真鍮板から作った車両:キハ52とキハ25

”真鍮板から車両を作る”と題してこれまで製作の過程を紹介してきたキハ52・キハ25が塗装を終えほぼ完成状態となりましたので改めて紹介させていただきます.その製作過程を紹介した記事の中で,私は車体の「光の反射具合」を考慮することが作品が実感的か否かに影響を与えるのではないかと考え,設計や製作の中ではその点に留意して製作を行いましたが,車体の光の反射具合は塗装して初めて結果が明らかになります.そこで今回はその点に注目して紹介をさせていただきたいと思います.

車体の表記を残しほぼ完成状態となったキハ52とキハ25

・ 作品の概要
<キハ52>
キハ52の車体は前面も含めて全て0.3㎜の真鍮版を使用しています.床板は0.8㎜の真鍮板を使用しており,床下機器は日光モデルのダイキャスト製の製品とフェニックス模型店のホワイトメタル製のパーツを混用しており,動力は天賞堂製のコアレスパワートラックll,台車(DT22)はエンドウ製を使用しています.パワートラック付属のウエイトは未使用で重量は約310gで,平坦線であれば無動力のキハ25を牽引しての走行が可能です.寒冷地仕様として先頭部には複線用のスノウプラウを取り付けました.カプラーは天賞堂製のkadee #16タイプを使用しています.床下機器は以前組み立てたバラキットの素養した残部品を使用しているため厳密には実車のとおりではありません.

<キハ25>
キハ25の車体構造はキハ52とほぼ同一ですが,こちらは前面にフェニックス模型店製のプレス製のパーツ(1980年頃の製品)を使用しています.動力は装備しておらず,台車はエンドウ製のDT22(プレーン車軸)を使用しています.重量は290gで,動力車のキハ52とそれほどかわりません.

・ 前面の印象
前述のようにキハ52は車体前面も含めて全て自作したのに対し,キハ25は1980年ごろに購入したフェニックス模型店製と思われるプレス製の前面パーツを使用しています.そのため両者では前面の表情がやや異なります.自作のキハ52については今回詳細な寸法を記載した資料は手に入りませんでしたので,全面窓の大きさ等わずかな資料と写真から寸法を決めて製作しています.

自作したキハ52の全面(手前)とパーツを使用ししたキハ25(奥)

運転室窓の寸法は大きさが710×710㎜であるという資料がありました.これは1/80に換算すると8.875㎜となりますが,これは構体の開口寸法と思われますので実際の設計(罫書き)寸法は8.5㎜としました.結果的にはノギスによる実測値で8.4㎜に仕上がっています.一方フェニックス模型店製の製品は実測で8.75㎜弱となっています.寸法差としては僅かですが,この差が前面の表情の差に現れている様です.あくまでも私の感想ですが,フェニックス模型店製のパーツの窓の大きさはやや大きい様に感じます.もう一点の両者の差は前面と側面を繋ぐRの開始点と窓との位置関係です.キハ20系の運転台窓とRの開始点の間にはある程度の平面部があり,下の写真のように実車ではそれが光の当たり方によっては目立つのですがパーツでは運転台窓のHゴムとRの開始点までの距離が小さい(平面部が少ない)ように感じます.このことも窓の大きさが大きく感じる一つの要因であるとともに前面の表情が実物の印象と少し印象が異なる原因のようにも感じます.ただ私の製作した前面キハ25前面との差を意識したせいか平面部はあるものの窓の大きさがやや小さい様にも感じます.この辺りは寸法の設定が非常に難しく,今回キハ52は実際に車体を組み立てた際に窓の大きさが少し小さいように感じたため組み立て後に0.25㎜程度窓の大きさを大きく修正してあります.組み立て後のこのような修正はキットの形状を修正するより心理的なハードルも修正の難易度も自作車両の方が低いような気がします.しかし製作時に実物の印象に近づいたと判断しても真鍮地肌の状態と塗装後ではその印象が異なる場合もあります.そのためこの辺りの表現は出来上がった作品をよく観察して結果を評価し,その結果を反映しながら場数を踏んで改善していくしかない気もします.ただレファレンスとなる実物の印象も写真の光線状態や見る角度,Hゴムの色や塗色によって微妙に異なります.そう考えると製作の目的が正確な縮小による実物の再現ではなく,レイアウト上で実感的に(=それらしく?)見えるということであれば細かい寸法にあまり拘る必要もなく,今回製作したキハ52とキハ25の差は許容範囲で,今後改善すべきは塗り分け線の乱れ等もっと基本的な部分であるような気もします.

ほぼ真横から光を受けた際のキハ52の前面の印象.

・ 窓周りの印象
今回真鍮版から車体の自作を行うにあたり真鍮版から車体を製作するに当たり過去製作した車体を見直し,過去製作した車体は窓の周囲は切断面を車体と垂直にヤスリ仕上げをしてあるため,それがプレス加工で窓周囲にプレスによるダレがあるバラキットと比較して実車の窓周りの実感を損ねているのではないかと考えました(記事はこちら).そこで今回は窓の周囲にヤスリでテーパーをつける加工を行いましたがその結果が下の写真です.

2段窓を表現し周囲にテーパーを付けたキハ52の窓周り.サッシは窓の塗装で表現.

