラキットを組み立てたキハ22(フェニックス模型店製)や手元にあったキハ20系用と称するのぞみ工房製の木製屋根板木製の屋根板の実測等から車体完成時の屋根の肩部のRは4㎜としました.完成時の肩Rの寸法が決定したら実際に真鍮版を曲げてあて木の綾につけるRの寸法を決めますが,これはTry and Errorの作業となります.写真の曲げサンプルは最終的に屋根の展開寸法を決めるために用いたものですが,実際にはこの曲げサンプルを作る前に,何度かあて木のRを変えて真鍮版の切れ端を曲げてテストしています.この作業の際のはあて木は短いものでよく真鍮版も幅10㎜程度,長さ20−30㎜の残材のようなもので十分です.ただし使用する板の圧延方向は実際の車体板の圧延方向と合わせておいた方が良いと思います.圧延方向は板の表面を細かく観察すれば大体わかりますが,もしわからなければ実際に使用する車体板と同じ板から曲げ方向が同じになるように曲げサンプルを採取するのが良いと思います.なお,詳しい理屈は割愛しますがあて木に設定するRは付けたいRから板厚を引いた値よりよりやや小さいRが適正のようです.適正Rを求めるためには大きめのRから小さいRへとあて木を削りながら行えばそれほど時間のかかる作業ではありません.この作業を経て製作した部品が(1)に掲載した下の写真のサンプルです.

側板幅を算出するために製作した部品

・ あて木の整形
まずはあて木の一辺を順位作業で決めたRで削ります.この際整形する稜と接する真鍮板を挟む面の稜よりR寸法分だけ下方に綾と並行にライン引きます.このラインがあて木で真鍮板を挟む際の真鍮板の位置決め指標になりますが,このラインが綾と並行になっていないと曲げた時に側板高さに左右で差が生じ,曲げた時点で 側板の高さが左右で異なることとなり失敗(GAME OVER)となりますので簡単な作業ですが慎重に行ない,終了後充分にチェックする必要があります.ラインが引けたら稜線を所定のRに成形しますが,杉角材であれ小さいRは耐水ペーパーで比較的簡単に成形できました.このRはケント紙等で作成したゲージでペーパー車体の屋根板の成形やペーパールーフ車体の屋根Rのチェックと同じ要領で行いました.

稜線にRをつけたあて木

・板の固定
綾部の成形が終わったらいよいよ曲げ作業に入ります.まず車体板の表面に曲げ線(側板と屋根との境界部)を罫書きます.また屋根の中心にも罫書き線を引きます.この罫書きを忘れるとベンチレター等屋根状に部品を取り付ける際に苦労しますので忘れずに罫書いておく必要があります.張り上げ屋根の車体でなければ前者は雨樋で隠れますが,後者は隠す部品はありませんので軽く罫書きます.罫書きが終了したらあて木の屋根Rの加工時に書いた線と車体版の曲げ線を一致させて車体板をあて木にテープで固定します.この固定がズレると車体が正確に曲がらずその修正は不可能ですので入念な確認を行なう必要があります.

車体板とあて木を指標に合わせて固定します.固定にはマスキングテープを使用しました.

車体板をあて木に固定したら,加工していないあて木の上面を車体が固定されているあて木に引いたラインに合わせてバイスに固定します.バイスに挟む前に位置を決めて固定してもバイスに軽く固定してから位置を調整してもどちらでも良いですが,バイスを軽く押し付けた状態であて木の位置を調整する際は調整に伴いテープで固定した車体板の位置がずれていないかも確認が必要です.なお固定の際はあて木の下面をバイスのジョーのスライド面に押し当てます.この作業により作業台とあて木の並行度が確保されます.作業台と曲げ線の並行度の調整が簡単にできるのはヤンキーバイスのメリットです,

2本の当て木と車体版御関係を充分にチェックします.

あて木をバイスに固定したら車体板とあて木にずれがないかを入念ににチェックします.車体板とあて木の位置関係がずれていると100%失敗しますが,正しく固定されていれば成功の確率は大幅に上昇します.なお,私が使用しているヤンキーバイスは台への固定機構がないためあて木と車体板をバイスに固定した状態で手で持ち上げやすく,台上に固定されているバイスより至近距離から色々な方向を向けて位置関係を確認できるというメリットがあります.チェックで問題ないことを確認したらバイスからはみ出ている部分のあて木をCクランプで締め付けます.締め付けが完了したらバイスを台上に固定して曲げ作業を開始します.

曲げ作業を開始する直前の状態です

曲げは曲げ用のあて木をバイスに固定しされているあて木の下に押し付けながら曲げていきます.少し曲がったところで曲げの開始点が手前側のあて木の上面となっていることを確認してOKであれば曲げ作業を継続します.曲げる際は曲げ用のあて木の両側がバイスに固定されたあて木から浮き上がらないこと,あて木に均等に力をかけながら曲げることが重要です.曲げる速度は出来栄えにあまり関係しないようですが,曲げ用のあて木の位置を確認しながらゆっくりと慎重に行ったほうが良いと思います..

片側の曲げが終了した状態

片方の曲げが終了したらもう一方も同様の手順で曲げて車体をコの字形にします.

片側の曲げが終了したらもう一方を同じ手順で曲げていきます.
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真鍮板から車輌を作る -(2) :真鍮板の切断(窓抜き)-

ほぼディテール加工を残すのみとなったキハ25とキハ52の車体と床板です.

