レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(19) -レイアウトの製作を終えて思うこと(運転という観点で)-

前回はレイアウト上の機関車の細密度がレイアウトを見た時の「実感」にどの程度影響を与えるかについての見解を記載させていただきましたが今回は私がこのレイアウト上での車両の運転した際に感じたことを記載してみようと思います.

レイアウト上のC12.この車両は1980頃ににカツミ模型店のシュパーブラインシリーズのキットを組み立てたものでモーターは当時蒸機に一般的に用いられていたDH−13を使用しています.

私が以前このブログで紹介したMärklin Digitalを使用した機関区のレイアウトセクションの製作を開始したのは2010年頃でしたがこの時点で今回製作した日本型のレイアウト上で走らせようと思った蒸機は一部を除いて殆んど存在していました.それでも当時私が今回製作したような日本型のレイアウトを製作せず外国型のレイアウトを製作した理由は車両の ”走り” でした.当時手元にあった日本型の蒸機は全て1960年代から使用されている駆動機構でモーターも解放式の横型モーターと言われるモーターで走行性能や走行音は満足とはいえない状況でした.それに対し当時手元にあった外国型のデジタル制御の蒸機はコントローラーのノブ位置に応じて車両速度が変化しスロー運転も問題なく行なえます.また2線式のような車両留置用のギャップの設置と切り替えも不要で機関車の駐機も場所を問いません.当時私はそのような点に大きなメリット感じ,”運転を楽しむならこれしかない”と考えて製作したのが最初に製作したレイアウトセクションである”ALTENHOF機関区”でした.その後のMärklin Digitalを含むDCC制御の発展は凄まじく,製作当初は予想していなかった多彩なサウンドやライトの制御が可能となり,その後導入した自動運転機能と相まって狭いレイアウトセクションでも充実した運転が可能になりました.
今回日本型レイアウトの製作に当たっては手持ちの車両で果たして低速でのスムーズな走行が要求される機関区をテーマとしたレイアウトセクション上での運転が楽しめるのかは製作当初から懸念点として把握しており,このレイアウトの一連の紹介記事の冒頭にもその旨は記載させていただきました.そして実際にレイアウト上で手持ちの車両を走らせてみると想像どおり機関車の走る周囲の情景は機関車の走行性能の悪さをカバーするものではなく,このレイアウト上での運転はサウンド付き車両のDCC運転に比較すると残念な結果でした.改めて調整を行っても私の技術力不足もあってかなかなかデジタル制御のような”全速度域での”Silkyな走り”には近づけられません.これは結果的にレイアウト製作前に想定したとおりの結果でしたが,そうは言っても自分が苦労して製作した機関車がレイアウト上で動くのは見ていて楽しく,それはそれで充分楽しめます.ただこれはあくまでも私の私の感覚ですが,機関区のレイアウトセクションでの運転という観点ではレイアウトという舞台を用意して昔苦労して製作した思い入れのある機関車が動くのをレイアウト上で眺めてもそれはデジタル制御での運転の楽しみを凌駕するものではないと感じました.

レイアウト上を走るD H-13モーターを搭載したC62.異音はゴムジョイントの劣化による振動のようです

私が現在使用しているパワーパックはMärklin社のZゲージ用のパワーパックで1995年に購入したもの(ロゴ以外の形状は1972年に初めてZゲージ用として発売されたものと同一)ですので出力が小さくどこまで平滑な直流が出力されているかは不明です.このパワーパックを使用しているのはい今まで使用していたパワーパックが故障したためで,最新のパワーパックやPWM制御のパワーパックを導入すれば少しは現状が改善されるのかもわかりませんが.アナログ運転機器にこれ以上投資する気にもなりません.現在所有している蒸機をDCC化することは駆動系全体の大改造が必要と思われ,私には資金的にも知識的にも技術的にも不可能で,残された方法は既成の日本型DCC車両を導入するしかなさそうです.私の外国型レイアウトを走る車両は全て既製品で自作の細密機ではありませんがそれでも運転は充分楽しめることは経験済みですし前回の記事のようにレイアウト上の運転で実感を得るのに細密機は不要ということは確認できましたので,市販品を購入して運転を楽しむことも考えました.手元にあるMärklin Central Station3はDCCにも対応していますので制御システムのインフラは整っています.しかし一般の(資金力の乏しい?)鉄道模型愛好者が購入できる価格でDCC対応を謳う製品を発売しているメーカーはごく一部(1社?)で常時多くの機種が市場に在庫してはおらず,これから日本でメーカーや雑誌の発行元がが主導してDCCを推進していこうという意欲も全く感じられません.機関車から音を出すだけであればPFMサウンドやカンタムサウンドもありますが,どちらもパワーパックが機関車1台に1基必要でこの世王なレイアウトでは現実的ではありません.このレイアウトの製作を開始した時にはレイアウト完成後,このレイアウトを何らかの形でDCC化しようと考えていたのですが,レイアウトが完成してあらためてDCC導入に向けて検討を開始てもこのような状況は以前と全く変わっておらず,仕事をリタイアし鉄道模型に投資できる金額も限られる中,正直日本型のDCC対応車両を購入する気が起きません.残り少ない人生で今後も鉄道模型を運転という面から楽しもうと考えた時,日本型HOスケールの鉄道模型をDCC制御でPlug & Play的に気軽に楽しむことは少なくとも現時点ではもう諦めた方が良いのではないかとさえ感じている今日この頃です.かつて鉄道模型趣味誌の主筆であった山﨑喜陽氏がご存命であったら今の状況をどのように思われるのでしょうか.

外国型の機関区セクションを走るBR39(制御方式はMärklin digital). バックグラウンドのノイズは発電機のタービン音手動でOn/OFF可能)です.対向するBR01はランニングギアの点検灯を点灯させています.

苦労して製作したレイアウトセクションのまとめとしてこのようなネガティブなことを書くのは正直気が引けたのですが少なくてもこれが現時点における私の率直な思いです.どこかのメーカーからサプライズ発表でもあればまた気が変わるかもしれませんが・・・.もちろん鉄道模型の楽しみ方は人それぞれですので私とは異なった感覚を持つ方も多いと思います.あくまでも私の感じたこととしてお読みいただければ幸いです.
最後までお読みいただきありがとうございました.

レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(18) -レイアウトの製作を終えて思うこと(レイアウトの実感と車両の細密度の関係)-

蒸気機関車が活躍していた時代の機関区の製作過程の紹介は前回までで終了し,今回からはこのレイアウトセクションを通じて考えたこと,感じたこと等を述べてみたいと思います.まずはレイアウトを実感的と感ずるためにはレイアウト上の車両はどの程度の再密度があれば良いかを考えてみます.

レイアウト上のC12とD51.完成年は40年以上異なり細密度のレベルも異なります

最近のHOスケール(16番)の市販車両は以前と異なり全体的なプロポーションが一目見ておかしいという車両はなく全体的に細密化しています.中には一見実物の印象と異なるように見えてもよく見てみると模型の形態が正しく私の印象が間違っていたことがわかるというような事例もあります.また自作車両も毎月発行される雑誌を見る限り細密化がエスカレートしており雑誌には「ついているものは何でもつける」という方針?の作品が数多く発表されています.市場ではプラ製品の普及等でベーシックなキットがほとんど姿を消したにもかかわらずディテールアップ用のパーツは新製品が数多く発売されるという不思議な現象も見られます.
かくいう私もかつてバラキットや細密化用のパーツが数多く発売されていた時期に蒸気機関車のバラキットのディテールアップ工作を楽しんだ経験があり,今回日本型レイアウトを製作した動機はこれらの機関車をレイアウト上で鑑賞するというものでした.そこで今回は機関車の細密化はどの程度「レイアウトを実感的と感ずること」に寄与するかを考えてみたいと思います.
機関車をレイアウト上で鑑賞(目視)した時の見え方とは言っても目視した時の感覚は説明が難しいので写真で説明を試みます.下の2枚の写真は今回製作したレイアウトの給砂塔の前に停車するC12とD51でいずれも運転時にレイアウトを見ている距離から撮影したものです.写真のC12は1980年ごろの作品でD51は昨年製作した最新の機体です.1980年製のC12はヘッドライト,主発電機および車警用発電機,汽笛や轍砂管元栓をロストパーツに交換してありますがパイピングはあまり追加しておらず,新たに追加した警用発電機は取り付けただけでパイピングは一切しておりません.またバルブギアはキットのままでロッド類はプレス製のままとなっています.これに対しD51は実物写真を参照して一通りのパイピングは設けてあり,例えば車警用発電機にはマフラー,電線管,スチーム管,ドレン管を取り付けてあります.またバルブギアは加減リンクをロスト製に交換し,一部のロッド類は洋白版で作成し先端をフォーク上に加工して一部に真鍮線を植え込んであります.そしてこの車両がが給砂塔前に停車している2枚の写真を比較した時,私の感覚ではレイアウトの「実感」という観点で両者にあまり差は感じられません.

