真鍮板から車輌を作る -(5) :車体の組み立て(前面の製作)-

各部の部品を製作し車体の曲げ工程が終わると部品はほぼバラキット組み立て前の状態となりますが,キハ20系のような前面に丸みのある車体はもうひとつ,前面の「おでこ」の製作というバラキットにはない作業工程が残っています.最近のバラキットでは通常この部分はプレスパーツとなっていますが,自作車体ではこの部分を手作りで製作する必要があります.私が最初に組み立てたバラキットはしなのマイクロ製のEF64の車体キットでまだ高校生の頃だと記憶していますが当時のキットはまだ前面へのプレスパーツ使用が一般的になる前の製品で,キットの組み立て説明書では社端部の「おでこ」の部分は折り妻状に組んだ車体の屋根の接合部に真鍮角材を裏打ちしてヤスリで仕上げるという指示でした.一方当時からこの部分を自作する場合には妻板におでことなる部分を設け,その部分に切り込みを入れて曲げながら概略形状を作り,最後に半田を盛って整形する方法で,この方法は現在でも自作車体では一般的な手法です.しなのマイクロ製キットの方法はペーパー車体の制作法と類似の方法で,ペーパー車体を製作した経験のある私にとっては一見簡単そうな方法ですが,冷静の考えてみると運転室窓上部にヘッドライトが付いた車両では加工が難しいと感じたため私はこの部分を後者の屋根と妻板に切り込みを入れて曲げ整形する方法で組み立てました.その加工は思ったより簡単であった記憶がありますが,その後はキットも「おでこ」の部分はプレスパーツが一般的になったため今回の作業はそれ以来の作業で約50年ぶりの作業となります.というよりはその時の記憶が全くないため実質私にとっては今回が初めての作業です.ただ過去一度やった経験があると少しプレッシャーから解放されるという気もします.

前面を自作したキハ52.奥はプレスパーツを利用したキハ25です.

・ 前面の罫書き,曲げ
まず罫書きを行いますが,「おでこ」以外の部分は図面から算出した寸法で罫書きます.曲げ後に側板とつながる部分は後で長さを調整するため長めにしておきます.一方,おでこ部分の展開寸法(展開形状)は厳密に決めようとすると木型を製作して実際に曲げて求める必要がありますが,,キハ20系の「おでこ」の形状は比較的単純な形状なので今回は現物合わせで曲げながら切り欠きを設けて製作することとし,屋根部分は屋根形状より10㎜程度外側に張り出した形状として切断しました

罫書きが終わった切断前の前面

罫書きが終了したら窓抜き前に曲げを行います.曲げの手順は車体板の曲げと同じです.曲げは運転室窓横に罫書いた曲げ線を基準に行います.

曲げの手順は車体と同一ですが,あて木のRは曲げRに合わせて新たに作成する必要があります.

両側の曲げが終わったら妻板に後退角をつけます.曲げの際には裏側にPカッターで切り込みを入れてから曲げを行いました.Pカッターは真鍮板のスジ彫りを行うと刃が痛みますが最近は替え刃式のPカッターもありますので真鍮板の加工(曲げ)を行う場合は一本用意しておくと便利です.

貫通扉横を曲げて前面に後退角をつけます.

曲げが終了したら窓と貫通ドア部分に鋸刄の通し穴を開けます.車体板と異なり全体の大きさが小さいため途中で材料の保持が困難になる可能性があると思い運転室窓は4隅に穴を開けて鋸刄の転向を容易に可能としました.ただし窓抜き時,鋸刄が穴に達した時に穴に到達した勢いで鋸刄が罫書き線をはみ出さないよう注意が必要です.

窓部の穴開けが終了した状態です.

