真鍮車体とペーパー車体・自作における両者の比較(2)-細部の表現-

<先頭部(おでこ)の製作法>
私が製作しているいわゆる”国鉄型”の車両の先頭車の一部はいわゆる”半流線型”と言われる車両で先頭部には通称(俗称?)”おでこ”と呼ばれる曲面部があります.まずはこの部分の製作法について両者を比較してみたいと思います.ペーパー車体の場合,私はこの曲面部はバルサ材で製作しています.屋根板を使用した車体は屋根板の先端部を局面に仕上げる方法もありますが私はより加工しやすいバルサ材を使用しています.

前頭部の曲面をバルサブロックの成形で作成したペーパー製車両

上の写真はペーパー製の車両で前面の曲面は全てバルサブロックを接着して成形したものです.屋根は157系の車体のみペーパールーフで製作し,その他の車両は屋根板を使用しています.曲面部は157系のように曲面のみで構成される車両は比較的簡単に製作できますがクモヤ791やクハ711のようにヘッドライトや行き先表示板がある車両はバルサブロックに穴を開たり切り欠いたりして別パーツを取り付けた後隙間をパテ埋めして仕上げる必要があり手間がかかります.ただ最近では各種のパテが販売されていますのでその中から適切なものを選択すれば以前に比べれば比較的容易に製作することが可能です.

前頭部の曲面を加工中のクモヤ791

一方真鍮車体ではこの曲面はプレス製パーツを使用しない場合には前面側に設けて切り込みを入れながら曲面部を製作し,隙間をハンダで埋めて整形する方法で製作しています..ペーパー製車両に使用するパテとは異なり隙間に盛ったハンダは一瞬で固化してヤスリ加工が可能になりますので整形は比較的短時間で行うことが可能です.ただ展開時の寸法が適切でないとヘッドライト等の取り付け時にハンダが溶解して再成形することになり非常に手間がかかります.また気動車や機関車の曲面の形状は比較的単純ですが電車の前頭部は屋根の局面の開始点が気動車より後方にありますので展開寸法の決め方が複雑になります.私はまだ電車の前面の曲面を製作したことはありませんが,今後製作する場合には何らかの木型のようなものが必要ではないかと考えています.

前頭部を加工中のキハ52

.私が作成した真鍮製車体の先頭部の中には市販の前面パーツを使用した車両がありますこの方法は金属車体で先頭部を製作する場合,最も簡単な方法ですが,前面パーツは最近はほとんど入手が不可能です.車両の前面は作品を鑑賞する場合は最も注目される部分の一つですが市販のほとんどの製品が自社の完成品やキットのパーツを分売しているものですのでそこにパーツをそのまま使用すると,前面が市販の製品(キット)のイメージになってしまいます.

手元にある未使用の前面パーツ.EF65はつぼみ堂製,湘南型は多分いさみや製,東海型はカツミ製

今まで紹介した金属製車両(下の写真)ではキハ25とクハ711にパーツ使用しています.なおクハ711の前面は165系用を改造しています.

キハ25はフェニックス模型店製,クハ711はカツミ製を改造したパーツを使用して自作した金属製車体

パーツを使用する場合を除いてペーパー車体も金属車体も概略の形状を作成して削って形を整えていくという工程は変わりません,ただペーパー車両の場合にはヘッドライトの穴あけ加工を例にとるとば金属穴より精度は劣り周囲にめくれ(ささくれ)が出ますので結構細かい作業が必要で,仕上げ工程はパテ埋め→乾燥→整形の繰り返しになりパテの乾燥待ち時間も発生しますので結構時間と根気が必要な作業となります.
<屋根の加工>
国鉄車両のパンタグラフ搭載車の中にはパンタグラフ折りたたみ時の架線との空間距離確保,小断面トンネル内で本体とパンタ鍵外し機構との干渉を避けるパンタ上昇量確保を目的でパンタグラフ部分が低屋根構造になっている車両があり,この低屋根部分がある車両は屋根部の加工が必要となります.この加工に最も手間のかかるのは屋根板を使用した車両で,低屋根部分を所定の形状に削る作業が発生します.私は彫刻刀で屋根板を削り耐水ペーパーで仕上げていますが特に交直両用電車のような低屋根部分の長さが長い車両は整形に手間がかかります.一方ペーパールーフ車体では低屋根部にT時型の斬り込みを入れて屋根のカーブを変化させます.また金属製の車体では車体の曲げ終了後低屋根部分の屋根の平面となる部分を切り取って切り取った部分に別の板を張って低屋根部分を作成します,屋根板の削り作業と比較するとこれらの工程は比較的短時間で行なえます.

低屋根部分を加工中の屋根板

もう一つ屋根板を使用したペーパー車体で難易度が高いのは気動車屋上の排気管のように屋根板に細かい加工が必要な部分です.これも細かい木工作業が必要で真鍮製車体やペーパールーフ農式のペーパー車体より加工に手間がかかります.

金属車体の屋根に設けた排気出口

<その他のディテール>
その他,車体の直接加工が必要なディテールの加工法を比較してみます,まず車体の空いた点検口ですがペーパー車体の場合私は鉄筆の筋彫りで表現しています.一方真鍮車体の場合には点検口の部分を一度切り抜き裏打ち後蓋部材をはめ込んでいます.ただ私の作例ではハメ込み部の隙間がばらついており私の工作力不足が露呈しています.この作例は比較的大きな点検口ですが,さらに小さいドアエンジンの点検口や非常コックの蓋等はこの点検口より小さく難易度はさらに上がりますので私が製作した車体ではキハ55系の冷却水補給口の蓋も含めて社たの点検口は全て省略しています.
また下の写真のモハ711の機器室は,ペーパー車体では車体に鉄筆で筋をつけて周囲にペーパー製の枠を貼ってあります.一方金属車体では片方の稜に面取りを設けた真鍮角線を積み重ねて整形した部品を車体の開口部に嵌め込み0.1㎜の真鍮板で作成した枠をハンダ付けしてあります.こちらは工作力不足で線が乱れていますが金属製の方が立体的に感じます.また市販のパーツを使用する場合,パーツが真鍮製の場合,ペーパー車体の場合は瞬間接着剤で取り付け金属車体の場合はハンダ付けで取り付けます.ホワイトメタル製の場合はどちらも瞬間接着剤で取り付けています.また下の写真の号車札入れと列車種別表示板入れはどちらもエコーモデル製のパーツを使用していますががペーパー車体への取り付けはサーフェサーで行っています.サーフェサーの量には注意が必要ですが固着後塗装を行えば強度上は問題ありません.

ペーパー製クモハ711 901の車体ディテール
金属製モハ711の車体ディテール

モハ711の屋上機器はペーパー製車体はプラ板を積層したものやEvergreen社製のプラ素材を削り出して製作し,金属製の車体では真鍮版を曲げてハンダで組み立てたものを取り付けています.

金属製モハ711のパンタ周り
ペーパー製クモハ711 901のパンタ周り

上の写真で紹介した金属車体に使用した金属製の自作パーツはペーパー車体にも取り付けることは可能です.ただ私は過去製作してきた車体も含めてペーパー車体に金属製の自作パーツを取り付けたことはあまりありませんでした.その理由を振り返って考えてみるとこれは一連のペーパー車体の製作工程にある意味異質な金属加工の工程を持ち込みたくないという心理が働いていたようです.また金属車体とペーパー車体を比較するとペーパー車体では下地処理の際塗料を塗り重ねることによりエッジのシャープさに差があることは事実でエッジがシャープに仕上がる金属製のパーツの使用にあたっては全体的な印象も考えながら最適な製作法を検討した方が良さそうです.なお,ペーパーの材料特性上ペーパーは構造上ペーパーのエッジが露出するパーツや非常に小さな部品の制作には向きません.下の写真のモハ164の低屋根部のファンデリア用の空気取り入れ口は金属またはプラバンで製作した部品を使用した方がシャープに仕上がりますし,パンタ鍵外し装置のような細かい部品はそもそもペーパーでの製作は不可能です.

ペーパーで製作したモハ164の低屋根部分のファンデリア用ダクト
ペーパーで製作したモハ164のパンタ鉤外し装置

<まとめ>
以上,今まで私が製作してきたペーパー製車両と金属製車両を例に両者の比較をしてみました.今回の記事が車両の製作にあたって何かの参考になれば幸いです.思えば私が車両の自作を始めた1970年初め頃は子供(学生?)向けの模型雑誌の鉄農模型車両の製作法はペーパー製の車両だけではなく真鍮製の車両の製作法も掲載されていました.ただやはり金属加工のハードルは高く,金銭的にも時間的にも比較的手軽にできるペーパー車体の車両製作が主流であった気がします.

”模型と工作”に掲載されていた金属製車両の作り方(1970頃)

ただ,最近ペーパー製の車両と金属製の車両を製作してみて改めて思うのはペーパー製車両の製作はそれほど簡単なものではなく紙の加工だけでなく木工の技術や金属加工の技術もある程度のレベルの工作が要求され,一概にペーパー車体の方が作り易いとは言えません.どちらを作り易いと感じるかは工作力や経験だけではなく自身の性格も関係するような気がします.またどちらを選択するかにあたり金属加工時の切粉の処理や騒音,ペーパー車体製作時の下地処理用塗料の臭気等,周囲の環境や自分自身の身体への悪影響も配慮すべき項目です.シンナー等の有機溶剤は体に有害なものということは広く知れ渡っていますがハンダも鉛フリーハンダ以外は有毒ガスが出ますので注意が必要です.
以上,最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮車体とペーパー車体・自作における両者の比較(1)-耐久性・窓抜き・曲げ-

今まで私は主にペーパー製車両の紹介をしてきましたが,最近久しぶりに真鍮製車体の車両の自作も行いました.そこで今回は両者を各部の表現のしやすさと工作の難易度の観点で比較をしてみたいと思います.なお比較に当たっては優劣をつけるのが目的ではなく,今までの工作の経験に基づき両者の特徴をできる限り客観的に比較してみたいと思います.なお,私の工作レベルは経験だけは長いものの雑誌に発表されているような作品のレベルには遠く及びません.あくまで特に器用でもない私がかつて雑誌等に掲載されていた製作法の解説記事とほぼ同一の方法でペーパー車体と真鍮車体を製作した場合の一例になりますのでご承知おきください.
⚫︎ 車体の耐久性
両者の耐久性を比較すると当然金属車体には反り等の経時的な形状変化は発生しません.一方ペーパー車体の反り等の変形が懸念されます.しかし経験上はそれほど心配ない気もします.下の写真は1980年前後に私が製作したペーパー車体ですがそれから約40年経過した今日でも車体に大きな反りや裾絞り部等の変形は見られず,表面も製作時の状態をほぼ保っています.ただしこの車体は40年間使用していた(時々走らせていた)車体ではなく30年ぐらいは走らせず箱に入れて保管していた状態です(緩衝材には包んでいません).

約40年前に製作したペーパー車体の現状.ただし使用は10年ほどで以降は箱に入れて保管しておいたものです.

これらの車体は屋根板を使用していないため屋根板を使用して製作した車両の耐久性は不明ですが,車両に使用している当時市販されていた木製の床板に特にヒビや狂いなどはなく現在でも車体にしっくりとはまります.一方ペーパーのエッジ等には写真に見られるように雨樋や妻部等,用紙の断面が露出しているところで紙の層が剥がれてしまっています.これらの車両は30年以上箱の中で保管されていましたがもしこの期間使用(運転)し続けていたら破損の機会はかなり増えるとともに修復にも手間がかかると考えられます.このようにペーパー車体の方は金属車体に比較してより丁寧な扱いが必要で,破損を防ぐため紙の層が露出する部分は瞬間接着剤を染み込ませて固める等の対策をしておいた方が良いと思われます.一方金属車体は製作当時の状態を長年保てるかというとそうでもありません.下の写真は1985年ごろに製作した車両ですが,塗装面が局部的に荒れてざらついてきています,またシミ状の斑点も認められます.

約40年前に製作したEF64の塗装面.塗装の剥がれはないものの表面がかなり痛んできています.

