165系”アルプス”と20系”あさかぜ”(4):20系客車の模型化設計
<20系客車の模型化設計>
東京都博多を結ぶ特急”あさかぜ”が20系化された当時は上り・下り各1本の運転で、多くの一等寝台車が連結されていました。当初一等寝台車はナロネ20とナロネ21が用いられいたようですが、私が小学生の頃初めて見た1963年以降の編成にはナロネ22も連結され、当初から連結されていたナロネ20とナロ20も合わせ、20系の優等車が集結した編成になりました。また、他の九州方面の列車は途中で編成が分割されるため編成中にナハネフ23が連結されていましたが、あさかぜは博多まで全ての車両が運用されるため二等寝台車は最後尾のナハネフ22を除く全てがナハネ20で統一感のある外観となっていました(時折座席車を改造した車両も連結されていましたが)。この時期のあさかぜは電源車1両を含む15両編成で運転されていましたが、模型での15両編成はさすがに長すぎるため、それを手持ち台車の数に合わせて9両編成(電源車を含めて9両編成)に短縮しました。20系客車には当然電源車も必要になり、この時代のあさかぜの電源車はカニ21でしたが、今回の製作にあたっては電源車は製作せず、当面は約40前に製作し、手元に保存してあった小高模型のペーパーキットを組み立てたカニ22を使用することとしました。20系の電源車は3種類ありますが、それぞれ荷物室の容量が異なっていたため共通運用できず使用する列車が決まっていたため当時のあさかぜには用いられていませんでしたが、製作にあたっては屋根部分の製作法を検討しなければなりませんでしたので今回は見送り後日製作しすることにしました。
そして編成は
(カニ22)+ナロネ20+ナロネ22+ナロネ21+ナロ20+ナシ20+ナハネ20+ナハネ20+ナハネフ22
の9両編成としました。
・ 車体の構造
20系用の屋根板は市販品にはありませんので車体は屋根と側板を一帯で制作する所謂ペーパールーフ構造とします。まず使用する用紙を決めますが、20系客車の窓は、特急電車や14系客車等、他の車両が窓ガラスと側板の間にシール部材があるのと異なりシール部材に相当する窓の押さえ部材が車体から出っぱっているせいか他の特急用車両の固定窓と比較して窓ガラスと側板の段差は少ないイメージです。そこで側板に使用するペーパーは厚さ約0.25㎜のバロンケント#150を使用し、その内側に窓ガラスを直接接着する構造にしました。したがって、屋根も同材質となりますが、そのままでは強度的には結構弱いので、この屋根をどのように補強するかがまず設計の検討ポイントとなります。その検討の結果、この車両では私が今まで製作してきたペーパー車両に対する補強方法を変更することとしました。今まで私が製作したペーパー車体の構造は、一般的なペーパー車両と同様、室内を作ることはあまり考慮せず、側板は長手方向にペーパーを貼り重ね、さらに上下に檜材の角棒を接着する構造としていました。一方、20系客車の屋根は車両限界を最大限利用した形状で、屋根はほぼ単一のRですので車体幅を一定に保持すれば、比較的簡単に完成後も屋根Rを保持することは可能だと思われます。また、市販されているプラスティック製品の20系を見ると、いずれの製品も一通りの室内は作られていますので今回製作する車両もさすがに室内に何もないのはどうかと思い、寝台区画に補強板を兼ねた仕切り板を設け、車体幅の保持と屋根Rの保持を行うこととしました。また、それに伴い床板のウケとなる下側の長手方向の補強を檜角材から1㎜のイラストボードを帯状に切断したものに変更しました。また側板に貼り重ねる内張は窓部分のみを切り抜き窓柱の部分も補強する構造とし、側板の反りを抑えました。その際、市販の窓ガラスの幅が17㎜であることをを考慮し、客用窓内張の逃げ幅は18㎜以上になるよう設計しました。完成後の車内には仕切り版しかありませんが、今後室内を作成しようと思った場合、簡単にできるようにしておくこともに考慮してあります。
・ 窓の寸法
