真鍮版から車輌を作る -(4) :車体の曲げ-

ディテールを取り付けるのみとなったキハ52とキハ25,

ヤスリ作業が終わったら車体の曲げ作業です.この作業を失敗すると一瞬ででGAME OVERとなりこれまでの苦労が水の泡とないます,しかし慎重な準備作業と確認作業を行えばその確率は大きく下げることができると感じます.私が初めて真鍮版から車体を制作した時は窓抜きやヤスリ作業の際に,こんなに苦労しているのにこれから行う曲げ作業で失敗したらどうしようという「重圧と恐怖」を感じながら作業をしたものですが,何回か経験したらそれほど心配するものではないということがわかりました.

まずは曲げに使用する工具と部材です.

曲げ工程に使用する工具類.ヤンキーバイスは幅50㎜のものを使用しています.


1.バイス(万力)・・・あて木を挟んで固定するための使用します.バイスには糸色なタイプがありますが私はヤンキーバイス(ボール盤バイス)を使用しています.ちなみにヤンキーバイスの「ヤンキー」の由来は最初にこのタイプを製造した会社名にあるようです.日本では「不良」という意味にも使われますがこれは日本のみの言い方で,英語にはこのような意味はなく完全な和製英語のようです.New York Yankeesは不良集団ではありません.
2.Cクランプ・・・あて木を挟むために使用します.サイズは当て木が挟めれば使用可能です.私は車体の目げ時には穴あけ時のワーク固定用のものから工作台固定用のものまで手持ちのCクランプを総動員します.なお,私が使用しているヤンキーバイスは台への固定機能がないため,バイスを固定するための大型のものも使用しています.
3.あて木・・・曲げの際に真鍮版を全長にわたって固定したり曲げたりするために使用します.私は厚さ12㎜,高さ30㎜,長さ約300㎜の杉角材3本を使用しています.角材の幅は側板の長さ以上あったほうが良いと思います.長手方向の剛性も必要ですが0.3㎜の真鍮版であればCクランプを併用していることもあり厚さ12㎜でも剛性不足は感じませんでした.3本のうち1本は一稜を屋根Rに合わせて整形しますので,屋根Rの異なる車輌を曲げる際にはそれぞれ別のあて木(ただしあて木の4辺を利用すれば4種のRが可能)が必要です.
その他寸法測定用のスケール,板金固定用のテープ(マスキングテープ)を使用します.

1. あて木の成形
まずあて木を屋根のRに合わせて成形する際のあて木の稜線につけるRの半径を決める作業をを行います.非常に重要な作業であるにも関わらず話が前後してしまい恐縮ですが,この作業は最初に行う罫書き前の段階で屋根の展開寸法を決める段階で行ないます.(2)の罫書きの紹介記事の中で,罫書きの前に屋根の展開寸法を求めるために車体断面(妻板)形状をした板に実際に曲げた板を当てて屋根の展開寸法を含めた車体板の幅を算出することを記載しましたが,あて木につけるRの寸法はこの時点で決定します.今回製作するのはキハ20形気動車で,必要なのは屋根の肩部のRの数値なのですが,私はどうしても屋根の断面寸法が記載されている図面を入手することができず,バラキットを組み立てたキハ22(フェニックス模型店製)や手元にあったキハ20系用と称するのぞみ工房製の木製屋根板木製の屋根板の実測等から車体完成時の屋根の肩部のRは4㎜としました.完成時の肩Rの寸法が決定したら実際に真鍮版を曲げてあて木の綾につけるRの寸法を決めますが,これはTry and Errorの作業となります.写真の曲げサンプルは最終的に屋根の展開寸法を決めるために用いたものですが,実際にはこの曲げサンプルを作る前に,何度かあて木のRを変えて真鍮版の切れ端を曲げてテストしています.この作業の際のはあて木は短いものでよく真鍮版も幅10㎜程度,長さ20−30㎜の残材のようなもので十分です.ただし使用する板の圧延方向は実際の車体板の圧延方向と合わせておいた方が良いと思います.圧延方向は板の表面を細かく観察すれば大体わかりますが,もしわからなければ実際に使用する車体板と同じ板から曲げ方向が同じになるように曲げサンプルを採取するのが良いと思います.なお,詳しい理屈は割愛しますがあて木に設定するRは付けたいRから板厚を引いた値よりよりやや小さいRが適正のようです.適正Rを求めるためには大きめのRから小さいRへとあて木を削りながら行えばそれほど時間のかかる作業ではありません.この作業を経て製作した部品が(1)に掲載した下の写真のサンプルです.

側板幅を算出するために製作した部品

・ あて木の整形
まずはあて木の一辺を順位作業で決めたRで削ります.この際整形する稜と接する真鍮板を挟む面の稜よりR寸法分だけ下方に綾と並行にライン引きます.このラインがあて木で真鍮板を挟む際の真鍮板の位置決め指標になりますが,このラインが綾と並行になっていないと曲げた時に側板高さに左右で差が生じ,曲げた時点で 側板の高さが左右で異なることとなり失敗(GAME OVER)となりますので簡単な作業ですが慎重に行ない,終了後充分にチェックする必要があります.ラインが引けたら稜線を所定のRに成形しますが,杉角材であれ小さいRは耐水ペーパーで比較的簡単に成形できました.このRはケント紙等で作成したゲージでペーパー車体の屋根板の成形やペーパールーフ車体の屋根Rのチェックと同じ要領で行いました.

