模型車両の製作:珊瑚模型店製D51の組み立てと加工(7) :D51の組み立てを終えて思うこと

このブログでも紹介ししているように私は1990年頃に車両製作(日本型の鉄道模型)を離れ、その後約30年間、外国型鉄道模型のレイアウト製作をしていましたが、そして今回、久しぶりに蒸機バラキットの細密化加工を行ないました。何せ久しぶりのことですので色々苦労はしましたが、日々少しずつ組み上がっていくモデルを見るのは楽しく、楽しい時間を過ごすことができました。実はこのD51のキットが私の手元にある最後のキットでした。塗装を残してこのキットの組み立てを終了し、これを機に今まで製作してきた機関車を含め、これらの機関車でこれから何を楽しもうかと考えたのがこの記事を書くきっかけでした。なお、以下に記載することはあくまで私の私見ですので、その点、ご了解ください。

私は小学生の頃に鉄道模型を始めてから15年ほどたった1980年から1990年ごろにかけて、蒸気機関車のキット加工を行なっていましたが、車両製作の目的(動機)は ”蒸気機関車が配置されている機関区のレイアウトセクションを製作し、そこで自分が製作した車両を運転しながらじっくり眺めてみたい”ということであったように思います。一方、機関車だけでなく客車も同時に製作していたのは、いずれは(ローカル線ではない)列車が走るレイアウトを製作してみたいという思いがあったからです。このうち、蒸気機関車の機関区セクションの具体的イメージは下記の写真にあるなかお・ゆたか氏製作のレイアウトセクション”蒸気機関車のいる周辺”でした。

機芸出版社発行の”レイアウトテクニック”に収録されているなかお・ゆたか氏製作のレイアウトセクション”蒸気機関車のいる周辺”

私が当時製作した蒸機を一部を除き特定ナンバーにしなかったのはいかにもありそうな機関区の風景を再現して見たかったからです。晩年の蒸気機関車に形態は各地域ごとにバラエティに富んでおりましたが、その中には形態や装備に特徴(美しさ)がある「有名機」というものが存在しました。そしてそれらは鉄道雑誌等でよく話題となっており、模型のプロトタイプにもなっていました。ただ当時、それらが配置されていた機関区には当然「普通」の機体も稼働していたわけで、各地の有名機を製作し、レイアウトセクション上に集めてもそれは機関区の日常風景を再現したレイアウトセクションとはならず、単なる車両展示台になってしまいます。私が一部(C62)を除き、特定ナンバーではない機体を、異なる形式間でもある程度共通な装備(特徴)を持つ北海道仕様で製作してきたのは、私がレイアウトセクションで目指すのはは展示台ではなく、機関車が働くいかにもありそうな日常風景をその機関区がある地域のイメージも含めて再現したいという思いがあったからです。
その後私が車両製作から離れて外国型レイアウト製作に転向した経緯は”When is your realism level good enough?:車両製作から外国型Zゲージレイアウト製作の決断まで”に記載したとおりです。そして、その中でZゲージレイアウトのがほぼ完成した時、今まで慣れ親しんだサイズのレイアウトを製作して外国型の車両を走らせてみたいと思い、制作したレイアウトセクションが以前このブログで紹介した”ALTENHOF機関区”です。そして、そのテーマとして実際に訪れたことのない外国の機関区セクションを製作しようと決めた背景はやはり、上記の”蒸気機関車のいる周辺”の影響が大きかったと思います。その構想の中で、Zゲージレイアウトで運転中のリバース区間のスイッチ切り替えや複数列車の制御のためのキャブの切り替えの為のスイッチ操作が思ったより煩わしい作業だと感じていた私は、HOゲージの機関区セクション製作の際、”蒸気機関車のいる周辺”では機関車の留置等で2m足らずのセクションに15箇所のギャップが切ってあるという記事を読み、デジタル制御であれば配線も簡単で自由度の高い運転ができると考え、デジタル制御を採用することとし製作を開始しました。そして完成したレイアウトで機関車の運転を楽しんでおりました。

このレイアウトセクションが完成した頃、サウンド機能のついた蒸気機関車はまだ製品化されていませんでした

そんな時、ふと思い立って今まで私が制作した日本型の車両をこのレイアウト上に置いてみました。それが下の写真です。

外国型のレイアウトセクション上に置かれた私が製作した日本型蒸気機関車
機関区横の引き込み線に停車中の9600
機関庫前に停車するC57とC55. この頃D51のバラキット組立前.

もちろんシステムが異なりますのでこれらの車両はこのレイアウト上では動かすことができません。カプラーや床下が分岐器部分のサードレールの突起と干渉するのでレール上を手で動かすこともできません。ただ、このレイアウト上で少なくとも私がこれらの車両を製作する中で製作したいと思っていたレイアウトセクションのイメージを彷彿とさせる写真がこのレイアウトで撮影できてしまいました。日本では蒸気機関車が活躍していた当時は各地に煉瓦造りの機関庫や詰め所はよく見られましたし、なかお・ゆたか氏製作のレイアウトセクション”蒸気機関車のいる周辺”で使用されている機関庫も外国製プラキット(Airfix社製)の改造です。一方、1998年ごろにはMärklinより車両にサウンド機能が追加されることがアナウンスされ、2000年ごろには実際にサウンド機能が搭載された車両が入手できるようになりました。

Muarklin Insider Club 1998年3/4月号の記事. 車両ではなくレイアウトの新たな次元という表題が欧州らしい?
最初に入手したサウンド付き蒸機..当時のデコーダーはアドレス設定はDIP Switch、サウンドのボリュームと加速減速率、最高スピードは基板上のポテンシオメーターでの調整でした.