結果,このテーパー加工により今までの自作車体に比較すると窓周りの実感が増しており,当初の目論見通りの効果は認められました.その形状もバラキットに比較してより実物に近くバラキットと比較しても同等以上の効果はあったと思います.ただ,今回のキハ20系の場合,2段窓を表現するために窓の下半分(窓サッシの下段部分)には0.6㎜の厚さがあります,下の実写の写真と比較すると少し厚めである印象がある一方,側板に0.3㎜の真鍮板を使用した場合キハ55のような1段窓の場合は一番目立つ下辺のテーパー部の板厚が1/2になりますのでその際の効果については別途検討の余地があるような気もします.一方上の写真からも分かりますが詳細に観察すると貼り重ねた板と側板の境界面でハンダが十分に回り切っていない部分がありわずかに隙間が生じている部分がありました.ヤスリがけ直後にはめくれでわからない場合があるようですのでこの辺りは入念なチェックを徹底する必要があります.ヤスリがけはジグ等は用いず手作業で行いましたが,特に線の乱れが気になるようなところはありませんでした.

山形駅に停車中のキハ52.光に注目すると上の実車写真と合わせて,窓部とドア部の陰影の差が目立ちます.

なお,今回,過去に真鍮版から車体を製作し,塗装が傷んでいた自作車体のキハユニ25 7の再塗装も行うこととし,その際に二重窓の周縁にわずかなテーパーをつけてみました.結果,つけたテーパーの量はわずかですがそれでもテーパーをつける前の車体と比較すると効果が認められます.ただ,この車体は0.4㎜厚の真鍮板を使用していますので厚さ0.3㎜の真鍮板を用いた車体では効果が多少異なるかもわかりません.

・ その他の細部(ヘッドライトレンズ)
上記の点を除いたディテーリング作業はバラキットと同一で使用しているパーツもほぼ同じあるため詳細は省略しますが,今回はヘッドライトのレンズを自作により作成しています.現在ヘッドライトレンズは色々なメーカーから各種直径のものが市販されていますが,今回のヘッドライトケースには(キットの付属品ではなく)市販の真鍮パイプを用ていますので径が適合するレンズがなさそうでした.このためレンズはエポキシ系接着剤により自作しました.その手順はまずヘッドライトケースに使用した真鍮パイプを輪切りにして並べ,その中に透明度の高いエポキシ系の接着剤を流し込んで完全に硬化する前にパイプからレンズを取り外し,硬化後耐水ペーパーでバリ取り・整形を行えば完成です.エポキシ系接着剤を流す際は気泡ができないように注意が必要ですが,細かい気泡がわずかに残っている程度であればレンズ面を細かい耐水ペーパーで磨き,レンズを「半透明化」すればほとんど目立たなくすることが可能です.なお,パイプを並べる際のベースは接着剤が簡単に剥がれる素材が必要ですので接着剤付属の撹拌用の板や撹拌用のヘラを使用しています.

エポキシ系接着剤に付属していた撹拌用ヘラの上に並べた真鍮パイプ.この状態でエポキシ系接着剤を流します.
真鍮パイプより取り外したヘッドライトレンズ.レンズは完全硬化後に耐水ペーパーで形を整えます.
ヘッドライトを車体に装着したところ

・ 床下機器のウエザリング
気動車の床下機器の塗色は大部分がグレーでエアータンク等の空気関係の機器が黒塗装となっています.このため私はまずグレーをラッカーで吹付塗装し,乾燥後にエナメル系塗料で空気関係機器に艶消し黒を筆塗りしています.一方気動車の床下は油や煤で結構な汚れがありますのでほとんどの場合(特に意図しない限り)ややきつめのウエザリングが必要となります.今まで私はこのウエザリングにエコーモデル製のウエザリングブラック,パステル,蝋燭の炎から集めた煤と王を使用してきたのですが,粉体によるウエザリングは触った際に手が汚れたり,レイアウト上に置いておくと埃が付着し時が経ってパウダーの上にホコリが付着すると埃を除去してもとなんとなく「汚い」状態となるため,パウダーによるウエザリングは以前からできれば避けたいと思っていました.しかし気動車の床下にはラッカー系塗料の他にエナメル系塗料で塗装された部分もあるため,エナメル系のスミ入れ塗料が使用できません.そこで今回は以前レイアウトを製作した際にウエザリングに使用したIndian Inkを使用してみました.結果は写真の通りで一通りのウエザリングは可能でしたがIndian Inkは乾燥が早く,一度乾燥すると容易に除去できませんので建物のような平面的な部分に使用する場合より取り扱いが難しく,この方法は墨入れ塗料によるウエザリングより難しいと感じました.そこで次回また気動車の床下を製作をする機会があったらその時は全体をラッカー塗装とした上でエアブラシによるウエザリングにも挑戦したいと思います.エアブラシによるウエザリングに関しては米国のModelrailroader誌にはその手法が定期的に掲載されており,Marklin社のInsider club向けの動画(Club film)の中でもウエザリングの過程が動画でよく紹介されていますので,これらを参考に気動車床下のウエザリングに関し,自分なりの手法が確立できればと思っております.

Indian Inkでウエザリングを行った床下機器
使用したIndian Ink

以上,簡単ですが今回真鍮板から製作したキハ52とキハ25に紹介を終わります.真鍮板からの車体製作は過去経験しているとはいえ実質上初めて経験することも多く当初は完成まで漕ぎ着けられるかどうかに自信がなく,早く一通りの工程を終えて結果を見たいという気持ちが優先して工作が雑になってしまったところも多々ありますが,今回何とか完成まで漕ぎ着けることができましたので,次回製作する際はより良い作品を目指して今回の反省を活かしてそのうちまたチャレンジしたいと思いっております.
最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮板から車輌を作る -跋:自作車両の設計について-

・ 車両の自作における設計の重要性と楽しみ
真鍮板から車体を製作するプロセスの紹介は前回で終了しましたが,今回はバラキットの組み立てのプロセスにはなく,真鍮板からの車両製作では必須であるのも関わらず前回までの説明では殆んど触れていなかった自作車両の車体の設計について考えてみたいと思います.

