前回は(1)として、下回りのレストア作業の内容を紹介させていただきましたが、今回は第2回目として、床板を含めた車体のレストア作業の内容を紹介させていただきます。
レストア作業とは言っても車体には大きく損傷しているところはありませんでしたので、作業内容は細部の修正とディテールの追加作業となります。このキットの車体は0.4㎜厚の真鍮プレス製で、前頭部は絞り加工の運転台窓周りと窓下のプレスパーツを組み合わせる構成となっていました。製作した当時は整形に結構苦労をした記憶はありますが、前頭部の形状については大きな不満はなかったため今回その部分の加工はしておりません。ただ、運転台の側面窓は天地寸法が大きいように感じたため下辺を持ち上げて天地寸法を小さくする加工を行いましたが、改めてチェックすると少し小さくしすぎた感があります。またその部分の継ぎ目処理が不十分で、塗装後に気がつきましたが、そのまま継ぎ目の目立つ状態になってしまったことは悔やまれます。また、当時屋根から前面に繋がる部分の曲面は写真を見ながら形状を仕上げていきましたが、当時は日立製の機体とその他メーカーの機体でこの部分の曲面の形状が異なっているという知識がなかったため、それを意識した写真のチェックができず、少し中途半端な形状になっている気もします。ただ、結果的には日立製以外の機体の形状に近くなっているようです。
(1)でも記載しましたが、車体のタイプはSGを装備して東海道線で運用されていたタイプとしました。手元にはそのタイプの機体の全体を写した写真はないのですが、全体的なイメージとしては下記の宇都宮機関区の機体から電気暖房作動警告灯、汽笛カバーを取り外し,運転台窓ガラスをHゴム支持ではなくしたイメージです。
また、EF58の車体の特徴の一つに、SGが搭載されている(いた)関係上、屋上機器の配置が前後方向の車体中心線に対して非対称であることが挙げられます。通常、パンタグラフは台車の回転中心(芯皿位置)と一致していますが、EF58は片方のパンタグラフが芯皿位置からオフセットしています。したがって屋上のパンタグラフ付近を撮影した写真を参考にする際はどちら側のエンドの写真かを確認する必要があります。
前置きが長くなりましたが以下、具体的な改修内容を紹介させていただきます。まずは床板です。床板は最初はキットの床板をおのまま使用していましたが、今回は運転台下の床板と台車を取り付ける中央部の床板に3分割しました。そのうち運転台下の床板は0.3㎜の真鍮版から切り出し、車体にねじ止めしてあります。中央部の床板はキットのパーツを加工したものを使用しています。
旧型電機の床板に取り付ける部品の中で、まず検討が必要なのが中央部に取り付けられたエアータンクと主台車枠の接触によるショート対策です。このキットはエアータンクの主台車枠と接触する部分の担いバネは省略されており、その部分のエアータンクの裏側が切り欠かれており、それなりのショート対策はされているのですがそれでは十分ではありません。そのため、さらなるショート対策を行う必要があります。このショート対策としてまず考えられることはエアータンクを床板から絶縁することですが、それでは対策にはなりません。その理由は2個のエアータンクを結ぶ配管の存在です。この配管に金属を用いるとカーブで両側のエアータンクに互いに極性の異なる主台車枠が接触するとショートしてしまいますのでショートの確率は下がりますが完全なショート防止対策にはなりません。最近はEvergerrn社から細軽のプラ製ロッドも発売されており、エアータンクを繋ぐ配管をプラ棒にすることも考えたのですが、部品点数が多くなり組立も面倒になります。そのため、結局最初に製作した時と同様に、エアータンク裏にテープを貼って絶縁することとしまいました。というわけでこの部分に前作からの進歩はありません。強いて言えばテープをメンディングテープからより耐久性があり絶縁性や潤滑性に優れているテフロンテープに変えたことでしょうか。このテフロンテープはロールで購入すると1巻数千円から万の単位がする非常に高価なものですが、シート状のものが販売されています。シートは割高ではありますが色々なところに使用できますので購入して損がないような気もします。ただ、将来テープ以外の方法も可能になるよう、エアータンク両端の配管も絶縁できるよう、配管は床板に直接ハンダ付けせず別体とし、ねじ止めでで取り付けています。その他、台車の回転中心のところには枕梁の端面を表現する部材を追加しました。この枕梁は手持ちの真鍮、洋白の帯板で製作しています。この部材は台車の回転中心の車体側面に近い位置に取り付けますのでこの部材と台車枠とのショート対策は不要です。
また、今回は新たに台車の回転中心となるセンターピンのブッシュを新作し、今までのものと交換しまました。この部分は今まで床板とボルスターを絶縁するための段付きワッシャを使用していたのですが、台車の梁との接触面積が小さいため車体の揺れの原因の一つとなっていました。構造は金属床板に取り付ける付随車用のセンターピンと構造は同一ですが、厚さの薄いパーツがなかったためプラ板とEvergreen社製のプラ製パイプから自作しました。材質はスチロール樹脂ですが特に力がかかるわけではないので強度の高い材料を使用しなくても支障はありません。絶縁用の段付き付きワッシャは市場にはあまり流通していないようですが、今回比較的簡単に製作可能であることがわかったことは今回の収穫でした。
そうして完成した下回りの全体写真が下の写真になります。