最初に上の記事を読んだ時には、車両にスピーカーを搭載して音が出るということは理解できたのですが、これでレイアウト上に何が起こるのかは正直あまりイメージできませんでした。その面白さと可能性はサウンドを搭載して走る機関車を見た時にはじめて理解できたような気がします、私は大学生の頃、建設中の東京ディズニーランドをよく目にする機会があったのですが、そこが子供の頃に絵本やテレビで見た「楽しそうな」施設であることはわかっていても、実際にそれが完成し、中に入るまでその中で何が行われていて、そこでどのような気分になるのかは想像できなかったという体験をしました。サウンド機能がついた機関車が自分が製作したレイアウトセクション上を走るのを見た時はまさにそんな感覚でした。また、その中で、動いている車両を見たとき実感的と感ずるのは、車両の再密度だけではないということにも気づきました。もちろん細密であることに越したことはないのでしょうが、音と煙を出して機関区構内を走る機関車を見るとき、過去に見た実際の風景を思い出し実感的と感ずるために必要なものは再密度だけではないことをこの時に感じました。私は使用しているシステムの関係上もう20年以上Märklinの車両で運転を楽しんでおりますが、機関車の細密度はサウンド機能が搭載された初期の車両より現在の車両の方が細密度はかなり向上しています。しかし、レイアウトの中では両者が共存しても違和感はほとんどありませんし、再密度がやや劣る古い車両が走るのを見て実感的でないと感ずることもありません。その差は音や煙等が十分にカバーしてくれますし、デジタル制御ですので低速でも指示した速度で安定して走行してくれます。

煙を吐きながら足回りの点検灯を点灯させて停車中の機関車たち. 上の写真と比較すると写真からも機関区の活気が伝わってきます.

私は決して細密機の製作を否定しているわけではありません。出来栄えはともかく、自分が時間をかけて市販品と差別化を図った機関車をレイアウトセクションに置いて至近距離から眺めたり、撮影した写真を鑑賞したり、アナログ運転で走らせたりすることは、例えその機関車から音や煙が出なくても、十分に楽しめます。勿論、私が製作した機関車にサウンドデコーダーを組み込めれば両者が楽しめ、それが理想ですが、現実にはかなり難しいと思われ、キットを最初から組み立てるにしても、サウンドはともかくライト関連の機能を市販品と同等に制御するのは至難の業ではないかと思われます。したがって現実的にはこのようなレイアウトセクションを日本型で製作する場合、サウンドデコーダー付きの市販品でのDCC制御による運転とキット加工品のアナログ運転の二刀流で楽しむことが現実的ではないかと思います。ただ、現実的には日本型の蒸気でDCC制御ができる蒸機は高価な製品を除いてほとんどありませんので市販品によるDCC運転はまだ現実的ではありません。ただ、最近のT社のQuantum Systemを搭載した製品では、仕様の中にDCC対応と記載されていたり、その仕様に言及した文言も見られますので、これを糸口に今後DCC制御が普及することに期待したいところです。

話は全く変わりますが、私は以前から映画や舞台をよく鑑賞します。そして最近ではテレビや映画で活躍された俳優さんが舞台でも多く活躍しています。その中である俳優さんがインタビュー記事で、映像作品ではカットごとに分割され表情がアップになるのでその時の心情を表すために細やかな表情が要求されるのに対し、舞台にはカット割はなく、常に全身が観客の目にさらされるので上記に加え全身でその時の感情をどのように表現するかが重要である(映像作品とは異なるところである)というようなことを言っておられました。最近、自分の製作した作品を写真やクローズアップ動画で鑑賞する方も増えているようですが、これはある意味模型を題材に映像作品を作っているということなのかもわかりません。それに対してレイアウトセクション上での運転は舞台の鑑賞に近いような気がします。個々の機関車の再密度もある程度は重要ですが、それに加えて車両の動きや音と光(煙とライト)のようないわば遠くから見える車両の表情のようなものも重要になるような気がします。蒸気機関車がテーマの映像作品で有名な作品は高林陽一氏が監督した”素晴らしい蒸気機関車”ですが、そのDVDの中には特典映像として”私と蒸気機関車”という作品が収録されています。こちらには本編にはほとんど出てこない北海道の蒸気機関車も多数収録されているのですが、こちらのフィルムにはサウンドトラックがなく、BGMとしてクラシック音楽が収録されています。そして、クラシック音楽が流れる中、美しい風景の中を走る蒸気機関車の映像は実際の音は無くても十分に楽しめます。一方、本編の中には冒頭に機関車が行き交う鹿児島機関区の映像が流れますが、機関区の蒸気機関車が行き交う活気ある映像を見てるとやはりサウンドが欲しくなります。もしからしたら機関区セクションはDCC制御の効果が最も顕著に現れるテーマなのかもわかりません。もし今後日本型のDCC製品が普及してくるのであれば、その時はぜひDCC制御にもアナログ運転にも対応できる機関区セクションを製作し、その上で今回のD51を含めて今まで製作した機関車等を運転したいと思っております。

話がD51とはあまり関係ない話題となってしまいましたがお読みいただきありがとうございました。最後にチェックを終了し、必要な部分の修正を終えたD51の写真を掲載しこの項を終わりたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

機関庫前のD51.トラックのDBロゴがなければあまり違和感はありません.
前回の記事以降、この写真ではスノウプラウの位置調整、バルブギヤー(ラジアスロッド・コンビネーションレバーの追加工)、各部の歪みの修正等を行なっています.