自作車体のキハ55と制作時に作成した「図面」と参考にした書籍.

広辞苑で「設計」を調べると,「ある目的を具現化する作業」とあります.私が長年携わってきた新製品開発では一般的にこの目的は「顧客に新たな価値を提供する」ことであり,その「新たな価値」を定義するためにはユーザーニーズを的確に把握する必要があります.このことは鉄道模型を製造するメーカーにも当てはまりますが,自作車両の「設計」はこれとは少し異なり,顧客はおらず,製作した作品の価値が提供されるのは製作者自身です.ではその価値(製作者が作品に求める価値)を一言で表現するとすればそれは「実感的であると感じること」ではないかと思います.ただ,この製作者自身が行う「実感的であるか否か」の判断基準には単に自分にとって実感的かだけではなく,この作品を見た鑑賞者のほとんどに製作者と同様,その車両が活躍している風景が自身の記憶として蘇らせることができるか否かも含まれます.その意味ではこの価値は決して製作者だけの基準で決められるものではなく,「他人の判断基準」も意識する必要があるということになります.この辺りは私が今までたびたび触れてきた故なかお・ゆたか氏執筆の”鉄道模型のおける造形的考察の一断面”にも記載されていますが,今から80年近く前に書かれたこの記事が現在でも参考となるのはこの「実感的」というワードが鉄道模型では普遍的なテーマであるであるということの表われであると感じます.この「他者にも実感的と感じてもらうこと」を意識すればそれを実現する方法は各部の寸法を1/80にした寸法を基準として設計することが一番の近道であるような気がします.ただ自作車両では工作機械を使用して製造されたバラキットと同等の精度は確保できません.一方,もしキットに量産品であるが故の制約(型を使用しているための制約・コスト抑制のための加工工程上の制約・部品の流用)があればそれは自作車両では容易に解決できる可能性があります.また自作車両では最近の細密キットに見られがちなキット設計者の設計思想(キット設計者の拘り)からも解放されますので自分が決めた細密度でいかに模型として過度な作家性を主張せずに作品に自分の個性を出すかということも考えて作品に反映することもできます.自作車両の車両設計はこのような課題を解決しながら進めていくもので,通常の製品設計とも全く異質なものですが,この過程を経て実感的な作品ができたときにはキット組み立てでは経験できない達成感が味わえると思います.ただ作品に個性を出すことはとても一朝一夕にできる事ではなく,ある程度の経験と失敗からの学びが必要です.しかしこの目標に一歩でも近づくための取り組みもキット組み立てでは経験できない自作による鉄道模型製作の一つの楽しみになるような気がします.とは言ってもまずは実写の寸法を縮尺して車体を作るための設計手順ををマスターすることが先決ですので今回私が行った設計の過程を紹介してみたいと思います.

・自作車両の最小寸法単位
製品設計を行う場合には多面的な知識が必要であり,それゆえ設計者には一定の知識を持った有資格者が要求されますが,機械設計者では必要となる知識の一つに各種加工法で実現できる加工精度とばらつきの把握があります.自作車両の場合,罫書きは真鍮板に罫書き針を用いて罫書きを行いますので,罫書き針で引いた罫書き線の分解能が寸法の最小単位となりそれを意識して各部の寸法を決める必要があります.下の写真は私の使用しているスプリングデバイダで真鍮板上に0.25㎜間隔で(0.5㎜間隔のスケールの目盛りの中点にデバイダの針を合わせて)真鍮板上に線を引いたものですが,線は充分に解像できています.また線の隙間と罫書き線の太さを比較すると罫書き線の太さは0.1㎜未満ではないかと思われます.従って正確に罫書き線までヤスリ仕上げができれば寸法の分解能とばらつきは0.25㎜±0.1㎜(デバイダの設定誤差を除く)程度と考えられます.ペーパー車体でもシャープペンシルで0.25㎜間隔の罫書きは線を描くことは可能ですが通常罫書き線の真上をカッターナイフで切断しますので刃の厚さやカッターの傾きを考えると真鍮車体はペーパー車体より精度の高い寸法での製作が可能であると思われます.

真鍮板のスプリングデバイダで描いた0.25㎜感覚の罫書き線

上記のように設計時の寸法の最小分解能が0.25㎜であるということが分かりましたので,実物寸法を模型寸法に換算する際には寸法を0.25ミリ単位で調整すれば製作は可能であるということになります.

・ 設計時の留意点
ドイツのMärklin社の車両は実物をそのまま縮小せず上方から見るという模型の特性を考えて実感的に見えるように形状がデフォルメされていると言われています.私は実際にドイツの実車を詳細に観察したことはありませんし当該車両の詳細な図面を見たこともないのでその真偽と効果の程は不明ですが,このような設計はなかなか素人ができるものではありません.そこで,実車の寸法(形態)を模型の寸法に移し替える際の留意点を私が実際に車両を製作した際に経験したことを交えて紹介してみたいと思います.