上記の部品を組み立てた後、車体を載せない状態で状態で十分な試運転を行い各部のチェックを行います。今回特に大きな問題はありませんでしたが動輪が可動式ではないため車輪のレールへの追従製は劣り、牽引力に多少の影響がある気がします。また、カプラーが車体ではなく主台車から伸びた台枠の前方についていますので、重量のある客車を牽引する際はその抵抗が台車の回転中心周りのモーメントとなるため、客車を連結して運転する際はカーブでは少し脱線しやすくなる傾向があります。したがって状態が悪い線路での走行が少し心配ですが、この部分の改造は駆動系全てを新規に製作する必要があるので今回はそのままとしてあります。
次に、車体の改修内容について説明します。とは言っても車体は今回、ディテールの追加や部品交換による細密化はほとんど行っておりません。現在は当時に比較して細密なパーツも発売されていますが、車体にはキットのパーツをそのまま取り付けていますので全体的に線が太く、下手にパーツを交換すると全体のバランスが崩れてしまう可能性があると考えたためです。部品の追加を行ったのは主に屋上ですが、それも避雷器周辺の配管とパンタグラフへの空気配管を追加したのみとしています。今回は両側とも初期のパンタグラフ近傍に取り付けられている原型のタイプとしました。前述のようにパンタグラフの位置が車体中心に対して非対称の位置にありますので両エンドで配管の引き回しが異なります。避雷器は改修前に取り付けられていた挽物製の円筒形タイプのものを使用し、取り付け台を介してネジで取り付けています。パンタグラフは当時発売されていた珊瑚模型店製のPS14のバラキットを組み立てたものです。この当時から現在までパンタグラフのバラキットはこのPS14以外あまり見かけません。当時、当然パンタグラフの組み立ては初めてでうまくできるか不安はありましたがなんとか当時の市販品と同じレベルには仕上げることができました。構造は当時一般的であった突起のついた板を折り曲げた部品を関節に用いるタイプです。屋根状のホイッスル、発煙等も挽物製の部品を使用しています。先頭部の飾り帯はキットのよう剥製パーツを使用し、塗装後に接着で取り付けてあります。以下に下回りを含め、各部を写真で紹介します。
最後に塗装とレタリングについて。塗色はクリーム1号と青15号の標準的な塗色としました。一瞬ぶどう色も考えたのですが、ぶどう色にすると最晩年のイベント用機関車のようになってしまうような気がしてやめました。最近引退直前に国鉄色になる国鉄時代の車両が話題となりますが、私が模型を製作するときの車両のイメージはイベントとは関係なく連日「普通の」乗客を乗せて走っていた姿です。その頃を知るせいか最近復活する国鉄色の車両の写真をわざわざ撮影しに行く気にはなりません。ただ、最近の国鉄色に戻る車両を見るにつけ、工業デザインの世界において、形状と色をトータルで考えることの重要性を思い知らされます。最近の国鉄時代を知らない若い鉄道ファンの方も国鉄色の国鉄車両を「かっこいい」と思うのはその現れなのでしょうか。使用した塗料はマッハ模型の調色塗料です。真鍮製車輌の塗装を行う者にとってはこの塗料を製造していたマッハ模型が廃業してしまった時にはどうなることかと思ったのですが、最近IMON社製で再発売されたので一安心です。今回プライマーはIMON社製の密着バインダーを初めて使用しましたが特に問題はないようです。ただ、私が長年模型を製作してきた中で模型用のプライマーとして一番強力なのはかつてマッハ模型から発売されていた緑色の「エッチングプライマー」のような気がします。最後にナンバーを取り付けますが、ナンバーは、キットに付属していたものが紛失してしまっていました。購入も考えたのですが、結構高価ですので今回は手持ち部品を極力使用して見ようということでかつて発売されていた「切り抜き文字」を使用しました。ただ、車体にハンダ付けする自信は全くなく、材質も磁石にくっつくのでステンレス製らしく、専用フラックスを使用してもハンダがうまく流れるかもわかりませんでしたので今回は失敗覚悟でエポキシ接着剤とメンディングテープでナンバーシール?を製作してみました。具体的にはメンディングテープに透明度の高い(という能書きの)エポキシ系接着剤を薄く塗布してそこに切り抜き文字を固定する方法です(インレタでデカールを作る方法のと同じような?手順です)
結果は写真のとおりです。前面のクリーム色(明るい色)ではテープはあまり目立ちませんが側面(艶消しの濃い色)ではテープの地肌が目立ってしまっています。結果は「無いよりはマシ」という程度ですが、紛失した部品を再度捜してみようと思い、当面このナンバープレートを使用することとしてあります。メーカーズプレートは上の写真のように手元にあったディーゼル機用のものの色を一度剥がして青で再塗装して作成しました。塗装の剥離には溶剤とマッハ模型製のキサゲ刷毛を使用しています。また、塗装後の塗装剥がしの際、ロゴの自体がなるべく大きい方がよいかと思い川崎製のプレートを選択し貼り付けてありますがナンバーと製造メーカーは実物通りではありません(実際の136号機は日立製です。また前述のように日立製の機体はこの模型とは前面の「おでこ」の印象が異なる機体です)。というわけで完成した車両は昔風に言えば「運転本位の模型」ということになりますが、私が今まで製作してきた蒸気機関車や60番台の直流電機、70番台の交流電機とは眺めても走らせても違った趣があります。また、レストア作業とは言え工作の楽しさも味わえたようにも思えます。
最後に走行中の動画を紹介したこの車両の紹介を終わります。走行音は大きいですが海外製のサウンド付き車両を運転していると静かに走る機関車にかえって違和感を感じてしまう今日この頃です。
最後までお読みいただきありがとうございました。このEF58が牽引する客車については後日紹介させていただきたいと思っております。