模型車両の製作:珊瑚模型店製D51の組み立てと加工(2) :フロントエンドの加工

前回、組立て前の準備作業について述べましたが、今回より各部の加工内容を部位別に紹介していきたいと思います。今回はキットに付属しているパーツの組み立て前の追加工とボイラーの前端部、フロントエンドの加工について紹介させていただきます。なお、キットの取扱説明書で説明されている部分の組み立て方法は、組み立て方法を変更している部分以外は説明を省略します。
0-1. 煙突・ドーム・安全弁台座の加工
キットに付属している煙突・ドーム・安全弁台座は、そのまま取り付けるとボイラーとの取り付け部に板厚分の段差ができてしまいますので、板厚が目立たないように加工をします、加工は台座のカーブに合わせて丸やすりを当てれば簡単に修正が可能です。
0-2. ドームへの部品の取り付け
キットのドームはネジにより固定できるようになっていますが、最終的にはボイラーに固定した砂撒管とドームに取り付けられた砂撒管元栓を半田付けする必要があります。そのためその半田付け前にドーム上にディテールを取り付ける必要があります。加工するのは砂箱部と上記ドーム部で分割されているカバーの継ぎ目とボルト、後部の手すり、砂箱蓋、砂撒管元栓、加減弁ハンドル、それに蒸気ドームの上面から突出している突起(用途・機能はわかりません)です。砂箱蓋と砂撒管元栓はキットの付属ロストワックス製パーツを使用します。ドームのカバー継ぎ目は筋彫りで表現しますが、曲面への筋彫りですのでそのガイドとなる真鍮線を半田付けしたのちそれをガイドに筋彫りを行います。この方法は前回紹介したなかお・ゆたか氏執筆の製作法の中に記載されている技法です。取り付けボルトはφ0.3㎜の真鍮線の植え込み、手摺は0.3㎜の真鍮線です。なお、砂撒管元栓等、真鍮線を接続するパーツは接続部を使用する線径のドリルで彫り込んでおくことが必要です。その彫り込み深さは部位によって変えています。この砂撒管元栓のように線を近傍で固定できるものは位置決めができれば良いので浅め(線が引っ掛かる程度)、加減弁ハンドルのように手が触れた際、線が動いて外れる恐れがある部分は深めに彫り込んでいます。

ドームは取り付け前に部材を内側から半田付けした後っボイラーに取り付けています.

0-3. ボイラ下側の配管取り付け用の穴
ボイラのランボードが取り付けられる部分の近傍の配管取り付け用の穴はランボードを取り付けてしまうとランボードどドリルが干渉して取り付け穴をボイラ曲面に垂直に開けることができなくなりますので事前の穴あけが必要です。

以降、部位別に加工部分を説明します。
1. フロントエンド
まずは前方、全部デッキと煙室付近の加工です。今回はデフレクタより前方のフロントエンドについて説明します。
1-1 デフレクタ
デフレクタは珊瑚模型店製のD 51,D61用の北海道用デフレクタです。このパーツはエッチングで表面と裏面の補強用帯がエッチングで表現されている板状のパーツで、外周は自分で切り抜く必要があります。またバイパス弁の点検穴は表現されておりません。このバイパス弁の点検口はいつ頃から開けられるようになったかは不明ですが、晩年の機体では点検口がある方が一般的だったという印象がありますので今回の機体にもこの点検口を設けることとしました。北海道型を特徴づける切り詰めデフの全てに点検口が開いているかはわかりません。ただ、蒸気機関車の角度には福知山区に所属していた切り詰めデフを装備したD51 727の写真が掲載されており、この機体のデフはカバーがついているものの、常時開口してはおりません。このD51 727は切り詰めデフであるとともに集煙装置とドーム後部に重油タンクも装備しており、そのうち特定ナンバー機としてどこかで模型化されそうな形態です。このように、前方を切り欠いたデフは、北海道固有の改造ではなく、道外でも積雪のある地域では実施されていたようです。
話が脱線してしまいますが、最近のMärklin社のカタログを見ていると、プロトタイプの説明の中に、どの時期の外観かが特定した形で記載されています(”The Locomotive looks as it did around 1965”とか)。欧州のモデルは以前からメーカーに関わらずすべての製品に年代区分(Era I-VI)の表記がありますが、最近このような表記が増えてきた気がします。欧州の製品も最近細密度が向上していると感じますが、日本とは生産数量が大きく異なる量産モデルでこのような表記が増えた背景にはユーザーの細密化指向があるのでしょうか、あるいは形態を細分化?してユーザーに購入を促す販促対応なのでしょうか。
話をデフレクタの話の戻します。下の写真はデフレクタにバイパス弁点検口を開けているところの写真です。写真はは厚さ0.1㎜の真鍮版を縁取りの大きさに切り抜きデフレクタに半田付けし、その後点検工を開けているところです。この際、縁取りとする0.1㎜の真鍮版は0.3㎜の真鍮版に貼り付けた状態で切り抜き外形を仕上げた後デフレクタに貼り付けています。厚板に貼り付けなくても細かいノコ刃を使えば外形の切断はできないことはありませんが、0.1㎜の板ともなるとノコ刃が少しでも引っかかると変形しますし、ヤスリがけも難しいため、手間はかかりますがこのような方法が必要です。穴あけ終了後は外周を切断し、上部をバイスに挟んで折り曲げます。なお、このような真鍮工作を行う際、その出来栄えを決めるのは9割が罫書きの精度だと思います。決して定規の目盛を頼りに罫書き針で罫書きを行うのではなく、前回紹介した工具の中のあるけがき用のスプリングデバイダに寸法を写して板上にマーキングし、その後罫書き線を引くことが必要です。なお、このデフレクタの取り付けはデフレクタに隠れる部品の取り付けが終わった後になります(加工工程のほぼ最後になります)。