1)屋根のカーブ
下の写真は私が製作した旧型客車で奥側か谷川製作所のバラキット組み立て品,手前側が真鍮板から自作した自作品です.旧型客車の屋根カーブは側板と屋根の間に稜線があることが特徴ですが,キットはその稜線がない形状となっており,実車とは形状が異なっています.資料によれば実車の旧型客車の屋根は3種類ので構成されています(R700,R1910,R3100).自作した車両がこのRを正確に再現しているとは言えませんが,印象としては側板と屋根の間に稜線のある自作車両のほうが実車の印象に近いと感じます.キットと組み立て品では屋根のカーブの境界にある稜線も気になります.とはいえこの様な部分をプレス加工を用いて正確な形状に作るのは結構難しく,形状がある程度異なってなってしまうのはやむを得ないと思います.一方自作車両では稜線の部分を裏から筋彫りして曲げることにより稜線を設けることができる等,自作車両では工程に自由度があり時間をかけた調整もできますので,このような部分はそのメリットを活かして形状を追求することが可能です.旧型客車と言われる客車の屋根カーブはほとんどの形式が同一であるためこの部分は一度寸法を決めてしまえばその寸法は他車にも適用できます,また,例えば初期の70系電車と80系電車は単なる2扉車と3扉車の差ではなく屋根カーブが両者で異なります(70系電車は旧型客車と同様側板と屋根の境界に稜線がある)が,自作車両ではその特徴を強調した形での製作が可能ではないかと思います.

谷川製作所製キットと自作車体の屋根カーブの差


2)Hゴムで支持されている窓
上記の屋根寸法(屋根R)は実車の寸法がわかっていますのでその寸法の1/80が模型の設計寸法となりその寸法からのずれが印象に影響を与えます..しかしこのHゴムで支持されている窓の寸法は設計上いろいろ検討する必要があります.我々が模型の設計寸法を求める際,その参照先となるのは国鉄の形式図です.ただ,この形式図に記載されている寸法は車体の鋼体の開口寸法(ガラス寸法?)で,我々が車両を見た時に見えるガラス部分の大きさではないことに留意する必要があります.我々が車体を製作するときの窓寸法は実際に見えるガラスの寸法の縮尺寸法になりますので車両形式図とは異なった寸法にしなければなりません.機芸出版社の”日本の車両スタイルブック”(1974発行版)のキハ45000(キハ17)の正面図にはこの部分の詳細寸法が記載されており,Hゴムの太さは28㎜,露出している窓の寸法(高さ)は590㎜と記載されています.正面窓の大きさは国鉄発行の形式図には記載されていませんが,大きさは610㎜と記載されている資料があります.もしこれがこの窓の「呼称寸法」であるとすると590㎜にHゴムの半分の太さの2倍(28㎜)を加算しても計算が合わず,寸法にはゴムの変形寸法が入っていると考えられます.一方TMS誌の1970年5月号にはなかお・ゆたか氏が作図したキハ58の図面が掲載されており,その前位側の戸袋部のHゴム支持窓の寸法は実寸が663㎜,模型化寸法が7.5㎜と記載されています.

MS誌の1970年5月号に掲載されているキハ58の図面の一部

この663㎜は車両形式図記載の寸法ですが663/80=8.2875㎜となり模型化寸法との差が大きくなっています.また上記の図面で窓前後の寸法を見ると実物寸法は236+663+410=1309㎜で1/80では16.4㎜になります.模型化寸法は3.5+7.5+5=16㎜で0.4㎜小さく,236㎜(1/80で2.95㎜)が3.5㎜となっており,窓の寸法が小さい分が他所で調整されています.同様の寸法の補正は前述の”日本の車両スタイルブック”に掲載されているキハ20・キハ55系の図面にも見られます.この補正に対する考え方は説明されておらず(実測値を反映している可能性もあります),詳細は不明ですが,Hゴムの寸法分をそのまま修正したのではなく,模型としたとき実際に実物の印象が再現できるように寸法を決定していると思われます.このようにHゴムで支持されている窓の寸法は一般的に入手できる実車の形式図の寸法を補正する必要があります.市販のキットの中には形式図の寸法で製作されているHゴム支持窓もあるようです.この辺りは自作車両では正しい寸法(実物の印象を再現した寸法)での設計・製作が可能です.一方,今回製作したキハ52のような正面窓がHゴム支持の窓では窓の大きさとHゴムの太さと窓の位置(妻板と前面の間のRに対する窓位置)を実物通りの印象にするのが難しく,設計寸法の決定は最後まで迷いました.結果的に車体を組み立てた結果,窓が小さい印象となってしまったため後から修正してあります.この例から逆に最初に窓を小さめに作り,組み立て後に実機の印象と同じように窓の大きさを修正するという方法も「アリ」ではないかという気がします.ただ,このような部分は今後製作する同系列の複数の車両で印象を同一とすることが必須ですのでもし最初の設計寸法から寸法の修正を行った場合,その記録は確実に残しておくとともに製作法を確立しておくことが必要です.
3)窓枠
下の写真は左の車両がフェニックス模型店製のバラキットを組み立てたスハフ42(スハフ45として組立),右が自作車体のスハ45です.両者を比較するとバラキットの窓枠の大きさが大きく,実物の印象と異なります.一方自作車体は”日本の車両スタイルブック”の図面を実測して寸法を決めており,窓枠下部の幅を1㎜としてあります(バラキットの幅は実測で0.5㎜)実はこの部分の窓枠の幅が狭いことは私も組み立て時から気がついていたのですが,当時は編成単位で車両を製作していたため修正(部品の新作)には多くの時間を必要とし.正直そこまで修正する気力がなかったため修正を見送りました.自作の窓枠の形状がばらついていたら返って編成として見た時に見苦しいのではない顔考えたこともその理由,というより自分を納得させるための言い訳でした.ただ自作車両の窓枠の幅も実物の印象と比較するとまだ幅は不足しているような気もします.この辺りも失策により慎重に寸法を検討したほうが良いところです.ただ,光の反射の影響等もあると考えられますので適切な寸法は一度車両を完成させて塗装した車両で検討し補正することが現実的であるような気もします.