部品の罫書きが終わったらいよいよ糸鋸による切断作業に入ります.この切断作業から折り曲げまでが失敗(部品を作り直さざるを得なくなる)のリスクが最も高い作業になります.リスクは広辞苑等では「危険」と書いてありますが,リスクには国際的に定義された明確な定義があり,それは一言で言うと「発生する危害とその頻度で決められる量」です.一般的に危害は人の対するものを考えますが,今回の真鍮版の切断の場合にはリスクを最小とすると言うことは,部品が作り直しになると言うことが製作者が受ける「危害」に相当し,危害の頻度は鋸刃が罫書き線からはみ出して真鍮版の本来切り残すべき領域に侵入してしまうことで,リスクを低減させるためにはその頻度を極力減らす施策を講ずるということになります.リスクを低減させる方法を検討することをリスクマネジメントと言いますが,今回の場合は鋸刄が罫書き線からはみ出す頻度が最小となる(殆んど起こらなくなる)やり方を考えてそれを実行することがリスクマネジメントを行うと言うことになります.
一方,私が最初に参照したTMS誌の片野正巳氏の記事ではこの糸鋸による切断(窓抜き)に関しては「罫書き線から絶対はみ出さないこと」と記載されているだけで,切断中の写真も掲載されておらず,真鍮版に糸鋸の鋸刃を通す穴を開けた写真の次に掲載されているのは窓抜きが終わってヤスリ仕上げの済んだ側板の写真です.後にも述べますが,これは片野氏(TMS誌の編集部)が「罫書き線から絶対はみ出さない」ためのリスクマネジメントは製作者自身で行えと言っているのではないかと推察します.
と言ってしまったら身も蓋もないので今回私が行った私なりの方法と注意点を参考として紹介します.それは一言で言えば「練習で技量を向上させるとともにその中で自分の現時点での実力を把握し,その実力を前提に罫書き線をはみ出す頻度が最小となる(まず起こらなくなる)方法で糸鋸作業をを行うと言うことだと思います.

製作したキハ52の車体の部品です

・切断に使用する工具
真鍮版の切断に使用する工具は以下のものです.

私が切断に使用した工具です.切断時はスケールやノギスも使用します.

1.糸鋸・・・真鍮版の切断は全て糸鋸で行います.単純な構造のものでよく,その方が軽量で使いやすいと思います.写真の糸鋸はもう40年以上使用しており当時の値段は¥100であったと記憶しています.私は弓の深さが約180㎜のものを使用していますが,弓の深さは(車体長/2+α)㎜以上が必要です.
2.鋸刃・・・私は近くのDIY店で購入できるドイツ製のアンチロープ社の鋸刃を使用しています.サイズは#0/0から#5/0を用意していますが0.3㎜の真鍮版の切断には殆んど#4/0と#5/0を使用しています.40年前の価格は¥300程度と記憶していますが今も同程度の価格で入手できます.糸鋸刃はかつてはドイツのヘラクレス社製が定番でしたが現在は市場ではあまり見かけずAmazonでは販売単位は1グロスしか見当たりません.私の感覚ではヘラクレス製とバローべ製の間に切れ味の差は殆んど感じません.昔は国産と輸入品の差は歴然でしたが最近はどうなのでしょうか.
3.弓押さえ・・・糸鋸の左に見えるもので,糸鋸に鋸刃をセットするときに糸鋸の弓を狭める際に使用します.平板を切るときにはなくてもそれほど支障はありませんが曲げを行った後の穴に鋸刃を通すときには必要です.私は2.4㎜角の真鍮角線から製作しました.市販品は私は見たことがありません.
4.ドリル刃・・・鋸刃を通す穴を開けるときに使用します.私は主に呼び径1.6㎜を使用しています.
5.ハンドドリル・・・鋸刃を通す穴を開けるときに使用する場合がありますが,あまり使用しません.ハンドドリルでの穴あけはドリル刃が滑りやすいため使用するときは必ず小径ドリル(0.8㎜)を用いて開けた穴(凹み)をポンチマークとして使用しています.
6.ドリルチャック・・・直径3㎜程度のドリル刃を取り付けて鋸刃を通す穴に発生したカエリを除去するために使います.穴のカエリを除去しておかないと切断時に鋸刃が引っかかり,最悪の場合折れてしまいます.
私は穴あけ時にはセンタポンチは使用しません.先端が鋭いものでは刃先の滑りを抑えにくく,鈍いものでは周囲の変形が大きくなるためです.
このほかに切断部に付着した切粉を除去するための筆が必要です.切粉を確実に除去するためには自然毛を使用した歯ブラシも有益で,一本あっても良いかと思います.またバラキット組み立て時と異なり同一のドリル刃で多くの穴あけ作業を行いますのでドリルの切れ味が作業性に大きく影響します.ドリルを研ぐのは難しそうなのでもし切れ味が悪いと感じたら買い換えるのも一法と思います.

・ 作業の実際
まずは小物を切断してウォーミングアップを行いますが,その前にどのような部品が必要かを把握しなければなりません.そのために必要なのが部品表ですが,私は表は製作せず,下の写真のような備忘録的な”絵”で済ましています.

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真鍮板から車両を作る -序:製作開始に当たって-

在庫していた最後の真鍮製バラキットであるD51の組み立てを終了した時点でレイアウトセクションの製作に着手し,真鍮製の車両を製作することは今後もうないのではないかと思っていましたが,レイアウトもほぼ完成してしばらく経つとまた金属製の車両の製作がしたくなってきました.しかしHOゲージ(16番)の真鍮バラキットは蒸気機関車以外でも市場には私がリーズナブルと思える価格で入手できるベーシックな真鍮製のバラキットは殆んど存在しておらず,その割にはキットの細密化のためのパーツは多数存在しているという車輌工作を楽しもうとする者にとっては非常に歪んだ状況になっています.ただ,プラ製品も普及してキット自体の需要も減少している現在,この現状にいくら不満を募らせても以前のように市販のパーツが活かせるベーシックな真鍮バラキットが発売されるということ可能性はまずないのではないかと思います.一言に「車両の工作を楽しむ」といっても私にとっては現在発売されているようなな細密キットの組み立ては極端にいえばプラモデルを説明書通りに組み立てるのと変わらないような気がして工夫の余地が少なく,あまり手を出す気にはなりません.工作を楽しむためにこれらの細密キットをさらに細密化するという手段もありますが,今回製作したレイアウトに今まで製作した車輌を並べてみると,車輌以外の部分も含めて実物の世界をトータルで再現して楽しむ鉄道模型には実物の再現にこだわりすぎた細密な車両は要らないようにも感じます.

この状況を打開する方法の一つは車輌を真鍮版から製作することです.私は今から40年以上前,スクラッチビルドで金属製の車輌を製作した経験があります.しかし,パーツの充実等で当時に比較して作品や製品のレベルが上がっている現在,自分で満足ができる車両をスクラッチビルドすることはなかなかハードルが高い気がします.ただ,当時に比較すると製作のために必要な素材や工具は各種販売されており,当時よりは製作しやすい環境になっているのではないかということ,キットを使用しないことでキット組み立て時の感じていた作品の類型化が避けられるような気もします.そこで今回思い切って真鍮版から車輌を製作してみることにしました.製作した車両は現在,車体の基本部分が完成した状態(バラキットを組み立てた状態)まで完成していますが,これからそこまでの顛末と製作のプロセス,製作中で感じたこと等を記しててみたいと思います.

