真鍮版から車輌を作る -(1) :製作のための環境整備と罫書き-

製作中のキハ52とキハ25.窓周りのテーパーはヤスリ仕上げとしました

このブログには過去に私が製作したペーパー車体の車両を多数紹介させていただいていますが,その経験を踏まえ,誰かに「ペーパー車体の製作と真鍮版からの車体製作とどちらが簡単か?」という質問をされたら私は「単純に比較することは難しいが,ペーパー車体に比較して真鍮製車体のほうが作りやすい面も多数ある」と答えます.沸きらない答えで恐縮ですが,そう考える大きな理由は①半田という”可逆性瞬間接着剤”が使用できること,②製作中に各部の形状の修正(ヤスリ作業)や一度取り付けた部品の交換が簡単に行えることで,特に①に挙げた半田付けによる組み立てでは部品の取り付け取り外し(位置の微修正)が何度もでき,また部品をを瞬時に接合できるという大きなメリットがあります.
一方,私が『バラキットの製作とペーパー車体の製作とどっちらが簡単か?』と質問されたら間違いなく「バラキット組み立ての方が簡単」と答えます.理由は部品があらかじめ用意されていることもありますが,一連の組み立て作業をほとんど上に述べたメリットがある半田づけで行うことができるということがその大きな理由です.ペーパー車体の製作では接着(乾燥),目止め(塗装,乾燥,やすりがけの繰り返し)等,段取りの異なる作業が混在するとともに待ち時間が多く,接着剤も塗料も可逆性があるものではないためある意味各工程が「一発勝負」となり失敗すると最初からやり直すか修正に多大な労力が必要になります.もちろん真鍮車体工作でも失敗するとその瞬間に”GAME OVER”となる工程はいくつかありますが,その工程は割と限定されておりそこでの失敗防止の対策をしっかり行ない自分なりの手順を確立して何両か車両を製作して行いコツを飲み込めば失敗の確率はかなり低くなると感じます.(具体的には手順の紹介の中で説明します).乱暴に言ってしまえば真鍮板からの車体制作の難易度はペーパーによる車両製作の難易度と同等と言っても過言ではないと思います.
それでもバラキットの組み立て経験のある方が真鍮板からの車体製作を難しいと感じるのはその「最初のとっつきにくさ」と「時間がかかる.特に途中で失敗するとそれまでの苦労が水の泡」というイメージが大きいからではないかと思われます.確かにバラキットの組み立てに比べれば真鍮車体工作は「バラキットにアソートされている部品の製作」に今までにない作業環境と多くの時間を要しますが,上述のように一部の工程に注意すれば失敗は防げますし,金属車体とペーパー車体で車体の基本部分が完成してディテーリング作業が開始できるまでの時間を比較すると,車体が箱状になるまでの時間はペーパー車体の方が短いものの下地処理の時間を含めて考えるとその時間と失敗の確率はそんなに変わらないような気もします.ただ,最初にあげた「とっつきにくさ」という面では,真鍮車体の製作にはペーパー車体の製作やバラキットの組み立てとは異なる作業環境の準備が必要ですのでまずはその環境を作ることが必要になりますので,まず私の作業環境を紹介したいと思います..

・作業環境の整備
真鍮車体の工作はペーパー車体やバラキットの組み立てのように,ライティングデスクの上で,それまで使用していたPCや本の代わりに作業台を置いてすぐに作業を始めることはできません.大きな違いは特に板の切断(窓抜きを含む)作業で,加工する真鍮版の加工箇所の上下(特に下側)にある程度のスペースが必要になること,また加工に伴って発生する多量の切粉の飛散に対する対応をが必要となることです.具体的には真鍮版を切断する際に切断箇所で鋸刃を真鍮版に対して垂直に保持して上下に動かしますので板の切断箇所の下方には糸鋸の鋸刃を真鍮版に垂直に当てた状態で糸鋸を上下に動かせるスペースが必要です.加えて切断地点からは切粉が発生し下方へ落下しますのでその切粉を飛散させない対応も必要です.ちなみに私が今回行った方法は下記の方法で,真鍮版を置く作業板(9㎜厚のシナ合板)をCクランプで机のエッジからオーバーハングさせて固定し,その下方の机の引き出しを開けてその上に板を載せて切断時に発生する切粉を集めています.

糸鋸作業を行なう作業台

この辺りの詳細は以前機芸出版社から発売されていた菅原道雄氏著の「鉄道模型模型工作技法」に詳しく解説されています.この本が発行されたのは1983年で,私もこの本の記載内容をかなり参考にさせていただいていますが,記載内容は本格的なもので最初からこの本に記載されているとおりにやろうとすると,結構大変です.私はこの記事の内容に比較するとかなり「ズボラ」な方法で工作をしています.作品の出来栄えがイマイチなのはそのせいかもわかりませんが,過去にバラキットを製作したことがあり,製作に必要な工具が一通りあれば上記の環境を作り,少しの工具を買い足せば作業は始められますのでまずはこの程度の作業環境で始めてみるのも良いかもわかりません.なお,切粉に関して特に注意が必要なのは近くの電気製品の近傍への切粉の飛散で,その中でも特に注意が必要なのは電気接点が露出しているテーブルタップ近傍への切粉の飛散です.

・設計
バラキットとは異なり,車体を自分で製作する場合には当然加工用の「図面」が必要になります.ただ,これはペーパー車両を製作する時にも必要で,真鍮工作であるからといって特別な図面は必要ありません.私はペーパー車体も含め,車両製作時に一般の人が思い浮かべるような「図面」は製作していません.罫書きのための寸法は鉄道雑誌等に掲載されている図面に1/80の寸法を記載して,それを用いて製作しています.少し乱暴な言い方ですが,製品の製造時に規格に則った厳密な図面を用意する目的は一言で言うと「設計者が意図したとおりのものを他人がばらつきなく(一定のばらつきの中で)大量に作るため」です.そしてそのために図面は内容を一義的に解釈できるように製図規格に則って製作のための図面を作成することが必要です.また加工時の誤差(ばらつき)を最小限にするために加工方法に応じて適切に寸法を指示することも重要です.そのため図面を出図する際にはこれらの観点で図面を複数のレビュワーでレビューします.しかし車両の製作ではそもそも製作するのは自分ですし,罫書き線を基準として加工をどれくらいの精度で加工するかはいくら考えても自身の裁量と技術に依存する(必要な場合は自分で治具を作る)ので,図面は将来自分が同じものを作りたいと思った時に以前に作った車両を製作した際の寸法が分かれば様式は後日自分が理解できるものでよく,ペーパーでも金属でもこの状況はかわりません.私は原寸大の図面を書くこともありますが,それは寸法を記入するというよりは原寸大の図面により全体的な形状のバランスをチェックするためで,模型雑誌や図面集に実物大の図面が掲載されている場合は作成していません.ただ今回製作したキハ20系の気動車は,手持ちのスタイルブックに1/120の図面が掲載されているものの実物大の図面がなかったため実寸大の図面(外観イラスト)を作成し,そこに寸法を記載しています.自宅には1970年頃から故.なかお・ゆたか氏作成の折り込み図面が掲載されたTMS誌と1974年に発行された”日本の車両スタイルブック”がありますが,なぜかどちらにも当時の国鉄でメジャーな存在であったキハ20系やそれと車体形状がほぼ同じであるキハ55系の実物大の図面は掲載されておりません.当時実物界では一世を風靡していた20系客車も同じ状況です.

今回作成したキハ25の原寸大の”図面”です.特に2段窓の車両では模型の実物大の図面が入手できない場合,窓の横桟の位置を自分が作成した実物大の”図面”で検討する必要があります.

・材料への罫書き
作業環境が整って図面ができたら材料への罫書きを行います.私が罫書きに使用しているのは以下の工具です.なお,罫書きの段階では糸鋸作業はしませんので上記のような作業環境は不要です.

真鍮版の罫書きに使用する工具

1.300㎜のステンレススケール・・・車体の全長等をチェックする時等に使用します
2.150㎜のステンレススケール・・・寸法測定のほかスプリングデバイダーに寸法を設定する際に使用します.表面が梨地仕上げの方が目盛りの視認性は良好です
3.スコヤ・・・比較的小型のものを使用しています.私は全長75㎜のものを使用しています.あまり大型のものは使いにくいので小型のものが良いと思いますが,以下に説明する方法で罫書きを行う場合全長50㎜以下のものは使用できません(理由は後述).
4.罫書き針・・・ホビー用として市販されているもので好みのものを選択すれば問題なく使用できます.真鍮は柔らかいので高価な針の硬度が高いものは不要です.
5.スプリングデバイダー・・・正確な罫書きを行うためには必須の工具です.金属加工用向けの製品が必要で製図用のスプリングでバイダーでは正確な罫書きはできません.私は40年ぐらい前に購入したドイツ製のものを使用しています.購入当時はあまり選択肢はありませんでしたが現在ではAmazon等で同じような製品が多数販売されています.ただ選択肢が広がった分中には粗悪品もあるようですので購入にあたっては実物を見て精度チェックした上で購入した方が良いと思います.私は足が75㎜まで開くものを使用していますが足がこの程度開けば特に支障はありません.
6.ノギス・・・直接罫書き作業には使用しませんが,寸法の測定時にあると便利です.
このほかにマーキング用の油性ペンが必要です.

・罫書き
工具が揃ったら真鍮版上への罫書きを行います.まずペーパー車体と異なるのは罫書きは裏側(曲げた時に内側になる面)に行うということです.左右の側板の窓配置が異なる車両でここを間違えると完成時に表面に罫書線(傷)が残りますのでこの時点でGAME OVER,作り直しです(傷をある程度許容すれば継続可能ですが).
私は車体には厚さ0.3㎜,幅100㎜の真鍮版を使用しています.私が幅100㎜の真鍮板を用いるのには理由があり,それは小型のスコヤで罫書きを行うためです.具体的にはまず真鍮版の長手方向に中心線を引き,その中心線上に窓寸法を罫書き,左右の窓の天地方向の罫書きは並行度が保証されたエッジにスコヤを当てて片側ずつその中心線に罫書いたマークを基準に行います.このような方法を採用した理由は片側の辺からの白湯の側板への罫書きは大型のスコヤが必要で取り扱いにくく,万一エッジの突き当て面にゴミがあったり押し付け時にわずかな隙間が開いていたりすると基準から遠いところの誤差が大きくなるためです.この方法で今回製作したキハ52の罫書きが終了したものが下の写真です.