フェニックス模型店製バラキット(左)と自作車体(右)の客室窓の窓枠形状の差


このほか,最初の記事で自作車体とキットの差でとして指摘した窓周りのテーパーも実物の印象を再現するためには重要な部分ですが,今まで述べてきたところですので詳細は割愛します.ただ,この部分の表現は私が今回製作した車両で初めて実施した部分でその効果(加工法の妥当性)は車両を塗装して初めてわかると思います.最終結果は塗装終了後に報告したいと思います.

・ 実車との違いが気になる部分と気にならない部分
私の手元のはフェニックス模型店製のバラキットを組み立てたキハ22があります.以前この車両を紹介する際記したように,このキットは実車に比較して客室窓の天地寸法がやや大きいことが気になります.また北海道のキハ22は本州の同系列の車両に比較して床面が厚くなっているためキハ22は乗務員ドアと運転室窓部分の寸法が内地向けの同系列の車両とは異なります.具体的には内地向けの車両は客用ドアと乗務員室ドアの上辺が一致しているのに対し,キハ22は乗務員ドアの上辺が客用ドアの上辺より上方にずれており,乗務員ドアの下辺と車体裾の間隔も内地向けの車両より大きくなっています.また運転台窓も内地向け車両より高い位置にあります.しかしバラキットの乗務員ドアの位置は内地向けの車両と同一寸法になっています.また前面プレスパーツは内地向け車両と共通の型を使用していると思われ,運転室窓の高さも内地向け車両と同一と思われます.

フェニックス模型店のキハ22(1990頃の製品)

しかしこの車両をレイアウト上に置いて見るとこの部分の実車との違いはほとんどほとんど認識されず,この部分のエラーが全体的な印象には大きな影響を与えていません(私の見解です).一方レイアウト上見ても窓の大きさは少し気になります.これは私の私見ですが,これは前述のように「実感的であること」を「その車両を見たときに,その車両が活躍している風景が自身の記憶として蘇る」ということとするとレイアウト上の車両はこの「記憶の中にある実車」と目の前の車両を対比していることになりますが,私のその記憶の中のは客用ドアと乗務員ドアの上辺の位置は存在していないから気にならないということになるのではないかと思います.一方,キハ22の内地向けの車両との大きな違い(特徴)は客用窓の2重窓ですので,その部分は記憶に残っているため,客用窓の大きさは気になるのではないかと思います.このようにレイアウト上を走る車両で実感的であるかかないかを判断する際に頭の中に蘇るのは実際の景色の中を走る車両の姿であり,製作の際に詳細な形態を記録した細部写真ではありません.鉄道写真を撮影する際には車両に当たる光の処理が非常に重要ですが,上で述べた屋根のカーブや窓周りのテーパーが実感的か否かに影響を与えるのはこれらの部分は光を反射して目立つ部分であるため記憶に残りやすい部分であるためとも言えるかと思います.上記のキハ20系の運転室窓の位置を決めるのが難しいのは窓の近傍に妻板と側面を繋ぐ局面があり,そこで光の反射が異って見えるためである気がします.またまた金属車体とインジェクション成形の車体の印象がわずかに異なり,メーカーが一部の部品を別付部品としたことをアピールするのは成形で表現した部品は突起部の根本に型に起因するわずかなRがついており,その部分の光の反射具合が実写と異なっていることが理由のような気もします.そしてこのような事例は設計の際,形状がわずかに異なる市販パーツの使用を検討するときには参考になるのではないかと感じます.各部の形状が正しい寸法からどの程度ずれたら全体的な印象がどの程度変化するかについては定量的に論ずるのはなかなか困難ですが,国鉄車両ではほぼ同一デザインで各部の寸法が少し異なる車両が多く存在しますのでそのあたりが参考になるのではないかと思います.その例として上記のキハ22以外ではキハ55の初期ロットとそれ以外の車両の前面窓の大きさの差,165系と711系の運転台窓高さの違い,キハ55とキハ60の車体側面の天地寸法(車体の下端の高さ)の違いによるの全体的な印象の違い,181系/485系/183系の車体の窓位置と車高の違いによる印象の違い,101系と103系の運転台窓高さと天地寸法の違いに掘る前面の印象の違い,20系客車と14系客車の車体裾カーブの形状と雨樋位置による車体の全体的な印象の違い等が挙げられます.
・ 実際の設計プロセス
色々理屈っぽいことを記してしまいましたが,私が行った設計プロセス(製作する車両の決定から制作開始まで)は概ね以下のようになります.
・形式図や雑誌等に掲載されている図面を参照し各部の寸法を決める(Hゴム支持窓はQuantumを参考に修正した寸法を決める)
・ 方眼紙上に原寸大の「図面」を描く,形式図では分からない寸法は図面上に形状を記載して寸法を決める
・ 資料がなく自身で決めた寸法を含めて全体的に違和感がないか確認する
ただ,違和感と言ってもそれほど正確に書けるわけではないので,この図で全体的な印象をチェックすることはできないため,このチェックはあくまで寸法間違いの箇所がないかをチェックすることが目的です.
罫書き線を描ける「情報」が全て決まったら車高と使用する台車,マクラバリの寸法を考えて床板を支持するアングル材の取り付け位置を決定し,ドアや乗務員室ドアの裏打ち部材,車体に取り付ける部材の寸法を決定してすると車体の設計はほぼ終了になります.
以前記したように私は製作のあたっては部品ごとの「図面」は作成していません.図面はあくまでも設計者が他者に設計の意図通りのモノを製作してもらうためのコミュニケーションツールであり,細かい規格が決められているのもそのためですので自分が設計して自分が製作する場合には製図規格に則ったような図は必要ありません.ただしどんな形であれ部品をどのような寸法で製作したかは次の同系列の車両の製作に備えて全て記録しておくことは実際に制作したときの修正寸法も含めて必要です.

