レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(1)

前回の記事では私が初めて製作した日本型のストラクチャーである北海道タイプの機関庫を紹介しましたが、出来栄えはともかく実際に完成した機関庫を眺めていると日本型の蒸気機関車が活躍していた時代の機関区を再現したレイアウトの製作意欲が沸々と湧いてきました。ただ、そうは言っても冷静に考えると以前紹介したようなサウンドデコーダーを搭載した外国型の蒸機が走るレイアウト(セクション)を製作してDCC制御による自動運転の面白さを知ってしまいそれを楽しんでいる現在、日本型のレイアウトセクションの製作に着手しても線路を敷設してアナログ制御の運転時にブロックスイッチ操作が煩わしい「無音」の機関車の試運転が終了した後、果たして完成まで製作のモチベーションが維持できるかは正直不安です。ただ、そうは言ってもこのまま日本型の鉄道模型の製作を終わりにしてしまうことは少し寂しい気もします。私は仕事をリタイアして3年近くになりますが、思えば会社人生の中で「定年退職」を自分の問題として意識するようになったのは長年自身が関わってきたプロジェクトの後継プロジェクトの完了時期が自分の退職後に設定されたものが出てきた時だったように思います。期限が明確に決まっている会社人生とは異なり、私の人生の終わりはまだ先の話だとは思っているものの、これからの鉄道模型の楽しみ方において何か新しいことを始めるのであれば、それは「今」であるような気もします。また、海外に目を向ければDCC制御に対応できる「非選択式」の道床なし分岐器も製品化されていますのでこの分岐器を使用すれば大きなな改造なしに将来アナログ制御をDCC制御に変更することが可能です。日本形の車両で気軽に(外国型と同じ投資で)DCC制御が楽しめるのはいつになるかは全く予測がつきませんので、このような前提は多分に先送り的(楽観的?)であるような気もしますが、まずはその辺りのことはあまり深く考えず「とりあえず」レイアウトの構想を立て、製作を開始することにしました。

塗装前のD51とおっ街道タイプの機関庫. このD51で私の蒸気機関車キットの在庫は無くなりました.

思えば50年以上前に交通博物館で見たレイアウト(パフレットでの名称は模型鉄道パノラマ)に触発されて鉄道模型を始めて以来、私の頭の中にはいつかはレイアウトを製作したいという想いがありました。このブログで紹介してきた私がこれまで製作した機関車は客車(貨車)を含めた列車単位で製作してきたのもいつかはそれらを自分が製作したレイアウト上で走らせたいという想いがあったからです。

機関車とともに客車も製作したC62重連が牽引する急行ニセコ.

そしてその当時の私の憧れはTMS誌に掲載されていた故・荒崎良徳氏が製作した「雲龍寺鉄道祖山線」であり、レイアウトセクションは故・なかお・ゆたか氏が製作した「蒸気機関車のいる風景」でした。交通博物館の模型鉄道パノラマ(レイアウト)は博物館の展示施設でありそこに作家性は微塵も感じられませんが、雑誌で上記のレイアウト(セクション)の記事を読んだ時、これらの作品の中には実物の鉄道世界を再現し、その中で車両を運転して「遊ぶ」楽しさを味わうために、単純に実物の「模倣」ではなく、自分のイメージに基づき鉄道を取り巻く世界を再現するという観点での作家性が感じられ、ある意味衝撃を受けたことを現在でも覚えています。

TMS誌の表紙に掲載された故・なかお・ゆたか氏が製作した「蒸気機関車のいる風景」と荒崎良徳氏が製作した「雲龍寺鉄道祖山線」. 70年代のTMS誌には「蒸気機関車のいる風景」はなかお・ゆたか氏の執筆した記事には度々登場した.

そのためレイアウトを製作する際にはこれら作品が目標となります。しかし現状(将来も)、「雲龍寺鉄道祖山線」のような規模のレイアウトを製作するためのスペースの確保は将来も含めてまず不可能で、長編成列車の運転は諦めざるを得ませんが、実現性があるとすればそれは故 なかお・ゆたか氏が製作した”蒸気機関車のいる周辺”のようなレイアウトセクションです。そこで甚だ僭越ながら、今まで製作してきた蒸気機関車が活躍していた頃の機関区のレイアウトセクションを故・なかおゆたか氏製作の”蒸気機関車のいる周辺”のオマージュ作品として製作することとし、構想を開始した次第です。そして今後、このブログの中でその構想から製作の過程を紹介していきたいと思います。レイアウト(セクション)の製作は初めてではありませんが、今まで製作した外国型のレイアウトと異なり、製作対象がかつて身近であった日本の風景であるため、今まで製作した外国型レイアウトとは異なり、製作は実際に親しんだ心象風景の再現になります。そのためあまり細かいところこだわってしまうと完成がおぼつかなくなる恐れがありますし、だからといってあまり割り切って製作してしまうと完成後に不満な点が目立つことになり、その辺りのバランスをどのようにとりながらレイアウトをまとめていくかが今までの外国形レイアウトの製作に比較して難しいところではないかと思います。ただ、躊躇していてもことは進みませんのでまずは線路配置から構想を始めました。なお、このレイアウトは現在製作中であり、現在では一部のストラクチャーの基本部分の製作と線路の敷設までが終了していますので、今後数回にわたり構想から線路の敷設までを紹介したいと思います。なお、一度紹介した内容を後で修正したり、作業の進捗状況により更新が不定期(次の過程の紹介までに長い時間を要する)事があると思いますがその点は容赦ください。実際に完成までどのくらいの期間がかかるかは予測がつきませんが、なんとか完成までの過程を紹介できたらと考えております。

製作中のレイアウトセクションの近影


日本型ストラクチャーの紹介:北海道タイプの機関庫(4) -最終回 –

前回は屋根を取り付けたところまでを紹介しましたので、今回は屋根上に取り付ける煙出しと煙突の製作過程を紹介します。これらの部品を取り付ければ機関庫はひとまず完成となります。

完成した機関庫. この後の細部の仕上げはレイアウトに設置後に実施します.
辺りを暗くして照明を点灯すると内装がよく目立ちます. 照明の光には温かみがあり, LEDではなく電球を使用した効果はあったように感じます。

