今回ご紹介する車両は最近、約30年ぶりに組み立てた珊瑚模型店製のD51です。今までこのブログで紹介してきた蒸気機関車はいずれも1982年から1990年ごろにかけて製作(キットの組立て、加工)をしたものです。その後は主にMärklin社製の製品を使用したZゲージ、HOゲージのレイアウトの製作に勤しんでおりましたので、今回の真鍮製バラキットの組み立て加工はそれ以来となります。この空白の30年間、鉄道模型を趣味として続けてはいましたがそ興味の対象は外国型のレイアウト製作という車両工作とは全く異なるものであったため、その間キット組立てに対する技術力は全く向上しておらず、実物に関する知識についても、忘れたことの方が多いような気がします。また確実に視力も衰えておりますので30年前に製作したレベルの車両が製作できるかについては全く自信がありませんでした。ただ、当時と異なり時間はたっぷりありますし、各部の工作も全く初めてではないため、当時を思い出しながら気長にやればなんとかなるのではないかと思い、製作を開始した次第です。なお、今回は製作中の車両の紹介ですので塗装済みの車両の写真のみではなく製作中の写真も交えて加工の過程を少し詳しく紹介してみたいと思います。現状、今回使用するようなバラキット自体、市場から殆ど姿を消してしまっている状況ですが、何かの参考になれば幸いです。
このD51は珊瑚模型店から1990年頃に発売された製品ですが、このキットは珊瑚模型店のD51としては最初に発売されたキットではないかと思います。当時の記憶ではナメクジドームの1次型、標準型、密閉キャブの北海道型が同時に発売されたと記憶しています。最初は一次型を購入しようと思ったのですがあいにく売り切れで、標準型を選択しました。このキットを購入した当時はこのブログで紹介したように北海道タイプの車両を製作しており、このD51も北海道タイプとすることを決めていましたので北海道タイプの車両の購入も検討したのですが、最終的に標準型を選択しました。このキットを購入した当時はすでに北海道タイプのC 55とC57が完成していたのですが、それらは密閉キャブのキット(パーツ)がなかったこともあり、CABは通常の原型タイプで製作しました。一方、このD51については密閉CABのキットも選択できたわけですが、すでに完成していたC55と57のボイラー部分の全体的なボリューム感とCABの大きさのバランスを見ると、密閉型のCABの機体は原型CABの機体に比較してやや全体のバランスが悪くなってしまうように感じます。D51はボイラーの太さや動輪径(数)も異なるため一概にはいえないものの、形態的にはC62よりもC57に近い印象ですので、バランス的には原形CABの方が良いのではないかと考えて標準タイプのキットを購入した次第です。これは多分好みの問題でしょうが、C62以外の国鉄の機関車はボイラーが比較的細いため、特にD型気においては密閉CABより大きさが小さく、扉部分に段差のない開放CABの方が似合うような気がします。近くで実物を下から見上げるとそのような印象はあまりありませんが、真横あるいは上方から見る模型であると一層そのように感じるのかもわかりません。
というわけで標準型のキットを購入したわけですが、この機体も北海道タイプにするため、そのための換装パーツを同時に購入しました。したがって今回の製作にあたり新たに購入したパーツはありません。ロストワックスパーツは当時入手可能であったニワモケイ・安達製作所・ウイストジャパンのパーツを使用しています。詳細は不明ですが北海道型のキットを選択すればデフレクタや耐寒型のロストワックスパーツを購入する必要がなく、お財布には優しかったかもわかりません。
このD51も他の北海道タイプの機体と同様、特定ナンバー機ではありません。北海道に特徴的に見られた形状から印象的な(特徴的な)部分を選択したいわば寄せ集めです。これはあくまで私の感覚ですが、特定ナンバー機の製作はいわばお手本どうりに物を作るという感覚があり、その上流にある物を設計するという楽しみが味わえないような気がします。
そのために参考にする資料ですが、雑誌等に掲載されている北海道タイプの機体の写真は意外に少ないように感じます。北海道のC62はあまりに有名な存在で資料が豊富にありますが、D51は晩年まで道内各地で見られ、胆振線で使用されていた9600のような特徴ある装備の機体もあまりなかった形式のためでしょうか。今回も細部の形態は機芸出版社発行の”蒸気機関車の角度”を参考にしましたが、ここに掲載されている機体も北海道の機体は少ないように感じます。反面、東京近郊に保存されている蒸気機関車は最晩年まで働いた北海道タイプの車両が比較的多いように感じます。東京の上野野国立科学博物館にある機体も北海道タイプです。D51ではありませんが羽村市の羽村動物公園内には北海道で活躍した戦後型のC58も保存されています。なお、”蒸気機関車の角度”に掲載されている写真は主に1960年から1970年いかけての写真ですが、この10年程度の期間で見ても各部の装備には各形式に共通した差があるようです。この辺りを考証しながら各部の詳細を決めていくのは私にとっては面白い作業です。なお、写真を参考にする際はその機体ががATS装備前か装備後なのかを確認することが重要ではないかと思います。また、各部の形状、特に配管を検討するためには実物の配管の概要を知ることが必須になります。