穴あけが済んだら「おでこ」の部分をヤットコで曲げていきます.なお,私はこのような曲げにはかつてエコーモデルから発売されていた「細密ヤットコ」を使用しています.現在では発売されていないようですが,ほぼ同じものは「時計ヤットコ」で検索すると各種タイプがあり,購入も可能です.曲げながら干渉する部分は現物合わせで切り欠きをつけながら曲げを進めましたが,細かい鋸刄(#5/0)を使用すると保持が不安定な状態でも鋸刄が引っかかることなく比較的簡単に切り欠くことが可能です.

曲げのを行っている途中の状態です.

下の写真は曲げ途中の写真です.平面部分と屋根のつながる部分の稜線の位置に注意しながら曲げていきます.曲げの開始点は側板の高さより低くならないように注意する必要があります.そのため曲げを行う前に裏面には側板高さの位置にPカッターでスジ彫りを行いました.

「おでこ」の部分の曲げがほぼ終了した状態.

「おでこ」は車体断面に合わせて曲げていきますが最終的には本体に取り付ける際に調整します.

最後に車体との接続部が車体断面通りに曲げられているかをチェックします.

曲げが終わったら窓と貫通ドアを糸鋸で抜いてヤスリ仕上げを行い,長めにしておいた車体との接続部を所定寸法に切断すれば前面はひとまず完成となります.

車体の取り付ける前の前頭部です.この状態では窓の大きさがやや小さいため後で大きさを修正しています

・ 組み立て作業
前面が完成したら組み立て作業に入ります.組み立て手順はバラキットとほぼ同じで客用ドアと乗務員ドアの裏打ち(前面との接続部)をはんだ付けして車体裾部に補強アングルを取り付けます.この辺りの作業はバラキットの組み立てとほとんど変わりませんので説明は割愛します.ただ,組み立てには今回初めて自動温調機能付きのハンダゴテを使用しました.機種は大洋電気産業(goot) 製のPX-480という80Wのハンダゴテで,コテの中に温調回路を組み込んだ比較的安価な製品です.設定温度はDefaultの350°Cで使用しました.私は今までは昔からある100Wのニクロムヒーターのコテを使用していましたが,今回使用したハンダごてはそれに比較すると容量は小さいものの,コテ先温度が安定していることに加えてコテ先にコーティングがあり作業中に酸化被膜ができないためコテを当てた時の半田の流れが常に安定しており快適に作業することができました.また,部品をつける際,位置ぎめに時間がかかってもコテ先の過熱を気にすることがなくストレスなく作業をすることが可能でした.ただ,コテ先温度を高く設定しているせいか作業時に材料の熱膨張による変形が多少気になりました.この辺点は今後設定温度の最適化を行う必要がありそうです.コテ先は購入時装着されていたものをそのまま使用しています.なお,補強アングルはエコーモデル製の床板アングル(品番2151)を使用しました.

今回使用した温調機能付きのハンダゴテ

・前面の取り付けとおでこの整形
まずは車体に運転室の仕切り板を仮止めします.この仕切り板は前面を取り付ける際に車体幅や屋根の形状を正しい形状にするために取り付けますが,ヘッドライト部の加工や前面の手すり等のはんだ付け時に邪魔になるため前面を取り付けた後に取り外せるように仮止めとしておきます.

前面を取り付ける前にまず運転室の仕切り板を仮止めします.

まずは側面と前面をはんだ付けします.接続部は乗務員ドアの裏打ちを延長した部分に取り付けますが,このあたりはペーパー車体と同一の構造としています.

車体と前面は乗務員ドア部の裏打ちの張り出した部分に取り付けます.この辺りの構造はペーパー車体と同一です.

取り付けが終了したら前面にジグを当てて曲げ形状を決めた後,おでこの部分の一部を屋根をはんだ付けして前面の形状を正しい形で固定します.ジグは厚手のイラストボードで製作しました.このジグは真鍮版で製作するとハンダにより固着してしまう可能性があるため紙製としましたが十分実用になりました.

前面の形状(後退角)をジグを用いて合わせたのち屋根部を数箇所ハンダ付けして前面の形状を固定します.