20系の図面は165系と同様、機芸出版社発行の「日本の車両スタイルブック」の寸法を参考にしました。ただ、このスタイルブックには今回制作する形式のうちのナロネ22,ナロ20,ナシ20以外の車両は掲載されていませんのでその他の形式については国鉄の形式図を参考にしました。また、上記スタイルブックの図面は1/120で作画されているので模型での原寸図がありません。そのため形式図から求めた寸法でナハネ20の原寸図を書いて、イメージ通りの車体ができそうかを念のためチェックしました。
天地方向の寸法はスタイルブックの図面で全てわかるのですが,その他の窓、A寝台の小窓、号車表示,列車種別,行き先表示,ドア上の等級表示窓のついては詳細の寸法は不明です。また上記スタイルブックの図面は1/120で作画されているので図面から寸法を割り出しても誤差が大きいと思われます(上図は図面から割り出して書いてみたものです)。そこでこれらの窓の寸法は写真から決めることとしたのですが、写真によって大きさが異なって見え、なかなか寸法が決められません。部分的な写真を見ると結構大きく見えるのですが車両全体を写した写真を見ると結構小さく見えたりします。その理由は表示窓の大きさと表示窓押さえ部材の寸法(太さ)が影響しているのではないかと考えられます。この窓は所謂Hゴムという部材で車体に固定されていますがこの窓は大きさが小さいので、窓の印象を決めるにはHゴムの太さと窓の大きさの両者をトータルで考える必要があるようです。カラス口で表現するHゴムの太さは実物の縮尺寸法よりより太くなるのでそれを考慮して印象がイメージどおりになるように窓部の寸法を決める(小さめにする)ことが必要です。また、窓と押さえ部材と幕板のクリーム帯,雨樋高さの関係も全体の印象を左右します。雨樋高さはスタイルブックに詳細寸法が記載されていますが実際の雨樋はペーパーで作るので実寸より太く、また貼り付け位置のばらつきを防ぐためには位置が側板と屋根との稜線にかからないようにする必要があります。そこで、この部分については雨樋太さ、色差しで表現する窓の押さえ部材の太さと帯を記載した図面(絵)を作成し、その図からそれらの寸法を決めさらに車体と屋根の折り曲げ線の位置を決めました。また、同時に詳細寸法がわからない客用ドアの寸法や給仕室等の可能窓の中桟位置も帯と窓の位置関係等から決定しました。
最後に、最終的に決定した寸法で確認のためデッキ部分のモックアップを作成し、問題ないことを確認し、最終的な寸法を決定しました。
・ 窓の押さえ部材の表現
20系客車に対するイメージの構築ところでも述べましたがの20系客車の窓押さえ部材は外観デザイン上重要な役割を果たしています。私は過去にも20系客車を制作したことがありますが、クリームと青の塗装を済ませ、屋根の塗装も終わった20系客車の車体を見てもその車体は20系客車とは程遠いイメージです。それほどこの窓押さえ部材は重要です。
今の若い方には信じられないかもしれませんが、今から約50年前に積水金属(現KATO)から20系客車が発売された際、その製品の窓部は周囲に抑え部材の縁取りはあったものの着色はされておらず、実物のイメージとは程遠いものでした。これは同時期(その後しばらくの期間)製品化されたキハ20や103系も同様で、サッシの銀やHゴムのグレーは無着色でした。当時、9㎜ゲージ(Nゲージという名称はまだ一般的ではありませんでした)を採用すれば20系客車の15両編成も夢ではないかもと考えていた者にとってはこれはちょっと興醒めでした。一方、この頃発売され今年で50周年を迎えるメルクリンZゲージのUIC-X客車は銀色に着色された窓ガラスが車体に嵌め込まれている現在の製品と同じ構造でした。さすがに今見るとボディーとサッシの間の隙間は目立ちますが遠目には実物のイメージは再現されていました。思えば鉄道模型に限らずレゴブロック等、海外(欧州)の「おもちゃ」を工業製品としてみた場合、現在でも欧州の製品の技術力は日本のそれを上回っているような気がします(例えばレゴブロックのはめた時のしっくり感やメルクリンの車両の窓ガラスの平面性等)。日本の技術を卑下する気はないのですが、私の感覚ではこれは欧州における「おもちゃ産業」の伝統と地位、生産数量の多さが関係しているような気がします。日本は今年鉄道150年を迎えます日本の鉄道の開業年は1872年であるのに対し、ドイツでの鉄道の開業はそれより30年以上前の1835年です。この鉄道の歴史の長さも関係しているのかもわかりません。
