話が少し前後してしまいますが,今回はレイアウトの設計について私が行った方法を紹介させていただきたいと思います.前回まで,イメージの構築から線路配置の決定,さらに台枠の制作までの過程を説明させていただきました.私は過去何回かレイアウト(レイアウトセクション)の製作を経験しておりますが,構想設計はともかく,詳細設計がどの程度進んだ時点で製作を開始するかは悩ましいところです.
私がかつて業務として行なっていた製品設計のプロジェクト管理では詳細設計が全て完了し,そのレビューが終了して内容が確定するまでは次の段階に進むことはありませんが,レイアウトの場合は個人が趣味で製作するものであり,シーナリーも含めて考えれば現物合わせが必要な部分も多く,それほど厳密に考えることはないと思います.ただ,それでも設計を終了し線路の敷設をはじめとした製作を開始するまでには多くの検討が必要な項目(決めるべき項目)があり,その手順を誤ると設計段階でも設計の後戻りが生じますし,全ての設計が終了しない段階で一部の製作を始めてしまうと製作後に大幅な修正が発生してしまう可能性もあります.レイアウト製作はあくまで趣味ですので製品開発とは異なり効率の追求や期限を厳守する必要はなく,何より通常は作業を一人で行うため,製品開発プロジェクトのような詳細な日程表の作成とその管理は不要です.とはいえ今回のレイアウトは従来製作したレイアウトセクション等に比較すると線路配置が複雑で,それに伴い設計プロセスも複雑です.一般的に雑誌等のレイアウトの製作法の記事では手順が文章で記載されますが雑誌等ではこの設計プロセスのが全て説明されることはありません(その全てを説明することは実質不可能です).そのため今回は設計にあたり一般のプロジェクト管理で用いられているネットワークダイヤグラムの簡単なものを作成してタスクを明確化してみました.それが下図になります.一連のタスクを実行して黄色で色付けしたタスクが全て完了したところでレイアウトの車両を走行させる部分(シーナリー,ストラクチャーを除く)のレイアウトの設計が完了したと判断してレイアアウトの製作(線路の敷設)を開始できる状態としました.細かくみるとタスクにはまだ抜けがあるような気もしますがもしよろしければ参考にしてください.レイアウトの製作は製作時の誤差の累積により現物合わせとなることも多く製作時に設計の修正を余儀なくされることは多々ありますが,作りながら考えるのではなく事前に各部の形状や寸法をきちんと決めておくことがその場で焦ることなく原因の明確化と適切な修正を行うためにも必要です.

ネットワークダイアグラムはプロジェクト管理の一手法で簡単にいえば設計のタスク(やること)を全て抽出し,そのタスク間の依存関係を表したものです.そしてこの図を作成するとあるタスクを実行するためにその前に行っておかなければならないタスクを明確にすることができます.また,この図からどのタスクが全体を完了させるまでの時間を支配しているかがわかり,プロジェクトにおいてタスク実行の優先順位やリソースを重点的に投入すべき部分が把握できます.ただ趣味かつ個人での作業が基本のレイアウト製作では明確な完了時期を決める必要がなく,個人レイアウトではリソースも基本一人ですのでこのようなタスクの管理は不要です.ただレイアウトを製作するときに製作に時間がかかるストラクチャーを先に製作し始めることが多いのは無意識のうちにレイアウト完成までに時間がかかるタスク(ある期間でプロジェクトを完了するためにクリティカルパスとなるタスク)を優先させているともいえます.また今回のような海外メーカーの線路を使用した外国型のレイアウトの製作では使用部品を全て国内で調達することはまず不可能で,発注から入手までに時間がかかりますし,費用を抑えるためにこれらを海外の模型店に発注する場合にはなるべく発注をまとめて送料の負担を最小限にすることも必要です.この点でどこまで設計が進んだら海外に発注を行うかを把握するためにもこのネットワークダイアグラムは役に立ちます.そしてこのネットワークダイアグラムを見るとわかるように,レイアウトの設計のメインである線路配置の検討を開始するためにもその前に実施しなければならないタスクががあります.その中で線路(分岐器やレールの選択)や勾配設計のための路盤の構造(厚さ),想定する列車長の最大値等は前提条件としてすぐ思いつく(線路配置の決定の中で必ず必要となる)のですが,見落としやすいのは使用するトンネルポータルや橋梁の形状の把握です.特にこのレイアウトのように線路が輻輳しているレイアウトではトンネルポータルのサイズや橋梁の幅が線路配置を決める際の制限条件となります.