罫書きが終了した側板

・マーキングの方法
図面の寸法をでバイダーに設定し,それを真鍮板上にマーキングしていく手順については少し検討の余地があります.先ほど自分が作るので図面はいらないと言いましたが,この段階でマーキングの際に誤差が累積しない方法を少し考える必要があります.罫書きにおいてスケールからデバイダーに寸法を移しとる際,デバイダーを用いて真鍮版上に位置をマーキングする際,マーキングに従って罫書き線を引く際には必ずなんらかの誤差が生じます.例えば全ての位置を端面を基準に積算寸法で各部をマーキングしていくと,誤差の累積で少し離れた同じ大きさの窓の幅が微妙に異なるというようなことも発生します.また車体幅全長を同一の基準からマークすることは実質不可能であるためどこかの位置で基準点を移動する必要があります.これらを勘案して上記のキハ52の場合私は以下の方法で罫書きを行いました.要点は同一寸法の部分は寸法をデバイダーに設定する作業を極力一回としてばらつきを防止することです.
1.左右の端面から客用ドアの端面側をまでの寸法をデバイダーに設定してマーキングする
2.1を基準にドア幅をデバイダーに設定してマーキングする
3.客用ドアからサッシ窓までの寸法をデバイダーに設定してマーキングする
4.サッシ窓幅+窓柱幅をデバイダーに設定してマーキングする
5.4を基準に窓幅をデバイダーに設定してマーキングする
6.Hゴムで支持されている窓部分の寸法をデバイダーに設定してマーキングする
ただ,恥ずかしながら上の写真のように設定を間違えて修正が必要になってしまいました.この修正の場合は間違った線を同一基準で明確に訂正しておくことが重要です.切断時に間違った罫書き線で窓抜きを行うとこの時点で車体は修復不可能となりGAME OVERになります.
実は私は妻板(前面)を製作する段階で曲げの基準として引いた罫書き線と運転室窓の罫書き線を間違えて窓を抜いてしまい,作り直しています.そのため2回目に製作した際は窓位置にXを罫書きました.修正の場合には上の写真のようにマジックペンを使用するよりはこの方が確実で,間違いを避けるため窓には全てX印をつけておいた方が良いかもわかりません.

罫書き線(窓の位置)の誤認対策の例.

なお,話が前後してしまいますが側板の罫書きにあたっては事前に車体断面形状と同じ板を製作し,側板の幅を算出しておくことが必要です.

側板幅を算出するために製作した部品

・罫書き線の引き方について
中心線上にデバイダーでマーキングした位置は罫書き針の先端の感触でわかりますのでその地点からスコヤにケガき針先端を押し当てて線を引きます.線は罫書き針を強く押し当てると溝幅が広くなりますので正確な位置を表すためには弱く当てた方が望ましいのですが,あまり弱い(傷が浅い)と切断時に罫書き線が目立たなくなります.切断時に罫書き線を見失い鋸刃が罫書き線の外側にはみ出すとこれも即修復不能な失敗になりますので,私は傷を浅くするより,線の太さが一定になるように一定の力で罫書き線を引いています.そして切断後に罫書き線に沿って他擦りがけを行う際,その傷の太さが極力一定となるようにヤスリがけを行っています.なお,前回窓周りについているテーパーの話をしましたが,実物の形式図も模型設計図もこのテーパーは無視して寸法が表示されているので罫書きの際はこのテーパーを気にすることはありません.

以上,今回私が行った罫書きの工程を側板を例に紹介させていただきました.この罫書き工程は罫書き面(曲げた際内側になる面に罫書きを行う)さえ間違えなければ致命的な失敗をすることはまずありませんが,間違った線の訂正方法や折り曲げ基準線と窓輪線の混同防止等,後工程での致命的な失敗を防ぐための対策は確実に行っておくことが必要です.

次回は窓抜き作業を紹介します.最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮版から車両を作る -序:製作開始に当たって-

在庫していた最後の真鍮製バラキットであるD51の組み立てを終了した時点でレイアウトセクションの製作に着手し,真鍮製の車両を製作することは今後もうないのではないかと思っていましたが,レイアウトもほぼ完成してしばらく経つとまた金属製の車両の製作がしたくなってきました.しかしHOゲージ(16番)の真鍮バラキットは蒸気機関車以外でも市場には私がリーズナブルと思える価格で入手できるベーシックな真鍮製のバラキットは殆んど存在しておらず,その割にはキットの細密化のためのパーツは多数存在しているという車輌工作を楽しもうとする者にとっては非常に歪んだ状況になっています.ただ,プラ製品も普及してキット自体の需要も減少している現在,この現状にいくら不満を募らせても以前のように市販のパーツが活かせるベーシックな真鍮バラキットが発売されるということ可能性はまずないのではないかと思います.一言に「車両の工作を楽しむ」といっても私にとっては現在発売されているようなな細密キットの組み立ては極端にいえばプラモデルを説明書通りに組み立てるのと変わらないような気がして工夫の余地が少なく,あまり手を出す気にはなりません.工作を楽しむためにこれらの細密キットをさらに細密化するという手段もありますが,今回製作したレイアウトに今まで製作した車輌を並べてみると,車輌以外の部分も含めて実物の世界をトータルで再現して楽しむ鉄道模型には実物の再現にこだわりすぎた細密な車両は要らないようにも感じます.

この状況を打開する方法の一つは車輌を真鍮版から製作することです.私は今から40年以上前,スクラッチビルドで金属製の車輌を製作した経験があります.しかし,パーツの充実等で当時に比較して作品や製品のレベルが上がっている現在,自分で満足ができる車両をスクラッチビルドすることはなかなかハードルが高い気がします.ただ,当時に比較すると製作のために必要な素材や工具は各種販売されており,当時よりは製作しやすい環境になっているのではないかということ,キットを使用しないことでキット組み立て時の感じていた作品の類型化が避けられるような気もします.そこで今回思い切って真鍮版から車輌を製作してみることにしました.製作した車両は現在,車体の基本部分が完成した状態(バラキットを組み立てた状態)まで完成していますが,これからそこまでの顛末と製作のプロセス,製作中で感じたこと等を記しててみたいと思います.

バラキットを組み立てた状態になった真鍮版から自作したキハ25とキハ52の車体


私が約40年前に以前私がスクラッチビルドで客車を製作した頃はピノチオ,谷川製作所等から旧型客車のキットが各種発売されていましたが,10系客車のキットは発売されていませんでした.その一方,当時は急行「津軽」や急行「十和田」等,優等車が10系客車で普通車が旧型客車で組成された急行列車が多数運転されていましたので,それらの列車を再現しようとすると優等車は自作せざるを得ませんでした.このように当時私が車輌を自作する動機は一言で言うと「キットが市販されていないものを自作する」というものでした.その後フェニックス模型店等から10系客車のキットが発売されましたが,それから40年たった現在,まさかキットの入手が当時より厳しい状況になってしまうとは思いもよりませんでした.鉄道模型を愛好する人は当時とは比べ物にならないほど多いと思いますが,プラ製品の普及やNゲージの細密化工作の一般化で等で40年の間に模型の楽しみ方が大きく変わったということでしょうか.
なお,当時車両のスクラッチビルドをするにあたってはTMS誌に掲載されていた真鍮製車両の製作法(例えばTMS221(1966.11月号),片野正巳氏執筆の金属工作の手引き・キユ25の作り方)等を全面的に参考にしましたが,思えばこのような「作り方」的な記事も雑誌からほとんど姿を消してしまいました.

かつてTMS誌に掲載されたいた真鍮製車両の製作法の例

まずは真鍮版から車輌を製作するにあたり,過去に私が上記の記事等を参考に製作した車両とバラキットを組み立てた車輌を比較して.私が感じたバラキット組み立て品ととスクラッチビルドした車両の外観的な違いと製作にあたって私が感じた留意点を述べてみたいと思います.以下の写真は私が真鍮版から製作した車両とキットを組み立てた車輌を比較したものです.下の写真は真鍮版から自作したスハネ16です(台車は仮のものを取り付けてあります)

真鍮版から製作したスハネ16

こちらはバラキット(フェニックス模型店製)を組み立てたオハネフ12です.

フェニックス模型店製キットを組み立てたオハネフ12(蒸機暖房仕様)

両者の印象を比較すると,自作品の屋根Rが実物と異なること,窓の位置と天地寸法が実物と異なるため(キットが正しい),自作品の印象はキット(実物)と異なったものになってしまっていますが,これは設計上の問題で,側板の平面製,屋根カーブの稜線の乱れは自作品でもキットとの差はほとん感じられず,車体の曲げという面では寸法を正しく設定すればスクラッチビルドでもキットと比較して遜色ないレベルには仕上げられそうです.
一方,窓周りを詳細にみるとキットと自作品では印象が大きく異なります.
自作品は窓を糸鋸で窓抜きし,やすりで仕上げてあるのに対し,キットはプレスで窓を抜いてあります.このためキットは窓の周囲がダレており,これが実物の窓の周囲の溶接サンダー仕上げの雰囲気を出しています.キットはこのダレ量を雄型と雌型の型の隙間等で意図的に調整しているのかは不明(キットの窓の内側にバリが出ているのはその調整のせい?)ですが,屋根の曲げや側板の平面製は両者同等でもこの窓周りの印象でキットの方がより実物の印象を再現しており,窓周りを詳細に観察しなくても全体的に見た時の印象を実感的にしています.また,窓上の水切りもプレスのRが真鍮線を取り付けた自作品よりもより実物に近い印象を与えています.自作品でキットと同等以上の実感を得るにはこの窓周りのエッジの処理が課題となりそうです.

10系寝台車の自作車両の窓周り
フェニックス模型店製の10系寝台車キットの窓周り

.また窓周りの表現では,固定窓のHゴムの表現も自作における課題となります.プレスによる「ソフトな」Hゴムの表現は自作ではなかなか難しく,Hゴムは少しゴツくなるのを承知で真鍮線等で表現するか思い切って省略するかのどちらかを選択する必要がありそうです.ちなみに自作のオロネ10は固定窓のHゴムは省略していますが編成に組み込んで走らせた際には少なくとも私にとってはHゴムの有無はそれほど気になりません.

真鍮版から自作したオロネ10の窓周り.Hゴムは塗装で表現.
フェニックス模型店製のキットを組み立てたオロネ10の窓周り

一方,ウインドシルとウインドヘッダがついた旧型客車の車体では10系客車ほどキットと自作品の際は感じられません.スロ62は冷房化のため低屋根構造に改造されていますが,非冷房の旧型客車に関しては真鍮版からの自作の方が屋根のカーブが実物に近い形で再現できるような気もします.

真鍮版から自作したスロ62の窓周り

以上のように,自作車体をキットと同等以上にする一番の留意点は窓周りの表現である考えられ,車両のスクラッチビルドではこの部分の技法を検討して確立する必要があります.逆に言えばこの点さえ克服できればキットと遜色ない車体がスクラッチビルドで製作できるのではないかとも考えられます.
 とは言っても私の真鍮製車両のスクラッチビルドには長いブランク期間がありますので,このような細か部分を検討する前に昔の記事の製作法を参考に真鍮板から車体を製作し,基本的な部分が当時製作した車両と同等以上かつキットに比較して遜色ないレベルで製作できるかを確認することが先決です.そのため窓周りの表現はその中で検討していくこととし,まずは失敗覚悟でスクラッチビルドによる車体の製作を行ってみることとしました.そこでまず手始めに製作したのが車掌車「ヨ5000」で,その後製作したのが20系気動車(キハ25,キハ52)です.次回以降はその製作のプロセスや使用した工具等を順次紹介していきたいと思います.