それはさておき、ペーパーを用いての自作車体ではこの押さえ部材の縁の部分を立体的に制作することは難しく、私の技術力では窓の周縁に烏口で色差しする方法しか思いつかず、製作にあたっては烏口による色差しが前提となります。前述のようにこの部分は20系客車のイメージを左右するところですので果たしてこれで良いか懸念していましたが、手元にある真鍮バラキットを組み立てたオロネ10と車体を真鍮板から自作したオロネ10を比較してみたところ、窓周縁部が立体的ではなくてもそれほど違和感はない(キットのプレスで浮き出た周縁部はあまり目立たない)ことがわかりました。車体をペーパーで製作した場合、下地処理等により金属製の車体より窓周縁部のエッジは少しダレが生じ、また多数の窓にばらつきなく色差しする必要がありますがそれでもなんとか大丈夫であろうと考え、押さえ部材の表現は烏口による色差しで進められると判断しました。
・ 仕切り版
前述のように20系客車のイメージとして車体の平滑さを上げましたが、車体の断面方向に多数の仕切り板を設けそれにより車体の補強を行うことは従来の長手方向主体の補強に対して車体外板の平面製を損ない、20系の特徴である編成の統一感や車体の滑らかさを損なうのではないかという懸念がありましたが仕切り板の幅を正確に作り正しい位置に接着すれば影響は少ないと考え、仕切り版での補強をきめました。その形状はデッキ部と客室の仕切り、トイレ、洗面所部の客室の仕切り、寝台区画の仕切りを数種類にパターン化した形状を決め、各パターンの必要枚数を算出しました。これらの仕切り板は側板より厚めのスノーホワイト#400(厚さ約0.4㎜)という用紙を使用しました。
・ 床下機器
20系客車の床下機器は一見すると各車とも同じように見えますが車内設備によって少し異なります。食堂車を除き各車とも取り付けられている機器はほぼ同じですが、客室の設備により床下から天井(床面)に立ち上がる冷風の風洞位置が異なるためそれに応じてクーラーの位置が異なり、それに伴い機器の位置に差異があります。その差異は風導がWC側(デッキと反対側)に偏っているナロ20、ナロネ22と風洞位置がほぼ中央にあるその他の車両でクーラーと水タンクの位置が入れ替わっていることです。機器配置は165系と同様写真から図面化しましたが、形式図から冷房風導の位置はわかるので、クーラーの位置は図面がなくてもほぼ正確に決めることができ、そこを基準に各機器の配置を決めていきました。なお、ブレーキシステムは当初は旧型客車と同じASブレーキシステムが採用されていましたが途中で電磁自動空気ブレーキに改造されていますので写真を見るときには撮影時期に注意が必要です。私はブレーキ改造後の姿としましたのでそのためナハネフ、カニの車体スカート部にはMR管のコックとエアーホースを追加してあります。改造後は蒸気機関車での牽引は不可能になってしまったようですが。床下機器の図面化は前述のように取り付けられている機器はほぼ同じなのでナハネのみ側面図を作成したの形式は平面図のみとしました(投影法が間違っていますが)。
床下機器はほとんどプラ製角材、プラバン、ペーパーにより製作することとし、市販パーツはほとんど用いておりません。とは言っても20系に使用できるパーツはエアータンク程度しかありません。たとえパーツがあっても車体の形状が単純で金属製の車体より全体的に線が太い(断面ののエッジが鋭くない)ので、あまり床下を細密化してもバランスが取れなくなるという気がします。またパーツを利用しないことで車両を軽量化できるというメリットもあります。実はこの車両を製作する前に手持ちのバラキットを組み立ててホワイトメタルパーツを取り付けた東海道本線の夜行急行をイメージした客車を8両製作し、ほぼ同時に組み立てた珊瑚製のキットを用いたC59に牽引させようとしたのですが全くの牽引力不足で運転できまず、どうするか思案中です。近ごろ車両の運転はゴムタイヤ付きのメルクリン車両で楽しんでおりましたのでこれは全くの見落としでした。近頃の高価な完成品だったら牽引可能なのでしょうか。
以上で165系と20系の模型化設計が終わりましたので車両の製作に入ります。次回以降、製作過程を写真を主体に列車別に紹介させていただきます。