模型車両の紹介:北海道の急行用気動車(模型のウエザリングについての考察)

最近、いすみ鉄道に残るキハ28の最後の1両が定期運用を離脱したことが話題になり、TV等でも数多く報道されておりました。それに触発されたわけでもないのですが、今回は北海道の急行型気動車キハ56、キロ26を紹介させていただきます。いずれもフェニックス模型店製のバラキットを組み上げた製品で1990年ごろに製作した作品です。

キハ58をはじめとした急行型気動車はかつては全国の国鉄路線で急行列車から普通列車まで幅広く運用されており、運用上一般型気動車と混結して普通列車に使用されてもいましたが、その塗色は一般型気動車とは異なる塗り分けで編成中で目立つ存在でした。同じく数多く製造された101系、103系等が大都市向けの通勤輸送に特化された車両で見られる地域が限定されていたのに比較して、キハ58系をはじめとした急行用気動車はは全国津々浦々で運用されていたため全国各地でこの車両に接した方は多いと思われます。そのためキハ28の運用終了は全国のあまり鉄道に興味のない方々にとっても一つの時代の終わりを感じさせる出来事であり、話題になったのかもわかりません。

函館本線大沼付近を走る稚内行き急行”宗谷”.2両目にキロ26を連結.

<車両の紹介>

今回ご紹介する北海道向けの急行型気動車のデザインは全体的には本州の車両と同一ですが北海道仕様の車両の外観上の特徴は側窓が二重窓で窓の天地寸法が小さいことです。そのため稜線の目立たない張り上げ屋根の構造と裾の絞りにより相まって幕板部が非常に広く感じられるとともに車体の”丸み”が強調され印象的には本州用の車両とはかなり雰囲気が異なる感じがします。またグリーン車は本州用の車両の連続窓とは異なり普通車と同構造の二重窓が各座席あたり1個配置されており、普通車との外観上の大きな差異はなく、等級帯が廃止された後は普通車の中間車と言ってもおかしくないものでした。一方北海道の特急列車はキハ183系の登場以前は本州と同じ車両(キハ82系)が使用されており、急行列車に使用される客車も外観的には本州用の車両とほぼ同一でしたので、キハ183系の登場まではこれらの急行型気動車が北海道仕様の車両の外観の特徴が一眼でわかる唯一の優等列車用の車両でした。

モデルはキハ56が3両、キロ26が1両の4両編成です。北海道の急行型気動車の普通車は冷房車ではありませんので本州の冷房車で組成された編成とは異なり冷房用電源搭載車両とその給電可能な両数を考慮して編成を決める必要はありません。車体は冒頭に記載したようにフェニックス模型店製のバラキットで その他の主要パーツは台車(DT22)が日光モデル製、床下機器も日光モデルの製品です。また動力装置は天賞堂製のパワートラックGT−1を2両のキハ56に装着してあります。

余談ですが、90年代初めこの模型を製作したのち外国をテーマにしたレイアウト制作を始め、次にバラキットを製作したのは2015年ごろですので私のキット組み立て技術はこれ以降現在に至るまで向上しておりません。それでは以下写真を主体に各部を紹介させていただきます。

キハ56の全景.車体はフェニックス模型店製バラキットをほぼそのまま組み立て(改造点は後述)

車体キットの改造点は以下の3点です。

車体改造点②:車体側面に冷却水補給口を追加
車体への冷却水補給口の追加.車体に丸穴を開けた後下縁部を直線状に整形し帯板を斜めに差し込みハンダを盛った後にヤスリと先端を研いだマイナスドライバーで整形.蓋はEvergreen社製のプラ棒を輪切にして銀色塗装したものを貼付
車体改造点③:車端角部に手摺用切り欠きを追加
手すりは省略.
模型を見ることの多い斜め上から見ると急行用気動車の張り上げ屋根の特徴がよく目立つ.
側板と屋根の稜線は客車ほど明確ではないため車体は全体的に丸みを帯びた印象.
車体前面の尾灯かけ,ジャンパ栓、渡り板はエコーモデル製パーツ.ライトレンズはフェニックス製.タブレットキャッチヤはロスト製パーツ.気動車のタブレットキャッチャは機関車と異なり本州と同一のロストワックス製を取り付け.北海道の気動車の特徴である前面の機番表示はエンドウ製を使用.
窓サッシは透明板状に銀テープとメンディングテープの貼り重ねカッターでカットして表現
キロ26のクーラーは車体キット付属のAU13.屋上はクーラーのみのすっきりした外観.
床下機器は日光モデルのダイキャスト製.それまでのパーツとは一線を画する決定版的なものであったが現在では入手難.
キロ26の床下は冷房電源ユニット付きの1エンジン日光モデル製床下ときっと付属のパーツを使用.冷房用発電ユニットはエコーモデルの客車用を流用
エンジンおよび機関予熱機周りにパイピングを追加.一部のパイピングは銅色に塗装.消火器収納ケースはエコーモデル製ホワイトメタルパーツの取付足を切断したもの.一部の車両には床下機器にウエザリングを行なってある。
床下はマッハ模型調色塗料灰色一号で塗装.ただしエアー関連の機器は艶消し黒.
乗務員室ドア下には梯子を追加.スノープラウは真鍮板による自作,カプラーはKeedee #16.
床下を底面から見る.エンジンを繋ぐ配管,エンジンとラジエーターを繋ぐパイピングを追加
動力装置は天賞堂製パワートラックGT-1を使用.2両のキハ56に装着

