今まで3回にわたって機関区にあるストラクチャーを紹介してきましたが、それらは全て蒸機機関車や気動車を動かすやめに水や燃料を補給するという機関区でいわば動力車とのインターフェースとなるストラクチャー(建物)でした。今回からはそれ以外の機関区にある事務所等のストラクチャー(建物)を紹介したいと思います。
機関区にある建造物の実例を交えた解説は1980年代に機芸出版社から発行された”シーナリーガイド”や”シーナリー・ストラクチャーガイド”に詳しく解説されています。そこには各地の機関区の実例が多数紹介されていますが、それらの記事の中から機関区にある建物を列挙すると概ね以下のとおりです。
機関区事務所
乗務員詰所
線路班詰所
風呂場
外勤事務所
用品事務室
燃料係室
油庫
用品倉庫
蒸気機関車が活躍していた時代、これらの建物は大体が平屋建てで、線路の周囲に並んでいることが一般的でした。国鉄の機関区に小さな建物が多数あるのは一説によると縦割り組織であった国鉄がその組織ごとに建物を建設したからであると言われています。真偽のほどはわかりませんがそのような観点で建物の種類(名称)を見ると確かにそのような気もします。これらの建物は無煙化後も1980年ごろまでは各地で見ることができましたが、中には窓がアルミサッシ化されたり、屋根が葺き替えられている建物もありました。
それでは以下、建物の構想から完成までのプロセスを紹介させていただきます。
まず最初にどのような建物を製作するかを決定します。製作にあたり参考とした上記の”シーナリー・ガイド”には機関区と機関支区と駐泊所の差は敷地にある建物の数の差でわかるというような記載がありますが、これは感覚的には”言い得て妙”ではないかと感じます。この言葉に従えば機関区と称するためにはある程度以上の数の建物が必要ということになりますがレイアウトは当然?実際のスペースよりはかなり小さいため建物に数には限界があります。またあまり建物の数を増やすと狭苦しい印象となり、北海道の機関区の印象を損ねる気がします。そこでまずは製作する建物を仮決めし、モックアップ等で検討しながら実際に製作する建物を決めていくこととしました。その際最初に選択した建物は
機関区事務所
乗務員詰所
線路班詰所
風呂場
用品倉庫
です。まずは写真等の資料や過去の記憶を頼りにこれらの建物の方眼紙に建物の外観のラフスケッチを描きます。下の写真はこの時位製作した線路班詰所と用品倉庫のラフスケッチです。
これらの建物は実際にラフスケッチを描いてみるとは細かい差異はあれ全て木造下見板張りのトタン葺きで皆同じような外観になってしまいます。したがってこれらの建物を限られたスペースに並べると印象が少し単調になってしまうのではないかという気がしました。そこで変化をつけるため乗務員詰所と風呂場は間にトイレを挟んで建物を一体化してみることとしました。このような実例があるかどうかはわかりませんが、寒冷地で積雪の多い地域の機関区ではこのような構造もアリではないかと考えた次第です。この辺り、模型の世界では合理性がありそれらしければ(理由を説明できれば)あまり実物通りの形態にとらわれる必要はないのではと思っています。また上記書籍の解説によれば、北海道の建物では入り口に破風がある建物が多いとあり、実際の建物を見ても確かにそのような印象がありましたので原則入り口には破風を設けてあります。
建物のアウトラインが決定したらケント紙でモックアップを作成し実際にレイアウト上に並べてイメージを確認します。
建物はレイアウトを置いた時の壁側に並べ、手前側は機関区事務所のみとして車両を鑑賞する際の視線の邪魔にならないように配慮しました。なお、実際にモックアップで検討してみると乗務員詰所と線路班詰所の間のスペースが広すぎるように感じましたので、その空いたスペースに油庫を追加しました。決定した建物の配置を下図に示します。
建物の大きさと配置が決まったら図面を作成しますが、今回は少し手抜きをして全ての建物の図面は作成していません。一般的に日本家屋は基本寸法が決まっており、窓や扉の大きさも建物による差はありません。そこでまず機芸出版社発行の”レイアウト・テクニック”に掲載されている各種記事を参考にして機関区事務所のみ”真面目に”図面を作成し、その図面で扉や窓の基本寸法、窓枠に使用する檜角材等の寸法を決めることにより、その他の建物の図面御作成は省略しました。基本寸法を決めたのは窓枠に使用する材料、建物への入口とその入口に接する半間の窓、建物の門部で接する窓部の構造、窓が連続する部分の構造等です。
⚫︎建物の外観
設計が終わったら製作に入りますが、製作手順は今まで紹介してきた建物とほぼ同一ですので今回は完成した建物を写真で紹介させていただきます。