具体的に今回のデイアウトでトンネルポータルの形状が線路配置に影響を与えるのはこのレイアウトでは下図の赤丸のような部分です.

左側の赤丸の部分はStaging yardからの線路と駅からの線路が接近しておりはStaging yardからの線路は台枠の外縁に接近していますので赤丸部分にトンネルポータルを設けようとしてもトンネルポータルのサイズによってはトンネルポータルの設置ができません.この部分に市販のトンネルポータルを設けたい場合は近接している線路と台枠の外縁との間にトンネルポータルと想定する地形に応じて余裕を取る必要があります.図の右側の赤丸も同様です.またトンネルポータルを図の右下の赤丸位置に設けようとした場合,この部分はポータルを設ける線路と隣接する駅側の感覚が近い上に台枠の縁との距離も小さくさらに線路の高低差が左に行くほど減少していますので,トンネルポータルの幅だけではなく高さも考慮して位置を決めないと地形の処理が難しくなります..特に欧州の鉄道トンネルのトンネルポータルは石造りで装飾があるものが多いため日本のトンネルポータルに比較して大型のものが多く,サイズを優先して日本でよくみられるコンクリート製のポータルを採用すると欧州らしさを損なってしまう可能性がありますので注意が必要です.今回は駅の右側に使用するトンネルポータル以外は旧作のトンネルポータルを使用したため線路配置の検討時にはすでに大きさがわかっていましたので検討に支障はありませんでしたが手元に部品がない場合には何らかの方法で事前に寸法を知ることが必要です.今回新規購入したトンネルポータル(複線用)はNoch製ですが,Nochのカタログにはサイズの記載がありました(KIbriのカタログには外形は記載されておりません).
橋梁についての注意点は上図の青丸の部分のような複線ではないものの互いの線路が接近している場所への橋梁の設置です.この部分には湖の上を跨ぐ橋梁を設けることとしましたが,橋梁の幅を把握しないまま線路を近づけすぎると2個の単線用橋梁が互いに干渉して設置不可能となります.これが製作時に発覚して内側の線路を上方に移動させようとすると立体交差部までの経路長が変化して勾配設計が見直しになります(外側線路は台枠外縁に近いため下方への移動位は不可能です).また解決手段として2本の線路をさらに近づけて複線橋梁を設置することも考えられますが,複線用の橋梁は市販品にはなく苦労して自作しても2本の線路が緩やかに離れていくという設計意図の実現が難しくなります(レイアウトを見た時の印象が大きく変化します).このためこの部分も線路配置の決定には使用する橋梁のサイズを知ることが必要です.私が約30年前に前作のレイアウトを製作する際に全面的の参考にしたTMS誌の”9ミリゲージレイアウトの作り方”では線路敷設後に立体交差部ととトンネルの位置関係に苦労したという記述が出てきますが(SEP ’70 通巻267号),その作例のような比較的単純な線路配置であれば制作開始後でもなんとかそれらしくまとめることができても今回のような複雑な線路配置になると下手をすると破綻してしまいます.また最近では線路配置検討にレイアウトの線路配置作成用のソフトウエアが多く以前の手書きでの作図に比較して簡単に線路配置の微修正が可能です.そのため上記のことを意識していても微修正を繰り返すうちに気が付かないうちに破綻している恐れがありますので注意が必要です(私も後から気がついて修正した部分があります).また今回のような複雑な線路配置では高低差のある線路で平面図上で互いの線路が離れていても上側線路の路盤の幅によっては下側線路を走る車両の車両限界と上側の線路の路盤が干渉する恐れがありますのでその点も注意が必要です.また立体交差部の高低差が車両限界以上でも上下の線路が浅い角度で接近してくる部分では路盤と車両限界の干渉に注意が必要で地形の処理にも影響する場合があります.