最後までお読みいただきありがとうございました.

レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(15) -アクセサリの製作(4:安全性の観点から規則等で要求されているアクセサリ)-

前回まで2回にわたりこのレイアウトの中では ”大物” のアクセサリとして電柱と柵を紹介しましたがここからは所謂 ”小物” と言われるアクセサリを紹介します. 製作するアクセサリは以前 “レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(12) -アクセサリの製作(1:構想のプロセス)-” で一覧表にまとめましたので今回からはその表に従って紹介していきます.

<車両接触限界票>
車両接触限界表は分岐器の分岐側の線路枠に建てられる標識で車両を停車させる際この標識より分岐器側に列車を停車させることを禁じる標識です. その形状は一般的な”甲号”と積雪地で用いられる”乙号”があります.今回のレリアウトは北海道タイプですので製作したのは積雪地用の”乙号”です. その寸法は機芸出版社発行の”シーナリーガイド”に掲載されているのでその記事の寸法に従って製作しました. 材料は1×1㎜の檜角棒でそれを3角形に整形して目止め後塗装したものです. 私は積雪地には住んでいないのであまり馴染みがないものですがこの”乙号”の高さは1200㎜ありますので積雪地以外に設けられる通称”豆腐”と呼ばれる”甲号”に比較すると非常に目立ちます. ただ”甲号”を使用している地域でも全く積雪がないとは言えませんのでもし雪が降ったら標識は一瞬のうちに見えなくなるような気もするのですが大丈夫なのでしょうか. ちょっと心配です. この標識は線路間隔が4mを下回る地点(線路間隔が4m以下の場合には線路間隔の値を下回る地点)に設けられるようですが, 前述の記事にもあるようにこの値(線路間隔50㎜)で設置すると留置線の有効長が短くなりますので線路間隔42ミリの地点に設けてあります.

レイアウト上に設置した車両接触限界票.

<車止め(転動防止)>
側線に留置された車両の転動防止のため線路に跨がせておくストッパでこれも上記記事の中に製作法が掲載されていますが構造が複雑で製作するのが大変なようにに思えましたのでエコーモデルのパーツを使用し, 白塗装をして正面から見て左側の側線の2箇所に取り付けました. 余談になりますがが中学生の頃こんな車止めは車両を止める効果があるのかと思ったのですが物理の授業で習った斜面の問題で計算すると勾配がほとんどなければこの車止めにかかる力は意外に小さく車両が加速していなければこのような車止めでも意外と効果があるのではないかと納得した次第です. なお取り付けに際しては車両と干渉しないかの注意と設置後に手持ち車両によるチェックが必要です. 特に蒸気機関車の台枠下のブレーキロッドの干渉には注意が必要です.

車止めは車両との干渉に注意が必要です. クリアランスが一番厳しいのは気動車の台車より蒸気機関車のブレーキてこのようです.

<一時停止標識(標識/文字)>
一時停止標識には2種類あるようです. 黒十字の停止標識は出発信号機が設けられない(設けない)場所で一時停止を指示する標識のようで信号関連の規定との関連があります. それに対し文字による一旦停止表示は機関庫の入り口等, 信号とは関係しない部分での指示に用いられているようです. このレイアウトでは前者を機関区出口に設け, 後者は機関庫前や給炭台前等に適宜設置しました.

<転轍機(転換機)>
分岐器のポイントレールの切り替えを行うポイント転換期には各種ありますが転轍機と聞いてまずイメージするのは錘付き転轍機ではないかと思われます。かつて東京では武蔵野線が開業する前、山手線と並行していた山手貨物線(現埼京線)には各駅に貨物用の側線がありましたが、そこには作動レバーに錘のついたこのタイプの転換器が多く使用されたいましたので都市部でも結構見る機会がありました。この転轍機は形状に特徴がありかつてはどこでも見られたせいかメジャーなメーカーからパーツが発売されているのはこのタイプです。ただ、この転轍機は信頼性に問題があるため重量のある機関車が通過する機関区の転轍機としては使用されないようです。そこで今回はエスケープ式転換器(S型ポイントリバー)と呼ばれるタイプの転轍機を製作しました。

転轍機と線路の間には網いたと檜角材で製作した作動装置の目隠し版を取り付けてあります.

このタイプの転轍機は信頼性が高く、今でも各所で見ることができます. なお,選定にあたっては転轍テコと羽根とランンプがついた転轍器標識を組み合わせたタイプも考えたのですが、オレンジ/紫色に光る標識は魅力的であるものの、ポイントレール転換時に動く機構の製作は私には難しく、写真撮影時はともかく、実際にに運転する際には動かないとかえって実感を損ねると思い採用を見送りました。製作過程は以下の写真を参照願います。

ベース部はEvergreen社製のパイプと角棒で作成しました.
標識部はt=0.3のプラ板を円形に切り抜き、スリットを入れて組み立てました.
ベース部と標識部を真鍮線を介して組み立て、真鍮線から製作したレバーをつけて完成です. ベース部と標識部を繋ぐ真鍮線は、標識側には角形の部材を、ベース側にはベースのパイプの内径にはまり込む丸棒を取り付けました. ベース部と標識部を繋ぐ棒の長さは長いタイプと短いタイプがあるようです。今回の転轍器は棒の長いタイプとしましたが、少し長さが長すぎました。この後、黒塗装をして標識部に白を塗って完成です.

レイアウトへの取り付けに関しては、枕木の外側に突出している分岐器の作動レバーを隠すため、転轍機側には網目板と真鍮角材で製作した蓋、反対側にはSTウッドと檜角材で作成した蓋を取り付けてレバーを隠してあります。

<車止め(線路終端)>
車止めはエコーモデルのパーツを使用しました。品番#155の、第3種甲(l号)と呼ばれるタイプを採用しています。これは車庫の車止めとしてよく用いられているタイプです。実物では白く塗られた例もよく見られますが、目立ちすぎると考え、今回は黒塗装としました。このパーツはレールも一体に整形されていますが、そのレールが細い(Code70?)ため、Code83のレールと高さを揃えるのに苦労しました。この辺り、実際に使用されるレールのサイズが異なることを考えて各種レールに対応できる設計にしても良い(そこまで細密さにこだわる必要はない)ような気もします。米国のModelrailroader誌のコラム記事等にはrealismという言葉と同時にImage をre-createするという表現が出てきます. 今まで色々レイアウトを製作してきた中で, レイアウト製作では車両製作以上にこのImage をre-create(再創造)するということが重要になると感じており, 市販のパーツを使用する際には注意が必要であると感じます.

パーツの車止めは取り付け時に線路との高さの調整が必要になります. 車止めの手前の線路は頭部を塗装しました.

<注意表示(踏切・ゼブラマーク・立ち入り禁止)>
これらの注意看板の制作方法はこれまで製作したレイアウトと同じ方法で作成してあります. その手順は ① 各種素材やアプリを使用して図案を作成 ②コンビニのレーザープリンタで出力 ③ 表面を保護するためにPPテープを表面に貼り付け ④所定の大きさに切り抜き ⑤足をつけたプラ0.5㎜厚のプラバンに貼り付け ⑥取り付け板と足を塗装 という手順です. ゼブラマークは表計算ソフトで作成した黄色と黒の縞模様を斜め45度方向で帯上に切断して製作しています.

図案作成の際はあらかじめ大きさの異なる同一図案を作成し, 配置する場所によって使用するサイズを適宜選択しています.
表計算ソフトにより製作したゼブラマーク


なお、プラ板への貼り付けは以前は両面テープで行っていましたがテープの厚さが気になったため今回からプラ板への貼り付けは今回からゴム系の接着剤を使用しました. これらの表示をレイアウト上に設置したのが下の写真です.

レイアウトセクション上に設置した今回製作したアクセサリー
柵に取り付けた立ち入り禁止マーク

次回は機関区として必要なアクセサリ類の紹介をしたいと思います. 最後までお読みいただきありがとうございました.

レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(14) -アクセサリの製作(3:柵)-

前回の電柱に続いて今回は機関区(鉄道用地)の境界にある柵(フェンス)を紹介します. 前回の電柱と同様に柵はレイアウト全体に配置されるのでレイアウト全体のイメージを左右する重要なアクセサリです. 柵はレイアウト全体の比較的長い距離にわたって設けられるため鑑賞時には常に視界に入りますのでレイアウト全体のイメージに与える影響は電柱以上に大きいかもわかりません.
<プロトタイプの選定>
鉄道用地とそれ以外の土地の境界に設けられる柵にはいろいろなタイプがありますが、私のイメージでは蒸気機関車時代の柵は枕木を並べたものが多かったような気がします. このタイプの柵は1980年代はじめまでは(国鉄民営化の頃までは?)首都圏をはじめとして各地に見られました。