一方ペーパー車体の表面にはこのような表面の荒れは一切見られません.ほぼ製作時の状態を保っています.

この車両を製作した当時はまだサーフェサーのスプレーなどなく模型店で広く販売していた「豆ラッカー」という名のラッカーのラインナップにあったサーフェサーを筆塗りしています.

この金属車体の表面の荒れは当時の下地処理(車体の洗浄)が不十分であった可能性があります.当時車体は食器洗い用の粉状のクレンザーで汚れを落とし(磨き),食器洗い用の洗剤で脱脂をしていたと記憶していますが.表面の汚れ(酸化膜)が十分落ちていなかったことが考えられます.このあと1990年頃に製作した車体では工程にトイレ用洗剤による洗浄工程を追加し,下塗り塗料をマッハ模型製のエッチングプライマーから同社製のシールプライマーに変更しましたが,こちらは40年近く経った現在でも状の写真のような現象は発生していません.現在は刺激の強いトイレ用洗剤は使用せず,模型店で入手できる真鍮用洗浄剤を使用していますが,このような化学的処理による洗浄工程を追加する等,適切な下地洗浄処理を行なえばこの問題は改善できているという可能性があります.

1990年ごろに製作した客車の現在の塗装面

一方マッハ模型製のエッチングプライマー(緑色の液体)を使用した車体は塗膜の局部的な荒れはなくても全体的に気のせいか表面がざらついているように感じます.ただ当時塗装は手動式の「ハンドスプレー」を使用していましたので塗膜の厚さがエアブラシによる塗装とは大きく異なっている可能性があります.またエッチングプライマーはいわば化学反応で塗膜の食いつきをよくする塗料ですので塗布量や上塗り塗料の膜厚等の塗装条件がその後の塗膜の状態維持に影響を与えるのかもわかりません.模型店で販売されている製品はどこかの塗料メーカーの製品を詰め替えていると思われますが,塗料メーカーのWEBサイトを見ると使用条件は結構細かく規定されているようです.

1981年にバラキットを組み立ててエッチングプライマーを塗装後ラッカー塗装した客車の現在の状態

このように金属車体も手荒に扱えば車体の変形はなくても塗装が禿げてきますので取り扱いに注意が必要です.金属車体の場合は一度塗装を剥がして再塗装もできますが,上記のエッチングプライマーは時間が経つとアンカー効果のせいかシンナーにひたしても容易に剥離できず耐水ペーパー等で機械的に落とす必要があり再塗装には結構手間がかかります(逆に考えれば塗料と素材を密着させる大きな効果があるということかもわかりません).最近は密着バインダーという名称の下塗り剤が販売されていますが,こちらは素材との電位差を利用して塗料と素材の密着性を上げているようで,詳細はよくわかりませんが上記のプライマーとは塗料と素材表面の密着性を上げる方法が異なるようです.私は最近このタイプの下塗り剤を使用しています.効果はまだよくわかりませんが模型用に販売されているものも大手の塗料メーカーの製品のようですので正しい条件で使用していれば問題発生の可能性は少ないと思われます.またアンカー効果がないと謳ってますのでもしかしたら再塗装の際の剥離はしやすいのかもわかりません.いずれにしても劣化時の現象は違えどペーパー車体も金属車体も塗装時に適切な処理を行い丁寧に扱えばえば実用上は十分な耐久性があると考えられます.ただ繰り返しますが破損による廃車を防ぐためにはペーパー車体の方がより丁寧な取り扱いが必要なようです.
なお真鍮車体とペーパー車体の比較ということからは少し脱線しますが,塗装面の経時的変化という意味ではウエザリングにも注意が必要です.下の写真は1980年代前半に製作したEF65の屋根上です.当時の実物車両はパンタグラフのスリ板の材質の影響か使用しているグリースに影響かはわかりませんが,屋上には黄土色の汚れがあり,特に長距離運用に就ている機関車でその汚れが顕著でした(国鉄の赤字拡大により洗浄周期が伸びていたのも理由かもわかりません),そのため当時製作した車両は黄土色のパステルで屋根に結構きつめのウエザリングを施たのですが,カビか埃の影響かは不明なものの現在ではその表面が非常に見苦しくなっており,これを元の状態に戻すには再塗装が必要だと思われます.パウダーによるウエザリングはエアブラシ塗装に比較すると非常に簡単ですが使用する粉体には注意した方が良さそうです.

1982年頃に塗装,ウエザリングをおこなったEF65PFの現在の姿

⚫︎ 各部の表現
<窓とドアの表現>
まずドア部分ですが下の写真のペーパー製165系は約0.25㎜厚のケント紙を2枚重ねて抜いたたドア開口部にドア部材を接着しています.金属製の711系は厚さ0.3㎜の板にドア部材をハンダ付けしていますが,前回の記事で紹介したようドア開口部内側にも面取りを施して板厚の薄さを補っています.実物のドアは開口部周囲にRがついており引き戸と開口部の間には隙間があるため実物を見た際には陰影が目立ちますが,模型の場合はその辺りは長年あまり問題にされておらず,製作方法(得られる結果)では両者にさほど差はありません.もしドア周囲の形状を正確再現しようとするのであれば開口部周囲に面取りをつけやすい金属車体の方が簡単に形状を再現できると思います.思えばこれまで私が見た量産品でドア部分尾表現にこだわった製品はあまりみたことがなくドアの開閉が可能なHOスケールの製品も見たことがありません.駅に到着して発車するシーンをレイアウト上で再現する場合でも車両のドアは閉じたままです.私の記憶では10年前後前にMärklin社のRail Carでドア部に液晶画面が嵌め込まれておりドアの開閉を画像で表現する製品を見た記憶があります.ただ海外の製品でもデジタル制御でパンタの上下ができるようになってもドアの開閉がメカ的にできる製品は出現せず,上記の液晶による方式もその後見かけません.自作でもは開閉機構が複雑で編成ものでは数多くの開閉機構が必要となるため私のようなものが自作するハードルは高いと思われます.我々ユーザーも「実感」を語る中でドアの開閉はタブー視している面があり,細密化の中でそれに伴いドア部は昔ながらの表現方法が続いている気がします.

ペーパー車体のドア周りの一例
前の記事のキハ55と同じ加工を行った金属製711系のドア周囲.使用した素材の板厚は0.3㎜

<窓部の表現>
私が車体に窓を作る時間を比較するとペーパー車体では半日もかかりませんが真鍮車体ではどう頑張ってもやすりがけ作業を含めて半日以上はかかります.窓抜きをするだけであれば作業時間を考えると圧倒的にペーパー車体の方が時間はかかりません.ただ窓の隅にRがついている車両ではペーパー車体には特有の難しさがあります.私がペーパー車体の自作を始めたのは1970年ごろでしたが,その頃から現在までペーパー車体の窓の角Rは丸ノミで抜くのが一般的で最近では鉄道模型の窓抜き用に特化した製品も発売されています,

TMS誌に掲載されていたペーパー車体の製作法,当時から窓角のRは丸のみを使用することが解説されていました(1965年6月号)
鉄道模型用に販売されている丸ノミ

一方ペーパー車体では直線部はカッターナイフで切断します.この場合,カッターと丸ノミで刃先の角度が異なること,直線部とR部で紙の繊維の切断方法が異なる(直線部はカッターを引きながら切断するのに対しR部は紙の繊維を表面と垂直方向に押し切る)ため,両者の断面に微妙な差が生じます.また直線部とR部が滑らかに繋がるようにするために丸ノミでの切断時にはノミの慎重な位置決めが必要で,特にノミによる曲面部が直線部より外側にはみ出すと修復が難しくなります.真鍮板を窓抜きする場合は糸鋸作業で罫書き線を外側に逸脱しなければ(しないことに注力すれば)ヤスリ仕上げで直線部とR部を滑らかに繋げることができますがペーパー車体では窓一つ一つで丸ノミの正確な位置決めが必要になります.この作業は慣れればそれほど失敗することはありませんが数が多いので作業時には集中力の維持が必要で多少のばらつきが生じます.上の写真の165系でも窓の左下にRが直線部とスムーズにつながっていない窓があります,私はこれまでの真鍮車体の製作で窓抜き時に切断部が罫書き線からはみ出してでGame Overになったことはありません(罫書き線からの逸脱が原因で窓間隔を調整したことはあります)がペーパー車体では製作を再開した直後は失敗による作り直しが多発しました.このようにペーパー車体の窓抜きは一見簡単そうですが窓隅にR のある車両の窓抜きは侮れません.窓抜き作業に必要な集中力は一瞬で結果が決まるペーパー車体の窓抜きの方が必要であるような気もします.
<屋根の形状>
真鍮製の車体は屋根と側板を1枚板から製作するのが一般的です.一方ペーパー製の車両では屋根の製作法には金属車体と同様側板と屋根を一体化して曲げる”ペーパールーフ方式”と屋根板を使用する方法があります.このうち同じ一枚板から曲げる金属車体とペーパールーフを比較するときちんとした当て板さえ用意すれば金属車体の方がある意味簡単で綺麗に曲げることができる気もします.その理由は多分素材の「内部構造」に依存していると思います.金属は素材が均質で曲げた際には両側の表面(内側と外側)に引っ張り力と圧縮力が働きその力がバランスした面(圧縮力も引っ張り力もかからない面(中立面))で曲がりその位置は一定です.しかし紙は繊維質が絡まったものですので紙の種類,含水量(作業時の湿度)や力のかかる方向により変形量が異なります.そのためペーパールーフ方式では曲げ時に紙の目(繊維が並んでいる方向)を曲げ線と並行とし,紙の繊維の方向と並行として裏に筋を入れて曲がる位置を一定にして曲げ作業を行っても材料が均質でないという根本的な特性は如何ともしがたくどうしても曲げに乱れが生じてしまうのではないかと思われます.ペーパールーフで製作した下の写真のサロ157にも髷の乱れが見られます.もちろん習熟度や作業の手順により綺麗な曲面を得ることは可能ですが紙の場合上記のように紙の種類や湿度の影響もありますので慎重な作業が必要です.一方金属車体は適切な曲げ時当て材を製作し,それに沿って曲げれば板は理屈通りの位置で曲がりますので曲げが均一となります.なおどちらの材質も中央部の曲げは手で曲げる必要がありますが,金属車体でも力はいるものの下にゴム板を敷いて曲げ力(押し付け力)を分散しながら曲げれば比較的容易に所望の局面を得ることができます.一方市販の屋根板を使用する方式は比較的簡単に綺麗なカーブを得ることができますが種類が限られていること,木材の目止めを行う工程が必要で手間がかかることが弱点です.ただ昔と比較すれば現在では下塗り用の塗料や目止め材は各種の製品が販売されておりますのでその中から適切なものを選択すれば以前よりは作業がやり易くなっているような気がします

ペーパールーフ方式を使用したペーパー製のサロ157
真鍮製車体のモハ711
屋根板を使用したペーパー製のクハ711 901

<車体の裾の曲げ>
私は車体の裾絞りはペーパー車体の場合は折り曲げ線に裏側から鉄筆でスジをつけたのち定規で抑えて曲げ起こしています.一方真鍮車体では裏への筋彫りは施さず曲げ部に両側にあて木を当てて曲げています.

裾の曲げを行っているモハ711

ペーパー車体の場合下の写真のように下手をすると鉄筆でつけた筋の部分に稜線が現れてしまい実感を損ねます.正直この曲げは私には難しくいまだに満足のいく結果はなかなか得られていません.一方真鍮車体の方は稜線部をエッジのあて木に挟んで曲げただけですが比較的良好な結果が得られています.もしかしたらペーパー車体も金属車体と同じ方法で曲げれば良い結果が得られるのかもわかりませんがこの方法はまだ未確認です.

