以前10回にわたりペーパー車体による旧型電車の作成を過程を紹介させていただきましたが、今回は国鉄新性能電車の制作過程を紹介させていただこうと思います。
選んだ車両はクモヤ791と711系先行試作車です。
<実物>
クモヤ791は1959年に試験用として製造された交流電車で、20kV60Hzを整流器で直流に変換することなく、交流整流子電動機を直接回転させるタイプの試作車です。現在のドイツ鉄道の電化路線の電源電圧、周波数は15kV16.7(16+2/3)Hzという、商用電源周波数とは異なった低い周波数が使用されていますが、この周波数はクモヤ791と同方式の交流整流子電動機を駆動させることを意識した周波数であったようです。しかし日本では当初から交流電化は商用周波数で行うことが前提であったようです。当時交流電車の試作車はいろいろな方式の車両が数多製作されていましたが、それらの多くが旧型電車の改造車であったのに対し、この車両は完全な新製車でそのデザインは当時の153系に準じたものでした。前面は153系と同じパノラミックウインドウ(低運転台)、側面は外篏め式のユニットサッシとなっています。またパンタグラフ周辺の屋上に交流機器が搭載されています。
一方711 系はその8年後、1967年に北海道の小樽ー滝川間の電化に際して開発された形式で、今回製作したのは先行試作車のクモハ711-901,クハ711-901です。先行試作車は同時にクモハ711-902,クハ711-902が製造されましたが、クモハ711-902,クハ711-902が側窓に当時の北海道用気動車と同形状の2重窓を採用しているのに対し、クモハ711-901,クハ711-901は複層ガラスを用いたユニットサッシ窓を採用していました。量産型はクモハ711-902,クハ711-902と同じ形状の側窓になりましたので、側窓がユニットサッシの711系はこの2両のみでしたが、その後も側窓は改造されることなく量産車に混じって使用されていました。このクモハ711-901,クハ711-901は形態的には折戸等の形状も合わせて、クモヤ791のデザインを踏襲しているように思えます。
新性能電車を製作しようとした際、今まで数多く製作してきた北海道形の711系を作成しようと考えましたが、今回新性能電車は初めての製作になりますので、711 系制作の前に先行的にクモヤ791を製作し、クモヤ791で各部の技法の確認をしながら711系を製作して行った次第です。また、今回ユニットサッシ、東海形前面の技法が確立できれば、153系以降開発された直流電車、455系等の交直流電車にも応用可能であると考えたこともこの試作車を選んだ理由です。
ただ、クモヤ791は60Hz用、711系は50Hz用の電車ですので、実物の世界では同じ線路は走れません。
以下写真を主体の製作過程を説明したいと思います。製作過程を動画にまとめたものも作成しましたのでよろしければこちらもご覧ください。
<資料>
クモヤ791は1両のみの試作車ですが、1両で走行可能かつ国鉄新性能電車のエッセンスを凝縮したようなデザインでなかなか人気があるようで、最近のTMS誌にも紹介記事が掲載されていました。私の手元にある50年以上も前の技術出版株式会社発行の模型と工作1965年5月号にも竹村徹夫氏による製作法が掲載されています。
クモヤ791は比較的後年まで事業用車として存在していたせいか1両のみの試作車にも関わらずネットに写真は豊富にあります。クモハ711-901,クハ711-901の写真もネット上に資料は豊富にあります。しかしクモハ711-901,クハ711-901が引き戸に改造される前の折戸時代の写真は国鉄の製作時の公式写真以外にほとんど見つけることができませんでした。711系の図面は TMS誌の1973年になかおゆたか氏作図の折り込み図面が掲載されています。今回車体の寸法はこの図面を前面的に参考にさせていただきましたがこの記事の中に1枚、多分クハ711-901だと思いますが量産化改造前の静電アンテナを装備した折戸の写真が掲載されています。
以下、写真を主体に製作手順をご紹介します。クモヤ791と711系の写真が混在してしまっていますがご容赦ください。
以下、完成した車両の写真です。
以上、簡単ですがペーパーで製作した国鉄新性能電車をご紹介させていただきました。基本的な作り方は冒頭に紹介させていただいた50年以上前の製作法と変わりません。違うのは現在ではフギュア等を作成するための目止め材、プラ板等の素材が非常に充実しており、曲面が多い新型電車は以前より比較的作りやすくなっている事ではないかと感じます。ただ私はそれらの素材を活かすまでにはまだまた修行が必要のようです。現在の日本形の鉄道模型、特に16番(HO)ゲージの製品はますます細密、高価になるばかりですが、コロナで外出が制限される中、出来栄えはともかく費用をあまりかけずにこのような工作を楽しむのも良いのではないかと思う今日この頃です。