最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮板から車輌を作る -(6) :窓まわりの加工-

車体の組み立てを終了し,真鍮版からの車体製作は最終段階に入ります.私はこの一連の記事の冒頭の記事に,自作車体とバラキットを一眼見た時の印象の差について,両者の差は窓周囲のわずかな形状の差(窓周囲のテーパー(ダレ)の有無ではないかということを述べさせていただきましたが,真鍮車体製作のディテーリングを行う前の最後の作業として今回はこの窓周りの加工を紹介したいと思います.

ハンダによる組み立てがほぼ終了したキハ25とキハ52

・窓周りのテーパーの表現の重要性について
下の2枚の写真は私が撮影したキハ25とキハ55ですが,どちらの写真を見ても窓の周囲にあるテーパーが光の当たり方によってはよく目立つことがわかります.

只見線で使用されていた頃のキハ55
磐越東線で使用されていたキハ25.同様の窓構造を持つキハ30や101系電車は並んだ2段窓の中央の窓柱が側板表面より少し奥に設けられていたため窓ガラスの位置が奥まって見えましたがキハ20系は窓が独立していましたのでそれらの車両に比較すると窓ガラスの位置が手前にあり,テーパー部の幅が小さく見えることが特徴でした

私がかつて真鍮板から車両を製作していた頃は失敗せずに車両を形にするのに必死で,このテーパーが全体的な印象に影響を与えるというところに思いが至っていませんでした.その後製作の主体がバラキット組み立てとなったためこのテーパーの存在をあまり気に留めることはありませんでしたが,今回久しぶりに真鍮板から車体を自作するに当たり,改めてこの窓周囲のテーパーの重要性に気づいた次第です.一方,バラキットはこの部分はプレスのダレで表現されていますが,その断面形状は実物とは異なります.それでもバラキットの方が実感的に感じられるのは窓周囲にプレス加工時に生じたダレがあることで窓の周囲に車体表面と光の反射方向が異なる部分があるためであると考えられます.また,改めて窓周りに注目して手元にある”日本の車両スタイルブック”やTMS誌に掲載されているなかお・ゆたか氏が作図した図面を見ると車両の窓の周囲はほとんどが2重線で描かれています.これらの図面は図面の体裁をとった寸法入りの車両イラストとも言えるものですがこの2重線が描かれていることでこの”図面”をみた時に実物の印象がより的確に表現されていると感じます.また手元にある機芸出版社発行の”陸蒸気からひかりまで”は名実ともに図面集ではなく車両のイラスト集ですが,片野正巳氏が描いた1/150で描かれたイラストを見るとこのテーパーは誇張した形で描かれており,この図からもこの窓部のテーパーの全体に与える重要性がわかるような気がします.

・ 窓の周囲のテーパーの寸法と加工法
前述の”日本の車両スタイルブック”のナハネ10の図面にはこの寸法が表示されており,その値は20㎜となっています.側板の厚さ方向から見た時のテーパーの開始点の位置は不明であり,テーパーの角度は不明ですが,この値は1/80に換算すると0.25㎜になります.そこで今回は窓の周囲に0.25㎜のテーパーをつけることにしました.テーパーをどのような方法で加工するかについてはジグによる加工も考えたのですが結局いい案が思い浮かず,今回は窓の外周の外側から0.25㎜の位置に罫書き線を引き,ヤスリを一定角度に保ちながら罫書き線まで窓周囲を平ヤスリと丸ヤスリで削るという簡便な方法で行ないました.この方法は当然各窓にばらつきが生ずるリスクがあります.そのため外周に耐水ペーパーでわずかな面取り(R)をつける方法も考えましたが今回はせっかくの自作車体ですのでより実物の形状に近い形とすることにチャレンジして見ることにしました.

・ 窓周りの加工の実際・2段窓の表現
まずテーパー加工の前に今回行った2段窓の表現について説明します.このキハ20系気動車が製造された当時はまだ普通車は全ての車両が非冷房車でした.そのため当時の車両の多くが窓が全開できるようになっており,キハ20系のような上下に分割された2枚窓の車両では下段の窓は上段窓の内側を通って車両の幕板に格納される構造でした.そのため上下のガラスは段違い(上段が手前,下段が奥)になっています.1970年代にの模型ではこの2段窓の表現は製品でも自作品でもほとんど表現されておらず,上下の窓枠と中桟を窓ガラス板に印刷した車両も多く見られましたが,現在ではこの2段窓の表現は幅広く行われるようになりました.そこで今回製作した車両も2段窓の表現を行うこととしましたが,キハ20系では窓サッシの縦桟はほとんど見えないため,今回は縦桟は省略し,各々に窓枠の横桟をを銀色のテープで表現した窓ガラス2枚を段違いに取り付けることとしました.まずこの2段窓の表現を行うために私の行った方法を紹介させていただきますが,私が行った方法では罫書きの段階から準備作業が必要となります.今までの説明では基本的な手順を優先し,型式により異なる作業説明は説明を省略していました.今回製作工程が前後してしまったこと,ご容赦ください.
最初に窓抜きが終わった車体の曲げを行う前に下段窓の部分(側板の厚さを厚くしたい部分)に真鍮板(帯板)をはんだで仮止めします.この帯板は一度取り外し,車体を曲げた後再度取り付けますので仮止め時には帯板の上側の位置(下段窓の上端)を正確にかつ強めに罫書いて取り付けます.