屋根の取り付けが終了したらまずその屋根に取り付ける煙出しを製作します。素材は妻面がケント紙とSTウッド、側面は0.5×6㎜の桧角棒です。煙出しはその名のとおり庫内の煙を逃すたの構造物でスリット状の構造をしているため、理屈でははスリットの間から内部が見え、照明光が漏れてくる場合があります。これは屋根の角度と見上げる位置に依存し、スリットの傾き角と屋根の傾き角が同一の場合、どの範囲から内部が見えるかはスリットの間隔とスリット部材(角棒)の幅に依存します。その漏れてくる光を実際に見たときの印象を一言で言うと「見えるか見えないかは微妙」と言う様な感じですので、製作にあたっては「普通に見た時には光が漏れず、ある角度から見るとうっすら光が漏れてくる」状態になるように角度、スリット幅、使用する材料の幅を調整しました。
製作はまず所定長さに切断した角棒に同一の角棒から製作した0.5㎜厚のスペーサーを挟みながら妻板の外形に合わせて積層していきます。スペーサーは外観から見えないように少し奥にずらして接着します。この接着は木工用ボンドを使用しました。このような細かい作業は瞬間接着剤を使用した方がやり易いようにも思えますが、瞬間的に固着すると言う意味では使いにくい面もあり、手についてしまうと手も接着対象物に接着されてしまいます。その点木工用ボンドはその名のとおり?木材への浸透性が高く、密着させればすぐに剥がれない程度には接着できますのば木工用ボンドの方が使い勝手は良いとのではないかと思います。

妻板との接着作業を4箇所で行ない、大まかな形状が完成したところが下の写真です。製作途中では非常に保持がし難く色々な方向に捩れますが、とにかく妻板部分で角棒を正しい位置に接着することに注力します。

接着剤が乾燥したら、縦桟を設ける部分に角材から切り出したスペーサーを挟んで上下の部材の間隔を一定にします。これで全体の剛性がかなり向上します。

完成後、妻板部には羽目板をSTウッドにより表現した妻板を貼り重ねます。

この後、スペーサーを挟んだ位置にSTウッド製の縦桟を取り付けて塗装をします。

煙出し部には下の写真のような隙間がありますが屋根に取り付けるとこの隙間は通常使用見る位置からはこのようには見えません。

塗装が終了したら屋根に取り付けて、屋根を取り付ければ完成です。屋根は他の部分と同一の素材を使用し、頂部にはEvergreen社の帯材による屋根押さえを取り付けました。

下から見上げるるとこのスリットからわずかに光が漏れてきます。組立てや取り付け時のわずかな歪みにより全体から均一に光が漏れるわけではありませんがそれが却って実感的なような気がします。

次に煙突を製作します。本体は外径6㎜、肉厚約1㎜のプラ製パイプを使用しました。このパイプは真鍮線を購入した際のケースとなっていたもので材質は不明ですが硬さは柔らかくカッターナイフでの切断が可能です。まずは一端を屋根の角度に合わせて切断します。

反対側の断面(煙突先端部)には直径方向に2箇所、直径0.3㎜の穴を開けてコの字型の燐青銅線を取り付けます。この部品が笠の支持部材となります。

笠の製作法はいろいろ悩んだのですが、結局ケント紙を円形に切り抜き切り欠きを設けたのち切り欠き部を接着するという非常に単純かつ簡単な方法に落ち着きました。

切り欠き部は瞬間接着剤で接着し、その後エポキシ系接着剤で固定し、溶きパテを塗布して乾燥後形状を整えます。

煙突本体にはラベル紙から製作したバンドを巻きます。バンドには円周長さを3等分した位置にマーキングをして貼り付け後マーキングした部分に直径0.3ミリの穴を開けておきます。屋根に取り付け後この部分に支持ワイヤを取り付けます。

煙突の部品の完成した写真です。1本だけバンドの取り付け位置が違うためこの後修正しました。

傘の取り付けは合成ゴム系の接着剤で行いました。塗装は本体はグレー、傘は黒で塗装します。使用したのはHumbrolの#27(Sea Gray(MATT))と#33(Black(MATT))です。

傘の取り付けは合成ゴム系の接着剤で行いました。あまり強固に接着すると万一触れた時に脱落したり傘自体が破損したり衝撃で取れたりししますので固着後も剛性の弱い接着時を使用しています。完成したら煙突を屋根に取り付け、固定ワイヤーを張って完成です。ワイヤーは0.25㎜の燐青銅線を使用しました。このワイヤーは屋根に直径0.3㎜の穴を開けて固定します。

この部品の取り付けが終わるとこの機関庫はひとまず完成です。私にとって、このような日本型のストラクチャーは今回が初めての製作でしたが、思ったよりもスムーズに製作することができました。費用もパーツが少ないせいか¥3,000程度で製作できたのではないかと思います。細部の仕上げはレイアウトに配置してからになりますがそのレイアウトはまだはっきりした構想も決まっておらず、これから考え始めなくてはなりません。ただ、この機関庫の完成によりその構想が一歩進んだような気もします。

この規模の機関庫には中型機が似合うような気がしますが機関庫の屋根の傾斜がきつく、全体的に大きく見えますので大型機が入庫を置いてもそれほど違和感はありません。
庫内に佇むC12. DCC制御であれば機関車のライトを点灯させることもできるのですが・・・。

これで私が製作した北海道タイプの機関庫の紹介記事を終わります。最後までお読みいただきありがとうございました。

日本型ストラクチャーの紹介:北海道タイプの機関庫(3)

前回は機関庫の主要部分(構造体)となる側壁と妻板の製作過程を紹介しましたが、今回はそれらの組み立てと屋根の取り付けまでを説明したいと思います。

組み立ての終わった側壁と妻板

組み立て前に妻板に取り付ける部材について説明します。最初は妻板の面取り部です。この部分は最初に妻板のベースとなるイラストボードを切り出す際にそこにも設けていましたが、その目的は機関庫の入り口と機関区の隙間を確認するためでした。入り口は断面に桧角棒を接着しますので下見板取り付け前に大きさを各方向に1㎜拡大し、その際にこの面取り部も切り落とします。そのため、面取り部は別部品として新たに製作する必要があります。この部品は3角形に切り出した厚さ約0.5㎜のケント紙にSTウッド製の下見板を接着し、断面に2×1㎜の桧角棒を接着したものです。下見板は幅1㎜としましたが、幅が狭いため貼りにくく、貼り付けの際の乱れも生じやすいため1㎜幅に切り込みを入れた櫛状のSTウッドをベースとなるケント紙に貼り付けた後、STウッドを外形に合わせて切断しました。妻板への取り付け時は下見板の方向を縦方向として変化をつけてあります。

入り口の扉も同様の方法で製作します。外壁に対して変化をつけるためこちらは下見板の方向を斜め45度として貼り付けました。ただ、扉に面取り部があることを考えると下見板の角度は写真と逆の方が適切であった気がします。こちらも外形に合わせてSTウッドを切断した後、STウッド製の横桟を数本追加し、断面に2×1㎜の桧角棒を接着してあります。