ペーパー製のクハ711 901の裾曲げ部.稜線が目立ってしまっている.
上の写真の方法で裾曲げを行った金属製モハ711の車体

以上,車体製作の基本工程の抜き・曲げ作業についてペーパー車体と金属車体の工作の留意点と結果を私の作品を例に紹介してみました.何かの参考になれば幸いです.これは私の感想ですが実際に作業をしてみるとペーパー車体は手軽にできるように思えますが良い結果を得るためには慎重な作業を要求されるところがあります.一方金属車体は適切な治具や工具を製作して作業すれば均質な車体が量産できるような気がします.
次回は細部の工作について両者を比較してみたいと思います.最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮板から作った車輌 (2) : キハ55・キハ26(キロハ25)・キハ60

完成した準急(急行)用気動車3連

前回紹介させていただいた真鍮板から自作したキハ25・キハ52は私にとっては久しぶりの真鍮板からのスクラッチビルドによる車両製作でした.真鍮板からの車体の製作は30年以上前に一時期行ったことがありますが,製作開始時に手元には当時製作した車両が数両あったものの具体的な製作過程の記憶は殆んどなく,そのためキハ25・キハ52の製作にあたっては過去にも参照した雑誌の真鍮製車体の製作法の記事を頼りに製作を始めました.しかしその製作を開始した時点では果たして自作でバラキットを組み立てたレベルの車両が真鍮板から製作できるかについては全く見通せず,早く完成させて結果が見たいということもあり記事の製作法の内容のままかなり急いで製作を進めてしまった感があります.結果,何とか鑑賞に耐えられるレベルの車両は製作することができましたが多少の課題も発生しましたのでその製作結果を踏まえてキハ25.キハ52と共通点も多いキハ55を代表形式とする準急(急行)用気動車3連を製作しました.そこで今回その車両と製作過程の変更点を紹介させていただきます.

<型式の選択>
キハ55をはじめとした準急用気動車は軽量化を目的としたキハ17等の小型車体から標準サイズの車体へ移行していく過渡期に製造されたため車体には色々な形態があります.具体的には1956年製の1-5は車体が大型化されたもののその他の部位はキハ17の面影を残し,妻板側稜線にもRがつけられた車体が登場当時の姿で.その後1957年にタイフォンの位置や前面窓サイズが同時期に製造が開始されたキハ20と同一となり,その際妻側のRも廃止されました.さらに1958年にはいわゆる”バス窓”が電車と同じ1段窓となった100番台を名のる車体となりました.このように準急用気動車はわずか3年の間に印象が大きく変化していきますが,最終的に機関をはじめとした下回りは改造により全て同一となり,そのため保守作業に大きな支障がなかったせいか後年になっても初期ロットの車両が廃止されることはなく,全てのタイプの車両を80年台まで各地で見ることができました.また元々の用途が準急・急行用のためキハの他に窓配置が異なるキロ,キロハが存在しており,これらの車両も普通車に格下げされて80年代始めまでその活躍する姿を見ることができました(キロハは1975年位まで).そのため私が今まで製作した車両等が活躍していた年代にはまだ殆んど全てのタイプの車両が存在していたためどの形式を選択しても手持ち車両との年代的な矛盾はありません.

越後川口駅に停車する飯山線のキハ55


前述のように準急用気動車の側窓の形態は”バス窓”と”1段窓”の2種類がありますが”バス窓”は上窓がHゴム支持となっていますので私のような工作初心者にとってはハードルが高いため,1段窓の車両を製作することとし,まず代表形式のキハ55の100番台を選択し,次ににキハ26の300番台(306〜)を選択しました.そして最後の1両は大出力機関を搭載した試作車キハ60としました.キハ60は1959年に大出力機関を搭載した試作車として登場しましたが試験終了後は機関を水平対向エンジン(横型エンジン)のDMH17Hに換装し,房総方面で活躍していました.車体は客用ドアが外吊りドアである以外キハ55とほぼ同じ形態(後に通常のドアに改造)ですが,車体裾の高さはキハ58やキハ35等横型エンジンを装架した車両と同一で,車体に対する窓位置(塗り分け線に対する窓位置)が他の車両とはやや異なり,よく見ると雰囲気が異なります.そしてこの車両も車体の形状は特殊なもののが下回りは他の横型エンジン装備車とほぼ同じで保守作業に大きな支障がなかったせいか早期に廃車となることはありませんでした.製作する型式を選択するにあたって3両の形式を全て異なるものとし,さらにそのうちの2両を数の少ない所謂”珍車”とすることには多少抵抗はあったのですが,キハ55とキハ60の車体は遠目にはほぼ同一形態でありながらよく見ると細部に差があるというのもまた面白いのではないかと思いこの3形式を選択しました.

<外観上の改善点>
前作からの改善点は以下の2点です.
① 客用ドア部
鋼製車体の窓周囲のテーパーの表現については前回製作した車体でも留意しましたがドア部分は断面形状に特に留意せずドアの外径を切り抜いた部分にただ裏からドアを貼り付けるだけでした.しかし今回完成した車体を見ると車体表面とドアの段差が少ない気がします.実車はドアの面は窓ガラスの面より奥にありますが,窓ガラスをはめ込み式としない自作車体ではペーパー車体でも真鍮製車体でも窓ガラス表面とドア表面は同一面となります.

山形駅に停車中の仙山線の普通列車.国鉄民営化前は常磐線以外に普通列車用の交直両用電車はほとんど配置されておらず伝毛区間でも数多くの気動車列車が見られました.

バラキットでも自作車体でもガラス表面とドア表面は同一面なので,段差が少ないと感じる理由は今まで製作してきたバラキットの側板の板厚が殆んど0.4㎜であったのに対し,今回使用した真鍮板が0.3㎜厚であるためでこの差は側板お厚さの差ではないかと思われあると思われます.下の写真は私が以前0.4㎜の真鍮番を用いて製作したキハユニ25と今回製作したキハ25のドア部の写真ですが,わずか0.1㎜の差でありながら印象が結構異なることがわかります.この段差のスケール運方は不明ですが,違和感があるのは実物と異なるからではなく,今まで見慣れた車両と異なるということが理由であるようにも思えます.

車体に0.4㎜の真鍮版を用いたキハユニ25と0.3㎜の真鍮番を用いたキハ25

この”段差問題”は車体の板厚を0.4㎜に変更すれば解決なような気もしますが当然重量が増えて曲げ等の加工性も悪化します.また2段窓を今回キハ25で用いたような方法で表現しようとすると2枚重ねした部分の板厚が厚くなり金属車体のメリットが失われるような気もします.一方実物の窓の周囲は断面の引き戸側(内側)にもRがついており,ドア周囲の断面形状は円柱に近い形となっています.そこで今回は客用ドアを貼り付ける前の状態で側板の表面と裏面のドアの周囲にヤスリでテーパーをつけてからトアを貼り付けてみました.この結果が下の写真ですが,右側のキハ25と比較すると効果が認められます.なお,ドアを貼り付けると面取り部にハンダが流れてきますのでそのハンダを細いキサゲで確実に除去する必要があります.

前作のキハ52とドア裏面に面取りを施したキハ26のドア部分

② ”おでこ”の形状
下の写真は最初に製作したキハ25とキハ26の写真です.影の具合から側面から見た時の”おでこ”の形状がキハ25はキハ26に比較して”なで肩”になっているのがわかるかと思います.実車のこの部分のRは小さく,電車のようにRの後方が前面に向かって傾斜していませんので斜め上方から光が当たると影になる部分が比較的大きくなります.

前作のキハ52と今回製作したキハ55の”おでこ”の形状の違い
“真鍮板から作った車輌 (2) : キハ55・キハ26(キロハ25)・キハ60” の続きを読む

真鍮板から作った車両:キハ52とキハ25

”真鍮板から車両を作る”と題してこれまで製作の過程を紹介してきたキハ52・キハ25が塗装を終えほぼ完成状態となりましたので改めて紹介させていただきます.その製作過程を紹介した記事の中で,私は車体の「光の反射具合」を考慮することが作品が実感的か否かに影響を与えるのではないかと考え,設計や製作の中ではその点に留意して製作を行いましたが,車体の光の反射具合は塗装して初めて結果が明らかになります.そこで今回はその点に注目して紹介をさせていただきたいと思います.

車体の表記を残しほぼ完成状態となったキハ52とキハ25

・ 作品の概要
<キハ52>
キハ52の車体は前面も含めて全て0.3㎜の真鍮版を使用しています.床板は0.8㎜の真鍮板を使用しており,床下機器は日光モデルのダイキャスト製の製品とフェニックス模型店のホワイトメタル製のパーツを混用しており,動力は天賞堂製のコアレスパワートラックll,台車(DT22)はエンドウ製を使用しています.パワートラック付属のウエイトは未使用で重量は約310gで,平坦線であれば無動力のキハ25を牽引しての走行が可能です.寒冷地仕様として先頭部には複線用のスノウプラウを取り付けました.カプラーは天賞堂製のkadee #16タイプを使用しています.床下機器は以前組み立てたバラキットの素養した残部品を使用しているため厳密には実車のとおりではありません.

<キハ25>
キハ25の車体構造はキハ52とほぼ同一ですが,こちらは前面にフェニックス模型店製のプレス製のパーツ(1980年頃の製品)を使用しています.動力は装備しておらず,台車はエンドウ製のDT22(プレーン車軸)を使用しています.重量は290gで,動力車のキハ52とそれほどかわりません.

・ 前面の印象
前述のようにキハ52は車体前面も含めて全て自作したのに対し,キハ25は1980年ごろに購入したフェニックス模型店製と思われるプレス製の前面パーツを使用しています.そのため両者では前面の表情がやや異なります.自作のキハ52については今回詳細な寸法を記載した資料は手に入りませんでしたので,全面窓の大きさ等わずかな資料と写真から寸法を決めて製作しています.

自作したキハ52の全面(手前)とパーツを使用ししたキハ25(奥)

運転室窓の寸法は大きさが710×710㎜であるという資料がありました.これは1/80に換算すると8.875㎜となりますが,これは構体の開口寸法と思われますので実際の設計(罫書き)寸法は8.5㎜としました.結果的にはノギスによる実測値で8.4㎜に仕上がっています.一方フェニックス模型店製の製品は実測で8.75㎜弱となっています.寸法差としては僅かですが,この差が前面の表情の差に現れている様です.あくまでも私の感想ですが,フェニックス模型店製のパーツの窓の大きさはやや大きい様に感じます.もう一点の両者の差は前面と側面を繋ぐRの開始点と窓との位置関係です.キハ20系の運転台窓とRの開始点の間にはある程度の平面部があり,下の写真のように実車ではそれが光の当たり方によっては目立つのですがパーツでは運転台窓のHゴムとRの開始点までの距離が小さい(平面部が少ない)ように感じます.このことも窓の大きさが大きく感じる一つの要因であるとともに前面の表情が実物の印象と少し印象が異なる原因のようにも感じます.ただ私の製作した前面キハ25前面との差を意識したせいか平面部はあるものの窓の大きさがやや小さい様にも感じます.この辺りは寸法の設定が非常に難しく,今回キハ52は実際に車体を組み立てた際に窓の大きさが少し小さいように感じたため組み立て後に0.25㎜程度窓の大きさを大きく修正してあります.組み立て後のこのような修正はキットの形状を修正するより心理的なハードルも修正の難易度も自作車両の方が低いような気がします.しかし製作時に実物の印象に近づいたと判断しても真鍮地肌の状態と塗装後ではその印象が異なる場合もあります.そのためこの辺りの表現は出来上がった作品をよく観察して結果を評価し,その結果を反映しながら場数を踏んで改善していくしかない気もします.ただレファレンスとなる実物の印象も写真の光線状態や見る角度,Hゴムの色や塗色によって微妙に異なります.そう考えると製作の目的が正確な縮小による実物の再現ではなく,レイアウト上で実感的に(=それらしく?)見えるということであれば細かい寸法にあまり拘る必要もなく,今回製作したキハ52とキハ25の差は許容範囲で,今後改善すべきは塗り分け線の乱れ等もっと基本的な部分であるような気もします.

ほぼ真横から光を受けた際のキハ52の前面の印象.