線路脇に設けられた枕木製の柵の例

その他の柵ではチャンネル状の鉄柱と棒を組み合わせたものや金網のフェンスなども使用されていた記憶がありますが近年でも見られるコンクリートの角柱と平板を組み合わせたものは少なくとも蒸気機関車が活躍している線区ではあまり見かけなかったと記憶しています.
今回のレイアウトセクションは北海道の機関区をイメージしていますのでこの柵を製作するにあたり北海道特有のものがあるか(あったか)を調べてみたのですがあまり参考になる情報は見つけられませんでした. あるとすれば積雪時に柵にあまり雪の重さがかからないものが選ばれているような気がするのですが, 北海道の雪はサラサラで柵にそれほど付着するとも思えず, それ以前に北海道, 特に大都市から離れた地域では機関区の周囲全体を囲む柵自体があまり設置されていなかったような気もします. とは言っても機関区の境界に柵を設けて施設内と施設外を明確にした方が視覚的にメリハリが出るため 今回は機関区の周囲に枕木を使用した柵を設けることとしました. 一年の半分近くの間雪にさらされる(特には雪の中に埋まってしまう場合もある)北海道でこのような木製の柵はあまり適さないのではないかという気もしましたがサビで腐食する鉄製の柵よりは良いのかもわかりません.
枕木を使用した柵のパターンとしては何種類かあるようですがそれを列挙すると (1) 上の写真のように枕木のピッチを狭くして人の立ち入りを防止したもの, (2)(1)の上部を水平方向に設けた枕木で固定して傾きを防止したもの, (3)枕木のピッチを広げて間に鉄の帯板を渡したもの 等があります. この中では一番簡単にできそうなのは枕木の本数が少なくて済む(3)ですが, 私の枕木を用いた柵のイメージは(1)ですので今回はこのタイプで製作することとしました. (1)の製作法を確立すれば実際に一部に設置してみてイメージに合わなかったら(2)や(3)への変更も容易に可能です.
製作にあたりまず枕木の実物寸法を調べてみると枕木の標準的な寸法は200㎜×140㎜×2100㎜であり, 1/80に換算すると2.5㎜x1.75㎜x26㎜となります. 私のイメージでは枕木の断面は正方形のような気がしていたのですが, 調べてみると枕木には橋梁用の枕木というものがありこちらは断面が正方形のようです. 枕木の全体形状という意味では普段こちらの方が見慣れているせいか, 私のイメージとしては枕木は断面が正方形ですので、今回制作する枕木柵の断面は正方形としました.
<製作手順>
素材は実物と同じ木製で製作しますが, 断面形状をスケールどおりとすると断面は2.5×2.5㎜となります. しかし市販されている檜角棒の規格品に2.5㎜角の角材はなく, あるのは2㎜角または3㎜角になります. 最初に思いつくのは3㎜角の角材を2.5ミリ角に削ることですが何分数が多い(角材の必要長が長い)ため, 手作業で均一に削ることは結構難しいと思われます. そこで今回は2㎜角の角材に厚0.5㎜の帯板を重ねて製作することとしました. この貼り重ね用の角棒は既成の0.5×5㎜の檜角棒(帯板?)を用意し, 下の写真位示すようにまず帯板を2㎜角棒の1面に接着し, カッターナイフで切断後隣接する面にも帯材を貼り付け, 貼り付け後サンドペーパーで仕上げることで2.5㎜角の角材を製作しました. 仕上げ時には多少角に丸みがついたり太さが変化してしまいますが, 正確に仕上げることよりも多少不均一であった方が実感的であるような気もします.

柵に使用する角材は2ミリ角の角棒と0.5ミリ厚の帯板を木工用ボンドで接着して製作しました.

柵の高さは17.5㎜としました。この高さは実物換算で1.45mです。実物の高さは不明ですが自身の記憶や写真から柵の先端は概ね顔の高さにあるという印象がありますので大体この程度の高さではないかと思い決定しました. 枕木の長さが2.1mですので地中には0.65m埋められていることになりますがこれは枕木長さの約1/3位となり, まあ妥当な(少なくともすぐには倒れない)量ではないかと思います. 切断には写真のようなジグを作成し4方向からカッターナイフで直角に切り込みを入た後切断しました.

角材はジグにより4方向から切り込みを入れて切断面を直角に切断します

切断後, 丈夫に面取りをつけました. この面取りの量はいろいろあるようですが少なすぎると遠くから見たときに目立たなくなるような気がしましたので少し量を多めにつけて先端を細目に仕上げました.

完成した柵の単体です

上部の面取りがつけ終わったら底部に取り付け用の真鍮線を埋め込みます. 真鍮線はφ0.7m㎜を用いています. ドリルで穴を開けて真鍮線の先端にゼリー上瞬間接着剤を塗布したのち穴の差し込み固定します. この後真鍮線を切断しますがこの際注意することは真鍮線を長めにしておくことです. ベース上にはプラスターの層が数ミリありますのでそのプラスター層を貫通してベースに達する長さにしておかないと固定後に柵に少し力を加えると柵がプラスターごと剥がれてしまうので注意が必要です.

完成した柵単体に取り付け用の真鍮線を取り付けます.

以上で柵単体は完成ですのでこの柵をレイアウトに取り付けていきます. 塗装は取り付け後に行うこととしました. . その理由は事前に塗装をしても取り付けの際穴を開けて差し込みむので穴あけ時にプラスターの粉が出て地面位付着するためどうしても柵を取り付けた後に地面の塗装(タッチアップ)が必要になること, 多くの”枕木”がレイアウトの長手方向全体に並びますので地面と異なる色とすると目立ちすぎる可能性があるため最終的には地面とほぼ同色とした方が良いと考えわざわざ取り付け前に手間をかけて一本ずつ塗装をする必要はないと判断したためです.地面に開ける 取り付け用の穴はピンバイスで開けますが取り付ける柵自体に太さのばらつきがあるため穴のピッチはそれほど厳密である必要はなくかえって正確に穴あけすると太さの違いが目立つような気もしましたのである意味現物合わせ, 具体的には1箇所穴あけして取り付けたのちその枕木とピンバイスのチャックが接触する位置に隣の取り付け穴を開けて枕木を取り付けていくという方法としました. 私が使用したピンバイスのチャックの直径が7㎜でしたでこれで取り付け穴のピッチは4.75㎜となり計算長の柵と柵の隙間は2.25㎜となりますが隣の柵とチャックは密着しませんので結果的に隙間はもう少し広くなり見た目柵の太さと隙間がほぼ同一寸法となります. なお, 角材に取り付けた真鍮線は必ずしも柵(角材)の中心に正確に位置しているわけではないので取り付けの際柵を回してピッチ(柵と柵の隙間)を微調整することが可能です. このような方法により柵を固定した写真が下記になります. ちなみのこのレイアウトで使用した柵は全部で244本でした.

レイアウト上への取り付けが終わった柵

取り付けが終了したら柵の着色を行います. 色は地面より少し明るめに茶色としました. 塗装は筆塗りで塗装後には地面を含めて再度塗装を行いますので特にマスキングはせず地面へのはみ出しは気にせず行いました. ただし下の写真のようにベースの縁に取り付けられた柵を塗装する時にはベースの塗装にはみ出さないようにマスキングテープでマスキングをを行います.

レリアウト上に取り付けた柵をエナメル系の塗料で塗装します

柵の塗装が終了したらエアーブラシで地面色を柵の根元に吹き付けます. 上の写真のように柵の周辺には取り付け穴を開けた時のプラスターの粉が残っており柵と掃除の塗料のはみ出しもありますのでまずこれらが目立たないように吹き付けます. 上述のように地面と柵はほぼ同色としますので吹き付けの際はテープでのマスキングはせずに厚手の紙で柵の上部を隠しながら吹き付けを行いました(当然建物は全て取り外します)そして根本部の白粉と柵の塗料のはみ出しが目立たなくなったらマスキング用の厚紙は使用せずに柵と地面が一体となるよう地面色を柵全体に吹き付け完成とします. この際塗膜を厚くしすぎると柵と地面が完全な同色になってしまいますので柵に事前に柵に塗った色と柵と地面の間にわずかな色調の差が出るように塗料の量(吹き付け時のガンの速度や回数)を調整することが肝要です.

柵単体への塗装が終了したら柵全体に地面色を吹き付けて色調を調整します.

以上で柵が完成しました. 次回からは所謂”小物”と呼ばれるアクセサリを紹介していきたいと思います. 最後までお読みいただきありがとうございました.

柵が完成したレイアウトの写真です.

レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(13) -アクセサリの製作(2:電柱)-

前回レイアウト上に配置するアクセサリに対する構想のプロセスを紹介しましたが, 今回から具体的なアクセサリの製作過程を順次紹介していきたいと思います。まず最初は電柱です。電柱にはいろいろなタイプがあるとともにレイアウト全体に設置されますのでレイアウト全体の印象を決定づける大きな要素となる重要なアクセサリです. そのため実際の製作(製作方法の検討の前にモデル化するプロトタイプの選定とそれを設置する位置の決定等の構想設計が必要になります.

⚫︎レイアウトにおける電柱の役割
故なかお・ゆたか氏(河田耕一氏)は機芸出版社発行のレイアウトテクニックに掲載された ”蒸気機関車のいる周辺” の中で電柱について以下のように述べておられます.   ”・・・特にこのレイアウトセクションの主役ともなる電柱 ーもし電柱を取り去ったら実在感は半減してしまうー は河田氏(注:河田耕一氏)の未発表原稿によったものである・・・・”  
実際にレイアウトを製作するとこのレイアウトセクションでもこの言葉は全くその通りであると感じます.上記のレイアウト・テクニックの中には後にエコーモデルの店主となられる阿部敏之氏のアクセサリの製作法の記事があり, この記事で製作法が解説されているアクセサリの多くは後にエコーモデルからホワイトメタル製のパーツが発売されており今回私も使用しています. ただストラクチャーを製作し, そのストラクチャーをレイアウト上に配置してアクセサリの構想を練り始めた時点で感じたことはたとえこれらの形態の整ったアクセサリーパーツを各所に並べてもそれだけではレイアウト全体の印象は散漫で実感に乏しい物しかできないのではないかいうことです. しかし実際に電柱を製作してレイアウトに電柱を立てると今まで広く感じられたレイアウトの敷地が引き締まり, レイアウトがかつて見慣れた風景に近づいてきます. 我々が機関区等で車両全体の写真をフェンスの外側から撮影しようとすると車両全体をスッキリ撮影するためには電柱は非常に邪魔なものですが, 機関区のような車両やストラクチャーの密度が高い場所を実感的に再現するためには車両という対象物を鑑賞する際にその視線の妨げとなる電柱の存在がレイアウト上で車両を鑑賞する際にその風景が実感的か否かを決定づける重要な要素となるのではないかという気がします. 余談ですが私も長年鉄道の写真を撮影してきましたが最近一部の所謂”撮り鉄”は車両が他のものに隠れる事を非常に嫌うようです. これは昔のSLブームの頃からの傾向ですが私たちが普段鉄道車両を見るときにはそのような「障害物」があることがほとんどですのでそれがない写真は後から見ると臨場感がなく類型的でつまらない気がします. 以前どこかで「自分がその時失敗と思った写真ほど後で見て面白い」という記事を読んだ気がしますが, この年になって昔撮影した鉄道の写真を見ているとそれも一理あるような気がします.

機関区等にある柱上トランスの載った電柱は非常に目立つ存在です.
独特の形態をした照明灯は機関区だけでなく全国の国鉄の施設でみることができます.