塗装前に完成した面取り部の部材を妻板入り口角部に取り付け、入り口扉を入り口に並べたところです。この後扉も他の部品とと同じ方法で塗装を行ないます。

続いて屋根部の小屋組みを製作します。材料は2×2ミリの檜角棒で、まず屋根の形状に合わせた型紙を用いて角棒を切断し、型紙を治具として木工用ボンドで接着します。

屋根の角度が決まったらその下部に2×2㎜の桧角材を切断した部材を接着していきます。外からは目立ちにくいところですので接着時の多少の隙間は許容しました。切断はカッターナイフで行いますが3×3㎜の桧角棒と比較すると2×2㎜の角棒の切断は容易に行なえます。

下部の柱は長めに製作し、取り付け時に長さを調整できるようにしています。ここまでの組み立ては木工用ボンドを用いましたが、形状に問題がないことを確認したら接合部に瞬間接着剤を流し、再度確認の上さらにエポキシ系接着剤を盛ってあります。

入り口のヒンジは洋白線と割りピンで簡単に製作しました。今のところレイアウト上での開閉は行わない予定ですのでヒンジ部はレイアウト(ベース板)に取り付け後に行いたいと考えております。なお、外国型セクションに設置したVollmer製の機関庫は入庫した機関車が機関庫の終端部に設けられた板を押すと扉が開閉する機構が組み込まれていましたが、運転中に使用したことは殆んどなく、機構は取り外してしまいました。ただ、自動運転で動くレイアウトを眺めていると、レイアウト上にこの様な車両以外の動きがあると面白くなるという気もします。

これらの部品の製作が終了したら側壁の組み立て作業に入ります。まず建物の横桟となる部材を2×2㎜の桧角棒より製作し、断面の中央部に0.5㎜の穴を開け、そこに真鍮線を差し込んで瞬間接着剤で固定します。

側壁上部に取り付けた2×2㎜の桧角棒の対応する位置にも0.5㎜の穴を開け、そこに横桟を差し込んで取り付けていきます。固定は木工用ボンドで行ないます。なお、側壁内側のSTウッドを貼っていない部分(塗壁とした部分)は組み立て前にHumbrol製ののエナメル塗料(#31 Slate Gray)で塗装しました。

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日本型ストラクチャーの紹介:北海道タイプの機関庫(2)

前回、構想と制作の準部について紹介しましたが、今回からは私が行った具体的な制作過程を紹介していきます。まずは機関庫の壁面と妻板の製作です。

今回は機関庫壁面の制作過程を紹介します。壁面のベースには厚さ1㎜のイラストボードを使用しました。イラストボードは表面の用紙の種類によって価格が異なるようですが、今回は何かを描くわけではないので一番安いもので大丈夫です。なお、厚さ1㎜と謳われていても実際の厚さは1.2㎜程度ありますが特に影響はありません。作例ではA4サイズを3枚使用しています。下見板はエコーモデル製のSTウッドを使用します。

具体的な製作手順を紹介する前にまず、側壁の構造をイラストで説明します。下の図は下見板を除いた建物の側壁の外側の構造です。前述のように構造のベースとなるのは1㎜厚のイラストボードです。使用する窓枠はエコーモデル製のパーツ(No.243)です。まず側壁のイラストボードに窓枠の外形寸法の穴を開け、それに厚さ約0.4㎜のケント紙を貼り重ね、窓の開口部の約0.5㎜内側に罫書き線を入れて切り抜きます。この段差が透明プラ板と窓枠をはめ込んで固定する際のストッパー兼接着部となります(窓枠とプラ板の固定は塗装後となります)。また、窓の外周には1㎜厚のSTウッドを帯状に切断した外枠を取り付けます。1㎜厚のSTウッドは現在市販されていないようですが私は以前購入した手持ちのものを使用しています。ただ、1㎜厚のSTウッドの切断面はボール紙ですので桧角棒の方が良いかもわかりませんただ完成時すると断面は殆んど見えません。

下図は内側の構造です。まず下端に3×3の桧角棒を接着し、次に窓間に柱として2×2の桧角棒を接着後、上端にも2×2の桧角棒を接着します。その後窓下の腰部にイラストボードとケント紙を貼り重ねた部材を柱と同一面になるように厚さを調整して接着したのち、羽目板の表現として縦方向に幅2.5㎜で筋をつけた厚さ0.3㎜のSTウッドを貼り付けます。窓の周りは窓を避けて厚さ1㎜厚のSTウッドを貼り付け、窓の周囲に0.5×1の桧角材による窓枠を接着します。なお、こちらは羽目板の表現として横方向に筋を入れて羽目板を表現し、腰部と方向を変えることによりアクセントをつけています。

では実際の手順を主に写真で説明します。

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日本型ストラクチャーの紹介:北海道タイプの機関庫(1)

前回のD51の紹介記事に記載しましたが、このD51をもって私の手元にある蒸気機関車キットは底をつきました。近年はこのような加工のベースとなる蒸気機関車のキットは殆んど市販されておりません。現在販売されているキットは外国製のDCC制御の機関車であれば数両購入できる高価なものばかりです。これらのキットは言わば接着剤の代わりにハンダを使用するプラモデルのようなもので、そのまま組み立てれば所謂細密機が完成しますが、各部のディテールの表現方法(レベル)を考えそれに応じた製作方法を考えるような楽しみが味わえないような気がして、なかなか食指が動きません。この傾向は電車等のキットの傾向も同様で、価格も後日製作することを考えて取り敢えず買っておくというようなレベルではありません。DCC制御による運転の楽しさを知ってしまった現在、正直日本型車両の製作はもう終わりにしようかなという気もしています。そうはいってもこのまま長年楽しんで来た日本型鉄道模型をやめてしまうのも寂しいですので、将来外国型モデルと同等の価格帯の日本型のDCC搭載機が発売されることを期待して、この機会にかねてからのもう一つの夢であったなかお・ゆたか氏製作の”日本型の機関区のレイアウトセクション、”蒸気機関車のいる周辺”のようなレイアウトセクションを作成してみようかと思い、検討を開始しました。その中で、まずはその中心となる機関庫の製作をしてみることとしました。

