レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(10) -ストラクチャーの製作(3) : -給炭台とディーゼル燃料給油設備-

給砂塔と砂焼き小屋に続いて今回は機関区にある燃料の補給設備として給炭台とディーゼル燃料の補給設備を紹介させていただきます。まずは完成後レイアウトに設置した状態の写真をお目にかけたいと思います。

完成してレイアウト上に置いた石炭台と石炭置場
レイアウト上の燃料補給設備

蒸気機関車の石炭消費量には諸説ありますが、石炭は一回の補給で250km 程度(石炭を10t積載し、1kmあたり40kgの石炭を消費した場合)、水は1回の補給で100km程度走行可能だったようですが、蒸気機関車の石炭水の消費量は形式はもちろん、線区の線形、列車重量、機関士の技量によって大きく異なり、公式な数値はないようです。それでも上記の条件では時速60km/hで走る(力行する)機関車は1kmを1分で走りますので1分で40kgの石炭を投炭する必要があり、機関助士はかなりの重労働であったことが伺えます。一方、水の消費量は石炭より多く、当時給水設備は大きな駅には設けられており無煙化後もその痕跡を見ることができました。水よりも補給の頻度が少ない石炭補給設備は駅に設けられることははありませんが、機関区や機関支区では必ず設けられている重要な設備です。この設備にはテンダーに直接重力で石炭を落下させる石炭ホッパーから手(スコップ)で石炭をテンダーに投げ入れる給炭台まで色々な規模の設備がありますが、スペース等の関係から今回はその中でも小規模な給炭台を設置することとしました。一方、気動車のディーゼル燃料給油設備は普通列車の一部(貨物列車を除くすべて)が気動車に置き換えられた線区に見られる設備ですが、設置されていてもあまり目立つ設備ではありません。今回はレイアウトにアクセントをつけるため、機関区で気動車の整備も行うという想定で設けましたが、機関区の設備としてはあまり一般的な設備ではないと思われます。
まず最初に紹介させていただくのはは石炭台です。給炭台の形態は土台と石炭積載台の部分がコンクリート、煉瓦や木組を用いたものがあり、台の上部は上屋付き、上屋無しのタイプがあります。そのような形態の中から今回は北海道の積雪地という想定で、土台と石炭積載台は木材、上部は木組みの上屋付きで屋根はトタン葺きとしました。構想の検討の際にも記載しましたがD51のテンダーは石炭を10t積載可能なようですので、D51クラスの大型機が出入りする機関区の設備としてはこの給炭台はあまりにも小規模ですが、スペース等の関係上この矛盾には目を瞑りました。余談ですが、一般のオフィスでは働く人数に応じてトイレの便器等の数が労働安全衛生法で規定されています。それと同様、このような機関区の燃料補給設備でも設備の規模についてはある程度出入りする機関車の種類や運用(数)に応じた補給間隔を考慮して方式や数が決められていたのではないかと思われます。一方、模型の世界では大型蒸機が活躍した本線沿いの機関区を再現する際はスペースの関係上どうしてもどこかで設備の規模には折り合いをつける必要があります。機関支区、あるいは駐泊所をプロトタイプとすると給砂塔を設けることはできません。この辺り、結果はどうあれ単に実物の機関区を縮小するのではなく、使用できるスペースに応じていかにそれらしい雰囲気が出るように設備の規模と配置を検討するという過程に機関区を模型化する際の検討の面白さがあるような気がします。

完成してレイアウトに設置した給炭台です.

給炭台の製作にあたり、まず最初に行なったことは構想に基づく図面の作成です。今回制作した給炭台のような木製の骨組みが露出している建造物は、角材を切断する際その長さを正確に割り出すため、原寸大の正確な図面を作成する必要があります。前述のように今回製作した給炭台は台座、石炭の積載台及び上屋の柱は木製で、屋根はトタン張りとしましたので、部品はほとんどを檜角材から作成します。太さは給炭台の上屋は主に2×2㎜の檜角材、台枠部は2×2㎜、3×3㎜の檜角材と2×1㎜の檜角材、床面は2×1㎜の檜角材、石炭搬入部の斜面は2×1㎜と2×2㎜の檜角材を使用しています。

製作にあたって作成した原寸大の図面です.

図面で形状が決まったら図面に従って角材を切断し、木工用ボンドで組み立ていきます。角材を45度の切断する際の治具は機関庫を製作する時に紹介したものと同構造の治具を使用して切断しました。台座の底面の縦梁とその縦梁が乗る脚は3×3㎜の檜角棒で斜めの補強ざい柱は2×2㎜、脚部の十字形の補強はは2×1㎜の檜角棒で製作しました。

脚部は補強部材を除いて3×3㎜の檜角棒を使用しました.

