前回までで機関区の線路を含んだ地面の基礎部分は完成しました。基礎部分が完成した地面はこの後細部の仕上げ、部分的な着色等を行って完成させますが、この作業はストラクチャーの大きさと配置される位置に密接に関係します。一方、ストラクチャーの製作は機関区を製作した後、これまで説明してきた線路の敷設作業、地面の基本部分の製作と並行して進めてきましたので今回から数回に渡り、ストラクチャーの製作過程を紹介させていただきたいと思います。
構想時に機関区にある車両の運行に必要な設備として製作を計画したストラクチャーとその概略位置は以下の図です。今回は、この中から給水塔とそれに付属するポンプ小屋の製作過程を紹介します。
まずイメージを構築するためにまず雑誌や写真集、それにWEB SITEに掲載されている画像を見ながら構想を検討します。この機関区のテーマは北海道の機関区ですので主に北海道の給水塔をチェックしました。北海道のストラクチャーに関する雑誌の解説記事は1970年頃のTMS誌、TMS選書の中のシーナリーガイドに河田耕一誌の記事が掲載されていますが、このような解説記事だけではなく雑誌や写真集に掲載されている機関区で撮影した機関車の写真には比較的多く機関区の設備も写っていますのでそれらの写真も参考にします。ウエブサイトに掲載されている画像も参考にしますが、実際に検索すると実物より模型の画像の方が圧倒的に多く出てきます。1970年ごろの所謂SLブームの際、TMS誌の故・山﨑喜陽主筆はお立ち台で撮影に熱中するファンの姿を当時大阪で開催されていた万博会場で会場の写真を撮るようなもので資料的な価値はないと言っておられましたが、流石に当時から50年以上経つと万博会場で何気なく撮影した写真でも当時の風俗がわかるという観点で現在では資料的な価値はあるような気がします。ただ、お立ち台で並んで撮影した写真はみんな殆んど同じ写真であり、当時の風俗や周囲の雰囲気はわからないので50年後に資料的な価値があるかは疑問ですので山崎主筆の言葉はある意味今でもそのとおりであるような気もします。しかし当時撮影されたスナップ写真的な機関区の風景など鉄道現場で撮影した写真は当時の機関区の作業内容や労働環境を知るための資料、模型製作の資料としてそれなりの価値があるようにも思えます。SLブームの際に写真を撮影していた方は現在70歳を超えていると思われますが、そのような方が何気なく撮影したスナップ写真も現在では貴重な資料にますのでそれらの写真を検索アプリで検索できる状態でとこかにアップしておいていただけると今後蒸気機関車に興味を持ち鉄道模型のレイアウトを製作してみようとする人にとって貴重な資料となると思うのは私だけでしょうか。私もこのブログ等で当時の写真をアップしようとは思うのですが、当時の国内製のモノクロフィルムにはビネガーシンドロームが発生するという問題があり、当時プリントしていなかったフィルムがかなり失われてしまったのが残念です。
話を元に戻しますと北海道の給水塔と給炭台は特に給水塔に特徴があるようで、給水タンクの脚部が木材で覆われている例が比較的多いようです。上記のシーナリーガイドの解説によれば、タンク本体も防寒のために木材で覆われているものがあり、中にはタンク本体も木製のものがまだ残存していたようです。私はこのようなタイプの中から、タンク本体は鉄製で、脚部に6角形の木製の覆いががついたものを選びました。機関車への給水はスポートではなく、その覆いから出ている給水口から機関車に水を重力で供給するタイプです。参考にしたのはシーナリーガイドに掲載されていた函館本線茶志内にあった給水タンクです。
タイプが決まったらまず概略のスケッチを作成しますが、寸法の詳細が分かりませんので他の似たようなタイプの給水塔を含め機関車が映り込んでいる写真から割り出しました。このスケッチには給炭台も描き入れてで全体的なバランスが問題ないかを写真と比較して確認しました。
バランス的に問題のないことが確認されたら図面を作成します。通常日本家屋には”1間”という基本寸法がありますが、このような建造物にはその単位がどの程度適用されるのかは全く分かりませんでしたので寸法決定の際には意識しませんでした。また、機関区を製作した際に余ったエコーモデル製の窓枠を使用するため、窓の大きさや位置はそれに合わせてプロトタイプから変更してあります。
円筒形のタンクは厚さ約0.25㎜のケント紙を使用しました。最初はスプレー缶の蓋等を加工して制作しようと考えていたのですが、直径や高さに制約が出そうでしたので結局小学校の工作で行うような単純な方法で製作しました。このような工作ではゼリー状瞬間接着剤を使用するのが簡単なように思えますが、ペーパーや木材の接着には接着力、取り扱い製、乾燥時間のバランスから見て木工用ボンドがベストのようです。接着剤が乾燥したら液状の瞬間接着剤、エポキシ系接着剤を用いて補強します。補強すれば強度は十分になります。