屋根を除いて基本部分が完成した機関庫

私は今まで日本型の建造物(ストラアクチャー)の製作経験は殆んどありません。今まで私は外国型のZゲージ、HOゲージのレイアウト(セクション)を製作してきましたが、一部を除きストラクチャーは欧州製のプラキットを使用しています。かつて日本ではストラクチャーキットは殆んど発売されておらず、それがレイアウト製作の障害になっているというようなことが言われていましたが、最近ではレーザーカットによる加工ができるようになったせいか市販の建造物キットも多く見かけるようになりました。ただ、ストラクチャーのプラキットを使用してレイアウトを製作した経験からいうと、既成の建物を使用してレイアウト(セクション)を作成する場合にはそれらを使用して自身のレイアウト(セクション)の個性をいかに出すかが課題になるような気がします。特にレイアウトが小型になる程建物がレイアウト全体のイメージを左右します。そのため私の製作した自動運転レイアウト “終着駅Großfurra” では建造物は全て自作しました。一方、今回は日本型のレイアウトセクションですので、そこには昔の自身の体験に基づく『心象風景」を再現したくなります。私が蒸気機関車のいる風景を体験したのは、その末期で決して日常的に見慣れた風景ではなかったのですが、そのような時代を知る者にとっては市販の建造物キットを使用することには抵抗があり、建物は自作したくなります。幸いなことに蒸気機関車時代の日本の建造物は、欧州の建造物に比較すれば構造が単純である(装飾があまりない)ため。手間さえかければペーパー車体を製作する要領で自作できそうな気がします。そこで、レイアウトには自分がイメージした建造物を配置することとして、まず機関庫を製作してみることとしました。
その構想ですが、北海道仕様の機関車が集う機関区ですので、機関庫は「北海道タイプ」の機関庫としたいところです。ただ、私が製作したような幹線用急客機が配置されている機関庫はコンクリート造りの扇形庫や大型の機関庫が多く、それらには一目でわかるような北海道に特徴的な形態というものはあまりないようです。ただ、機関支区や駐泊所等の木造の機関庫や大きな機関区に残っている機関庫の中には北海道に特徴的な機関庫が見られるものがあります。それらの特徴は一言で言えば「アメリカンタイプ」の機関庫です。
初期の義経号や弁慶号からわかるように、北海道の鉄道は本州とは異なりアメリカの技術を導入して敷設されましたが、車両だけではなく建造物にもその影響が見られます。この辺りの解説はTMS1970年7月号に掲載された河田耕一支の解説記事”原野の鉄道”等の記事があります。この記事には標茶の駐泊所の写真が掲載されていますが、下見板貼りで縁取りのある縦長窓はアメリカの建造物の特徴そのままです。さらに積雪地のせいか入口は扉付きで屋根の傾斜が強く、屋根からの落雪を考慮したせいかその屋根が張り出し部と一体になっていること、屋根はトタン葺きですが積雪を考慮して比較的強固な構造となっている(波板を使用したものではない)のも北海道のこのタイプの機関庫に見られる特徴ではないかと思われます。残念ながら自身で撮影した写真はありませんでしたが、機関庫の製作にあたってはこのイメージで構想をすることとしました。

構想にあたって参考にした写真(TMS1970年7月号の記事より)

以前読んだ本(ローランド・エノス著・水谷淳氏訳:The Age of Wood(NHK出版:2021)によると米国の鉄道は北米大陸の豊富な森林資源を利用して構造物を作っていたようです。言われてみればアメリカの鉄道にはティンバートレッスルがよく使用されており、米国のレイアウトにもよく登場しますし、札幌ー小樽間にあったティンバートレッスル(野幌川橋梁)の写真も有名ですが欧州の鉄道では殆ど(全く?)見かけません。明治期の北海道も米国同様森林資源は豊富であったと思われますので、鉄道施設も木材を使用した米国仕様で建設されたことは容易に想像がつきます。かなり前になりますが、外国では日本の住宅は兎小屋のように狭く、紙と木でできているといわれてるという報道が話題となりましたが、兎小屋云々はともかく、現在でも米国の一般住宅は木造住宅の比率は高いのではないかと思われます。下記は最近のModel Railroade誌に掲載されていた蒸気機関車時代の建物の製作記事ですが、北海道の機関庫もまさにこのようなタイプですし、観光地で所謂「洋館」と言われる建物にもこのタイプは多くあります。

Model Railroarder誌のストラクチャー製作記事

製作にあたってはまずは構想を図面化します。とは言ってもプロトタイプの各部の寸法は不明ですし、たとえわかってもその寸法をそのまま縮小しても実感的な(イメージどおりの)建物ができるとは限りませんのでまず建物の基本寸法を実物にはとらわれずに決定する必要があります。この辺りが車両工作とは異なるところであり、また面白さであるような気がします。日本家屋は基本単位として”1間”という単位がありますが、そもそもこのような建物にこの基本寸法の概念があるのかもわかりません。以前製作したドイツの駅舎は寸法が全く不明であったため写真から割り出して寸法を決定しましたが、今回も日本の建物ではありますが手法としては全く同じ手法が必要です。ただ、機関庫は車両が出入りする建築物ですのでまず線路間隔を決めて車両の幅、高さとの関係を見ながら決めた入り口の大きさが基準となりますので、寸法の決定は思ったより簡単であったような気がします。なお、製作にあたり参考としたのはレイアウトテクニックに掲載されている河田耕一氏の機関庫をはじめとしたストラクチャーの製作法、荒崎良徳氏の日本型建造物の製作記事です。建造物の製作法はModel Railroader誌には時々掲載され、図面も掲載されている記事も多いですが、最近のTMS誌には殆んど掲載されません。私がこの手の作業する場合の情報は殆んど1970年代のTMS誌の記事と上記のレイアウトテクニック等のTMS特集シリーズを参考にしますが、最近のファンの方は何を参考として製作しているのかがちょっと気になります。

Model Railroarder誌に掲載されているストラクチャーの図面と荒崎良徳氏執筆の日本型建造物の製作記事(レイアウトテクニックより)
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模型車両の製作:珊瑚模型店製D51の組み立てと加工(7) :D51の組み立てを終えて思うこと

このブログでも紹介ししているように私は1990年頃に車両製作(日本型の鉄道模型)を離れ、その後約30年間、外国型鉄道模型のレイアウト製作をしていましたが、そして今回、久しぶりに蒸機バラキットの細密化加工を行ないました。何せ久しぶりのことですので色々苦労はしましたが、日々少しずつ組み上がっていくモデルを見るのは楽しく、楽しい時間を過ごすことができました。実はこのD51のキットが私の手元にある最後のキットでした。塗装を残してこのキットの組み立てを終了し、これを機に今まで製作してきた機関車を含め、これらの機関車でこれから何を楽しもうかと考えたのがこの記事を書くきっかけでした。なお、以下に記載することはあくまで私の私見ですので、その点、ご了解ください。

私は小学生の頃に鉄道模型を始めてから15年ほどたった1980年から1990年ごろにかけて、蒸気機関車のキット加工を行なっていましたが、車両製作の目的(動機)は ”蒸気機関車が配置されている機関区のレイアウトセクションを製作し、そこで自分が製作した車両を運転しながらじっくり眺めてみたい”ということであったように思います。一方、機関車だけでなく客車も同時に製作していたのは、いずれは(ローカル線ではない)列車が走るレイアウトを製作してみたいという思いがあったからです。このうち、蒸気機関車の機関区セクションの具体的イメージは下記の写真にあるなかお・ゆたか氏製作のレイアウトセクション”蒸気機関車のいる周辺”でした。