<構想>
まず構想の初期段階で最初に決定したのは電柱は真鍮製としてハンダで組み立てるということです. 私は今まで製作してきたレイアウトセクションに照明灯を3本設置しましたがその時感じたことはこの程度の数でもレイアウト上のこのような支柱はもどんなに注意しても手を引っ掛けて破損してしまうということでした。車両をレール上に置く際には支柱がない部分から行うとかセクションに接続したレールから入線させることができますが, レイアウトにはレールクリーニングが欠かせません. 前作のレイアウトはMärklin Digitalを採用いるため比較的レールは汚れにくく車両側でも集電不良に対する対応が行われていますがそれでもやはり長期間運転しないとホコリやサードレールのサビ等でレールクリーニングは必要となります. 一方今回のレイアウトはレールに汚れがつきやすいと言われるDC運転で車両も古い自作の車両が多くあります. そのためレールクリーニングの頻度は多くなることが予想されますし, レールクリーニングカーに頼るのも不安です. また電柱の本数も前作よりかなり多くなりますのでレールクリーニング時に電柱に清掃部材を引っ掛けて破損する確率は非常に高くなると予想されます. そのため電柱は強度の高い金属製とすることが必要と判断しました. また金属で製作することのもう一つの利点は万一破損しても手間さえかければ外観を強度も含めて元の状態に戻すことが可能であるということです. プラ製ですと破損した場合は破損部分を接着剤で補修することになりますが強度的にも外観的にも元に戻すのは困難で状況によっては新作する必要も生じます. しかし金属製(ハンダ組み立て)であれば変形の修正も容易であり部材が脱落しても破損部分の塗装を剥がして再度ハンダ付けして再塗装すれば強度も外観も元に戻ります. 私が以前製作したZゲージレレイアウトでは駅の部分にタワーマストを立ててそこにクロススパンを渡してあり, レイアウトにアクセスした時にクロススパンに手を引っ掛けて破損させることが時々ありますが, クロススパンを真鍮線のハンダ組み立てとしてあるため破損しても何度でも元通りに修復が可能です. レイアウトのアクセサリはプラ, ペーパー, 木材で作ることが多いのですが金属で製作することも選択肢として考えておくと良いと思います.

クロススパンは真鍮線をハンダ付けで組み立ててありタワーマストに対して取り外し可能としてあるので破損しても容易に修復が可能です.

<製作する電柱のタイプの決定>
次に実際に製作する電柱の形状と設置位置を決めていきます. 雑誌の写真や地震の撮影した写真を参考資料として私は下図の5パターンを製作することとしました.
A: 横桁2本の電柱
B: 横桁1本の電柱
C: 柱上トランスが設置されている電柱
D: 照明灯(水銀灯)+横桁1本(横桁は図には無し)
E: 街灯+横桁1本(横桁は図には無し)
Dは国鉄の機関区や電車区でよく見られるタイプで鉄道施設以外ではあまり見ませんので国鉄が標準化していたタイプかもわかりません(上の実物写真参照).
 タイプが決まったらタイプ別のに設置場所を決めましたが種類や位置は最終決定ではなく製作する本数の目安とするために決めたもので, 最終的には現物合わせで配置を決定してあります. また下記の 図面には本数が記載してありますが, 一般的な電柱であるA ,B,Eはずの所要数より1本多く製作することとしました.

<製作>
タイプと本数が決まったら製作用に電柱を図面化します.高さ等の寸法は上記レイアウト・テクニックの記事を参考にして決定しましたが, 取り付け時にベースボードの穴を貫通させれば高さ方向は調整できますので高さは高めにしてしてあります.

電柱と照明灯の構造の概略を数に示します. 電柱の柱はφ2.1㎜の真鍮パイプ, 横桁は1×1㎜の真鍮アングル材をで作成しています. その他1×1ミリの角線, 厚さ0.3ミリの真鍮版で碍子台や柱上トランスの置き台を製作しました. 照明灯はφ0.3㎜とφ0.5㎜の真鍮線, 1×1㎜のプラ角材, φ0.15㎜のエナメル線を用いて製作してあります. LEDは表面実装LEDで1608(1.6×0.8㎜, 厚さ0.36㎜)タイプの白色を用いました. 図に示した電柱の構造はType Cですが支柱と横桁の取り付け部の構造は他のタイプでも同じです. 横桁の短い真鍮線は後で碍子を取り付けるときに使用するものです.

以下、写真を主体に製作手順を紹介します.

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レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(12) -アクセサリの製作(1:構想のプロセス)-

前回までにレイアウト製作においてシーナリーとストラクチャーと呼ばれている部分の紹介を終わりましたので今回から一般的にアクセサリと呼ばれるより細かい部位についての製作過程の説明を行いたいと思います. その初回としてまずは製作に当たっての構想設計((製作するアクセサリを決定するまでのプロセス)について私が行った手順を少し詳しく説明してみたいと思います.

⚫︎アクセサリの定義
過去の雑誌のレイアウトの製作記事ではレイアウトの製作過程は大きくシーナリーの製作とストラクチャーの製作に分類されています. そしてその後には所謂車両のディテーリングに相当する細かい部分を製作する作業があります. その呼び方は記事によっていろいろあるようですが1970年代にTMS誌に発表されている記事ではTMSのスタッフの方が執筆している記事を含めて”アクセサリの製作”と記載されている例が多いようです。
 この”アクセサリ”という意味を辞書で調べてみると辞書には語釈として 「①服装を引き立たせるための装身具②機械類の付属品・周辺機器 」と記されています。私の解釈ではレイアウト用語の”アクセサリ”はこの語釈のどちらかというものではなく両方の意味であると考えます。そして①と②の大きな差は①は後から付け足すもので極端にいえばあってもなくても良いもの(英英辞典でははっきりそう記載しているものもあるようです), ②は機械(システム)の設計段階で機械やシステムの設計者がそのシステムで要求されている機能を満足するため, あるいはより向上させるために用意する(中には法規上必須のものや現場で判断して設置要否を判断しているものもある)ものではないかという気がします. このように考えるとレイアウトの細部仕上げを”アクセサリの製作”と表現することは”言い得て妙”であると思う反面, 実際のレイアウト製作では実感的な情景を製作するためには写真等で見た風景をただ漫然とそのまま作るのではなく, 上記の語釈①と②を意識して, 製作するものが以下に記すどのカテゴリに属するかを意識して製作するアイテムと配置する場所をよく考えて製作を進めていくことが必要であると感じます. またこのためにはある程度の鉄道に関する法規や規定は勿論, 地域的な特性についても知っておく必要があると思います.
1. 安全性等の観点から規則等で要求されているアクセサリ(様式の選択も含む)(①)
2. 鉄道施設しての機能を満たすために必要なアクセサリ(①)
3. 機関区という機能を満たすために必要なアクセサリ(①)
4, 機関区内で職員が日々業務を行なっていることを感じさせるアクセサリ(②)

⚫︎ 製作したアクセサリ
我々(私?)がこのような ”アクセサリ” を製作しようとした場合は参考資料として自身が撮影した写真や雑誌等に掲載されている資料を用意し, そこに過去の自分の体験や記憶を加えて何を製作するかを決めていくことが多いと思います. 私は実感的な情景を製作する場合にこの決定の際に大切なことは, それらの資料や自身の記憶をそのまま再現しようとするのではなく製作するアイテムは全体的なバランスを考えながら決定していくことではないかと考えます. 特に自分が実施に見た情景や体験はとうしてもそのままレイアウトで再現したくなります. しかしこの再現にこだわりすぎると局所的には満足なものができても全体を見渡すとそれが返って実感を損ねるということにも留意しておく必要があります. 以前製作した外国型のレイアウトではこの過去の自分の体験や記憶が全くなかったのである意味淡々と製作を進められたのですが, 今回のように自分がかつて親しんだ情景を再現する日本型レイアウトでは自分の体験にこだわりすぎないことを意識しながら進める必要があると感じました. 特に今回のレイアウトセクションのような全体を一度に見渡せる(鑑賞者が場所を移動しなくてもある程度レイアウトの細かいところまで観察できる)レイアウトセクションは鑑賞者の移動により映画のカット割のような効果が期待できませんので特に注意が必要です. そこで今回試行してみた方法は実物写真をそのまま参考にしてストラクチャーを配置したレイアウト上に配置するアクセサリを決定するのではなく, まずストラクチャーを配置したアクセサリのないレイアウトの写真を撮影し, その写真と実物資料を見ながらその写真にどのようなアクセサリを加えれば良いかを検討し製作するアクセサリをリスト化する方法です. 実物写真から製作するアクセサリを決めていく場合, そのアクセサリの背景に写っている情景や建物は当然レイアウトのものとは異なります. このため参考写真のアクセサリにのみ注目して製作するアイテムを決めてしまうとアクセサリの背景となる建物や情景が参考写真と異なるため実際にアクセサリを配置した時に違和感を感ずる場合があります. これに対し撮影したレイアウトの情景や建物の画像を見ながら製作するアクセサリを決定する方法ではレイアウト上の建物や風景を基準に検討しますので実物の資料からより的確に製作するアクセサリの種類や個数を決定することができます. この際留意することは写真をいろいろな角度から, またいろいろな範囲を撮影してそれらを見ながら検討することで, あまり狭い範囲で検討するとその部分だけは実感的でも全体的に見ると不自然であったり散漫な印象になる恐れがあります. もちろん車両工作より修正が容易ですので事前に完璧に決めることはないのですが, 実物写真の情景をレイアウトで再現させる場合,このようなプロセスを導入することにより無益な「こだわり」が排除できるとともにに, もし一部に不満な点があっても最初にそのアイテムをそこに配置しようと考えた理由を振り返ることができ修正作業が容易になります. さらに製作するアクセサリをリスト化するということは製作の効率化にもつながると思います.

アクセサリを配置する前の乗務員詰所付近の写真. アクセサリの配置を検討する際に使用したもの.
アクセサリー配置後の乗務員詰所付近
アクセサリを配置する前の給砂塔付近の写真. アクセサリの配置を検討する際に使用したもの.
アクセサリー配置後の給炭台付近

上記の観点で今回製作したアクセサリを一覧表にすると以下になります.

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鉄道趣味を50年続けて思うこと(5) ~Prototype Modeling~

昔から夏は鉄道模型シーズンではないと言われています.確かにエアコンが普及していない時代には暑い夏(と言っても昔は今ほど暑くありませんでしたが)に集中力が必要な細かい工作はあまりやる気になりませんし, 汗をかきながら動いている車両をじっくり眺める気にもなりませんでした.ただ現在の私は仕事をリタイアし, 会社の夏休みに合わせて混雑している場所に出かける必要もなければ子供をどこか旅行に連れて行く必要もありません. 家にはエアコンもあり, 昼間は暑すぎるためどこへも出かける気にならず涼しい家にいる時間が比較的多くなっています. それにもかかわらず模型を製作する気にならないのは単なる昔からの習慣でしょうか?

ということで模型の製作は一時休業で, 涼しい部屋の中で読書などをして過ごしています.
読書は以前読んだ小説を改めて読んだりしていたのですが, 最初に日常読んでいる鉄道模型関係の雑誌に興味深い記事がありましたので紹介してみたいと思います. 