前面の形状が正しいことを確認したら接続部に裏から真鍮版をあてて裏打ちします.この作業では仮止めした仕切り板が邪魔になりますので一度取り外しています.また縦方向の切り欠きの隙間にも裏打ちの真鍮版を取り付けています.私の製作した車体はこの作業が終了した時点で車体長がスケール寸法より1㎜長くなりましたが誤差範囲と考えて修正はせずそのまま組み立てました.

接続部を真鍮の小片で裏打ちします.

裏打ちが終了したらハンダを盛っていきます.一部,曲げ時の干渉防止のため切り欠いた部分で隙間が大きくなってしまった部分がありましたので隙間に真鍮線を埋め込んでからハンダを盛り上げました.

裏打ちが終了したらハンダを表面から盛っていきます.

板の継ぎ目が見えなくまるまで半田を盛り上げたらヤスリで形状を整えていきます.最初は荒めのヤスリで半田を削り,次第にヤスリの目を細かくして仕上げていきます.荒めのヤスリで真鍮板を削ってしまうと塗装後までヤスリめの跡が残ってしまいますので,荒めのヤスリでは極力真鍮部を削らないように注意しました・

盛り上がったハンダの除去がほぼ完了した状態です.

継ぎ目部の半田の盛り上がり部分が平滑になったらさらに精密ヤスリで「おでこ」の形状を整えていきます.

接続部の半田の盛り上がりが除去できたら精密ヤスリで「おでこ」の形状を整えていきます.

「おでこ」のカーブが概ね整ったらヘッドライトの取り付作業に入ります.ヘッドライトの中心部に小穴を開け,位置の問題ないことを確認したら次第に穴を拡大し,最後は丸ヤスリで穴の形状を整えます.

「おでこ」の形状が概ね仕上がったらヘッドライトとタイフォンを取り付けます.

ヘッドライトケースは直径5㎜の真鍮パイプ,その横のタイフォンは直径2.5㎜の真鍮棒を使用しました.このうち直径2.5㎜の真鍮棒は市販されていないため直径3ミリの真鍮棒を削って作成しました.ヘッドライトをつけると「おでこ」がより写真と比較しやすくなりますのでヘッドライト取り付け部の半田の盛り上がりを除去するとともにさらに「おでこ」の形状を整えてきます.この際写真を撮りながら進めると肉眼でチェックするより形状が乱れている部分がわかる場合もあります.この作業が終了すると車体は箱状となりほぼ市販のバラキットの組み立てが終了した状態となります.

ヘッドライト,タイフォンの取り付け後,さらに整形作業を続けます.

・ 運転室窓のHゴムの製作
「おでこ」の整形が完了するとバラキットの組み立てがほぼ終了した状態になりましたがまだ車体がバラキットと「同等」になったとはいえません.その最大の理由は自作車体ではバラキットではプレスで表現されているディテールが一切ないことで,そのディテールの中で最も差が目立つものが窓周りのガラスを押さえるゴム(通称Hゴム)です.私が過去真鍮版から製作したオロネ10箱のHゴムは塗装で表現しており,その後製作したキハユニ25では側面のHゴムは塗装で表現しているものの,前面には市販のプレスパーツを使用しているため運転台の窓と貫通扉の窓はHゴムはプレスで表現されており,前面の見た目はキットや完成品と同等です.国鉄型車両の場合,このHゴムは車両の印象に大きな影響を与えます.以前にも記したことがあると思いますが,Nゲージの黎明期にKATO(関水金属)が発売した20系客車やキハ20ではゴムの突起はモールドで表現されているもののHゴム着色はされておらず,キハ20の窓サッシも非着色であったため見た目は当時見慣れていた車両の印象とは程遠いものでした.当時はNゲージはレイアウト向けのゲージで長編成の列車をレイアウト上で走らせることができることが利点と言われていましたが,正直,側面窓のHゴムに着色がなされていない20系客車を見た時は,いくらスペース的には有利で長編成列車が運転可能であってもレイアウト上を走る車両がこれではレイアウトは実感とは程遠いものになるのではないかと感じたものです.このようにHゴムは車両全体の印象に大きく影響を与える部分ですので,今回はせめて正面窓だけでもHゴムは塗装ではなく立体的に表現したいと思い,今回運転室窓には0.3㎜の真鍮線でHゴムを表現することとしました.この作業は過去全く行なったことなく,今回初めて行う作業です.以下,私が行った手順を紹介します.
まず真鍮線を曲げるために窓のしっかりとはまるジグを檜角棒から製作します.製作はバイスに角材を挟んでナイフを用いて粗く削った後,荒めのヤスリ(金属ヤスリ)で削りながら各麺の直角度を確保した状態で窓にピッタリとはまるまで削りました.