まずは上の図面に基づき製作した機関区事務所で、この機関区の中では一番大きな建物です。L字形状として一端に張出部(トイレを想定)を設けました。壁面はSTウッドを使用した下見板貼りで窓枠と扉は自作品です。トイレには昔よく見かけた風で回転する排気煙突を取り付けようと考えていましたが、構造が複雑で製作方法を思案中です。屋根の台形煙突はエコーモデル製のパーツを使用しました。
モックアップによる検討で追加した油庫はコンクリート製の建物としました。屋根はプラ製の波板(Kibri製#34143:Corrugated Metal)を使用しています。
用品倉庫は扉をシャッターに改造した建物としました。こちらも屋根はプラ製の波板です。
線路班詰所は矩形の単純な形状の建物です。煙突はプラ製パイプによる自作品です。根本部と先端部の2体構造で根本部はドリルレースで円錐形としてあります。北海道の積雪地では機関区事務所に取り付けた台型煙突ではなくこのような背の高いタイプの煙突の方が多いという印象です。
乗務員詰所、トイレ、風呂場を一体化した建物です。風呂場には砂煎り小屋と同様、屋根に換気口を取り付けてあります。また変化をつけるためトイレの屋根は波板としてあります。また、建物ごとに窓枠の色を変えて変化をつけてあります。
⚫︎照明
いずれの建物も照明を組み込んであります。屋内の照明は内部を作った機関区事務所、線路班詰所、乗務員詰所(日常的に人がいるところ)は12V米粒球(9V点灯)、その他はWARM WHITE色のLEDを使用しています。LEDはいくら”電球色”と言っても電球とは色合いが異なりますので消費電流は多くなりますが内部を鑑賞する可能性のある建物の内部は電球による照明が良いのではないかと考えています。ただ、Märklin製の車両のヘッドライトや室内灯は今回使用したLEDよりは電球の色に近い気がします。私は秋葉原のパーツショップで購入した1個¥10-20のLEDを使用していますが、パーツを探せば色合いがより電球に近いLEDがあるのかもわかりません。
入口灯は全てWarm White色の表面実装型LEDを使用しています。電燈の傘はFaller社のMarcheのプラキットの余剰品(皿と器)を流用しています。LEDの制限抵抗は建物内に設けた基板に取り付けてあります。またその基板からブレッドボード用の雄コネクタ付きのリード線を出してベースボード上に設けたブレッドボード用の雌コネクタと接続することにより建物への給電を行なっています。なお、ブレッドボード用の雄コネクタはハウジングが大きいのでスペースが厳しい建物についてはハウジングを外してピンに直接リード線をはんだ付けしています。
⚫︎建物内部
機関区事務所、線路班詰所、乗務員詰所は内部のインテリアを製作しました。まずはそれらの写真をお目にかけます。
⚫︎ 建物内部の製作過程
写真の机、戸棚、ロッカー、畳、流し台等は全てケント紙による自作です。ホワイトメタル製のパーツも市販されていますが、手間さえかければ十分自作が可能です(とは言っても机8個を製作する時間は1時間もかかりません)。何よりも自作のメリットは費用が安く済むことです。建物本体を製作する際余った材料で全てが製作できてしまいます(実質¥0)。工作もそれほど難しいものではなく、ペーパー製の車両を製作したことのある方であれば簡単にできますし、経験のない方でも慣れればすぐに製作可能です。それでは以下製作過程を簡単に紹介します。
まずは建物内部の配置図を作成します。図面と言えるほどのものではなくフリーハンドで作成しています。内部に配置する主なものは机、テーブル、ロッカー、戸棚ですが、これらはWEB上のメーカーカタログを参照して寸法を決めています。さらに変化をつけるため乗務員詰所と線路班詰所には畳を敷いた部分を作成してみました。実際にこのような設備が存在していたかどうかは定かではありませんが私が会社に入社した頃(1980年代前半)には工場の休憩所には必ずと言っていいほど畳敷の部分がありましたのでそれを思い出して製作してみました。建物内部を除いた際にただテーブルと椅子が並んでいるだけでは単調に感じたため少し変化をつけてみた次第です。
書類戸棚と机の構造を数に示します。()内の数値は使用したケント紙の板厚です。製作時には一度のすべての部品を作らずにまず折り目のある部品(コの字形の部品)を製作し、その折り曲げ後の寸法に合わせて内側にはまる部品を製作することにより比較的正確な箱形状とすることができます。接着は主にゼリー上の瞬間接着剤を使用しています。木工用ボンドの方が使い勝手は良いところもありますが特に小さい部品に木工用ボンドを使用すると接着剤の水分で膨らみますので注意が必要です。