レイアウト上のC12
レイアウト上のD51

さらに望遠マクロで機関車をクローズアップして撮影した写真が下の写真ですがこちらも上の写真と同様,あまり差がないように感じます.車警用発電機のパイピングの有無はあまり気にならず,バルブギアは光があたる角度によりC12のロッドプレスのダレが目立つ(わかる)場合がありますが,全体的に見た場合それらが実感を損ねる大きなな要因にはなっていない気がします.

望遠マクロでクローズアップしたC12
上の写真と同じ場所から撮影したD51

この辺りの理由について,脳科学の先生であれば理論的に説明してくれそうな気がするのですが私の経験で思い当たることは人間写真や実物を見る時その全体を細部まで把握できていない(見ることができていない)のではないかということです.我々は一度に多くの情報が存在しているものを見てもその中の全ての情報を認識して処理していないということは事実のようです.それは我々が上の写真のような情景を見て実感的か否かを判断する際に機関車の細部はあまり認識しないでそれを判断しているのではないかと思います.
美術館では我々(私)が絵画を鑑賞して評価する時,細部までつぶさに観察してその中にある全ての情報を得てから評価をしていません.第一印象としては過去に好ましいと思った絵画(の記憶)と比較して割と瞬時に判断しています.それと同様,我々は上の写真ような情景を目で見て見て実感的か否かを判断する時には我々は過去に見た機関区の記憶と照らし合わせてその記憶と合致していれば実感的と判断し,その際機関車の細部までは見ていないのではないかと思います.これは今までの記事でも何回か触れてきた故なかお・ゆたか氏が1951年位執筆した”鉄道模型における造形的考察の一断面”の記載内容に通ずるものがあります.氏の書いた記事はどちらかというとモデル=車両と捉えている感がありますが情景(機関車の姿)を過去の記憶と照らし合わせる時,車両+レイアウトに注目するか車両のみに注目するかで記憶に蘇る機関車の「細密度」は異なっているのではないかと思われます.そう考えるとレイアウト上の機関車の細密度は一定の閾値以上であればそれ以上の細密さは判断に影響を与えず,むしろ全体的な印象が実機を正しく捉えているか否かに影響すると考えられます.そしてレイアウト上の車両に要求される許容細密度の閾値は細密モデルと言われるモデルが要求している細密度より低いのではないかと考えます.ただ再密度の高さが実感を損ねているとは感じませんし,レイアウト上に細密どの異なる車両が存在してもあまり気になりません.これはレイアウトを製作した前から薄々思っていたのですが実際にレイアウトを製作したことにより今回改めて確認することができました.そうすると次にレイアウト鑑賞したりその中で車両を走行させる場合,車両にどの程度の細密度が必要になるかということが問題となります.これについて私の大雑把な感覚では国内外のガレージメーカーではない老舗鉄道模型メーカーのダイキャスト製の量産品の細密度が結構参考になるのではないかと感じますが,これについては後日述べてみたいと思います.
最後までお読みいただきありがとうございました.次回はこのレイアウト上で車両を走らせた時に感じたことを書いてみたいと思います.

真鍮板から作った車輌 (2) : キハ55・キハ26(キロハ25)・キハ60

完成した準急(急行)用気動車3連

前回紹介させていただいた真鍮板から自作したキハ25・キハ52は私にとっては久しぶりの真鍮板からのスクラッチビルドによる車両製作でした.真鍮板からの車体の製作は30年以上前に一時期行ったことがありますが,製作開始時に手元には当時製作した車両が数両あったものの具体的な製作過程の記憶は殆んどなく,そのためキハ25・キハ52の製作にあたっては過去にも参照した雑誌の真鍮製車体の製作法の記事を頼りに製作を始めました.しかしその製作を開始した時点では果たして自作でバラキットを組み立てたレベルの車両が真鍮板から製作できるかについては全く見通せず,早く完成させて結果が見たいということもあり記事の製作法の内容のままかなり急いで製作を進めてしまった感があります.結果,何とか鑑賞に耐えられるレベルの車両は製作することができましたが多少の課題も発生しましたのでその製作結果を踏まえてキハ25.キハ52と共通点も多いキハ55を代表形式とする準急(急行)用気動車3連を製作しました.そこで今回その車両と製作過程の変更点を紹介させていただきます.

<型式の選択>
キハ55をはじめとした準急用気動車は軽量化を目的としたキハ17等の小型車体から標準サイズの車体へ移行していく過渡期に製造されたため車体には色々な形態があります.具体的には1956年製の1-5は車体が大型化されたもののその他の部位はキハ17の面影を残し,妻板側稜線にもRがつけられた車体が登場当時の姿で.その後1957年にタイフォンの位置や前面窓サイズが同時期に製造が開始されたキハ20と同一となり,その際妻側のRも廃止されました.さらに1958年にはいわゆる”バス窓”が電車と同じ1段窓となった100番台を名のる車体となりました.このように準急用気動車はわずか3年の間に印象が大きく変化していきますが,最終的に機関をはじめとした下回りは改造により全て同一となり,そのため保守作業に大きな支障がなかったせいか後年になっても初期ロットの車両が廃止されることはなく,全てのタイプの車両を80年台まで各地で見ることができました.また元々の用途が準急・急行用のためキハの他に窓配置が異なるキロ,キロハが存在しており,これらの車両も普通車に格下げされて80年代始めまでその活躍する姿を見ることができました(キロハは1975年位まで).そのため私が今まで製作した車両等が活躍していた年代にはまだ殆んど全てのタイプの車両が存在していたためどの形式を選択しても手持ち車両との年代的な矛盾はありません.

越後川口駅に停車する飯山線のキハ55


前述のように準急用気動車の側窓の形態は”バス窓”と”1段窓”の2種類がありますが”バス窓”は上窓がHゴム支持となっていますので私のような工作初心者にとってはハードルが高いため,1段窓の車両を製作することとし,まず代表形式のキハ55の100番台を選択し,次ににキハ26の300番台(306〜)を選択しました.そして最後の1両は大出力機関を搭載した試作車キハ60としました.キハ60は1959年に大出力機関を搭載した試作車として登場しましたが試験終了後は機関を水平対向エンジン(横型エンジン)のDMH17Hに換装し,房総方面で活躍していました.車体は客用ドアが外吊りドアである以外キハ55とほぼ同じ形態(後に通常のドアに改造)ですが,車体裾の高さはキハ58やキハ35等横型エンジンを装架した車両と同一で,車体に対する窓位置(塗り分け線に対する窓位置)が他の車両とはやや異なり,よく見ると雰囲気が異なります.そしてこの車両も車体の形状は特殊なもののが下回りは他の横型エンジン装備車とほぼ同じで保守作業に大きな支障がなかったせいか早期に廃車となることはありませんでした.製作する型式を選択するにあたって3両の形式を全て異なるものとし,さらにそのうちの2両を数の少ない所謂”珍車”とすることには多少抵抗はあったのですが,キハ55とキハ60の車体は遠目にはほぼ同一形態でありながらよく見ると細部に差があるというのもまた面白いのではないかと思いこの3形式を選択しました.

<外観上の改善点>
前作からの改善点は以下の2点です.
① 客用ドア部
鋼製車体の窓周囲のテーパーの表現については前回製作した車体でも留意しましたがドア部分は断面形状に特に留意せずドアの外径を切り抜いた部分にただ裏からドアを貼り付けるだけでした.しかし今回完成した車体を見ると車体表面とドアの段差が少ない気がします.実車はドアの面は窓ガラスの面より奥にありますが,窓ガラスをはめ込み式としない自作車体ではペーパー車体でも真鍮製車体でも窓ガラス表面とドア表面は同一面となります.

山形駅に停車中の仙山線の普通列車.国鉄民営化前は常磐線以外に普通列車用の交直両用電車はほとんど配置されておらず伝毛区間でも数多くの気動車列車が見られました.

バラキットでも自作車体でもガラス表面とドア表面は同一面なので,段差が少ないと感じる理由は今まで製作してきたバラキットの側板の板厚が殆んど0.4㎜であったのに対し,今回使用した真鍮板が0.3㎜厚であるためでこの差は側板お厚さの差ではないかと思われあると思われます.下の写真は私が以前0.4㎜の真鍮番を用いて製作したキハユニ25と今回製作したキハ25のドア部の写真ですが,わずか0.1㎜の差でありながら印象が結構異なることがわかります.この段差のスケール運方は不明ですが,違和感があるのは実物と異なるからではなく,今まで見慣れた車両と異なるということが理由であるようにも思えます.