バラキットを組み立てた状態になった真鍮版から自作したキハ25とキハ52の車体


私が約40年前に以前私がスクラッチビルドで客車を製作した頃はピノチオ,谷川製作所等から旧型客車のキットが各種発売されていましたが,10系客車のキットは発売されていませんでした.その一方,当時は急行「津軽」や急行「十和田」等,優等車が10系客車で普通車が旧型客車で組成された急行列車が多数運転されていましたので,それらの列車を再現しようとすると優等車は自作せざるを得ませんでした.このように当時私が車輌を自作する動機は一言で言うと「キットが市販されていないものを自作する」というものでした.その後フェニックス模型店等から10系客車のキットが発売されましたが,それから40年たった現在,まさかキットの入手が当時より厳しい状況になってしまうとは思いもよりませんでした.鉄道模型を愛好する人は当時とは比べ物にならないほど多いと思いますが,プラ製品の普及やNゲージの細密化工作の一般化で等で40年の間に模型の楽しみ方が大きく変わったということでしょうか.
なお,当時車両のスクラッチビルドをするにあたってはTMS誌に掲載されていた真鍮製車両の製作法(例えばTMS221(1966.11月号),片野正巳氏執筆の金属工作の手引き・キユ25の作り方)等を全面的に参考にしましたが,思えばこのような「作り方」的な記事も雑誌からほとんど姿を消してしまいました.

かつてTMS誌に掲載されたいた真鍮製車両の製作法の例

まずは真鍮版から車輌を製作するにあたり,過去に私が上記の記事等を参考に製作した車両とバラキットを組み立てた車輌を比較して.私が感じたバラキット組み立て品ととスクラッチビルドした車両の外観的な違いと製作にあたって私が感じた留意点を述べてみたいと思います.以下の写真は私が真鍮版から製作した車両とキットを組み立てた車輌を比較したものです.下の写真は真鍮版から自作したスハネ16です(台車は仮のものを取り付けてあります)

真鍮版から製作したスハネ16

こちらはバラキット(フェニックス模型店製)を組み立てたオハネフ12です.

フェニックス模型店製キットを組み立てたオハネフ12(蒸機暖房仕様)

両者の印象を比較すると,自作品の屋根Rが実物と異なること,窓の位置と天地寸法が実物と異なるため(キットが正しい),自作品の印象はキット(実物)と異なったものになってしまっていますが,これは設計上の問題で,側板の平面製,屋根カーブの稜線の乱れは自作品でもキットとの差はほとん感じられず,車体の曲げという面では寸法を正しく設定すればスクラッチビルドでもキットと比較して遜色ないレベルには仕上げられそうです.
一方,窓周りを詳細にみるとキットと自作品では印象が大きく異なります.
自作品は窓を糸鋸で窓抜きし,やすりで仕上げてあるのに対し,キットはプレスで窓を抜いてあります.このためキットは窓の周囲がダレており,これが実物の窓の周囲の溶接サンダー仕上げの雰囲気を出しています.キットはこのダレ量を雄型と雌型の型の隙間等で意図的に調整しているのかは不明(キットの窓の内側にバリが出ているのはその調整のせい?)ですが,屋根の曲げや側板の平面製は両者同等でもこの窓周りの印象でキットの方がより実物の印象を再現しており,窓周りを詳細に観察しなくても全体的に見た時の印象を実感的にしています.また,窓上の水切りもプレスのRが真鍮線を取り付けた自作品よりもより実物に近い印象を与えています.自作品でキットと同等以上の実感を得るにはこの窓周りのエッジの処理が課題となりそうです.

10系寝台車の自作車両の窓周り
フェニックス模型店製の10系寝台車キットの窓周り

.また窓周りの表現では,固定窓のHゴムの表現も自作における課題となります.プレスによる「ソフトな」Hゴムの表現は自作ではなかなか難しく,Hゴムは少しゴツくなるのを承知で真鍮線等で表現するか思い切って省略するかのどちらかを選択する必要がありそうです.ちなみに自作のオロネ10は固定窓のHゴムは省略していますが編成に組み込んで走らせた際には少なくとも私にとってはHゴムの有無はそれほど気になりません.

真鍮版から自作したオロネ10の窓周り.Hゴムは塗装で表現.
フェニックス模型店製のキットを組み立てたオロネ10の窓周り

一方,ウインドシルとウインドヘッダがついた旧型客車の車体では10系客車ほどキットと自作品の際は感じられません.スロ62は冷房化のため低屋根構造に改造されていますが,非冷房の旧型客車に関しては真鍮版からの自作の方が屋根のカーブが実物に近い形で再現できるような気もします.

真鍮版から自作したスロ62の窓周り

以上のように,自作車体をキットと同等以上にする一番の留意点は窓周りの表現である考えられ,車両のスクラッチビルドではこの部分の技法を検討して確立する必要があります.逆に言えばこの点さえ克服できればキットと遜色ない車体がスクラッチビルドで製作できるのではないかとも考えられます.
 とは言っても私の真鍮製車両のスクラッチビルドには長いブランク期間がありますので,このような細か部分を検討する前に昔の記事の製作法を参考に真鍮板から車体を製作し,基本的な部分が当時製作した車両と同等以上かつキットに比較して遜色ないレベルで製作できるかを確認することが先決です.そのため窓周りの表現はその中で検討していくこととし,まずは失敗覚悟でスクラッチビルドによる車体の製作を行ってみることとしました.そこでまず手始めに製作したのが車掌車「ヨ5000」で,その後製作したのが20系気動車(キハ25,キハ52)です.次回以降はその製作のプロセスや使用した工具等を順次紹介していきたいと思います.


最後までお読みいただきありがとうございました.