脚部はまず窓枠をはめ込んだ際のストッパーとなる内貼りに相当する部分を製作しますが、こちらは厚さ約0.4㎜のケント紙を山折りして製作しました。内貼りに接着する外板は厚さ1㎜(呼称寸法。実測では約1.2㎜)のイラストボードです。
6角形に組み立てた脚部の内貼りに外板を接着します。接着には木工用ボンドを使用します。
2×1㎜、 1×1㎜の檜角棒で綾部と窓周りの縁取りを行なった後、3㎜幅のSTウッドを縦方向に貼り付けていきます。STウッドは既成の下見板用の帯板ではなく自身で切断したものを用いています。STウッドは檜角棒と異なり木目に沿って割れることがないので切断はカッターナイフで容易に行うことができます。
屋根は2等辺三角形の部品を接着して制作します。展開寸法は三角関数鵜を用いた計算で容易に求めることができます。下の写真に写っている小さな性八角系の部材は屋根の裏面に貼る補強部材で、裏面にエポキシ系接着剤で貼り付けます。
形状が完成したら継ぎ目にラッカーパテを盛って接合部の仕上げを行います。
完成した屋根ベースの表面に矩形のペーパーを貼り付けて屋根のトタン葺きを表現します。矩形(台形)の部品は薄手のケント紙とラベル紙を貼り合わせたものを使用しています。
スポートは直径3㎜のアクリル棒を使用して制作します。その手順は、まず棒の一部をはんだゴテで温めながら引っ張って細くした後、その近傍を温めながら曲げてスポートの先端部を制作します。両端部を所定長さに切断したらその根本部に蒸気機関車のモーターとギアボックスの間のジョイントに使用するシリコンチューブをはめ込みます。
さらにはめ込んだチューブにテープを巻き付けて、最後にチューブに所定角度で曲げた真鍮線を刺して本体に対する角度の固定するとともに本体への取り付け部とします。最後に塗装を行ないスポートは完成となります。
部品が完成したら塗装を行ない組み立てます。屋根は周縁部と稜線にEvergreen社製の帯剤を貼り付け屋根の頂点にはプラ製建造物キットの余剰品である半球状のパーツを取り付けます。タンクは塗装前にエコーモデル製のウインドシル・ヘッダー用のリベット付き帯板を使用して継ぎ目を表現します。窓枠は機関区の製作時に余ったエコーモデル製の部品を使用しました。ドアは自作です。
脚部の土台はプラ角棒で製作し、タンクは実物に倣い檜角棒を挟んで脚部に取り付けました。
脚部に取り付けるランプは表面実装用のWarm White色のLEDの両端に0.15㎜のエナメル線を半田付けしたものを使用しました。
支柱は0.5㎜の真鍮製、シェードはVollmer製のマルシェのキットに入っていたお椀(Bowl)の余剰品を使用しています。このキットにはお椀や皿が大量に入っているのですが、このような円筒形の部品は自作がなかなか難しいので重宝しています。
屋根、タンク、脚部を一体化させたら上記のスポートやランプ等のディテールを取り付けます。地面からや屋根に伸びるハシゴはストックしてあったプレス製のパーツ(メーカー不明)タンク部分の踏み台は0.5㎜のプラ板からの自作品、台から屋根に至るハシゴはエコーモデル製の旧型丸妻客車の妻板に取り付けるハシゴを使用しています。スポートを吊り上げているワイヤーには0.15㎜のエナメル線を使用し、滑車はプラ丸棒をドリルレースしたもの、取り付けブラケットはプラ帯材から製作したものです。下の写真には写っていませんが吊り上げワイヤの下端についているバランスウエイトはプラ丸棒から製作したものです。
給水タンクが完成したら引き続きポンプ小屋を製作します。製作手順は機関区の製作手順とほぼ同一です。ただし外板はイラストボードではなく厚さ約0.5㎜のケント紙を使用しました。
外板は両端の柱と窓枠の縁取りを取り付けた後下見板を貼り付けて組み立てます。
窓枠は自作です。切り抜きはデザインナイフを使用すればさほど難しくはありませんが最大の難関は正確な罫書きです。そのため今回はまず窓枠を4倍に拡大したものを方眼紙に作図し、それを倍率25%で厚紙にプリントして切り抜きました。
切り抜きはデザインナイフで行いますが、万一窓枠が切れてしまった場合は瞬間接着剤で補修しておきます。切り抜きにはペーパー製の旧型国電製作時の経験が役立ちました。慎重に作業すればほとんど失敗はありません.
s下の写真は完成したポンプ小屋です。屋根はKibri製の波板(Item No. 34143)を使用しています。煙突はエコーモデル製のパーツです。扉も窓枠と同一の方法で製作しました。扉は2枚重ねで製作しています。
完成した給水塔とポンプ小屋です。
最後までお読みいただきありがとうございました。次回は給砂塔と砂焼き小屋を紹介したいと思います。