・ 窓周りの印象
今回真鍮版から車体の自作を行うにあたり真鍮版から車体を製作するに当たり過去製作した車体を見直し,過去製作した車体は窓の周囲は切断面を車体と垂直にヤスリ仕上げをしてあるため,それがプレス加工で窓周囲にプレスによるダレがあるバラキットと比較して実車の窓周りの実感を損ねているのではないかと考えました(記事はこちら).そこで今回は窓の周囲にヤスリでテーパーをつける加工を行いましたがその結果が下の写真です.

2段窓を表現し周囲にテーパーを付けたキハ52の窓周り.サッシは窓の塗装で表現.

結果,このテーパー加工により今までの自作車体に比較すると窓周りの実感が増しており,当初の目論見通りの効果は認められました.その形状もバラキットに比較してより実物に近くバラキットと比較しても同等以上の効果はあったと思います.ただ,今回のキハ20系の場合,2段窓を表現するために窓の下半分(窓サッシの下段部分)には0.6㎜の厚さがあります,下の実写の写真と比較すると少し厚めである印象がある一方,側板に0.3㎜の真鍮板を使用した場合キハ55のような1段窓の場合は一番目立つ下辺のテーパー部の板厚が1/2になりますのでその際の効果については別途検討の余地があるような気もします.一方上の写真からも分かりますが詳細に観察すると貼り重ねた板と側板の境界面でハンダが十分に回り切っていない部分がありわずかに隙間が生じている部分がありました.ヤスリがけ直後にはめくれでわからない場合があるようですのでこの辺りは入念なチェックを徹底する必要があります.ヤスリがけはジグ等は用いず手作業で行いましたが,特に線の乱れが気になるようなところはありませんでした.

山形駅に停車中のキハ52.光に注目すると上の実車写真と合わせて,窓部とドア部の陰影の差が目立ちます.

なお,今回,過去に真鍮版から車体を製作し,塗装が傷んでいた自作車体のキハユニ25 7の再塗装も行うこととし,その際に二重窓の周縁にわずかなテーパーをつけてみました.結果,つけたテーパーの量はわずかですがそれでもテーパーをつける前の車体と比較すると効果が認められます.ただ,この車体は0.4㎜厚の真鍮板を使用していますので厚さ0.3㎜の真鍮板を用いた車体では効果が多少異なるかもわかりません.

・ その他の細部(ヘッドライトレンズ)
上記の点を除いたディテーリング作業はバラキットと同一で使用しているパーツもほぼ同じあるため詳細は省略しますが,今回はヘッドライトのレンズを自作により作成しています.現在ヘッドライトレンズは色々なメーカーから各種直径のものが市販されていますが,今回のヘッドライトケースには(キットの付属品ではなく)市販の真鍮パイプを用ていますので径が適合するレンズがなさそうでした.このためレンズはエポキシ系接着剤により自作しました.その手順はまずヘッドライトケースに使用した真鍮パイプを輪切りにして並べ,その中に透明度の高いエポキシ系の接着剤を流し込んで完全に硬化する前にパイプからレンズを取り外し,硬化後耐水ペーパーでバリ取り・整形を行えば完成です.エポキシ系接着剤を流す際は気泡ができないように注意が必要ですが,細かい気泡がわずかに残っている程度であればレンズ面を細かい耐水ペーパーで磨き,レンズを「半透明化」すればほとんど目立たなくすることが可能です.なお,パイプを並べる際のベースは接着剤が簡単に剥がれる素材が必要ですので接着剤付属の撹拌用の板や撹拌用のヘラを使用しています.

エポキシ系接着剤に付属していた撹拌用ヘラの上に並べた真鍮パイプ.この状態でエポキシ系接着剤を流します.
真鍮パイプより取り外したヘッドライトレンズ.レンズは完全硬化後に耐水ペーパーで形を整えます.
ヘッドライトを車体に装着したところ

・ 床下機器のウエザリング
気動車の床下機器の塗色は大部分がグレーでエアータンク等の空気関係の機器が黒塗装となっています.このため私はまずグレーをラッカーで吹付塗装し,乾燥後にエナメル系塗料で空気関係機器に艶消し黒を筆塗りしています.一方気動車の床下は油や煤で結構な汚れがありますのでほとんどの場合(特に意図しない限り)ややきつめのウエザリングが必要となります.今まで私はこのウエザリングにエコーモデル製のウエザリングブラック,パステル,蝋燭の炎から集めた煤と王を使用してきたのですが,粉体によるウエザリングは触った際に手が汚れたり,レイアウト上に置いておくと埃が付着し時が経ってパウダーの上にホコリが付着すると埃を除去してもとなんとなく「汚い」状態となるため,パウダーによるウエザリングは以前からできれば避けたいと思っていました.しかし気動車の床下にはラッカー系塗料の他にエナメル系塗料で塗装された部分もあるため,エナメル系のスミ入れ塗料が使用できません.そこで今回は以前レイアウトを製作した際にウエザリングに使用したIndian Inkを使用してみました.結果は写真の通りで一通りのウエザリングは可能でしたがIndian Inkは乾燥が早く,一度乾燥すると容易に除去できませんので建物のような平面的な部分に使用する場合より取り扱いが難しく,この方法は墨入れ塗料によるウエザリングより難しいと感じました.そこで次回また気動車の床下を製作をする機会があったらその時は全体をラッカー塗装とした上でエアブラシによるウエザリングにも挑戦したいと思います.エアブラシによるウエザリングに関しては米国のModelrailroader誌にはその手法が定期的に掲載されており,Marklin社のInsider club向けの動画(Club film)の中でもウエザリングの過程が動画でよく紹介されていますので,これらを参考に気動車床下のウエザリングに関し,自分なりの手法が確立できればと思っております.

Indian Inkでウエザリングを行った床下機器
使用したIndian Ink

以上,簡単ですが今回真鍮板から製作したキハ52とキハ25に紹介を終わります.真鍮板からの車体製作は過去経験しているとはいえ実質上初めて経験することも多く当初は完成まで漕ぎ着けられるかどうかに自信がなく,早く一通りの工程を終えて結果を見たいという気持ちが優先して工作が雑になってしまったところも多々ありますが,今回何とか完成まで漕ぎ着けることができましたので,次回製作する際はより良い作品を目指して今回の反省を活かしてそのうちまたチャレンジしたいと思いっております.
最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮板から車輌を作る -跋:自作車両の設計について-

・ 車両の自作における設計の重要性と楽しみ
真鍮板から車体を製作するプロセスの紹介は前回で終了しましたが,今回はバラキットの組み立てのプロセスにはなく,真鍮板からの車両製作では必須であるのも関わらず前回までの説明では殆んど触れていなかった自作車両の車体の設計について考えてみたいと思います.

自作車体のキハ55と制作時に作成した「図面」と参考にした書籍.

広辞苑で「設計」を調べると,「ある目的を具現化する作業」とあります.私が長年携わってきた新製品開発では一般的にこの目的は「顧客に新たな価値を提供する」ことであり,その「新たな価値」を定義するためにはユーザーニーズを的確に把握する必要があります.このことは鉄道模型を製造するメーカーにも当てはまりますが,自作車両の「設計」はこれとは少し異なり,顧客はおらず,製作した作品の価値が提供されるのは製作者自身です.ではその価値(製作者が作品に求める価値)を一言で表現するとすればそれは「実感的であると感じること」ではないかと思います.ただ,この製作者自身が行う「実感的であるか否か」の判断基準には単に自分にとって実感的かだけではなく,この作品を見た鑑賞者のほとんどに製作者と同様,その車両が活躍している風景が自身の記憶として蘇らせることができるか否かも含まれます.その意味ではこの価値は決して製作者だけの基準で決められるものではなく,「他人の判断基準」も意識する必要があるということになります.この辺りは私が今までたびたび触れてきた故なかお・ゆたか氏執筆の”鉄道模型のおける造形的考察の一断面”にも記載されていますが,今から80年近く前に書かれたこの記事が現在でも参考となるのはこの「実感的」というワードが鉄道模型では普遍的なテーマであるであるということの表われであると感じます.この「他者にも実感的と感じてもらうこと」を意識すればそれを実現する方法は各部の寸法を1/80にした寸法を基準として設計することが一番の近道であるような気がします.ただ自作車両では工作機械を使用して製造されたバラキットと同等の精度は確保できません.一方,もしキットに量産品であるが故の制約(型を使用しているための制約・コスト抑制のための加工工程上の制約・部品の流用)があればそれは自作車両では容易に解決できる可能性があります.また自作車両では最近の細密キットに見られがちなキット設計者の設計思想(キット設計者の拘り)からも解放されますので自分が決めた細密度でいかに模型として過度な作家性を主張せずに作品に自分の個性を出すかということも考えて作品に反映することもできます.自作車両の車両設計はこのような課題を解決しながら進めていくもので,通常の製品設計とも全く異質なものですが,この過程を経て実感的な作品ができたときにはキット組み立てでは経験できない達成感が味わえると思います.ただ作品に個性を出すことはとても一朝一夕にできる事ではなく,ある程度の経験と失敗からの学びが必要です.しかしこの目標に一歩でも近づくための取り組みもキット組み立てでは経験できない自作による鉄道模型製作の一つの楽しみになるような気がします.とは言ってもまずは実写の寸法を縮尺して車体を作るための設計手順ををマスターすることが先決ですので今回私が行った設計の過程を紹介してみたいと思います.

・自作車両の最小寸法単位
製品設計を行う場合には多面的な知識が必要であり,それゆえ設計者には一定の知識を持った有資格者が要求されますが,機械設計者では必要となる知識の一つに各種加工法で実現できる加工精度とばらつきの把握があります.自作車両の場合,罫書きは真鍮板に罫書き針を用いて罫書きを行いますので,罫書き針で引いた罫書き線の分解能が寸法の最小単位となりそれを意識して各部の寸法を決める必要があります.下の写真は私の使用しているスプリングデバイダで真鍮板上に0.25㎜間隔で(0.5㎜間隔のスケールの目盛りの中点にデバイダの針を合わせて)真鍮板上に線を引いたものですが,線は充分に解像できています.また線の隙間と罫書き線の太さを比較すると罫書き線の太さは0.1㎜未満ではないかと思われます.従って正確に罫書き線までヤスリ仕上げができれば寸法の分解能とばらつきは0.25㎜±0.1㎜(デバイダの設定誤差を除く)程度と考えられます.ペーパー車体でもシャープペンシルで0.25㎜間隔の罫書きは線を描くことは可能ですが通常罫書き線の真上をカッターナイフで切断しますので刃の厚さやカッターの傾きを考えると真鍮車体はペーパー車体より精度の高い寸法での製作が可能であると思われます.

真鍮板のスプリングデバイダで描いた0.25㎜感覚の罫書き線

上記のように設計時の寸法の最小分解能が0.25㎜であるということが分かりましたので,実物寸法を模型寸法に換算する際には寸法を0.25ミリ単位で調整すれば製作は可能であるということになります.

・ 設計時の留意点
ドイツのMärklin社の車両は実物をそのまま縮小せず上方から見るという模型の特性を考えて実感的に見えるように形状がデフォルメされていると言われています.私は実際にドイツの実車を詳細に観察したことはありませんし当該車両の詳細な図面を見たこともないのでその真偽と効果の程は不明ですが,このような設計はなかなか素人ができるものではありません.そこで,実車の寸法(形態)を模型の寸法に移し替える際の留意点を私が実際に車両を製作した際に経験したことを交えて紹介してみたいと思います.

1)屋根のカーブ
下の写真は私が製作した旧型客車で奥側か谷川製作所のバラキット組み立て品,手前側が真鍮板から自作した自作品です.旧型客車の屋根カーブは側板と屋根の間に稜線があることが特徴ですが,キットはその稜線がない形状となっており,実車とは形状が異なっています.資料によれば実車の旧型客車の屋根は3種類ので構成されています(R700,R1910,R3100).自作した車両がこのRを正確に再現しているとは言えませんが,印象としては側板と屋根の間に稜線のある自作車両のほうが実車の印象に近いと感じます.キットと組み立て品では屋根のカーブの境界にある稜線も気になります.とはいえこの様な部分をプレス加工を用いて正確な形状に作るのは結構難しく,形状がある程度異なってなってしまうのはやむを得ないと思います.一方自作車両では稜線の部分を裏から筋彫りして曲げることにより稜線を設けることができる等,自作車両では工程に自由度があり時間をかけた調整もできますので,このような部分はそのメリットを活かして形状を追求することが可能です.旧型客車と言われる客車の屋根カーブはほとんどの形式が同一であるためこの部分は一度寸法を決めてしまえばその寸法は他車にも適用できます,また,例えば初期の70系電車と80系電車は単なる2扉車と3扉車の差ではなく屋根カーブが両者で異なります(70系電車は旧型客車と同様側板と屋根の境界に稜線がある)が,自作車両ではその特徴を強調した形での製作が可能ではないかと思います.