稜線にRをつけたあて木

・板の固定
綾部の成形が終わったらいよいよ曲げ作業に入ります.まず車体板の表面に曲げ線(側板と屋根との境界部)を罫書きます.また屋根の中心にも罫書き線を引きます.この罫書きを忘れるとベンチレター等屋根状に部品を取り付ける際に苦労しますので忘れずに罫書いておく必要があります.張り上げ屋根の車体でなければ前者は雨樋で隠れますが,後者は隠す部品はありませんので軽く罫書きます.罫書きが終了したらあて木の屋根Rの加工時に書いた線と車体版の曲げ線を一致させて車体板をあて木にテープで固定します.この固定がズレると車体が正確に曲がらずその修正は不可能ですので入念な確認を行なう必要があります.

車体板とあて木を指標に合わせて固定します.固定にはマスキングテープを使用しました.

車体板をあて木に固定したら,加工していないあて木の上面を車体が固定されているあて木に引いたラインに合わせてバイスに固定します.バイスに挟む前に位置を決めて固定してもバイスに軽く固定してから位置を調整してもどちらでも良いですが,バイスを軽く押し付けた状態であて木の位置を調整する際は調整に伴いテープで固定した車体板の位置がずれていないかも確認が必要です.なお固定の際はあて木の下面をバイスのジョーのスライド面に押し当てます.この作業により作業台とあて木の並行度が確保されます.作業台と曲げ線の並行度の調整が簡単にできるのはヤンキーバイスのメリットです,

2本の当て木と車体版御関係を充分にチェックします.

あて木をバイスに固定したら車体板とあて木にずれがないかを入念ににチェックします.車体板とあて木の位置関係がずれていると100%失敗しますが,正しく固定されていれば成功の確率は大幅に上昇します.なお,私が使用しているヤンキーバイスは台への固定機構がないためあて木と車体板をバイスに固定した状態で手で持ち上げやすく,台上に固定されているバイスより至近距離から色々な方向を向けて位置関係を確認できるというメリットがあります.チェックで問題ないことを確認したらバイスからはみ出ている部分のあて木をCクランプで締め付けます.締め付けが完了したらバイスを台上に固定して曲げ作業を開始します.

曲げ作業を開始する直前の状態です

曲げは曲げ用のあて木をバイスに固定しされているあて木の下に押し付けながら曲げていきます.少し曲がったところで曲げの開始点が手前側のあて木の上面となっていることを確認してOKであれば曲げ作業を継続します.曲げる際は曲げ用のあて木の両側がバイスに固定されたあて木から浮き上がらないこと,あて木に均等に力をかけながら曲げることが重要です.曲げる速度は出来栄えにあまり関係しないようですが,曲げ用のあて木の位置を確認しながらゆっくりと慎重に行ったほうが良いと思います..

片側の曲げが終了した状態

片方の曲げが終了したらもう一方も同様の手順で曲げて車体をコの字形にします.

片側の曲げが終了したらもう一方を同じ手順で曲げていきます.
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真鍮版から車輌を作る -(3) :ヤスリがけ-

糸鋸により真鍮版を切断したら次はヤスリ(棒ヤスリ)を使用して部品を罫書き線通りの形状に仕上げていく工程に入ります.この工程までくれば前回の最後に述べたような設計に起因する大きな問題がなければ窓抜き作業のような一瞬のうちに今までの努力が水泡に記すようなインシデントの発生確率は低くなります.そのヤスリ作業は適切な形状と粗さのヤスリを選択すること,真鍮板はやすりは押すときのみに削れることに留意すること,通常はヤスリを真鍮板に対して垂直に保持しながら削ることに注意すること,罫書き線を超えて削りすぎないことの留意すれば時間はかかるものの作業は終わります.

下回りも含め基本部分の組み立てを終え,小パーツの取り付けを開始したキハ25とキハ52

一方,やすりがけには今までの工程にない難しさがあります.それはこの工程の良し悪しが作品の出来栄えに直接影響を与えると言うことです.極端に言えば,罫書きを部品の裏側に行う限りは罫書き線をいくら間違えて描き直してもも作品の出来栄え(外観)には影響しません.また四角い窓を糸鋸で丸く抜いても,それが罫書き線を逸脱していなければヤスリがけ作業の終了後にはその履歴は作品には全く現れません.しかしヤスリ仕上げはその仕上げが罫書き線にどのくらい忠実に行ったかが作品の出来栄えに直接影響を与えます.

それではまずは使用した工具を紹介します.

やすりがけの工程に使用した工具.写真のドライバーは先端を研いでキサゲとして使用しています.


1.精密ヤスリ・・・精密ヤスリで作業のほとんどを行ないます.私はバラキットを組み立てた時に使用していたヤスリをそのまま使用しています.ヤスリは品質も値段もピンキリですが私が使用しているヤスリはメーカー不詳で有名メーカーの高級品ではありません.ただ,糸鋸による作業が下手なせいもあり車体を自作する場合にはヤスリがけの工程が非常に多くの時間を占め,その使用頻度も使用時間もバラキットの修正や小部品を製作するのに比較すると非常に多いので,今後本格的に本格的に真鍮製車体の製作を行なう場合は買い替えたいと思っています.ほとんどの外形仕上げ作業は平ヤスリと丸ヤスリで行いますが,角・三角.先細やすりも穴の拡大,線材の切断等に使用しますので用意しておいた方が良いと思います.
2.その他のヤスリ・・・タミヤ製のベーシックヤスリセットの細目と中目を用意していますが前面の”オデコ”の整形や,糸鋸であまりにも内側を切りすぎた窓の荒削りに使用する以外はほとんど使用しません.これらのヤスリで真鍮板の表面を削ると塗装後まで傷が残ってしまったり傷の除去に非常に手間がかかる場合がありますので要注意です.
3.ステンレススケールとノギス・・・作業中の寸法測定に使用します.
4.耐水ペーパー・キサゲ・キサゲ刷毛・・・作業により発生するカエリの除去に使用します.