下段窓の位置に合わせて帯板を仮止めしますが,この際帯板の上辺に罫書き線を強くひいておきます.

帯板を取り付けたら車体板を裏返して帯板に窓位置を罫書いたのち帯板を取り外して取り外す前に罫書いた窓周縁の線に沿って帯板の窓部を切り欠きます.

窓部の切り欠きが終了した帯板です.

車体の曲げが終了し車体が箱状になった後,帯板を仮止めした際に罫書いた罫書き線の位置に窓部を切り欠いた帯板を再度取り付けます.この取り付けの際は後のテーパー加工に備えてハンダが窓の外周まで到達するようハンダを流すことが必要です.このような作業の際は自動温調機能の付いたハンダゴテは安定してハンダを流すことができ,効率的な作業が可能でした.

車体に帯板を再度取り付けて窓の外周まで切り欠き部を削ります.

ヤスリ仕上げが終わった側窓です(テーパー加工前).

・ 窓周りの加工の実際・窓周縁のテーパー加工
板を窓外周まで削り込んだら周囲にテーパーをつける作業を開始します.まずはスプリングデバイダを0.25㎜にセットして一旦を窓終周縁部に引っ掛けて窓の外側0.25㎜の位置に罫書き線を引きます.私の使用しているスプリングデバイダは片方の先端部がもう片方の先端部よりほんのわずか長くなっていますので短い方を窓周縁部に引っ掛けることにより思ったより簡単に罫書きを進めることができました.罫書きが終了したら平ヤスリを一定角度(略45°)に保ち罫書き線が消えるまで窓周縁部を削ります.ヤスリを当てる強さ,角度と回数を一定にするとほぼ均一なテーパーをつけることができますが光の反射を利用して確実にチェックすることが必要です.なお私はこの作業のためにスイスバローベ社の平ヤスリ(番手#6)を購入しました.模型用とした販売されているヤスリに比較すると高価ですが切れ味はよく,購入した価値はあったと思います.ただ目が非常に細かいためハンダが載っている部分への使用は厳禁です.なお,厳密に言えば今回の窓周縁部の接合部にもハンダは存在していますが,この程度のハンダであれば目詰まりを起こすことはありませんでした.作業が終了したら削った部分に#800の耐水ペーパーを当ててヤスリの目を除去しました.

テーパー加工が終了した窓周縁部

これで窓周縁部のテーパー付けは完了です.ただ,作業は手作業のためテーパーにはある程度のばらつきが発生していると思われます.最終的にこのばらつきが顕在化するのは塗装後になるような気もしますが,塗装後に出来栄えを評価して今後の作品の工程にフィードバックをしたいと考えています.なお,今回,記事の初回(序)で紹介した自作車体のキハユニ25についても窓周りの修正を行いました.こちらは北海道向けの車両ですので1段窓ですが加工後の車体を見ると印象は少し改善され実物の印象に近づいた気がします.こちらも最終的に塗装をしてみないとどのくらい改善されたかの評価はできないと考えていますが,塗装を終えた時には今回製作したキハ25,キハ52とともに結果を報告したいと考えています.

同時に加工したキハユニ25 7の窓周り

この加工が終了すると後の工程はディテーリング作業となります.この作業についてはバラキットの組み立てとほぼ同一で手順を詳細に説明する必要もないと思いますので今回私が行った真鍮版から車体を製作する手順の紹介はこれで一旦終了としたいと思います.一方,今までの説明ではほとんど触れませんでしたが,自作車体を製作するためには「設計」という作業が必須になります.そこで次回は今回の一連の記事の最終回としてこれまでの振り返りとこの「車両を自作する場合の設計のプロセス」について少し述べててみたいと思います.

最後までお読みいただきありがとうございました.

真鍮板から車輌を作る -(5) :車体の組み立て(前面の製作)-

各部の部品を製作し車体の曲げ工程が終わると部品はほぼバラキット組み立て前の状態となりますが,キハ20系のような前面に丸みのある車体はもうひとつ,前面の「おでこ」の製作というバラキットにはない作業工程が残っています.最近のバラキットでは通常この部分はプレスパーツとなっていますが,自作車体ではこの部分を手作りで製作する必要があります.私が最初に組み立てたバラキットはしなのマイクロ製のEF64の車体キットでまだ高校生の頃だと記憶していますが当時のキットはまだ前面へのプレスパーツ使用が一般的になる前の製品で,キットの組み立て説明書では社端部の「おでこ」の部分は折り妻状に組んだ車体の屋根の接合部に真鍮角材を裏打ちしてヤスリで仕上げるという指示でした.一方当時からこの部分を自作する場合には妻板におでことなる部分を設け,その部分に切り込みを入れて曲げながら概略形状を作り,最後に半田を盛って整形する方法で,この方法は現在でも自作車体では一般的な手法です.しなのマイクロ製キットの方法はペーパー車体の制作法と類似の方法で,ペーパー車体を製作した経験のある私にとっては一見簡単そうな方法ですが,冷静の考えてみると運転室窓上部にヘッドライトが付いた車両では加工が難しいと感じたため私はこの部分を後者の屋根と妻板に切り込みを入れて曲げ整形する方法で組み立てました.その加工は思ったより簡単であった記憶がありますが,その後はキットも「おでこ」の部分はプレスパーツが一般的になったため今回の作業はそれ以来の作業で約50年ぶりの作業となります.というよりはその時の記憶が全くないため実質私にとっては今回が初めての作業です.ただ過去一度やった経験があると少しプレッシャーから解放されるという気もします.