谷川製作所製キットと自作車体の屋根カーブの差


2)Hゴムで支持されている窓
上記の屋根寸法(屋根R)は実車の寸法がわかっていますのでその寸法の1/80が模型の設計寸法となりその寸法からのずれが印象に影響を与えます..しかしこのHゴムで支持されている窓の寸法は設計上いろいろ検討する必要があります.我々が模型の設計寸法を求める際,その参照先となるのは国鉄の形式図です.ただ,この形式図に記載されている寸法は車体の鋼体の開口寸法(ガラス寸法?)で,我々が車両を見た時に見えるガラス部分の大きさではないことに留意する必要があります.我々が車体を製作するときの窓寸法は実際に見えるガラスの寸法の縮尺寸法になりますので車両形式図とは異なった寸法にしなければなりません.機芸出版社の”日本の車両スタイルブック”(1974発行版)のキハ45000(キハ17)の正面図にはこの部分の詳細寸法が記載されており,Hゴムの太さは28㎜,露出している窓の寸法(高さ)は590㎜と記載されています.正面窓の大きさは国鉄発行の形式図には記載されていませんが,大きさは610㎜と記載されている資料があります.もしこれがこの窓の「呼称寸法」であるとすると590㎜にHゴムの半分の太さの2倍(28㎜)を加算しても計算が合わず,寸法にはゴムの変形寸法が入っていると考えられます.一方TMS誌の1970年5月号にはなかお・ゆたか氏が作図したキハ58の図面が掲載されており,その前位側の戸袋部のHゴム支持窓の寸法は実寸が663㎜,模型化寸法が7.5㎜と記載されています.

MS誌の1970年5月号に掲載されているキハ58の図面の一部

この663㎜は車両形式図記載の寸法ですが663/80=8.2875㎜となり模型化寸法との差が大きくなっています.また上記の図面で窓前後の寸法を見ると実物寸法は236+663+410=1309㎜で1/80では16.4㎜になります.模型化寸法は3.5+7.5+5=16㎜で0.4㎜小さく,236㎜(1/80で2.95㎜)が3.5㎜となっており,窓の寸法が小さい分が他所で調整されています.同様の寸法の補正は前述の”日本の車両スタイルブック”に掲載されているキハ20・キハ55系の図面にも見られます.この補正に対する考え方は説明されておらず(実測値を反映している可能性もあります),詳細は不明ですが,Hゴムの寸法分をそのまま修正したのではなく,模型としたとき実際に実物の印象が再現できるように寸法を決定していると思われます.このようにHゴムで支持されている窓の寸法は一般的に入手できる実車の形式図の寸法を補正する必要があります.市販のキットの中には形式図の寸法で製作されているHゴム支持窓もあるようです.この辺りは自作車両では正しい寸法(実物の印象を再現した寸法)での設計・製作が可能です.一方,今回製作したキハ52のような正面窓がHゴム支持の窓では窓の大きさとHゴムの太さと窓の位置(妻板と前面の間のRに対する窓位置)を実物通りの印象にするのが難しく,設計寸法の決定は最後まで迷いました.結果的に車体を組み立てた結果,窓が小さい印象となってしまったため後から修正してあります.この例から逆に最初に窓を小さめに作り,組み立て後に実機の印象と同じように窓の大きさを修正するという方法も「アリ」ではないかという気がします.ただ,このような部分は今後製作する同系列の複数の車両で印象を同一とすることが必須ですのでもし最初の設計寸法から寸法の修正を行った場合,その記録は確実に残しておくとともに製作法を確立しておくことが必要です.
3)窓枠
下の写真は左の車両がフェニックス模型店製のバラキットを組み立てたスハフ42(スハフ45として組立),右が自作車体のスハ45です.両者を比較するとバラキットの窓枠の大きさが大きく,実物の印象と異なります.一方自作車体は”日本の車両スタイルブック”の図面を実測して寸法を決めており,窓枠下部の幅を1㎜としてあります(バラキットの幅は実測で0.5㎜)実はこの部分の窓枠の幅が狭いことは私も組み立て時から気がついていたのですが,当時は編成単位で車両を製作していたため修正(部品の新作)には多くの時間を必要とし.正直そこまで修正する気力がなかったため修正を見送りました.自作の窓枠の形状がばらついていたら返って編成として見た時に見苦しいのではない顔考えたこともその理由,というより自分を納得させるための言い訳でした.ただ自作車両の窓枠の幅も実物の印象と比較するとまだ幅は不足しているような気もします.この辺りも失策により慎重に寸法を検討したほうが良いところです.ただ,光の反射の影響等もあると考えられますので適切な寸法は一度車両を完成させて塗装した車両で検討し補正することが現実的であるような気もします.

フェニックス模型店製バラキット(左)と自作車体(右)の客室窓の窓枠形状の差


このほか,最初の記事で自作車体とキットの差でとして指摘した窓周りのテーパーも実物の印象を再現するためには重要な部分ですが,今まで述べてきたところですので詳細は割愛します.ただ,この部分の表現は私が今回製作した車両で初めて実施した部分でその効果(加工法の妥当性)は車両を塗装して初めてわかると思います.最終結果は塗装終了後に報告したいと思います.

・ 実車との違いが気になる部分と気にならない部分
私の手元のはフェニックス模型店製のバラキットを組み立てたキハ22があります.以前この車両を紹介する際記したように,このキットは実車に比較して客室窓の天地寸法がやや大きいことが気になります.また北海道のキハ22は本州の同系列の車両に比較して床面が厚くなっているためキハ22は乗務員ドアと運転室窓部分の寸法が内地向けの同系列の車両とは異なります.具体的には内地向けの車両は客用ドアと乗務員室ドアの上辺が一致しているのに対し,キハ22は乗務員ドアの上辺が客用ドアの上辺より上方にずれており,乗務員ドアの下辺と車体裾の間隔も内地向けの車両より大きくなっています.また運転台窓も内地向け車両より高い位置にあります.しかしバラキットの乗務員ドアの位置は内地向けの車両と同一寸法になっています.また前面プレスパーツは内地向け車両と共通の型を使用していると思われ,運転室窓の高さも内地向け車両と同一と思われます.

フェニックス模型店のキハ22(1990頃の製品)

しかしこの車両をレイアウト上に置いて見るとこの部分の実車との違いはほとんどほとんど認識されず,この部分のエラーが全体的な印象には大きな影響を与えていません(私の見解です).一方レイアウト上見ても窓の大きさは少し気になります.これは私の私見ですが,これは前述のように「実感的であること」を「その車両を見たときに,その車両が活躍している風景が自身の記憶として蘇る」ということとするとレイアウト上の車両はこの「記憶の中にある実車」と目の前の車両を対比していることになりますが,私のその記憶の中のは客用ドアと乗務員ドアの上辺の位置は存在していないから気にならないということになるのではないかと思います.一方,キハ22の内地向けの車両との大きな違い(特徴)は客用窓の2重窓ですので,その部分は記憶に残っているため,客用窓の大きさは気になるのではないかと思います.このようにレイアウト上を走る車両で実感的であるかかないかを判断する際に頭の中に蘇るのは実際の景色の中を走る車両の姿であり,製作の際に詳細な形態を記録した細部写真ではありません.鉄道写真を撮影する際には車両に当たる光の処理が非常に重要ですが,上で述べた屋根のカーブや窓周りのテーパーが実感的か否かに影響を与えるのはこれらの部分は光を反射して目立つ部分であるため記憶に残りやすい部分であるためとも言えるかと思います.上記のキハ20系の運転室窓の位置を決めるのが難しいのは窓の近傍に妻板と側面を繋ぐ局面があり,そこで光の反射が異って見えるためである気がします.またまた金属車体とインジェクション成形の車体の印象がわずかに異なり,メーカーが一部の部品を別付部品としたことをアピールするのは成形で表現した部品は突起部の根本に型に起因するわずかなRがついており,その部分の光の反射具合が実写と異なっていることが理由のような気もします.そしてこのような事例は設計の際,形状がわずかに異なる市販パーツの使用を検討するときには参考になるのではないかと感じます.各部の形状が正しい寸法からどの程度ずれたら全体的な印象がどの程度変化するかについては定量的に論ずるのはなかなか困難ですが,国鉄車両ではほぼ同一デザインで各部の寸法が少し異なる車両が多く存在しますのでそのあたりが参考になるのではないかと思います.その例として上記のキハ22以外ではキハ55の初期ロットとそれ以外の車両の前面窓の大きさの差,165系と711系の運転台窓高さの違い,キハ55とキハ60の車体側面の天地寸法(車体の下端の高さ)の違いによるの全体的な印象の違い,181系/485系/183系の車体の窓位置と車高の違いによる印象の違い,101系と103系の運転台窓高さと天地寸法の違いに掘る前面の印象の違い,20系客車と14系客車の車体裾カーブの形状と雨樋位置による車体の全体的な印象の違い等が挙げられます.
・ 実際の設計プロセス
色々理屈っぽいことを記してしまいましたが,私が行った設計プロセス(製作する車両の決定から制作開始まで)は概ね以下のようになります.
・形式図や雑誌等に掲載されている図面を参照し各部の寸法を決める(Hゴム支持窓はQuantumを参考に修正した寸法を決める)
・ 方眼紙上に原寸大の「図面」を描く,形式図では分からない寸法は図面上に形状を記載して寸法を決める
・ 資料がなく自身で決めた寸法を含めて全体的に違和感がないか確認する
ただ,違和感と言ってもそれほど正確に書けるわけではないので,この図で全体的な印象をチェックすることはできないため,このチェックはあくまで寸法間違いの箇所がないかをチェックすることが目的です.
罫書き線を描ける「情報」が全て決まったら車高と使用する台車,マクラバリの寸法を考えて床板を支持するアングル材の取り付け位置を決定し,ドアや乗務員室ドアの裏打ち部材,車体に取り付ける部材の寸法を決定してすると車体の設計はほぼ終了になります.
以前記したように私は製作のあたっては部品ごとの「図面」は作成していません.図面はあくまでも設計者が他者に設計の意図通りのモノを製作してもらうためのコミュニケーションツールであり,細かい規格が決められているのもそのためですので自分が設計して自分が製作する場合には製図規格に則ったような図は必要ありません.ただしどんな形であれ部品をどのような寸法で製作したかは次の同系列の車両の製作に備えて全て記録しておくことは実際に制作したときの修正寸法も含めて必要です.

最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮板から車輌を作る -(6) :窓まわりの加工-

車体の組み立てを終了し,真鍮版からの車体製作は最終段階に入ります.私はこの一連の記事の冒頭の記事に,自作車体とバラキットを一眼見た時の印象の差について,両者の差は窓周囲のわずかな形状の差(窓周囲のテーパー(ダレ)の有無ではないかということを述べさせていただきましたが,真鍮車体製作のディテーリングを行う前の最後の作業として今回はこの窓周りの加工を紹介したいと思います.

ハンダによる組み立てがほぼ終了したキハ25とキハ52

・窓周りのテーパーの表現の重要性について
下の2枚の写真は私が撮影したキハ25とキハ55ですが,どちらの写真を見ても窓の周囲にあるテーパーが光の当たり方によってはよく目立つことがわかります.