・ 実際の作業
私の経験ではヤスリがけの留意点は冒頭でも触れたように ① 切削中は板とヤスリを垂直に保持して作業する ②ヤスリが金属を削るのは手前から奥にヤスリを押すときのみであることに注意する(ヤスリを引くときはヤスリを板に強く押し付けない)③ 切削時には常の罫書き線を認識しながら行う ということではないかと思います.これは学校の技術家庭科の授業で習ったのかもわかりません(私は覚えていません).また私は機械工学科出身ですので大学の実習でヤスリがけ作業の実習も行なったはずですが,何を教わったかは全く記憶にありません.多分鉄道模型愛好者で過去今回のヤスリがけ作業で要求される精度でのヤスリでの仕上げ作業を学校以外で経験している方は非常に少ない(殆んどいない?)のではないかと思われます.しかしヤスリがけは上記に注意して作業を行えば比較的簡単に鉄道模型製作に必要な程度のやすりがけ作業の「コツ」は掴めるような気もします.以下,私の行なった手順を実例で紹介します.

ヤスリ作業中の客用ドア.

上の写真は客用ドアをヤスリ仕上げしている途中の写真です.上の2枚が糸鋸で抜いた状態,下の2枚が最終仕上げ直前の段階です.その手順は ①丸ヤスリを用いて窓の隅R部分を罫書き線ギリギリまで削る(罫書き線の部分は削りません)② 角のRとスムーズに繋がるように平ヤスリで直線部を削る(この状態で罫書き線の内側に沿った形で窓の外形が仕上がります).ここまでできたら以降 ③仕上がり状態をチェックの上罫書き線がほぼ消えるまでR部を削り込む ④ R部とスムーズに繋がるように直線部を削り込む という手順で,上の写真の下段は③と④の間の状態です.
作業中の注意点としては,切断作業と同様,常に罫書き線を確認しながら作業を進めることです.材料には削り込みに従って外周にカエリが発生し,そのカエリは表面と裏面両方に発生します.そのため作業中はカエリを確実に除去し,常に罫書き線がどこにあるかを認識しながら作業することが必要です.光源の位置によっては発生したカエリは光に反射しますので,罫書き線の位置や実際に削られている位置と罫書き線の位置関係がよくわからなくなったり,カエリの反射を罫書き線と誤認する場合もあります. 繰り返しになりますが糸鋸による切断と同様,罫書き線が認識できなくなったと思ったら即作業を中断してかえりを除去し,罫書き線を確認することが必要です.罫書き線を強めに付けてあれば表面を耐水ペーパーで軽く擦ってかえりを除去しても罫書き線は残りますので最終段階での確認の際はこの作業を行なった後で削り量が適正であるかを確認しても良いかと思います.そして作業が終わったら最後に板を裏返して反対面(外観となる面)からチェックし,外形に乱れがなければ終了です.やすりがけ作業は糸鋸作業に比較すれば失敗の確率は低いものの,時間おかかる集中力のいる作業であり,集中力が途切れないように休みながら行う必要があります.また完成と思ってもしばらく時間をおいてチェックするとエラーに気づく場合もありますので一晩経ってから再チェックを行うのことも効果的です.ちなみに下記のドア4枚(穴16箇所)を仕上げるのに要した時間は約2.5時間でした.なお窓部以外のヤスリがけ作業もほぼ同じ手順で行いました.

窓周囲の仕上げがほぼ終わった側板(外観面).写真で黒っぽく見えるのはヤスリ作業で発生したカエリです.

・ヤスリがけの精度
ヤスリがけの工程は手作業ですので精度には限界があります.私の参考にしたTMS誌”キユ25の作り方”では切断と同様”罫書き線が消えるまでヤスリがけする”と簡単に記載されています(上に紹介した手順と同様まずR部を先に仕上げることにも言及されています).ただ色々な条件によるとは思いますが私が行なった実際の作業では私の引いた強めの罫書き線の幅をヤスリの1ストロークで一気に削り込むことはできませんでしたので,慎重に作業を行えばヤスリ作業で大幅な寸法逸脱が発生することはなく,時間と集中力は必要なものの切削時のヤスリの当て方に慣れてしまえば形状を罫書き線どおりに仕上げるのはそれほど難しい作業ではないと思います.
具体的にいうと仮に罫書き線の太さ(幅)が0.1㎜とすると,罫書き線が削られ始めて削り取られるまではの削り量は0.1㎜になりますが,上記のように精密ヤスリを用いて軽めの力をで削る場合にはその罫書き線を消すまで材料を削り込むためにはヤスリを数ストローク動かす必要がありますので,罫書き線が削られ始めた後罫書き線が見えている間に作業を終了すれば誤差は0.1㎜以下となります.このように考えるとヤスリ作業は慎重に行えば結構よい精度で仕上げることが可能です.また見方を変えれば実物を縮尺した寸法で正しい形状の部品ができるか否かは設計と罫書きに殆んど依存しているいうこともできます.なお,窓抜きに関してはこの後窓の周囲にテーパーをつける作業が発生しますが,私はこの作業は組み立て後行いましたのでそれについてはまた項を改めて紹介します.

最後までお読みいただきありがとうございました.次回は側板の曲げと組み立ての手順を紹介したいと思います.