以上がキハ56系4両編成の概要です.冒頭に記載したようにこの車両を最後にキット組み立ては長い休眠期間に入るのですが、完成時点で悩み今も迷っていることに特定のレイアウトを走らせることを前提としない車両にウエザリングをどの程度行行えば良いかいうことがあります。当時結局その結論は出ず、写真でわかるように今回の作品は車体にはウエザリングを施さず、一部の車両の床下に軽めのウエザリングを行ったのみで完成としてあります.

<ウエザリングに関する考察>

上の写真は石勝線開業前、札幌から狩勝峠を越えて帯広に向かう急行”狩勝”の写真です。この写真を見てわかるように気動車は編成中に検査時期の違いによる「汚れ」の異なる車両が存在します。3両目は雨樋部分もクリーム色が残る全検直後と思われる車両、2両目のキロ26は雨樋部以外の屋根に汚れがない全検からそれほど時間が経っていないと思われる車両、4両目は車体も煤けているかなり汚れた車両、先頭の車両は屋根部分が煤けたその中間の汚れといったところでしょうか。特にキハ56(58)系は張り上げ屋根のため、屋根の曲面が黒く煤けている車両は汚れ具合により車両の印象がかなり異なります。同様の張り上げ屋根の曲面部が汚れている車両は現在でも東海道新幹線で見られますがこれらは屋根の局面部の汚れは自動洗浄機洗浄することが難しいのも一因と思われます。下の写真は奥羽本線八郎潟付近を走る急行『しらゆき」の写真ですがこちらも車両の汚れ方はさまざまです。こちらも屋根部分が汚れていない比較的汚れが少ない車両、屋根と車体の張り上げ屋根部分が汚れている汚れが中程度の車両、車体全体が汚れている汚れがひどい車両の3種類といったところでしょうか。

余談ですが私は中央線沿線に住んでおり小中学生の頃は沿線でキハ58系で組成された「アルプス」を見かけることもよくありましたが中央線は山岳部を走るためその時の中央線のディーゼル急行の印象はとにかく「全体的に煤けた列車」でした。キハ65が新車で投入されたのもその頃ですがピカピカの新車という印象のキハ65を見た記憶はありません。

話を車両のウエザリングに戻します。ウエザリングの技法が体系的に紹介されたのは私の知る限り今から50年以上前のTMS 1971年4月号になかお・ゆたか氏が執筆された”ウエザリングのテクニック”という記事ではないかと思います。

この記事は副題に”実感味を一段と盛り上げる仕上げ技法”とあり、蒸気機関車のウエザリング方法が解説されています。私が今まで製作した蒸気機関車はこの記事にあるススによる燻をおこなってあります。この記事でも述べられているように確かにその効果は実感的に仕上げるという意味では絶大です。しかしその記事の作例ににあるテンダーからの水垂れ、発電機の排気部の白化等には踏み切れませんでした。その理由は確かに実際の運用についている蒸気機関車には同様の汚れがありそれを表現することで車両がより実感的になる気はするものの、特定のシチュエーションを想定したレイアウトを走らせることを想定していない(お座敷運転しかしない)車両にそこまでのウエザリングをすることに抵抗を感じたからです。一方、今まで作成してきた気動車は屋上と床下にススによるウエザリングを施しています。今回の作成したキハ56系車両では、過去に見た実物のイメージ(上に掲載した写真のイメージ)を再現して見たい気持ちがある反面、お座敷運転(組み立て式レイアウトでの運転)レベルの運転しかしない(できない)車両の車体部に排気ガスによる汚れを表現して良いかを迷った結果、一部の車両の床下に軽くウエザリングを行なったものの、車体は全くウエザリングしないままで完成としています。そしてこの車両を製作後、車両製作は中断し外国型レイアウト(メルクリンシステム)の制作に軸足を移し現在に至ります。その中で車両は当然完成品の購入になるのですが、そこで購入したメルクリンのHO車両には屋根に軽くウエザリングされた車輌とそうでない車輌があります。