檜角棒を窓にピッタリはまるように仕上げます.

まず完成したジグに0.3㎜の真鍮線を押し付けて曲げていきます.真鍮線は焼き鈍せばジグにピッタリと沿わせることができますが焼き鈍すと直線部が変形しやすくなりますので焼き鈍しは行ないませんでした.合わせ目はピッタリ合わせず長めに切断します.当然ジグから離すとスプリングバックにより矩形にはなりませんが曲げ位置は正しいので修正する必要はありません.

ジグを使用して直径0.3㎜の真鍮線を矩形に曲げていきます.曲げの際は工具は使用せず,爪の先でジグに押し付けながら曲げていきました.

完成したHゴムはまず1辺を窓の外形に合わせて取り付けます.その後ヤットコで曲げを修正しながら窓に沿わせて真鍮線をはんだ付けしていきます.

曲げの済んだ真鍮線を窓の一辺に取り付けます

最後の辺では真鍮線がラップしますのでニッパーで少し長めに切断し,ヤスリで長さを合わせてはんだ付けすると完成です.この際,両方の真鍮線が隙間なく突き合わされることが必要ですので慎重な作業が必要です.ただ思っていたよりは簡単にできたような気がします.

ヤットコで真鍮線を窓に添わせて取り付け最後の辺でに長さを合わせて突き合わせで取り付けます.やすりがけは写真のように真鍮線を少しずらして行ないます.

取り付けが終わったHゴムです.貫通扉の窓もジグを製作し同様な方法でHゴムを取り付けました.今回側面のHゴムは塗装で表現しようと思っていますが,完成間近の車体でも窓サイズのジグさえ製作すれば後で追加も可能です.また今回完成した前面を見ると運転室窓は少し小さい印象であったためHゴム取り付け後に窓の大きさを修正しました..このような変更を行う場合も取り付けたHゴムを取り外してジグを新たに製作すれば修正が可能です.また「おでこ」についても一度完了と判断した後も簡単に修正ができます.作業行程によって仕切り板のような部品を着脱したりこのような修正が比較的簡単に行えることはペーパー車体にはない真鍮製車体のメリットであるようなような気がします.

Hゴムの取り付けが終わった状態です.

最後に屋根にベンチレターを取り付けるための穴を開けます.今回はキハ25には手持ちのカツミ模型店製ののベンチレターを使用しますが,このベンチレターの取り付け部は長円形ですので取り付け穴は長穴にします.2個の丸穴を開けて間を糸鋸で切断します.

最後に屋根にベンチレター用の長穴を開けます.写真は糸鋸の弓押さえを使用して鋸刄を穴に通しているところです

また,車体の製作と並行して下回りの部品も用意します.動力は天賞堂製のコアレスパワートラックを使用することとし,床板にはそれ用の穴を開けました..

車体以外の下回りの部品も作成します.床板は厚さ0.8㎜の真鍮板でエコーモデル製の床板用しんぎを使用しました.

最後の工程は窓の周縁部のテーパー付になりますが,この作業については次回の説明といたします.最後までお読みいただきありがとうございました.