前回ご紹介したC57に続いてご紹介させていただくのは北海道仕様のC55です。この機関車も以前ご紹介した北海道の寝台急行列車を牽引させるためにキット加工により製作したものです。製作時期はC57とほぼ同時期の1990年ごろで、レイアウト製作を始める前に制作した最後の蒸気機関車です。
この機関車のベースはカツミ模型店製ゴールデンシリーズの未塗装キットです。このゴールデンシリーズの発売当時の売りは主台枠の棒台枠の表現ですが、この表現が最も目立ち楽しめるのは動輪がスポーク動輪であるC55ではないかと思います。購入したのは消費税導入前の1987年頃です。当時は完成品やバラキットの他に車体は組み立て済みでドライバーと配線(半田付けが必要)のみが行われていない状態の未塗装キットや塗装も済ませた塗装済みキットも販売されていました。1989年の消費税導入前は鉄道模型には物品税がかけられておりました(贅沢品とみなされていたようです)。その際価格が一定以下の製品、その製品だけでは本来の目的を達成できない製品は無税のため、当時は上回りと下回りを別々にしたキットが比較的多く販売されいたということを聞いたことがありますがこのような未塗装のキットの場合はどうだったのでしょうか。子供の頃は工作の楽しさを体験させようとしてメーカーはあえてこのようなキットを販売しているのかと思っていましたが。
ちなみに現在関税適用のための物品を定義するHSコードにおいて鉄道模型のコードは95.03で「縮尺模型その他これに類する娯楽用模型(作動するかしないかを問わない。)」というカテゴリに属するようです。外国のショップから商品を購入する際、輸入時このHSコードに対して関税はかかりませんので受け取り時に消費税のみを支払いますが、その税額はみなし原価(販売価格から付加価値税を引いた額のの60%程度)に対して10%です(他に送料等がかかります)。海外のサイトに表示されている価格は通常付加価値税込みの価格(ドイツの場合税率は19%)ですので海外のショップから購入する際の値段を国内販売価格と比較する際にはこれらの税額にも注意が必要です。
それはさておき、キットの説明書はC 57,C55共通のものとなっており、ドライバーと配線用のハンダゴテ(+ハンダ)があれば完成させることができます。ただ未塗装ですので塗装は必要です。組み立ては比較的簡単ですがこのような大型蒸機の塗装をきちんと行うためにはそれなりの技術は必要ですのでやはり対象はある程度模型製作の経験のある人向けの製品だと考えられます。ただ、キットはいわば最終組み立て工程に進む手前の完成品と言えるもので、ネジで組み立てればそのまま普通に走りますので追加部品によるショートや塗装次の塗料の回り込みによる通電不良にさえ気をつければ走行に対しては大きな問題は発生しないのでその点は安心です。
取扱説明書は下の写真のようなもので全13工程で完成となります。C55とC57の説明書は共通で殆んど同じ手順となっています。組み立てに使用するネジが全てマイナスネジであるところは時代を感じます。購入したのは今はなき東急百貨店日本橋店のカツミ直営店でしたが、当時は各地のデパートに模型店があり、模型店で売り切れの製品でもこのようなところには在庫がある(売れ残っている?)ことがあり、ある種穴場のような存在でした。このC55もそんな製品であったように記憶しています。
キットのプロポーションはC57と同様に良好であり、形状を手直ししなければならないところはありませんでしたので完成している車体の基本部分を構成する部品を取り外して修正することは不要と判断し、加工は一部のパーツの交換とパーツや配管の追加としました。加工箇所、加工方法は前作のC57とほぼ同じですが、デフの切り詰めは行いませんでした。当初、C57との違いを出すためにそのように決めたのですが後で調べてみるとC55はごく一部を除いてデフの切り詰めは実施されなかったようです。また、今回もキャブの密閉化は行ってはおりません。
それでは各部を写真で紹介させていただきます。
最後に走行中の動画を掲載します。製作後30年以上が経ちますが走行には特に支障はありません。ただモーターとギアボックスを繋ぐゴムチューブが経時変化で硬化しておりそこでスリップが発生していました。整備後は、6両編成の列車であれば起動時空転するもののなんとかバラキットを組み立てた客車の牽引が可能です。補重のおかげでC57より牽引力はあるようです。
これで当時作成した北海道仕様の蒸気機関車は全てご紹介させていただいたことになります。1980年代の初めから約10年の間にC 12,C 62 3,C62 2,9600,C57,C55の6両の蒸機を製作しましたが、結果的に9600を除き全てカツミ模型店の製品がベースになっています。これらのメーカーの製品(キット)はいずれも30年以上前の製品ですが、今見ても全体的なプロポーション、見た時の印象に違和感はありませんし、組み立ての際にも大きな修正を必要とせずとも良好な走行性能が得られました。それから30年、キットは細密化して価格も上昇していますが、これらのメーカーではこの時期に現在でも通用する基本設計は確立していたような気がします。一方、私のこの10年間での蒸機製作を振り返ってみると、最初に製作したC12はいわば習作のようなものでしたがその後一気にC62で特定ナンバー機にチャレンジし、その後の9600,C57,C55では北海道仕様という制約はありながら特定ナンバー機とはしませんでした。これはC62が牽引する急行ニセコを製作するにあたりC62 2をはじめとしたC62があまりにも有名(特別な存在)であったため特定号機を製作したと言う面もありますが、その後製作したC 57,C55ではもう少し実差しに存在する機体にとらわれず北海道仕様という縛りの中で自分の好みの形態を製作してもよいのではないかという思いを抱いたため特定ナンバー機とはしませんでした。同時に各部の細密度も10年間ほとんど変えていません。もちろん技術力不足という面もありますが、列車全体で見ると牽引する客車も含めてこれ以上細密化は不要ではないかという気がしたからで、走らせることを前提とした場合、これ以上の細密化は今流行りの言葉で言えば『タイパ』が悪いのではないかという感覚がありました。しかし結構な手間をかけて製作したこれらの機体も当初想定した真鍮バラキットを組み立てた7両編成の夜行急行客車を単機で牽引できず、隙間に補重を行なっても単機で牽引できる見込みもなく、やむなくユーレイを連結せざるを得なかったことには色々考えさせられました。台車の転がり抵抗の削減、機関車動輪へののゴムタイヤの導入等、まだできる対策はあるとは思いますが・・・。
このようなことを考えながらこのブログを書いていたときに米国から届いたModel Railroader誌の2022年12月号の冒頭のFrom the Editor というコラムに 編集者のEric White氏が書いた「When is your realism level good enough?」という記事が目に止まりました。あまり英語(国語も?)が得意ではないのでなかなか適切な訳文が見つからないのですが内容から意訳すると「あなたが自分の製作する模型の細密度を「これで十分」とした(決めた)のはいつですか?」というような意味だと思います。そしてこのコラムでは色々な方の意見や編集者御自身の体験が述べられています。私も50年以上鉄道模型を趣味としてきましたが、この課題(作品をどこまで細密化するか)は30年前にこのC55を製作した時(それ以前も)から現在まで私の模型制作の課題となっているような気がします。このC55製作後、私は外国型レイアウトの製作という今までとは全く違う対極的とも言える分野に足を踏み入れたのですが、この動機と理由についてはまた後日自分の体験を交え、思うところを記載してみたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。