機芸出版社発行の”レイアウトテクニック”に収録されているなかお・ゆたか氏製作のレイアウトセクション”蒸気機関車のいる周辺”

私が当時製作した蒸機を一部を除き特定ナンバーにしなかったのはいかにもありそうな機関区の風景を再現して見たかったからです。晩年の蒸気機関車に形態は各地域ごとにバラエティに富んでおりましたが、その中には形態や装備に特徴(美しさ)がある「有名機」というものが存在しました。そしてそれらは鉄道雑誌等でよく話題となっており、模型のプロトタイプにもなっていました。ただ当時、それらが配置されていた機関区には当然「普通」の機体も稼働していたわけで、各地の有名機を製作し、レイアウトセクション上に集めてもそれは機関区の日常風景を再現したレイアウトセクションとはならず、単なる車両展示台になってしまいます。私が一部(C62)を除き、特定ナンバーではない機体を、異なる形式間でもある程度共通な装備(特徴)を持つ北海道仕様で製作してきたのは、私がレイアウトセクションで目指すのはは展示台ではなく、機関車が働くいかにもありそうな日常風景をその機関区がある地域のイメージも含めて再現したいという思いがあったからです。
その後私が車両製作から離れて外国型レイアウト製作に転向した経緯は”When is your realism level good enough?:車両製作から外国型Zゲージレイアウト製作の決断まで”に記載したとおりです。そして、その中でZゲージレイアウトのがほぼ完成した時、今まで慣れ親しんだサイズのレイアウトを製作して外国型の車両を走らせてみたいと思い、制作したレイアウトセクションが以前このブログで紹介した”ALTENHOF機関区”です。そして、そのテーマとして実際に訪れたことのない外国の機関区セクションを製作しようと決めた背景はやはり、上記の”蒸気機関車のいる周辺”の影響が大きかったと思います。その構想の中で、Zゲージレイアウトで運転中のリバース区間のスイッチ切り替えや複数列車の制御のためのキャブの切り替えの為のスイッチ操作が思ったより煩わしい作業だと感じていた私は、HOゲージの機関区セクション製作の際、”蒸気機関車のいる周辺”では機関車の留置等で2m足らずのセクションに15箇所のギャップが切ってあるという記事を読み、デジタル制御であれば配線も簡単で自由度の高い運転ができると考え、デジタル制御を採用することとし製作を開始しました。そして完成したレイアウトで機関車の運転を楽しんでおりました。

このレイアウトセクションが完成した頃、サウンド機能のついた蒸気機関車はまだ製品化されていませんでした

そんな時、ふと思い立って今まで私が制作した日本型の車両をこのレイアウト上に置いてみました。それが下の写真です。

外国型のレイアウトセクション上に置かれた私が製作した日本型蒸気機関車
機関区横の引き込み線に停車中の9600
機関庫前に停車するC57とC55. この頃D51のバラキット組立前.
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デジタル制御で何ができる?(6):デジタル制御には何が必要?・いくらかかる?(2)

前回、”デジタル制御で何ができる?(5):デジタル制御には何が必要?・いくらかかる?”(1)”の中で車両の価格を実例で紹介しましたが、今回は2回目としてデデジタル制御を行う際の制御機器とそのドイツにおけるStreet Priceから計算した日本での投資額を試算した結果を紹介したいと思います。
私の使用しているシステムはMärklin Digitalですので、機器は特殊で、また少々割高?ですが、前回のDCC制御に使用される機器の役割がわかれば他社製システムでもどのような機器を購入すれば良いかはわかると思います。そして、他社製品の機器と価格も私のわかる範囲で試算結果を紹介したいと思います。ただ何分他社製システムは実際に使用したことがなく、自動運転プログラムも作成したことがありませんので、概要の説明になってしまうことはご了解ください。
まずは、私のレイアウトセクションで撮影した動画をご覧ください。

私は以前、デジタル制御で何ができる?(4):デジタル制御による運転の楽しみ方についてという記事の中で、デジタル制御はまずジオラマで、動画を撮影して楽しむことから始めたらいいのではないかということを提案しました。確かに、長さ1m足らずのジオラマを製作し、前後に組み立て式の線路を繋げ、サウンド付きの動力車を用意すればれば上の動画のようなシーンの撮影はやろうと思えば可能です。ただ、手動で音や動きのタイミングを取って撮影するのは大変で、眺めて楽しむには長さも短すぎます。また、車両の動きを楽しむという点ではそれ以上のことは何もできません。前にも述べましたが、デジタル制御を楽しむためには、デジタル制御の特長を活かして列車や機関車を「運転」したり「見物」したりして楽しめるシーナリー付きのレイアウトが必要になると思います。そしてさらに、その上の列車の動きを線路脇で列車を眺める気分で「見物」しようとするとどうしても自動運転が行いたくなると思います。
そこで私に製作したレイアウトセクションで、その自動運転をMärklin Digitalで楽しむために使用した機器とそれにかかった費用の実例を紹介します。今回は前回とは異なり、購入当時の金額ではなく、現在の価格での試算としました。
下の画像はは私の製作したレイアウトセクションの線路配置です。左側がが以前”ジオラマ”ALTENHOF機関区”の紹介とMärklin CS3による自動運転”で紹介した機関区のレイアウトセクション、右側が”Märklin CS3による自動運転を前提としたレイアウトセクション”終着駅Großfurra”の紹介”で紹介した終着駅のセクションです(①・②の機関区の引き上げ線はレイアウトとしては使用しておりません)。そして自動運転時には対向した反対側のセクションを自動運転用の引き上げ線として使用します。下図がその線路配置です。なお、この画像はCS3をWi-FiでPCと接続しPCに表示されたCS3の画面をスクリーンコピーしたものです。他社製のDCC制御ではこのような画像はPCのモニター上に表示します。

CS3の画面の一例. 画面上には在線検知の結果が表示され, 車両のいる場所がわかります. 分岐器部分をタッチすると分岐器は切り替え可能で,UC*と記載してある部分をタッチすると解放ランプが作動します. 信号は現示している状態を表示します. 右下は照明スイッチでタッチするとON \OFFしますまた,S字マークにタッチすると自動運転が始まります. これらは自動運転中はその時のStatusが表示されます.