真鍮版から車輌を作る -(2) :真鍮板の切断(窓抜き)-

ほぼディテール加工を残すのみとなったキハ25とキハ52の車体と床板です.

部品の罫書きが終わったらいよいよ糸鋸による切断作業に入ります.この切断作業から折り曲げまでが失敗(部品を作り直さざるを得なくなる)のリスクが最も高い作業になります.リスクは広辞苑等では「危険」と書いてありますが,リスクには国際的に定義された明確な定義があり,それは一言で言うと「発生する危害とその頻度で決められる量」です.一般的に危害は人の対するものを考えますが,今回の真鍮版の切断の場合にはリスクを最小とすると言うことは,部品が作り直しになると言うことが製作者が受ける「危害」に相当し,危害の頻度は鋸刃が罫書き線からはみ出して真鍮版の本来切り残すべき領域に侵入してしまうことで,リスクを低減させるためにはその頻度を極力減らす施策を講ずるということになります.リスクを低減させる方法を検討することをリスクマネジメントと言いますが,今回の場合は鋸刄が罫書き線からはみ出す頻度が最小となる(殆んど起こらなくなる)やり方を考えてそれを実行することがリスクマネジメントを行うと言うことになります.
一方,私が最初に参照したTMS誌の片野正巳氏の記事ではこの糸鋸による切断(窓抜き)に関しては「罫書き線から絶対はみ出さないこと」と記載されているだけで,切断中の写真も掲載されておらず,真鍮版に糸鋸の鋸刃を通す穴を開けた写真の次に掲載されているのは窓抜きが終わってヤスリ仕上げの済んだ側板の写真です.後にも述べますが,これは片野氏(TMS誌の編集部)が「罫書き線から絶対はみ出さない」ためのリスクマネジメントは製作者自身で行えと言っているのではないかと推察します.
と言ってしまったら身も蓋もないので今回私が行った私なりの方法と注意点を参考として紹介します.それは一言で言えば「練習で技量を向上させるとともにその中で自分の現時点での実力を把握し,その実力を前提に罫書き線をはみ出す頻度が最小となる(まず起こらなくなる)方法で糸鋸作業をを行うと言うことだと思います.

製作したキハ52の車体の部品です

・切断に使用する工具
真鍮版の切断に使用する工具は以下のものです.

私が切断に使用した工具です.切断時はスケールやノギスも使用します.

1.糸鋸・・・真鍮版の切断は全て糸鋸で行います.単純な構造のものでよく,その方が軽量で使いやすいと思います.写真の糸鋸はもう40年以上使用しており当時の値段は¥100であったと記憶しています.私は弓の深さが約180㎜のものを使用していますが,弓の深さは(車体長/2+α)㎜以上が必要です.
2.鋸刃・・・私は近くのDIY店で購入できるドイツ製のアンチロープ社の鋸刃を使用しています.サイズは#0/0から#5/0を用意していますが0.3㎜の真鍮版の切断には殆んど#4/0と#5/0を使用しています.40年前の価格は¥300程度と記憶していますが今も同程度の価格で入手できます.糸鋸刃はかつてはドイツのヘラクレス社製が定番でしたが現在は市場ではあまり見かけずAmazonでは販売単位は1グロスしか見当たりません.私の感覚ではヘラクレス製とバローべ製の間に切れ味の差は殆んど感じません.昔は国産と輸入品の差は歴然でしたが最近はどうなのでしょうか.
3.弓押さえ・・・糸鋸の左に見えるもので,糸鋸に鋸刃をセットするときに糸鋸の弓を狭める際に使用します.平板を切るときにはなくてもそれほど支障はありませんが曲げを行った後の穴に鋸刃を通すときには必要です.私は2.4㎜角の真鍮角線から製作しました.市販品は私は見たことがありません.
4.ドリル刃・・・鋸刃を通す穴を開けるときに使用します.私は主に呼び径1.6㎜を使用しています.
5.ハンドドリル・・・鋸刃を通す穴を開けるときに使用する場合がありますが,あまり使用しません.ハンドドリルでの穴あけはドリル刃が滑りやすいため使用するときは必ず小径ドリル(0.8㎜)を用いて開けた穴(凹み)をポンチマークとして使用しています.
6.ドリルチャック・・・直径3㎜程度のドリル刃を取り付けて鋸刃を通す穴に発生したカエリを除去するために使います.穴のカエリを除去しておかないと切断時に鋸刃が引っかかり,最悪の場合折れてしまいます.
私は穴あけ時にはセンタポンチは使用しません.先端が鋭いものでは刃先の滑りを抑えにくく,鈍いものでは周囲の変形が大きくなるためです.
このほかに切断部に付着した切粉を除去するための筆が必要です.切粉を確実に除去するためには自然毛を使用した歯ブラシも有益で,一本あっても良いかと思います.またバラキット組み立て時と異なり同一のドリル刃で多くの穴あけ作業を行いますのでドリルの切れ味が作業性に大きく影響します.ドリルを研ぐのは難しそうなのでもし切れ味が悪いと感じたら買い換えるのも一法と思います.

・ 作業の実際
まずは小物を切断してウォーミングアップを行いますが,その前にどのような部品が必要かを把握しなければなりません.そのために必要なのが部品表ですが,私は表は製作せず,下の写真のような備忘録的な”絵”で済ましています.

