レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(13) -アクセサリの製作(2:電柱)-

前回レイアウト上に配置するアクセサリに対する構想のプロセスを紹介しましたが, 今回から具体的なアクセサリの製作過程を順次紹介していきたいと思います。まず最初は電柱です。電柱にはいろいろなタイプがあるとともにレイアウト全体に設置されますのでレイアウト全体の印象を決定づける大きな要素となる重要なアクセサリです. そのため実際の製作(製作方法の検討の前にモデル化するプロトタイプの選定とそれを設置する位置の決定等の構想設計が必要になります.

⚫︎レイアウトにおける電柱の役割
故なかお・ゆたか氏(河田耕一氏)は機芸出版社発行のレイアウトテクニックに掲載された ”蒸気機関車のいる周辺” の中で電柱について以下のように述べておられます.   ”・・・特にこのレイアウトセクションの主役ともなる電柱 ーもし電柱を取り去ったら実在感は半減してしまうー は河田氏(注:河田耕一氏)の未発表原稿によったものである・・・・”  
実際にレイアウトを製作するとこのレイアウトセクションでもこの言葉は全くその通りであると感じます.上記のレイアウト・テクニックの中には後にエコーモデルの店主となられる阿部敏之氏のアクセサリの製作法の記事があり, この記事で製作法が解説されているアクセサリの多くは後にエコーモデルからホワイトメタル製のパーツが発売されており今回私も使用しています. ただストラクチャーを製作し, そのストラクチャーをレイアウト上に配置してアクセサリの構想を練り始めた時点で感じたことはたとえこれらの形態の整ったアクセサリーパーツを各所に並べてもそれだけではレイアウト全体の印象は散漫で実感に乏しい物しかできないのではないかいうことです. しかし実際に電柱を製作してレイアウトに電柱を立てると今まで広く感じられたレイアウトの敷地が引き締まり, レイアウトがかつて見慣れた風景に近づいてきます. 我々が機関区等で車両全体の写真をフェンスの外側から撮影しようとすると車両全体をスッキリ撮影するためには電柱は非常に邪魔なものですが, 機関区のような車両やストラクチャーの密度が高い場所を実感的に再現するためには車両という対象物を鑑賞する際にその視線の妨げとなる電柱の存在がレイアウト上で車両を鑑賞する際にその風景が実感的か否かを決定づける重要な要素となるのではないかという気がします. 余談ですが私も長年鉄道の写真を撮影してきましたが最近一部の所謂”撮り鉄”は車両が他のものに隠れる事を非常に嫌うようです. これは昔のSLブームの頃からの傾向ですが私たちが普段鉄道車両を見るときにはそのような「障害物」があることがほとんどですのでそれがない写真は後から見ると臨場感がなく類型的でつまらない気がします. 以前どこかで「自分がその時失敗と思った写真ほど後で見て面白い」という記事を読んだ気がしますが, この年になって昔撮影した鉄道の写真を見ているとそれも一理あるような気がします.

機関区等にある柱上トランスの載った電柱は非常に目立つ存在です.
独特の形態をした照明灯は機関区だけでなく全国の国鉄の施設でみることができます.

<構想>
まず構想の初期段階で最初に決定したのは電柱は真鍮製としてハンダで組み立てるということです. 私は今まで製作してきたレイアウトセクションに照明灯を3本設置しましたがその時感じたことはこの程度の数でもレイアウト上のこのような支柱はもどんなに注意しても手を引っ掛けて破損してしまうということでした。車両をレール上に置く際には支柱がない部分から行うとかセクションに接続したレールから入線させることができますが, レイアウトにはレールクリーニングが欠かせません. 前作のレイアウトはMärklin Digitalを採用いるため比較的レールは汚れにくく車両側でも集電不良に対する対応が行われていますがそれでもやはり長期間運転しないとホコリやサードレールのサビ等でレールクリーニングは必要となります. 一方今回のレイアウトはレールに汚れがつきやすいと言われるDC運転で車両も古い自作の車両が多くあります. そのためレールクリーニングの頻度は多くなることが予想されますし, レールクリーニングカーに頼るのも不安です. また電柱の本数も前作よりかなり多くなりますのでレールクリーニング時に電柱に清掃部材を引っ掛けて破損する確率は非常に高くなると予想されます. そのため電柱は強度の高い金属製とすることが必要と判断しました. また金属で製作することのもう一つの利点は万一破損しても手間さえかければ外観を強度も含めて元の状態に戻すことが可能であるということです. プラ製ですと破損した場合は破損部分を接着剤で補修することになりますが強度的にも外観的にも元に戻すのは困難で状況によっては新作する必要も生じます. しかし金属製(ハンダ組み立て)であれば変形の修正も容易であり部材が脱落しても破損部分の塗装を剥がして再度ハンダ付けして再塗装すれば強度も外観も元に戻ります. 私が以前製作したZゲージレレイアウトでは駅の部分にタワーマストを立ててそこにクロススパンを渡してあり, レイアウトにアクセスした時にクロススパンに手を引っ掛けて破損させることが時々ありますが, クロススパンを真鍮線のハンダ組み立てとしてあるため破損しても何度でも元通りに修復が可能です. レイアウトのアクセサリはプラ, ペーパー, 木材で作ることが多いのですが金属で製作することも選択肢として考えておくと良いと思います.