ModelRailroader誌の9月号には米国カリフォルニア州にあるTehachapi Loopを再現したレイアウトが紹介されていました. このレイアウトは72x128feet(22×38.5m)のスペースに設置された複層式のレイアウトで,線路の総延長は1800feet(548m)に及びます, この長さは実物に換算すると実に47kmになり, このレイアウトを列車が走破するのには約1時間かかるそうです. 日本でループ線のある上越線清水峠の水上・越後湯沢間は約35kmで所要時間は約40分ですので, 清水峠をそのまま1/80に縮小したレイアウトを製作しようとするとこのレイアウトにほぼ匹敵するイメージになるのではないかと思います. このレイアウトは個人所有ではなく博物館に設置されたレイアウトで, 現在の姿になるまでには長い期間がかかったようですが現在は製作に携わった地元の鉄道模型クラブが運行しいます. 線路長が実物を縮小した長さであるため運転は過去に実在したダイヤで実時間による運転が行われているようです. 欧米では保存鉄道を愛好家が運転している例はメディア等でも数多く紹介されていますが, これはその鉄道模型版といったところでしょうか. 現在レイアウトはDCC化されているようですが運転には最大35名以上の人員が必要であるということで, 展示施設内のレイアウトですから好きな時に運転というわけにもいかないと思われますのでクラブは運営面でもきちんとしたマネジメントが必要になると思いますし, メンバーがこのような運転を整然と行なっていることもある意味すごいことであると感じます.
一方別の記事では実物の写真をベースとして製作したペンシルバニア州Port Royalの駅とその隣にかかる橋の写真から製作したレイアウト(ジオラマ?)が紹介されていました. この記事にはProototype Photoをベースとしたモデルがあったらその写真を実物の写真とともに投稿してほしいという編集部のコメントもついています.最近日本の鉄道模型雑誌では実物をの一部をそのまま縮小したようなレイアウト(ジオラマ)の記事が多数発表されていますが, 前者のTehachapi Loopを再現したレイアウトは別として, ある程度大きなスペースがあっても実物をそのままスケールダウンした風景をレイアウトに組み入れて運転を楽しむのは結構難しいと思われ, 列車を運転することが主流の米国では日本のように実物を縮小して再現したレイアウトセクションの製作はあまり行われていないと思っていましたので, 最初にこの記事と編集部のコメントを読んだ時は少し意外な感じがしました.
一方, 同誌の10月号には米国鉄道模型界の重鎮の一人, Tony Koester氏のコラム記事 ”Train of the thought” にPrototype Modelingについての記事が掲載されていました. この記事では実際の情景をレイアウトの中にどのように取り入れるべきかということが実例を交えて述べられおり, その内容は
・ プロトタイプ モデリングの目的は, 特定の場所の特定の時間における外観と雰囲気を再現することである
・プロトタイプ モデリングによるレイアウト製作においては上記のような場所を複数組み合わせて全体を一つの鉄道にまとめていくことが必要である.
・プロトタイプモデリングはその場所や線路配置をそのままスケールダウンする必要はないが, Prototypeの何を表現するかをよく考えること. その際にある程度の妥協は必要ではあるが, 再現したいシーンの本質を捉えて安易な妥協はせず, 鑑賞者ににもその場所や時代を感じてもらうことが必要である.
といったような内容でした.そして実際に同じ場所を複数のモデラーがどのように実物の情景をアレンジしてレイアウト上に再現したかが解説されていました.

上に記載したModelRailroader誌の記事

私がこの記事を読んで感じたのはここでTony Koester氏が述べていることは,以前このブログでもよく話題にした故・中尾豊氏の ”鉄道模型の造形的考察の一断面” のレイアウト版ではないかということです. 中尾氏の論じている対象は車両を模型化する際に車両が「実感的」であるための視点であり対象はレイアウトではありませんが, スペースの限られたレイアウトに実物の風景を再現しで実感を得るためにはこの記事とは別のアプローチが必要で, それが上記の記事の言葉に要約されているように感じました. この記事を読んで改めて9月号のPort Royalの駅の記事を見ると編集部のコメントは決して実物写真をそのまま再現したレイアウトの写真を募集しているのではなく, この記事のような形で製作したレイアウトとそのベースとなった写真を求めているのではないと気がづきました. 

車両はその実感を求めるためにその一部をデフォルメする事はあっても, 通常一部分のみスケールを大きく崩すということは行いません. しかしレイアウトの場合にはスペースのみならずカーブ半径ひとつとってもスケール通りに製作できないという根本的な矛盾を抱えており, これは上記のTehachapi Loopを再現したレイアウトでも同じです. そのため実物の風景を「実感的に」再現する場合には実物を構成している要素を分解して再構築するという 車両の模型化とは異なる結構創造的な作業が必要になります. そして私はそこがレイアウト製作の醍醐味であるという気もします. もちろん私は実物の風景をそのまま再現したレイアウト(ジオラマ)を製作する楽しさを否定するものではありませんが, 運転という観点では何かと制約が大きいように感じます. ジオラマの前後にエンドレスの線路をつなげて車両を周回させるだけでは運転は単調になりますし, 駅や機関区のセクションを実物通りの線路配置で製作しても駅に発着する列車や機関区に入出区したり機関区内を転線する機関車の運転操作は結構煩雑な作業になり動いている列車を鑑賞する余裕はありません. そのようなレイアウトセクションで列車が発着する風景をゆっくり鑑賞しようとするとDCCによる自動運転が必要になりますが, 自動運転である程度以上規模の大きな駅や機関区に出入りする複数の列車(機関車)を運転しようとすると, 列車(機関車)交換のためには結構大掛かりなStaging Yardをレイアウトに接続する必要があり, プログラミングも非常に複雑になると思われます. このように実物の一部をそのまま再現したレイアウト上で車両の動きをじっくり鑑賞しようとするとするとなるとそこには運転操作という面で色々な課題があると感じます.

ドイツの駅舎の写真からInspireされて製作したDCC(Märklin digital)による自動運転を導入したレイアウト”終着駅Großfurra”

最後に鉄道関係以外で読んだの本の話にも触れたいと思います. 今回は音楽と同様過去に読んだ小説を読み直してみました. 夏目漱石や川端康成の小説は20−30代の頃よく読んでいましたが, この年になって読み返すとその後人生経験を積んだせいか, また違った気づきがあり面白く読むことができました. また今回宮沢賢治の童話やサン=テグジュベリの ”星の王子様” も読んでみたのですがこのような童話でも昔読んだ時とはまた違った感覚を味わうことができました. 宮沢賢治の童話は銀河鉄道の夜や注文の多い料理店等が有名ですが, それ以外にも数多くの童話があり中にはこの年になって一読しても正直何を言いたいのかよくわからないものもありました. ただ氏の童話では童話の幻想的な世界と現実の世界を結びつけるものとして鉄道の音や光が効果的に使われているような気がします. また作品の中には ”シグナルとシグナレス” のように実際の鉄道から着想した作品もあります. 氏の経歴を見るとどちらかというと理系寄りの方のようですので鉄道には車両以外のシステムも含めて結構関心があったのかもしれず, そこからの着想がいろいろあったのかもわかりません. そしてもしかしてこれらの童話をじっくり読み込むと宮沢賢治の童話の世界をモチーフとしたレイアウトも製作できるのではないかとも感じました. また, このブログでは私が製作した北海道で活躍した車両や北海道をイメージした機関区を紹介していますが, 例えば北海道の出身である三浦綾子氏の小説「天北原野」は鉄道は出てこないものの当時の北海道の自然の厳しさとそこで暮らす人々の営みが描かれていますし, 「塩狩峠」は実際にあった鉄道事故をモチーフとした小説です. 北海道を訪れて初めて宗谷本線や天北線に乗った際には外の景色を見ていると思わずこれらの小説を思い出しました. 北海道をテーマとした車両やレイアウトを製作した際には実物の鉄道の資料を集めるだけではなくこのような小説を読むことは北海道の自然の風景や鉄道のイメージと共にそこで生活している人々を想像することにも繋がり, それがレイアウトのイメージを構築する時に何らかの影響を与えるような気もします.

海道の機関区をイメージして製作中のレイアウトセクション

以上、取り止めのないことを書いてしまいましたが最後までお読みいただきありがとうございました. やっと涼しくなってましたのでそろそろまた模型の製作を再開したいと思います。

レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(11) -機関区の建物(事務所・詰所等)-

今まで3回にわたって機関区にあるストラクチャーを紹介してきましたが、それらは全て蒸機機関車や気動車を動かすやめに水や燃料を補給するという機関区でいわば動力車とのインターフェースとなるストラクチャー(建物)でした。今回からはそれ以外の機関区にある事務所等のストラクチャー(建物)を紹介したいと思います。

建物を配置して細部仕上途中のレイアウト.

機関区にある建造物の実例を交えた解説は1980年代に機芸出版社から発行された”シーナリーガイド”や”シーナリー・ストラクチャーガイド”に詳しく解説されています。そこには各地の機関区の実例が多数紹介されていますが、それらの記事の中から機関区にある建物を列挙すると概ね以下のとおりです。
機関区事務所
乗務員詰所
線路班詰所
風呂場
外勤事務所
用品事務室
燃料係室
油庫
用品倉庫
蒸気機関車が活躍していた時代、これらの建物は大体が平屋建てで、線路の周囲に並んでいることが一般的でした。国鉄の機関区に小さな建物が多数あるのは一説によると縦割り組織であった国鉄がその組織ごとに建物を建設したからであると言われています。真偽のほどはわかりませんがそのような観点で建物の種類(名称)を見ると確かにそのような気もします。これらの建物は無煙化後も1980年ごろまでは各地で見ることができましたが、中には窓がアルミサッシ化されたり、屋根が葺き替えられている建物もありました。

奥羽本線赤湯駅の構内風景
山形駅に隣接する奥羽本線山形客貨車区の建物. 屋根はスレート葺きに改修されているようです。

それでは以下、建物の構想から完成までのプロセスを紹介させていただきます。
まず最初にどのような建物を製作するかを決定します。製作にあたり参考とした上記の”シーナリー・ガイド”には機関区と機関支区と駐泊所の差は敷地にある建物の数の差でわかるというような記載がありますが、これは感覚的には”言い得て妙”ではないかと感じます。この言葉に従えば機関区と称するためにはある程度以上の数の建物が必要ということになりますがレイアウトは当然?実際のスペースよりはかなり小さいため建物に数には限界があります。またあまり建物の数を増やすと狭苦しい印象となり、北海道の機関区の印象を損ねる気がします。そこでまずは製作する建物を仮決めし、モックアップ等で検討しながら実際に製作する建物を決めていくこととしました。その際最初に選択した建物は
機関区事務所
乗務員詰所
線路班詰所
風呂場
用品倉庫
です。まずは写真等の資料や過去の記憶を頼りにこれらの建物の方眼紙に建物の外観のラフスケッチを描きます。下の写真はこの時位製作した線路班詰所と用品倉庫のラフスケッチです。

最初に作成した建物のラフスケッチです. 最終的に製作した形状とは異なるところがあります.