バイパス弁の点検口を開けている途中のデフレクタ.
最後に外形を切り出してデフレクタの完成です.


1-2 給水温め機とその配管
給水温め機はキットに付属していたロスト製パーツです。給水温め機からの配管は5本あり、そのうちの3本については配管が継手部までしか表現されておりませんのでその先の配管を3本追加してあります。この追加した配管にはウイストジャパン製の布巻線を使用しました。。当時布巻線は筋をつけた線材と真鍮線に薄い帯板を巻き付けた2種類の製品が発売されていましたがこの部分に使用したのは前者のタイプです。このうちの4本は温め機から下方に伸びて煙室内に入ります。キットではこの接続部に角穴と丸穴が開いていますが、実機を見ると煙室上ににカバーが装着されており、配管はそのカバーの穴から内部に引き込まれていますのでカバーを厚さ0.3㎜の真鍮版より作成し、周囲にリベットを植え込みました。。リベットは大きめ(φ0.4㎜)にしています。取り付けた配管はφ0.6㎜の布巻線ですが、温め機後方から煙室への配管はボイラー周りの配管では一番太い径の配管が使用されています。もう少し太い線を使用すべきで、布巻管にこだわったのは失敗でした。ただ、配管のほとんどはデフに隠れる位置にあり、あまり目立ちませんのでこれは不幸中の幸いでした。下記の解放テコも含め、修正することも考えましたが、そのままとしてあります。

給水温め機付近の配管. 実物も模型もデフレクタに隠れて通常眺める位置からはあまり見えません.

1-3 解放テコ受け
解放テコ受けはキット付属のパーツを使用しました。キットのパーツはエッチング製ですのでまず断面を整形し、ベースと繋がっていたランナー状の部分を整形します。この程度のやすりがけには前回紹介したロック付きピンセットが役に立ちます。パーツにはリベットが浮き出していますのが他の部分と比較して立体感がないので、やすりで削りリベットを植え込んであります。このような小さなパーツはリベットを植え込むことにより強度が増加するとともに近傍に他の部品を半田付けする際のずれ防止にもなります。ただ、今回はこの部品の取り付け位置を間違ってしまいました。実物の解放テコの位置はもっと高い位置にあります。気が付いたのはリベットを植え込んだあとで、修正するのに手間がかかりますので今回はそのままとしてあります。リベット植え込み前でしたら簡単に修正できたのですが・・・。上記の解放テコも含め、修正することも考えましたが、あまり目立たない(レイエウト上(運転時)に実感を損なう部分ではない)部分のため、そこまで実物にこだわる必要もないと考え、そのままとしてあります。私は製作中にこのようなエラーを発見した場合はすぐには修正せず、最後に全体的なバランスを見てどうしても気になるところがあれば修正するようにしています。運転時に気にならなければあまり気にする必要はないと考えています。

解放てこの位置が実物より低い位置になってしまいました. 加工中に開放テコやステップが変形してしまっていますので最後に修正します.