クロススパンは真鍮線をハンダ付けで組み立ててありタワーマストに対して取り外し可能としてあるので破損しても容易に修復が可能です.

<製作する電柱のタイプの決定>
次に実際に製作する電柱の形状と設置位置を決めていきます. 雑誌の写真や地震の撮影した写真を参考資料として私は下図の5パターンを製作することとしました.
A: 横桁2本の電柱
B: 横桁1本の電柱
C: 柱上トランスが設置されている電柱
D: 照明灯(水銀灯)+横桁1本(横桁は図には無し)
E: 街灯+横桁1本(横桁は図には無し)
Dは国鉄の機関区や電車区でよく見られるタイプで鉄道施設以外ではあまり見ませんので国鉄が標準化していたタイプかもわかりません(上の実物写真参照).
 タイプが決まったらタイプ別のに設置場所を決めましたが種類や位置は最終決定ではなく製作する本数の目安とするために決めたもので, 最終的には現物合わせで配置を決定してあります. また下記の 図面には本数が記載してありますが, 一般的な電柱であるA ,B,Eはずの所要数より1本多く製作することとしました.

<製作>
タイプと本数が決まったら製作用に電柱を図面化します.高さ等の寸法は上記レイアウト・テクニックの記事を参考にして決定しましたが, 取り付け時にベースボードの穴を貫通させれば高さ方向は調整できますので高さは高めにしてしてあります.

電柱と照明灯の構造の概略を数に示します. 電柱の柱はφ2.1㎜の真鍮パイプ, 横桁は1×1㎜の真鍮アングル材をで作成しています. その他1×1ミリの角線, 厚さ0.3ミリの真鍮版で碍子台や柱上トランスの置き台を製作しました. 照明灯はφ0.3㎜とφ0.5㎜の真鍮線, 1×1㎜のプラ角材, φ0.15㎜のエナメル線を用いて製作してあります. LEDは表面実装LEDで1608(1.6×0.8㎜, 厚さ0.36㎜)タイプの白色を用いました. 図に示した電柱の構造はType Cですが支柱と横桁の取り付け部の構造は他のタイプでも同じです. 横桁の短い真鍮線は後で碍子を取り付けるときに使用するものです.

以下、写真を主体に製作手順を紹介します.

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レイアウトセクションの製作:蒸気機関車が活躍していた時代の機関区(12) -アクセサリの製作(1:構想のプロセス)-

前回までにレイアウト製作においてシーナリーとストラクチャーと呼ばれている部分の紹介を終わりましたので今回から一般的にアクセサリと呼ばれるより細かい部位についての製作過程の説明を行いたいと思います. その初回としてまずは製作に当たっての構想設計((製作するアクセサリを決定するまでのプロセス)について私が行った手順を少し詳しく説明してみたいと思います.