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真鍮版から車輌を作る -(1) :製作のための環境整備と罫書き-

製作中のキハ52とキハ25.窓周りのテーパーはヤスリ仕上げとしました

このブログには過去に私が製作したペーパー車体の車両を多数紹介させていただいていますが,その経験を踏まえ,誰かに「ペーパー車体の製作と真鍮版からの車体製作とどちらが簡単か?」という質問をされたら私は「単純に比較することは難しいが,ペーパー車体に比較して真鍮製車体のほうが作りやすい面も多数ある」と答えます.沸きらない答えで恐縮ですが,そう考える大きな理由は①半田という”可逆性瞬間接着剤”が使用できること,②製作中に各部の形状の修正(ヤスリ作業)や一度取り付けた部品の交換が簡単に行えることで,特に①に挙げた半田付けによる組み立てでは部品の取り付け取り外し(位置の微修正)が何度もでき,また部品をを瞬時に接合できるという大きなメリットがあります.
一方,私が『バラキットの製作とペーパー車体の製作とどっちらが簡単か?』と質問されたら間違いなく「バラキット組み立ての方が簡単」と答えます.理由は部品があらかじめ用意されていることもありますが,一連の組み立て作業をほとんど上に述べたメリットがある半田づけで行うことができるということがその大きな理由です.ペーパー車体の製作では接着(乾燥),目止め(塗装,乾燥,やすりがけの繰り返し)等,段取りの異なる作業が混在するとともに待ち時間が多く,接着剤も塗料も可逆性があるものではないためある意味各工程が「一発勝負」となり失敗すると最初からやり直すか修正に多大な労力が必要になります.もちろん真鍮車体工作でも失敗するとその瞬間に”GAME OVER”となる工程はいくつかありますが,その工程は割と限定されておりそこでの失敗防止の対策をしっかり行ない自分なりの手順を確立して何両か車両を製作して行いコツを飲み込めば失敗の確率はかなり低くなると感じます.(具体的には手順の紹介の中で説明します).乱暴に言ってしまえば真鍮板からの車体制作の難易度はペーパーによる車両製作の難易度と同等と言っても過言ではないと思います.
それでもバラキットの組み立て経験のある方が真鍮板からの車体製作を難しいと感じるのはその「最初のとっつきにくさ」と「時間がかかる.特に途中で失敗するとそれまでの苦労が水の泡」というイメージが大きいからではないかと思われます.確かにバラキットの組み立てに比べれば真鍮車体工作は「バラキットにアソートされている部品の製作」に今までにない作業環境と多くの時間を要しますが,上述のように一部の工程に注意すれば失敗は防げますし,金属車体とペーパー車体で車体の基本部分が完成してディテーリング作業が開始できるまでの時間を比較すると,車体が箱状になるまでの時間はペーパー車体の方が短いものの下地処理の時間を含めて考えるとその時間と失敗の確率はそんなに変わらないような気もします.ただ,最初にあげた「とっつきにくさ」という面では,真鍮車体の製作にはペーパー車体の製作やバラキットの組み立てとは異なる作業環境の準備が必要ですのでまずはその環境を作ることが必要になりますので,まず私の作業環境を紹介したいと思います..

・作業環境の整備
真鍮車体の工作はペーパー車体やバラキットの組み立てのように,ライティングデスクの上で,それまで使用していたPCや本の代わりに作業台を置いてすぐに作業を始めることはできません.大きな違いは特に板の切断(窓抜きを含む)作業で,加工する真鍮版の加工箇所の上下(特に下側)にある程度のスペースが必要になること,また加工に伴って発生する多量の切粉の飛散に対する対応をが必要となることです.具体的には真鍮版を切断する際に切断箇所で鋸刃を真鍮版に対して垂直に保持して上下に動かしますので板の切断箇所の下方には糸鋸の鋸刃を真鍮版に垂直に当てた状態で糸鋸を上下に動かせるスペースが必要です.加えて切断地点からは切粉が発生し下方へ落下しますのでその切粉を飛散させない対応も必要です.ちなみに私が今回行った方法は下記の方法で,真鍮版を置く作業板(9㎜厚のシナ合板)をCクランプで机のエッジからオーバーハングさせて固定し,その下方の机の引き出しを開けてその上に板を載せて切断時に発生する切粉を集めています.

糸鋸作業を行なう作業台

この辺りの詳細は以前機芸出版社から発売されていた菅原道雄氏著の「鉄道模型模型工作技法」に詳しく解説されています.この本が発行されたのは1983年で,私もこの本の記載内容をかなり参考にさせていただいていますが,記載内容は本格的なもので最初からこの本に記載されているとおりにやろうとすると,結構大変です.私はこの記事の内容に比較するとかなり「ズボラ」な方法で工作をしています.作品の出来栄えがイマイチなのはそのせいかもわかりませんが,過去にバラキットを製作したことがあり,製作に必要な工具が一通りあれば上記の環境を作り,少しの工具を買い足せば作業は始められますのでまずはこの程度の作業環境で始めてみるのも良いかもわかりません.なお,切粉に関して特に注意が必要なのは近くの電気製品の近傍への切粉の飛散で,その中でも特に注意が必要なのは電気接点が露出しているテーブルタップ近傍への切粉の飛散です.