車体に0.4㎜の真鍮版を用いたキハユニ25と0.3㎜の真鍮番を用いたキハ25

この”段差問題”は車体の板厚を0.4㎜に変更すれば解決なような気もしますが当然重量が増えて曲げ等の加工性も悪化します.また2段窓を今回キハ25で用いたような方法で表現しようとすると2枚重ねした部分の板厚が厚くなり金属車体のメリットが失われるような気もします.一方実物の窓の周囲は断面の引き戸側(内側)にもRがついており,ドア周囲の断面形状は円柱に近い形となっています.そこで今回は客用ドアを貼り付ける前の状態で側板の表面と裏面のドアの周囲にヤスリでテーパーをつけてからトアを貼り付けてみました.この結果が下の写真ですが,右側のキハ25と比較すると効果が認められます.なお,ドアを貼り付けると面取り部にハンダが流れてきますのでそのハンダを細いキサゲで確実に除去する必要があります.

前作のキハ52とドア裏面に面取りを施したキハ26のドア部分

② ”おでこ”の形状
下の写真は最初に製作したキハ25とキハ26の写真です.影の具合から側面から見た時の”おでこ”の形状がキハ25はキハ26に比較して”なで肩”になっているのがわかるかと思います.実車のこの部分のRは小さく,電車のようにRの後方が前面に向かって傾斜していませんので斜め上方から光が当たると影になる部分が比較的大きくなります.

前作のキハ52と今回製作したキハ55の”おでこ”の形状の違い
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真鍮板から作った車両:キハ52とキハ25

”真鍮板から車両を作る”と題してこれまで製作の過程を紹介してきたキハ52・キハ25が塗装を終えほぼ完成状態となりましたので改めて紹介させていただきます.その製作過程を紹介した記事の中で,私は車体の「光の反射具合」を考慮することが作品が実感的か否かに影響を与えるのではないかと考え,設計や製作の中ではその点に留意して製作を行いましたが,車体の光の反射具合は塗装して初めて結果が明らかになります.そこで今回はその点に注目して紹介をさせていただきたいと思います.

車体の表記を残しほぼ完成状態となったキハ52とキハ25

・ 作品の概要
<キハ52>
キハ52の車体は前面も含めて全て0.3㎜の真鍮版を使用しています.床板は0.8㎜の真鍮板を使用しており,床下機器は日光モデルのダイキャスト製の製品とフェニックス模型店のホワイトメタル製のパーツを混用しており,動力は天賞堂製のコアレスパワートラックll,台車(DT22)はエンドウ製を使用しています.パワートラック付属のウエイトは未使用で重量は約310gで,平坦線であれば無動力のキハ25を牽引しての走行が可能です.寒冷地仕様として先頭部には複線用のスノウプラウを取り付けました.カプラーは天賞堂製のkadee #16タイプを使用しています.床下機器は以前組み立てたバラキットの素養した残部品を使用しているため厳密には実車のとおりではありません.

<キハ25>
キハ25の車体構造はキハ52とほぼ同一ですが,こちらは前面にフェニックス模型店製のプレス製のパーツ(1980年頃の製品)を使用しています.動力は装備しておらず,台車はエンドウ製のDT22(プレーン車軸)を使用しています.重量は290gで,動力車のキハ52とそれほどかわりません.

・ 前面の印象
前述のようにキハ52は車体前面も含めて全て自作したのに対し,キハ25は1980年ごろに購入したフェニックス模型店製と思われるプレス製の前面パーツを使用しています.そのため両者では前面の表情がやや異なります.自作のキハ52については今回詳細な寸法を記載した資料は手に入りませんでしたので,全面窓の大きさ等わずかな資料と写真から寸法を決めて製作しています.

自作したキハ52の全面(手前)とパーツを使用ししたキハ25(奥)

運転室窓の寸法は大きさが710×710㎜であるという資料がありました.これは1/80に換算すると8.875㎜となりますが,これは構体の開口寸法と思われますので実際の設計(罫書き)寸法は8.5㎜としました.結果的にはノギスによる実測値で8.4㎜に仕上がっています.一方フェニックス模型店製の製品は実測で8.75㎜弱となっています.寸法差としては僅かですが,この差が前面の表情の差に現れている様です.あくまでも私の感想ですが,フェニックス模型店製のパーツの窓の大きさはやや大きい様に感じます.もう一点の両者の差は前面と側面を繋ぐRの開始点と窓との位置関係です.キハ20系の運転台窓とRの開始点の間にはある程度の平面部があり,下の写真のように実車ではそれが光の当たり方によっては目立つのですがパーツでは運転台窓のHゴムとRの開始点までの距離が小さい(平面部が少ない)ように感じます.このことも窓の大きさが大きく感じる一つの要因であるとともに前面の表情が実物の印象と少し印象が異なる原因のようにも感じます.ただ私の製作した前面キハ25前面との差を意識したせいか平面部はあるものの窓の大きさがやや小さい様にも感じます.この辺りは寸法の設定が非常に難しく,今回キハ52は実際に車体を組み立てた際に窓の大きさが少し小さいように感じたため組み立て後に0.25㎜程度窓の大きさを大きく修正してあります.組み立て後のこのような修正はキットの形状を修正するより心理的なハードルも修正の難易度も自作車両の方が低いような気がします.しかし製作時に実物の印象に近づいたと判断しても真鍮地肌の状態と塗装後ではその印象が異なる場合もあります.そのためこの辺りの表現は出来上がった作品をよく観察して結果を評価し,その結果を反映しながら場数を踏んで改善していくしかない気もします.ただレファレンスとなる実物の印象も写真の光線状態や見る角度,Hゴムの色や塗色によって微妙に異なります.そう考えると製作の目的が正確な縮小による実物の再現ではなく,レイアウト上で実感的に(=それらしく?)見えるということであれば細かい寸法にあまり拘る必要もなく,今回製作したキハ52とキハ25の差は許容範囲で,今後改善すべきは塗り分け線の乱れ等もっと基本的な部分であるような気もします.

ほぼ真横から光を受けた際のキハ52の前面の印象.

・ 窓周りの印象
今回真鍮版から車体の自作を行うにあたり真鍮版から車体を製作するに当たり過去製作した車体を見直し,過去製作した車体は窓の周囲は切断面を車体と垂直にヤスリ仕上げをしてあるため,それがプレス加工で窓周囲にプレスによるダレがあるバラキットと比較して実車の窓周りの実感を損ねているのではないかと考えました(記事はこちら).そこで今回は窓の周囲にヤスリでテーパーをつける加工を行いましたがその結果が下の写真です.

2段窓を表現し周囲にテーパーを付けたキハ52の窓周り.サッシは窓の塗装で表現.

結果,このテーパー加工により今までの自作車体に比較すると窓周りの実感が増しており,当初の目論見通りの効果は認められました.その形状もバラキットに比較してより実物に近くバラキットと比較しても同等以上の効果はあったと思います.ただ,今回のキハ20系の場合,2段窓を表現するために窓の下半分(窓サッシの下段部分)には0.6㎜の厚さがあります,下の実写の写真と比較すると少し厚めである印象がある一方,側板に0.3㎜の真鍮板を使用した場合キハ55のような1段窓の場合は一番目立つ下辺のテーパー部の板厚が1/2になりますのでその際の効果については別途検討の余地があるような気もします.一方上の写真からも分かりますが詳細に観察すると貼り重ねた板と側板の境界面でハンダが十分に回り切っていない部分がありわずかに隙間が生じている部分がありました.ヤスリがけ直後にはめくれでわからない場合があるようですのでこの辺りは入念なチェックを徹底する必要があります.ヤスリがけはジグ等は用いず手作業で行いましたが,特に線の乱れが気になるようなところはありませんでした.

山形駅に停車中のキハ52.光に注目すると上の実車写真と合わせて,窓部とドア部の陰影の差が目立ちます.

なお,今回,過去に真鍮版から車体を製作し,塗装が傷んでいた自作車体のキハユニ25 7の再塗装も行うこととし,その際に二重窓の周縁にわずかなテーパーをつけてみました.結果,つけたテーパーの量はわずかですがそれでもテーパーをつける前の車体と比較すると効果が認められます.ただ,この車体は0.4㎜厚の真鍮板を使用していますので厚さ0.3㎜の真鍮板を用いた車体では効果が多少異なるかもわかりません.

