前回より大分間が空いてしまいましたが、今回はクハ76の組立てを前面部分を中心に説明させていただきたいと思います。クハ76の前面部分は言うまでもなく湘南型の2枚窓です。この一世を風靡したデザインは今でも一部の車両で見ることができますがその形状を実物の印象通りに製作するのは大変難しいものです。昔発売されていた小高模型のペーパーキットは前面部分は真鍮製のパーツが入っていました。このパーツは真鍮の薄板を絞り加工したパーツで、今でも手元にあるのですが、湘南型の前面は運転台の窓まで表現しているため他の前面に比べて奥行きがあり設計や製造が難しいためか全体的な印象が実物の印象とは異なっており、あまり満足のいくものではありません。とは言ってもペーパーで作るのも難しそうです。今回の製作にあたっても手持ちのパーツの使用も考えたのですが、今回思い切ってペーパーによる自作にチャレンジしてみました。うまくできる自信は全くなかったのですがパーツの印象もイマイチですので同じイマイチになるのならペーパーでの自作にチャレンジしてみようと思った次第です。
側板、妻板の製作法は前回のクハ68と同一です。クハ68との違いは前面と側板の接続部の位置で、クハ68は縦樋の部分で接続しましたが、クハ76では乗務員ドアの前方で接続することとしました。
前面は展開寸法を求めるために一度使用するペーパーで試作をした上で展開寸法を求めます。今回前面に使用するペーパーはバロンケント#300(0.4㎜厚)としました。これは側板と同じペーパー(0.25㎜厚)を2枚貼り合わせて作成すると曲げにくくなり、1枚だと剛性が弱くなると考えたためです。側板の厚さは0.5㎜ですが、0.1㎜の差は無視できると考えました。製作にあたってはまず模型用図面の平面図から前面形状を決める型紙を作成しました。湘南型の場合中心からくの字型に後退角がついていますので中心線を明確にする必要があるため型紙はケント紙上への作図で罫書いて作成しました。その形状は模型用図面の実測で、中心線と直交する線からの窓部の後退角は12度、側板との接続部はR3です。次に腰板部の形状を決めますが、側面から見た窓部の後退角は図面の実測で12度でしたので腰板部の上辺はは中心線上の高さ12.5㎜の線から12度で側面部まで傾斜した直線としました。窓部の下辺は腰板部に傾斜をつけたため直線となり、側面との接続部から傾斜12度で立ち上がった形状としました。窓部と側板の接続部はその立ち上がった直線と直行させます。この形状を基本に接続部のRを加減しながら試作品を作成し、最終的な展開寸法を決めてあります。具体的な形状は下の画像をご覧ください。試作品は窓形状も含めた全体的な形状を決める試作品と組み立て後バラして展開寸法を測定するため2個作成しました。
試作品で求めた展開寸法で実際に使用するパーツを罫書きます。正面窓の大きさがが印象を決めますので慎重に寸法を決めていきます。窓の大きさは図面通りだとやや大きい感じがしたので図面より少し小さ目に作ってあります。余談ですが、私が中学生の頃は電車区に行って見学させて欲しいというと職員さんが構内を案内してくれました。その際クハ76の運転台にも乗せていただだいた事がありますが窓が大きく広々とした印象であったことを今でも覚えています。昔湘南電車の模型はカワイモデル、つぼみ堂等各社から発売されていましたが、両者の前面の印象は全く異なっていた(実物の印象とも異なっていた)という記憶があります。また、模型は実物寸法と全く同じに作ると印象が異なる場合があると言われます。ヨーロッパではメルクリンやフライシュマンがこのあたりの設計がうまく、BR103の「卵型」の前面の印象あたりに他社との差が現れていると言われます(実際には実物を見慣れていないのでわかりません)が、この湘南型の前面はそのようなセンスが必要な部分なのかもわかりません。
窓の罫書きが終了したら曲げを行います。この際中心線には表面からカッターナイフで折り曲げ線を入れて「鼻筋」がしっかり通るようにします。ちなみに欧米ではこの鼻筋をpants crease(ズボンの折り目)というようです。この方が実際の形状に近い表現のような気もします。側板との接続部はクハ68と同様タミヤの塗料かき混ぜ棒の軸(φ2)に当てて曲げました。
曲げが済んだらパーツを木工用ボンドで組み立てていきます。木工用ボンドは瞬間接着剤より乾燥が遅く、一度剥がれてしまってもその部分が硬くなりませんので使いやすいと思います。乾燥時間は比較的早く実用上は問題ありません、上面は幅が35㎜となる様、板を接着します。なお、この作例では腰板の長さが若干短くなってしまいましたのでその部分を後で継ぎ足しました。全体的な長さは試作品の展開寸法ぴったりに作らずに最初から長めに作って最後に調整した方が良いかもわかりません。
大体の形状ができたら側面、上面からみて前面窓の前後の辺が平行になるように形状を手で修正し、形状が決まったら瞬間接着剤を流して形状を固定します(画像は調整途中の画像です)。
この調整が終わると概ね前面の形状が完成しますので次に車体を箱状に組み立てます。組み立て方はクハ68と同じです。
組み立てが終わったら屋根板を用意します。屋根板はのぞみ工房製の屋根板Dを使用します。長さは今回作成した前面の手前まで、側板の長さと同じにします。
次におでこの部分にバルサ材のブロックを接着します。前面の上辺は山形になっていますので下面をその形状に合うように整形し接着します。
接着剤が乾燥したらバルサブロックを大まかに整形し、ヘッドライトを埋め込みます。ヘッドライトは外形4㎜の真鍮パイプを使用しました。所定の高さ(下辺から31㎜)の位置に穴を開けて約10㎜の長さに切ったパイプをはめ込みます。パイプの接着はゼリー状の瞬間接着剤で行ないました。
接着剤が乾燥しヘッドライト用のパイプが固定されたらおでこの部分の整形を行います。整形は断面の型紙を用意し、その型紙に合わせて紙やすりで整形します。私はタミヤの#280番のペーパーで整形しました。
型紙に沿った形状ができたらひとまず前面は完成です。今回使用した屋根板は肩部のRは仕上げられていませんので屋根の目止めは肩Rを整形した後にします。
今回は主にクハ76の前面の工作を説明させていただきましたが。平行して製作していたモハ70も2両完成し、ひとまず4両の車体が揃いました。
最後に接合部にエポキシ接着剤を流して下地処理前の車体は完成としました。この時点で満足の行く車体が仕上がる見込みが立ったらそろそろ台車やでティール用パーツの購入(投資)の決断をしても良いかもわかりません。
次回はこれらの車体のパテによる目止めとサーフェサーによる下地処理について説明させて頂きます。