・設計
バラキットとは異なり,車体を自分で製作する場合には当然加工用の「図面」が必要になります.ただ,これはペーパー車両を製作する時にも必要で,真鍮工作であるからといって特別な図面は必要ありません.私はペーパー車体も含め,車両製作時に一般の人が思い浮かべるような「図面」は製作していません.罫書きのための寸法は鉄道雑誌等に掲載されている図面に1/80の寸法を記載して,それを用いて製作しています.少し乱暴な言い方ですが,製品の製造時に規格に則った厳密な図面を用意する目的は一言で言うと「設計者が意図したとおりのものを他人がばらつきなく(一定のばらつきの中で)大量に作るため」です.そしてそのために図面は内容を一義的に解釈できるように製図規格に則って製作のための図面を作成することが必要です.また加工時の誤差(ばらつき)を最小限にするために加工方法に応じて適切に寸法を指示することも重要です.そのため図面を出図する際にはこれらの観点で図面を複数のレビュワーでレビューします.しかし車両の製作ではそもそも製作するのは自分ですし,罫書き線を基準として加工をどれくらいの精度で加工するかはいくら考えても自身の裁量と技術に依存する(必要な場合は自分で治具を作る)ので,図面は将来自分が同じものを作りたいと思った時に以前に作った車両を製作した際の寸法が分かれば様式は後日自分が理解できるものでよく,ペーパーでも金属でもこの状況はかわりません.私は原寸大の図面を書くこともありますが,それは寸法を記入するというよりは原寸大の図面により全体的な形状のバランスをチェックするためで,模型雑誌や図面集に実物大の図面が掲載されている場合は作成していません.ただ今回製作したキハ20系の気動車は,手持ちのスタイルブックに1/120の図面が掲載されているものの実物大の図面がなかったため実寸大の図面(外観イラスト)を作成し,そこに寸法を記載しています.自宅には1970年頃から故.なかお・ゆたか氏作成の折り込み図面が掲載されたTMS誌と1974年に発行された”日本の車両スタイルブック”がありますが,なぜかどちらにも当時の国鉄でメジャーな存在であったキハ20系やそれと車体形状がほぼ同じであるキハ55系の実物大の図面は掲載されておりません.当時実物界では一世を風靡していた20系客車も同じ状況です.

今回作成したキハ25の原寸大の”図面”です.特に2段窓の車両では模型の実物大の図面が入手できない場合,窓の横桟の位置を自分が作成した実物大の”図面”で検討する必要があります.

・材料への罫書き
作業環境が整って図面ができたら材料への罫書きを行います.私が罫書きに使用しているのは以下の工具です.なお,罫書きの段階では糸鋸作業はしませんので上記のような作業環境は不要です.

真鍮版の罫書きに使用する工具

1.300㎜のステンレススケール・・・車体の全長等をチェックする時等に使用します
2.150㎜のステンレススケール・・・寸法測定のほかスプリングデバイダーに寸法を設定する際に使用します.表面が梨地仕上げの方が目盛りの視認性は良好です
3.スコヤ・・・比較的小型のものを使用しています.私は全長75㎜のものを使用しています.あまり大型のものは使いにくいので小型のものが良いと思いますが,以下に説明する方法で罫書きを行う場合全長50㎜以下のものは使用できません(理由は後述).
4.罫書き針・・・ホビー用として市販されているもので好みのものを選択すれば問題なく使用できます.真鍮は柔らかいので高価な針の硬度が高いものは不要です.
5.スプリングデバイダー・・・正確な罫書きを行うためには必須の工具です.金属加工用向けの製品が必要で製図用のスプリングでバイダーでは正確な罫書きはできません.私は40年ぐらい前に購入したドイツ製のものを使用しています.購入当時はあまり選択肢はありませんでしたが現在ではAmazon等で同じような製品が多数販売されています.ただ選択肢が広がった分中には粗悪品もあるようですので購入にあたっては実物を見て精度チェックした上で購入した方が良いと思います.私は足が75㎜まで開くものを使用していますが足がこの程度開けば特に支障はありません.
6.ノギス・・・直接罫書き作業には使用しませんが,寸法の測定時にあると便利です.
このほかにマーキング用の油性ペンが必要です.

・罫書き
工具が揃ったら真鍮版上への罫書きを行います.まずペーパー車体と異なるのは罫書きは裏側(曲げた時に内側になる面)に行うということです.左右の側板の窓配置が異なる車両でここを間違えると完成時に表面に罫書線(傷)が残りますのでこの時点でGAME OVER,作り直しです(傷をある程度許容すれば継続可能ですが).
私は車体には厚さ0.3㎜,幅100㎜の真鍮版を使用しています.私が幅100㎜の真鍮板を用いるのには理由があり,それは小型のスコヤで罫書きを行うためです.具体的にはまず真鍮版の長手方向に中心線を引き,その中心線上に窓寸法を罫書き,左右の窓の天地方向の罫書きは並行度が保証されたエッジにスコヤを当てて片側ずつその中心線に罫書いたマークを基準に行います.このような方法を採用した理由は片側の辺からの白湯の側板への罫書きは大型のスコヤが必要で取り扱いにくく,万一エッジの突き当て面にゴミがあったり押し付け時にわずかな隙間が開いていたりすると基準から遠いところの誤差が大きくなるためです.この方法で今回製作したキハ52の罫書きが終了したものが下の写真です.