⚫︎アクセサリの定義
過去の雑誌のレイアウトの製作記事ではレイアウトの製作過程は大きくシーナリーの製作とストラクチャーの製作に分類されています. そしてその後には所謂車両のディテーリングに相当する細かい部分を製作する作業があります. その呼び方は記事によっていろいろあるようですが1970年代にTMS誌に発表されている記事ではTMSのスタッフの方が執筆している記事を含めて”アクセサリの製作”と記載されている例が多いようです。
 この”アクセサリ”という意味を辞書で調べてみると辞書には語釈として 「①服装を引き立たせるための装身具②機械類の付属品・周辺機器 」と記されています。私の解釈ではレイアウト用語の”アクセサリ”はこの語釈のどちらかというものではなく両方の意味であると考えます。そして①と②の大きな差は①は後から付け足すもので極端にいえばあってもなくても良いもの(英英辞典でははっきりそう記載しているものもあるようです), ②は機械(システム)の設計段階で機械やシステムの設計者がそのシステムで要求されている機能を満足するため, あるいはより向上させるために用意する(中には法規上必須のものや現場で判断して設置要否を判断しているものもある)ものではないかという気がします. このように考えるとレイアウトの細部仕上げを”アクセサリの製作”と表現することは”言い得て妙”であると思う反面, 実際のレイアウト製作では実感的な情景を製作するためには写真等で見た風景をただ漫然とそのまま作るのではなく, 上記の語釈①と②を意識して, 製作するものが以下に記すどのカテゴリに属するかを意識して製作するアイテムと配置する場所をよく考えて製作を進めていくことが必要であると感じます. またこのためにはある程度の鉄道に関する法規や規定は勿論, 地域的な特性についても知っておく必要があると思います.
1. 安全性等の観点から規則等で要求されているアクセサリ(様式の選択も含む)(①)
2. 鉄道施設しての機能を満たすために必要なアクセサリ(①)
3. 機関区という機能を満たすために必要なアクセサリ(①)
4, 機関区内で職員が日々業務を行なっていることを感じさせるアクセサリ(②)

⚫︎ 製作したアクセサリ
我々(私?)がこのような ”アクセサリ” を製作しようとした場合は参考資料として自身が撮影した写真や雑誌等に掲載されている資料を用意し, そこに過去の自分の体験や記憶を加えて何を製作するかを決めていくことが多いと思います. 私は実感的な情景を製作する場合にこの決定の際に大切なことは, それらの資料や自身の記憶をそのまま再現しようとするのではなく製作するアイテムは全体的なバランスを考えながら決定していくことではないかと考えます. 特に自分が実施に見た情景や体験はとうしてもそのままレイアウトで再現したくなります. しかしこの再現にこだわりすぎると局所的には満足なものができても全体を見渡すとそれが返って実感を損ねるということにも留意しておく必要があります. 以前製作した外国型のレイアウトではこの過去の自分の体験や記憶が全くなかったのである意味淡々と製作を進められたのですが, 今回のように自分がかつて親しんだ情景を再現する日本型レイアウトでは自分の体験にこだわりすぎないことを意識しながら進める必要があると感じました. 特に今回のレイアウトセクションのような全体を一度に見渡せる(鑑賞者が場所を移動しなくてもある程度レイアウトの細かいところまで観察できる)レイアウトセクションは鑑賞者の移動により映画のカット割のような効果が期待できませんので特に注意が必要です. そこで今回試行してみた方法は実物写真をそのまま参考にしてストラクチャーを配置したレイアウト上に配置するアクセサリを決定するのではなく, まずストラクチャーを配置したアクセサリのないレイアウトの写真を撮影し, その写真と実物資料を見ながらその写真にどのようなアクセサリを加えれば良いかを検討し製作するアクセサリをリスト化する方法です. 実物写真から製作するアクセサリを決めていく場合, そのアクセサリの背景に写っている情景や建物は当然レイアウトのものとは異なります. このため参考写真のアクセサリにのみ注目して製作するアイテムを決めてしまうとアクセサリの背景となる建物や情景が参考写真と異なるため実際にアクセサリを配置した時に違和感を感ずる場合があります. これに対し撮影したレイアウトの情景や建物の画像を見ながら製作するアクセサリを決定する方法ではレイアウト上の建物や風景を基準に検討しますので実物の資料からより的確に製作するアクセサリの種類や個数を決定することができます. この際留意することは写真をいろいろな角度から, またいろいろな範囲を撮影してそれらを見ながら検討することで, あまり狭い範囲で検討するとその部分だけは実感的でも全体的に見ると不自然であったり散漫な印象になる恐れがあります. もちろん車両工作より修正が容易ですので事前に完璧に決めることはないのですが, 実物写真の情景をレイアウトで再現させる場合,このようなプロセスを導入することにより無益な「こだわり」が排除できるとともにに, もし一部に不満な点があっても最初にそのアイテムをそこに配置しようと考えた理由を振り返ることができ修正作業が容易になります. さらに製作するアクセサリをリスト化するということは製作の効率化にもつながると思います.

アクセサリを配置する前の乗務員詰所付近の写真. アクセサリの配置を検討する際に使用したもの.
アクセサリー配置後の乗務員詰所付近
アクセサリを配置する前の給砂塔付近の写真. アクセサリの配置を検討する際に使用したもの.
アクセサリー配置後の給炭台付近

上記の観点で今回製作したアクセサリを一覧表にすると以下になります.

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