それではこのレイアウトを自動運転するために必要な機器を紹介します。

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デジタル制御で何ができる?(5):デジタル制御には何が必要?・いくらかかる?(1)

前回、現状ではデジタル制御は車両も含めて海外製のシステムを使用することが電気工作の経験やソフトウエア専門知識を持たない一般の鉄道模型ファンにとってはデジタル制御を楽しむ最も簡単な方法であるということを書いてしまった(日本の現状では書かざるを得なかった)のですが、それでは海外の製品を使用してデジタル制御を楽しむためには何が必要で、どのくらいの費用がかかるのかを紹介したいと思います。なお、私は製品は海外のショップから個人輸入していますのでその事例を紹介しますが、当然製品の個人輸入と使用にはリスクがありますので、個人輸入で楽しむ際はあくまでも自己責任でお願いします。個人輸入が不安な方は多少価格が高くても国内の販売店から購入することをお勧めします。

Märklin Digitalの制御機器

<DCCの概要とデジタル仕様の機関車の価格>
今までアナログ制御での運転を行っていた方がデジタル制御を導入しようと考えた場合、その導入にはどのくらいの投資が必要かは大きな関心事だと思います。現状、デジタル制御に必要な機器を取り揃えて販売している模型店は都市部でもあまりなく、機器を購入するにはネット通販を利用することが多いと思いますが、DCC制御の導入にあたってどのような機器の購入が必要かよくわからない方もいるのではないかと思います。DCC制御の楽しみ方は人それぞれであり、各種ある機器からいきなり「この」メーカーの「あれ」と「それ」を使うのが良いと言われてもDCCの概要と販売されている機器の役割がわからないとそれが本当に自分にとっての正しい選択か判断するのは難しいのではないかと思います。そこで今回はまずDCC制御の概要をDCC制御に使用される機器を切り口として簡単に説明してみたいと思います。また、Märklin Digitalを除き、各メーカーのDCC製品は原則米国のNMRA(National Model Railroad Association)が制定している標準に則って動作しますので、一つのメーカーを例にして販売されている機器とその役割が理解できれば他社製機器でもその機器がDCC制御でどのような役割を持った機器かが理解でき、自分に適したDCCメーカーと製品を探すのにも役立つかもわかりません。そこで今回はまず1社の製品を例にDCCの概要をDCCに使用する機器の役割という観点から説明し、その後DCCの導入にどのくらいの投資が必要かについて、海外からの個人輸入で購入する場合を例に紹介したいと思います。当然電子機器の海外からの個人輸入は製品の日本の法規制対応や製品の破損等の面からリスクがありますが、日本での製品価格がショップで結構ばらついているのに対し、海外の大きなショップではショップごとの価格差は少ないようですので、まずは海外での機器の価格と日本から輸入した場合販売価格に加えてどのくらいの手数料がかかるのかを事例に基づき紹介させていただきたいと思います。ただ、DCC制御については実際に使ってみると結構わからないことが出てくると思いますので、個人輸入は上記のリスクに加え、海外からの購入では気軽にショップに相談してサポートを受けることが難しいという面もあります。採用するメーカーと機器が確定すれば日本で機器を購入する場合の投資額は簡単にわかりますので、サポート体制も考慮しながら個人輸入で入手するか国内ショップで購入するかは(どのショップで購入するか)は購入者で判断していただければと思います。また繰り返しになりますが、個人輸入を選択する場合は上記のリスクがありますので、機器を輸入する際には注意してください。私が認識しているリスクはあとで少し具体的に説明したいと思います。また、今回は前回までに紹介したDCC仕様の機関車について、私が海外ショップから購入した価格を紹介し、DCC機器類は次回、私が製作したレイアウトを事例に紹介したいと思います。