・ その他の細部(ヘッドライトレンズ)
上記の点を除いたディテーリング作業はバラキットと同一で使用しているパーツもほぼ同じあるため詳細は省略しますが,今回はヘッドライトのレンズを自作により作成しています.現在ヘッドライトレンズは色々なメーカーから各種直径のものが市販されていますが,今回のヘッドライトケースには(キットの付属品ではなく)市販の真鍮パイプを用ていますので径が適合するレンズがなさそうでした.このためレンズはエポキシ系接着剤により自作しました.その手順はまずヘッドライトケースに使用した真鍮パイプを輪切りにして並べ,その中に透明度の高いエポキシ系の接着剤を流し込んで完全に硬化する前にパイプからレンズを取り外し,硬化後耐水ペーパーでバリ取り・整形を行えば完成です.エポキシ系接着剤を流す際は気泡ができないように注意が必要ですが,細かい気泡がわずかに残っている程度であればレンズ面を細かい耐水ペーパーで磨き,レンズを「半透明化」すればほとんど目立たなくすることが可能です.なお,パイプを並べる際のベースは接着剤が簡単に剥がれる素材が必要ですので接着剤付属の撹拌用の板や撹拌用のヘラを使用しています.

エポキシ系接着剤に付属していた撹拌用ヘラの上に並べた真鍮パイプ.この状態でエポキシ系接着剤を流します.
真鍮パイプより取り外したヘッドライトレンズ.レンズは完全硬化後に耐水ペーパーで形を整えます.
ヘッドライトを車体に装着したところ

・ 床下機器のウエザリング
気動車の床下機器の塗色は大部分がグレーでエアータンク等の空気関係の機器が黒塗装となっています.このため私はまずグレーをラッカーで吹付塗装し,乾燥後にエナメル系塗料で空気関係機器に艶消し黒を筆塗りしています.一方気動車の床下は油や煤で結構な汚れがありますのでほとんどの場合(特に意図しない限り)ややきつめのウエザリングが必要となります.今まで私はこのウエザリングにエコーモデル製のウエザリングブラック,パステル,蝋燭の炎から集めた煤と王を使用してきたのですが,粉体によるウエザリングは触った際に手が汚れたり,レイアウト上に置いておくと埃が付着し時が経ってパウダーの上にホコリが付着すると埃を除去してもとなんとなく「汚い」状態となるため,パウダーによるウエザリングは以前からできれば避けたいと思っていました.しかし気動車の床下にはラッカー系塗料の他にエナメル系塗料で塗装された部分もあるため,エナメル系のスミ入れ塗料が使用できません.そこで今回は以前レイアウトを製作した際にウエザリングに使用したIndian Inkを使用してみました.結果は写真の通りで一通りのウエザリングは可能でしたがIndian Inkは乾燥が早く,一度乾燥すると容易に除去できませんので建物のような平面的な部分に使用する場合より取り扱いが難しく,この方法は墨入れ塗料によるウエザリングより難しいと感じました.そこで次回また気動車の床下を製作をする機会があったらその時は全体をラッカー塗装とした上でエアブラシによるウエザリングにも挑戦したいと思います.エアブラシによるウエザリングに関しては米国のModelrailroader誌にはその手法が定期的に掲載されており,Marklin社のInsider club向けの動画(Club film)の中でもウエザリングの過程が動画でよく紹介されていますので,これらを参考に気動車床下のウエザリングに関し,自分なりの手法が確立できればと思っております.

Indian Inkでウエザリングを行った床下機器
使用したIndian Ink

以上,簡単ですが今回真鍮板から製作したキハ52とキハ25に紹介を終わります.真鍮板からの車体製作は過去経験しているとはいえ実質上初めて経験することも多く当初は完成まで漕ぎ着けられるかどうかに自信がなく,早く一通りの工程を終えて結果を見たいという気持ちが優先して工作が雑になってしまったところも多々ありますが,今回何とか完成まで漕ぎ着けることができましたので,次回製作する際はより良い作品を目指して今回の反省を活かしてそのうちまたチャレンジしたいと思いっております.
最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮板から車輌を作る -(2) :真鍮板の切断(窓抜き)-

ほぼディテール加工を残すのみとなったキハ25とキハ52の車体と床板です.

部品の罫書きが終わったらいよいよ糸鋸による切断作業に入ります.この切断作業から折り曲げまでが失敗(部品を作り直さざるを得なくなる)のリスクが最も高い作業になります.リスクは広辞苑等では「危険」と書いてありますが,リスクには国際的に定義された明確な定義があり,それは一言で言うと「発生する危害とその頻度で決められる量」です.一般的に危害は人の対するものを考えますが,今回の真鍮版の切断の場合にはリスクを最小とすると言うことは,部品が作り直しになると言うことが製作者が受ける「危害」に相当し,危害の頻度は鋸刃が罫書き線からはみ出して真鍮版の本来切り残すべき領域に侵入してしまうことで,リスクを低減させるためにはその頻度を極力減らす施策を講ずるということになります.リスクを低減させる方法を検討することをリスクマネジメントと言いますが,今回の場合は鋸刄が罫書き線からはみ出す頻度が最小となる(殆んど起こらなくなる)やり方を考えてそれを実行することがリスクマネジメントを行うと言うことになります.
一方,私が最初に参照したTMS誌の片野正巳氏の記事ではこの糸鋸による切断(窓抜き)に関しては「罫書き線から絶対はみ出さないこと」と記載されているだけで,切断中の写真も掲載されておらず,真鍮版に糸鋸の鋸刃を通す穴を開けた写真の次に掲載されているのは窓抜きが終わってヤスリ仕上げの済んだ側板の写真です.後にも述べますが,これは片野氏(TMS誌の編集部)が「罫書き線から絶対はみ出さない」ためのリスクマネジメントは製作者自身で行えと言っているのではないかと推察します.
と言ってしまったら身も蓋もないので今回私が行った私なりの方法と注意点を参考として紹介します.それは一言で言えば「練習で技量を向上させるとともにその中で自分の現時点での実力を把握し,その実力を前提に罫書き線をはみ出す頻度が最小となる(まず起こらなくなる)方法で糸鋸作業をを行うと言うことだと思います.

製作したキハ52の車体の部品です

・切断に使用する工具
真鍮版の切断に使用する工具は以下のものです.

私が切断に使用した工具です.切断時はスケールやノギスも使用します.

1.糸鋸・・・真鍮版の切断は全て糸鋸で行います.単純な構造のものでよく,その方が軽量で使いやすいと思います.写真の糸鋸はもう40年以上使用しており当時の値段は¥100であったと記憶しています.私は弓の深さが約180㎜のものを使用していますが,弓の深さは(車体長/2+α)㎜以上が必要です.
2.鋸刃・・・私は近くのDIY店で購入できるドイツ製のアンチロープ社の鋸刃を使用しています.サイズは#0/0から#5/0を用意していますが0.3㎜の真鍮版の切断には殆んど#4/0と#5/0を使用しています.40年前の価格は¥300程度と記憶していますが今も同程度の価格で入手できます.糸鋸刃はかつてはドイツのヘラクレス社製が定番でしたが現在は市場ではあまり見かけずAmazonでは販売単位は1グロスしか見当たりません.私の感覚ではヘラクレス製とバローべ製の間に切れ味の差は殆んど感じません.昔は国産と輸入品の差は歴然でしたが最近はどうなのでしょうか.
3.弓押さえ・・・糸鋸の左に見えるもので,糸鋸に鋸刃をセットするときに糸鋸の弓を狭める際に使用します.平板を切るときにはなくてもそれほど支障はありませんが曲げを行った後の穴に鋸刃を通すときには必要です.私は2.4㎜角の真鍮角線から製作しました.市販品は私は見たことがありません.
4.ドリル刃・・・鋸刃を通す穴を開けるときに使用します.私は主に呼び径1.6㎜を使用しています.
5.ハンドドリル・・・鋸刃を通す穴を開けるときに使用する場合がありますが,あまり使用しません.ハンドドリルでの穴あけはドリル刃が滑りやすいため使用するときは必ず小径ドリル(0.8㎜)を用いて開けた穴(凹み)をポンチマークとして使用しています.
6.ドリルチャック・・・直径3㎜程度のドリル刃を取り付けて鋸刃を通す穴に発生したカエリを除去するために使います.穴のカエリを除去しておかないと切断時に鋸刃が引っかかり,最悪の場合折れてしまいます.
私は穴あけ時にはセンタポンチは使用しません.先端が鋭いものでは刃先の滑りを抑えにくく,鈍いものでは周囲の変形が大きくなるためです.
このほかに切断部に付着した切粉を除去するための筆が必要です.切粉を確実に除去するためには自然毛を使用した歯ブラシも有益で,一本あっても良いかと思います.またバラキット組み立て時と異なり同一のドリル刃で多くの穴あけ作業を行いますのでドリルの切れ味が作業性に大きく影響します.ドリルを研ぐのは難しそうなのでもし切れ味が悪いと感じたら買い換えるのも一法と思います.