只見線で使用されていた頃のキハ55
磐越東線で使用されていたキハ25.同様の窓構造を持つキハ30や101系電車は並んだ2段窓の中央の窓柱が側板表面より少し奥に設けられていたため窓ガラスの位置が奥まって見えましたがキハ20系は窓が独立していましたのでそれらの車両に比較すると窓ガラスの位置が手前にあり,テーパー部の幅が小さく見えることが特徴でした

私がかつて真鍮板から車両を製作していた頃は失敗せずに車両を形にするのに必死で,このテーパーが全体的な印象に影響を与えるというところに思いが至っていませんでした.その後製作の主体がバラキット組み立てとなったためこのテーパーの存在をあまり気に留めることはありませんでしたが,今回久しぶりに真鍮板から車体を自作するに当たり,改めてこの窓周囲のテーパーの重要性に気づいた次第です.一方,バラキットはこの部分はプレスのダレで表現されていますが,その断面形状は実物とは異なります.それでもバラキットの方が実感的に感じられるのは窓周囲にプレス加工時に生じたダレがあることで窓の周囲に車体表面と光の反射方向が異なる部分があるためであると考えられます.また,改めて窓周りに注目して手元にある”日本の車両スタイルブック”やTMS誌に掲載されているなかお・ゆたか氏が作図した図面を見ると車両の窓の周囲はほとんどが2重線で描かれています.これらの図面は図面の体裁をとった寸法入りの車両イラストとも言えるものですがこの2重線が描かれていることでこの”図面”をみた時に実物の印象がより的確に表現されていると感じます.また手元にある機芸出版社発行の”陸蒸気からひかりまで”は名実ともに図面集ではなく車両のイラスト集ですが,片野正巳氏が描いた1/150で描かれたイラストを見るとこのテーパーは誇張した形で描かれており,この図からもこの窓部のテーパーの全体に与える重要性がわかるような気がします.

・ 窓の周囲のテーパーの寸法と加工法
前述の”日本の車両スタイルブック”のナハネ10の図面にはこの寸法が表示されており,その値は20㎜となっています.側板の厚さ方向から見た時のテーパーの開始点の位置は不明であり,テーパーの角度は不明ですが,この値は1/80に換算すると0.25㎜になります.そこで今回は窓の周囲に0.25㎜のテーパーをつけることにしました.テーパーをどのような方法で加工するかについてはジグによる加工も考えたのですが結局いい案が思い浮かず,今回は窓の外周の外側から0.25㎜の位置に罫書き線を引き,ヤスリを一定角度に保ちながら罫書き線まで窓周囲を平ヤスリと丸ヤスリで削るという簡便な方法で行ないました.この方法は当然各窓にばらつきが生ずるリスクがあります.そのため外周に耐水ペーパーでわずかな面取り(R)をつける方法も考えましたが今回はせっかくの自作車体ですのでより実物の形状に近い形とすることにチャレンジして見ることにしました.

・ 窓周りの加工の実際・2段窓の表現
まずテーパー加工の前に今回行った2段窓の表現について説明します.このキハ20系気動車が製造された当時はまだ普通車は全ての車両が非冷房車でした.そのため当時の車両の多くが窓が全開できるようになっており,キハ20系のような上下に分割された2枚窓の車両では下段の窓は上段窓の内側を通って車両の幕板に格納される構造でした.そのため上下のガラスは段違い(上段が手前,下段が奥)になっています.1970年代にの模型ではこの2段窓の表現は製品でも自作品でもほとんど表現されておらず,上下の窓枠と中桟を窓ガラス板に印刷した車両も多く見られましたが,現在ではこの2段窓の表現は幅広く行われるようになりました.そこで今回製作した車両も2段窓の表現を行うこととしましたが,キハ20系では窓サッシの縦桟はほとんど見えないため,今回は縦桟は省略し,各々に窓枠の横桟をを銀色のテープで表現した窓ガラス2枚を段違いに取り付けることとしました.まずこの2段窓の表現を行うために私の行った方法を紹介させていただきますが,私が行った方法では罫書きの段階から準備作業が必要となります.今までの説明では基本的な手順を優先し,型式により異なる作業説明は説明を省略していました.今回製作工程が前後してしまったこと,ご容赦ください.
最初に窓抜きが終わった車体の曲げを行う前に下段窓の部分(側板の厚さを厚くしたい部分)に真鍮板(帯板)をはんだで仮止めします.この帯板は一度取り外し,車体を曲げた後再度取り付けますので仮止め時には帯板の上側の位置(下段窓の上端)を正確にかつ強めに罫書いて取り付けます.

下段窓の位置に合わせて帯板を仮止めしますが,この際帯板の上辺に罫書き線を強くひいておきます.

帯板を取り付けたら車体板を裏返して帯板に窓位置を罫書いたのち帯板を取り外して取り外す前に罫書いた窓周縁の線に沿って帯板の窓部を切り欠きます.

窓部の切り欠きが終了した帯板です.

車体の曲げが終了し車体が箱状になった後,帯板を仮止めした際に罫書いた罫書き線の位置に窓部を切り欠いた帯板を再度取り付けます.この取り付けの際は後のテーパー加工に備えてハンダが窓の外周まで到達するようハンダを流すことが必要です.このような作業の際は自動温調機能の付いたハンダゴテは安定してハンダを流すことができ,効率的な作業が可能でした.

車体に帯板を再度取り付けて窓の外周まで切り欠き部を削ります.

ヤスリ仕上げが終わった側窓です(テーパー加工前).

・ 窓周りの加工の実際・窓周縁のテーパー加工
板を窓外周まで削り込んだら周囲にテーパーをつける作業を開始します.まずはスプリングデバイダを0.25㎜にセットして一旦を窓終周縁部に引っ掛けて窓の外側0.25㎜の位置に罫書き線を引きます.私の使用しているスプリングデバイダは片方の先端部がもう片方の先端部よりほんのわずか長くなっていますので短い方を窓周縁部に引っ掛けることにより思ったより簡単に罫書きを進めることができました.罫書きが終了したら平ヤスリを一定角度(略45°)に保ち罫書き線が消えるまで窓周縁部を削ります.ヤスリを当てる強さ,角度と回数を一定にするとほぼ均一なテーパーをつけることができますが光の反射を利用して確実にチェックすることが必要です.なお私はこの作業のためにスイスバローベ社の平ヤスリ(番手#6)を購入しました.模型用とした販売されているヤスリに比較すると高価ですが切れ味はよく,購入した価値はあったと思います.ただ目が非常に細かいためハンダが載っている部分への使用は厳禁です.なお,厳密に言えば今回の窓周縁部の接合部にもハンダは存在していますが,この程度のハンダであれば目詰まりを起こすことはありませんでした.作業が終了したら削った部分に#800の耐水ペーパーを当ててヤスリの目を除去しました.

テーパー加工が終了した窓周縁部

これで窓周縁部のテーパー付けは完了です.ただ,作業は手作業のためテーパーにはある程度のばらつきが発生していると思われます.最終的にこのばらつきが顕在化するのは塗装後になるような気もしますが,塗装後に出来栄えを評価して今後の作品の工程にフィードバックをしたいと考えています.なお,今回,記事の初回(序)で紹介した自作車体のキハユニ25についても窓周りの修正を行いました.こちらは北海道向けの車両ですので1段窓ですが加工後の車体を見ると印象は少し改善され実物の印象に近づいた気がします.こちらも最終的に塗装をしてみないとどのくらい改善されたかの評価はできないと考えていますが,塗装を終えた時には今回製作したキハ25,キハ52とともに結果を報告したいと考えています.

同時に加工したキハユニ25 7の窓周り

この加工が終了すると後の工程はディテーリング作業となります.この作業についてはバラキットの組み立てとほぼ同一で手順を詳細に説明する必要もないと思いますので今回私が行った真鍮版から車体を製作する手順の紹介はこれで一旦終了としたいと思います.一方,今までの説明ではほとんど触れませんでしたが,自作車体を製作するためには「設計」という作業が必須になります.そこで次回は今回の一連の記事の最終回としてこれまでの振り返りとこの「車両を自作する場合の設計のプロセス」について少し述べててみたいと思います.

最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮板から車輌を作る -(5) :車体の組み立て(前面の製作)-

各部の部品を製作し車体の曲げ工程が終わると部品はほぼバラキット組み立て前の状態となりますが,キハ20系のような前面に丸みのある車体はもうひとつ,前面の「おでこ」の製作というバラキットにはない作業工程が残っています.最近のバラキットでは通常この部分はプレスパーツとなっていますが,自作車体ではこの部分を手作りで製作する必要があります.私が最初に組み立てたバラキットはしなのマイクロ製のEF64の車体キットでまだ高校生の頃だと記憶していますが当時のキットはまだ前面へのプレスパーツ使用が一般的になる前の製品で,キットの組み立て説明書では社端部の「おでこ」の部分は折り妻状に組んだ車体の屋根の接合部に真鍮角材を裏打ちしてヤスリで仕上げるという指示でした.一方当時からこの部分を自作する場合には妻板におでことなる部分を設け,その部分に切り込みを入れて曲げながら概略形状を作り,最後に半田を盛って整形する方法で,この方法は現在でも自作車体では一般的な手法です.しなのマイクロ製キットの方法はペーパー車体の制作法と類似の方法で,ペーパー車体を製作した経験のある私にとっては一見簡単そうな方法ですが,冷静の考えてみると運転室窓上部にヘッドライトが付いた車両では加工が難しいと感じたため私はこの部分を後者の屋根と妻板に切り込みを入れて曲げ整形する方法で組み立てました.その加工は思ったより簡単であった記憶がありますが,その後はキットも「おでこ」の部分はプレスパーツが一般的になったため今回の作業はそれ以来の作業で約50年ぶりの作業となります.というよりはその時の記憶が全くないため実質私にとっては今回が初めての作業です.ただ過去一度やった経験があると少しプレッシャーから解放されるという気もします.

前面を自作したキハ52.奥はプレスパーツを利用したキハ25です.

・ 前面の罫書き,曲げ
まず罫書きを行いますが,「おでこ」以外の部分は図面から算出した寸法で罫書きます.曲げ後に側板とつながる部分は後で長さを調整するため長めにしておきます.一方,おでこ部分の展開寸法(展開形状)は厳密に決めようとすると木型を製作して実際に曲げて求める必要がありますが,,キハ20系の「おでこ」の形状は比較的単純な形状なので今回は現物合わせで曲げながら切り欠きを設けて製作することとし,屋根部分は屋根形状より10㎜程度外側に張り出した形状として切断しました

罫書きが終わった切断前の前面

罫書きが終了したら窓抜き前に曲げを行います.曲げの手順は車体板の曲げと同じです.曲げは運転室窓横に罫書いた曲げ線を基準に行います.

曲げの手順は車体と同一ですが,あて木のRは曲げRに合わせて新たに作成する必要があります.

両側の曲げが終わったら妻板に後退角をつけます.曲げの際には裏側にPカッターで切り込みを入れてから曲げを行いました.Pカッターは真鍮板のスジ彫りを行うと刃が痛みますが最近は替え刃式のPカッターもありますので真鍮板の加工(曲げ)を行う場合は一本用意しておくと便利です.

貫通扉横を曲げて前面に後退角をつけます.

曲げが終了したら窓と貫通ドア部分に鋸刄の通し穴を開けます.車体板と異なり全体の大きさが小さいため途中で材料の保持が困難になる可能性があると思い運転室窓は4隅に穴を開けて鋸刄の転向を容易に可能としました.ただし窓抜き時,鋸刄が穴に達した時に穴に到達した勢いで鋸刄が罫書き線をはみ出さないよう注意が必要です.

窓部の穴開けが終了した状態です.

穴あけが済んだら「おでこ」の部分をヤットコで曲げていきます.なお,私はこのような曲げにはかつてエコーモデルから発売されていた「細密ヤットコ」を使用しています.現在では発売されていないようですが,ほぼ同じものは「時計ヤットコ」で検索すると各種タイプがあり,購入も可能です.曲げながら干渉する部分は現物合わせで切り欠きをつけながら曲げを進めましたが,細かい鋸刄(#5/0)を使用すると保持が不安定な状態でも鋸刄が引っかかることなく比較的簡単に切り欠くことが可能です.

曲げのを行っている途中の状態です.