罫書きが終了した側板

・マーキングの方法
図面の寸法をでバイダーに設定し,それを真鍮板上にマーキングしていく手順については少し検討の余地があります.先ほど自分が作るので図面はいらないと言いましたが,この段階でマーキングの際に誤差が累積しない方法を少し考える必要があります.罫書きにおいてスケールからデバイダーに寸法を移しとる際,デバイダーを用いて真鍮版上に位置をマーキングする際,マーキングに従って罫書き線を引く際には必ずなんらかの誤差が生じます.例えば全ての位置を端面を基準に積算寸法で各部をマーキングしていくと,誤差の累積で少し離れた同じ大きさの窓の幅が微妙に異なるというようなことも発生します.また車体幅全長を同一の基準からマークすることは実質不可能であるためどこかの位置で基準点を移動する必要があります.これらを勘案して上記のキハ52の場合私は以下の方法で罫書きを行いました.要点は同一寸法の部分は寸法をデバイダーに設定する作業を極力一回としてばらつきを防止することです.
1.左右の端面から客用ドアの端面側をまでの寸法をデバイダーに設定してマーキングする
2.1を基準にドア幅をデバイダーに設定してマーキングする
3.客用ドアからサッシ窓までの寸法をデバイダーに設定してマーキングする
4.サッシ窓幅+窓柱幅をデバイダーに設定してマーキングする
5.4を基準に窓幅をデバイダーに設定してマーキングする
6.Hゴムで支持されている窓部分の寸法をデバイダーに設定してマーキングする
ただ,恥ずかしながら上の写真のように設定を間違えて修正が必要になってしまいました.この修正の場合は間違った線を同一基準で明確に訂正しておくことが重要です.切断時に間違った罫書き線で窓抜きを行うとこの時点で車体は修復不可能となりGAME OVERになります.
実は私は妻板(前面)を製作する段階で曲げの基準として引いた罫書き線と運転室窓の罫書き線を間違えて窓を抜いてしまい,作り直しています.そのため2回目に製作した際は窓位置にXを罫書きました.修正の場合には上の写真のようにマジックペンを使用するよりはこの方が確実で,間違いを避けるため窓には全てX印をつけておいた方が良いかもわかりません.

罫書き線(窓の位置)の誤認対策の例.

なお,話が前後してしまいますが側板の罫書きにあたっては事前に車体断面形状と同じ板を製作し,側板の幅を算出しておくことが必要です.

側板幅を算出するために製作した部品

・罫書き線の引き方について
中心線上にデバイダーでマーキングした位置は罫書き針の先端の感触でわかりますのでその地点からスコヤにケガき針先端を押し当てて線を引きます.線は罫書き針を強く押し当てると溝幅が広くなりますので正確な位置を表すためには弱く当てた方が望ましいのですが,あまり弱い(傷が浅い)と切断時に罫書き線が目立たなくなります.切断時に罫書き線を見失い鋸刃が罫書き線の外側にはみ出すとこれも即修復不能な失敗になりますので,私は傷を浅くするより,線の太さが一定になるように一定の力で罫書き線を引いています.そして切断後に罫書き線に沿って他擦りがけを行う際,その傷の太さが極力一定となるようにヤスリがけを行っています.なお,前回窓周りについているテーパーの話をしましたが,実物の形式図も模型設計図もこのテーパーは無視して寸法が表示されているので罫書きの際はこのテーパーを気にすることはありません.

以上,今回私が行った罫書きの工程を側板を例に紹介させていただきました.この罫書き工程は罫書き面(曲げた際内側になる面に罫書きを行う)さえ間違えなければ致命的な失敗をすることはまずありませんが,間違った線の訂正方法や折り曲げ基準線と窓輪線の混同防止等,後工程での致命的な失敗を防ぐための対策は確実に行っておくことが必要です.

次回は窓抜き作業を紹介します.最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮版から車両を作る -序:製作開始に当たって-

在庫していた最後の真鍮製バラキットであるD51の組み立てを終了した時点でレイアウトセクションの製作に着手し,真鍮製の車両を製作することは今後もうないのではないかと思っていましたが,レイアウトもほぼ完成してしばらく経つとまた金属製の車両の製作がしたくなってきました.しかしHOゲージ(16番)の真鍮バラキットは蒸気機関車以外でも市場には私がリーズナブルと思える価格で入手できるベーシックな真鍮製のバラキットは殆んど存在しておらず,その割にはキットの細密化のためのパーツは多数存在しているという車輌工作を楽しもうとする者にとっては非常に歪んだ状況になっています.ただ,プラ製品も普及してキット自体の需要も減少している現在,この現状にいくら不満を募らせても以前のように市販のパーツが活かせるベーシックな真鍮バラキットが発売されるということ可能性はまずないのではないかと思います.一言に「車両の工作を楽しむ」といっても私にとっては現在発売されているようなな細密キットの組み立ては極端にいえばプラモデルを説明書通りに組み立てるのと変わらないような気がして工夫の余地が少なく,あまり手を出す気にはなりません.工作を楽しむためにこれらの細密キットをさらに細密化するという手段もありますが,今回製作したレイアウトに今まで製作した車輌を並べてみると,車輌以外の部分も含めて実物の世界をトータルで再現して楽しむ鉄道模型には実物の再現にこだわりすぎた細密な車両は要らないようにも感じます.

この状況を打開する方法の一つは車輌を真鍮版から製作することです.私は今から40年以上前,スクラッチビルドで金属製の車輌を製作した経験があります.しかし,パーツの充実等で当時に比較して作品や製品のレベルが上がっている現在,自分で満足ができる車両をスクラッチビルドすることはなかなかハードルが高い気がします.ただ,当時に比較すると製作のために必要な素材や工具は各種販売されており,当時よりは製作しやすい環境になっているのではないかということ,キットを使用しないことでキット組み立て時の感じていた作品の類型化が避けられるような気もします.そこで今回思い切って真鍮版から車輌を製作してみることにしました.製作した車両は現在,車体の基本部分が完成した状態(バラキットを組み立てた状態)まで完成していますが,これからそこまでの顛末と製作のプロセス,製作中で感じたこと等を記しててみたいと思います.