そして私はこのネットワークダイアグラムに沿って検討した結果は仕様書を作成して文書化しています.仕様書と言っても他の人に提示したり仕様書を提示して誰かに作業を依頼することはないので製品の仕様書で記載される良不良判定の判定基準等の数値基準は殆んど必要なく,自分が意図する最終成果物のイメージとそれを実現するための各部の視覚的なイメージの明確化と,これらを実現しなおかつその中で実感的な列車運転とそれを楽しむための技術的な考え方や構想を記載したものです.その仕様書が下に添付したものになります.個人的なドキュメントで誰のレビューも受けていないので完成度が低くお恥ずかしい限りですが何かの参考になれば幸いです(画像をクリックすればダウンロードせずとも閲覧は可能です).個人で楽しむ鉄道模型では自分の作品を言葉で説明するという機会はほとんどありませんが,人間は自分で何かを考える場合結局は脳内に浮かぶ言葉で考えてると言いますので自分の考え(やりたいこと)を言葉や図でで表わさなければならない仕様書の製作は時間はかかるものの,自分の考えをまとめる上ではそれなりに意義があるのではないかと感じています.また高齢になってくるとどうしても物忘れも多くなるような気もしますので備忘録としてもそれなりの効果はあるような気もします.
今回この仕様書の内容については改めて説明することは致しませんが,これまでに説明は概ねこの仕様書の内容に基づいて行なっています.ただ,この中で前作のZゲージレイアウトに比較して大きく変更(改良)しているところはレイアウトの電気配線で,実際に製作するとそれなりの効果は認められましたのでそれについて少し述べたいと思います..
私はこの前作であるKeiserburg Stadtbahnを約30年前の製作して以降いくつかの小型レイアウト(レイアウトセクション)を製作してきましたが,そのレイアウトは日本型のレイアウトセクション一作を除き全てDCC制御(Märklin digital)を採用しました.このためレイアウトへの運転用の配線は実質2本でよく,分機器等の制御も分機器近傍にデコーダーを配置すれば分岐器からのケーブルはそのデコーダーへ接続すれば良いので配線は大幅に簡略化できます.自動運転を行う場合のS88コンタクトはデコーダーまで個別に配線しなければなりませんがこちらも数が多くなればLANケーブルを使用してデコーダーを芋づる式に接続して設置することが可能です.しかしZゲージの車両は今の所アナログ制御しかできませんのでブロックのフィーダーと分機器等のアクセサリの配線は全てコントロールボードに接続する必要があります.このためケーブル長は短くてすむもののケーブルの本数はゲージには関係なく結構多くなります.前作では当時の雑誌の記事に従い各ケーブルを端子台を経由させてコントロールボードに接続しましたが照明用の電源を合わせるとその数は100本近い本数になり,元々のサイズが小さいこともありレイアウト台枠下は配線と端子台で埋め尽くされる感じになってしまいました.(ちなみに今回のレイアウトでは列車制御用のケーブル(照明除く)だけで66本です).そこで今回前作レイアウトのケーブルの輻輳をなんとか避けたいと思い,コントロールボードから各負荷近傍に基盤を配し,そこへの配線にフラットケーブルを用いることとし配線の輻輳を抑えることとしました.その内容は仕様書の§ X 以降に記載してあり,運転制御関連の配線方法の概念図をFig21,各基板内の結線図と各ケーブルへの制御信号の割り当てをFig22に記載してあります.これにより台枠内での配線の輻輳はかなり抑制できそれなりの効果はあったと思っております..なお,前の記事で紹介したように,台枠の制作を設計完了の前に行ったのは,この構想の実現のために基板の設置位置とそこまでのフラットケーブル長を正確に算出したかったことによります.またストラクチャーや街路灯等の照明への電源供給も同様の方法で行っていますがこちらはレイアウトが完成したに後も照明の追加が想定されるためコントローラーI/F基板から照明に設置した基板までの配線はコネクタ付きフラットケーブルを用いて芋づる式に接続して各基盤の取り外しを容易にするとともに,フラットケーブルの芯数に余裕を持たせて将来の照明のON /OFF回路の追加や電流容量増加によるACアダプタの増設にも比較的簡単に対応できるように顧慮しました.その概念図と各基盤のターミナルブロックの位置とコネクタ挿入方向は仕様書GIG32とFig33に記載してあります.このような設計とすることにより台枠内のケーブルの這い回しはかなり整理され台枠下からの線路へのアクセス性の向上も実現できました.なお,Fig22,Fig33は仕様書を制作しなくとも今完成後の保守や改造時に必ず必要になりますのでなんらかの形で確実に残しておくことが必要です,前述のように仕様書のその他の部分については説明は省略しますが,最後にこの仕様書に従って製作した基盤,コントロールボードおよびレイアウト台枠下の写真と仕様書中に記載した基本仕様(Model Railroader誌のテンプレートのよるもの)を掲載して今回の説明を終わりたいと思います.
最後までお読みいただきありがとうございました.