石炭の積載台は2×1㎜の檜角棒を使用しました。上屋の骨組みは2×2㎜の檜角棒を図面に合わせて切断し、組立てました。また、照明として12Vの米粒球を中央部に取り付けました。

上屋の骨組みは主に2×2㎜の檜角棒を使用しています. 電球とコードはテグスにより柱に固定しています.

石炭を搬入する斜面の部分は2×1㎜の檜角棒を使用して製作しました。配線は台座の脚に沿わせて地表のレベルまで導いています。

脚部、石炭積載台、上屋、石炭搬入用の斜面を組み立てたところです. この後屋根の製作に入ります.

屋根はトタン張りとしました。まずはラベル紙とケント紙を貼り重ね、鉄筆で縦方向に筋をつけたのち帯状に切断し、イラストボードで製作したベース部に貼り付けました。

ベースに帯板を取り付けたところ. この後頂部の稜線に山折にしたケント紙を接着して完成です.

次に石炭台の囲いと地上の石炭置き場を製作します。これらの囲いは2×1㎜の角棒で製作しますが、2×1㎜の角棒をそのまま使用してしまうと接合面の精度が良いため貼り合わせた角材の隙間が埋まってしまい、古びた感じが出ませんのでこの部分は1×5㎜の角棒を2ミリ幅に切断し、機械加工した素材の切断面同士の接着を避けることで板の隙間の空いた感じを表現しました。その手順は下の写真のとおりです。

まず0.5×6㎜の檜角材を3分割します.
切断した板の両側の機械加工された面同士が対向しないように再度接着して完成です.

完成した部材は所定長さに切断し縦桟を接着後組み立てます。塗装はタミヤのラッカー系の塗料を使用しています。その後ケント紙で製作したベースを取り付け、黒色に塗装後その上に石炭を散布します。石炭はIMON製の石炭を使用し木工用ボンドで固着しました。石炭は最初下の写真のように最初にケント紙の上に固着して、その後給炭台の所定位置に接着し、さらに給炭台との境界部(ケント紙の断面の近傍)に石炭を散布して固着し、ケント紙の断面を隠してあります。なお、地表の石炭置き場の石炭もこの方法で固着しています。

これで給炭台の完成です。完成後、石炭置き場とともにレイアウト上に固定しました。

給炭台の次はディーゼル燃料補給設備の紹介です。ディーゼル燃料補給設備は大きな気動車区では下の写真のように整備線に等間隔で設けられた複数の給油設備を見ることができますが、今回製作するような小規模な給油設備の製作法は雑誌等で紹介された例は記憶になく、自身でも実際の設備を意識して見たり写真を撮影した記憶はなかったため、プロトタイプについては当初は全く当てがありませんでした。

名古屋第一機関区の燃料給油設備. 編成全体に一度に給油できるよう, 給油設備が等間隔に並んでいます.

ただ、機芸出版社から発行されているシーナリー・ストラクチャーガイド、シーナリー・ガイドには小規模な給油設備の写真が数枚掲載されています。その中で、私は国鉄真岡機関支区の旧型のガソリン計量器が露出しているタイプの設備を参考にして製作することとしました。補給小屋は比較的新しく、可燃物を扱うため建物は木造ではありませんので今回製作した給油小屋もそのようにしてあります。また可燃性の液体を扱う設備のため消防法の要求事項に適合する必要があります。貯蔵タンクは地上にも置くことはできるようで、実際にはそのような例もあるようですが、地上に設置する場合は周囲に確保しなくてはならないスペース等が要求されているようですので、タンクはそのような要求のない地下に存在しているという想定にしてあります。

製作した給油設備の全景です.

まずは建物を製作しますが、建物はプロトタイプの形状を大きくアレンジして小型化していますので、製作開始にあたり、イメージ図を作成した後、まずは薄手のケント紙でモックアップを作り、形状を検討しました。

レイアウト上でモックアップにより建物の大きさ等の検討を行いました.