私が実機として参考にしたのは東京の上野野国立科学博物館にあるD51 231で、この機体は今回の作品と同じ北海道タイプの切り欠かれたデフを装備した原型CABの機体です。ただ、私が写真を撮影した当時は無料のエリアの中で展示されたいましたが現在はそこは有料の区画になってしまっています。またキット組み立てに関して参考とした資料はTMS誌の1974年1月号から6回にわたって掲載された なかお・ゆたか氏執筆のD51製作法です。この記事は当時発売されていたアダチ製作所製の分売パーツを利用した組み立て記事です。この記事は主台枠を組み立てるところから塗装までが解説されていますが、今回使用したキットは主台枠等、精度が必要なな部分は組み立て済みであり、また組み立て用の治具も同梱されているため、この分売パーツからの組み立てより簡単ですが各部の調整、チェック方法等、参考になるところは数多くあります。また、記事の機体の細密度は現在のレベルから見れば決して細密モデルというものではないものの、雑誌に掲載される組み立て法の解説ということもあり、ある程度簡略化しながら当時の製品にはない細密感を得るための加工部位とその加工法が述べられていますので非常に参考になります。当時は市販品に比較してある程度細密なモデルを制作しようとすると自分で加工するしかなく、この記事は非常に有益なものでした。現在雑誌にこのような記事が掲載されていないのはモデラーの指向が変化したからなのでしょうか。
前置きが長くな理ましたがそれでは以降、私が実際に行った作業の過程を少し詳しく説明してみたいと思います。何かの参考になれば幸いです。
- ドキュメントの準備
私は製作にあたり、加工部分の詳細な図面は製作していません。詳しい図面を書いても配管等は曲げの精度の関係でどうしてもズレが出てきますし、特に奥行き方向の各部品(配管)の位置は写真の印象を現物合わせで再現した方が良いと考えているためです。そのため、今回制作前に用意したドキュメントは以下の3枚です。いずれもキットの組み立て説明書に掲載されている図面をコピーし、そこに情報(寸法)を追記したものです。
1枚目は追加工部分をリスト化したもので、追加するパーツと配管を記載しています。一応配管の線径を記載していますが、実際の工作の場面で変更する場合もあります。最近の雑誌等には実機の配管の直径が記載されているものもありますが、なかお・ゆたか氏も上記の記事で述べておられるようにHOスケールの大きさのモデルの場合どんなに頑張っても板厚はほぼ全ての部分でオーバースケールになりますので、それらとのバランスを考慮しまがら最終的には現物合わせで決めていくことが必要かと思います。とは言っても組立て前に図面に基づき加工しておかなくてはならないところもあります。残る2枚はその部分の図面です。下の2枚目の図面はランボードの継目を表現するスジやリベット、配管用の穴の図面です。C 57,C55等はカツミのキットを使用しましたが、ランボードは組み立て済みでしたのでこの部分の加工は結構苦労しました。このキットはランボードは治具によりボイラーに組み付けますので、この段階で加工をすることにより作業が非常に楽になります。同様に、CABの前方妻板も組み立ててしまうと穴あけが非常に難しくなりますのでこの段階での加工が必要です。前記のカツミのキットはCABも組み立て済みであったため穴あけには所謂”反り開け”(細軽ドリルを湾曲させながら穴あけする)が必要であり、加工には非常に苦労しました。3枚目の図面はこのCABの前妻の穴位置を記載した図面です。
ロストワックスパーツはカタログから使用するパーツを選択しましたが、一部実物通りではない好みの形状のパーツを使用したところもあります。
取り付け穴は事前には開けず、組み立て後パーツ取り付け時、実際に位置を確認した後にに開けています。
使用する工具ですが、ハンダゴテは100Wと80Wを使用しています。フラックスはマッハ模型製の塩化亜鉛溶液を使用しています。その他放熱クリップ、ニッパー、ヤットコ、棒やすり、紙やすり等を使用しています。ヤットコはエコーモデル製を使用しています。非常に使いやすいなくてはならない工具ですが、現在な入手不可能のようです。同等品を探してみましたが「時計用ヤットコ」と言われるものが同じような形状です(実物は確認していません)。また、かつていさみやロコワークスからクールヒートという断熱クリームが発売されていましたがこれも現在は入手できません。同等品をAmazonで探したところあるにはあったのですが、大量かつ高価であるため、使用しませんでした。使用した主な工具を下の写真に示します。
中央部に見えるマイナスドライバーは先端をオイルストンで研いだキサゲです。ロック付きのピンセットは細かい部品のヤスリによる整形の際に使用します。半田付けする部品の保持にも使えなくはないですが、ロックを外す時に部品が変形する可能性のない部品以外には使用できません。糸鋸の歯は外国製の#3/0を使用しています。
ドリルは使用する線の線径の呼び径のものを用意します。最近小径ドリルはチャック部分が太くなっている製品も流通していますが、このタイプのドリルは通常の穴あけには使いやすいものの、奥まったところの穴あけには使用できないためストレートタイプのものも用意しておく必要があります。ピンバイスは使用するドリルの直径により数種類を使用していますが、製品の中にはチャック部分の焼きが甘くエッジがすぐに潰れてドリルの保持力が低下してしまうものがありますので選定には注意が必要です。
以上で組立て前の準備の説明を終わります。最後までお読みいただきありがとうございました。次回からは主にデイテールの追加の過程を紹介したいと思います。