これらの建物は実際にラフスケッチを描いてみるとは細かい差異はあれ全て木造下見板張りのトタン葺きで皆同じような外観になってしまいます。したがってこれらの建物を限られたスペースに並べると印象が少し単調になってしまうのではないかという気がしました。そこで変化をつけるため乗務員詰所と風呂場は間にトイレを挟んで建物を一体化してみることとしました。このような実例があるかどうかはわかりませんが、寒冷地で積雪の多い地域の機関区ではこのような構造もアリではないかと考えた次第です。この辺り、模型の世界では合理性がありそれらしければ(理由を説明できれば)あまり実物通りの形態にとらわれる必要はないのではと思っています。また上記書籍の解説によれば、北海道の建物では入り口に破風がある建物が多いとあり、実際の建物を見ても確かにそのような印象がありましたので原則入り口には破風を設けてあります。

乗務員詰所とトイレと風呂場を一体化した建物のラフスケッチです. こちらも入り口の位置等, 製作し建物とは異なる部分があります.

建物のアウトラインが決定したらケント紙でモックアップを作成し実際にレイアウト上に並べてイメージを確認します。

ケント紙で製作した建物のモックアップで建物の位置を検討しているところです.

建物はレイアウトを置いた時の壁側に並べ、手前側は機関区事務所のみとして車両を鑑賞する際の視線の邪魔にならないように配慮しました。なお、実際にモックアップで検討してみると乗務員詰所と線路班詰所の間のスペースが広すぎるように感じましたので、その空いたスペースに油庫を追加しました。決定した建物の配置を下図に示します。

今回配置を決定した建物を水色で示します. ()で示したのは紹介済みの建物です.

建物の大きさと配置が決まったら図面を作成しますが、今回は少し手抜きをして全ての建物の図面は作成していません。一般的に日本家屋は基本寸法が決まっており、窓や扉の大きさも建物による差はありません。そこでまず機芸出版社発行の”レイアウト・テクニック”に掲載されている各種記事を参考にして機関区事務所のみ”真面目に”図面を作成し、その図面で扉や窓の基本寸法、窓枠に使用する檜角材等の寸法を決めることにより、その他の建物の図面御作成は省略しました。基本寸法を決めたのは窓枠に使用する材料、建物への入口とその入口に接する半間の窓、建物の門部で接する窓部の構造、窓が連続する部分の構造等です。

細部の寸法を検討するために作成した機関区事務所の図面です. 既成の檜角材の寸法を考慮しながら細部の寸法を決めました(鉛筆で書いた部分です).

⚫︎建物の外観
設計が終わったら製作に入りますが、製作手順は今まで紹介してきた建物とほぼ同一ですので今回は完成した建物を写真で紹介させていただきます。
まずは上の図面に基づき製作した機関区事務所で、この機関区の中では一番大きな建物です。L字形状として一端に張出部(トイレを想定)を設けました。壁面はSTウッドを使用した下見板貼りで窓枠と扉は自作品です。トイレには昔よく見かけた風で回転する排気煙突を取り付けようと考えていましたが、構造が複雑で製作方法を思案中です。屋根の台形煙突はエコーモデル製のパーツを使用しました。

機関区事務所の窓枠の色は茶色にしました. 手前側の屋根の煙突はエコーモデルのパーツ(#254:台型煙突)です.

モックアップによる検討で追加した油庫はコンクリート製の建物としました。屋根はプラ製の波板(Kibri製#34143:Corrugated Metal)を使用しています。

油庫は給油小屋ど同様Drawing Inkでウエザリングしてあります。また給油小屋同様各種表示を貼り付けました.
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レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(10) -ストラクチャーの製作(3) : -給炭台とディーゼル燃料給油設備-

給砂塔と砂焼き小屋に続いて今回は機関区にある燃料の補給設備として給炭台とディーゼル燃料の補給設備を紹介させていただきます。まずは完成後レイアウトに設置した状態の写真をお目にかけたいと思います。

完成してレイアウト上に置いた石炭台と石炭置場
レイアウト上の燃料補給設備

蒸気機関車の石炭消費量には諸説ありますが、石炭は一回の補給で250km 程度(石炭を10t積載し、1kmあたり40kgの石炭を消費した場合)、水は1回の補給で100km程度走行可能だったようですが、蒸気機関車の石炭水の消費量は形式はもちろん、線区の線形、列車重量、機関士の技量によって大きく異なり、公式な数値はないようです。それでも上記の条件では時速60km/hで走る(力行する)機関車は1kmを1分で走りますので1分で40kgの石炭を投炭する必要があり、機関助士はかなりの重労働であったことが伺えます。一方、水の消費量は石炭より多く、当時給水設備は大きな駅には設けられており無煙化後もその痕跡を見ることができました。水よりも補給の頻度が少ない石炭補給設備は駅に設けられることははありませんが、機関区や機関支区では必ず設けられている重要な設備です。この設備にはテンダーに直接重力で石炭を落下させる石炭ホッパーから手(スコップ)で石炭をテンダーに投げ入れる給炭台まで色々な規模の設備がありますが、スペース等の関係から今回はその中でも小規模な給炭台を設置することとしました。一方、気動車のディーゼル燃料給油設備は普通列車の一部(貨物列車を除くすべて)が気動車に置き換えられた線区に見られる設備ですが、設置されていてもあまり目立つ設備ではありません。今回はレイアウトにアクセントをつけるため、機関区で気動車の整備も行うという想定で設けましたが、機関区の設備としてはあまり一般的な設備ではないと思われます。
まず最初に紹介させていただくのはは石炭台です。給炭台の形態は土台と石炭積載台の部分がコンクリート、煉瓦や木組を用いたものがあり、台の上部は上屋付き、上屋無しのタイプがあります。そのような形態の中から今回は北海道の積雪地という想定で、土台と石炭積載台は木材、上部は木組みの上屋付きで屋根はトタン葺きとしました。構想の検討の際にも記載しましたがD51のテンダーは石炭を10t積載可能なようですので、D51クラスの大型機が出入りする機関区の設備としてはこの給炭台はあまりにも小規模ですが、スペース等の関係上この矛盾には目を瞑りました。余談ですが、一般のオフィスでは働く人数に応じてトイレの便器等の数が労働安全衛生法で規定されています。それと同様、このような機関区の燃料補給設備でも設備の規模についてはある程度出入りする機関車の種類や運用(数)に応じた補給間隔を考慮して方式や数が決められていたのではないかと思われます。一方、模型の世界では大型蒸機が活躍した本線沿いの機関区を再現する際はスペースの関係上どうしてもどこかで設備の規模には折り合いをつける必要があります。機関支区、あるいは駐泊所をプロトタイプとすると給砂塔を設けることはできません。この辺り、結果はどうあれ単に実物の機関区を縮小するのではなく、使用できるスペースに応じていかにそれらしい雰囲気が出るように設備の規模と配置を検討するという過程に機関区を模型化する際の検討の面白さがあるような気がします。

完成してレイアウトに設置した給炭台です.

給炭台の製作にあたり、まず最初に行なったことは構想に基づく図面の作成です。今回制作した給炭台のような木製の骨組みが露出している建造物は、角材を切断する際その長さを正確に割り出すため、原寸大の正確な図面を作成する必要があります。前述のように今回製作した給炭台は台座、石炭の積載台及び上屋の柱は木製で、屋根はトタン張りとしましたので、部品はほとんどを檜角材から作成します。太さは給炭台の上屋は主に2×2㎜の檜角材、台枠部は2×2㎜、3×3㎜の檜角材と2×1㎜の檜角材、床面は2×1㎜の檜角材、石炭搬入部の斜面は2×1㎜と2×2㎜の檜角材を使用しています。

製作にあたって作成した原寸大の図面です.

図面で形状が決まったら図面に従って角材を切断し、木工用ボンドで組み立ていきます。角材を45度の切断する際の治具は機関庫を製作する時に紹介したものと同構造の治具を使用して切断しました。台座の底面の縦梁とその縦梁が乗る脚は3×3㎜の檜角棒で斜めの補強ざい柱は2×2㎜、脚部の十字形の補強はは2×1㎜の檜角棒で製作しました。

脚部は補強部材を除いて3×3㎜の檜角棒を使用しました.

石炭の積載台は2×1㎜の檜角棒を使用しました。上屋の骨組みは2×2㎜の檜角棒を図面に合わせて切断し、組立てました。また、照明として12Vの米粒球を中央部に取り付けました。

上屋の骨組みは主に2×2㎜の檜角棒を使用しています. 電球とコードはテグスにより柱に固定しています.

石炭を搬入する斜面の部分は2×1㎜の檜角棒を使用して製作しました。配線は台座の脚に沿わせて地表のレベルまで導いています。

脚部、石炭積載台、上屋、石炭搬入用の斜面を組み立てたところです. この後屋根の製作に入ります.

屋根はトタン張りとしました。まずはラベル紙とケント紙を貼り重ね、鉄筆で縦方向に筋をつけたのち帯状に切断し、イラストボードで製作したベース部に貼り付けました。

ベースに帯板を取り付けたところ. この後頂部の稜線に山折にしたケント紙を接着して完成です.

次に石炭台の囲いと地上の石炭置き場を製作します。これらの囲いは2×1㎜の角棒で製作しますが、2×1㎜の角棒をそのまま使用してしまうと接合面の精度が良いため貼り合わせた角材の隙間が埋まってしまい、古びた感じが出ませんのでこの部分は1×5㎜の角棒を2ミリ幅に切断し、機械加工した素材の切断面同士の接着を避けることで板の隙間の空いた感じを表現しました。その手順は下の写真のとおりです。

まず0.5×6㎜の檜角材を3分割します.
切断した板の両側の機械加工された面同士が対向しないように再度接着して完成です.

完成した部材は所定長さに切断し縦桟を接着後組み立てます。塗装はタミヤのラッカー系の塗料を使用しています。その後ケント紙で製作したベースを取り付け、黒色に塗装後その上に石炭を散布します。石炭はIMON製の石炭を使用し木工用ボンドで固着しました。石炭は最初下の写真のように最初にケント紙の上に固着して、その後給炭台の所定位置に接着し、さらに給炭台との境界部(ケント紙の断面の近傍)に石炭を散布して固着し、ケント紙の断面を隠してあります。なお、地表の石炭置き場の石炭もこの方法で固着しています。

これで給炭台の完成です。完成後、石炭置き場とともにレイアウト上に固定しました。

給炭台の次はディーゼル燃料補給設備の紹介です。ディーゼル燃料補給設備は大きな気動車区では下の写真のように整備線に等間隔で設けられた複数の給油設備を見ることができますが、今回製作するような小規模な給油設備の製作法は雑誌等で紹介された例は記憶になく、自身でも実際の設備を意識して見たり写真を撮影した記憶はなかったため、プロトタイプについては当初は全く当てがありませんでした。

名古屋第一機関区の燃料給油設備. 編成全体に一度に給油できるよう, 給油設備が等間隔に並んでいます.