1-4 デッキ部手摺
デフ前方の手すりとデッキ部分の手すりは0.4㎜の真鍮線で製作しました。デッキ部分の手すりは端梁にリベットを植え込んだ帯板を取り付け支持部を表現しました。手すりはデッキの上面に開けた穴に取り付けていますので手すりと取り付け部は繋がっておらず、よく見るとおかしいのですがすぐ上に解放テコがありあまり目立ちませんのでこのような構造としました。なお、この手摺のような手に触れやすい部分の線材は燐青銅線や洋白線といった真鍮線より曲がりにくい線を使用するのが良いと思います。デフに付けた手摺も強度確保のためランボードに穴を開けて固定しています。

1-5 スノープラウ
今回使用したスノウプラウは天賞堂製の電気機関車用を使用しています。今までは自作していたのですが、今回は手持ちのパーツを使用しました。実機のスノープラウはもっと後退角がが大きく、両端がデッキ側面のステップより後方に位置しています。また、また北海道の蒸気機関車に取り付けられているスノウプラウは端面に行くに従って上下寸法が大きくなる形状のものが多いようですが、スケール通りの形状では両端が先輪と干渉するとともに、後退角が小さいの両端の大きさが目立ち、ゴツくなってしまうにではないかと考え、割とのっぺりしている天賞堂製の電機用パーツを流用しました。なお、パーツには両端にステップ取り付け用のスリットがありますが各線で塞いでやすりで仕上げてあります。スノープラウ取り付け板は0.3㎜に真鍮版から切り出したもので、外側に帯板を半田付けしてアングル状になった形状を表現してあります。

先輪との干渉を考えスノウプラウの後退角は小さくしてあります.

1-6 電線管(配電管)
電線管はその名のとおり、電気ケーブルがが入った管のことですが、蒸気や空気関係の配管と異なり、これまでその詳細を解説している雑誌の記事はあまり記憶になく、前回紹介したなかお・ゆたか氏の解説記事の中でも触れられておりません。そして電線管に注目して色々な機体の写真を見るとその引き回しの方法はさまざまで、かなり多くのバラエティーがあります。もしかしたらそのバラエティーの豊富さゆえに量産モデルや特に細密機ではないモデルでは省略され、特定ナンバー機を製作することが一般的になって初めてディテーリングとして注目され始めたのかもわかりません。
この配電間の分岐部分や中継部には角柱状の継手(端子箱?)があり、この継ぎ手はロストワックスパーツでも製品化されています。今回のモデルでは、CABから前方に至る電線管は前回紹介した国立科学博物館に展示されているD51 231の例に倣い、φ0.3㎜の真鍮線を使用した電線管を公式側のハンドレールの下側に割りピンにより取り付けています。ちなみに、鉄道博物館に保存されているC57 135も同じ位置に取り付けられています。継ぎ手は今まで製作した作品と同様、ロストパーツは使用せず0.6㎜角の角線を使用し、所定長さに切断後、線材を接続する部分をφ0.3㎜のドリルで彫り込んだ部品を作成して取り付けてあります。継ぎ手はCABからの配管の分岐点、前照灯部分、標識灯横に設けてありそこから各ライトへの配線を出してあります。また、、左側標識灯部の継ぎ手は3方継手とし、そこから副灯への配線をしていいます。この辺りも色々なパターンがあるようです。なお、継ぎ手に真鍮線を半田付けする際は写真のようにアルミクリップで放熱し、取り付け済みの真鍮線が外れるのを防止しています。また真鍮線はライターで焼き鈍して整形しやすくしてあります。
ボイラ先端から前照灯の方に行く配管は、D51 231では支持部材によりボイラからかなり離れた位置に固定されています。一方C57 135では殆どボイラーと接した形で配管されています。今回、私は電線管はあまり目立たせなくて良いという考えのもと、ボイラーケーシングに這わせる形(C57 135の形態)で配管してあります。

D51 231のボイラ周りの電線管はかなり高い位置に支持されています.
C57 135の電線管は上のD51 231と異なりボイラを這うように配管されています.
継手に真鍮線を固定する際はアルミクリップで放熱しながら行います.
煙室扉部を外すことを考慮して継手から前照灯への配管は隙間に挟み込んであるのみで固定していません.
左側の標識灯部の継手から副灯への配線を設けました.


4-6 その他の部品
追加した部品はヘッドライト脇の副灯と標識灯です。前照灯とエアーホース、デッキ下ステップはキット付属のパーツです。デッキ下ステップは取れやすい部品で、半田しろの周囲を囲むようにたっぷりハンダを流しておくことが必要です。今までの事例で、これを怠ると取り扱い中にかなりの確率で外れてしまいます。
このようにして完成したフロントエンドの写真が下の写真です。完成後にチェックすると解放てこの高さより標識灯の位置の低さが気になります。この部分は塗装前に修正したいと考えています。

最後に全体をチェックします. 標識灯の高さが低く感ずるので塗装前までに修正することとしました.

以上でフロントエンドの加工内容の説明を終わります。最後までお読みいただきありがとうございました。次回はボイラー周りについて説明したいと思います。