模型車両の製作:珊瑚模型店製D51の組み立てと加工(7) :D51の組み立てを終えて思うこと

このブログでも紹介ししているように私は1990年頃に車両製作(日本型の鉄道模型)を離れ、その後約30年間、外国型鉄道模型のレイアウト製作をしていましたが、そして今回、久しぶりに蒸機バラキットの細密化加工を行ないました。何せ久しぶりのことですので色々苦労はしましたが、日々少しずつ組み上がっていくモデルを見るのは楽しく、楽しい時間を過ごすことができました。実はこのD51のキットが私の手元にある最後のキットでした。塗装を残してこのキットの組み立てを終了し、これを機に今まで製作してきた機関車を含め、これらの機関車でこれから何を楽しもうかと考えたのがこの記事を書くきっかけでした。なお、以下に記載することはあくまで私の私見ですので、その点、ご了解ください。

私は小学生の頃に鉄道模型を始めてから15年ほどたった1980年から1990年ごろにかけて、蒸気機関車のキット加工を行なっていましたが、車両製作の目的(動機)は ”蒸気機関車が配置されている機関区のレイアウトセクションを製作し、そこで自分が製作した車両を運転しながらじっくり眺めてみたい”ということであったように思います。一方、機関車だけでなく客車も同時に製作していたのは、いずれは(ローカル線ではない)列車が走るレイアウトを製作してみたいという思いがあったからです。このうち、蒸気機関車の機関区セクションの具体的イメージは下記の写真にあるなかお・ゆたか氏製作のレイアウトセクション”蒸気機関車のいる周辺”でした。

機芸出版社発行の”レイアウトテクニック”に収録されているなかお・ゆたか氏製作のレイアウトセクション”蒸気機関車のいる周辺”

私が当時製作した蒸機を一部を除き特定ナンバーにしなかったのはいかにもありそうな機関区の風景を再現して見たかったからです。晩年の蒸気機関車に形態は各地域ごとにバラエティに富んでおりましたが、その中には形態や装備に特徴(美しさ)がある「有名機」というものが存在しました。そしてそれらは鉄道雑誌等でよく話題となっており、模型のプロトタイプにもなっていました。ただ当時、それらが配置されていた機関区には当然「普通」の機体も稼働していたわけで、各地の有名機を製作し、レイアウトセクション上に集めてもそれは機関区の日常風景を再現したレイアウトセクションとはならず、単なる車両展示台になってしまいます。私が一部(C62)を除き、特定ナンバーではない機体を、異なる形式間でもある程度共通な装備(特徴)を持つ北海道仕様で製作してきたのは、私がレイアウトセクションで目指すのはは展示台ではなく、機関車が働くいかにもありそうな日常風景をその機関区がある地域のイメージも含めて再現したいという思いがあったからです。
その後私が車両製作から離れて外国型レイアウト製作に転向した経緯は”When is your realism level good enough?:車両製作から外国型Zゲージレイアウト製作の決断まで”に記載したとおりです。そして、その中でZゲージレイアウトのがほぼ完成した時、今まで慣れ親しんだサイズのレイアウトを製作して外国型の車両を走らせてみたいと思い、制作したレイアウトセクションが以前このブログで紹介した”ALTENHOF機関区”です。そして、そのテーマとして実際に訪れたことのない外国の機関区セクションを製作しようと決めた背景はやはり、上記の”蒸気機関車のいる周辺”の影響が大きかったと思います。その構想の中で、Zゲージレイアウトで運転中のリバース区間のスイッチ切り替えや複数列車の制御のためのキャブの切り替えの為のスイッチ操作が思ったより煩わしい作業だと感じていた私は、HOゲージの機関区セクション製作の際、”蒸気機関車のいる周辺”では機関車の留置等で2m足らずのセクションに15箇所のギャップが切ってあるという記事を読み、デジタル制御であれば配線も簡単で自由度の高い運転ができると考え、デジタル制御を採用することとし製作を開始しました。そして完成したレイアウトで機関車の運転を楽しんでおりました。

このレイアウトセクションが完成した頃、サウンド機能のついた蒸気機関車はまだ製品化されていませんでした

そんな時、ふと思い立って今まで私が制作した日本型の車両をこのレイアウト上に置いてみました。それが下の写真です。

外国型のレイアウトセクション上に置かれた私が製作した日本型蒸気機関車
機関区横の引き込み線に停車中の9600
機関庫前に停車するC57とC55. この頃D51のバラキット組立前.
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模型車両の製作:珊瑚模型店製D51の組み立てと加工(5) :テンダーの加工

前回までで、エンジン側の各部の加工内容の説明が終わりましたので、今回はテンダーの加工内容を紹介します。
5-1 テンダー本体の組み立て
テンダーは本体と床板(台枠)の2体構造となっていますが、組み立て前に加工が必要な部分はなく、組み立ては説説明書どおりに行いました。台車は台車枠に枕梁を取り付けるためのブロックをハンダ付けしますが、取付時にハンダが枕梁取付用のブロックのタップ部分に流れ込んでしまってもネジ部にタップを通して修正することはできませんので台車枠とブロックを十分加熱して少量のハンダを確実に流して固定することが必要です。これら本体の組み立てが終了したらディテーリング加工に移ります。

5-1 テンダー前妻
テンダー前妻には給水関係の機器、ブレーキ関係の機器、ATS関連の機器を追加します、このうちATS関連の機器を含む電気関係の配管は前妻から側面にわたって取り付けられますので後ほどまとめて説明します。
電気関係以外の機器として前妻に取り付けるのはテンダーからエンジンへの給水管とそのコック、手ブレーキ装置等ですが、これらはキットのパーツを使用しています。水面計は中央寄りにに取り付けられているものが多いようですが、たまたま水面計のロストワックスパーツが余っており、”蒸気機関車の角度”のD51の写真を見るとそのパーツと同一形状の水面計が取り付けられているテンダーもあるようなので水面計はこのパーツを取り付けました。角部の手すりは直径0.4㎜の真鍮線を使用しています。炭庫の扉前には火掻き棒とそれを置くためのブラケットを追加しましたが、このブラケットはキットに付属していた標識灯掛けを使用しました。この部品は、塗装後にやかんをぶら下げるために前妻の右側にも取り付けてあります。