形状が決定したら建物の製作を開始しますが、建物自体は今まで紹介してきた建物の下見板や窓枠を接着する前のものと同一ですので今回は省略し、今回は計量器とその周辺のディテールのついて紹介します。計量器の外観は昔ガソリンスタンドにあったものと同じようですので、本体はケント紙で製作し、レトロ感を出すため溶きパテを塗装後周囲にRをつけました。メーターは手書きした目盛板を縮小コピーして製作しました。上のコの字の部材は本体と目盛板の間に挟むスペーサーです。この後計量器本体の窓部に透明プラ板を接着して組み立ます。なお、計量器の本体下部には表面実装型のLEDを取り付けて計器版を照明可能としてあります。

計量器のパーツと目盛版の原稿です. パーツは原稿を25%に縮小しています.
装後ウエザリングを施し, アクセサリー類を取り付けた完成した補給設備です. 計量器内部のは照明を組み込みました.

建物の基本部分の完成後、細部の仕上げ(アクセサリーの追加)、ウエザリングと表示の取り付けを行いました。この給油小屋は資料の写真を見ると建物の下部にかなり汚れがあります。この汚れは煤とは異なるかなり強固な油汚れという感じです。この汚れは塗装で表現するのが適切ですが、この建物はエナメル系の塗料で塗装しましたので同種の塗料を使用すると失敗した際収拾がつかなくなる恐れがあります、そこでこの汚れの表現には製図用インクを使用してみました。アメリカののModel Railroader誌の建物の製作記事を読んでいるとよく”ウエザリングに”Indian inkを使用した”という記載があります。この”Indian Ink”は墨汁とも訳されますが、海外のIndian inkは独自の成分による顔料に固着材を加えたインクで耐水性、耐光性の優れてたインクのようです。そこで今回、この油汚れの表現には手元にあったロットリングインクを使用して行なってみることとしました。このインクにもDrawing inkという表記がありますが、成分はメーカーによって異なるようです。

ウエザリングに使用した製図用インクです.

このインクを綿棒につけて建物と計量器の裾の部分に摺り込んだ写真が以下に示す写真です。初めての割には大きな破綻なく仕上がりました。インクはエナメル系の塗料上でははじかれたような状態となり、そこから乾いた綿棒で刷り込むと上記の写真のような状態になります。ただ、一度付着したインクを除去するのは難しく、塗膜を侵すことはないものの、失敗すると修復は結構難しい(再塗装が必要)のではないかと思います。インクの右側にあるのはクリーニング液と称する製品ですが、これは製図ペンのクリーニングに使用されるものであり、多少インクを剥離する効果はあるものの塗料の溶剤のようにすぐにインクを溶かすものではありません。

計量器周りのアクセサリと表示です.

ウエザリングが終了したら各種の表示と設備を取り付けます。給油用のホースはAWG#32のリード戦で作成し、Humbrol#32(Dark Gray Matt)で塗装して作成し、プラ製の角棒と真鍮線で製作したホース支持部材に取り付けました。先端には給油用のノズルとしてPriserの消防士のフィギュアに付属していたプラ製のパーツを取り付けてあります。消火器はエコーモデル製のロストワックス製のパーツを塗装して取り付けました。
表示についても日本ではこの種の設備には消防法によるいろいろな要求があるようです。これらの表示はその表示方法も規定されていますので、WEB上には利用できそうな画像が多数あります。蒸気機関車が活躍していた時代の法令の要求事項はよくわからないのですが、今回は記憶を頼りにその画像の中からそれらしいものを選択して作成しました。手順はWEB上の画像をスクリーンコピーし、その画像を切り取って所定のサイズとしてPDF化してプリントアウトするという方法で製作しました。プリントアウトはコンビニのネットプリントで行っています。このような細かい表示は家庭用のインクジェットプリンタでは解像度に限界があり、画質的に満足なものは得られません。それに対し、比較してコストはかかりますが、レーザー方式のプリンタではかなり小さい表示でもなんとか使用に耐えられるそれらしいものを作成することができます。なお、注意喚起のためのゼブラマークは、下の写真に示すように表計算ソフトで黒と黄色の縞模様をプリントし、それを角度をつけて切断することにより作成しています。貼り付けの際にはプリントアウトした紙の表面には透明度の高いテープを貼り付けて表面を保護しています。

レーザープリンターで出力した表示類です

表示類を貼り付けて完成した給油小屋です。塗装は本体がタミヤのダークシーグレー(XF54)、屋根はHumbrolの#32(Dark Gray Matt)を使用しました。

完成した給油小屋です. 計量器以外, 特徴のない建物ですが表示類をつけることにより給油小屋らしくなりました.
レイアウト上に設置(仮置き)した給油小屋の夜景です.

最後までお読みいただきありがとうございました。次回は機関区のその他の建物を紹介したいと思います。