最近日本では完成品にウエザリングを施した製品とそうでない製品が同時発売され価格にも差が付けられていますが、メルクリンの車両ではウエザリングのあるなしの2種類の製品が同時に発売されることもなく、カタログの説明の中にも明確にウエザリングの有無に関する記載はありません。製品にウエザリングを施すか施さないかの基準もよくわかりません。ただ、欧州の車両はそれ単体をじっくり鑑賞するというよりはレイアウト上で走行させることが前提と考えると、メーカーは上記の写真に示す程度のウエザリングであれば車両がレイアウト上で走行している時の実感味が増すとともに、そのレベルも各人の鉄道模型の楽しみ方に関わらず幅広く受け入れられるレベルと考えているのではないかと推察します。

なお、メルクリンの特約店向けの一部の製品(MHIモデル)には車体にかなりキツめのウエアリングをした製品が存在しますがその販路からして一般的な鉄道模型ファン向けの製品ではないようです。下の写真はその「キツめのウエザリングがしてあるモデル」と「ウエザリングしていないモデル」を私が製作したレイアウト上に置いたものです。確かにウエザリングされたモデルの方がより実感的な感じもしますがウエザリングなしのモデルが実感的に見えないかというとそのようなことはありません。特に運転中動きを目で追っているときはウエザリングの有無はほとんど気になりません。

下回りと車体にウエザリングが施されたBR65
ウエザリングなしのBR75

一方、米国メーカーが生産する米国型の製品は私の知る限りウエザリングをされている製品はなく、その代わりとして?Model Railroaderにはウエザリングのやり方に関する記事が頻繁に掲載されます。

欧州の雑誌(メルクリンマガジン)にはウエザリングに関する記事は皆無ですが、インサイダー会員向けの動画では給水口からの水垂れの表現等冒頭に紹介したTMSに掲載されているようなかなり高度な技法が紹介されています。アメリカ大陸を横断する鉄道はその地理的要因等により車両は汚れた車両も多くそのレベルも様々な気がします。その為アメリカではその汚れの表現の仕方はユーザーに一任されているのではないかと思います。このような状況を考えると欧米では結局のところウエザリングは個人の考え方(模型により何を表現したいか)に委ねられているという気がします。上記のTMSでもなかお・ゆたか氏はウエザリングはそれを行う前に考えることがいっぱいあると述べておられますが、列車を走らせる部隊設定をよく考え自分がウエザリングに何を求めるか明確にしてきちんと整理した上でウエザリングを実施しないとウエザリングが「限定された状況における単なる実物の汚れの再現(汚い車両の再現)」に終わってしまい、単なる自己満足に陥いってしまう危険があります。この車両のウエザリングに間してはこの辺りをじっくり考え、この作品にどのようなウエザリングを行うかを考えて実施したいと思います。

これはあくまで個人の感想ですが、日本の鉄道模型車両はひたすら実物を再現するため細密化し、細密モデルが優れたモデルであると考える一種の思考停止状態にある気もします。その中でウエザリングは自分のイメージを明確にしてそれを車両に表現するという自身の創造力が試される作業のような気がします。ただ、そこでの大きな問題はウエザリングの実施にあたり、日本を代表する鉄道模型雑誌(TMS)に50年前に掲載されたようなウエザリングの基本的なテクニックを解説する記事がほとんど見当たらないということではないかと感じます。

最後に今回の作品で床下のエンジン周りに軽くウエザリングをした写真とそうでない車両を比較した写真を示します。この程度のウエザリングであればを上のメルクリン製車両と同様効果的かつ一般的に受け入れられるレベルなのではないかと思います。なお、今後この車両に対するウエザリングの実施結果はまた機会があればこの場で紹介させていただきたいと思います。

床下にウエザリングを施した車両
主にタミヤの墨入れ塗料を使用し床下にウエザリングを施した車両

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。