・ 作業の実際
まずは小物を切断してウォーミングアップを行いますが,その前にどのような部品が必要かを把握しなければなりません.そのために必要なのが部品表ですが,私は表は製作せず,下の写真のような備忘録的な”絵”で済ましています.

“真鍮板から車輌を作る -(2) :真鍮板の切断(窓抜き)-” の続きを読む

真鍮板から車両を作る -序:製作開始に当たって-

在庫していた最後の真鍮製バラキットであるD51の組み立てを終了した時点でレイアウトセクションの製作に着手し,真鍮製の車両を製作することは今後もうないのではないかと思っていましたが,レイアウトもほぼ完成してしばらく経つとまた金属製の車両の製作がしたくなってきました.しかしHOゲージ(16番)の真鍮バラキットは蒸気機関車以外でも市場には私がリーズナブルと思える価格で入手できるベーシックな真鍮製のバラキットは殆んど存在しておらず,その割にはキットの細密化のためのパーツは多数存在しているという車輌工作を楽しもうとする者にとっては非常に歪んだ状況になっています.ただ,プラ製品も普及してキット自体の需要も減少している現在,この現状にいくら不満を募らせても以前のように市販のパーツが活かせるベーシックな真鍮バラキットが発売されるということ可能性はまずないのではないかと思います.一言に「車両の工作を楽しむ」といっても私にとっては現在発売されているようなな細密キットの組み立ては極端にいえばプラモデルを説明書通りに組み立てるのと変わらないような気がして工夫の余地が少なく,あまり手を出す気にはなりません.工作を楽しむためにこれらの細密キットをさらに細密化するという手段もありますが,今回製作したレイアウトに今まで製作した車輌を並べてみると,車輌以外の部分も含めて実物の世界をトータルで再現して楽しむ鉄道模型には実物の再現にこだわりすぎた細密な車両は要らないようにも感じます.

この状況を打開する方法の一つは車輌を真鍮版から製作することです.私は今から40年以上前,スクラッチビルドで金属製の車輌を製作した経験があります.しかし,パーツの充実等で当時に比較して作品や製品のレベルが上がっている現在,自分で満足ができる車両をスクラッチビルドすることはなかなかハードルが高い気がします.ただ,当時に比較すると製作のために必要な素材や工具は各種販売されており,当時よりは製作しやすい環境になっているのではないかということ,キットを使用しないことでキット組み立て時の感じていた作品の類型化が避けられるような気もします.そこで今回思い切って真鍮版から車輌を製作してみることにしました.製作した車両は現在,車体の基本部分が完成した状態(バラキットを組み立てた状態)まで完成していますが,これからそこまでの顛末と製作のプロセス,製作中で感じたこと等を記しててみたいと思います.

バラキットを組み立てた状態になった真鍮版から自作したキハ25とキハ52の車体


私が約40年前に以前私がスクラッチビルドで客車を製作した頃はピノチオ,谷川製作所等から旧型客車のキットが各種発売されていましたが,10系客車のキットは発売されていませんでした.その一方,当時は急行「津軽」や急行「十和田」等,優等車が10系客車で普通車が旧型客車で組成された急行列車が多数運転されていましたので,それらの列車を再現しようとすると優等車は自作せざるを得ませんでした.このように当時私が車輌を自作する動機は一言で言うと「キットが市販されていないものを自作する」というものでした.その後フェニックス模型店等から10系客車のキットが発売されましたが,それから40年たった現在,まさかキットの入手が当時より厳しい状況になってしまうとは思いもよりませんでした.鉄道模型を愛好する人は当時とは比べ物にならないほど多いと思いますが,プラ製品の普及やNゲージの細密化工作の一般化で等で40年の間に模型の楽しみ方が大きく変わったということでしょうか.
なお,当時車両のスクラッチビルドをするにあたってはTMS誌に掲載されていた真鍮製車両の製作法(例えばTMS221(1966.11月号),片野正巳氏執筆の金属工作の手引き・キユ25の作り方)等を全面的に参考にしましたが,思えばこのような「作り方」的な記事も雑誌からほとんど姿を消してしまいました.

かつてTMS誌に掲載されたいた真鍮製車両の製作法の例

まずは真鍮版から車輌を製作するにあたり,過去に私が上記の記事等を参考に製作した車両とバラキットを組み立てた車輌を比較して.私が感じたバラキット組み立て品ととスクラッチビルドした車両の外観的な違いと製作にあたって私が感じた留意点を述べてみたいと思います.以下の写真は私が真鍮版から製作した車両とキットを組み立てた車輌を比較したものです.下の写真は真鍮版から自作したスハネ16です(台車は仮のものを取り付けてあります)

真鍮版から製作したスハネ16

こちらはバラキット(フェニックス模型店製)を組み立てたオハネフ12です.

フェニックス模型店製キットを組み立てたオハネフ12(蒸機暖房仕様)

両者の印象を比較すると,自作品の屋根Rが実物と異なること,窓の位置と天地寸法が実物と異なるため(キットが正しい),自作品の印象はキット(実物)と異なったものになってしまっていますが,これは設計上の問題で,側板の平面製,屋根カーブの稜線の乱れは自作品でもキットとの差はほとん感じられず,車体の曲げという面では寸法を正しく設定すればスクラッチビルドでもキットと比較して遜色ないレベルには仕上げられそうです.
一方,窓周りを詳細にみるとキットと自作品では印象が大きく異なります.
自作品は窓を糸鋸で窓抜きし,やすりで仕上げてあるのに対し,キットはプレスで窓を抜いてあります.このためキットは窓の周囲がダレており,これが実物の窓の周囲の溶接サンダー仕上げの雰囲気を出しています.キットはこのダレ量を雄型と雌型の型の隙間等で意図的に調整しているのかは不明(キットの窓の内側にバリが出ているのはその調整のせい?)ですが,屋根の曲げや側板の平面製は両者同等でもこの窓周りの印象でキットの方がより実物の印象を再現しており,窓周りを詳細に観察しなくても全体的に見た時の印象を実感的にしています.また,窓上の水切りもプレスのRが真鍮線を取り付けた自作品よりもより実物に近い印象を与えています.自作品でキットと同等以上の実感を得るにはこの窓周りのエッジの処理が課題となりそうです.

10系寝台車の自作車両の窓周り
フェニックス模型店製の10系寝台車キットの窓周り

.また窓周りの表現では,固定窓のHゴムの表現も自作における課題となります.プレスによる「ソフトな」Hゴムの表現は自作ではなかなか難しく,Hゴムは少しゴツくなるのを承知で真鍮線等で表現するか思い切って省略するかのどちらかを選択する必要がありそうです.ちなみに自作のオロネ10は固定窓のHゴムは省略していますが編成に組み込んで走らせた際には少なくとも私にとってはHゴムの有無はそれほど気になりません.

真鍮版から自作したオロネ10の窓周り.Hゴムは塗装で表現.
フェニックス模型店製のキットを組み立てたオロネ10の窓周り

一方,ウインドシルとウインドヘッダがついた旧型客車の車体では10系客車ほどキットと自作品の際は感じられません.スロ62は冷房化のため低屋根構造に改造されていますが,非冷房の旧型客車に関しては真鍮版からの自作の方が屋根のカーブが実物に近い形で再現できるような気もします.

真鍮版から自作したスロ62の窓周り

以上のように,自作車体をキットと同等以上にする一番の留意点は窓周りの表現である考えられ,車両のスクラッチビルドではこの部分の技法を検討して確立する必要があります.逆に言えばこの点さえ克服できればキットと遜色ない車体がスクラッチビルドで製作できるのではないかとも考えられます.
 とは言っても私の真鍮製車両のスクラッチビルドには長いブランク期間がありますので,このような細か部分を検討する前に昔の記事の製作法を参考に真鍮板から車体を製作し,基本的な部分が当時製作した車両と同等以上かつキットに比較して遜色ないレベルで製作できるかを確認することが先決です.そのため窓周りの表現はその中で検討していくこととし,まずは失敗覚悟でスクラッチビルドによる車体の製作を行ってみることとしました.そこでまず手始めに製作したのが車掌車「ヨ5000」で,その後製作したのが20系気動車(キハ25,キハ52)です.次回以降はその製作のプロセスや使用した工具等を順次紹介していきたいと思います.


最後までお読みいただきありがとうございました.

レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(15) -アクセサリの製作(4:安全性の観点から規則等で要求されているアクセサリ)-

前回まで2回にわたりこのレイアウトの中では ”大物” のアクセサリとして電柱と柵を紹介しましたがここからは所謂 ”小物” と言われるアクセサリを紹介します. 製作するアクセサリは以前 “レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(12) -アクセサリの製作(1:構想のプロセス)-” で一覧表にまとめましたので今回からはその表に従って紹介していきます.

<車両接触限界票>
車両接触限界表は分岐器の分岐側の線路枠に建てられる標識で車両を停車させる際この標識より分岐器側に列車を停車させることを禁じる標識です. その形状は一般的な”甲号”と積雪地で用いられる”乙号”があります.今回のレリアウトは北海道タイプですので製作したのは積雪地用の”乙号”です. その寸法は機芸出版社発行の”シーナリーガイド”に掲載されているのでその記事の寸法に従って製作しました. 材料は1×1㎜の檜角棒でそれを3角形に整形して目止め後塗装したものです. 私は積雪地には住んでいないのであまり馴染みがないものですがこの”乙号”の高さは1200㎜ありますので積雪地以外に設けられる通称”豆腐”と呼ばれる”甲号”に比較すると非常に目立ちます. ただ”甲号”を使用している地域でも全く積雪がないとは言えませんのでもし雪が降ったら標識は一瞬のうちに見えなくなるような気もするのですが大丈夫なのでしょうか. ちょっと心配です. この標識は線路間隔が4mを下回る地点(線路間隔が4m以下の場合には線路間隔の値を下回る地点)に設けられるようですが, 前述の記事にもあるようにこの値(線路間隔50㎜)で設置すると留置線の有効長が短くなりますので線路間隔42ミリの地点に設けてあります.

レイアウト上に設置した車両接触限界票.

<車止め(転動防止)>
側線に留置された車両の転動防止のため線路に跨がせておくストッパでこれも上記記事の中に製作法が掲載されていますが構造が複雑で製作するのが大変なようにに思えましたのでエコーモデルのパーツを使用し, 白塗装をして正面から見て左側の側線の2箇所に取り付けました. 余談になりますがが中学生の頃こんな車止めは車両を止める効果があるのかと思ったのですが物理の授業で習った斜面の問題で計算すると勾配がほとんどなければこの車止めにかかる力は意外に小さく車両が加速していなければこのような車止めでも意外と効果があるのではないかと納得した次第です. なお取り付けに際しては車両と干渉しないかの注意と設置後に手持ち車両によるチェックが必要です. 特に蒸気機関車の台枠下のブレーキロッドの干渉には注意が必要です.

車止めは車両との干渉に注意が必要です. クリアランスが一番厳しいのは気動車の台車より蒸気機関車のブレーキてこのようです.

<一時停止標識(標識/文字)>
一時停止標識には2種類あるようです. 黒十字の停止標識は出発信号機が設けられない(設けない)場所で一時停止を指示する標識のようで信号関連の規定との関連があります. それに対し文字による一旦停止表示は機関庫の入り口等, 信号とは関係しない部分での指示に用いられているようです. このレイアウトでは前者を機関区出口に設け, 後者は機関庫前や給炭台前等に適宜設置しました.

<転轍機(転換機)>
分岐器のポイントレールの切り替えを行うポイント転換期には各種ありますが転轍機と聞いてまずイメージするのは錘付き転轍機ではないかと思われます。かつて東京では武蔵野線が開業する前、山手線と並行していた山手貨物線(現埼京線)には各駅に貨物用の側線がありましたが、そこには作動レバーに錘のついたこのタイプの転換器が多く使用されたいましたので都市部でも結構見る機会がありました。この転轍機は形状に特徴がありかつてはどこでも見られたせいかメジャーなメーカーからパーツが発売されているのはこのタイプです。ただ、この転轍機は信頼性に問題があるため重量のある機関車が通過する機関区の転轍機としては使用されないようです。そこで今回はエスケープ式転換器(S型ポイントリバー)と呼ばれるタイプの転轍機を製作しました。

転轍機と線路の間には網いたと檜角材で製作した作動装置の目隠し版を取り付けてあります.

このタイプの転轍機は信頼性が高く、今でも各所で見ることができます. なお,選定にあたっては転轍テコと羽根とランンプがついた転轍器標識を組み合わせたタイプも考えたのですが、オレンジ/紫色に光る標識は魅力的であるものの、ポイントレール転換時に動く機構の製作は私には難しく、写真撮影時はともかく、実際にに運転する際には動かないとかえって実感を損ねると思い採用を見送りました。製作過程は以下の写真を参照願います。

ベース部はEvergreen社製のパイプと角棒で作成しました.
標識部はt=0.3のプラ板を円形に切り抜き、スリットを入れて組み立てました.
ベース部と標識部を真鍮線を介して組み立て、真鍮線から製作したレバーをつけて完成です. ベース部と標識部を繋ぐ真鍮線は、標識側には角形の部材を、ベース側にはベースのパイプの内径にはまり込む丸棒を取り付けました. ベース部と標識部を繋ぐ棒の長さは長いタイプと短いタイプがあるようです。今回の転轍器は棒の長いタイプとしましたが、少し長さが長すぎました。この後、黒塗装をして標識部に白を塗って完成です.

レイアウトへの取り付けに関しては、枕木の外側に突出している分岐器の作動レバーを隠すため、転轍機側には網目板と真鍮角材で製作した蓋、反対側にはSTウッドと檜角材で作成した蓋を取り付けてレバーを隠してあります。

<車止め(線路終端)>
車止めはエコーモデルのパーツを使用しました。品番#155の、第3種甲(l号)と呼ばれるタイプを採用しています。これは車庫の車止めとしてよく用いられているタイプです。実物では白く塗られた例もよく見られますが、目立ちすぎると考え、今回は黒塗装としました。このパーツはレールも一体に整形されていますが、そのレールが細い(Code70?)ため、Code83のレールと高さを揃えるのに苦労しました。この辺り、実際に使用されるレールのサイズが異なることを考えて各種レールに対応できる設計にしても良い(そこまで細密さにこだわる必要はない)ような気もします。米国のModelrailroader誌のコラム記事等にはrealismという言葉と同時にImage をre-createするという表現が出てきます. 今まで色々レイアウトを製作してきた中で, レイアウト製作では車両製作以上にこのImage をre-create(再創造)するということが重要になると感じており, 市販のパーツを使用する際には注意が必要であると感じます.

パーツの車止めは取り付け時に線路との高さの調整が必要になります. 車止めの手前の線路は頭部を塗装しました.

<注意表示(踏切・ゼブラマーク・立ち入り禁止)>
これらの注意看板の制作方法はこれまで製作したレイアウトと同じ方法で作成してあります. その手順は ① 各種素材やアプリを使用して図案を作成 ②コンビニのレーザープリンタで出力 ③ 表面を保護するためにPPテープを表面に貼り付け ④所定の大きさに切り抜き ⑤足をつけたプラ0.5㎜厚のプラバンに貼り付け ⑥取り付け板と足を塗装 という手順です. ゼブラマークは表計算ソフトで作成した黄色と黒の縞模様を斜め45度方向で帯上に切断して製作しています.

図案作成の際はあらかじめ大きさの異なる同一図案を作成し, 配置する場所によって使用するサイズを適宜選択しています.
表計算ソフトにより製作したゼブラマーク


なお、プラ板への貼り付けは以前は両面テープで行っていましたがテープの厚さが気になったため今回からプラ板への貼り付けは今回からゴム系の接着剤を使用しました. これらの表示をレイアウト上に設置したのが下の写真です.

レイアウトセクション上に設置した今回製作したアクセサリー
柵に取り付けた立ち入り禁止マーク

次回は機関区として必要なアクセサリ類の紹介をしたいと思います. 最後までお読みいただきありがとうございました.

レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(13) -アクセサリの製作(2:電柱)-

前回レイアウト上に配置するアクセサリに対する構想のプロセスを紹介しましたが, 今回から具体的なアクセサリの製作過程を順次紹介していきたいと思います。まず最初は電柱です。電柱にはいろいろなタイプがあるとともにレイアウト全体に設置されますのでレイアウト全体の印象を決定づける大きな要素となる重要なアクセサリです. そのため実際の製作(製作方法の検討の前にモデル化するプロトタイプの選定とそれを設置する位置の決定等の構想設計が必要になります.