テンダーの前妻側です

5-2 ATS関連の機器の追加
ATS装置は1962年頃から普及が始まり1966年に設置が完了しています。私が参考にした機芸出版社発行の”蒸気機関車の角度”には1960年代前半の写真も数多く掲載されていますので、写真の形態をチェックするときは、ATS装備前か装備後の写真であるかに注意が必要でした。国鉄の2軸ボギーのテンダーを持つ蒸気機関車では、ATS車上子はテンダーの台車間に装備されていますのでATSに関連する機器箱はテンダー側に設けられています。このテンダーに設けられた機器箱よりATS車上子への配管と後部ライト用の配管がテンダー後方に伸びています。
まず機器箱を0.3㎜の真鍮版から自作して炭庫の内側に取り付けます。次に機器箱の扉を0.1㎜の真鍮版から作成し、機器箱の前方に取り付けます。扉は両側に開く構造ですので中央部に筋を入れてあります。また扉には鎧戸状の通風口がついていますので、その部分に裏側から強く筋をつけて通風口を表現してみました。その後扉上部に水切りを取り付けて機器箱は完成です。

機器箱の扉の表面側. 鎧戸状の通風口は裏面から筋をつけて表現しました

この機器箱にはエンジン側から機器箱に電源を供給する配管と、機器箱からATS車上子及び後部のライト(ヘッドライト、標識灯)に向かう配管が接続されています。写真を見るとこれらの電線管はエンジン側の電線管よりも太い印象がありましたので、0.5㎜の真鍮線を使用しました。このうち、入力側はテンダーの床面から立ち上がっており、出力側は台枠上の継手を介して後方に向かいます。一方、このキットでは機器箱のある上部と台枠部は別体となっていますのでこれらを分解可能とするためには電線管を経路上で分離する必要があります。私はこのうち入力側については床板に設けた穴に嵌め込む構造とし、出力側については、台枠上に0.8㎜角の角線から製作した継手を設け、その上部に設けた穴に嵌め込む構造とすることにより本体と台枠を分離可能としています。同様の部分は後端にもう1箇所あり、両者の接続性が心配でしたが、作成してみると意外にスムーズに接続できます。

斜め上方から見たテンダーの前部です. 炭庫の右側にATS機器箱を取り付けました
機器箱からの電線管は台枠上の電線管継ぎ目の穴にはめ込んで組み立てます

台枠上に固定した2個の継手からの配管は0.4ミリの洋白線を使用し、割りピンで台枠下部に固定し、1本は中央部でATS車上子の方向へ配管し、もう1本は後部まで延長して先端に継手を取付けています。
5−3 後面の加工
テンダー後面のステップ、解放テコ、エアーホース、給水内はキットのパーツを使用しました。ヘッドライト、標識灯はロストワックスパーツを取付けてあります。また、電線管は0.4㎜の真鍮線、継手は0.6ミリ角の角線で製作しました。継手から各ライトに繋がる線は0.25㎜の燐青銅線を使用しています。なお、垂直に立ち上がる電線管のうち、台枠部の継手と接続される最下部の電線管は0.35㎜の真鍮線を使用し、継手の0.4㎜の穴への接続を容易にしてあります。写真を見ると角線の継ぎ手に開けた取付穴の偏心により配管に乱れが生じていますが見た目ではそれほど気にならないためそのままとしてあります。

テンダー後部です
後部の電線管は台枠の電線管継手の穴に差し込んで組み立てます

5-4 台枠の加工
台枠の非公式側には0.6㎜の真鍮線を用いた暖房管を割りピンで取付けてあります。裏面にはATS車上子を取り付けました。エコーモデルのパーツを使用しましたが、過去の蒸機製作で使用したパーツの余剰品を使用したので形態が正しいか否かは不明です。その他、ブレーキシリンダはロストワックス製のパーツに変更してあります。

テンダー床下にはATS車上子を取付. ブレーキシリンダーはロストワックス製に交換しました
前方から見たテンダーです
前方から見た完成したテンダーです

以上でテンダーの説明を終わります。なお、写真でもわかりますが台枠かぶに割りピンで取り付けている配管が歪んでいます。この部分も加工時に力がかかり変形してしまうことが多い様です。この辺りも塗装前に再度チェックすることが必要です。次回は残った下回りの加工内容を説明したいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

模型車両の製作:珊瑚模型店製D51の組み立てと加工(4) :キャブとキャブ下の配管の加工

今回紹介するのはキャブ周りとその周辺の配管の加工です。この周辺の細密化は作品の細密度をあげるための主要な部分の一つです。反面走行性(カーブの通過性能)を確保するためにはカーブ上で配管と従台車との干渉を避けることが必要で、その制約の中、細密感を保ちながら配管をどのように配置するかという所謂「模型化設計」を行わなければならない部分です。それではまず最初にキャブの加工内容から紹介します。

非公式側のキャブの側面


3-0 キャブの組み立て
キャブ組み立て説明書に従って組立てましたので組み立て手順で特筆するところはありません。前妻には組み立て前に配管取り付け用の穴を加工して置いたことは第1回目の組み立て前準備の中で述べたとおりです。その他の加工として、私は下の図面に示すように、キャブの床板に配管固定用として直径0.5㎜〜1㎜の穴を多数開けておきました。その理由は以下の通りです。

キャブの床に開けた穴の図面

キャブ周りに配管を取り付けていく際、キャブ下には配管が輻輳します。取り付けていく配管は図面や写真に基づき現物あわせで曲を行ない取り付けますが、曲げにはどうしても誤差が生じます。そのため、あらかじめその配管を固定する位置に穴を開けておいても曲げ時の誤差で取り付け位置がズレる場合があります。また、他の配管のずれに応じて取り付ける配管の位置を修正する必要も生じます。その際、新たに穴を開けようとしても前に取り付けた配管がドリル刃と干渉して穴が開けられない場合も考えられます。このためこれを考慮してあらかじめこの穴を開けておき、配管取り付け時、キャブに取り付けるための配管の曲げ位置を決める際、この穴の中のどれかを選択して曲げ位置を決めれば簡単に線を穴に入れて固定できるようなります。穴径より太い線を固定する場合もこの穴があればドリルやヤスリを斜め方向から入れて比較的簡単に径を拡大することが可能です。また、主要な配管が終了した後キャブから空気分配弁に向かう作用管を取り付ける際、この穴の中から適切な穴を選択して配管を固定することが可能です。なお、使用しない穴はそのままにしておいても外からは見えませんので未使用の穴を埋める必要もありません。
3−1 キャブの加工
側面には北海道型のタブレットキャッチャを取り付けました。国立科学博物館のD51 231に倣い、縦樋はそのタブレットキャッチャを避けるように曲げてあります。バタフライスクリーンは北海道の蒸機を象徴する装備ですが、形態をよく見ると、枠はかなり細い印象です。厳寒地を走る蒸気機関車には不可欠な設備ではありますが、模型としてみた場合、あまり目立つ物ではありません。そのため、わざわざ高価なロスト製パーツを奮発する必要もないと思い、幅0.3㎜、厚さ0.3㎜のの帯板と直径0.3㎜の真鍮線から自作しました。帯板が薄いので強度的に不安でしたが枠体にすると意外に強度があり変形の心配はないようです。旋回窓も前方の視認性を確保する重要な設備ですが、は取り付けるとゴツくなりそうな気もしましたので、取り付けておりません。最近は歳のせいか、実物(プロトタイプ)についているものを全てつけるというよりはゴテゴテ感を抑えてある程度車両としての美しさにもこだわる様になったのかもしれません。