下の写真は組み立て前の机の写真です。脚部のような細い部分がある部品は瞬間接着剤を染み込ませて補強が必要です。なお机の両側に机の脚部を取り付ければテーブルに、書類戸棚の上部の棚部分に引き戸を設ければj上段も引き戸の戸棚ができますし、前面に筋を掘った板を貼り付ければロッカーにすることが可能です。これらのパーツは組み立て後サーフェサーを吹き付けて髪ヤスリでバリ等を除去した後、エアーブラシで茶色のラッカーを吹き付け塗装しました。机や戸棚等の複雑な部品は筆塗りですと角部に塗料が溜まり段差ぶのシャープさが損なわれますので避けた方が無難だと思います。
⚫︎ 什器備品類の制作
上記の設備が完成したら机等の上に置く什器備品類を製作しますが、これらはは主に以前外国型レイアウトを製作した時に余ったプラ製の部品を使用しています。ドイツのPreiser社は日本でもフィギュアのメーカーとして有名ですが、フィギュア以外にも多くの什器備品類の製品を販売しています(パーティー料理のキットもあります)またVollmer社やFaller社からは街のMarcheやChristmas Marketのキットが各種発売されており、その中には多くの什器備品がアソートされています。日本ではこのような部品はホワイトメタルや3Dプリンターで製造されて販売されていますが、これらの外国製品はインジェクションモールドで製造されていますので製品の値段は高価でもその中には多数の部品が入っていますので価格を1個あたりにすれば非常に安価です。また瓶やコップは透明の材料でモールドされていますのでそのまま接着すればOKです。ちなみに下の写真の椅子はPriser社の#17201を使用していますがテーブルと椅子が各48個入っており、現地価格で税抜¥1800程度です。日本での販売価格はそれより高いと思いますが、日本製の部品に比較すればそれでも安価だと思います。興味のある方は一度Priser社やVollmer社(Viessmann社)、Faller社のWEBカタログをチェックしてみると良いかと思います。ただ、実に多くの商品がラインナップされていますので探すのが結構大変です。またメーカーにはかなりの製品が在庫しており(別の言い方をすれば在庫切れ製品ははわずか)で海外模型店から個人輸入すればそのほとんどが入手できます。真偽の程は不明ですが欧州にはMiniture Wonderlandのような大規模なレイアウトの展示場があり、そのためにメーカーが新規製品に投資できたり既存製品を継続的に製造できているという説があります。この辺り、欧州と日本では鉄道模型の生産数量がかなり異なりどちらもニッチ市場といえど欧州のメーカーはある程度スケールメリットが得られているという気もします。なお、今回の制作にあたり新たに購入した部品は自作の難しい電話機とヤカンのみでいずれもエコーモデル製のパーツです。
以下実際の使用例を写真で紹介させていただきます。
簡単ですがこれで今回製作した建物とその内部の紹介を終わります。ただ、建物の内部の製作については現時点でまだ課題があります。まずは内部のウエザリッグです。写真でもわかるように建物内部は部材を塗装しただけでは実際の生活感が乏しい気がします。またこの時代の建物内部は全体的に煤けた感じがしますのでそれに応じたウエザリングが必要です。ただ、上の写真のように内部は窓越しに除くことになりますので実際にはそれほど気にしなくてよいのかもわかりません。この辺りは今後ウエザリングの効果を実際にチェックしながら検討したいと思っています。それより問題だと思っているのはフィギュアです。今まで私の製作してきたレイアウトは外国型のレイアウトでしたので、フィギュアは主にPreiser製を使用してきました。ところがPreiser製のフィギュアには機関区事務室で作業をしている事務職のような製品はなく、外で作業をしている人のフィギュアはこの時代の日本の人々に比較するとスタイルが良すぎます(作業員も体格が良すぎます)。日本製のフィギュアはエコーモデルからホワイトメタル製の製品が発売されていますが、Preiser社製のフィギュアを見慣れた目にはその形態は決して良好とはいえず価格も高めでなかなか使用する気になりません。レイアウトは次第に完成に近づいていますが、機関区の活気を表現するためにはある程度の数のフィギュアが必須であるためこのフィギュア調達問題が最後まで懸案事項として残りそうな予感がしています。
これらの建物の完成でレイアウトの主要な部分の工作が終わりましたのでここから細部の仕上げに進んでいきます。完成した建物をレイアウト上に配置してもまだ非常に散漫な印象で、ここから細部を作り込んでいき、いかに全体的に密度を上げていくかが重要になります。この仕上げの過程でレイアウトの印象や実物らしさが大きく左右されるのは間違いなく、その過程では多少の試行錯誤が必要になると思います。次回以降はその過程について紹介したいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。