前面を自作したキハ52.奥はプレスパーツを利用したキハ25です.

・ 前面の罫書き,曲げ
まず罫書きを行いますが,「おでこ」以外の部分は図面から算出した寸法で罫書きます.曲げ後に側板とつながる部分は後で長さを調整するため長めにしておきます.一方,おでこ部分の展開寸法(展開形状)は厳密に決めようとすると木型を製作して実際に曲げて求める必要がありますが,,キハ20系の「おでこ」の形状は比較的単純な形状なので今回は現物合わせで曲げながら切り欠きを設けて製作することとし,屋根部分は屋根形状より10㎜程度外側に張り出した形状として切断しました

罫書きが終わった切断前の前面

罫書きが終了したら窓抜き前に曲げを行います.曲げの手順は車体板の曲げと同じです.曲げは運転室窓横に罫書いた曲げ線を基準に行います.

曲げの手順は車体と同一ですが,あて木のRは曲げRに合わせて新たに作成する必要があります.

両側の曲げが終わったら妻板に後退角をつけます.曲げの際には裏側にPカッターで切り込みを入れてから曲げを行いました.Pカッターは真鍮板のスジ彫りを行うと刃が痛みますが最近は替え刃式のPカッターもありますので真鍮板の加工(曲げ)を行う場合は一本用意しておくと便利です.

貫通扉横を曲げて前面に後退角をつけます.

曲げが終了したら窓と貫通ドア部分に鋸刄の通し穴を開けます.車体板と異なり全体の大きさが小さいため途中で材料の保持が困難になる可能性があると思い運転室窓は4隅に穴を開けて鋸刄の転向を容易に可能としました.ただし窓抜き時,鋸刄が穴に達した時に穴に到達した勢いで鋸刄が罫書き線をはみ出さないよう注意が必要です.

窓部の穴開けが終了した状態です.

穴あけが済んだら「おでこ」の部分をヤットコで曲げていきます.なお,私はこのような曲げにはかつてエコーモデルから発売されていた「細密ヤットコ」を使用しています.現在では発売されていないようですが,ほぼ同じものは「時計ヤットコ」で検索すると各種タイプがあり,購入も可能です.曲げながら干渉する部分は現物合わせで切り欠きをつけながら曲げを進めましたが,細かい鋸刄(#5/0)を使用すると保持が不安定な状態でも鋸刄が引っかかることなく比較的簡単に切り欠くことが可能です.

曲げのを行っている途中の状態です.

下の写真は曲げ途中の写真です.平面部分と屋根のつながる部分の稜線の位置に注意しながら曲げていきます.曲げの開始点は側板の高さより低くならないように注意する必要があります.そのため曲げを行う前に裏面には側板高さの位置にPカッターでスジ彫りを行いました.

「おでこ」の部分の曲げがほぼ終了した状態.

「おでこ」は車体断面に合わせて曲げていきますが最終的には本体に取り付ける際に調整します.

最後に車体との接続部が車体断面通りに曲げられているかをチェックします.

曲げが終わったら窓と貫通ドアを糸鋸で抜いてヤスリ仕上げを行い,長めにしておいた車体との接続部を所定寸法に切断すれば前面はひとまず完成となります.

車体の取り付ける前の前頭部です.この状態では窓の大きさがやや小さいため後で大きさを修正しています

・ 組み立て作業
前面が完成したら組み立て作業に入ります.組み立て手順はバラキットとほぼ同じで客用ドアと乗務員ドアの裏打ち(前面との接続部)をはんだ付けして車体裾部に補強アングルを取り付けます.この辺りの作業はバラキットの組み立てとほとんど変わりませんので説明は割愛します.ただ,組み立てには今回初めて自動温調機能付きのハンダゴテを使用しました.機種は大洋電気産業(goot) 製のPX-480という80Wのハンダゴテで,コテの中に温調回路を組み込んだ比較的安価な製品です.設定温度はDefaultの350°Cで使用しました.私は今までは昔からある100Wのニクロムヒーターのコテを使用していましたが,今回使用したハンダごてはそれに比較すると容量は小さいものの,コテ先温度が安定していることに加えてコテ先にコーティングがあり作業中に酸化被膜ができないためコテを当てた時の半田の流れが常に安定しており快適に作業することができました.また,部品をつける際,位置ぎめに時間がかかってもコテ先の過熱を気にすることがなくストレスなく作業をすることが可能でした.ただ,コテ先温度を高く設定しているせいか作業時に材料の熱膨張による変形が多少気になりました.この辺点は今後設定温度の最適化を行う必要がありそうです.コテ先は購入時装着されていたものをそのまま使用しています.なお,補強アングルはエコーモデル製の床板アングル(品番2151)を使用しました.

今回使用した温調機能付きのハンダゴテ
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