公式側のキャブ側面

信号煙管、暖房用安全弁はキットのパーツを使用していますが私が今まで製作した作品も使用したパーツは珊瑚模型店製でしたのでその点では他機とのバランスも問題ありません。吊環はD型機には大型のものが似合うような気がしましたので中央部につける大型のパーツを選択しました。テンダ水撒管はC57 135の形態を参考にして割ピンと真鍮線から製作しました。交通博物館に展示されていた頃のC57 135は2階から上部を間近に観察することができ、その点、模型ファンには有り難かったような気もします。鉄道博物館に移ってからは上部が観察しにくくなった感があります。以前紹介したEF58は鉄道博物館では壁際に展示されており、模型製作のための細部撮影には苦労しました。20系客車を製作する際も一瞬鉄道博物館に行って床下の細部の写真をことも考えたのですが、床下は見えにくい展示になっているようですのでやめました。博物館に「綺麗に」展示されている車両は屋外に無造作に保存されている車両より却って細部が観察しにくいようです。最後に話が脱線してしまいましたが、以上でキャブの説明を終わり、以下キャブからコンプレッサ、給水ポンプに至る配管について説明します。

割りピンと真鍮線で製作したテンダ水撒管
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C57 135のテンダ水撒管

4−0 キャブからコンプレッサ、給水ポンプに至る配管の構想
冒頭にも記載したように、このキャブからコンプレッサ、給水ポンプに至る配管は細密モデルを特徴付けるいわば象徴のような部分と言っても過言ではありません。下の写真は第1回目の記事で紹介したなかお・ゆたか氏執筆のD51の組立て法の第1回目が掲載された1974年の1月号に掲載されたカツミ模型店製のD51の紹介記事ですが、この部分の配管は公式側は途中に調圧機のついたキャブからコンプレッサに至る配管のみで、取り付けられている部品も挽物製のドロダメのみ、非公式側はウズ巻き塵取りが取り付けられた給水管のみです。このようなモデルを見慣れていた時代の者にとっては、当時のTMSに掲載されている各種のロストワックスパーツを駆使してこの部分の配管を充実させた作品は憧れであり、まさに高嶺の花でした。ただ、当時は(今も?)ロストワックスパーツ自体も「高値の花」でした。なお、同年2月号に紹介されている宮沢模型製のC57はホワイトメタルのパーツのキャブ下の分配弁等が取り付けられています。ロストパーツの普及や雑誌に掲載される細密機の影響でこの頃から製品(完成品)の細密化が意識され始めたのかもわかりません。

TMS1974年1月号のカツミ模型店製D51の紹介記事

このような時代を経験しているものにとってはこの部分の作業には特に力が入ります。私は1軸従台車を装備する機関車のキャブ下のへ配管の追加は過去に紹介したC 57,C55で行なってきました。しかし、D51はそれらの機種とは異なりキャブ下に低い位置で車端まで伸びた台枠が存在しており、このキットはその台枠が従台車側に造形されています。これは上記キット組み立て法で解説されているアダチ製作所製のD51の従台車も同構造です。この部分は、なかお・ゆたか氏執筆のD51の組立て法では空気分配弁等キャブ下のディテールはダイキャスト製の従台車側に取り付けられ、従台車とともに首を振ります。カーブ通過だけを考えればこの記事のようにキャブ下の機器と配管は従台車側に設けた方が合理的な様な気がします。ただ、私はやはりこの言わば細密化の象徴のような部分を台車側に設けるのに抵抗があったため、配管は車体側に設けることにしました。そのための対応として公式側では空気分配弁の位置を従台車の台枠と干渉しない位置まで持ち上げ、真横から見て従台車とラップする機器は渦巻き塵取りのみとする対応をしてあります。。また、非公式側では各配管を従台車の台枠と干渉しない位置まで上方に持ち上げるとともに、キャブのほぼ直下に降りる配管をテンダー側に退避させて配管してあります。結果、配管が全体的に外側に位置するとともにテンダー各配管をU字型に曲げてテンダー側に延長することができなくなってしまいました。完成後眺めると、各配管はもう少し下方かつ内側に攻めても良かったような気もしますが、この辺りは運転性能確保上やむなしと割り切ることとしました。
4−1 配管とその引き回しに関する資料
今回全面的かつ有効に活用した資料はTMS1975年1月号に掲載されたなかお・ゆたか氏執筆の国鉄蒸気機のパイピングという記事(図)です。この記事が掲載される前にも、蒸気機関車の給水関係と空気関係の各機器の接続図はよく掲載されていましたが、このように各配管が実機の配管がどのあたりを通っているかを示したのはこの図が初めてではないかと思います。最近の雑誌でもよく掲載される空気ブレーキ関係の配管図は多分米国特許の図面をもとにしているのではないかと思われますので必要な機器とその接続は正確です。また蒸気(水)の流れを説明した図では直接機関車を動かすのに関係ないレール水撒管やタイヤ水撒管等は省略されていることが多いようです。その点、この図はそれらの配管も含め、各配管が機体のどのあたりに配置されているかがわかります。この図はD51の例で記載されていますが、D51だけでなく他の形式も含め、いろいろな機体の写真をこの図と対比させてじっくり眺めることにより、他の形式の改造が施されている機体も含めて(配管が接続される機器はほぼ同じ位置に取り付けられているため)実機のどの配管がこの図面のどの配管に相当するものかが特定できるようになり、いろいろな機体から各部の好みの形態を選択し、矛盾のない形で特定ナンバー機ではない「個性のあるモデル」が製作できるような気がします。最近模型雑誌でも蒸気機関車の各部の形態差の解説をよく目にしますが、このよような基礎的な解説もぜひ掲載してもらいたいと思います。なお、この図では電線管は非公式側にありますが、前述のようにD51 231やC57 135では公式側にあります。電気ケーブルはは水や空気配管と異なり配管の自由度が高いため機体により電線管は機体により位置が大きく異なっているようです。