ただ、機芸出版社から発行されているシーナリー・ストラクチャーガイド、シーナリー・ガイドには小規模な給油設備の写真が数枚掲載されています。その中で、私は国鉄真岡機関支区の旧型のガソリン計量器が露出しているタイプの設備を参考にして製作することとしました。補給小屋は比較的新しく、可燃物を扱うため建物は木造ではありませんので今回製作した給油小屋もそのようにしてあります。また可燃性の液体を扱う設備のため消防法の要求事項に適合する必要があります。貯蔵タンクは地上にも置くことはできるようで、実際にはそのような例もあるようですが、地上に設置する場合は周囲に確保しなくてはならないスペース等が要求されているようですので、タンクはそのような要求のない地下に存在しているという想定にしてあります。

製作した給油設備の全景です.

まずは建物を製作しますが、建物はプロトタイプの形状を大きくアレンジして小型化していますので、製作開始にあたり、イメージ図を作成した後、まずは薄手のケント紙でモックアップを作り、形状を検討しました。

レイアウト上でモックアップにより建物の大きさ等の検討を行いました.

形状が決定したら建物の製作を開始しますが、建物自体は今まで紹介してきた建物の下見板や窓枠を接着する前のものと同一ですので今回は省略し、今回は計量器とその周辺のディテールのついて紹介します。計量器の外観は昔ガソリンスタンドにあったものと同じようですので、本体はケント紙で製作し、レトロ感を出すため溶きパテを塗装後周囲にRをつけました。メーターは手書きした目盛板を縮小コピーして製作しました。上のコの字の部材は本体と目盛板の間に挟むスペーサーです。この後計量器本体の窓部に透明プラ板を接着して組み立ます。なお、計量器の本体下部には表面実装型のLEDを取り付けて計器版を照明可能としてあります。

計量器のパーツと目盛版の原稿です. パーツは原稿を25%に縮小しています.
装後ウエザリングを施し, アクセサリー類を取り付けた完成した補給設備です. 計量器内部のは照明を組み込みました.

建物の基本部分の完成後、細部の仕上げ(アクセサリーの追加)、ウエザリングと表示の取り付けを行いました。この給油小屋は資料の写真を見ると建物の下部にかなり汚れがあります。この汚れは煤とは異なるかなり強固な油汚れという感じです。この汚れは塗装で表現するのが適切ですが、この建物はエナメル系の塗料で塗装しましたので同種の塗料を使用すると失敗した際収拾がつかなくなる恐れがあります、そこでこの汚れの表現には製図用インクを使用してみました。アメリカののModel Railroader誌の建物の製作記事を読んでいるとよく”ウエザリングに”Indian inkを使用した”という記載があります。この”Indian Ink”は墨汁とも訳されますが、海外のIndian inkは独自の成分による顔料に固着材を加えたインクで耐水性、耐光性の優れてたインクのようです。そこで今回、この油汚れの表現には手元にあったロットリングインクを使用して行なってみることとしました。このインクにもDrawing inkという表記がありますが、成分はメーカーによって異なるようです。

ウエザリングに使用した製図用インクです.

このインクを綿棒につけて建物と計量器の裾の部分に摺り込んだ写真が以下に示す写真です。初めての割には大きな破綻なく仕上がりました。インクはエナメル系の塗料上でははじかれたような状態となり、そこから乾いた綿棒で刷り込むと上記の写真のような状態になります。ただ、一度付着したインクを除去するのは難しく、塗膜を侵すことはないものの、失敗すると修復は結構難しい(再塗装が必要)のではないかと思います。インクの右側にあるのはクリーニング液と称する製品ですが、これは製図ペンのクリーニングに使用されるものであり、多少インクを剥離する効果はあるものの塗料の溶剤のようにすぐにインクを溶かすものではありません。

計量器周りのアクセサリと表示です.

ウエザリングが終了したら各種の表示と設備を取り付けます。給油用のホースはAWG#32のリード戦で作成し、Humbrol#32(Dark Gray Matt)で塗装して作成し、プラ製の角棒と真鍮線で製作したホース支持部材に取り付けました。先端には給油用のノズルとしてPriserの消防士のフィギュアに付属していたプラ製のパーツを取り付けてあります。消火器はエコーモデル製のロストワックス製のパーツを塗装して取り付けました。
表示についても日本ではこの種の設備には消防法によるいろいろな要求があるようです。これらの表示はその表示方法も規定されていますので、WEB上には利用できそうな画像が多数あります。蒸気機関車が活躍していた時代の法令の要求事項はよくわからないのですが、今回は記憶を頼りにその画像の中からそれらしいものを選択して作成しました。手順はWEB上の画像をスクリーンコピーし、その画像を切り取って所定のサイズとしてPDF化してプリントアウトするという方法で製作しました。プリントアウトはコンビニのネットプリントで行っています。このような細かい表示は家庭用のインクジェットプリンタでは解像度に限界があり、画質的に満足なものは得られません。それに対し、比較してコストはかかりますが、レーザー方式のプリンタではかなり小さい表示でもなんとか使用に耐えられるそれらしいものを作成することができます。なお、注意喚起のためのゼブラマークは、下の写真に示すように表計算ソフトで黒と黄色の縞模様をプリントし、それを角度をつけて切断することにより作成しています。貼り付けの際にはプリントアウトした紙の表面には透明度の高いテープを貼り付けて表面を保護しています。

レーザープリンターで出力した表示類です

表示類を貼り付けて完成した給油小屋です。塗装は本体がタミヤのダークシーグレー(XF54)、屋根はHumbrolの#32(Dark Gray Matt)を使用しました。

完成した給油小屋です. 計量器以外, 特徴のない建物ですが表示類をつけることにより給油小屋らしくなりました.
レイアウト上に設置(仮置き)した給油小屋の夜景です.

最後までお読みいただきありがとうございました。次回は機関区のその他の建物を紹介したいと思います。

レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(9) -ストラクチャーの製作(2) : 給砂塔と砂焼き小屋 –

給水タンクに続き紹介するのは給砂塔と砂焼き(砂煎り)小屋です。今まで紹介してきたストラクチャー(建物)は基本的に木造建築であり、製作法はペーパー製の車両にも通ずるものがありしたが、給砂塔は塔の部分が鉄骨製でありプラ素材を使用した工作となりますので今までの素材に紙と木を使用した工作とは少し異なった工作になります。以前の記事にも記載したのですが、この給砂塔という設備はこのレイアウトを製作しようと思い立つまでその存在を殆んど意識していませんでした。今回改めてその理由を考えると、思い当たることがありました。かつて60年代から70年代のTMS誌にはレイアウト製作のための参考資料として駅や機関区の設備の実例を写真とともに紹介した記事が多数掲載されておりました。その記事は80年代に”シーナリー・ストラクチャーガイド”等の名称でTMS誌の別冊として出版されており、当時私も熱心に読んでいたのですが、今読み返してみると私が読んでいたそれらの別冊(シーナリィガイド/シーナリィ・ストラクチャーガイド1/レイアウトテクニック)の中に給砂塔の解説記事が掲載されておりません。どうもそれが給砂塔を注目していなかった理由のような気がします。レイアウトの一角に作る機関区ではスペースが限られますので、そのような機関区ではこの給砂設備は省略されることが多かったのかもわかりません。

完成した給砂塔と砂焼き小屋

それはさておき、まずプロトタイプの選定を行いますが、どうも蒸気機関車の活躍末期の給砂塔は標準化されていたようで、両側の線路に給砂するために砂を貯蔵するタンクを櫓の両側に2基備えたタイプと片側に1基備えたタイプの差はあれど、それらの外観は写真で見る限り全国の機関区でほぼ同一のようです。一方、砂焼き(煎り)小屋は各種のタイプがあるようです。最初に給砂塔を製作しますが、図面は入手できなかったため、写真を参考にして数種類のイメージ図を作成しました。実際に製作した形状は右側の図に近い形状です。

給砂塔のイメージ図です. 図では櫓の根本部はストレート形状となっています.

まず給砂タンクを載せる櫓を製作します。櫓の主柱材と水平材はEvergreen社製の1.5㎜アングル材、斜材は同じくEvergreen社製の幅0.75㎜、厚さ0.38㎜の帯板を使用しました。塔は下側が広がった形状になっていますが、この広がりは水平材の長さを変えることにより主柱材を湾曲させています。湾曲量はわずかですので湾曲による主柱材のねじれは認められません。なお、下の写真のように水平材の端部は主柱材に合わせて加工してあります。接着にはGSIクレオス社製のプラモデル用接着剤Mr. CEMENT Sを使用しました。余談?ですがこの接着剤に限らず鉄道模型の製作に使用する接着剤、溶剤、塗料等の中には危険な化学物質を含む可能性のある製品があるような気がします。危険。有害な化学物質を含む製品には危険性や取り扱い時の注意等を国連が定める書式で記載したSDS(製品安全シート:Safety Data Sheet)が作成されますが、この接着剤にはSDSが存在します。一般的には生産現場等で日常的に使用する化学薬品等についてSDSが存在する製品についてはその記載内容(危険性)の把握と掲示等での使用者に対する周知徹底が求められます。模型に使用するこのような薬品類は日常的に使用するものではありませんが、自分が使用する製品にどのような危険度があるかを明確に知りたい方は一度その製品のSDSの有無と記載内容をチェックしてみると良いかもわかりません。

主柱材と水平材はEvergreen社製の1.5㎜アングルを使用しました.

主柱材と水平材の組み立てが完了したら斜材を主柱材に接着します。斜材は中央部でクロスし撓みが発生しますが接着時はこの段差は無視して組立てます。

斜材を接着する際は斜材がクロスする部分のたわみは無視して接着します.

接着剤が固着したら片方の斜材がもう一方の斜材とラップしている部分をカッターナイフで除去します。

斜材を接着後, ラップしている斜材の一方を切断した状態の写真です.

片方の斜材のラップ部分を切取り後、交叉部分にプラの小片から製作したガゼットプレートを貼り付けます。これで斜材は完成となります。

斜材中央部のガゼットプレートは幅2ミリの帯板から作成して取り付けます.

上記の作業は2面については平板上での作業が可能ですが、他の2面についてはまず水平材を取り付けて箱上に組み立てた後斜材を取り付けます。その後の斜材の切断作業は組み立てながらの空中作業となりますが、材料の厚さが薄いため歯が薄くよく切れるデザインナイフを使用して切断部に当て板を当てながら切断すれば比較的簡単に斜材の切断は可能です。完成した塔は結構頑丈になります。

完成した櫓の2面をに水平材、斜材を接着して櫓を完成させます.

砂を貯蔵するタンクはペーパーで製作します。図面から展開寸法を求めて木工用ボンドで組み立てます。

砂を貯蔵するタンクはペーパー製です.
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