・ DCC制御の概要と必要な機器
細かい部分は抜きにしてDCC制御の概要を簡単に理解するためには、具体的にに販売されている製品とその製品が持つ役割を理解するのが手っ取り早い方法ではないかと思います。私が使用しているMärklin製のシステムは構成が少し特殊なので、今回はNMRAのお膝元である米国Digitrax社製のシステムで説明します。Digitrax社のホームページを見ると製品にはDCC制御導入の為のStarter Setsがあります。その中のEVOX Evolution Express Advanced 5A/8A Starter Setという製品には以下名称の機器がセットになっています。
・ DCS210+ Command Station/Booster With Intelligent AutoReverse
・ DT602 Super LocoNet Throttle
・ UP5 Universal Panel
・ Power Supply
・ Evolution Express Manual
商品説明にはEvolution Express is perfect for most home and club layouts. と記されています。club layoutsと記載されていますので、かなりの大レイアウトにも使用可能なセットだと思われます。まずはこれらの機器がDCC制御の中で果たす役割を説明したいと思います。なお、名称からもわかるように一番下はマニュアルで、この内容はDigitraxのWEBサイトで閲覧することができます。
これらの機器の中でCommand StationがいわばDCC制御の中核をなす機器です。この機器に同梱のSuper LocoNet ThrottleとPower Supplyを接続して、この機器の出力端子をレールと接続します。このCommand Stationは、Power Spplyから供給された電力を車両駆動用の矩形波に変換するとともに、Throttleから送信される制御用のコマンドに応じた信号波形を車両駆動用の矩形波に重畳させてレールに送り出す役割を担います( LocoNet ThrottleのLocoNetの意味は後ほど説明します)。また、この機器がレールとのインターフェースになりますので、車両の在線検知を行うデバイス(Feedback Module)からの信号等、自動運転等に必要な情報(Feedback情報)もこの機器で受信します。さらに、この機器はUSBでPCとの接続ができますので、この機器とPCを接続し、PCでこの機器から得られるFeedback情報等に基づき車両や分岐器制御用のコマンドを発効するプログラムを作成し、プログラムに従ってPCから制御用コマンドをCommand Stationに送り、Command Stationで駆動用の電流に重畳してレールに送信すればPCによる自動運転を行うことができます(具合的なプログラム方法は私にはよくわかりませんのでこれ以上は記載をしませんのでご了解ください)。
次にUniversal PanelとBoosterを説明します。DCC制御はレイアウト全体に同一の制御用の信号を同一のタイミングで制御対象(車両や分岐器)に与えることが必要で、そのためにはレイアウト上の左右各々のレールはレイアウトの全域にわたって導通していなければなりません。2線式のアナログ制御では短絡防止やレイアウト上で複数列車を運転するためにレール上にギャップを設ける必要がありますが、前述のようにDCC制御ではレイアウト全体に同一の制御用の信号を同一のタイミングで制御対象(車両や分岐器)に与える必要があるためレールにギャップの設置することは「禁止」です。一方、DCC制御もアナログ制御と同様、レールを全て繋げて、レイアウト上に複数の列車を走行させると電源の容量不足やフィーダーから遠いところでの電圧降下が発生しますので、特に複数の列車が走る中型から大型のレイアウトでは線路をブロック分けしてそのブロックに別の電源から電力を供給する必要が生じます。そうするとギャップは「必須」になります。しかしそれでは列車の走行に必要な電力は確保できても制御用のDCC信号が分断されてしまいます。このジレンマを解消する方法として、給電区間を分割しなければならない大型レイアウトではレールとは別にCommand Stationが生成する制御用のDCC信号のみが流れるBUS LINEをレールとは別にレイアウトに敷設します。そしてBUS LINEの途中に設置し、このBUS LINEからの情報を取り出す為のコネクタを備えた機器がUniversal Panelです。そしてブロック分けした区間では、その区間用の電源からの電力を駆動用波形に変換し、BUS LINEの途中に設けられているUniversal Panelから取得したDCC制御用信号を走行用駆動波形に重畳させてそのブロックに供給すれば、そのブロック分けした区間にもCommand Stationが発信するものと同じ制御用のDCC信号を重畳した波形の電流を流すことができます。この駆動用電力と制御用信号を重畳する役割を持つ機器がBoosterと呼ばれる機器です。このようにBoosterの役割はCommand Stationの役割と似ています(Throttleからの情報の代わりにBUS LINEからの情報を走行用駆動波形に重畳させているだけです)。上記のリストの一番上の機器はCommand Station/Boosterという名称ですが、これはこの機器がBoosterとしても使用できるという意味になります。
また、同じジレンマはリバース区間のあるレイアウトでも発生します。このジレンマはレイアウトの大小には依存せず、リバース区間を持つ全てのレイアウトに発生します。リバース区間は使用する電源に例えレイアウト上の全ての列車を運転できる電源容量があっても、その区間の両側のレールに両ギャップを設けてその区間を完全に独立させなくてはなりません。すると当然この区間にはCommand Stationからの駆動電流も制御用DCC信号も流れませんのでこの区間に駆動電流と制御用DCC信号を流す必要があります。そのためにリバース区間があるレイアウトではリバース区間用のBoosterとリバース区間用の電源が必要となります。一方、リバース区間の出入口では列車がリバース区間に侵入する時点でリバース区間のレールの極性とリバース区間の極性が同じでなければなりません。そのためリバース区間に接続したBoosterは、列車がリバース区間に出入した際にレールの極性違いに起因するショート(急激な電流変化?)を検知した場合、瞬時に駆動用電流の極性を切り替える機能が必要です。上記のCommand Station/Booster With Intelligent AutoReverseという名称はリバース区間のBoosterとして使用する際、自動で極性を切り替え機能も持っているということを示しています。なお、リバース区間が1箇所でリバース区間に侵入した列車は元の電源供給区間に戻ってくるのであれば、列車がリバース区間にいる間にレールのリバース区間外のレールの極性を反転させれば良いということになりますので、そのような線路配置ではBoosterと電源を別に用意しなくでもリバース区間に対応できる機器が用意されています(DigitraxではAR1 Automatic Reverse Controller-Singleと言う名称です)。なお、Märklin Digitalはレールが3線式で、車両への電力供給位置が線路の中心線に対して左右対称ですのでリバース区間という概念はありません。そのためこのオートリバース機能を持った機器はありまん。

話をBUS LINEとUniversal Panelの話に戻しますと、Universal Panelに設けられたコネクタのI/F仕様はCommand StationのThrottleを接続するコネクタのI/F仕様と共通です。よってここにThrottleを接続して列車を制御することも可能です。また上記のBoosterの説明ではコネクタから情報を取り出すと記載しましたが、このコネクタに自動運転のための在線検知モジュール(Feedback Module)等を接続してその情報をBUS LINEを通じてCommand Stationに送信することもできます。このように、BUS LINEのUniversal Panelに取り付けられているコネクタは車両制御に必要な情報をBUS LINEに与えることも取り出すことも可能です。Dititrax社のCommand StationにはThrottleを接続するコネクタが3個ありますが、これはCommand Stationの中に短いBUS LINEが存在すると考える事もできます。Digitrax社ではこのBUS LINEのことをLocoNetと呼んでいますが、これはDigitrax社の商標であると同時にこのBUS LINEのプロトコルを表わす名称としても用いられているようで、他社のシステムにもLocoNetという名称が出てくることがあります。また、LocoNet Throttleという名称はLocoNetに接続できる(LocoNetのプロトコルに従ってコマンドをCommand Stationに送信する)Throttleであるという意味でつけられているのではないかと思います。

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デジタル制御で何ができる?(4):デジタル制御による運転の楽しみ方について

今までデジタル仕様の車両の機能をいろいろ紹介しましたが、今回は海外では普及しているデジタル制御がなぜ日本で普及していない理由とそれに基づく打開策(結果的には妥協案です)を私なりに考えてみたいと思います。

私は以前このブログで紹介した紹介したレイアウトセクション”終着駅Großfurra”を作成してデジタル制御による自動運転を楽しんでおりますが、今回紹介したような幹線を走る大型の車両を運転できるような固定レイアウトは所有しておりません。現在のところ今回紹介したような幹線を走る大型の車両はいわゆる「お座敷運転」で楽しんでいます。
私がデジタル制御を導入したのは2000年ごろですので、それから20年近くが経ちますが、それ以前も含めて考えてみると、鉄道模型の運転の楽しみ方は「自分が運転士になったつもりで車両を自由にコントロールする」ことと「線路脇でいろいろな列車が走ってくるのを眺める体験を模型の世界で再現する」の2点だと感じます。小学生の頃、線路脇にボール紙で製作したプラットホームを置いて列車を通過させたり停車させたりして楽しんだり、畳に顔をつけて列車の通過を見るのを楽しむということは、子供の頃から鉄道模型で遊んでいた方は必ず体験しているのではないでしょうか。そして時が経つにつれスペースや線路配置は少し大きくかつ複雑になりましたが、大型車両を「お座敷運転(情景なしの組み立て式レイアウトを含む)」で運転する際の車両の運転の楽しみ方については小学生の頃の楽しみ方とあまり変わらないように感じます。そのお座敷運転に今回紹介したようなデジタル制御を取り入れると何ができるかといえば、ヘッドライトをハイビームにしてみたり、警笛を鳴らしてみたりすることで、極端に言えば小学生の時の楽しみ方とあまり変わりません。走る列車の中で発生する音を聞きながら列車の動きを眺めることも想像力を掻き立てる効果はありますが、デジタル運転の複数列車が制御できる利点を活かして複数の列車を運転している場合には1本の列車に注目するわけにもいかず、効果は現象します。運転士気分が味わえるのも1本の列車に注目しているときのみで、一人で複数の列車を運転する作業は結構煩雑です。極端な言い方をすれば、高価なデジタル制御を導入してもお座敷運転でできることとその効果は限られています。お座敷運転で色々な車両を取り替えながら運転してその車両に実装されている機能を楽しむこともあり、それはアナログ運転にはない面白さであることは確かですが、あえて極端に言ってしまえばこれもすぐに飽きてしまいます。一方、小型のレイアウトであっても、レイアウトの中に置かれた車両の室内灯やヘッドライトが想定したシナリオに沿って制御され、列車が発車時にエンジン音を響かせて発車していく様子を眺めるのているたり、運転士気分で自分でコントローラーを操作し、駅を発車するとき警笛を鳴らし、動き始めるとエンジン音が大きくなっていくのを聞くと、お座敷運転でのデジタル運転よりは圧倒的に実感的で面白く、また列車をレイアウト上に停車させて運転に関係ないような音や光の制御(機関車の芸)を眺めるのも机の上に置いた線路で眺めるのとレイアウトという情景つきの舞台で眺めるのとでは気分が全く異なります。これまでに紹介した車両の運転には関係ないFunctionはレイアウトに停車中の車両で本来の運転とは別のところ(息抜き)で楽しむものかも分かりません。