TMS1985年2がつ号に掲載された記事”国鉄蒸気のパイピング”

前置きが長くなりましたが、以下、写真で加工内容を説明します。
4-2 公式側の配管
キャブからコンプレッサに至る部分のランボード下方には以下の配管を取り付けてあります。
a. キャブ(蒸気分配箱)から調圧機を経てコンプレッサに至る配管
b. 調圧機に接続される高圧頭作用管及び低圧頭作用管
c. 元空気溜め管(途中に締切コックを取付)
e. ブレーキシリンダー管
f. ドロダメから火室ノド板留弁に至る配管
また、北海道の蒸機に特徴的にみられるテンダ水温め管をランボードに沿って配管しています。この配管はコンプレッサの前方でコンプレッサ排気管と3方コックで接続され、キャブ下を通りテンダに向かいます。コックはロスト製の締切コックを使用しましたが、もう少し大型のパーツにするべきでした。また、速度系ロッドを追加してあります。
キャブ下に取り付けたのは以下の配管です
g. 元空気ダメ管から空気分配弁に至る配管
h. 列車ブレーキ管からうず巻きチリ取りを経由し空気分配弁に至る配管
i.キャブから空気分配弁に配管される作用管
これらは奥側から手前側に、取付手順をよく考えながら取り付けていく必要があります。なお、前述のように空気分配弁を従台車との干渉を避けるため実機よりも上方に取り付けましたので分配弁上方のスペースに余裕がないため配管は実物通りには接続されていません。また今までの作品では取り付けていた無動力改装装置も省略しています。速度計ロッドは0.3㎜の真鍮線でキャブ側と動輪側の本体部(ギアボックス等)は帯板、真鍮線、輪切りにした真鍮棒から自作しています。

加工の終了した公式側キャブ周辺. 空気分配弁は実機より上方に取付.

4-3 非公式側の配管
非公式側のキャブから給水ポンプに至る部分のランボード下方には以下の配管を取り付けてあります。なお、キットに付属していた.2子3方コックは長さの短いタイプでしたが、配管が従台車を避けるため実機より上方に配置されるため、バランスを考慮して長いタイプに交換してあります。
a. 給水ポンプに接続される蒸気管と排気管
b. 給水ポンプから消火栓を介して給水温め機に至る配管(ロストワックスパーツ)
c. 給水ポンプからチリコシを介してテンダーに至る配管(布巻管)
d. 2子3方コックから前方に向かうレール水撒管及びタイヤ水撒管
e.2子3方コックから水撒インジェクターに至る配管及び水撒インジェクター蒸気管
f. 水撒インジェクターから下方に向かう排水管
g. キャブからの注水機溢れ管
h. キャブからの排水管
i. キャブから給水ポンプ方向に向かう作用管2本
この中で実機の排水管はキャブからほぼ真下の方向に向かうものがありますが、今回は従台車との干渉を避けるため後方に曲げて配管してあります。この部分の布巻管は以前発売されていた福原金属製の布巻き管を使用しています。真鍮線に薄板が巻き付けてあるもので、実感的ではありますが、曲げの部分で巻いてある板がずれて巻き乱れが生じますのでをの部分はうまく修正してハンダで固定しておくことが必要です。またランボード下には上方の発電機から伸びてくるドレン管を取り付けてあります。

非公式側のキャブ下の配管.

給水ポンプ前方の連絡管(冷却管)は公式側と同じ方法で製作してあります。前方に油ポンプ箱がありますので長さは少し短くなっています。

以上でエンジンの加工はほぼ終了です。この後取り付けに歪みのある部分、加工中に変形してしまった部分を修正して作業完了となります。なお、今回のように各部を至近距離で写真撮影しじっくり眺めると歪みや変形がよく分かります。今回紹介した写真でも歪みが目立つ部分がありますが、その部分は塗装までに修正したいと考えております。次回はテンダーの加工内容を紹介したいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

修正作業を残しひとまず完成した車体. 標識灯高さは上方に修正済み

模型車両の製作:珊瑚模型店製D51の組み立てと加工(3) :ボイラー周りの加工

前回は機関車のフロントエンドの加工について説明しましたが、第3回目の今回は今回はボイラー周りの加工について紹介したいと思います。このキットのボイラーまわりの部品は主にロストワックスパーツが使用されているのでパーツのロストワックスパーツ化は汽笛のみとなります。したがって加工は配管の追加が主な作業となります。主な加工箇所は車警用発電機の追加とその配管、空気作用管の追加になります。なお、ボイラー周りの布巻線は全てウイスとジャパン製を使用しています。
2-0 組立手順について
まず、細部を説明する前に全体的な組立手順について記載したいと思います、このキットの取扱説明書ではボイラーにパーツを取り付けてからランボードを取り付ける手順となっています。また、第1回目で紹介したなかお・ゆたか氏の組み立て記事の手順も同一の手順です。一方、私は、ボイラーに部品を取り付ける前にランボード(前部デッキの斜め部分を除く)を取り付けています。これは今まで製作のベースとしてきたボイラーとランボードがあらかじめ組み立ててきたカツミ製イージーバラキットの影響もあるかと思いますが、外観上の基準となるランボードを取り付けてから部品を取り付けたほうが組み立て中に全体的なバランスがチェックできるような気がしているためです。なお、どちらを先に取り付けてもボイラー内側へのハンダゴテのコテ先のアクセス性はほとんど変わりません。それでは以下、細部を説明していきます。
2-1 ランボード上のディテール
ランボードへの筋付けとリベット植え込み、ランボード上の点検口(点検口の蓋)を追加しています。これらはランボーどをボイラー取り付け前に行います、点検口は0.2㎜の洋白板を用い、適宜把手を追加してあります。この点検口の位置は機体によって様々で、位置が決まっているわけではないようです。この様に、実機の形態の法則性がわからず、どのような形態で製作するかに迷った場合、私はあまり悩まず、手持ちの雑誌の一枚の写真(製作中の形式とはかぎりません)に基づいて製作したり、多数の写真を見てそこから湧いたイメージで加工箇所や部材の形状を決めてしまいます。この辺りは特定ナンバー機を製作するのとはまた違った楽しみ方ではないかと勝手に思ってる次第です。