⚫︎レイアウトにおける電柱の役割
故なかお・ゆたか氏(河田耕一氏)は機芸出版社発行のレイアウトテクニックに掲載された ”蒸気機関車のいる周辺” の中で電柱について以下のように述べておられます.   ”・・・特にこのレイアウトセクションの主役ともなる電柱 ーもし電柱を取り去ったら実在感は半減してしまうー は河田氏(注:河田耕一氏)の未発表原稿によったものである・・・・”  
実際にレイアウトを製作するとこのレイアウトセクションでもこの言葉は全くその通りであると感じます.上記のレイアウト・テクニックの中には後にエコーモデルの店主となられる阿部敏之氏のアクセサリの製作法の記事があり, この記事で製作法が解説されているアクセサリの多くは後にエコーモデルからホワイトメタル製のパーツが発売されており今回私も使用しています. ただストラクチャーを製作し, そのストラクチャーをレイアウト上に配置してアクセサリの構想を練り始めた時点で感じたことはたとえこれらの形態の整ったアクセサリーパーツを各所に並べてもそれだけではレイアウト全体の印象は散漫で実感に乏しい物しかできないのではないかいうことです. しかし実際に電柱を製作してレイアウトに電柱を立てると今まで広く感じられたレイアウトの敷地が引き締まり, レイアウトがかつて見慣れた風景に近づいてきます. 我々が機関区等で車両全体の写真をフェンスの外側から撮影しようとすると車両全体をスッキリ撮影するためには電柱は非常に邪魔なものですが, 機関区のような車両やストラクチャーの密度が高い場所を実感的に再現するためには車両という対象物を鑑賞する際にその視線の妨げとなる電柱の存在がレイアウト上で車両を鑑賞する際にその風景が実感的か否かを決定づける重要な要素となるのではないかという気がします. 余談ですが私も長年鉄道の写真を撮影してきましたが最近一部の所謂”撮り鉄”は車両が他のものに隠れる事を非常に嫌うようです. これは昔のSLブームの頃からの傾向ですが私たちが普段鉄道車両を見るときにはそのような「障害物」があることがほとんどですのでそれがない写真は後から見ると臨場感がなく類型的でつまらない気がします. 以前どこかで「自分がその時失敗と思った写真ほど後で見て面白い」という記事を読んだ気がしますが, この年になって昔撮影した鉄道の写真を見ているとそれも一理あるような気がします.

機関区等にある柱上トランスの載った電柱は非常に目立つ存在です.
独特の形態をした照明灯は機関区だけでなく全国の国鉄の施設でみることができます.

<構想>
まず構想の初期段階で最初に決定したのは電柱は真鍮製としてハンダで組み立てるということです. 私は今まで製作してきたレイアウトセクションに照明灯を3本設置しましたがその時感じたことはこの程度の数でもレイアウト上のこのような支柱はもどんなに注意しても手を引っ掛けて破損してしまうということでした。車両をレール上に置く際には支柱がない部分から行うとかセクションに接続したレールから入線させることができますが, レイアウトにはレールクリーニングが欠かせません. 前作のレイアウトはMärklin Digitalを採用いるため比較的レールは汚れにくく車両側でも集電不良に対する対応が行われていますがそれでもやはり長期間運転しないとホコリやサードレールのサビ等でレールクリーニングは必要となります. 一方今回のレイアウトはレールに汚れがつきやすいと言われるDC運転で車両も古い自作の車両が多くあります. そのためレールクリーニングの頻度は多くなることが予想されますし, レールクリーニングカーに頼るのも不安です. また電柱の本数も前作よりかなり多くなりますのでレールクリーニング時に電柱に清掃部材を引っ掛けて破損する確率は非常に高くなると予想されます. そのため電柱は強度の高い金属製とすることが必要と判断しました. また金属で製作することのもう一つの利点は万一破損しても手間さえかければ外観を強度も含めて元の状態に戻すことが可能であるということです. プラ製ですと破損した場合は破損部分を接着剤で補修することになりますが強度的にも外観的にも元に戻すのは困難で状況によっては新作する必要も生じます. しかし金属製(ハンダ組み立て)であれば変形の修正も容易であり部材が脱落しても破損部分の塗装を剥がして再度ハンダ付けして再塗装すれば強度も外観も元に戻ります. 私が以前製作したZゲージレレイアウトでは駅の部分にタワーマストを立ててそこにクロススパンを渡してあり, レイアウトにアクセスした時にクロススパンに手を引っ掛けて破損させることが時々ありますが, クロススパンを真鍮線のハンダ組み立てとしてあるため破損しても何度でも元通りに修復が可能です. レイアウトのアクセサリはプラ, ペーパー, 木材で作ることが多いのですが金属で製作することも選択肢として考えておくと良いと思います.

クロススパンは真鍮線をハンダ付けで組み立ててありタワーマストに対して取り外し可能としてあるので破損しても容易に修復が可能です.

<製作する電柱のタイプの決定>
次に実際に製作する電柱の形状と設置位置を決めていきます. 雑誌の写真や地震の撮影した写真を参考資料として私は下図の5パターンを製作することとしました.
A: 横桁2本の電柱
B: 横桁1本の電柱
C: 柱上トランスが設置されている電柱
D: 照明灯(水銀灯)+横桁1本(横桁は図には無し)
E: 街灯+横桁1本(横桁は図には無し)
Dは国鉄の機関区や電車区でよく見られるタイプで鉄道施設以外ではあまり見ませんので国鉄が標準化していたタイプかもわかりません(上の実物写真参照).
 タイプが決まったらタイプ別のに設置場所を決めましたが種類や位置は最終決定ではなく製作する本数の目安とするために決めたもので, 最終的には現物合わせで配置を決定してあります. また下記の 図面には本数が記載してありますが, 一般的な電柱であるA ,B,Eはずの所要数より1本多く製作することとしました.

<製作>
タイプと本数が決まったら製作用に電柱を図面化します.高さ等の寸法は上記レイアウト・テクニックの記事を参考にして決定しましたが, 取り付け時にベースボードの穴を貫通させれば高さ方向は調整できますので高さは高めにしてしてあります.

電柱と照明灯の構造の概略を数に示します. 電柱の柱はφ2.1㎜の真鍮パイプ, 横桁は1×1㎜の真鍮アングル材をで作成しています. その他1×1ミリの角線, 厚さ0.3ミリの真鍮版で碍子台や柱上トランスの置き台を製作しました. 照明灯はφ0.3㎜とφ0.5㎜の真鍮線, 1×1㎜のプラ角材, φ0.15㎜のエナメル線を用いて製作してあります. LEDは表面実装LEDで1608(1.6×0.8㎜, 厚さ0.36㎜)タイプの白色を用いました. 図に示した電柱の構造はType Cですが支柱と横桁の取り付け部の構造は他のタイプでも同じです. 横桁の短い真鍮線は後で碍子を取り付けるときに使用するものです.

以下、写真を主体に製作手順を紹介します.

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レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(12) -アクセサリの製作(1:構想のプロセス)-

前回までにレイアウト製作においてシーナリーとストラクチャーと呼ばれている部分の紹介を終わりましたので今回から一般的にアクセサリと呼ばれるより細かい部位についての製作過程の説明を行いたいと思います. その初回としてまずは製作に当たっての構想設計((製作するアクセサリを決定するまでのプロセス)について私が行った手順を少し詳しく説明してみたいと思います.

⚫︎アクセサリの定義
過去の雑誌のレイアウトの製作記事ではレイアウトの製作過程は大きくシーナリーの製作とストラクチャーの製作に分類されています. そしてその後には所謂車両のディテーリングに相当する細かい部分を製作する作業があります. その呼び方は記事によっていろいろあるようですが1970年代にTMS誌に発表されている記事ではTMSのスタッフの方が執筆している記事を含めて”アクセサリの製作”と記載されている例が多いようです。
 この”アクセサリ”という意味を辞書で調べてみると辞書には語釈として 「①服装を引き立たせるための装身具②機械類の付属品・周辺機器 」と記されています。私の解釈ではレイアウト用語の”アクセサリ”はこの語釈のどちらかというものではなく両方の意味であると考えます。そして①と②の大きな差は①は後から付け足すもので極端にいえばあってもなくても良いもの(英英辞典でははっきりそう記載しているものもあるようです), ②は機械(システム)の設計段階で機械やシステムの設計者がそのシステムで要求されている機能を満足するため, あるいはより向上させるために用意する(中には法規上必須のものや現場で判断して設置要否を判断しているものもある)ものではないかという気がします. このように考えるとレイアウトの細部仕上げを”アクセサリの製作”と表現することは”言い得て妙”であると思う反面, 実際のレイアウト製作では実感的な情景を製作するためには写真等で見た風景をただ漫然とそのまま作るのではなく, 上記の語釈①と②を意識して, 製作するものが以下に記すどのカテゴリに属するかを意識して製作するアイテムと配置する場所をよく考えて製作を進めていくことが必要であると感じます. またこのためにはある程度の鉄道に関する法規や規定は勿論, 地域的な特性についても知っておく必要があると思います.
1. 安全性等の観点から規則等で要求されているアクセサリ(様式の選択も含む)(①)
2. 鉄道施設しての機能を満たすために必要なアクセサリ(①)
3. 機関区という機能を満たすために必要なアクセサリ(①)
4, 機関区内で職員が日々業務を行なっていることを感じさせるアクセサリ(②)