シーナリー付きのレイアウト上で停車中に「芸」を披露するBR065

一方、アメリカには日本や欧州にない運転の。楽しみ方があります。日本にはほとんどないような大きなスペースに半島型のレイアウトを作り、その中で車両を実物の鉄道を模したダイヤで運転するという運転の仕方です。線路の総延長を増やすためレイアウトを2層構造にすることも行われています。このような運転では複数の個々の列車運担担当者が自分の「CAB」を持ち、運転士になった気分でレイアウトの周囲を歩きながら列車を運転します。レイアウトのはDCC信号を線路に流す信号ライン(BUS)を通しておき、レイアウトのところどころにあるBUSのI/Fにコマンドコントローラーを順次接続しながら列車の制御を行います。その際にはスケールタイムを決めて(レイアウトの規模に応じて1時間を何分にするを決めて)1日を1セッションとして楽しみます(例えば1時間を8分とかに設定します)。また、その運転は実際の鉄道会社が規定する規則(連邦鉄道局の規則)に則る場合も多いようです。これは「自分が運転士になったつもりで車両を自由にコントロールする」という楽しみ方の究極的な姿であるとも言えますが、このような楽しみ方は鉄道模型を「おもちゃ」として捉えてきた欧州にはあまりないようで、Märklinの現行ののコマンドステーションであるCSIIIにはそれまでCSIIのあったスケールタイム機能はまだ実装されておりません。そしてどちらかといえば欧州の楽しみ方は日本の楽しみ方に近いように感じます。ではデジタル制御が普及している欧米とそうではない日本との差は何かと考えると、それは車両をレイアウト上で楽しむか、車両をお座敷運転で走らせたり、ジオラマ上の動かない車両を眺めて(写真を撮影して)楽しむかの差ではないかと考えます。勿論レイアウトでの運転を楽しんでいる方も多くいらっしゃいますが、スペース的に有利な国鉄型以外の小型車両が走るレイアウトでは自分の好みのデジタル仕様の車両を簡単に(自分で改造せずに)入手するのは現状では至難の業(実質不可能)なのではないかと思います。

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改修が終わったZゲージレイアウトの紹介 (2)

改修が終わったZゲージレイアウトの紹介の第2回目として、今回はレイアウトの細部をご紹介したいと思います。前回は実際に運転中に見ている光景をイメージし、55㎜の標準マクロレンズを用いレイアウトの台枠の外側から撮影した写真を紹介しましたが、今回は105㎜のマクロレンズを使用し、レイアウトのより細部を切り取っています。しかしやはりレンズが大きいため、ローアングルからの撮影はできず、レイアウト上方からの写真が主体となります。この状況はより小型のコンパクトカメラを使用してもあまり変わりません。一方、唯一?ローアングルからの撮影が可能な方法はスマホのカメラを使用することす。そこで今回はスマホでの撮影にもチャレンジしてみました。ただ、レンズは本体の端にあり、大きさも小さいものの本体はレイアウトのサイズに対しては大きく、やはりアングルは限定されます。またレイアウトの中にスマホをセットする際には周囲を破損させないよう細心の注意が必要になります。普段の生活の中ではスマホの普及により色々なシーンを気軽に写真で記録できるようになりましたが、ことZゲージのレイアウト撮影に関してはそんなことは全くなくカメラによる撮影より慎重な作業が必要になります。なお、撮影にあたっては厚紙で写真のような固定部材を用いてカメラを固定し撮影しています。このようなホルダで固定しての撮影は以前Model Railroader誌に紹介されていたことがあり、今回のホルダはその記事を参考に製作しましたが、ホルダの幅を限界近くまで狭くしましたので倒れやすく、使用には細心の注意が必要です。ただ、手で軽く押さえることが必要であってもこのホルダを使用することで安定性が大幅に上昇します。

写真での紹介にあたり、まず望遠マクロレンズで撮影した画像とスマホで撮影した画像を一枚ずつお目にかけます。

列車の進入方向から105㎜のマクロレンズで撮影した駅と高架線です.
スマホで撮影した駅に停車中の列車desu. 手持ちの機材ではローアングルからの撮影はスマホのみで可能です. 以下のスマホで撮影した写真は全て縦長の画像をトリミングした画像です.

それではまず市街地の写真から紹介します。

駅前の風景です. バス停は真鍮線, Evergreen社製プラ素材, 透明プラ板からの自作です. 車はMärklin製ですが、現在カタログに掲載されている製品とは色が違うようです. 乗用車以外のダンプやバンもMärklin製ですが、最新版のカタログには掲載されておりません. 
駅前の道路を直進したところの池の畔にある公園です. 電話ボックス, ベンチはEvergreen社製素材と透明プラ板からの自作, 石垣はKibri製です. この一角は街路等に設置に伴いターフとフォリッジを新規としましたので地面や草木の色合いが他の部分と少し異なっています.
駅前の建物の裏手の池の畔にはカフェを作りました. こちらもテーブルや椅子はEvergreen社製素材から作成してます. 日除けは手芸店で購入したリボンで製作してあります。一部の建物の旗もリボン製です.
歩道上にあるKioskと屋台です. KIoskの屋根は建物キットの残材です. 建物キットは型費削減のためか異なる建物でも共通の部品が使用されており余剰となる部品が比較的多いため, それらは自作の建物に活用ができます。屋台はHOの製品の写真を参考に作成しました.
駅前通りから見た公園とリバース線の鉄橋です(iPhoneで撮影)
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