下の写真は曲げ途中の写真です.平面部分と屋根のつながる部分の稜線の位置に注意しながら曲げていきます.曲げの開始点は側板の高さより低くならないように注意する必要があります.そのため曲げを行う前に裏面には側板高さの位置にPカッターでスジ彫りを行いました.

「おでこ」の部分の曲げがほぼ終了した状態.

「おでこ」は車体断面に合わせて曲げていきますが最終的には本体に取り付ける際に調整します.

最後に車体との接続部が車体断面通りに曲げられているかをチェックします.

曲げが終わったら窓と貫通ドアを糸鋸で抜いてヤスリ仕上げを行い,長めにしておいた車体との接続部を所定寸法に切断すれば前面はひとまず完成となります.

車体の取り付ける前の前頭部です.この状態では窓の大きさがやや小さいため後で大きさを修正しています

・ 組み立て作業
前面が完成したら組み立て作業に入ります.組み立て手順はバラキットとほぼ同じで客用ドアと乗務員ドアの裏打ち(前面との接続部)をはんだ付けして車体裾部に補強アングルを取り付けます.この辺りの作業はバラキットの組み立てとほとんど変わりませんので説明は割愛します.ただ,組み立てには今回初めて自動温調機能付きのハンダゴテを使用しました.機種は大洋電気産業(goot) 製のPX-480という80Wのハンダゴテで,コテの中に温調回路を組み込んだ比較的安価な製品です.設定温度はDefaultの350°Cで使用しました.私は今までは昔からある100Wのニクロムヒーターのコテを使用していましたが,今回使用したハンダごてはそれに比較すると容量は小さいものの,コテ先温度が安定していることに加えてコテ先にコーティングがあり作業中に酸化被膜ができないためコテを当てた時の半田の流れが常に安定しており快適に作業することができました.また,部品をつける際,位置ぎめに時間がかかってもコテ先の過熱を気にすることがなくストレスなく作業をすることが可能でした.ただ,コテ先温度を高く設定しているせいか作業時に材料の熱膨張による変形が多少気になりました.この辺点は今後設定温度の最適化を行う必要がありそうです.コテ先は購入時装着されていたものをそのまま使用しています.なお,補強アングルはエコーモデル製の床板アングル(品番2151)を使用しました.

今回使用した温調機能付きのハンダゴテ
“真鍮板から車輌を作る -(5) :車体の組み立て(前面の製作)-” の続きを読む

真鍮板から車輌を作る -(4) :車体の曲げ-

ディテールを取り付けるのみとなったキハ52とキハ25,

ヤスリ作業が終わったら車体の曲げ作業です.この作業を失敗すると一瞬ででGAME OVERとなりこれまでの苦労が水の泡とないます,しかし慎重な準備作業と確認作業を行えばその確率は大きく下げることができると感じます.私が初めて真鍮版から車体を制作した時は窓抜きやヤスリ作業の際に,こんなに苦労しているのにこれから行う曲げ作業で失敗したらどうしようという「重圧と恐怖」を感じながら作業をしたものですが,何回か経験したらそれほど心配するものではないということがわかりました.

まずは曲げに使用する工具と部材です.

曲げ工程に使用する工具類.ヤンキーバイスは幅50㎜のものを使用しています.


1.バイス(万力)・・・あて木を挟んで固定するための使用します.バイスには糸色なタイプがありますが私はヤンキーバイス(ボール盤バイス)を使用しています.ちなみにヤンキーバイスの「ヤンキー」の由来は最初にこのタイプを製造した会社名にあるようです.日本では「不良」という意味にも使われますがこれは日本のみの言い方で,英語にはこのような意味はなく完全な和製英語のようです.New York Yankeesは不良集団ではありません.
2.Cクランプ・・・あて木を挟むために使用します.サイズは当て木が挟めれば使用可能です.私は車体の目げ時には穴あけ時のワーク固定用のものから工作台固定用のものまで手持ちのCクランプを総動員します.なお,私が使用しているヤンキーバイスは台への固定機能がないため,バイスを固定するための大型のものも使用しています.
3.あて木・・・曲げの際に真鍮版を全長にわたって固定したり曲げたりするために使用します.私は厚さ12㎜,高さ30㎜,長さ約300㎜の杉角材3本を使用しています.角材の幅は側板の長さ以上あったほうが良いと思います.長手方向の剛性も必要ですが0.3㎜の真鍮版であればCクランプを併用していることもあり厚さ12㎜でも剛性不足は感じませんでした.3本のうち1本は一稜を屋根Rに合わせて整形しますので,屋根Rの異なる車輌を曲げる際にはそれぞれ別のあて木(ただしあて木の4辺を利用すれば4種のRが可能)が必要です.
その他寸法測定用のスケール,板金固定用のテープ(マスキングテープ)を使用します.

1. あて木の成形
まずあて木を屋根のRに合わせて成形する際のあて木の稜線につけるRの半径を決める作業をを行います.非常に重要な作業であるにも関わらず話が前後してしまい恐縮ですが,この作業は最初に行う罫書き前の段階で屋根の展開寸法を決める段階で行ないます.(2)の罫書きの紹介記事の中で,罫書きの前に屋根の展開寸法を求めるために車体断面(妻板)形状をした板に実際に曲げた板を当てて屋根の展開寸法を含めた車体板の幅を算出することを記載しましたが,あて木につけるRの寸法はこの時点で決定します.今回製作するのはキハ20形気動車で,必要なのは屋根の肩部のRの数値なのですが,私はどうしても屋根の断面寸法が記載されている図面を入手することができず,バラキットを組み立てたキハ22(フェニックス模型店製)や手元にあったキハ20系用と称するのぞみ工房製の木製屋根板木製の屋根板の実測等から車体完成時の屋根の肩部のRは4㎜としました.完成時の肩Rの寸法が決定したら実際に真鍮版を曲げてあて木の綾につけるRの寸法を決めますが,これはTry and Errorの作業となります.写真の曲げサンプルは最終的に屋根の展開寸法を決めるために用いたものですが,実際にはこの曲げサンプルを作る前に,何度かあて木のRを変えて真鍮版の切れ端を曲げてテストしています.この作業の際のはあて木は短いものでよく真鍮版も幅10㎜程度,長さ20−30㎜の残材のようなもので十分です.ただし使用する板の圧延方向は実際の車体板の圧延方向と合わせておいた方が良いと思います.圧延方向は板の表面を細かく観察すれば大体わかりますが,もしわからなければ実際に使用する車体板と同じ板から曲げ方向が同じになるように曲げサンプルを採取するのが良いと思います.なお,詳しい理屈は割愛しますがあて木に設定するRは付けたいRから板厚を引いた値よりよりやや小さいRが適正のようです.適正Rを求めるためには大きめのRから小さいRへとあて木を削りながら行えばそれほど時間のかかる作業ではありません.この作業を経て製作した部品が(1)に掲載した下の写真のサンプルです.

側板幅を算出するために製作した部品

・ あて木の整形
まずはあて木の一辺を順位作業で決めたRで削ります.この際整形する稜と接する真鍮板を挟む面の稜よりR寸法分だけ下方に綾と並行にライン引きます.このラインがあて木で真鍮板を挟む際の真鍮板の位置決め指標になりますが,このラインが綾と並行になっていないと曲げた時に側板高さに左右で差が生じ,曲げた時点で 側板の高さが左右で異なることとなり失敗(GAME OVER)となりますので簡単な作業ですが慎重に行ない,終了後充分にチェックする必要があります.ラインが引けたら稜線を所定のRに成形しますが,杉角材であれ小さいRは耐水ペーパーで比較的簡単に成形できました.このRはケント紙等で作成したゲージでペーパー車体の屋根板の成形やペーパールーフ車体の屋根Rのチェックと同じ要領で行いました.

稜線にRをつけたあて木

・板の固定
綾部の成形が終わったらいよいよ曲げ作業に入ります.まず車体板の表面に曲げ線(側板と屋根との境界部)を罫書きます.また屋根の中心にも罫書き線を引きます.この罫書きを忘れるとベンチレター等屋根状に部品を取り付ける際に苦労しますので忘れずに罫書いておく必要があります.張り上げ屋根の車体でなければ前者は雨樋で隠れますが,後者は隠す部品はありませんので軽く罫書きます.罫書きが終了したらあて木の屋根Rの加工時に書いた線と車体版の曲げ線を一致させて車体板をあて木にテープで固定します.この固定がズレると車体が正確に曲がらずその修正は不可能ですので入念な確認を行なう必要があります.

車体板とあて木を指標に合わせて固定します.固定にはマスキングテープを使用しました.

車体板をあて木に固定したら,加工していないあて木の上面を車体が固定されているあて木に引いたラインに合わせてバイスに固定します.バイスに挟む前に位置を決めて固定してもバイスに軽く固定してから位置を調整してもどちらでも良いですが,バイスを軽く押し付けた状態であて木の位置を調整する際は調整に伴いテープで固定した車体板の位置がずれていないかも確認が必要です.なお固定の際はあて木の下面をバイスのジョーのスライド面に押し当てます.この作業により作業台とあて木の並行度が確保されます.作業台と曲げ線の並行度の調整が簡単にできるのはヤンキーバイスのメリットです,

2本の当て木と車体版御関係を充分にチェックします.

あて木をバイスに固定したら車体板とあて木にずれがないかを入念ににチェックします.車体板とあて木の位置関係がずれていると100%失敗しますが,正しく固定されていれば成功の確率は大幅に上昇します.なお,私が使用しているヤンキーバイスは台への固定機構がないためあて木と車体板をバイスに固定した状態で手で持ち上げやすく,台上に固定されているバイスより至近距離から色々な方向を向けて位置関係を確認できるというメリットがあります.チェックで問題ないことを確認したらバイスからはみ出ている部分のあて木をCクランプで締め付けます.締め付けが完了したらバイスを台上に固定して曲げ作業を開始します.

曲げ作業を開始する直前の状態です

曲げは曲げ用のあて木をバイスに固定しされているあて木の下に押し付けながら曲げていきます.少し曲がったところで曲げの開始点が手前側のあて木の上面となっていることを確認してOKであれば曲げ作業を継続します.曲げる際は曲げ用のあて木の両側がバイスに固定されたあて木から浮き上がらないこと,あて木に均等に力をかけながら曲げることが重要です.曲げる速度は出来栄えにあまり関係しないようですが,曲げ用のあて木の位置を確認しながらゆっくりと慎重に行ったほうが良いと思います..

片側の曲げが終了した状態

片方の曲げが終了したらもう一方も同様の手順で曲げて車体をコの字形にします.

片側の曲げが終了したらもう一方を同じ手順で曲げていきます.
“真鍮板から車輌を作る -(4) :車体の曲げ-” の続きを読む

真鍮板から車輌を作る -(3) :ヤスリがけ-

糸鋸により真鍮版を切断したら次はヤスリ(棒ヤスリ)を使用して部品を罫書き線通りの形状に仕上げていく工程に入ります.この工程までくれば前回の最後に述べたような設計に起因する大きな問題がなければ窓抜き作業のような一瞬のうちに今までの努力が水泡に記すようなインシデントの発生確率は低くなります.そのヤスリ作業は適切な形状と粗さのヤスリを選択すること,真鍮板はやすりは押すときのみに削れることに留意すること,通常はヤスリを真鍮板に対して垂直に保持しながら削ることに注意すること,罫書き線を超えて削りすぎないことの留意すれば時間はかかるものの作業は終わります.

下回りも含め基本部分の組み立てを終え,小パーツの取り付けを開始したキハ25とキハ52

一方,やすりがけには今までの工程にない難しさがあります.それはこの工程の良し悪しが作品の出来栄えに直接影響を与えると言うことです.極端に言えば,罫書きを部品の裏側に行う限りは罫書き線をいくら間違えて描き直してもも作品の出来栄え(外観)には影響しません.また四角い窓を糸鋸で丸く抜いても,それが罫書き線を逸脱していなければヤスリがけ作業の終了後にはその履歴は作品には全く現れません.しかしヤスリ仕上げはその仕上げが罫書き線にどのくらい忠実に行ったかが作品の出来栄えに直接影響を与えます.