⚫︎ 製作したアクセサリ
我々(私?)がこのような ”アクセサリ” を製作しようとした場合は参考資料として自身が撮影した写真や雑誌等に掲載されている資料を用意し, そこに過去の自分の体験や記憶を加えて何を製作するかを決めていくことが多いと思います. 私は実感的な情景を製作する場合にこの決定の際に大切なことは, それらの資料や自身の記憶をそのまま再現しようとするのではなく製作するアイテムは全体的なバランスを考えながら決定していくことではないかと考えます. 特に自分が実施に見た情景や体験はとうしてもそのままレイアウトで再現したくなります. しかしこの再現にこだわりすぎると局所的には満足なものができても全体を見渡すとそれが返って実感を損ねるということにも留意しておく必要があります. 以前製作した外国型のレイアウトではこの過去の自分の体験や記憶が全くなかったのである意味淡々と製作を進められたのですが, 今回のように自分がかつて親しんだ情景を再現する日本型レイアウトでは自分の体験にこだわりすぎないことを意識しながら進める必要があると感じました. 特に今回のレイアウトセクションのような全体を一度に見渡せる(鑑賞者が場所を移動しなくてもある程度レイアウトの細かいところまで観察できる)レイアウトセクションは鑑賞者の移動により映画のカット割のような効果が期待できませんので特に注意が必要です. そこで今回試行してみた方法は実物写真をそのまま参考にしてストラクチャーを配置したレイアウト上に配置するアクセサリを決定するのではなく, まずストラクチャーを配置したアクセサリのないレイアウトの写真を撮影し, その写真と実物資料を見ながらその写真にどのようなアクセサリを加えれば良いかを検討し製作するアクセサリをリスト化する方法です. 実物写真から製作するアクセサリを決めていく場合, そのアクセサリの背景に写っている情景や建物は当然レイアウトのものとは異なります. このため参考写真のアクセサリにのみ注目して製作するアイテムを決めてしまうとアクセサリの背景となる建物や情景が参考写真と異なるため実際にアクセサリを配置した時に違和感を感ずる場合があります. これに対し撮影したレイアウトの情景や建物の画像を見ながら製作するアクセサリを決定する方法ではレイアウト上の建物や風景を基準に検討しますので実物の資料からより的確に製作するアクセサリの種類や個数を決定することができます. この際留意することは写真をいろいろな角度から, またいろいろな範囲を撮影してそれらを見ながら検討することで, あまり狭い範囲で検討するとその部分だけは実感的でも全体的に見ると不自然であったり散漫な印象になる恐れがあります. もちろん車両工作より修正が容易ですので事前に完璧に決めることはないのですが, 実物写真の情景をレイアウトで再現させる場合,このようなプロセスを導入することにより無益な「こだわり」が排除できるとともにに, もし一部に不満な点があっても最初にそのアイテムをそこに配置しようと考えた理由を振り返ることができ修正作業が容易になります. さらに製作するアクセサリをリスト化するということは製作の効率化にもつながると思います.

アクセサリを配置する前の乗務員詰所付近の写真. アクセサリの配置を検討する際に使用したもの.
アクセサリー配置後の乗務員詰所付近
アクセサリを配置する前の給砂塔付近の写真. アクセサリの配置を検討する際に使用したもの.
アクセサリー配置後の給炭台付近

上記の観点で今回製作したアクセサリを一覧表にすると以下になります.

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レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(9) -ストラクチャーの製作(2) : 給砂塔と砂焼き小屋 –

給水タンクに続き紹介するのは給砂塔と砂焼き(砂煎り)小屋です。今まで紹介してきたストラクチャー(建物)は基本的に木造建築であり、製作法はペーパー製の車両にも通ずるものがありしたが、給砂塔は塔の部分が鉄骨製でありプラ素材を使用した工作となりますので今までの素材に紙と木を使用した工作とは少し異なった工作になります。以前の記事にも記載したのですが、この給砂塔という設備はこのレイアウトを製作しようと思い立つまでその存在を殆んど意識していませんでした。今回改めてその理由を考えると、思い当たることがありました。かつて60年代から70年代のTMS誌にはレイアウト製作のための参考資料として駅や機関区の設備の実例を写真とともに紹介した記事が多数掲載されておりました。その記事は80年代に”シーナリー・ストラクチャーガイド”等の名称でTMS誌の別冊として出版されており、当時私も熱心に読んでいたのですが、今読み返してみると私が読んでいたそれらの別冊(シーナリィガイド/シーナリィ・ストラクチャーガイド1/レイアウトテクニック)の中に給砂塔の解説記事が掲載されておりません。どうもそれが給砂塔を注目していなかった理由のような気がします。レイアウトの一角に作る機関区ではスペースが限られますので、そのような機関区ではこの給砂設備は省略されることが多かったのかもわかりません。

完成した給砂塔と砂焼き小屋

それはさておき、まずプロトタイプの選定を行いますが、どうも蒸気機関車の活躍末期の給砂塔は標準化されていたようで、両側の線路に給砂するために砂を貯蔵するタンクを櫓の両側に2基備えたタイプと片側に1基備えたタイプの差はあれど、それらの外観は写真で見る限り全国の機関区でほぼ同一のようです。一方、砂焼き(煎り)小屋は各種のタイプがあるようです。最初に給砂塔を製作しますが、図面は入手できなかったため、写真を参考にして数種類のイメージ図を作成しました。実際に製作した形状は右側の図に近い形状です。

給砂塔のイメージ図です. 図では櫓の根本部はストレート形状となっています.

まず給砂タンクを載せる櫓を製作します。櫓の主柱材と水平材はEvergreen社製の1.5㎜アングル材、斜材は同じくEvergreen社製の幅0.75㎜、厚さ0.38㎜の帯板を使用しました。塔は下側が広がった形状になっていますが、この広がりは水平材の長さを変えることにより主柱材を湾曲させています。湾曲量はわずかですので湾曲による主柱材のねじれは認められません。なお、下の写真のように水平材の端部は主柱材に合わせて加工してあります。接着にはGSIクレオス社製のプラモデル用接着剤Mr. CEMENT Sを使用しました。余談?ですがこの接着剤に限らず鉄道模型の製作に使用する接着剤、溶剤、塗料等の中には危険な化学物質を含む可能性のある製品があるような気がします。危険。有害な化学物質を含む製品には危険性や取り扱い時の注意等を国連が定める書式で記載したSDS(製品安全シート:Safety Data Sheet)が作成されますが、この接着剤にはSDSが存在します。一般的には生産現場等で日常的に使用する化学薬品等についてSDSが存在する製品についてはその記載内容(危険性)の把握と掲示等での使用者に対する周知徹底が求められます。模型に使用するこのような薬品類は日常的に使用するものではありませんが、自分が使用する製品にどのような危険度があるかを明確に知りたい方は一度その製品のSDSの有無と記載内容をチェックしてみると良いかもわかりません。

主柱材と水平材はEvergreen社製の1.5㎜アングルを使用しました.

主柱材と水平材の組み立てが完了したら斜材を主柱材に接着します。斜材は中央部でクロスし撓みが発生しますが接着時はこの段差は無視して組立てます。

斜材を接着する際は斜材がクロスする部分のたわみは無視して接着します.

接着剤が固着したら片方の斜材がもう一方の斜材とラップしている部分をカッターナイフで除去します。

斜材を接着後, ラップしている斜材の一方を切断した状態の写真です.

片方の斜材のラップ部分を切取り後、交叉部分にプラの小片から製作したガゼットプレートを貼り付けます。これで斜材は完成となります。

斜材中央部のガゼットプレートは幅2ミリの帯板から作成して取り付けます.

上記の作業は2面については平板上での作業が可能ですが、他の2面についてはまず水平材を取り付けて箱上に組み立てた後斜材を取り付けます。その後の斜材の切断作業は組み立てながらの空中作業となりますが、材料の厚さが薄いため歯が薄くよく切れるデザインナイフを使用して切断部に当て板を当てながら切断すれば比較的簡単に斜材の切断は可能です。完成した塔は結構頑丈になります。

完成した櫓の2面をに水平材、斜材を接着して櫓を完成させます.

砂を貯蔵するタンクはペーパーで製作します。図面から展開寸法を求めて木工用ボンドで組み立てます。

砂を貯蔵するタンクはペーパー製です.
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