ランボード上に取り付けた点検口

公式側のランボードには前方より油ポンプ、油ポンプ箱、逆転機カバーを追加してあります。その他のパーツはキットに付属していたものです。

2−2 ボイラーに取り付ける部品の追加・交換
ボイラー本体に取り付ける部品は、非公式側の逆止弁(標準型を耐寒型に交換)、汽笛(挽物製をロストワックス製にこ交換)の2点です。また車警用発電機を追加しました。

2-3 油ポンプ箱
非公式側のランボード下に取り付けられている油ポンプ箱はロストワックス製の部品には交換せず、付属のパーツを使用しています。このパーツは真鍮ドロップ製の前側の蓋部分と、コの字型に曲げられた真鍮の部材を組み合わせる構造ですが、コの字型の部材の板厚が厚く、角が甘くなっているので薄板で作り直しました。この部材にはエッチングパーツの縁の部分を使用します。今回はエコーモデル製のATS車上子の縁の部分を使用していますが、エッチングパーツの縁は帯板より幅が広く、平面製も良好ですので保管しておくと便利に使用できます。またこのような部品を折り曲げる際は折り曲げ部に筋を彫り込みますが、私は最近、その彫り込みにはプラカッターの刃を使用しています。オルファ製のカッターの替え刃の中にはプラカッターの替え刃があり、価格も比較的安いですので消耗品的に使用でき、重宝しています。


2-4 発電機周りの配管
下の写真は発電機周りの配管です。車警用発電機は上記の入り口と電線の取り出し口が外側にあり、配管が発電機を乗り越えてCABに配管されています。また、発電機からの電線管には発電機の近傍に継手がついていますので配管の工作がが少し複雑になります。マフラーは主発電機は付属の挽物パーツを用いましたが、車警用発電機用のマフラーは挽物パーツがなかったので洋白棒から自作しました。マフラーはその下部に取り付けた真鍮線を発電機の穴に差し込んで固定しますが、強度確保のため根本を近傍の配管にも半田付けしてあります。今まで製作した作品は何回か外れてしまったことがあります。運転して楽しむ細密化したモデルではこのような対応も必要と感じます。

この発電機周りの配管は鉄道博物館に保存されているC57 135を参考にしました。国立科学博物館のD51 231もほぼ同形態であると思われます(上から観察できないので詳細は不明ですが)。配管の直径が元々オーバースケール気味ですので、このような配管が輻輳する部分では次第に配管の隙間がなくなってきます。今回も汽笛引き棒を通す位置が限られてしまい、取り付けには苦労しました。

電線管がCABに入る部分には真鍮角線で製作した継手を設けました。これもD51 231を参考にしています。

2-5 その他の配管
ボイラー上に配管を追加する(パイピングする)際に最初に行うことは各配管の線径を決めることですが、その際にはまず主要な配管の線径を決めます。「主要な」と言っても機能的に主要なものではなく、比較的目立つという意味での配管です。目立つ配管とは私の感覚では、昔のあまり細密ではない一般的な「完成品」に付けられている配管です。そして、それらについて線形に注目して写真を見ると、砂撒管>ハンドレール、ハンドレール<加減弁テコ、砂撒管<加減弁テコ、加減弁テコ等<給水管等、各配管の太さの関係のイメージがわかりますので、そのイメージに沿って線径を決めていきます。私は上記の配管について、線径を 砂撒管=0.4㎜、ハンドレール=0.5㎜、加減弁テコ=0.6㎜、給水管=0.6㎜(布巻管)としました。そしてハンドレールより細い線は直径0.3㎜、給水圏より太い線は0.8㎜、空気作用管は0.25㎜としてあります。ただ給水管はもう少し太くても良かったかもわかりません。一方、配管径の中で迷ったのは電線管です。写真を見ると太さは様々で、ハンドレールより太い機体も細い機体も存在しますが、今回は前述のD51 231やC57 135の例に倣い、直径0.3㎜の真鍮線を使用し、公式側のハンドレール下部に割りピンで取り付けました。また各配管の固定方法ですが、ボイラ側面のハンドレールの支持はキット付属のパーツを使用し、それ以外はボイラーから浮き気味についている部品は割りピン、密着している配管はu字型の帯板で固定してあります。割りピンは当初は福原金属の製品を使用し、U字型の帯板はその足の部分の切れ端を使用しました。この割りピンは各種の線径と幅のものが発売されており便利に使用していましたが、手持ちの在庫が枯渇してしまいましたので途中から幅0.3または0.4㎜、厚さ0.15㎜の帯板から作成したものを使用しています。割りピンはボイラーに開けた穴に差し込みますが、その際は割りピンの足の形状に注意が必要です。具体的には割りピンは左右の帯板の長さを変えること、穴に挿入する順番を考えて長さを変えること(最初に穴に入れる位置を最も長くし、穴に入れる順番に長さを短くする)です。これを怠ると取付時に非常に苦労することとなります。
その他の配管としては発電機からのドレン管(φ0.25)、汽笛引き棒(φ0.3)等を追加してあります。また給水管の一部には管継手を設けています。

2-6 空気作用管
空気作用間はいわば細密モデルの象徴のような存在で、かつては既製品には殆ど取り付けられてはおりませんでした。ただ、細密化加工をする場合はそれを象徴する必須の部品です。この部品はかつては完成品が市販されていましたが高価であり、なかなか手が出ないものでした。形状は製作するにはなかなか難しそうですが、私の作品の作用管はは全て自作です。そこでその製作方法を以下に示します。なお、この方法では隣接する作用管の隙間は表現できませんが、上の写真のように殆ど気になりません。モデラーにとって、空気作用管のイメージは並行して固定された作用管が継手部分で一度開いて各部へ配管されるイメージですが、実機では色々なパターンがあるようで、国立科学博物館のD51 231も継手部の開きはありません。そのほか、砂撒管へいく配管以外はボイラー下部に設置されている例もあるようですが、今回製作した作用管は典型的な5本タイプです。

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