バラキットを組み立てた状態になった真鍮版から自作したキハ25とキハ52の車体


私が約40年前に以前私がスクラッチビルドで客車を製作した頃はピノチオ,谷川製作所等から旧型客車のキットが各種発売されていましたが,10系客車のキットは発売されていませんでした.その一方,当時は急行「津軽」や急行「十和田」等,優等車が10系客車で普通車が旧型客車で組成された急行列車が多数運転されていましたので,それらの列車を再現しようとすると優等車は自作せざるを得ませんでした.このように当時私が車輌を自作する動機は一言で言うと「キットが市販されていないものを自作する」というものでした.その後フェニックス模型店等から10系客車のキットが発売されましたが,それから40年たった現在,まさかキットの入手が当時より厳しい状況になってしまうとは思いもよりませんでした.鉄道模型を愛好する人は当時とは比べ物にならないほど多いと思いますが,プラ製品の普及やNゲージの細密化工作の一般化で等で40年の間に模型の楽しみ方が大きく変わったということでしょうか.
なお,当時車両のスクラッチビルドをするにあたってはTMS誌に掲載されていた真鍮製車両の製作法(例えばTMS221(1966.11月号),片野正巳氏執筆の金属工作の手引き・キユ25の作り方)等を全面的に参考にしましたが,思えばこのような「作り方」的な記事も雑誌からほとんど姿を消してしまいました.

かつてTMS誌に掲載されたいた真鍮製車両の製作法の例

まずは真鍮版から車輌を製作するにあたり,過去に私が上記の記事等を参考に製作した車両とバラキットを組み立てた車輌を比較して.私が感じたバラキット組み立て品ととスクラッチビルドした車両の外観的な違いと製作にあたって私が感じた留意点を述べてみたいと思います.以下の写真は私が真鍮版から製作した車両とキットを組み立てた車輌を比較したものです.下の写真は真鍮版から自作したスハネ16です(台車は仮のものを取り付けてあります)

真鍮版から製作したスハネ16

こちらはバラキット(フェニックス模型店製)を組み立てたオハネフ12です.

フェニックス模型店製キットを組み立てたオハネフ12(蒸機暖房仕様)

両者の印象を比較すると,自作品の屋根Rが実物と異なること,窓の位置と天地寸法が実物と異なるため(キットが正しい),自作品の印象はキット(実物)と異なったものになってしまっていますが,これは設計上の問題で,側板の平面製,屋根カーブの稜線の乱れは自作品でもキットとの差はほとん感じられず,車体の曲げという面では寸法を正しく設定すればスクラッチビルドでもキットと比較して遜色ないレベルには仕上げられそうです.
一方,窓周りを詳細にみるとキットと自作品では印象が大きく異なります.
自作品は窓を糸鋸で窓抜きし,やすりで仕上げてあるのに対し,キットはプレスで窓を抜いてあります.このためキットは窓の周囲がダレており,これが実物の窓の周囲の溶接サンダー仕上げの雰囲気を出しています.キットはこのダレ量を雄型と雌型の型の隙間等で意図的に調整しているのかは不明(キットの窓の内側にバリが出ているのはその調整のせい?)ですが,屋根の曲げや側板の平面製は両者同等でもこの窓周りの印象でキットの方がより実物の印象を再現しており,窓周りを詳細に観察しなくても全体的に見た時の印象を実感的にしています.また,窓上の水切りもプレスのRが真鍮線を取り付けた自作品よりもより実物に近い印象を与えています.自作品でキットと同等以上の実感を得るにはこの窓周りのエッジの処理が課題となりそうです.

10系寝台車の自作車両の窓周り
フェニックス模型店製の10系寝台車キットの窓周り

.また窓周りの表現では,固定窓のHゴムの表現も自作における課題となります.プレスによる「ソフトな」Hゴムの表現は自作ではなかなか難しく,Hゴムは少しゴツくなるのを承知で真鍮線等で表現するか思い切って省略するかのどちらかを選択する必要がありそうです.ちなみに自作のオロネ10は固定窓のHゴムは省略していますが編成に組み込んで走らせた際には少なくとも私にとってはHゴムの有無はそれほど気になりません.

真鍮版から自作したオロネ10の窓周り.Hゴムは塗装で表現.
フェニックス模型店製のキットを組み立てたオロネ10の窓周り

一方,ウインドシルとウインドヘッダがついた旧型客車の車体では10系客車ほどキットと自作品の際は感じられません.スロ62は冷房化のため低屋根構造に改造されていますが,非冷房の旧型客車に関しては真鍮版からの自作の方が屋根のカーブが実物に近い形で再現できるような気もします.

真鍮版から自作したスロ62の窓周り

以上のように,自作車体をキットと同等以上にする一番の留意点は窓周りの表現である考えられ,車両のスクラッチビルドではこの部分の技法を検討して確立する必要があります.逆に言えばこの点さえ克服できればキットと遜色ない車体がスクラッチビルドで製作できるのではないかとも考えられます.
 とは言っても私の真鍮製車両のスクラッチビルドには長いブランク期間がありますので,このような細か部分を検討する前に昔の記事の製作法を参考に真鍮板から車体を製作し,基本的な部分が当時製作した車両と同等以上かつキットに比較して遜色ないレベルで製作できるかを確認することが先決です.そのため窓周りの表現はその中で検討していくこととし,まずは失敗覚悟でスクラッチビルドによる車体の製作を行ってみることとしました.そこでまず手始めに製作したのが車掌車「ヨ5000」で,その後製作したのが20系気動車(キハ25,キハ52)です.次回以降はその製作のプロセスや使用した工具等を順次紹介していきたいと思います.


最後までお読みいただきありがとうございました.