それではまずは使用した工具を紹介します.

やすりがけの工程に使用した工具.写真のドライバーは先端を研いでキサゲとして使用しています.


1.精密ヤスリ・・・精密ヤスリで作業のほとんどを行ないます.私はバラキットを組み立てた時に使用していたヤスリをそのまま使用しています.ヤスリは品質も値段もピンキリですが私が使用しているヤスリはメーカー不詳で有名メーカーの高級品ではありません.ただ,糸鋸による作業が下手なせいもあり車体を自作する場合にはヤスリがけの工程が非常に多くの時間を占め,その使用頻度も使用時間もバラキットの修正や小部品を製作するのに比較すると非常に多いので,今後本格的に本格的に真鍮製車体の製作を行なう場合は買い替えたいと思っています.ほとんどの外形仕上げ作業は平ヤスリと丸ヤスリで行いますが,角・三角.先細やすりも穴の拡大,線材の切断等に使用しますので用意しておいた方が良いと思います.
2.その他のヤスリ・・・タミヤ製のベーシックヤスリセットの細目と中目を用意していますが前面の”オデコ”の整形や,糸鋸であまりにも内側を切りすぎた窓の荒削りに使用する以外はほとんど使用しません.これらのヤスリで真鍮板の表面を削ると塗装後まで傷が残ってしまったり傷の除去に非常に手間がかかる場合がありますので要注意です.
3.ステンレススケールとノギス・・・作業中の寸法測定に使用します.
4.耐水ペーパー・キサゲ・キサゲ刷毛・・・作業により発生するカエリの除去に使用します.

・ 実際の作業
私の経験ではヤスリがけの留意点は冒頭でも触れたように ① 切削中は板とヤスリを垂直に保持して作業する ②ヤスリが金属を削るのは手前から奥にヤスリを押すときのみであることに注意する(ヤスリを引くときはヤスリを板に強く押し付けない)③ 切削時には常の罫書き線を認識しながら行う ということではないかと思います.これは学校の技術家庭科の授業で習ったのかもわかりません(私は覚えていません).また私は機械工学科出身ですので大学の実習でヤスリがけ作業の実習も行なったはずですが,何を教わったかは全く記憶にありません.多分鉄道模型愛好者で過去今回のヤスリがけ作業で要求される精度でのヤスリでの仕上げ作業を学校以外で経験している方は非常に少ない(殆んどいない?)のではないかと思われます.しかしヤスリがけは上記に注意して作業を行えば比較的簡単に鉄道模型製作に必要な程度のやすりがけ作業の「コツ」は掴めるような気もします.以下,私の行なった手順を実例で紹介します.

ヤスリ作業中の客用ドア.

上の写真は客用ドアをヤスリ仕上げしている途中の写真です.上の2枚が糸鋸で抜いた状態,下の2枚が最終仕上げ直前の段階です.その手順は ①丸ヤスリを用いて窓の隅R部分を罫書き線ギリギリまで削る(罫書き線の部分は削りません)② 角のRとスムーズに繋がるように平ヤスリで直線部を削る(この状態で罫書き線の内側に沿った形で窓の外形が仕上がります).ここまでできたら以降 ③仕上がり状態をチェックの上罫書き線がほぼ消えるまでR部を削り込む ④ R部とスムーズに繋がるように直線部を削り込む という手順で,上の写真の下段は③と④の間の状態です.
作業中の注意点としては,切断作業と同様,常に罫書き線を確認しながら作業を進めることです.材料には削り込みに従って外周にカエリが発生し,そのカエリは表面と裏面両方に発生します.そのため作業中はカエリを確実に除去し,常に罫書き線がどこにあるかを認識しながら作業することが必要です.光源の位置によっては発生したカエリは光に反射しますので,罫書き線の位置や実際に削られている位置と罫書き線の位置関係がよくわからなくなったり,カエリの反射を罫書き線と誤認する場合もあります. 繰り返しになりますが糸鋸による切断と同様,罫書き線が認識できなくなったと思ったら即作業を中断してかえりを除去し,罫書き線を確認することが必要です.罫書き線を強めに付けてあれば表面を耐水ペーパーで軽く擦ってかえりを除去しても罫書き線は残りますので最終段階での確認の際はこの作業を行なった後で削り量が適正であるかを確認しても良いかと思います.そして作業が終わったら最後に板を裏返して反対面(外観となる面)からチェックし,外形に乱れがなければ終了です.やすりがけ作業は糸鋸作業に比較すれば失敗の確率は低いものの,時間おかかる集中力のいる作業であり,集中力が途切れないように休みながら行う必要があります.また完成と思ってもしばらく時間をおいてチェックするとエラーに気づく場合もありますので一晩経ってから再チェックを行うのことも効果的です.ちなみに下記のドア4枚(穴16箇所)を仕上げるのに要した時間は約2.5時間でした.なお窓部以外のヤスリがけ作業もほぼ同じ手順で行いました.

窓周囲の仕上げがほぼ終わった側板(外観面).写真で黒っぽく見えるのはヤスリ作業で発生したカエリです.

・ヤスリがけの精度
ヤスリがけの工程は手作業ですので精度には限界があります.私の参考にしたTMS誌”キユ25の作り方”では切断と同様”罫書き線が消えるまでヤスリがけする”と簡単に記載されています(上に紹介した手順と同様まずR部を先に仕上げることにも言及されています).ただ色々な条件によるとは思いますが私が行なった実際の作業では私の引いた強めの罫書き線の幅をヤスリの1ストロークで一気に削り込むことはできませんでしたので,慎重に作業を行えばヤスリ作業で大幅な寸法逸脱が発生することはなく,時間と集中力は必要なものの切削時のヤスリの当て方に慣れてしまえば形状を罫書き線どおりに仕上げるのはそれほど難しい作業ではないと思います.
具体的にいうと仮に罫書き線の太さ(幅)が0.1㎜とすると,罫書き線が削られ始めて削り取られるまではの削り量は0.1㎜になりますが,上記のように精密ヤスリを用いて軽めの力をで削る場合にはその罫書き線を消すまで材料を削り込むためにはヤスリを数ストローク動かす必要がありますので,罫書き線が削られ始めた後罫書き線が見えている間に作業を終了すれば誤差は0.1㎜以下となります.このように考えるとヤスリ作業は慎重に行えば結構よい精度で仕上げることが可能です.また見方を変えれば実物を縮尺した寸法で正しい形状の部品ができるか否かは設計と罫書きに殆んど依存しているいうこともできます.なお,窓抜きに関してはこの後窓の周囲にテーパーをつける作業が発生しますが,私はこの作業は組み立て後行いましたのでそれについてはまた項を改めて紹介します.

最後までお読みいただきありがとうございました.次回は側板の曲げと組み立ての手順を紹介したいと思います.

真鍮板から車輌を作る -(2) :真鍮板の切断(窓抜き)-

ほぼディテール加工を残すのみとなったキハ25とキハ52の車体と床板です.

部品の罫書きが終わったらいよいよ糸鋸による切断作業に入ります.この切断作業から折り曲げまでが失敗(部品を作り直さざるを得なくなる)のリスクが最も高い作業になります.リスクは広辞苑等では「危険」と書いてありますが,リスクには国際的に定義された明確な定義があり,それは一言で言うと「発生する危害とその頻度で決められる量」です.一般的に危害は人の対するものを考えますが,今回の真鍮版の切断の場合にはリスクを最小とすると言うことは,部品が作り直しになると言うことが製作者が受ける「危害」に相当し,危害の頻度は鋸刃が罫書き線からはみ出して真鍮版の本来切り残すべき領域に侵入してしまうことで,リスクを低減させるためにはその頻度を極力減らす施策を講ずるということになります.リスクを低減させる方法を検討することをリスクマネジメントと言いますが,今回の場合は鋸刄が罫書き線からはみ出す頻度が最小となる(殆んど起こらなくなる)やり方を考えてそれを実行することがリスクマネジメントを行うと言うことになります.
一方,私が最初に参照したTMS誌の片野正巳氏の記事ではこの糸鋸による切断(窓抜き)に関しては「罫書き線から絶対はみ出さないこと」と記載されているだけで,切断中の写真も掲載されておらず,真鍮版に糸鋸の鋸刃を通す穴を開けた写真の次に掲載されているのは窓抜きが終わってヤスリ仕上げの済んだ側板の写真です.後にも述べますが,これは片野氏(TMS誌の編集部)が「罫書き線から絶対はみ出さない」ためのリスクマネジメントは製作者自身で行えと言っているのではないかと推察します.
と言ってしまったら身も蓋もないので今回私が行った私なりの方法と注意点を参考として紹介します.それは一言で言えば「練習で技量を向上させるとともにその中で自分の現時点での実力を把握し,その実力を前提に罫書き線をはみ出す頻度が最小となる(まず起こらなくなる)方法で糸鋸作業をを行うと言うことだと思います.

製作したキハ52の車体の部品です

・切断に使用する工具
真鍮版の切断に使用する工具は以下のものです.

私が切断に使用した工具です.切断時はスケールやノギスも使用します.

1.糸鋸・・・真鍮版の切断は全て糸鋸で行います.単純な構造のものでよく,その方が軽量で使いやすいと思います.写真の糸鋸はもう40年以上使用しており当時の値段は¥100であったと記憶しています.私は弓の深さが約180㎜のものを使用していますが,弓の深さは(車体長/2+α)㎜以上が必要です.
2.鋸刃・・・私は近くのDIY店で購入できるドイツ製のアンチロープ社の鋸刃を使用しています.サイズは#0/0から#5/0を用意していますが0.3㎜の真鍮版の切断には殆んど#4/0と#5/0を使用しています.40年前の価格は¥300程度と記憶していますが今も同程度の価格で入手できます.糸鋸刃はかつてはドイツのヘラクレス社製が定番でしたが現在は市場ではあまり見かけずAmazonでは販売単位は1グロスしか見当たりません.私の感覚ではヘラクレス製とバローべ製の間に切れ味の差は殆んど感じません.昔は国産と輸入品の差は歴然でしたが最近はどうなのでしょうか.
3.弓押さえ・・・糸鋸の左に見えるもので,糸鋸に鋸刃をセットするときに糸鋸の弓を狭める際に使用します.平板を切るときにはなくてもそれほど支障はありませんが曲げを行った後の穴に鋸刃を通すときには必要です.私は2.4㎜角の真鍮角線から製作しました.市販品は私は見たことがありません.
4.ドリル刃・・・鋸刃を通す穴を開けるときに使用します.私は主に呼び径1.6㎜を使用しています.
5.ハンドドリル・・・鋸刃を通す穴を開けるときに使用する場合がありますが,あまり使用しません.ハンドドリルでの穴あけはドリル刃が滑りやすいため使用するときは必ず小径ドリル(0.8㎜)を用いて開けた穴(凹み)をポンチマークとして使用しています.
6.ドリルチャック・・・直径3㎜程度のドリル刃を取り付けて鋸刃を通す穴に発生したカエリを除去するために使います.穴のカエリを除去しておかないと切断時に鋸刃が引っかかり,最悪の場合折れてしまいます.
私は穴あけ時にはセンタポンチは使用しません.先端が鋭いものでは刃先の滑りを抑えにくく,鈍いものでは周囲の変形が大きくなるためです.
このほかに切断部に付着した切粉を除去するための筆が必要です.切粉を確実に除去するためには自然毛を使用した歯ブラシも有益で,一本あっても良いかと思います.またバラキット組み立て時と異なり同一のドリル刃で多くの穴あけ作業を行いますのでドリルの切れ味が作業性に大きく影響します.ドリルを研ぐのは難しそうなのでもし切れ味が悪いと感じたら買い換えるのも一法と思います.

・ 作業の実際
まずは小物を切断してウォーミングアップを行いますが,その前にどのような部品が必要かを把握しなければなりません.そのために必要なのが部品表ですが,私は表は製作せず,下の写真のような備忘録的な”絵”で済ましています.

“真鍮板から車輌を作る -(2) :真鍮板の切断(窓抜き)-” の続きを読む